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健康保険の任意継続は得か?上限32万円と国保との分かれ目

結論から言うと、任意継続の保険料は「在職中の2倍」になるとは限りません。会社負担がなくなるので全額自己負担になるのは事実ですが、保険料の計算に使う標準報酬月額には上限があり、令和8年度の協会けんぽでは32万円で頭打ちになります。

この上限のせいで、ちょうど2倍になるのは標準報酬月額が32万円以下の人だけです。給与が高い人ほど倍率は下がり、標準報酬月額が64万円を超えると、任意継続のほうが在職中の給与天引きより安くなります

そして、任意継続を選ぶかどうかの本当の分かれ目は保険料の絶対額ではありません。会社都合で辞めたかどうかです。倒産・解雇などで辞めた人は国民健康保険のほうに大きな軽減があり、任意継続より安くなることが珍しくありません。この記事では、健康保険法の条文と協会けんぽの公表資料で確かめた数字だけを使って、判断の順番を示します。

任意継続とは(加入できる人・20日の期限)

任意継続とは、会社を辞めたあとも、それまで入っていた健康保険(協会けんぽ・健保組合)に個人で入り続ける制度です。退職すると健康保険の資格は退職日の翌日に失われますが、申し出ることで最長2年間、同じ保険者の被保険者でいられます。

加入できるのは、健康保険法3条4項が定める次の要件を両方満たす人です。

要件内容根拠
被保険者期間資格喪失の日の前日まで継続して2か月以上被保険者だったこと健保法3条4項
申出の期限資格を喪失した日(=退職日の翌日)から20日以内に申し出ること健保法37条1項
「20日を過ぎたら絶対にダメ」ではない

健康保険法37条1項には、あまり知られていないただし書があります。「ただし、保険者は、正当な理由があると認めるときは、この期間を経過した後の申出であっても、受理することができる。」

つまり20日は絶対の失権期限ではなく、正当な理由(災害、天災による郵便の遅延など)があれば保険者の判断で受理される余地が条文上あります。ただし「うっかり忘れていた」は正当な理由になりません。原則は20日以内と考え、期限を過ぎてしまった場合だけ、諦める前に支部に相談してください。

なお、協会けんぽは20日目が土日祝の場合は翌営業日までとしています。郵送の場合は「20日以内に必着」なので、投函日ではなく到着日で判定される点に注意してください。

保険料はいくら? 上限32万円で頭打ちになる

任意継続の保険料は、全額が自己負担です。在職中は会社と折半していましたが、任意継続被保険者にはその折半相手がいません。

第百六十一条 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料額の二分の一を負担する。ただし、任意継続被保険者は、その全額を負担する。(健康保険法161条1項)

ただし、保険料の計算に使う標準報酬月額は、健康保険法47条により次の2つのうち少ない額と決められています。

① 退職時の標準報酬月額資格を喪失したときの標準報酬月額
② 平均額(=上限)前年9月30日時点の、その保険者の全被保険者の標準報酬月額の平均額

②が実質的な上限として働きます。協会けんぽの場合、令和7年9月30日時点の全被保険者の平均標準報酬月額は318,100円で、これは標準報酬月額表の第23級(32万円)に当たります。したがって令和8年度の任意継続の上限は32万円です。

「上限は30万円」と書いてある記事は古い

この上限は毎年度改定されます。令和3年度は30万円でしたが、令和8年度は32万円です(協会けんぽの公表による)。上限に当たっている人の保険料は、毎年4月に上限額が動くと一緒に動きます。「任意継続の保険料は2年間まったく同じ」ではありません。

令和8年度・東京都の保険料率(健康保険9.85%、介護保険1.62%、子ども・子育て支援金0.23%)で、上限に当たった場合の保険料は次のとおりです。

区分標準報酬月額月額保険料(全額自己負担)
40歳未満・65歳以上(介護保険料なし)320,000円32,256円
40歳以上65歳未満(介護保険料あり)320,000円37,440円

協会けんぽの令和8年度・東京都の保険料額表(第23級=320,000円)では、健康保険料の全額が31,520.0円、介護保険料を含めると36,704.0円、子ども・子育て支援金の全額が736.0円です。任意継続はこれらの全額を負担するので、31,520+736=32,256円、介護保険料がかかる年齢なら36,704+736=37,440円になります。

厚生年金は含まれない

任意継続で続けられるのは健康保険だけです。厚生年金は退職時に資格を失うので、別途国民年金(第1号被保険者)に加入して保険料を納めることになります(配偶者の扶養に入る場合を除く)。任意継続の保険料と在職中の給与天引きを比べるときは、健康保険部分だけで比べないと話が合いません。この記事の比較もすべて健康保険部分だけの比較です。

