出産手当金はいくら?計算方法と、予定日より遅れると増える仕組み
結論から言うと、出産手当金の1日あたりの額は次の式で決まります。
1日あたりの額 = 支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30(10円未満四捨五入) × 2/3(1円未満四捨五入)
標準報酬月額が30万円の人なら 1日6,667円。産前42日+産後56日の 98日分で 653,366円 です。
ここまでは多くの解説サイトに書いてあります。この記事で伝えたいのは、その先の3つです。
- 出産が予定日より遅れると、遅れた日数がそのまま上乗せされる(早まると同じだけ減る)。月給30万円なら1日66,670円ではなく、10日遅れて +66,670円
- 傷病手当金にある「待期3日」が、出産手当金にはない。条文の「準用」の範囲が違うため
- 任意継続では受け取れない。ただしその根拠は102条ではなく、99条のかっこ書きが離れた場所から効いている
いくらもらえる?(計算方法と早見表)
健康保険法102条2項は、出産手当金の額について99条2項・3項を準用すると定めています。つまり計算式は傷病手当金とまったく同じです。
- 支給開始日以前の直近12か月の標準報酬月額を平均する
- それを30で割る(10円未満は四捨五入)
- さらに2/3を掛ける(1円未満は四捨五入)
②で10円単位に丸めてから③を掛けます。丸めずに一気に計算すると数円ずれます。協会けんぽが公表している計算例(支給開始日が令和8年2月15日、標準報酬月額が令和7年3月〜8月は16万円・令和7年9月〜令和8年2月は18万円のケース)で確かめられます。
平均額は(16万円×6+18万円×6)÷12=17万円。17万円÷30=5,666.67…→5,670円(10円未満四捨五入)。5,670円×2/3=3,780円(1円未満四捨五入)。これが1日あたりの額です。
標準報酬月額ごとの早見表です(産前42日+産後56日=98日を全部休んだ場合)。
| 標準報酬月額 | ÷30(10円未満四捨五入) | 1日あたりの額 | 98日分の総額 |
|---|---|---|---|
| 17万円 協会けんぽの計算例 | 5,670円 | 3,780円 | 370,440円 |
| 30万円 | 10,000円 | 6,667円 | 653,366円 |
| 32万円 加入12か月未満の上限 | 10,670円 | 7,113円 | 697,074円 |
| 139万円 健康保険の最高等級(第50級) | 46,330円 | 30,887円 | 3,026,926円 |
支給開始日の時点で標準報酬月額が定められている月が12か月に満たない場合は、①その期間の各月の標準報酬月額の平均と、②全被保険者の標準報酬月額の平均額(協会けんぽは32万円)の低いほうを使います(健康保険法99条2項ただし書)。
月給50万円で入社3か月目に産休に入った人は、①が50万円でも②の32万円が使われるので、1日7,113円(月額換算で約21万円)です。①で計算した10,000円ではありません。
※32万円は支給開始日が令和7年4月1日以降の場合の額です(協会けんぽ)。
産前42日・産後56日の数え方
健康保険法102条1項が支給期間を定めています。
健康保険法 第102条第1項被保険者が出産したときは、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金を支給する。
読み解くと、支給される期間は次のように決まります。
- 始まり=「出産の日以前42日」。「以前」なので出産日そのものが産前に含まれます(協会けんぽも「出産日は出産の日以前の期間に含まれます」と明記)
- 終わり=「出産の日後56日」。こちらは出産日の翌日から数えます
- 双子以上(多胎妊娠)は産前が98日。産後56日と合わせて154日(1日6,667円なら1,026,718円)
- 支給されるのは、その期間のうち実際に労務に服さなかった日だけ。休んでいない日は出ません
傷病手当金は、労務不能になった日から3日を経過した日(4日目)からしか支給されません(99条1項)。ところが102条2項が準用しているのは99条の2項と3項だけで、待期を定めた1項は準用されていません。
だから出産手当金は、産休に入った初日から支給対象になります。「最初の3日は自腹」という誤解に引きずられないでください。
予定日とずれると総額が変わる
ここが実務でいちばん誤解されるところです。102条1項のかっこ書き「出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日」の意味を、具体的に見ます。
