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住民税の特別徴収とは|6月からの年間スケジュールと退職者の一括徴収

結論から言うと、住民税の特別徴収は、会社が従業員の給与から住民税を天引きして市区町村に納める仕組みです。6月から翌年5月までの12回で徴収します(地方税法321条の5第1項)。

所得税の源泉徴収と決定的に違うのは、1年ずれることです。今年6月から引くのは去年の所得に対する税で、しかも税額を計算するのは会社ではなく市区町村です。会社は5月に届く通知書のとおりに引くだけで、年末調整のような精算もしません。

そして実務でいちばん間違えるのが退職者の処理です。1月1日〜4月30日に退職した人は、本人が何も言わなくても、会社が残額を一括徴収しなければなりません(義務)。「本人が希望したら一括徴収」は6月〜12月退職の話で、両者は別物です。

特別徴収とは(所得税との決定的な違い)

特別徴収とは、給与を支払う会社(=特別徴収義務者)が、従業員の住民税を毎月の給与から天引きし、翌月10日までに従業員の住所地の市区町村へ納入する制度です。従業員が自分で納付書で納めるのが普通徴収です。

同じ「天引き」でも、所得税の源泉徴収とは中身がまったく違います。ここを取り違えると、退職者の処理も新入社員の処理も間違えます。

所得税(源泉徴収)住民税(特別徴収)
いつの所得に対する税かその年の所得
今年の給与から今年の税を引く
前年の所得
今年引くのは去年の税
税額を決めるのは会社が計算する
(税額表を引く)
市区町村が計算して通知する
会社は計算しない
徴収する期間給与を払うたび(毎月)6月〜翌年5月の12回
年末の精算年末調整で精算する精算しない
確定額が通知されている
納付先税務署(国)従業員の住所地の市区町村
納期限翌月10日
(納期の特例で年2回可)
翌月10日
(納期の特例で年2回可)
この1点さえ押さえれば、あとは全部説明がつく
  • 住民税は「後払い」 = 前年の所得に対する税を、翌年6月から1年かけて払う
  • だから 新入社員は1年目は引かれない(前年に所得がないから)
  • だから 退職しても翌年に請求が来る(去年の所得の分がまだ残っているから)
  • だから 会社は住民税の額を計算しない(前年分の確定額を市区町村が計算済み)

住民税は「後払い」。1年ずれる仕組み

2025年(令和7年)の給与を例に、所得税と住民税で「いつ徴収されるか」を並べてみます。

2025年(令和7年) 2026年(令和8年) 2027年(令和9年) 所得税 (源泉徴収) 2025年分を毎月徴収 12月の年末調整で精算 → その年で完了 住民税 (特別徴収) 2025年の所得 1年ずれる 12回に分けて毎月の給与から徴収 1 2 3 ① 2026年1月31日 … 前年(2025年)分の給与支払報告書を市区町村へ提出 ② 2026年5月31日まで … 市区町村から「特別徴収税額の決定通知書」が届く ③ 2026年6月〜2027年5月 … 毎月の給与から徴収し、翌月10日までに納入 2026年6月(徴収開始) 2027年5月(終了)
同じ「2025年の所得」でも、所得税は2025年のうちに徴収して年末調整で完了するのに対し、住民税は2026年6月〜2027年5月に徴収される。この1年のズレが、新入社員・退職者・住宅ローン控除の還付など、住民税まわりの「なぜ?」のほとんどの正体。

2025年に働いていなかった人(=新卒の新入社員)は、2025年の所得がありません。だから2026年6月から始まる特別徴収の対象にならず、入社1年目は住民税が引かれません。天引きが始まるのは入社2年目の6月です。「1年目と2年目で手取りが変わった」と相談されたら、これが答えです。

逆に、退職して収入がゼロになっても、前年に所得があれば住民税は課税されます。退職後に市区町村から納付書(普通徴収)が届くのはそのためです。

経理の年間スケジュール

特別徴収の実務は、次の4つの日付で回ります。

時期やること根拠
1月31日まで給与支払報告書を、従業員の1月1日現在の住所地の市区町村へ提出する(前年分)地方税法317条の6第1項
5月31日まで市区町村から特別徴収税額の決定通知書(特別徴収義務者用・納税義務者用)が届く。年税額と月割額が書かれている地方税法321条の4第2項
6月の給与新しい税額で徴収開始。納税義務者用の通知書は本人に配布する地方税法321条の5第1項
毎月10日まで前月に徴収した分を市区町村へ納入(6月徴収分は7月10日まで)地方税法321条の5第1項
納期限の10日が土日祝のときは翌日にずれます 地方税法20条の5第2項により、期限が休日(日曜・土曜・祝日・年末年始)に当たるときはその翌日が期限になります。金融機関の窓口も動きませんので、月次の締めスケジュールを組むときは「10日」ではなく10日以後の最初の営業日で見ておくと安全です。
無料ツール:日数計算・営業日計算 「10日が土日祝なら、実際の納期限は何日か」を土日祝対応で自動判定。納付・振込のスケジュールづくりに。

