退職金の税金|いくら引かれる?計算方法と早見表【令和8年分】
「退職金からいくら引かれるんだろう」——そう思ってこのページに来た方が多いと思います。結論から言うと、思っているよりずっと少ないです。
退職金は、税制上とても優遇されています。長年の勤労に対する報償だからです。優遇は3つ。①退職所得控除で大きく差し引く ②残りをさらに2分の1にする ③他の所得と合算しない(分離課税)。さらに社会保険料もかかりません。
たとえば勤続25年・退職金1,000万円なら、所得税も住民税もゼロです(退職所得控除が1,150万円あるため)。勤続30年・退職金2,000万円でも、天引きされるのは405,702円(退職金の2.03%)だけ。手取りは19,594,298円です。
ただし、ひとつだけ絶対に落としてはいけない手続きがあります。「退職所得の受給に関する申告書」です。これを勤務先に出さないと、同じ2,000万円から4,084,000円(20.42%)が源泉徴収されます。差は3,928,298円。この記事の核心はここです。
- 退職所得控除額 → 課税退職所得金額 → 税額、の3ステップを実数で通す
- 「退職所得の受給に関する申告書」を出した場合/出さなかった場合の手取りの差
- 勤続5年以下だと2分の1課税が制限される(短期退職手当等・特定役員退職手当等)
- iDeCo・企業型DCと退職金の重複調整(9年ルール・19年ルール)。令和8年から範囲が広がりました
結論:退職金の税金はおどろくほど軽い
まず、実際の数字を見てください。すべて令和8年分の税率で計算しています(所得税+復興特別所得税+住民税10%)。
| 勤続年数 | 退職金 | 退職所得控除額 | 所得税+復興税 | 住民税 | 天引き合計 | 手取り |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 25年 | 1,000万円 | 1,150万円 | 0円 | 0円 | 0円 | 10,000,000円 |
| 20年 | 1,000万円 | 800万円 | 51,050円 | 100,000円 | 151,050円 (1.51%) | 9,848,950円 |
| 30年 | 2,000万円 | 1,500万円 | 155,702円 | 250,000円 | 405,702円 (2.03%) | 19,594,298円 |
※「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出している場合。一般退職手当等(勤続5年超・非役員)として計算。
給与に対する税・社会保険の天引きが2割前後になることを考えると、2%前後という軽さは際立っています。勤続25年で1,000万円なら、1円も引かれません。
ただし例外があります。同じ事例集の注記に、毎月の給与や賞与に上乗せして前払いされる退職手当(いわゆる退職金前払い制度)は「報酬等」に該当するとあります。前払いを選ぶと、税制優遇(退職所得控除・2分の1課税)も社会保険料の非課税も失われます。
計算は3ステップ(実数で通します)
退職金の税額は、次の3段階で決まります。勤続30年・退職金2,000万円の人を例に、最後まで実数で通します。
① 退職所得控除額を計算する
まず、退職金からごっそり差し引ける枠を計算します。これが退職所得控除額です。
| 勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × A(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (A − 20年) |
勤続30年なら 800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円 です。
・勤続10年2か月 → 11年として計算 → 控除額 40万円 × 11年 = 440万円
・勤続20年と1日 → 21年 → 控除額 800万円 + 70万円 × 1年 = 870万円(20年ちょうどなら800万円。1日で70万円ちがう)
退職日を月末にするか月初にするかで、控除額が40万円〜70万円動くことがあります。
障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、この控除額に100万円が加算されます。勤続30年で障害退職なら、1,500万円+100万円=1,600万円です。
② 課税退職所得金額を計算する(ここで2分の1になる)
退職金から控除額を引き、さらに2分の1にします。これが課税の対象になる金額です。
課税退職所得金額 =(退職金 − 退職所得控除額)× 1 / 2
(2,000万円 − 1,500万円)× 1/2 = 250万円。2,000万円もらったのに、税金の計算に乗るのは250万円だけです。
1,000円未満の端数は切り捨てます。
③ 所得税と住民税を計算する(分離課税)
退職所得は他の所得と分離して税額を計算します。給与や事業所得と合算しないので、その年に高い給与があっても税率が跳ね上がりません。
