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立替金精算書の書き方 — 条文にこの名前は無い。効いているのは「明細書等」の記載内容

結論から言うと、立替金精算書は「2枚のうちの1枚」です。これ1枚では、受け取った側の仕入税額控除の証拠になりません。消費税法基本通達11-6-2が原則として求めているのは、立替払いをした事業者から「適格請求書の写し」の交付を受け、それと「明細書等」(実務でいう立替金精算書)を併せて保存することです。精算書だけを回している運用は、原則形からは外れています。

そして、「立替金精算書」という言葉は、条文にも通達にも一度も出てきません。実測すると、消費税法の本則にも同法施行令にも「立替」の2文字が0回、通達が使っているのは終始「明細書等」です。これは言葉遊びではなく実務に効きます——決まった様式は存在しないので、題名を「立替金精算書」にしても中身が足りなければ効かず、逆に題名が何であれ必要事項が書いてあれば足ります。要件は名前ではなく記載内容にあります。

実務で損が出るのは、この先の3か所です。①「写しが大量で交付が困難」なときだけ精算書1枚でよい——裏を返せば、数枚しかないなら原則どおり2枚要ります②その例外を使うには、相手が適格請求書発行事業者かどうかを各社が確認できる「措置」が別途必要です③税率ごとの合計額と消費税額等は「課税仕入れを行った事業者ごとに合理的に区分」しなければなりません——按分せずに総額のまま配ると、そこで崩れます。

なぜ2枚必要になるのか — 立替払いが起こす「宛名のズレ」

出発点は、仕入税額控除が「保存」を条件にしていることです。消費税法30条7項は、次のように書いています。

第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。

ここで問題が起きます。適格請求書の記載事項を定めた消費税法57条の4第1項は、第6号で「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」を挙げています。つまり適格請求書には宛名が入る。共同で借りた事務所の賃料を1社がまとめて払えば、賃貸人が出す適格請求書の宛名は払った1社になり、残りの各社は自分あての適格請求書を1枚も持っていない状態になります。自分の課税仕入れなのに、保存すべき書類が手元に来ない——これが「宛名のズレ」です。

この穴を埋めているのが通達11-6-2です。原則部分はこう定めています。

事業者が行う課税仕入れにつき、例えば、複数の事業者が一の事務所を借り受け、複数の事業者が支払うべき賃料を一の事業者が立替払を行った場合のように、当該課税仕入れに係る適格請求書(以下11-6-2において「立替払に係る適格請求書」という。)が当該一の事業者のみに交付され、当該一の事業者以外の各事業者が当該課税仕入れに係る適格請求書の交付を受けることができない場合には、当該一の事業者から立替払に係る適格請求書の写しの交付を受けるとともに、当該各事業者の課税仕入れに係る仕入税額控除に必要な事項が記載された明細書等(以下11-6-2において「明細書等」という。)の交付を受け、これらを併せて保存することにより、当該各事業者の課税仕入れに係る適格請求書の保存があるものとして取り扱う。

読みどころは「これらを併せて保存することにより」です。写しと明細書等は選択肢ではなく、そろって1組として扱われています。精算書だけでも写しだけでも、原則形は満たしません。

賃貸人 (登録事業者) 適格請求書 宛名はA社 A社 立替払い ① 適格請求書の写し A社が交付する ② 明細書等 =立替金精算書 B社は ① と ② を「併せて保存」して初めて、適格請求書を保存したものとして扱われる
通達11-6-2の原則形。①だけでも②だけでも要件を満たさない。

条文にも通達にも「立替金精算書」という名前は無い

実務では当たり前のように「立替金精算書」と呼びますが、この語は一次資料のどこにも出てきません。e-Gov法令API v2で条文全文を取得して数え、通達は国税庁の原文で数えた実測が次のとおりです。

資料「立替金」「精算書」実際に使われている語
消費税法(本則全体)0回0回—(「立替」の2文字自体が0回)
消費税法施行令(全体)0回0回—(同上)
消費税法基本通達 第11章(第1節・第2節・第6節)0回0回「明細書等」14回/「立替払」8回

数えた経路が生きていることは対照で確かめています。同じ検索を「請求書」で行うと、消費税法・施行令のどちらでも多数ヒットします。0回は「検索が空振りした」ではなく「本当に無い」です。

ここから、実務上の帰結が2つ出ます。

① 決まった様式は存在しない。「正式な立替金精算書のフォーマット」を探しても見つからないのは、探し方が悪いからではありません。通達が要求しているのは「仕入税額控除に必要な事項が記載された明細書等」という内容であって、様式ではないからです。請求書に一欄を設けても、Excelの一覧表でも、内容が満たされていれば足ります。
② 題名を「立替金精算書」にしても、中身が足りなければ効かない。逆向きも同じで、題名が「ご請求内訳」でも「共益費配賦表」でも、必要事項が書いてあれば明細書等です。名前で安心しない——これが実務でいちばん効く一段です。

