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インボイス制度とは?わかりやすく3行で|損をするのは「買い手」です

インボイス制度を3行で
  • インボイス制度とは、「支払った消費税を差し引くための、請求書の様式ルール」です。
  • 登録番号(T+13桁)が書かれた請求書がないと、買い手は支払った消費税を差し引けません。
  • つまり、損をするのは売り手ではなく「買い手」です。売り手が困るのは、その買い手から取引を避けられるからです。

ほとんどの解説記事は、この「誰が損をするのか」を最後まで言いません。順序を逆にします。制度の中心にいるのは、請求書を受け取る側(買い手)です。買い手は、売上で預かった消費税から「仕入れで支払った消費税」を差し引いて納税します(仕入税額控除)。この差し引きの証拠として認められる書類が、インボイス(適格請求書)です。証拠がなければ差し引けず、買い手の納税額がその分だけ増えます

そして2026年7月現在、この制度はいちばん大きな転換点の直前にあります。登録番号のない相手からの仕入れでも「80%は差し引ける」という経過措置が、2026年9月30日で終わります。10月1日からは70%です。さらに2割特例も同じ日で終了します。この記事では、その「今」を軸に、立場別に何をすればいいかを整理します。

仕組み: なぜ買い手が損をするのか

数字で見ると一瞬でわかります。110万円(税込)の外注費を払った買い手の納税額を比べます(売上は税込1,100万円とします)。

相手が登録事業者
(インボイスあり)
相手が免税事業者
(インボイスなし・2026年9月まで)
相手が免税事業者
(2026年10月から)
売上で預かった消費税100万円100万円100万円
差し引ける消費税10万円(全額)8万円(80%7万円(70%
納める消費税90万円92万円93万円

同じ110万円を払っているのに、相手が誰かによって、買い手の納税額が変わります。売り手は1円も損していません。これがインボイス制度の本質です。売り手(免税事業者)が「登録しないと仕事が減る」と言われるのは、買い手のこの2万円・3万円を、誰が負担するのかという交渉が起きるからです。

インボイス(適格請求書)に必要な6項目

様式は決まっていません。手書きでも、レシートでも、名称が「納品書」でも、次の6つが書いてあればインボイスです。

  1. 適格請求書発行事業者の氏名又は名称 及び登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  4. 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
  5. 税率ごとに区分した消費税額等
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

登録番号は、法人番号のある課税事業者は「T+法人番号」、個人事業者などは「T+13桁の数字」です。請求書と納品書のように複数の書類を合わせて6項目を満たしてもかまいません

立場別の判定フロー(あなたは何をすればいい?)

「インボイス制度への対応」は、立場によってやることがまったく違います。まず自分がどこにいるかを確かめてください。

その取引で、あなたは? 請求書を「出す」側=売り手 請求書を「受け取る」側=買い手 消費税を納めている(課税事業者)? 受け取った請求書に登録番号がある? はい いいえ ある ない 課税事業者 ・登録して番号を  請求書に印刷 ・端数処理は税率  ごとに1回だけ → 納税額は不変 免税事業者 ・登録する/しない  を選べる ・登録すると納税が  発生する → 2割特例は9月まで 登録番号あり ・消費税を  全額 差し引ける ・請求書を7年保存 → 確認するだけ 登録番号なし ・差し引けるのは  80%(〜26/9/30)  70%(26/10/1〜) ・帳簿に「80%控除  対象」と記載 ただし「少額特例」が使えるなら 税込1万円未満は、番号がなくても 全額控除(令和11年9月30日まで) 納税額が増えるのは、右側(買い手)だけ。 売り手が受けるのは「値引き交渉・取引見直し」という間接的な影響
立場別の判定フロー。売り手側の分岐は「登録するか」、買い手側の分岐は「番号があるか」で、悩みどころがまったく違う。

2026年の「今」はどの段階か(80%→70%へ)

ここが、古い記事といちばん差が出るところです。2026年(令和8年)3月の税制改正で、経過措置のスケジュールが書き換わりました。

改正前は「80%(3年)→ 50%(3年)→ 0%」の6年間でした。改正後は適用期限が2年延長され、「80% → 70% → 50% → 30% → 0%」の5段階になっています。

期間免税事業者からの仕入れで控除できる割合
令和5年10月1日 〜 令和8年9月30日80%いま(2026年7月)はここ
令和8年10月1日 〜 令和10年9月30日70%
令和10年10月1日 〜 令和12年9月30日50%
令和12年10月1日 〜 令和13年9月30日30%
令和13年10月1日 〜0%(控除できない)
80% 3年間 70% 2年間 50% 2年間 30% 0% 控除なし 今(2026年7月) 80%で使えるのは残り約2か月半 R5.10 R8.10 R10.10 R12.10 R13.10 2026/10/1 2031/10/1
免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置(令和8年度税制改正後)。国税庁「インボイスQ&A」問113(令和8年4月改訂)の表に基づく。
踏み込んだ一段: 「1億円の上限」が新設されました(見落とされがち) 令和8年10月1日以後に開始する課税期間から、一の免税事業者等からの課税仕入れの合計額が、その年(事業年度)で税込1億円を超える場合、超えた部分にはこの経過措置を適用できません(改正前は10億円)。免税事業者に外注が集中している事業者は、相手先ごとの年間集計を持っておく必要があります。