所得税は、下の速算表に課税退職所得金額を当てはめます(令和8年分)。
| 課税退職所得金額(A) | 所得税率(B) | 控除額(C) |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万円超 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
税額=(A × B − C)× 102.1%(この2.1%が復興特別所得税。令和19年12月31日まで課されます)。1円未満は切り捨て。
住民税は、同じ課税退職所得金額に一律10%(市町村民税6% + 道府県民税4%)です。給与の住民税と違って翌年に請求されるのではなく、退職金の支払時にその場で特別徴収されます。
課税退職所得金額 250万円で計算すると:
- 所得税+復興税=(250万円 × 10% − 97,500円)× 102.1% = 152,500円 × 102.1% = 155,702円
- 住民税= 市町村民税 250万円 × 6% = 150,000円 / 道府県民税 250万円 × 4% = 100,000円 → 250,000円
- 合計 405,702円。手取りは 2,000万円 − 405,702円 = 19,594,298円
最重要:「退職所得の受給に関する申告書」を出したか、出さないか
ここが、この記事でいちばん大事なところです。たった1枚の紙で、天引き額が数百万円変わります。
これまで説明した「退職所得控除」も「2分の1課税」も、勤務先が勤続年数を知っていて初めて適用できます。その勤続年数を勤務先に申告する紙が「退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)」です。
| 申告書を出した | 出さなかった | |
|---|---|---|
| 退職所得控除 | 使える | 使えない |
| 2分の1課税 | 使える | 使えない |
| 源泉徴収される所得税 | 退職所得の金額に応じた正しい税額 | 支給額 × 一律 20.42% |
| 確定申告 | 原則不要 | 自分で確定申告して精算(放置すると戻らない) |
同じ勤続30年・退職金2,000万円で比べます。
・提出期限は退職手当等の支払を受ける日の前日まで。支払後に出しても源泉徴収はやり直されません
・2か所以上から退職金を受け取る人は、それぞれの支払者に出します(先に受けた退職金の額も記載します)
・図の住民税は、申告書の有無にかかわらず、支払者が退職所得控除と2分の1を適用して計算した額を特別徴収します(総務省の示す計算の流れ)。20.42%は所得税および復興特別所得税の税率です
勤続5年以下は要注意(短期退職手当等・特定役員退職手当等)
「退職金は必ず2分の1になる」と思っていると足元をすくわれます。勤続5年以下だと、2分の1課税が制限されます。
| 区分 | だれが対象か | 2分の1課税 |
|---|---|---|
| 一般退職手当等 | 下の2つ以外(通常はこれ) | 全額に適用 |
| 短期退職手当等 | 役員等以外で、勤続年数5年以下 | (退職金 − 控除額)のうち300万円までは適用。300万円を超える部分は適用なし |
| 特定役員退職手当等 | 役員等勤続年数5年以下の役員等(取締役・執行役・監査役、国会議員・地方議員、国家公務員・地方公務員など) | まったく適用なし |
「短期退職手当等」は令和4年分から導入された区分です(役員以外にも1/2制限を広げたもの)。「特定役員退職手当等」は平成25年分から。
実例:勤続4年・退職金600万円(役員ではない社員)
退職所得控除額は 40万円 × 4年 = 160万円。控除後は 600万円 − 160万円 = 440万円です。
このうち300万円までは2分の1、超えた140万円はそのまま課税対象になります。
課税退職所得金額 = 300万円 × 1/2 + 140万円 = 150万円 + 140万円 = 290万円
この例の税額を分解すると、次のとおりです。
- 所得税+復興税=(290万円 × 10% − 97,500円)× 102.1% = 196,542円
- 住民税= 290万円 × 10% = 290,000円
- 合計 486,542円(一般退職手当等なら 345,072円。差は 141,470円)
勤続4年なら控除額160万円なので、退職金460万円(=160万円+300万円)までは不利にならないということです。
役員は事情が違います。役員等勤続年数が5年以下だと、300万円の枠すらなく2分の1課税がまったく使えません。同じ勤続4年・600万円でも、役員なら課税退職所得は440万円まるごとになり、税額は902,002円(所得税+復興税 462,002円+住民税 440,000円)に跳ね上がります。
iDeCo・企業型DCとの重複調整(9年ルール・19年ルール)