産前の起算日は「出産日以前42日」ですが、出産が予定日より後になったときだけ「予定日」に読み替える——これがかっこ書きの働きです。その結果、次のようになります。
| ケース | 産前 | 産後 | 支給日数 | 総額(標準報酬30万円・1日6,667円) |
|---|---|---|---|---|
| 予定日どおりに出産 | 42日 | 56日 | 98日 | 653,366円 |
| 10日遅れて出産 | 52日 | 56日 | 108日 | 720,036円(+66,670円) |
| 10日早く出産 | 32日 | 56日 | 88日 | 586,696円(−66,670円) |
協会けんぽも「出産が予定日より遅れた場合、その遅れた期間についても出産手当金が支給されます」と明記しています。遅れた分は損ではなく、そのまま給付が増えます。
出産が予定日より早いときは、かっこ書きが働かないので起算日は実際の出産日です。産前の枠は「出産日以前42日」に戻ります。
予定日の42日前から産休に入っていた人が10日早く出産すると、休み始めた日は「出産日の52日前」。枠(42日)より前の10日間は、まだ産前期間に入っていないので支給されません。産後は出産日基準で56日なので変わらず、結果として総額は10日分少なくなります。
もらえない・減るケース
① 任意継続では受け取れない
会社を辞めて健康保険を任意継続した人は、出産手当金を受け取れません(後述する「資格喪失後の継続給付」に当たる場合を除く)。
ここが条文の面白いところです。102条1項を何度読んでも「任意継続被保険者を除く」とは書いてありません。根拠は離れた99条1項のかっこ書きにあります。
健康保険法 第99条第1項(傷病手当金)被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)が療養のため労務に服することができないときは……
「第百二条第一項において同じ」——この一文が、出産手当金の条文に出てくる「被保険者」の意味まで決めています。102条だけを読んでも、任意継続が除かれていることは分かりません。「条文に書いていないから大丈夫だろう」と考えると間違えます。
② 産休中に給与が出ると、その分だけ減る
健康保険法108条2項は、報酬(給与)を受けられる期間について出産手当金を支給しないと定めています。ただし報酬の額が出産手当金より少ないときは、その差額が支給されます。
- 会社から日額3,000円相当の給与が出る/出産手当金が日額6,667円 → 差額の3,667円が支給される
- 会社から日額7,000円相当の給与が出る → 出産手当金は0円(給与のほうが多いため)
「産休中も給与の一部が出るから安心」と思っていると、実際は出産手当金がその分減っているだけ、ということが起こります。
③ 傷病手当金とは同時に受け取れない
つわりや切迫早産で傷病手当金を受けていた人が産休に入ると、健康保険法103条により、出産手当金の期間中は傷病手当金が支給されません。ただし傷病手当金として算定される額のほうが多い場合は、その差額だけが傷病手当金として支給されます。
どちらも「支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均」で計算します。違うのは支給開始日です。傷病手当金の支給開始日と出産手当金の支給開始日がずれれば、平均する12か月の窓もずれるので、額が変わり得ます。
たとえば傷病手当金の支給が始まったあとに標準報酬月額が下がった人は、あとから始まる出産手当金のほうが低くなります。103条ただし書はこの差を埋めるための規定です。
退職しても受け取れる条件
健康保険法104条により、退職して被保険者資格を失っても、次の2つを両方満たせば、受け取れるはずだった期間について引き続き出産手当金を受け取れます。
- 資格喪失日の前日(=退職日)まで、引き続き1年以上被保険者だったこと(任意継続の期間は含めない)
- 資格を喪失した際に、出産手当金の支給を受けている(または受けられる状態にある)こと
②の要件は「退職日に、出産手当金を受けられる状態にある」ことです。出産手当金は「労務に服さなかった期間」に支給されるものなので、退職日に挨拶や引き継ぎで出勤すると、その日は「労務に服した」ことになり、要件を満たさなくなります。
協会けんぽも「退職日に出勤した場合は、資格喪失後の出産手当金を受けられません」と明記しています。数時間の挨拶と引き換えに、退職後の給付がまるごと消えます。退職日は必ず休んでください(傷病手当金でも同じ罠があります)。