「2倍になる」が成り立たない人(逆転点は標準報酬月額64万円)

上限があるということは、上限に当たる人ほど「2倍」から遠ざかるということです。東京都・40歳未満の例で見てみます。

退職時の標準報酬月額在職中の自己負担(折半)任意継続(全額)倍率
300,000円(上限以下)15,120円30,240円2.00倍
440,000円22,176円32,256円(上限)1.45倍
650,000円32,759円32,256円(上限)0.98倍(在職中より安い)

なぜこうなるのかは、式にすると一瞬で分かります。在職中の自己負担は「標準報酬月額 × 料率 ÷ 2」、任意継続は「32万円 × 料率」です。これが等しくなるのは、

標準報酬月額 × 料率 ÷ 2 = 320,000円 × 料率標準報酬月額 = 640,000円

両辺の料率が約分されて消えるので、逆転点は料率にも年齢にも都道府県にもよらず、つねに「上限額の2倍」になります。令和8年度なら標準報酬月額64万円です。

0 32万円 64万円 退職時の標準報酬月額 → 保険料 在職中の自己負担(折半) 任意継続(全額・上限32万円で頭打ち) 逆転点 ここは ちょうど2倍 ここから右は 任意継続のほうが安い
任意継続の保険料は32万円で水平になる(上限)。在職中の自己負担は折半なので傾きが半分の直線。2本が交わるのは上限額の2倍=標準報酬月額64万円で、この点は料率によらない。なお標準報酬月額表に「64万円」という等級はなく、62万円の次は65万円なので、実際に逆転するのは標準報酬月額65万円(第35級)からになる。

標準報酬月額の等級表には64万円という等級がないため(62万円の次が65万円)、実際に逆転するのは標準報酬月額65万円からです。役員や高給の社員が退職する場合、任意継続の保険料は「在職中と同じか、むしろ安い」ことになります。

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国民健康保険とどちらが安いか ― 会社都合退職なら国保が軽減される

退職後の選択肢は、任意継続・国民健康保険・家族の被扶養者の3つです。任意継続と国保のどちらが安いかは、次の2点で決まります

① 扶養家族がいるかどうか

任意継続には被扶養者の制度があります。配偶者や子を扶養に入れても、保険料は1円も増えません。一方、国民健康保険に「扶養」はなく、世帯の加入者1人ひとりに均等割がかかります。

つまり扶養家族が多いほど任意継続が有利になります。単身なら国保、配偶者と子2人を養っているなら任意継続、という方向に傾きます。

② 会社都合で辞めたかどうか(ここが最大の分かれ目)

ここが多くの記事に書かれていない点です。倒産・解雇などで辞めた人は、国民健康保険の保険料が大きく軽減されます。

特例対象被保険者等の総所得金額に……給与所得が含まれている場合においては、当該給与所得については、……計算した金額の百分の三十に相当する金額によるものとする。(国民健康保険法施行令29条の7の2第1項)

国保の保険料は前年の所得で計算しますが、この特例に当てはまる人は前年の給与所得を「30%」とみなして計算されます。所得割の部分が3分の1以下になるということです。

対象になるのは、同条2項が定める次の人です(雇用保険の受給資格があることが前提)。

対象者典型例根拠
特定受給資格者倒産、事業の縮小・廃止、解雇による離職雇用保険法23条2項
特定理由離職者有期契約の期間満了で、更新を希望したのに更新されなかったなど、やむを得ない理由による離職雇用保険法13条3項

軽減が続く期間も条文が定めています。離職の日の翌日が属する年度の、その翌年度の末日までです。2026年7月に離職したなら、令和8年度と令和9年度の保険料、つまり2028年3月31日までが軽減の対象になります。任意継続の上限(2年)とほぼ同じ長さです。

「退職1年目は前年所得が高いから国保は高い。だから任意継続」は、自己都合退職の話

この定番のアドバイスは、会社都合退職の人にはそのまま当てはまりません。前年の給与所得が30%とみなされるので、「前年所得が高いから国保が高い」という前提そのものが崩れます。会社都合・契約期間満了で辞めた人は、任意継続を申し込む前に、必ず市区町村で国保の保険料を試算してもらってください。20日の期限があるので、退職したらすぐに動く必要があります。

