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振込手数料の勘定科目|支払手数料でよい理由と、売手負担が違法になる新ルール

結論から言うと、自社が振込手数料を負担するなら勘定科目は「支払手数料」です。法人税法にも消費税法にも「振込手数料はこの科目で処理せよ」という定めはないので、「雑費」で処理しても誤りではありません。ただし科目は年度ごとに変えず、一度決めたら継続して使うのが原則です。

実務で本当に迷うのは、勘定科目そのものではなく「売手が負担する場合」——つまり、10,000円を請求したのに、買手が振込手数料440円を差し引いて9,560円だけ振り込んできた場合です。このとき売手側の処理は売上値引き・支払手数料・立替金の3通りがあり、どれを選ぶかで消費税の扱いと必要な書類が変わります。

そして2026年1月1日、この論点の前提が変わりました。下請法が「取適法」に変わり、対象となる取引では、当事者間に合意があっても、振込手数料を売手に負担させて代金から差し引くこと自体が違反になったからです。従来は「あらかじめ合意していれば差し引いてよい」と説明されてきたので、この点は特に注意してください。

自社が負担するときの勘定科目は「支払手数料」

買手が自分で振込手数料を負担する(請求額を満額振り込み、手数料は別に銀行へ払う)場合、勘定科目は支払手数料を使うのが一般的です。銀行に支払う役務提供の対価だからです。

「雑費」でも税務上は問題ありません。勘定科目の名称は法令で定められていないためです。ただし次の2点は意識してください。

消費税の区分は「課税仕入れ」 国内の金融機関に支払う振込手数料は課税取引です。同じ銀行取引でも、借入金の利息は非課税(利子を対価とする貸付金)なので、まとめて非課税と処理しないよう注意してください。

売手が負担するとき:3つの処理と消費税

ここからが本題です。売手が10,000円(税込)を請求し、買手が振込手数料440円を差し引いて9,560円を振り込んだ——このとき売手側はどう処理するか。国税庁のインボイスQ&A問29は、契約関係等によって次の3つに分かれるとしています。

10,000円を請求 → 買手が440円を差し引いて9,560円を振込 売手は、この440円を何と考えるか? ① 売上値引き 売上を440円まけた → 売上対価の返還等 返還インボイスは 1万円未満なので不要 最も手間が少ない ② 支払手数料 買手から「決済の便宜」 という役務を買った → 課税仕入れ 買手のインボイスが要る 相手は銀行ではなく買手 ③ 立替金 買手が銀行への手数料を 立て替えてくれた → 課税仕入れ 立替金精算書が要る 差引額=実費と同額が条件 いずれも消費税は課税取引(10%)。違うのは「誰との取引か」「どの書類を保存するか」 出典: 国税庁「適格請求書等保存方式に関するQ&A」問29(令和8年4月改訂)
売手が振込手数料を負担したときの3つの処理。実務では①の売上値引きが最も簡単です。

① 売上値引きとする(実務上いちばん簡単)

440円だけ売上をまけた、と考える方法です。これは消費税法上「売上げに係る対価の返還等」に当たるため、原則として買手に適格返還請求書(返還インボイス)を交付する義務があります(消費税法57条の4第3項)。

ところが同項のただし書は、返還の金額が少額である場合は交付義務を免除すると定め、その「少額」を政令が税込1万円未満と決めています(消費税法施行令70条の9第3項2号)。振込手数料はどう高くても数百円ですから、実質的に返還インボイスは常に不要です。国税庁のQ&Aも、440円の例について「適格返還請求書の交付は必要ありません」と明言しています。

この1万円未満の免除は「期限なし」です よく似た「少額特例」(1万円未満の課税仕入れは帳簿の保存だけで仕入税額控除できる)は、令和11年9月30日までの経過措置で、しかも基準期間の課税売上高1億円以下または特定期間の課税売上高5,000万円以下の事業者しか使えません。一方、ここで説明した返還インボイスの1万円未満免除は本則で、期限も売上規模の条件もありません。この2つは混同されがちですが別物です。

② 支払手数料(買手から役務提供を受けた対価)とする

「振込方法を指定する便宜を買手から受けた対価」と考える方法です。この場合、売手の売上(10,000円)と、買手が売手に提供した決済の役務(440円)は、それぞれ別の取引になります。

ここに落とし穴があります。売手がこの440円について仕入税額控除を受けるには、買手から交付を受けた適格請求書の保存が必要です。手数料を実際に受け取ったのは銀行ですが、この処理では売手の取引相手は買手なので、銀行のインボイスでは足りません。買手にわざわざ440円のインボイスを発行してもらうのは現実的でないため、売手が仕入明細書等を作成して買手の確認を受ける方法も認められています(消費税法30条9項3号)。

