傷病手当金はいくら?計算方法と、退職日に出社すると消える落とし穴
結論から言うと、傷病手当金の1日あたりの額は「支給開始日以前の直近12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3」です。 月給30万円(標準報酬月額30万円)の人なら1日6,667円、30日休めば200,010円になります。 支給が始まるのは、連続して3日休んだ次の日(4日目)から。期間は通算して1年6か月です。
ここで多くの解説が触れないことが2つあります。ひとつは、計算に使うのは「標準報酬月額」だけで、賞与は1円も入らないこと。 賞与が年収の4分の1を占める人は、受け取る額が「月収の3分の2」ではなく実質は年収ベースで2分の1まで下がります。 もうひとつは、退職日に挨拶のためだけでも出社すると、退職後の傷病手当金が受けられなくなることです(健康保険法104条)。 1日の行動で、その後1年以上の給付が丸ごと消えます。
この記事では、金額の出し方を協会けんぽの公式計算例で検算しながら示したうえで、 「自分は大丈夫か」を確かめるべき境界(賞与・12か月未満・任意継続・退職日)を、条文の番号つきで整理します。
いくらもらえるか(計算式と実例)
健康保険法99条2項が、計算の手順と端数の処理まで定めています。式は3段階です。
| 手順 | やること | 端数処理(健保法99条2項) |
|---|---|---|
| ① | 支給開始日の属する月以前の直近12か月の標準報酬月額を平均する | — |
| ② | ①を 30で割る(=標準報酬日額) | 10円未満を四捨五入 (5円未満切捨・5円以上10円未満は10円に切上) |
| ③ | ②に 3分の2 を掛ける | 1円未満を四捨五入 (50銭未満切捨・50銭以上1円未満は1円に切上) |
協会けんぽが公表している計算例で確かめます。標準報酬月額の平均が17万円の場合、 ② 170,000 ÷ 30 = 5,666.67 → 5,670円(10円未満四捨五入)、 ③ 5,670 × 2/3 = 3,780円 → 1日3,780円。協会けんぽの公式資料と同じ金額になります。
月給30万円(標準報酬月額30万円・第22等級)の場合
② 300,000 ÷ 30 = 10,000円、③ 10,000 × 2/3 = 6,666.67 → 1日6,667円。 30日休むと 200,010円、60日なら400,020円です。
計算の起点は額面の給与ではなく標準報酬月額(等級表にあてはめた金額)である点に注意してください。 自分の標準報酬月額と等級は、給与明細の社会保険料から逆算できます。下のツールで確認できます。
社会保険料計算機で自分の標準報酬月額・等級を調べる →いつから・いつまで(待期3日と通算1年6か月)
最初の3日は出ない(待期)
健康保険法99条1項は「労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から」と定めています。 つまり連続する3日間(待期)を置いた4日目からが支給対象です。ここで間違えやすいのが待期の数え方で、協会けんぽは次のように明示しています。
- 待期には有給休暇・土日祝などの公休日も含まれる。給与の支払いがあったかどうかは関係ない
- 3日は連続していること。1日休んで出勤、また1日休む……という飛び飛びの3日では待期は完成しない
- 就労時間中に業務外の病気・ケガで働けなくなった場合は、その日が待期の初日になる
「有給を使うと待期が進まない」と考えて有給を温存する人がいますが、逆です。待期の3日は有給でも公休でも構いません。
期間は「通算」1年6か月
健康保険法99条4項は、支給期間を「その支給を始めた日から通算して一年六月間」と定めています。 2022年(令和4年)1月からこの「通算」になりました。それ以前は支給開始日から暦で1年6か月が流れていくため、 途中で復職した期間も期限を食いつぶしていました。いまは復職した期間はカウントされず、再び休んだときに残りを使えます。 がんの治療のように、就労と休職を繰り返すケースで効いてくる改正です。
金額でつまずく3つの落とし穴
① 賞与は1円も入らない(実質の補償率は3分の2より下がる)
条文(健保法99条2項)が計算の材料としているのは標準報酬月額だけで、賞与から決まる「標準賞与額」は登場しません。 つまりボーナスは傷病手当金の計算に1円も反映されません(保険料は賞与からも取られるのに、です)。
月給30万円・賞与が年間120万円(年収480万円)の人で見てみます。
| 金額 | |
|---|---|
| 年収(賞与込み) | 480万円 = 月平均 40万円 |
| 傷病手当金(30日分) | 6,667円 × 30 = 200,010円 |
| 実質の補償率 | 200,010 ÷ 400,000 = 約50.0%(「3分の2=約66.7%」ではない) |
賞与の比率が高い人ほど、この差は開きます。「3分の2出るから半年くらいは大丈夫」という生活設計は、 賞与込みの手取りを基準にしていると崩れます。
② 加入12か月未満なら「32万円」で頭打ち
支給開始日以前の被保険者期間が12か月に満たない場合、健保法99条2項ただし書により、次のいずれか低いほうを使います。
- 支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均