退職する(20日以内に判断) 会社都合・解雇・契約期間満了で辞めた? (離職票の離職理由で決まる) はい 国保が軽減される (給与所得を30%と みなして計算) まず市区町村で 国保を試算 いいえ 扶養家族がいる? 任意継続は何人でも 保険料が増えない 扶養が多いほど 任意継続が有利 どちらの道でも、国保の額は 市区町村ごとに違う。 必ず窓口で試算してもらう
判定の順番。最初に見るのは保険料の額ではなく、離職票の離職理由。会社都合・特定理由離職なら国保に大きな軽減が入るので、国保を先に試算する。国保の保険料率は市区町村ごとに違うため、全国共通の「どちらが得」という答えは存在しない。

この記事で任意継続の保険料だけを実額で示し、国保の額を示していないのは、国保の保険料率が市区町村ごとに違うからです。「一般的に国保はいくら」という数字はありません。お住まいの市区町村の窓口か、自治体サイトの試算ページで必ず確かめてください。

「2年縛り」は2022年に終わっている

「任意継続は一度入ると2年間やめられない」という説明を今でもよく見かけますが、これは2021年までの話です。2022年1月1日施行の改正で、健康保険法38条に7号が加わりました。

第三十八条 任意継続被保険者は、次の各号のいずれかに該当するに至った日の翌日……から、その資格を喪失する。
一 任意継続被保険者となった日から起算して二年を経過したとき。
(中略)
七 任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を、厚生労働省令で定めるところにより、保険者に申し出た場合において、その申出が受理された日の属する月の末日が到来したとき。

つまりいつでも申し出て抜けられます。この改正には実務上の大きな意味があります。

1年目は任意継続、2年目は国保 ― という乗り換えが正面からできるようになった

任意継続の標準報酬月額は退職時のもので固定されます(健保法47条1項1号)。収入がゼロになっても下がりません。一方、国保は毎年度、前年の所得で計算し直します

2026年7月に退職した人なら、令和8年度(2026年4月〜2027年3月)の国保料は2025年の所得(=フルの給与)で計算されるので高くなります。しかし令和9年度(2027年4月〜)の国保料は2026年の所得(=1〜6月分の給与だけ)で計算されるので、大きく下がります。

だから1年目は任意継続、年度が替わる4月に国保へ乗り換えるのが理にかなった動きになります。2021年までは、これをやるには「わざと保険料を払わずに資格喪失させる」(38条3号)という抜け道しかありませんでした。7号の新設で、正面から申し出て抜けられるようになったのです。

ただし、脱退のタイミングには注意が必要です。7号の資格喪失日は「申出が受理された日の属する月の末日が到来したとき」の翌日翌月1日です。そして健康保険法156条3項により、資格を喪失した月の保険料は算定されません。月の初めに申し出ても月末に申し出ても、その月の保険料は1か月分まるまるかかります。急いで申し出ても、その月の保険料は安くなりません。

落とし穴 ― 初回の保険料を払い忘れると「最初からなかったこと」になる

任意継続でいちばん怖いのは、保険料の納付期限です。

第百六十四条 被保険者に関する毎月の保険料は、翌月末日までに、納付しなければならない。ただし、任意継続被保険者に関する保険料については、その月の十日(初めて納付すべき保険料については、保険者が指定する日)までとする。

在職中は「翌月末日」払いでしたが、任意継続はその月の10日です。実質的に前払いに変わります。しかも1日でも遅れると、次のことが起きます。

払い忘れたとき結果根拠
2回目以降の保険料納付期日までに納付しなかったときその日の翌日に資格を喪失する(そこまでの期間は有効)健保法38条3号
初回の保険料保険者が指定した日までに納付しなかったとき任意継続被保険者とならなかったものとみなす(=はじめから加入していなかったことになる)健保法37条2項
初回の未納だけは、遡って「なかったこと」になる

2回目以降の未納は「そこで資格を失う」ですが、初回の未納は「最初から任意継続被保険者ではなかった」という扱いです(健保法37条2項)。条文の書きぶりが違います。

これが怖いのは、その間に病院にかかっていた場合です。協会けんぽは「資格喪失日以降に使用(受診)した場合、医療費を全額返納することになります」としています。加入していなかったことになるのですから、窓口で3割しか払っていない分の残り7割を、あとから請求されることになります。

どちらの条文にも「納付の遅延について正当な理由があると保険者が認めたとき」という例外はありますが、期待しないでください。初回の納付書が届いたら、指定された日を最優先で守ることです。

払い忘れを構造的に防ぐ方法として、協会けんぽには前納制度があります。半年分・1年分をまとめて納めるもので、納め忘れが防げるうえに年4%(複利現価法)で割り引かれます。任意継続を選ぶなら、前納はほぼ一択と言っていい制度です。

