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消費税の簡易課税制度とは|みなし仕入率・届出期限・本則とどっちが得か

簡易課税を3行で
  • 簡易課税は、実際の仕入れを1円も集計せず、売上だけで消費税額を決める制度です。
  • 納める税額は 売上にかかった消費税 ×(1 − みなし仕入率)。みなし仕入率は業種で決まります(第1種 卸売業 90% 〜 第6種 不動産業 40%)。
  • 使えるのは前々年(前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の事業者。事前の届出が必要です(原則、適用したい課税期間の初日の前日まで)。

簡易課税は昔からある制度ですが、いま検索されている理由は明確に別のところにあります。2割特例が、令和8年9月30日を含む課税期間で終わるからです。個人事業者なら令和8年分(2026年分)が最後、12月決算法人なら令和8年12月期が最後です。

そのあとに用意されている3割特例は「個人事業者のみ」法人は令和9年から、本則課税か簡易課税かの2択になります。つまり多くの小規模事業者にとって、簡易課税は「2割特例の次にどうするか」という問題そのものです。この記事は、その受け皿として書きます。

先に答えを言うと、損益分岐点は「経費率 = みなし仕入率」です。課税仕入れ(税込)が課税売上(税込)に占める割合が、自分の業種のみなし仕入率を下回るなら簡易課税が有利上回るなら本則課税が有利。この1行に、以下すべてが要約されています。

簡易課税とは(売上だけで納税額が決まる)

消費税の原則(本則課税。一般課税・原則課税とも呼びます)は、こうです。

納税額 = 売上にかかった消費税 − 仕入れ・経費で支払った消費税(実額)

この「実額」を出すために、仕入れ側のインボイスを1年分ぜんぶ集め、税率ごとに集計する必要があります。これが小規模事業者にとって重い。そこで用意されているのが簡易課税です。

納税額 = 売上にかかった消費税 ×(1 − みなし仕入率)

右辺に「仕入れ」が一切出てきません。これが簡易課税の本質です。仕入れがいくらだったかは関係なく、売上と業種だけで納税額が決まります。仕入れのインボイスを集める必要も、集計する必要もありません。

使える条件は3つ

条件内容
①売上規模基準期間(個人事業者は前々年、法人は原則として前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下であること
②届出消費税簡易課税制度選択届出書」を、原則として適用を受けたい課税期間の初日の前日までに提出していること
③その他令和6年10月1日以後に開始する課税期間から、その課税期間の初日において恒久的施設(PE)を持たない国外事業者は簡易課税を適用できません
落とし穴: 届出は「出しっぱなし」だと勝手に復活します 5,000万円の判定は毎年、その課税期間の基準期間で行います。届出書を出していても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える年はその年だけ本則課税になります(=その年はインボイスの保存・集計が必要です)。
そして届出書の効力そのものは残り続けます。売上が落ちて再び5,000万円以下になると、「選択不適用届出書」を出していない限り、自動的に簡易課税が復活します。「あの年は本則だったから、もう簡易は切れているはず」は誤りです。

みなし仕入率の全業種一覧(第1種〜第6種)

みなし仕入率は6段階です。納税額 = 売上税額 ×(1 − みなし仕入率) なので、右端の列がそのまま「売上税額の何%を納めるか」になります。

事業区分みなし
仕入率
主な業種納税額は
売上税額の
第1種90%卸売業(他から購入した商品を、性質・形状を変えずに他の事業者に販売する事業)10%
第2種80%小売業(性質・形状を変えずに販売する事業で第1種以外)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)20%
第3種70%農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業30%
第4種60%第1種・第2種・第3種・第5種・第6種以外。具体的には飲食店業など。第3種から除かれる「加工賃その他これに類する料金」を対価とする役務提供もここ40%
第5種50%運輸通信業、金融業・保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)50%
第6種40%不動産業60%