- 全被保険者の標準報酬月額の平均額(協会けんぽの場合、支給開始日が令和7年4月1日以降なら32万円。令和7年3月31日以前は30万円)
効き方が大きいのは、転職直後の高給者です。月給50万円(標準報酬月額50万円・第30等級)で入社3か月目に休職した場合を比べます。
| ケース | 1日あたり | 30日分 |
|---|---|---|
| 12か月以上加入(①のみで計算) | 11,113円 | 333,390円 |
| 加入3か月(①50万円 と ②32万円 の低いほう=32万円) | 7,113円 | 213,390円 |
| 差 | 1日 4,000円 | 月12万円 |
なお②は「前年度9月30日時点の全被保険者の平均」を基に定期的に見直される額です(健保法99条2項2号)。 上の32万円は協会けんぽが公表している現在の額で、健康保険組合の場合は組合の定めを確認してください。
③ 任意継続では出ない
健保法99条1項は、冒頭のかっこ書きで「被保険者(任意継続被保険者を除く。)」と書いています。 つまり任意継続被保険者には傷病手当金は支給されません。協会けんぽも「任意継続被保険者である期間中に発生した病気・ケガについては、傷病手当金は支給されません」と明示しています。
「退職後も任意継続に入っておけば傷病手当金が続く」というのは誤りです。退職後に受け取れるのは、 次の章の資格喪失後の継続給付(在職中から続いている支給)だけで、これは任意継続とは別の話です。
退職するとき(1日の差で全部消える)
健保法104条は、退職後も傷病手当金を受け続けられる条件を次のように定めています。
要件は2つです。(1) 退職日まで継続して1年以上の被保険者期間があること、 (2) 資格喪失日の前日=退職日に、傷病手当金を受けているか、受けられる状態にあること。
問題は(2)です。資格喪失日は退職日の翌日なので、その前日とは退職日そのものを指します。 そして「受けられる状態」とはその日に労務不能であることを意味します。したがって——
もうひとつ、退職後には「通算」が効きません。協会けんぽは継続給付について 「一旦仕事に就くことができる状態になった場合、その後更に仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されません」と明記しています。
| 在職中 | 退職後(継続給付) | |
|---|---|---|
| 支給期間 | 支給を始めた日から通算して1年6か月(健保法99条4項) | |
| 途中で復職したら | 残りを後で使える(復職期間は消費しない) | そこで打ち切り。二度と復活しない |
| 退職日に出社したら | — | そもそも受けられない(健保法104条) |
| 任意継続に入ったら | — | 任意継続を理由に受けられるわけではない(健保法99条1項かっこ書き) |
給与・年金をもらっているときの調整
傷病手当金は「働けないあいだの所得補償」なので、ほかから収入があるときは調整されます(健保法108条)。 いずれもゼロか全額かではなく、少ないときは差額が出るのが原則です。
| 受け取っているもの | 扱い | 条文 |
|---|---|---|
| 給与(報酬)の全部または一部 | その期間は不支給。ただし報酬が傷病手当金より少なければ差額を支給 | 108条1項 |
| 出産手当金 | 出産手当金が優先。傷病手当金のほうが多ければ差額を支給 | 103条1項 |
| 障害厚生年金(同じ傷病) | 不支給。ただし年金額(日額換算)が少なければ差額を支給 | 108条3項 |
| 老齢・退職を事由とする年金 | 退職後の継続給付を受けている人だけ調整(在職中は調整されない) | 108条5項 |
最後の行は見落とされがちです。108条5項は調整の対象者を「第百四条の規定により受けるべき者(=退職後の継続給付)であって、政令で定める要件に該当するものに限る」とかっこ書きで限定しています。 在職しながら老齢年金を受けている人は、この調整の対象ではありません。
自営業・フリーランス(国保)には原則ない
傷病手当金は健康保険(会社員などの被用者保険)の給付です。国民健康保険法58条2項は、傷病手当金について 「条例又は規約の定めるところにより、傷病手当金の支給その他の保険給付を行うことができる」としています。 「行うものとする」(=義務)ではなく「行うことができる」(=任意給付)である以上、 国保では原則として支給されません。出産育児一時金・葬祭費が同条1項で「行うものとする」と義務づけられているのと対照的です。
自営業・フリーランスが働けなくなったときの所得補償は、公的保険では埋まらない前提で、 就業不能保険などの民間の手当てを検討することになります。
- 1日あたり=直近12か月の標準報酬月額の平均 ÷30(10円未満四捨五入)× 2/3(1円未満四捨五入)(健保法99条2項)
- 月給30万円なら1日6,667円・30日で200,010円
- 賞与は1円も入らない。賞与120万円込みの年収480万円なら実質の補償率は約50%
- 加入12か月未満なら32万円で頭打ち(協会けんぽ・支給開始日が令和7年4月1日以降)
- 待期3日(有給・公休でも可)の後、4日目から。期間は通算1年6か月
- 任意継続では出ない(健保法99条1項かっこ書き)
- 退職日に出社すると、退職後の給付は受けられない(健保法104条)