納付した保険料の領収証書は、確定申告の社会保険料控除で使います。協会けんぽは領収証書を再発行しないので、必ず保管してください。任意継続の保険料は全額が社会保険料控除の対象になります。

社会保険料計算機で、退職前の標準報酬月額を確かめる →

よくある質問

Q. 任意継続の保険料は、在職中のちょうど2倍になりますか?

A. 標準報酬月額が32万円以下の人だけ、ちょうど2倍になります。会社との折半がなくなって全額自己負担になるためです。ただし任意継続の標準報酬月額には上限があり、令和8年度の協会けんぽでは32万円で頭打ちになります(健康保険法47条)。そのため退職時の標準報酬月額が32万円を超える人は2倍未満で済み、64万円を超えると在職中の自己負担より安くなります。東京都・40歳未満なら、上限に当たった場合の保険料は月32,256円、40歳以上65歳未満なら月37,440円です。

Q. 任意継続と国民健康保険は、どちらが安いですか?

A. 全国共通の答えはありません。国保の保険料率は市区町村ごとに違うため、必ず窓口で試算してもらう必要があります。ただし判断の順番は決まっています。第一に、倒産・解雇・契約期間満了などで辞めた人(雇用保険の特定受給資格者・特定理由離職者)は、国保の保険料が前年の給与所得を30%とみなして計算されるため大きく軽減されます(国民健康保険法施行令29条の7の2)。この場合は国保が安くなることが多いので、先に国保を試算してください。第二に、扶養家族が多い人は任意継続が有利です。任意継続は被扶養者が何人いても保険料が増えませんが、国保は加入者1人ずつに均等割がかかるためです。

Q. 任意継続は2年間やめられないのですか?

A. いいえ、2022年1月1日からいつでもやめられます。健康保険法38条7号が新設され、「任意継続被保険者でなくなることを希望する旨」を保険者に申し出れば資格を喪失できるようになりました。それ以前は、わざと保険料を納付せずに資格喪失させる方法しかありませんでした。なお資格喪失日は、申出が受理された日の属する月の末日の翌日、つまり翌月1日です。健康保険法156条3項により資格喪失した月の保険料は算定されないので、月の初めに申し出ても月末に申し出ても、その月の保険料は1か月分かかります。急いでも安くはなりません。

Q. 任意継続の保険料は、退職後に収入が下がったら安くなりますか?

A. 下がりません。任意継続の標準報酬月額は退職時のもので固定されるためです(健康保険法47条1項1号)。収入がゼロになっても保険料は変わりません。一方、国民健康保険は毎年度、前年の所得で計算し直すので、退職して収入がなくなれば翌年度から大きく下がります。だからこそ、1年目は任意継続、年度が替わる4月に国保へ乗り換える、という判断が成り立ちます。ただし上限額(令和8年度は32万円)は毎年度改定されるため、上限に当たっている人の保険料は4月に上限額が動けば一緒に動きます。

Q. 保険料を1回払い忘れたら、どうなりますか?

A. 初回かどうかで結果がまったく違います。2回目以降の保険料を納付期日までに納めなかった場合は、その日の翌日に資格を喪失します(健康保険法38条3号)。それまでの期間は有効です。しかし初回の保険料を保険者の指定した日までに納めなかった場合は、「任意継続被保険者とならなかったものとみなす」とされ、はじめから加入していなかったことになります(健康保険法37条2項)。その間に病院にかかっていれば、医療費を全額返納することになります。任意継続の納付期限はその月の10日で、在職中の「翌月末日」より前倒しになっている点にも注意してください。

Q. 退職して20日を過ぎてしまいました。もう任意継続はできませんか?

A. 原則としてできませんが、条文には例外があります。健康保険法37条1項のただし書は「保険者は、正当な理由があると認めるときは、この期間を経過した後の申出であっても、受理することができる」と定めています。災害や天災による郵便の遅延などが想定されており、「うっかり忘れていた」は正当な理由になりません。可能性は高くありませんが、諦める前に協会けんぽの支部に相談する価値はあります。なお協会けんぽは、20日目が土日祝の場合は翌営業日までとしています。郵送の場合は投函日ではなく到着日で判定されるため、20日以内に必着するよう送ってください。

出典

この記事は令和8年(2026年)7月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。任意継続の標準報酬月額の上限(令和8年度は32万円)と保険料率は毎年度改定されます。健康保険組合に加入していた場合は、規約により標準報酬月額の扱いが協会けんぽと異なることがあります(健康保険法47条2項)。国民健康保険の保険料率は市区町村ごとに違います。個別の取り扱いは、加入している健康保険組合・協会けんぽ支部、お住まいの市区町村、または社会保険労務士にご確認ください。