実数で見ます。売上1,100万円(税込・すべて10%)= 売上税額100万円の事業者が、同じ売上でも業種だけで納税額がこう変わります。

第1種
卸売業
第2種
小売業
第3種
製造業等
第4種
飲食店等
第5種
サービス業
第6種
不動産業
10万円20万円30万円40万円50万円60万円

※ 第1種(10万円)と第6種(60万円)で6倍の差。事業区分の判定は、簡易課税でもっとも金額に効くところです。

事業区分の落とし穴(間違えると納税額が数倍変わる)

簡易課税の事故は、ほぼここで起きます。判定は事業者単位ではなく、課税資産の譲渡等ごとに行います。「うちはサービス業だから全部第5種」ではありません。

いちばん怖いのはこれ: 区分しないと「一番低い率」が全部に適用されます 2種類以上の事業を営んでいるのに課税売上げを事業ごとに区分していない場合、その区分していない部分には、その事業のうち一番低いみなし仕入率が適用されます。
たとえば卸売(第1種 90%)と不動産賃貸(第6種 40%)をやっていて区分していないと、売上ぜんぶが40%で計算されます。卸売部分の納税額が6倍になります。売上帳を事業区分ごとに分けるだけの話なので、これは必ずやってください。

判定に迷う実例(国税庁の質疑応答事例より)

ネット上の解説でもっとも多い誤りが「店内飲食は第4種、テイクアウトは第3種」という単純化です。これは正確ではありません。国税庁の質疑応答事例は、飲食設備を持っているかどうかで分けています。

ケース事業区分ポイント
食堂・レストラン・すし店・喫茶店などでの店内飲食第4種飲食店業
飲食設備を持つ飲食店が行う出前・仕出し第4種持ち帰りでも第3種にはなりません。ここが最大の誤解
飲食設備を持たない宅配ピザ店・仕出専門店の宅配第3種製造業等として扱われます
ハンバーガーショップ等の持ち帰り用の販売第3種
または第2種
自店で製造した製品なら第3種、仕入れた商品なら第2種
喫茶店での持ち帰り用ケーキ・珈琲豆の仕入販売第2種兼業の実態があり、事業を区分している場合
自店でケーキを製造して店頭販売(製造小売)第3種同じ店の喫茶部門(店内飲食)は第4種。1店舗で2区分
クリーニング業・自動車修理業第5種「加工賃だから第4種」は誤り(下の callout 参照)
事業で使っていた固定資産(車両・機械など)の売却第4種本業が第1種でも、固定資産の譲渡は第4種
不動産賃貸業・貸家業・駐車場業・不動産管理業第6種住宅の貸付けは非課税
物品賃貸業(レンタル・リース)第5種「賃貸だから第6種」ではありません。第6種は不動産業だけ
代理商・仲立業(仲介手数料)第4種卸売業の分類でも、手数料収入は第4種
卸売業でも性質・形状を変更して販売(魚を焼く、荒茶を製品茶に、生サケをイクラに)第3種加工したら「卸売」ではなく「製造」
ホテルの「1泊2食付で2万円第5種食事代込みの料金なら全額第5種。ただし宿泊料と区分して領収する客室冷蔵庫の飲物は第4種、売店・自動販売機は第2種
踏み込んだ一段:「加工賃なら第4種」は、順番を間違えると逆になります 第4種になる「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」は、まず第3種(製造業等)に該当することが前提です。判定は2段階で行います。
ステップ1: 日本標準産業分類の大分類で、製造業等(第3種)に当たるか
ステップ2: 当たるなら、その売上は加工賃その他これに類する料金か? → YESなら第3種から除かれて第4種
建設業の一人親方が、元請から材料の支給を受けて加工賃だけを受け取るケースは、ステップ1(建設業=第3種)→ステップ2(加工賃)で第4種になります。
ところがクリーニング業・自動車修理業は、感覚的には「加工賃」でも、ステップ1で製造業等に当たりません(日本標準産業分類ではサービス業)。ステップ2に進まないので、第5種です。国税庁は質疑応答事例で明示的にこう回答しています。第4種(60%)と第5種(50%)では納税額が1.25倍違います。
2業種以上あるときの「75%ルール」(特例計算) 2種類以上の事業を営む事業者で、1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上を占める場合は、その事業のみなし仕入率を全体に適用できます。
3種類以上を営む事業者で、特定の2種類の合計が全体の75%以上を占める場合も、その2業種のうち率の高い方の事業にはその率を、それ以外にはその2種類のうち低い方の率を適用できます。
有利なほうを選べる規定なので、区分さえしてあれば使えます。区分していないと使えません。