③ 立替金とする

「買手が、売手の代わりに銀行へ振込手数料を立て替えて払ってくれた」と考える方法です。この場合、売手は買手が金融機関から受け取ったインボイスと、買手が作成した立替金精算書等の交付を受けて保存します。差し引かれた金額が金融機関の実費と同額であることが条件です。

なお買手がATMで振り込んだ場合、そのATM手数料は3万円未満の自動販売機特例の対象になるため、インボイスや立替金精算書の保存は不要になります。

【2026年1月〜】合意があっても違反になる取引がある

ここが本記事でいちばん重要な点です。2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法(下請法)が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(通称・取適法/トリテキ法)に改称・改正され、施行されました(令和7年法律第41号)。

取適法5条1項3号は、委託事業者が「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、製造委託等代金の額を減ずること」を禁止しています。条文の文言自体は旧下請法と同じですが、公正取引委員会は運用を変えました。公取委のリーフレット(令和7年10月)は、こう書いています。

公正取引委員会「トリテキ法の注意ポイント ー代金編ー」より 振込手数料を負担させることの禁止 — 中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、振込手数料を中小受託事業者に負担させ、製造委託等代金から差し引くことは違反になります(「減額」に該当)。

従来は「あらかじめ書面で合意し、実費の範囲内であれば減額に当たらない」と運用されてきました。取適法ではこの合意による免罪符がなくなりました。つまり、対象となる取引では、契約書に「振込手数料は受注者負担」と書いてあっても、差し引いた時点で違反になります。

自社が対象かどうか——資本金だけで判断しない

取適法が適用されるのは、委託事業者(発注側)が中小受託事業者(受注側)に製造委託等をした場合です。ここで見落としやすいのが、取適法で「従業員数」の基準が新設されたことです。旧下請法は資本金だけで対象を決めていたので、資本金が小さければ対象外だった会社が、従業員数によって新たに対象になります(取適法2条8項・9項)。

取引の種類委託事業者(発注側)中小受託事業者(受注側)
製造委託・修理委託
特定運送委託など
資本金3億円超個人/資本金3億円以下
資本金1,000万円超3億円以下個人/資本金1,000万円以下
従業員300人超(新設)個人/従業員300人以下
情報成果物作成委託
役務提供委託
資本金5,000万円超個人/資本金5,000万円以下
資本金1,000万円超5,000万円以下個人/資本金1,000万円以下
従業員100人超(新設)個人/従業員100人以下

「常時使用する従業員」の数で判断します。たとえば資本金500万円でも、従業員が120人いる制作会社がフリーランスのライターに記事作成(情報成果物作成委託)を発注すれば、取適法の対象です。この会社が原稿料から振込手数料を差し引けば、合意があっても「減額」に該当します。

取適法の対象外なら、従来どおり差し引けます 取適法が規律するのは「製造委託等」という特定の類型の取引です。たとえば物品を単に仕入れる売買や、上の表の規模要件を満たさない取引は対象外なので、当事者間の合意があれば振込手数料を差し引く運用は引き続き可能です。ただし対象外であっても、独占禁止法の優越的地位の濫用に当たる可能性は別途あります。

インボイス制度での落とし穴

「3万円未満なら領収書不要」は、もう使えない

かつては、3万円未満の課税仕入れなら請求書等の保存が不要(帳簿の保存だけで仕入税額控除ができる)という規定がありました。振込手数料はこれに当てはまるので、何も保存していなかった会社は多いはずです。この規定はインボイス制度の開始(令和5年10月1日)で廃止されました。

いま帳簿だけで控除が認められるのは、①前述の少額特例(1万円未満・令和11年9月30日まで・売上規模の条件あり)か、②ATM振込のような自動販売機特例(3万円未満)に当たる場合です。窓口やネットバンキングでの振込手数料は自動販売機特例の対象外なので、金融機関が交付するインボイス(多くはWeb明細で提供)を保存する必要があります。

軽減税率の売上を値引きしたら、値引きも8%

売上値引き(①の処理)を選んだとき、その値引きに適用される税率は、値引きの基になった売上の税率に従います。食品など軽減税率8%の商品を売った代金から振込手数料440円を差し引いたなら、その売上値引き440円も8%で処理します。振込手数料そのものは10%の取引なので、つい10%で計上しがちですが、①を選んだ時点でこれは「手数料」ではなく「売上のマイナス」です。10%と8%の売上が混在する会社は、どの売上に対する値引きなのかで税率が変わります。