よくある質問
Q. 傷病手当金の計算に、残業代や賞与は含まれますか?
A. 残業代は含まれます(間接的に)が、賞与は含まれません。計算に使うのは「標準報酬月額」で、これは残業手当や通勤手当を含む報酬をもとに決まる金額だからです。一方、賞与から決まる「標準賞与額」は健康保険法99条2項の計算式に登場しないため、ボーナスは1円も反映されません。保険料は賞与からも徴収されるのに給付には反映されないため、賞与の比率が高い人ほど、実質の補償率は3分の2(約66.7%)より低くなります。月給30万円・賞与年120万円の人なら、年収ベースでは約50%です。
Q. 有給休暇を使うと、傷病手当金はもらえなくなりますか?
A. 待期の3日間については、有給休暇でも公休日でも構いません。協会けんぽは「待期には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれるため、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません」と明示しています。ただし4日目以降に有給を取って給与が支払われる日は、健康保険法108条1項により傷病手当金は支給されません(受け取る給与が傷病手当金より少ない場合は、その差額が支給されます)。有給が十分に残っているなら、まず有給を使い、それを使い切ってから傷病手当金に移るという順序が一般的です。
Q. 退職後も傷病手当金を受け取れますか?
A. 2つの要件を満たせば受け取れます。(1) 退職日まで継続して1年以上の被保険者期間があること、(2) 資格喪失日の前日(=退職日)に傷病手当金を受けているか、受けられる状態(労務不能)であること、です(健康保険法104条)。注意すべきは(2)で、退職日に挨拶や引き継ぎのために出社すると、その日は労務に服したことになり労務不能ではなくなるため、退職後の傷病手当金を一切受け取れなくなります。休職中に退職日を迎える場合は、退職日には出社しないでください。
Q. 任意継続被保険者になれば、傷病手当金を受け続けられますか?
A. 受け続けられません。健康保険法99条1項は「被保険者(任意継続被保険者を除く。)」というかっこ書きで、任意継続被保険者を傷病手当金の対象から除外しています。協会けんぽも「任意継続被保険者である期間中に発生した病気・ケガについては、傷病手当金は支給されません」と明示しています。退職後に傷病手当金を受け取れるのは、あくまで健康保険法104条の「資格喪失後の継続給付」(在職中から続いている支給)に該当する場合だけで、任意継続に加入したこと自体が受給の理由になるわけではありません。
Q. 途中で復職したら、傷病手当金の1年6か月はどうなりますか?
A. 在職中であれば、復職していた期間は消費されません。健康保険法99条4項が支給期間を「支給を始めた日から通算して1年6か月」と定めており、2022年1月からこの通算方式になったためです。再び働けなくなったときに、残っている期間を使えます。ただし退職後の継続給付には、この通算が適用されません。協会けんぽは「一旦仕事に就くことができる状態になった場合、その後更に仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されません」としており、退職後は一度復活すると打ち切りになります。
Q. 入社してすぐに病気になった場合、傷病手当金はいくらになりますか?
A. 加入期間が12か月に満たない場合は、健康保険法99条2項ただし書により「直近の各月の標準報酬月額の平均」と「全被保険者の標準報酬月額の平均額」のいずれか低いほうを使って計算します。協会けんぽの場合、後者は支給開始日が令和7年4月1日以降なら32万円です(令和7年3月31日以前は30万円)。そのため、月給50万円で入社3か月目に休職した人は、32万円を基準に計算され1日7,113円となります。12か月以上加入していれば1日11,113円だったので、1日4,000円・30日で12万円の差が出ます。
Q. 自営業・フリーランスでも傷病手当金はもらえますか?
A. 国民健康保険では原則として支給されません。国民健康保険法58条2項は、傷病手当金について「条例又は規約の定めるところにより、傷病手当金の支給その他の保険給付を行うことができる」と定めており、これは市町村や組合の判断で実施できる「任意給付」だからです。同条1項の出産育児一時金・葬祭費が「行うものとする」と義務づけられているのとは扱いが異なります。働けなくなったときの所得補償は、就業不能保険などの民間の保険で備えることを検討してください。
出典
- e-Gov法令検索「健康保険法」(大正十一年法律第七十号)第99条(傷病手当金)・第103条(出産手当金との調整)・第104条(傷病手当金又は出産手当金の継続給付)・第108条(報酬等との調整)
- e-Gov法令検索「国民健康保険法」(昭和三十三年法律第百九十二号)第58条(任意給付)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金」給付と手続き(支給額の計算例・待期の考え方・12か月未満の場合の平均額・資格喪失後の継続給付)
この記事は令和8年(2026年)7月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。個別の取り扱いは、加入している健康保険組合・協会けんぽ支部、または社会保険労務士にご確認ください。