本則・簡易・2割特例・3割特例を実数で比較

ここが記事の主役です。条件をそろえます。

前提
  • 課税売上 1,100万円(税込・すべて10%)売上税額 100万円
  • 経費 550万円(税込・全額が課税仕入れ)仕入税額 50万円
  • 業種はサービス業(第5種・みなし仕入率50%)
方式計算納める消費税
本則課税100万円 − 50万円50万円
簡易課税(第5種 50%)100万円 ×(1 − 50%)50万円
2割特例(令和8年で終了)100万円 × 20%20万円
3割特例(個人事業者のみ・令和9・10年分)100万円 × 30%30万円

この条件では2割特例が圧勝です。だからこそ多くの人が2割特例を使ってきました。そして、それが終わります。

経費率を変えると、どこで逆転するか

経費(課税仕入れ)だけを動かします。簡易課税・2割特例・3割特例は、経費がいくらでも納税額が変わりません(売上だけで決まるので)。動くのは本則課税だけです。

経費(税込)経費率本則課税簡易課税
(第5種)
3割特例2割特例
220万円20%80万円50万円30万円20万円
330万円30%70万円50万円30万円20万円
440万円40%60万円50万円30万円20万円
550万円50%50万円50万円30万円20万円
660万円60%40万円50万円30万円20万円
770万円70%30万円50万円30万円20万円
880万円80%20万円50万円30万円20万円
990万円90%10万円50万円30万円20万円

経費率50%(=みなし仕入率50%)で、本則と簡易がぴたりと一致します。これは偶然ではありません。本則の納税額は「売上税額 ×(1 − 経費率)」、簡易は「売上税額 ×(1 − みなし仕入率)」なので、経費率がみなし仕入率と等しくなる点で必ず交わります

覚えるのはこれだけ
  • 経費率 < みなし仕入率 → 簡易課税が有利
  • 経費率 > みなし仕入率 → 本則課税が有利
  • つまり経費(課税仕入れ)が少ない業種ほど、簡易課税が有利です。人件費(給与)や家賃(非課税)が経費の中心で、課税仕入れが少ない商売ほど効きます
売上1,100万円(税込)= 売上税額100万円 のときの納税額(サービス業=第5種) 納める消費税(万円) 100 80 60 40 20 0 本則課税(実額で計算) 簡易課税(第5種・みなし仕入率50%) 50万円 3割特例(個人事業者のみ) 30万円 2割特例(令和8年で終了) 20万円 経費率 50% 損益分岐点 = 経費率50% みなし仕入率(50%)と一致する点 簡易課税が有利(経費が少ない) 本則課税が有利(経費が多い) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 経費率 = 課税仕入れ(税込) ÷ 課税売上(税込) →
売上1,100万円(税込)のサービス業(第5種)で、経費率を横軸にとった納税額の比較。本則課税だけが右下がりで、簡易課税・2割特例・3割特例は経費がいくらでも一定(売上だけで決まるため)。本則と簡易の交点は経費率50%=みなし仕入率50%。本則と3割特例の交点は経費率70%、本則と2割特例の交点は経費率80%。

業種別: 簡易課税と「2割特例・3割特例」はどちらが安いか

簡易課税の納税額は売上税額 ×(1 − みなし仕入率)、2割特例は売上税額 × 20%、3割特例は売上税額 × 30%。ならば単純に比べられます(売上税額100万円のケース)。