なお、産休に入る前に退職した場合は、②の「資格喪失の際に支給を受けている」に当たらないため、出産手当金は受け取れません。一方、出産育児一時金のほうは、1年以上被保険者だった人が資格喪失後6か月以内に出産すれば受け取れます(106条)。両者は要件が違うので、混同しないでください。
育児休業給付金との違いと「産後57日目の崖」
出産手当金(健康保険)と育児休業給付金(雇用保険)は、制度も窓口も別です。期間が重ならないので、順番に受け取ることになります。
| 出産手当金 | 育児休業給付金 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 健康保険法102条 | 雇用保険法61条の7 |
| 保険 | 健康保険(協会けんぽ・健保組合) | 雇用保険(ハローワーク) |
| 期間 | 産前42日〜産後56日 | 産後57日目〜原則1歳まで |
| 額 | 標準報酬月額の平均÷30×2/3 | 賃金日額×67%(181日目から50%) |
| 上限 | 額そのものの上限はない (標準報酬月額の最高等級139万円が事実上の天井=1日30,887円) | 支給上限額がある (月額323,811円・令和8年7月31日まで) |
| 税金 | どちらも非課税(出産手当金は健康保険法62条、育児休業給付は雇用保険法61条の6が12条を準用) | |
| 任意継続 | 受け取れない | ― |
出産手当金には額の上限規定がありません。標準報酬月額の最高等級(第50級・139万円)まで、そのまま2/3が出ます=1日30,887円。
ところが育児休業給付金には支給上限額があり、月額323,811円(1日あたり約10,793円)で頭打ちです。
つまり、産休が終わって育休に入った瞬間、この人の給付は1日30,887円から約10,793円へ、3分の1近くまで落ちます。産休中の金額を基準に家計を組むと、産後57日目から崩れます。
手取りで見ると約8割が残る
「2/3しか出ない」と聞くと不安になりますが、手取りで比べると印象が変わります。産休中は、次の2つが効くからです。
- 社会保険料が免除される(健康保険法159条の3)。産前産後休業を開始した月から、終了日の翌日が属する月の前月まで、本人負担分も会社負担分も徴収されません(事業主が申出をしたとき。会社が手続きをしないと免除されないので、産休に入るときに必ず確認してください)
- 所得税がかからない(健康保険法62条「租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない」)。住民税も同様に非課税です
東京都・30歳・扶養なし・月給30万円(標準報酬月額30万円)で比べます。
| 通常の月 | 産休中(30日分) | |
|---|---|---|
| 額面・給付額 | 300,000円 | 200,010円(6,667円×30日) |
| 社会保険料(本人分) | −42,570円 | 0円(免除) |
| 所得税 | −6,430円 | 0円(非課税) |
| 手元に残る額 | 251,000円 | 200,010円 |
額面で比べると66.7%ですが、手取りで比べると79.7%です。約8割が維持される計算になります(住民税は前年の所得に対して課税されるため、産休中も納付が続く点には注意してください)。
社会保険料は令和8年度の東京都の料率(健康保険9.85%+子ども・子育て支援金0.23%+厚生年金18.3%、いずれも労使折半)で計算しています。所得税は令和8年分の源泉徴収税額表(月額表・甲欄・扶養0人)によります。
社会保険料計算機で、免除される保険料の額を確かめる →よくある質問
Q. 出産手当金と育児休業給付金は、両方もらえますか?
A. 両方受け取れます。期間が重ならないためです。出産手当金は産前42日から産後56日まで、育児休業給付金は産後57日目(産後休業が終わった翌日)から支給されます。ただし制度は別で、出産手当金は健康保険(協会けんぽ・健保組合)、育児休業給付金は雇用保険(ハローワーク)が窓口です。申請書も別々に出します。なお、育児休業給付金には月額323,811円という支給上限額がありますが、出産手当金には額の上限がないため、収入が高い人ほど産後57日目から受け取れる額が下がります。
Q. 産休中に会社から給与が出る場合はどうなりますか?
A. 給与の日額が出産手当金の日額より少ない場合は、その差額が支給されます(健康保険法108条2項)。たとえば出産手当金が1日6,667円で、会社から日額3,000円相当の給与が出るなら、差額の3,667円が支給されます。逆に給与のほうが多い場合、出産手当金は支給されません。「産休中も給与が一部出るからその分お得」ということにはならず、実際には出産手当金がその分減っているだけ、というケースが多いので注意してください。