ここまでのまとめ
  • 自社が負担するなら支払手数料(雑費でも可。継続適用が原則)
  • 売手負担なら売上値引きが最も簡単。返還インボイスは1万円未満で交付不要(期限なしの本則)
  • 支払手数料として処理するなら、買手のインボイスか仕入明細書が要る(銀行のインボイスでは足りない)
  • 2026年1月〜:取適法の対象取引では、合意があっても売手に負担させると違反
  • 対象判定に従業員数の基準が新設(製造委託等300人/情報成果物・役務100人)

仕訳例

前提:売手が10,000円(税込・10%)を請求し、買手が振込手数料440円を差し引いて9,560円を振り込んだ。

買手側(自社が負担する場合の基本形)

請求額10,000円を満額振り込み、手数料440円は自社負担とした場合。

借方金額貸方金額
買掛金10,000普通預金10,440
支払手数料(課税仕入10%)440

売手側 ①売上値引きとする場合

借方金額貸方金額
普通預金9,560売掛金10,000
売上値引(売上対価の返還・10%)440

返還インボイスの交付は不要(1万円未満)。軽減税率8%の売上に対する値引きなら、この440円も8%で計上します。

売手側 ②支払手数料とする場合

借方金額貸方金額
普通預金9,560売掛金10,000
支払手数料(課税仕入10%)440

仕訳の形は①とほぼ同じですが、仕入税額控除には買手のインボイス(または買手の確認を受けた仕入明細書)が必要です。書類が揃わないまま②で処理し続けると、控除が否認されるおそれがあります。書類を用意できないなら①を選ぶほうが安全です。

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よくある質問

Q. 振込手数料の勘定科目は支払手数料と雑費のどちらが正しいですか?

A. どちらでも税務上の誤りにはなりません。勘定科目の名称は法令で定められていないためです。ただし一般的には銀行への役務の対価として「支払手数料」を使います。重要なのは科目を毎期変えず継続して使うことで、振込件数が多い会社は支払手数料に集約したほうが銀行に支払っている総額が見えて管理しやすくなります。

Q. 買手が振込手数料を差し引いて振り込んできました。返還インボイスを発行する必要はありますか?

A. 売上値引きとして処理する場合、原則としては適格返還請求書の交付義務がありますが、税込1万円未満の返還は交付義務が免除されます(消費税法57条の4第3項、消費税法施行令70条の9第3項2号)。振込手数料は数百円なので、実質的に交付は不要です。この免除に期限や売上規模の条件はありません。

Q. 振込手数料は3万円未満なので、領収書を保存しなくても仕入税額控除できますか?

A. できません。3万円未満の課税仕入れについて請求書等の保存を不要とする規定は、インボイス制度の開始(令和5年10月1日)で廃止されました。現在帳簿の保存だけで控除できるのは、少額特例(税込1万円未満・令和11年9月30日まで・基準期間の課税売上高1億円以下または特定期間5,000万円以下の事業者)か、ATM振込のように自動販売機特例に当たる場合に限られます。

Q. 契約書に「振込手数料は受注者負担」と書いてあれば差し引いてよいですか?

A. 取適法(旧・下請法)の対象となる取引では、2026年1月1日以降、合意の有無にかかわらず振込手数料を中小受託事業者に負担させて代金から差し引くことは「減額」として違反になります。公正取引委員会は運用基準を見直し、従来認められていた「書面で合意していれば減額に当たらない」という取扱いをやめました。対象外の取引であれば合意による差引は可能ですが、優越的地位の濫用に当たらないかは別途検討が必要です。

Q. 資本金1,000万円以下の会社は取適法の対象外ですか?

A. 対象外とは限りません。取適法では従業員数による基準が新設され、製造委託等では常時使用する従業員300人超、情報成果物作成委託・役務提供委託では100人超の事業者も委託事業者に含まれます。したがって資本金が小さくても、従業員数が基準を超えていれば対象になります。旧下請法は資本金だけで判定していたため、この点で新たに対象となる会社があります。

Q. 売手が支払手数料として処理する場合、銀行が発行したインボイスを保存すればよいですか?

A. いいえ。支払手数料として処理する場合、売手は「買手から代金決済上の役務提供を受けた」ことになるため、取引相手は銀行ではなく買手です。仕入税額控除には買手から交付を受けた適格請求書の保存が必要で、銀行のインボイスでは要件を満たしません。買手にインボイスを発行してもらうのが難しい場合は、売手が仕入明細書等を作成して買手の確認を受ける方法も認められています。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は所轄の税務署・税理士、また取適法については公正取引委員会・中小企業庁にご確認ください。