事業区分簡易課税の納税額2割特例(20万円)と比べて3割特例(30万円)と比べて
第1種 卸売業(90%)10万円簡易課税が20万円 有利簡易課税が20万円 有利
第2種 小売業(80%)20万円2割特例と同額簡易課税が10万円 有利
第3種 製造業等(70%)30万円2割特例が10万円 有利3割特例と同額
第4種 飲食店等(60%)40万円2割特例が20万円 有利3割特例が10万円 有利
第5種 サービス業(50%)50万円2割特例が30万円 有利3割特例が20万円 有利
第6種 不動産業(40%)60万円2割特例が40万円 有利3割特例が30万円 有利
踏み込んだ一段: 卸売業は、2割特例を使っていた時点ですでに損をしている可能性があります 第1種(卸売業)のみなし仕入率は90%。納税額は売上税額の10%です。2割特例(20%)の半分
2割特例は「届出が要らない・申告書に付記するだけ」なので、とりあえず2割特例を選んだ人が非常に多い。しかし卸売業なら、簡易課税のほうが納税額は半分でした。第2種(小売業・飲食料品の農林水産業)でも2割特例と同額で、3割特例に切り替わる令和9年からは簡易課税のほうが有利になります。
国税庁自身も、3割特例のQ&Aで「卸売業や小売業、飲食料品の譲渡を行う農林水産業の方などは、簡易課税制度を適用した方が高いみなし仕入率が適用されますので、消費税の納付税額は少なくなると考えられます」と明記しています。「特例だから得」ではありません。

2割特例が終わったあと、何を選ぶか

令和8年度税制改正で、2割特例のあとの姿が確定しました。個人事業者と法人で、まったく違います。

令和8年(2026) 令和9年(2027) 令和10年(2028) 令和11年(2029)〜 個人 事業者 2割特例 令和8年分が最後 3割特例 or 簡易 or 本則 3割特例 or 簡易 or 本則 簡易 or 本則 3割特例は終了 法人 12月決算 2割特例 令和8年12月期が最後 簡易 or 本則 の2択 3割特例は使えない 簡易 or 本則 簡易 or 本則 法人は「崖」です。3割特例は個人事業者のみ。令和9年から本則か簡易課税の2択になります 12月決算法人が令和9年12月期から簡易課税にするなら、届出期限は 令和10年2月29日(=令和9年12月期の申告期限) 個人事業者が令和9年分から簡易課税にするなら、届出期限は 令和10年3月31日(=令和9年分の申告期限) 令和8年分に2割特例を使っていれば、届出期限の特例により「1年やってみてから」決められます
2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間で終了。個人事業者には令和9年分・令和10年分の3割特例が用意されましたが、法人には何もありません。12月決算法人は令和9年12月期から、本則課税か簡易課税かを選ぶことになります。

3割特例の要件(個人事業者のみ)

届出の期限(ここでミスすると1年損する)

簡易課税の実務は、ほぼ届出期限との戦いです。1日遅れると1年分まるごと本則課税になります。

原則: 適用したい課税期間の「初日の前日」まで

「消費税簡易課税制度選択届出書」を、納税地の所轄税務署長に提出します。

「その年が始まる前に決めろ」という制度なので、実績を見てから選ぶことができません。これが簡易課税の最大の使いにくさでした。ここが令和8年度税制改正で緩和されました。

特例(令和8年度税制改正): 2割特例・3割特例を使った人は「申告期限」まででよい

簡易課税制度への円滑な移行措置
  • 2割特例または3割特例の適用を受けた事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間に係る確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を提出したときは、その翌課税期間から簡易課税を適用できます
  • つまり「1年やってみてから、申告のときに決める」ことができます
  • ※ この見直しは、その翌課税期間が令和8年10月1日以後に終了する課税期間である場合に適用されます。
  • ※ 2割特例を受けた課税期間の翌課税期間が令和8年9月30日以前に終了する場合は、従来どおりその課税期間の末日までです。
  • ※ 確定申告書の提出期限の延長特例を受けている法人等は、延長された期限が届出期限になります。
あなた簡易課税にしたい課税期間原則の期限特例の期限(2割・3割特例を使っていた場合)
個人事業者令和9年分令和8年12月31日令和10年3月31日(令和9年分の申告期限)
個人事業者令和11年分令和10年12月31日令和12年4月1日(令和11年分の申告期限。3月31日が日曜のため翌営業日)
法人(12月決算)令和9年12月期令和8年12月31日令和10年2月29日(令和9年12月期の申告期限)
法人(3月決算)令和10年3月期令和9年3月31日令和10年5月31日(令和10年3月期の申告期限)

