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有給の買取は違法?認められる3つの例外と退職時の相場・税金

結論から言うと、有給休暇の買取は原則として違法です(労働基準法39条違反)。休ませるための制度を、お金で置き換えてしまうからです。

ただし例外が3つあり、その代表が退職時です。退職時に消化しきれずに残った有給を会社が買い取ることは適法です。

ここで多くの人が誤解します。適法なのは「買い取ってもよい」というだけで、会社に買い取る義務はありません。就業規則などに定めがなければ、会社は「買い取りません」と答えて構いません。「残った有給は買い取ってもらえるはず」という前提は、法律上は成り立ちません。

なぜ原則として違法なのか(通達の中身)

労働基準法39条は、使用者に対して「有給休暇を与えなければならない」と定めています。「休暇に相当するお金を払わなければならない」とは書かれていません。制度の目的は、労働者を実際に休ませて心身の疲労を回復させることにあります。

お金で代替すると、この趣旨がまるごと損なわれます。そこで行政解釈は、次の通達で買取を明確に否定しています。

昭和30年11月30日 基収第4718号 「年次有給休暇の買上げの予約をし、これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ、ないし請求された日数を与えないことは、法第39条の違反である」

通達の文言をよく読むと、禁じられているのは「買上げの予約」であり、その結果として取得できる日数が減ることだと分かります。ここが例外を理解する鍵です。「取得する機会をつぶす買取」がダメなのであって、もう取得しようのない日数を後から精算することは、この理屈には引っかかりません。

罰則(原則に違反した場合) 労働基準法39条(7項を除く)に違反して有給休暇を与えなかった場合、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(労働基準法119条1号)。
また、有給を取得した労働者に対する賃金の減額その他の不利益な取扱いは禁止されています(労働基準法136条)。「有給を使わずに買い取ってもらった人だけ得をする」という設計は、裏返せば「休んだ人が損をする」制度になりがちです。

買取が認められる3つの例外

例外は次の3つだけです。いずれも「もう休むことに使えない有給」という共通点があります。

例外どういう有給かなぜ買取が許されるのか
① 法定日数を
超える部分
会社が独自に上乗せしている有給
(例: 法定20日のところ25日付与)
上乗せ分は労基法39条が保障した休暇ではないため、労基法の規制がそもそも及ばない
② 時効(2年)で
消滅する部分
付与から2年が経ち、消滅する(した)有給 消滅してしまえば、もう取得できない。買い取っても取得日数は減らない
③ 退職時に
残っている部分
退職日までに消化しきれなかった有給 退職後に取得することはできない。買い取っても取得日数は減らない
残った有給を買い取りたい ① 法定日数を超える「上乗せ分」の有給か? はい 買取OK いいえ ② 時効(2年)で消滅する分か? はい 買取OK いいえ ③ 退職時に残っている分か? はい 買取OK いいえ 原則どおり ― 買取は違法 労働基準法39条違反(昭和30年11月30日 基収第4718号) ※「買取OK」は、あくまで会社が買い取っても違法にならないという意味です。   会社に買い取る義務はありません(就業規則等に定めがなければ、拒否できます)。 ※ 買い取った日数は、年5日の取得義務の「5日」にはカウントされません
買取の可否は「もう休むことに使える有給か」で決まる。3つの例外のどれにも当たらない有給を買い取ると、労基法39条違反になる。
①②は「やってよい」だけで、慎重な運用が求められます ①法定超過分と②時効消滅分の買取を制度として認めると、労働者は「どうせ買い取ってもらえるなら休まなくていい」と考えます。結果として有給の取得を抑制する方向に働き、制度の趣旨に反します。
行政も、①②の買取は違法ではないとしつつ、年休の取得を抑制することになる点で望ましくないという立場です。買取制度を就業規則に入れるときは、この副作用を織り込んでください。
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退職時の買取 ― 適法だが「義務」ではない

退職時に残った有給の買取は、3つの例外のうちもっとも実務で使われるものです。ただし会社の義務ではありません。ここを取り違えると、退職交渉でこじれます。

よくある誤解実際は
残った有給は買い取ってもらえるはず買い取っても違法にならないだけ。就業規則等に定めがなければ、会社は拒否できる
会社が「買い取るから休むな」と言ってきたこれは違法。取得できる日が残っているのに買取で代えるのは、通達がまさに禁じた「買上げの予約」にあたる
退職日までに有給を使い切りたい使い切れる。会社の時季変更権は「別の時季に与える」ことが前提で、退職日より後に振り替える余地がないため、事実上行使できない
労働者側の正しい順番 ① まず退職日までの労働日に有給を請求して消化する(これは権利。会社は原則として拒否できない)。
② それでも消化しきれない分について、買取をお願いする(これはお願いであって権利ではない)。
順番を逆にして「買い取ってください」から入ると、会社が断った時点で終わってしまいます。

買取価格の相場と決め方

買取価格に法律の定めはありません。買取そのものが法定外の取扱いなので、いくらで買い取るかは労使の合意(就業規則・退職金規程などの定め)で決まります。

とはいえ、実務ではゼロから決めるわけではなく、「有給を1日取得したときに支払う賃金」の計算方法を流用するのが一般的です。労働基準法39条9項は、その計算方法を次の3つに限定しています。