いま経理がやるべきことは1つです。2026年10月1日以後の課税仕入れから、会計ソフトの税区分を「80%控除」から「70%控除」へ切り替えること。帳簿に付ける印も「80%控除対象」から「70%控除対象」に変わります(記号「※」+欄外に「※は70%控除対象」といった方式も認められます)。切替を忘れると、控除しすぎ=過少申告になります。

売り手(免税事業者): 2割特例の終了と3割特例

インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった人は、納税額を「売上税額の2割」にできる2割特例を使ってきました。これが終わります。

2割特例3割特例(新設)
納める消費税売上税額の2割売上税額の3割
対象個人事業者・法人個人事業者のみ
使える期間令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間まで令和9年分・令和10年分の申告
個人事業者の場合令和8年分(2026年分)が最後令和9年分・令和10年分の2回
12月決算法人の場合令和8年12月期が最後使えない
手続き事前の届出は不要。確定申告書に「適用を受ける旨」を付記するだけ
法人にとっては「崖」です 3割特例は個人事業者だけの制度です。12月決算の小規模法人は、令和8年12月期を最後に2割特例が使えず、令和9年12月期からは2割特例も3割特例も使えません。原則課税(一般課税)か簡易課税かを、いま選ぶ必要があります。

そのための救済も同じ改正で入りました。2割特例・3割特例を使った課税期間の「翌課税期間の確定申告期限」までに簡易課税制度選択届出書を出せば、その翌課税期間から簡易課税を適用できます(改正前は課税期間中に出す必要がありました)。たとえば個人事業者が令和11年分から簡易課税にしたい場合、令和11年分の申告期限(令和12年4月1日)までに届出書を出せば間に合います。「1年やってみてから決める」ことができる、実務的にありがたい改正です。

買い手の実務: 少額特例と帳簿の書き方

買い手にとって、いちばん効くのが少額特例です。しかも2026年10月以後は、これがあるかどうかで手間が大きく変わります

少額特例(税込1万円未満はインボイス不要)
  • 使える人: 基準期間(2年前)の課税売上高が1億円以下または特定期間(個人は前年1〜6月、法人は前事業年度開始後6か月)の課税売上高が5,000万円以下の事業者
  • 効果: 税込1万円未満の課税仕入れは、インボイスの保存が不要。一定事項を書いた帳簿の保存だけで全額控除できる
  • 相手が免税事業者でも同じ。つまり80%(70%)計算そのものが要りません
  • 期限: 令和5年10月1日 〜 令和11年(2029年)9月30日までに行う課税仕入れ
1万円未満は「1回の取引」で判定します(商品ごとではない) 5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合、合計12,000円なので少額特例の対象外です。「1つ1つが1万円未満だからOK」ではありません。
また、特定期間の判定では、納税義務の判定と違って「給与支払額の合計額」に置き換えることはできません。課税売上高で見ます。

期限の切れ方にも罠があります。少額特例は「課税仕入れを行った日」で判定するため、課税期間の途中でも令和11年10月1日以後の仕入れは対象外になります。12月決算法人なら、令和11年12月期の期中に、突然インボイスの回収が必要になります。

経過措置を使うときの帳簿の書き方

登録番号のない請求書で80%(10月からは70%)控除を受けるには、帳簿と請求書の両方が要ります。

無料ツール:消費税・端数処理 計算機 インボイスの消費税額は「一の請求書につき、税率ごとに1回」しか端数処理できません(明細ごとに端数処理して合計するのは認められません)。正しい税額と、やりがちな計算との差額を自動で出します。

返還インボイス: 振込手数料は1万円未満なら不要

インボイス制度の開始時、経理の現場をいちばん騒がせたのが「振込手数料を先方負担にしたら、売り手が返還インボイスを出さないといけないのか」という問題でした。

結論は「出さなくてよい」です。値引き(売上に係る対価の返還等)の金額が税込1万円未満なら、返還インボイスの交付義務は免除されます。振込手数料は通常440円程度なので、まず該当します。

国税庁の例 500,000円の請求に対し、買い手が振込手数料相当額440円を差し引いた499,560円を支払い、売り手が440円を「対価の返還等」として処理する場合
→ 値引き額が1万円未満なので、適格返還請求書の交付は不要