6月だけ住民税が高いのはなぜか

6月の給与明細を見た従業員から「今月だけ住民税が高い」と言われることがあります。これは正常です。

市区町村は年税額を12で割って月割額を出しますが、100円未満の端数は、すべて最初の月(=6月)の分に合算することになっています(地方税法20条の4の2第6項・第8項)。そのため6月だけが最大1,100円ほど高くなり、7月〜翌年5月は同額になります。

年税額 250,300円の例

手順計算結果
① 12で割る250,300円 ÷ 1220,858.33…円
② 100円未満を切り捨てて月割額に20,800円(7月〜翌年5月の11か月分)
③ 端数を6月に寄せる250,300円 − 20,800円 × 11か月6月=21,500円
検算21,500円 + 20,800円 × 11か月250,300円 ✓

会社が端数計算をするわけではありません。6月分と7月以降分は、5月に届く決定通知書にそれぞれ印字されています。会社は通知書の額をそのまま引くだけです。逆に言えば、通知書と違う額を引いていたら、それは間違いです。

踏み込んだ一段:12分割されないケースがある 地方税法321条の5第1項ただし書は、特別徴収税額が「均等割額に相当する金額」以下のときは、最初に徴収すべき月(6月)に全額を徴収すると定めています。均等割の標準税率は市町村民税3,000円+道府県民税1,000円=年4,000円(地方税法310条・38条。これとは別に森林環境税が年1,000円、令和6年度から住民税均等割と併せて徴収されます)。
所得割がほとんど出ない従業員では、6月に全額を引いて、7月以降はゼロという通知が来ることがあります。「通知書の7月以降が空欄だ、印刷ミスでは?」と思ったら、まずこのケースを疑ってください。

退職者が出たときの処理(退職月で変わる)

ここが特別徴収の実務で最も間違えやすいところです。退職すると、その従業員の未徴収の月割額(=まだ引いていない残りの月分)をどうするかを決めなければなりません。

原則は「事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額は、徴収・納入の義務を負わない」(地方税法321条の5第2項本文)=普通徴収に切り替わるです。ただし、そのただし書に例外が2つあり、この例外の方が実務では重要です。

従業員が退職。未徴収の月割額が残っている 1月1日〜4月30日に退職 5月1日〜5月31日に退職 6月1日〜12月31日に退職 残額を一括徴収(義務) 本人の申出は不要 5/31までの給与・退職金から 5月分を通常どおり徴収 その年度の12回目が5月 未徴収分は残らない 原則は普通徴収へ切替 本人が納付書で納める 申出があれば一括徴収も可 いずれの場合も、退職した月の翌月10日までに「給与所得者異動届出書」を提出する ※ 一括徴収は、5/31までに支払う給与・退職金が残額を超えるときに限る(足りなければ徴収できる額まで)
退職月で扱いが変わる。1月〜4月退職の一括徴収だけが「会社の義務」で、本人の希望は関係ない。6月〜12月退職は原則普通徴収で、一括徴収は本人の申出があるときだけ。
退職日未徴収分の扱い一括徴収は
1月1日〜4月30日5月31日までに支払う最後の給与・退職手当等から、残額を全額天引きする会社の義務
本人の申出は不要
5月1日〜5月31日5月分(その年度の12回目)を通常どおり徴収して終了。翌月以降の月割額は存在しない
6月1日〜12月31日原則として普通徴収に切替。市区町村から本人に納付書が届き、本人が納める任意
本人の申出があれば可
ここを知らない担当者が多い:1〜4月退職は「本人の希望」を聞く必要がない 地方税法321条の5第2項ただし書は、6月〜12月の退職については「納税義務者からの申出があつた場合」と条件を付けていますが、「その事由がその年の翌年の一月一日から四月三十日までの間において発生した場合」には、申出という条件が付いていません
つまり1〜4月退職は、本人が「自分で払います」と言っても、会社は一括徴収しなければならないということです。「本人が普通徴収を希望したので切り替えました」は、この期間については通りません。