ここまで書いている無料記事はほとんどありませんが、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DCを一時金で受け取る人は、必ず読んでください。受け取る順番と年で税額が数十万円変わります。しかも令和8年(2026年)からルールが変わりました。
退職所得控除は「勤続年数」で決まります。ところが、iDeCoの加入期間と会社の勤続期間はふつう重なっています。両方でフルに控除を使えると二重取りになるため、法律(所得税法施行令第70条)は重複期間ぶんの控除額を差し引く調整を定めています。
問題は、「どこまで過去にさかのぼって調整するか」。ここが受け取る順番で3通りに分かれます。
| 受け取る順番 | さかのぼる期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 退職金 → そのあと退職金 | 前年以前 4年内 | 所得税法施行令70条1項2号イ |
| DC一時金(iDeCo・企業型DC)→ そのあと退職金 | 前年以前 9年内 (令和8年1月1日以後に受け取ったDC一時金。それ以前に受け取ったものは従来どおり4年内) | 同 ロ |
| 退職金 → そのあとDC一時金 | 前年以前 19年内 | 同 ハ |
従来「iDeCoは退職金の5年前までに受け取れば調整されない(5年ルール)」と言われていたのは、この4年内が根拠でした。令和8年1月1日以後に受け取るDC一時金からは、これが9年内(=いわゆる10年ルール)に広がりました。60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職——という定番の組み合わせは、これからは調整の対象になります。
実例:60歳でiDeCo一時金、65歳で退職金
iDeCo加入20年(40〜60歳)、60歳で一時金1,000万円を受給。65歳で退職、勤続40年、退職金2,000万円。
| 調整あり(前年以前9年内にiDeCo) | 調整なし(10年以上あけた場合) | |
|---|---|---|
| 退職所得控除額 | 2,200万円 − 800万円 = 1,400万円 重複20年ぶん(40万円×20年=800万円)を差し引く | 2,200万円 800万円+70万円×20年 |
| 課税退職所得金額 | (2,000万 − 1,400万) × 1/2 = 300万円 | 控除額が退職金を上回る → 0円 |
| 所得税+復興税 | 206,752円 | 0円 |
| 住民税 | 300,000円 | 0円 |
| 天引き合計 | 506,752円 | 0円 |
同じ退職金2,000万円で、税金が506,752円か、ゼロか。受け取る年をずらすだけでこれだけ変わります。
小規模企業共済の共済金は同じ72条3項でも3号(独立行政法人中小企業基盤整備機構が支給する一時金)で、7号ではありません。したがって、小規模企業共済の共済金を受け取ったあとに退職金を受け取る場合は、原則どおり「前年以前4年内」で判定します(重複期間があれば調整されます)。
ネット上の記事は「iDeCoと小規模企業共済」をひとまとめに「5年ルール/10年ルール」と説明していることがありますが、条文はこの2つを区別しています。実際の判断は、必ず税務署・税理士にご確認ください。
※ 上の実例は、iDeCo一時金の額(1,000万円)がその加入期間に対応する退職所得控除額(40万円×20年=800万円)を上回るケースです。下回る場合は、施行令70条2項により「みなし勤続年数」で重複期間を短く見る特例があり、調整額が小さくなります。
そのほかの落とし穴
退職金は「分離課税」だが、確定申告が有利なこともある
申告書を出していれば確定申告は原則不要です。ただし、年の途中で退職して再就職せず、年末調整を受けていない場合は要注意。給与所得のほうで所得控除(基礎控除・社会保険料控除・生命保険料控除など)を使い切れていないことがあります。この使い残しは、確定申告をすれば退職所得から差し引けることがあります(源泉徴収された税額の一部が還付されます)。「退職金は分離課税だから申告しても意味がない」は誤りです。
同じ年に2か所から退職金をもらったとき
勤続年数は、それぞれの退職金について計算した期間のうちいちばん長い期間で計算し、重複しない期間があれば加算します。控除額を2回フルに使えるわけではありません。それぞれの支払者に申告書を出し、先に受けた退職金の額を記載します。
「退職金」と名がついても退職所得でないものがある
逆に、退職所得になるものもあります。労働基準法20条の解雇予告手当、賃金の支払の確保等に関する法律7条による未払賃金の立替払は、いずれも退職所得です(給与所得ではありません)。一方、退職後に支給される賞与や、在職中の功労に対する臨時給与は、支給の実態によって給与所得になることがあります。
復興特別所得税は令和19年まで
2.1%(税額に102.1%を掛ける)の復興特別所得税は、平成25年1月1日から令和19年12月31日までに支払を受ける退職手当等にかかります。ネット上の古い計算例には、これが抜けているものがあります。