※ 表の日付は、国税庁「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」および「令和8年度税制改正特集」に掲げられた例と同じものです。

この特例には、見落とすと詰む条件があります 「申告のときに決められる」と言っても、本則課税を選ぶ可能性を残すなら、その1年間、仕入れのインボイスを全部保存しておかなければなりません。本則課税の仕入税額控除にはインボイスの保存が要件だからです。
「どうせ簡易課税にするから」と領収書を捨てていると、いざ試算して本則のほうが安いと分かっても、本則は選べません(保存がないので控除できない)。選択肢を残すコスト=1年分のインボイス保存だと理解してください。

2年間は本則に戻れません(設備投資の年は要注意)

簡易課税を選ぶと、事業を廃止した場合を除き、届出書の効力が生ずる課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出できません。実質2年間は本則課税に戻れません

実害: 簡易課税では、消費税の還付が絶対に受けられません 簡易課税の納税額は「売上税額 ×(1 − みなし仕入率)」。みなし仕入率は最大でも90%なので、納税額は必ずプラスです。構造上、還付という結果が出ません。
大きな設備投資をした年は、本則課税なら還付になることがあります。実数で見ます(売上1,100万円・経費550万円・サービス業に、設備1,100万円(税込)を追加購入した年):
本則課税 … 100万円 − 50万円 − 100万円 = △50万円 → 50万円の還付
簡易課税(第5種) … 100万円 × 50% = 50万円の納付
差は100万円。2年縛りがあるため、「来年 設備投資するから今年だけ本則に戻す」はできません。2年先の設備投資予定まで見てから選んでください。

やめるとき

「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を、やめたい課税期間の初日の前日までに提出します(上記の2年縛りをクリアしていることが前提)。
なお、災害その他やむを得ない事情で課税期間の開始前に届出書を提出できなかった場合には、届出期限の特例が適用できる場合があります(国税庁タックスアンサー No.6630/No.6632)。

メリット・デメリットを正直に

内容
メリット帳簿づけが劇的に楽になる。仕入れ・経費のインボイスを保存・集計する必要がなく、売上を事業区分ごとに集計するだけで納税額が出ます。期中でも納税額の見込みが立つので、資金繰りが読めるのも大きい
デメリット①還付が受けられない。設備投資や赤字の年でも、必ず納付になります
デメリット②事業区分を間違えるリスク。区分していないと一番低い率が全売上に適用されます。判定を誤れば追徴の対象です
デメリット③2年縛り。不利だと分かっても2年間は本則に戻れません
デメリット④基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた年は自動的に本則課税。その年だけは急にインボイスの保存・集計が必要になります(届出書の効力は残るため、翌々年に5,000万円以下へ戻れば簡易課税も自動復活)
よくある誤解:「簡易課税ならインボイスは一切いらない」は間違いです 正しくは「仕入税額控除のために、受け取ったインボイスを保存する必要がない」だけです。次の義務は残ります。
売り手として交付する義務: 自分がインボイス発行事業者なら、取引先から求められればインボイスを交付・写しを保存する義務があります
所得税・法人税: 必要経費・損金にするための領収書・請求書の保存は、消費税とは別に必要です
電子帳簿保存法: 電子取引データの保存義務も、消費税の課税方式とは無関係に課されます