1〜4月退職でも一括徴収しきれない場合

条文は「5月31日までの間に支払われるべき給与又は退職手当等で当該月割額の全額に相当する金額を超えるものがあるときに限り」一括徴収すると書いています。つまり、最後の給与・退職金の額が残りの住民税に足りない場合は、徴収できる額までを徴収し、残りは普通徴収になります。

実務では、最後の給与計算をする前に「残額 vs 支給額」を確認するのが正解です。残額が支給額を上回りそうなら、事前に市区町村へ相談してください。

退職金そのものにも住民税がかかる(別物です)

混同しやすい論点です。上で説明した「一括徴収」は、前年の所得に対する住民税の残額を退職金から天引きする話でした。これとは別に退職金そのもの(退職所得)に対する住民税があり、これも会社が特別徴収して翌月10日までに納入する義務があります(地方税法328条の5。退職所得は分離課税で、その年のうちに課税が完結します)。

退職者の給与計算では、この2つの住民税が同時に発生し得ることを忘れないでください。

提出する書類:給与所得者異動届出書

退職・転勤などで特別徴収できなくなったら、「給与支払報告書に係る給与所得者異動届出書」を、異動があった月の翌月10日までに、その従業員の住所地の市区町村へ提出します(地方税法321条の5第3項)。この届出をしないと、市区町村は「まだ在籍している」前提で会社に納入を求め続けます。

転職先が決まっている場合は、この異動届で新しい勤務先へ特別徴収を引き継ぐことができます(届出書の下段に転職先を記入し、転職先の会社に回します)。一括徴収も普通徴収もせずに済むので、本人にとってはこれがいちばん負担が軽い方法です。

普通徴収にできるケース(原則は義務)

「うちは小さい会社だから普通徴収でいい」は、原則として通りません。

地方税法321条の4第1項は、市町村は「所得税法183条の規定により給与の支払をする際所得税を徴収して納付する義務がある者」を特別徴収義務者として指定し、「これに徴収させなければならない」と定めています。所得税を源泉徴収している事業主=住民税の特別徴収義務者であり、会社や従業員の希望で選べるものではありません。

例外として普通徴収が認められる6区分

例外は限定的です。東京都と都内区市町村が共通で使う「普通徴収切替理由書」の符号は次の6つで、給与支払報告書の個人別明細書の摘要欄にこの符号を記入し、切替理由書を添えて初めて普通徴収になります。

符号普通徴収に切り替えられる理由
普A総従業員数が2人以下(普B〜普Fに該当する全ての従業員数を差し引いた人数)
普B他の事業所で特別徴収されている(乙欄該当者など)
普C給与が少なく税額が引けない(住民税非課税の場合など)
普D給与の支払が不定期(例:給与の支払が毎月でない)
普E事業専従者(個人事業主のみ対象)
普F退職者又は退職予定者(5月末日まで)
「普A(2人以下)」の数え方に注意 従業員が2人以下なら全員普通徴収にできる、という意味ではありません。普B〜普Fに当たる人を先に除いた残りが2人以下のときに限られます。たとえば従業員5人のうち3人が「普F(退職予定者)」なら、残り2人は普Aで普通徴収にできます。逆に、普通徴収の対象になる人がいない状態で従業員が5人いれば、5人とも特別徴収です。
なお、パート・アルバイト・役員もすべて特別徴収の対象です(人数のカウントにも入ります)。「アルバイトだから対象外」は誤りです。

切替理由書を出さなければ、原則どおり全員が特別徴収の対象になります(東京都主税局「普通徴収切替理由書」注記)。判断に迷ったら、勝手に普通徴収にせず、まず市区町村に確認してください。

納期の特例と、住民税がかからない人

納期の特例(従業員10人未満)

給与の支払を受ける者が常時10人未満の事業所は、市区町村長の承認を受けることで、毎月の納入を年2回にまとめられます(地方税法321条の5の2)。

徴収した期間納入期限
6月〜11月に徴収した分12月10日まで
12月〜翌年5月に徴収した分6月10日まで
所得税の納期の特例(7月10日・1月20日)とは別制度です どちらも「10人未満」で年2回になりますが、期間の区切りも納期限も違います。所得税は1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日。住民税は6〜11月分を12月10日、12〜翌年5月分を6月10日です。それぞれ別々に申請が必要で(住民税は市区町村ごと)、所得税で承認を受けても住民税は自動では特例になりません。
また、退職者から一括徴収した分も、この納期の特例の対象になります(321条の5の2第1項後段)。