方式1日あたりの額使うための条件
① 平均賃金直前3か月の賃金総額 ÷ その期間の総日数(暦日)(労基法12条)就業規則等に定める
② 通常の賃金所定労働時間労働した場合に支払われる賃金
(月給制なら 月給 ÷ 月の所定労働日数)
就業規則等に定める
③ 標準報酬日額健康保険法の標準報酬月額の30分の1
(5円未満は切捨、5円以上10円未満は10円に切上)
労使協定が必要

実数で見る(月給30万円・月の所定労働日数20日・残20日の場合)

4〜6月(総日数91日)に退職する人を例にすると、同じ人・同じ有給でも、方式によって1日単価はここまで変わります。

方式計算1日あたり残20日を買い取ると
① 平均賃金300,000円×3か月 ÷ 91日9,890円10銭197,802円
③ 標準報酬日額標準報酬月額300,000円 ÷ 3010,000円200,000円
② 通常の賃金300,000円 ÷ 20日15,000円300,000円
① 平均賃金 9,890円 ③ 標準報酬日額 10,000円 ② 通常の賃金 15,000円 月給30万円・月の所定労働日数20日・1日あたりの単価 同じ人でも1日あたり最大5,110円の差 残20日なら 197,802円 と 300,000円 で、102,198円 の開き。方式は就業規則の定めしだい。
月給制では、暦日で割る「平均賃金」がもっとも低くなりやすい。就業規則にどの方式が書いてあるかで、手取りが10万円単位で変わる。
「1日いくら」を勝手に決めてよいわけではない、が… 上の3方式は、あくまで有給を「取得」したときに支払う賃金のルールです。買取金額そのものを縛る法律はありませんので、労使が合意すれば「1日5,000円」「賃金の50%」といった定めも可能です(買取は法定外のサービスだからです)。
逆に言えば、就業規則に買取の定めがなければ、単価の議論以前に会社に支払義務が生じません。買取制度を作るなら、対象・単価・上限日数まで就業規則に書ききってください。

買取金の税金・社会保険料はどうなるか

ここは労務系の記事がほとんど触れない領域で、しかも金額に直結します。分かれ目は「在職中に買い取るのか、退職に伴って買い取るのか」です。

在職中の買取(例外①②)退職時の買取(例外③)
所得税の区分給与所得(争いなし)退職所得として扱うのが実務の主流
(下記のとおり見解が分かれる論点)
源泉徴収給与・賞与として源泉徴収退職所得として源泉徴収
(「退職所得の受給に関する申告書」が必要)
社会保険料労働の対償なので報酬・賞与に該当し得る
(=保険料の対象になり得る)
退職金と同様に整理され、対象外とするのが一般的
(さらに退職月は下記の156条3項も効く)

退職時の買取金は「給与所得」か「退職所得」か

国税庁は、退職所得として課税される「退職手当等」を次のように説明しています(タックスアンサー No.2725。根拠法令は所得税法30条・所得税基本通達30-1ほか)。

退職手当等とは(国税庁 タックスアンサー No.2725) 「退職所得として課税される退職手当等とは、退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいいます」
「したがって、退職に際しまたは退職後に使用者等から支払われる給与で、支払金額の計算基準等からみて、他の引き続き勤務している人に支払われる賞与等と同性質であるものは、退職所得ではなく給与所得とされます」

退職時の有給買取金は、退職する人にしか支払われず、退職を機に一時に支払われます。この定義にそのまま当てはまるため、実務では「退職所得」として処理するのが主流です(税理士・社労士の解説も、退職所得とするものが多数を占めます)。

一方で「有給の買取金は労働基準法上の賃金であり、計算基準も通常の賃金と同じなのだから給与所得だ」という見解もあります。上の通達のただし書が効くかどうか、という争いです。実際、在職者にも同じ計算方法で有給を買い取っている会社(法定超過分の買取制度がある会社など)では、退職者への買取金も「引き続き勤務している人に支払われるものと同性質」と見られる余地があります。

ここが実務の分かれ目です 国税庁は「年次有給休暇の買取金」について公表の質疑応答事例を出していません。つまり、白黒がついた論点ではありません。判断の軸は次の1点です。
・その買取金は、退職者にしか支払われないものか → 退職所得に寄る
在職者にも同じ基準で支払っているものか → 給与所得に寄る
金額が大きい場合や、就業規則で在職中の買取も認めている場合は、顧問税理士・所轄税務署に事前に確認してください。区分を間違えると源泉徴収税額が大きくずれます。

退職所得として処理するなら、申告書を必ず出させる

退職所得として源泉徴収するには、本人から「退職所得の受給に関する申告書」を提出してもらう必要があります。

退職金を別に支払う場合は、買取金と退職金を合算して退職所得の計算を行います。

社会保険料はかかるのか

健康保険法3条5項は「報酬」を、「労働者が、労働の対償として受けるすべてのもの(ただし、臨時に受けるもの……を除く)」と定めています。退職時の買取金を「退職金と同様、退職に基因して一時に支払われるもの」と整理すれば、報酬にも賞与にも当たらず、社会保険料はかかりません。実務ではこの扱いが一般的です。