Q. 退職しても出産手当金は受け取れますか?
A. 2つの要件を両方満たせば受け取れます(健康保険法104条)。①退職日まで引き続き1年以上健康保険の被保険者だったこと(任意継続の期間は含みません)、②退職日の時点で出産手当金を受けている、または受けられる状態にあることです。ここで注意が必要なのは、退職日に挨拶や引き継ぎで出勤すると「労務に服した」ことになり、②の要件を満たさなくなる点です。協会けんぽも「退職日に出勤した場合は、資格喪失後の出産手当金を受けられません」と明記しています。退職日は必ず休んでください。
Q. 任意継続に加入すれば、退職後も出産手当金をもらえますか?
A. 受け取れません。健康保険法99条1項のかっこ書きが「被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)」と定めており、この除外が出産手当金の条文(102条1項)にも及ぶためです。102条だけを読むと「被保険者が出産したときは」としか書かれていないため見落としやすいのですが、任意継続被保険者は対象外です。ただし、退職時に資格喪失後の継続給付(104条)の要件を満たしていれば、任意継続に入るかどうかとは関係なく、元の保険者から出産手当金を受け取れます。
Q. 出産が予定日より早まると、もらえる額は減りますか?
A. 減ります。産前期間の起算日は「出産の日以前42日」で、出産が予定日より後になったときだけ「予定日」に読み替えられます(健康保険法102条1項のかっこ書き)。したがって早く出産した場合の起算日は実際の出産日となり、それより前に休んでいた日は産前期間に入りません。予定日の42日前から休んでいた人が10日早く出産すると、支給日数は98日から88日に減ります。標準報酬月額30万円なら66,670円少なくなります。逆に10日遅れて出産した場合は108日となり、同じだけ増えます。
Q. パートやアルバイトでも出産手当金はもらえますか?
A. 健康保険の被保険者本人であれば、雇用形態にかかわらず受け取れます。判断の分かれ目は「自分が健康保険に加入しているか(給与から健康保険料が引かれているか)」です。夫の扶養に入っている被扶養者や、国民健康保険の加入者は対象外です(国民健康保険には出産手当金の規定がありません)。パート・アルバイトが健康保険に加入する条件は、週の所定労働時間・所定労働日数が正社員の4分の3以上であること、または従業員数などの要件を満たして週20時間以上働いていることです。
Q. 双子の場合、産前は何日になりますか?
A. 多胎妊娠の場合、産前は98日です(健康保険法102条1項のかっこ書き)。産後は単胎と同じ56日なので、合計154日が支給対象になります。標準報酬月額30万円(1日6,667円)なら1,026,718円です。産後休業の56日は単胎・多胎で変わりません。
Q. 出産手当金にも、傷病手当金のような「待期3日」はありますか?
A. ありません。待期を定めているのは健康保険法99条1項ですが、出産手当金の条文(102条2項)が準用しているのは99条の2項と3項だけで、1項は準用されていません。そのため産休に入った初日から支給対象になります。傷病手当金は労務不能になった日から3日を経過した日(4日目)以降しか支給されないので、この点は明確に違います。
出典
- e-Gov法令検索「健康保険法」(大正十一年法律第七十号)第99条(傷病手当金・任意継続被保険者の除外と「第百二条第一項において同じ」)・第102条(出産手当金)・第103条(出産手当金と傷病手当金との調整)・第104条(傷病手当金又は出産手当金の継続給付)・第106条(資格喪失後の出産育児一時金の給付)・第108条(傷病手当金又は出産手当金と報酬等との調整)・第62条(租税その他の公課の禁止)・第159条の3(産前産後休業期間中の保険料の徴収の特例)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「出産手当金」給付と手続き(給付範囲・支給額例・12か月未満の場合の平均額32万円・資格喪失後の支給・退職日に出勤した場合の取扱い)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「都道府県毎の保険料率」令和8年度(東京都 健康保険9.85%・子ども・子育て支援金0.23%・厚生年金18.3%)
- 国税庁「令和8年分 源泉徴収税額表」(月額表・甲欄)
この記事は令和8年(2026年)7月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。育児休業給付金の支給上限額(月額323,811円)は令和8年7月31日までの額で、毎年8月1日に改定されます。個別の取り扱いは、加入している健康保険組合・協会けんぽ支部、または社会保険労務士にご確認ください。