この免除は恒久措置です。適用期限も、対象者の規模の制限もありません(少額特例が令和11年9月30日で切れるのとは違います)。ここは混同しやすいので注意してください。

ただし売り手側の処理には分岐があります。振込手数料相当額を「売上値引き」ではなく「課税仕入れ(支払手数料)」として処理する場合は、金融機関や取引先から受け取るインボイスが必要になります。また、勘定科目は支払手数料のまま、消費税法上だけ「売上げに係る対価の返還等」として扱うことも可能ですが、その場合は帳簿に対価の返還等に係る事項を記載し、通常の支払手数料と区別できるようにする必要があります(専用の補助科目・コードを用意する等)。

差引額そのものの計算(3万円の壁・差引前基準/差引後基準)は、別記事で詳しく扱っています → 振込手数料の先方負担|差引額の計算「3方式」と仕訳・インボイス対応

よくある勘違い(落とし穴)

よくある勘違い正しくは
免税事業者は消費税を請求してはいけない違います。免税事業者も税込価格で請求できます。できないのは「インボイスの交付」だけです
インボイスがないと経費にできない違います。法人税・所得税の経費(損金・必要経費)にはなります。影響を受けるのは消費税の仕入税額控除だけです
登録すれば必ず得違います。買い手が消費者や免税事業者ばかりの商売(美容室・学習塾など)では、登録するだけ納税が増えます
相手が免税事業者だから消費税分は払わない危険です。再交渉が形式的で、買い手の都合だけで著しく低い価格を設定すると優越的地位の濫用(独占禁止法)、下請法の対象取引なら買いたたきとして問題になります(財務省・公正取引委員会等の共同Q&A)
簡易課税ならインボイスの保存は要らないそのとおりです。簡易課税・2割特例・3割特例は売上から納税額を計算するので、仕入側のインボイス保存は要りません(ただし自分が売り手として交付する義務は残ります)
登録をやめたい人へ(期限に癖があります) 2割特例の終了を機に登録をやめるなら、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を、やめたい課税期間の初日から起算して15日前の日までに出します。個人事業者が令和9年分から免税に戻るなら令和8年12月17日までこの日が土日祝でも翌日に延長されません。1日でも遅れると、効力を失うのは翌々課税期間の初日になります。
なお、令和5年10月1日を含む課税期間より後に登録した人には、2年間は免税事業者に戻れない「2年縛り」があります。

よくある質問

Q. インボイス制度で、結局いちばん損をするのは誰ですか?

A. 直接に納税額が増えるのは「買い手」です。登録番号のない請求書を受け取ると、支払った消費税を全額は差し引けないためです(2026年9月30日までは80%、10月1日からは70%まで)。免税事業者である売り手は納税額が増えるわけではなく、買い手からの値引き交渉や取引見直しという形で間接的な影響を受けます。

Q. 免税事業者のままだと、取引を切られますか?

A. 取引条件の見直し自体は当事者の交渉ですが、買い手が一方的に決めることはできません。財務省・公正取引委員会等の共同Q&A(最終改正 令和8年1月30日)では、再交渉が形式的で買い手の都合だけで著しく低い価格を設定することは優越的地位の濫用として独占禁止法上問題になり、下請法の対象取引では「買いたたき」に当たるとされています。

Q. 登録番号がない請求書を受け取ってしまいました。どうすればいいですか?

A. 捨てずに保存してください。経過措置により2026年9月30日までの仕入れは80%、10月1日以後は70%を控除できます。そのためには帳簿に「80%控除対象」(10月以後は「70%控除対象」)などと記載し、区分記載請求書と同じ内容の請求書を保存する必要があります。税込1万円未満で少額特例が使える事業者なら、帳簿だけで全額控除できます。

Q. 2割特例が終わったあと、個人事業者はどうなりますか?

A. 令和9年分・令和10年分は「3割特例」(納税額=売上税額の3割)を使えます。事前の届出は不要で、確定申告書にその旨を付記します。令和11年分からは3割特例も使えないため、原則課税か簡易課税を選ぶことになります(簡易課税の届出は、令和11年分の申告期限である令和12年4月1日までに提出すれば間に合います)。

Q. 法人は3割特例を使えますか?

A. 使えません。3割特例は個人事業者だけの制度です。法人は令和8年9月30日までの日の属する課税期間(12月決算なら令和8年12月期)で2割特例が終わり、その後は原則課税か簡易課税になります。

Q. 振込手数料を差し引かれたとき、返還インボイスは必要ですか?

A. 不要です。税込1万円未満の売上に係る対価の返還等は、返還インボイスの交付義務が免除されます。振込手数料相当額(440円など)はまず1万円未満なので該当します。この免除に適用期限や事業者規模の制限はありません。ただし、その手数料を「売上値引き」ではなく「課税仕入れ」として処理する場合は、金融機関等のインボイスが必要です。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。