よくある質問
Q. 退職金から社会保険料は引かれますか?
A. 引かれません。健康保険・厚生年金の保険料がかかるのは「報酬」と「賞与」だけで、日本年金機構の事務取扱事例集は退職手当を「労働の対償として受けるものでないもの」として報酬等に該当しないと明示しています(雇用保険料もかかりません)。ただし、毎月の給与や賞与に上乗せして前払いする「退職金前払い制度」は報酬等に該当し、社会保険料の対象になります。
Q. 勤続年数の1年未満の端数はどうしますか?
A. 1年に切り上げます(切り捨てではありません)。勤続10年2か月なら11年として計算し、退職所得控除額は40万円×11年=440万円です。勤続20年と1日なら21年になり、控除額は800万円+70万円×1年=870万円。1日の差で控除額が70万円変わることがあります。
Q. 「退職所得の受給に関する申告書」はどこに出すのですか?
A. 税務署ではなく、勤務先(退職金の支払者)に出します。支払者が保管し、原則として税務署には提出しません。提出期限は退職金の支払を受ける日の前日までです。多くの会社は退職手続きの書類一式に入れていますが、入っていなければ自分から確認してください。
Q. 申告書を出し忘れて20.42%引かれました。取り戻せますか?
A. 取り戻せます。翌年に自分で確定申告をして退職所得を申告すれば、20.42%で源泉徴収された税額と、退職所得控除・2分の1課税を適用した正しい税額との差額が還付されます。ただし放っておいても戻ってきません。勤続30年・退職金2,000万円なら、還付されるのは 4,084,000円 − 155,702円 = 3,928,298円 です。
Q. 退職金の住民税はいつ払うのですか?
A. 退職金の支払時に、その場で天引き(特別徴収)されます。翌年に請求されるわけではありません。給与や事業所得の住民税は前年の所得に対して翌年6月から課税されますが、退職所得の住民税だけは分離課税で、支払時に完結します。税率は一律10%(市町村民税6%+道府県民税4%)で、平成25年1月1日以後は税額の10%控除もありません。
Q. 役員退職金でも2分の1課税は使えますか?
A. 役員等勤続年数が5年を超えていれば使えます。5年以下の場合は「特定役員退職手当等」となり、2分の1課税がまったく適用されません(短期退職手当等のような300万円の枠もありません)。ここでいう「役員等」には、法人の取締役・執行役・監査役などのほか、国会議員・地方議会議員、国家公務員・地方公務員も含まれます。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」[令和7年4月1日現在法令等] — 退職所得控除額の計算表、1年未満の切上げ、2分の1課税、障害退職の100万円加算、短期退職手当等・特定役員退職手当等、20.42%
- 国税庁 タックスアンサー No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」/別紙「退職所得の源泉徴収税額の速算表」
- 国税庁「令和8年分 源泉徴収税額表」 — 退職所得の源泉徴収税額の速算表(令和8年分)で税率・控除額を照合
- 総務省「平成25年1月1日以降の退職所得に対する住民税の特別徴収について」 — 住民税額計算の流れ、税額の10%控除の廃止
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」第69条・第70条(退職所得控除額の計算の特例)・第72条第3項(退職手当等とみなす一時金) — 前年以前4年内/9年内/19年内の判定、確定拠出年金一時金は72条3項7号、小規模企業共済の共済金は同3号
- 日本年金機構「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」問1 — 退職手当は報酬等に該当しない/前払いの場合は該当する
- 所得税法30条・31条、復興財確法28条
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。