さらに、退職月そのものに強力なルールがあります

資格喪失月の保険料は「算定しない」(健康保険法156条3項) 「前月から引き続き被保険者である者がその資格を喪失した場合においては、その月分の保険料は、算定しない
資格喪失日は退職日の翌日です。したがって —
7月30日に退職 → 喪失日は7月31日 → 7月が資格喪失月7月分の社会保険料は発生しない
7月31日(月末)に退職 → 喪失日は8月1日 → 8月が資格喪失月7月分の社会保険料は発生する
退職日が1日違うだけで、最後の1か月分の保険料(本人分・会社分とも)が変わります。買取金だけでなく、最後の給与全体に効く話です。ただし「保険料がかからない=得」とは限りません。資格喪失後は国民健康保険や任意継続の手続きが必要になります。

なお、在職中の買取(例外①②)は話が別です。在職者に労働の対償として支払う以上、原則として報酬・賞与に該当し、社会保険料の対象になり得ます(年1回など3か月を超える間隔で支払うなら「賞与」として標準賞与額の対象=賞与支払届が必要)。ただし「臨時に受けるもの」は報酬から除かれるため、支給の実態によって判断が分かれます。制度化する前に年金事務所に確認してください。

年5日の取得義務との関係(最大の落とし穴)

2019年4月から、年10日以上の有給が付与される労働者には、年5日を確実に取得させることが会社の義務になりました(労働基準法39条7項)。

ここで決定的に重要な点があります。

買い取っても、「取得した5日」にはカウントされません
  • 年5日の義務は、実際に休ませることで果たされます。厚生労働省も「時季指定をしただけでは足りず、実際に取得させていなければ法違反」としています。
  • 買取は「取得」ではありません。お金を払っても、その日は休んでいないからです。
  • そもそも、年5日にあたる法定の有給を買い取ること自体が原則違法です(前述の通達)。二重の意味でカウントできません。
  • 5日取得させられなかった場合の罰則は30万円以下の罰金(労働基準法120条1号)。しかも労働者1人につき1罪として扱われます。

「残った有給は退職時にまとめて買い取るから」という運用は、年5日の義務違反を消してくれません。退職予定者であっても、基準日から1年以内に5日取得させる義務は原則として残ります(退職日までの労働日が足りず、5日取得させることが物理的に不可能な場合を除きます)。

年5日の義務の詳しい要件・対象者・半休の扱いは、有給休暇「年5日の取得義務」とは|罰則・対象者・半休の扱いで解説しています。

よくある質問

Q. 会社に「残った有給を買い取ってほしい」と頼めますか?

A. 頼むことはできますが、会社に応じる義務はありません。退職時の買取は「してもよい」というだけで、就業規則や労使の合意に定めがなければ、会社は買取を拒否できます。まずは退職日までの労働日に有給を請求して消化するのが先です。

Q. 退職時に「有給は使わせない、買い取るから」と言われました。適法ですか?

A. 違法です。取得できる日が残っているのに買取で代えることは、昭和30年11月30日 基収第4718号がまさに禁じた「買上げの予約」にあたり、労働基準法39条違反になります。会社の時季変更権も「他の時季に与える」ことが前提なので、退職日より後に振り替える余地がない以上、行使できません。

Q. 買取価格に決まりはありますか?

A. 法律の定めはなく、労使の合意(就業規則等の定め)によります。実務では有給1日分の賃金の計算方法(労働基準法39条9項の①平均賃金 ②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金 ③標準報酬日額)を流用することが多く、月給30万円・所定20日なら1日あたり9,890円〜15,000円と、方式によって5,000円以上変わります。

Q. 買い取った日数を、年5日の取得義務にカウントできますか?

A. できません。年5日は実際に休ませることが必要で、買取は「取得」ではないからです。5日取得させられなければ、買取で精算していても30万円以下の罰金(労働基準法120条1号)の対象です。

Q. 有給の時効は2年のままですか? 賃金の時効は5年(当分の間3年)に延びたと聞きました。

A. 延びたのは賃金請求権だけです。年次有給休暇の請求権は労働基準法115条の「賃金の請求権を除く」請求権にあたるため、2年のまま据え置かれています(賃金は同法附則143条3項により、当分の間3年)。有給が3年で消滅時効にかかる、という理解は誤りです。

Q. 退職時の買取金は、給与所得と退職所得のどちらですか?

A. 退職所得として処理するのが実務の主流です。国税庁は退職手当等を「退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与」と説明しており(タックスアンサーNo.2725)、退職時の買取金はこれに当てはまるためです。ただし国税庁の公表事例はなく、在職者にも同じ基準で買い取っている会社では給与所得と整理される余地があるため、金額が大きい場合は顧問税理士・所轄税務署に確認してください。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は労働基準監督署・社会保険労務士・税理士・所轄税務署にご確認ください。