今すぐやるべきこと

2割特例が終わる令和9年に向けて、いま試算しておくかどうかで、納税額が数十万円変わります。手順は4つです。

  1. 自分の事業区分を確かめる。複数の事業をやっているなら、売上帳が事業区分ごとに分かれているかを確認する(分かれていないと最低率が適用されます)
  2. 直近1年の「課税売上高(税込)」と「課税仕入れ(税込)」を集計し、経費率 = 課税仕入れ ÷ 課税売上 を出す。給与・社会保険料・家賃(住宅を除く非課税分)・保険料は課税仕入れに入りません。ここを含めて計算すると経費率を大きく見誤ります
  3. 経費率と、自分の業種のみなし仕入率を比べる。経費率がみなし仕入率より低ければ簡易課税、高ければ本則課税が有利です
  4. 期限を確認する。令和8年分に2割特例を使っている個人事業者なら、令和9年分から簡易課税にするかどうかは令和10年3月31日までに決めれば間に合います。ただし本則の選択肢を残すなら、令和9年中のインボイスは全部保存しておくこと
無料ツール:消費税・端数処理 計算機 税込・税抜の変換から、割戻し計算/積上げ計算による申告税額まで自動計算します。売上税額さえ出せば、売上税額 ×(1 − みなし仕入率)で簡易課税の納税額はすぐ出ます。まず「自分の売上税額はいくらか」をここで確かめてください。

よくある質問

Q. 簡易課税は誰でも使えますか?

A. いいえ。基準期間(個人事業者は前々年、法人は原則として前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下であることと、事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出していることの両方が必要です。また令和6年10月1日以後に開始する課税期間からは、その課税期間の初日において恒久的施設(PE)を持たない国外事業者は適用できません。

Q. 2つ以上の事業をやっている場合、みなし仕入率はどうなりますか?

A. 事業区分ごとに売上を分け、それぞれのみなし仕入率で計算するのが原則です。区分していない部分には、その区分していない事業のうち一番低いみなし仕入率が適用されます(卸売90%と不動産40%を区分していなければ、全部40%になります)。なお、1種類の事業が全体の課税売上高の75%以上を占める場合は、その事業のみなし仕入率を全体に適用できる特例計算もあります。

Q. 2割特例が終わったら、簡易課税と3割特例のどちらが得ですか?

A. みなし仕入率が70%を超える業種、つまり第1種(卸売業・90%)と第2種(小売業や飲食料品の農林水産業・80%)なら簡易課税が有利です(納税額は売上税額の10%・20%となり、3割特例の30%より少なくなります)。第3種(製造業等・70%)はちょうど同額、第4種〜第6種は3割特例のほうが有利です。ただし3割特例は個人事業者しか使えないため、法人には比較の余地がありません。

Q. 簡易課税の届出はいつまでに出せばいいですか?

A. 原則は適用を受けたい課税期間の初日の前日までです(個人事業者が令和9年分から使うなら令和8年12月31日まで)。ただし令和8年度税制改正で、2割特例・3割特例の適用を受けた事業者は、その翌課税期間に係る確定申告期限までに提出すれば、その翌課税期間から簡易課税を適用できることになりました。令和8年分に2割特例を使った個人事業者が令和9年分から簡易課税にする場合、期限は令和10年3月31日です。

Q. 簡易課税でも消費税の還付は受けられますか?

A. 受けられません。簡易課税の納税額は「売上税額 ×(1 − みなし仕入率)」で、みなし仕入率は最大でも90%のため、納税額は構造上かならずプラスになります。大きな設備投資をして本則課税なら還付になる年でも、簡易課税だと還付はゼロです。しかも一度選ぶと2年間は本則に戻れないため、2年先までの設備投資予定を見てから選んでください

Q. 簡易課税をやめたいときはどうしますか?

A. 「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を、やめたい課税期間の初日の前日までに提出します。ただし、簡易課税制度選択届出書の効力が生ずる課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出できないため、実質的に2年間は継続適用となります(事業を廃止した場合を除きます)。

Q. 簡易課税ならインボイスの保存は不要ですか?

A. 「受け取った」インボイスの保存は不要です(仕入税額控除に使わないため)。ただし、自分がインボイス発行事業者であれば売り手として交付する義務と写しの保存義務は残ります。また、所得税・法人税の必要経費や損金にするための領収書・請求書の保存、電子帳簿保存法にもとづく電子取引データの保存義務は、消費税の課税方式とは関係なく必要です。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。