納期限までに納入しないと、延滞金がかかります(地方税法326条。本則は年14.6%、納期限の翌日から1か月を経過する日までは年7.3%。実際に適用される割合は、年ごとの特例により本則より低くなります)。従業員から預かった税金なので、資金繰りの都合で遅らせてよいものではありません。

住民税がかからない人(均等割の非課税限度額)

前年の所得が一定額以下の人には、そもそも住民税がかかりません(=天引きする税額がゼロなので、決定通知書に名前は載っても税額が0円になります)。

均等割の非課税限度額は、地方税法295条3項を受けて各市区町村の条例で定められ、生活保護基準の級地区分によって金額が変わります(地方税法施行令47条の3)。1級地(東京23区など)の場合は次のとおりです。

家族構成前年の合計所得金額が次の額以下なら均等割が非課税
同一生計配偶者・扶養親族がいない45万円(=35万円 × 1人 + 10万円)
同一生計配偶者・扶養親族がいる35万円 ×(本人+同一生計配偶者+扶養親族の数)+ 31万円

合計所得金額45万円を給与収入に換算すると、令和8年分の所得なら年収119万円です(45万円 + 給与所得控除の最低保障 74万円)。級地区分が2級地・3級地の市区町村では、35万円・31万円の部分がそれぞれ小さくなりますので、自社の従業員の居住地の条例で確認してください。

「年収100万円の壁」は、もう存在しません この換算は給与所得控除の最低保障額で決まるので、改正のたびに動きます。100万円という数字は、最低保障が55万円だった令和6年分までの所得の話です。
・令和6年分まで … 45万 + 55万 = 給与収入 100万円
・令和7年分 … 45万 + 65万 = 給与収入 110万円
令和8・9年分 … 45万 + 74万 = 給与収入 119万円(租税特別措置法29条の4。令和8年度税制改正で65万円→74万円)

住民税は前年の所得に課税するので、119万円が効いてくるのは令和9年度分の住民税からです(令和8年度分の住民税は令和7年分の所得で判定するため110万円)。給与計算の担当者が「100万円までは住民税ゼロ」と案内すると、2年ぶんの改正を取りこぼした古い数字を伝えることになります。
無料ツール:源泉徴収税額 計算機 住民税は市区町村が計算しますが、所得税(源泉徴収税額)は会社が計算します。給与額・扶養人数から甲欄・乙欄の税額を自動計算。給与計算の検算に。

よくある質問

Q. 新入社員の住民税はいつから引かれますか?

A. 入社2年目の6月からです。住民税は前年の所得に対して課税されるため、前年に所得がない新卒者は、入社1年目の6月〜翌年5月は天引きがありません。1年目と2年目で手取りが変わるのはこのためです。

Q. 6月だけ住民税が高いのはなぜですか?

A. 年税額を12で割ったときの100円未満の端数を、すべて6月分に合算するためです(地方税法20条の4の2第6項・第8項)。6月だけが最大1,100円ほど高くなり、7月〜翌年5月は同額になります。計算するのは市区町村で、金額は決定通知書に印字されています。

Q. 年度の途中で従業員が引っ越したら、納入先の市区町村は変わりますか?

A. 変わりません。住民税は1月1日(賦課期日)現在の住所地の市区町村が1年分を課税します(地方税法318条)。年度の途中で引っ越しても、その年度の納入先は同じ市区町村のままです(翌年度から新住所地に変わります)。

Q. 中途入社の人を、年度の途中から特別徴収に切り替えられますか?

A. できます。本人が普通徴収の納付書を持っている場合、まだ納期限が来ていない分について「特別徴収切替届出(依頼)書」を市区町村へ提出すれば、残りを給与天引きに切り替えられます。すでに納期限が過ぎた分は本人が納付します。

Q. 従業員から「普通徴収にしてほしい」と言われました。応じてよいですか?

A. 応じられません。特別徴収は地方税法321条の4に基づく事業主の義務で、会社や従業員の希望で選べるものではありません。認められるのは普A〜普F(従業員2人以下、税額が引けない、給与が不定期、退職者など)の例外に該当する場合だけです。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。非課税限度額や普通徴収の切替基準は市区町村の条例により異なります。個別の判断は、従業員の住所地の市区町村または税理士にご確認ください。