なお、通達が「明細書」と含みを持たせているのは、1枚の紙に限らないという趣旨です。次の注2で見るとおり、確認のための情報を別の書面や基本契約書で担保する経路も認められています。

何を書くか — 「仕入税額控除に必要な事項」の中身

通達11-6-2は本文で「仕入税額控除に必要な事項」とだけ言い、その中身を注1で名指ししています。

当該明細書等に記載する法第57条の4第1項第4号及び第5号《適格請求書の交付義務》に掲げる事項については、課税仕入れを行った事業者ごとに合理的に区分する必要がある。

名指しされた第4号・第5号が何かを、条文で確かめます。消費税法57条の4第1項は適格請求書の記載事項を6号挙げており(枝番号は無く、条文の木構造から数えて6個)、そのうちの2つです。

記載事項明細書等での扱い
1号適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号注2の「確認できるための措置」で担保する
2号課税資産の譲渡等を行った年月日写しから分かる
3号資産又は役務の内容(軽減対象ならその旨)写しから分かる
4号税抜価額又は税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額及び適用税率事業者ごとに合理的に区分
5号消費税額等事業者ごとに合理的に区分
6号書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称宛名。ここがズレるのが出発点だった

なぜ4号・5号だけが名指しされているのか。この2つだけが金額と税額だからです。日付や内容は写しを見れば分かりますが、「そのうち何円があなたの分か」は、立替払いをした側が計算しなければ誰にも分かりません。総額のまま渡すと、受け取った側は自分の控除額を出せません。だから按分が要求されています。

そして1号(相手方の登録番号)は、別ルートで担保されています。注2がその方法を3つ挙げています。

当該各事業者の課税仕入れが適格請求書発行事業者から受けたものかどうかを当事者間で確認できるための措置としては、例えば、当該明細書等に当該各事業者の課税仕入れに係る相手方の氏名又は名称及び登録番号を記載する方法のほか、これらの事項について当該各事業者へ別途書面等により通知する方法又は立替払に関する基本契約書等で明らかにする方法がある。

3つ目の「立替払に関する基本契約書等で明らかにする方法」は、毎月の精算が定型的に続く共同オフィスや共同販促のような場面で効きます。毎回の精算書に登録番号を書き写す代わりに、基本契約書に一度書いておくという設計が、通達の文言のうえで認められています。

インボイス登録番号の確認ツール — 明細書等に書く登録番号が有効かを調べる

精算書1枚で足りるのは「写しが大量で困難」なときだけ

通達11-6-2には、原則のあとになお書きが続きます。ここが実務でいちばん誤解されている部分です。

なお、一の事業者が、多数の事業者の課税仕入れにつき一括して立替払を行ったことにより、当該一の事業者において立替払に係る適格請求書の写しの作成が大量となり、その写しを交付することが困難であることを理由に、当該一の事業者が立替払に係る適格請求書を保存し、かつ、当該一の事業者以外の各事業者の課税仕入れが適格請求書発行事業者から受けたものかどうかを当該各事業者が確認できるための措置を講じた上で、明細書等のみを交付した場合には、当該各事業者が交付を受けた当該明細書等を保存することにより、当該各事業者の課税仕入れに係る適格請求書の保存があるものとする。

条件を分解すると、4つそろって初めて例外が成立します。

原則(本文)例外(なお書き)
前提1社が立替払い多数の事業者につき一括して立替払い
理由写しの作成が大量となり交付が困難
立替払いをした側写しを交付する適格請求書の原本を保存する
追加の要件各社が登録事業者か確認できる措置を講じる
各社が保存するもの写し + 明細書等(2枚明細書等(1枚
多数の事業者につき一括立替で、写しの作成が大量かつ交付が困難か + 登録事業者かを確認できる措置を講じているか いいえ はい 原則 写し + 明細書等 の2枚を保存 例外 明細書等のみを保存 「枚数が少ないから写しは省く」は、どちらの枝にも無い
例外は「大量で困難」が理由になっている場合の話。件数が少ないときの省略ルールではない。
いちばん多い誤解。「精算書を作れば写しは要らない」という理解です。通達の文言上、それが認められるのは写しの作成が大量で交付が困難であることを理由とする場合に限られています。取引先2〜3社分を毎月精算しているだけの場面は、この理由に当たりません。原則にもどって、写しを付けるのが安全です。

従業員の経費精算は、この話ではない

「立替」という言葉が共通なので混同されますが、従業員が会社の経費を立て替えたときは、通達11-6-2の場面ではありません。理由は当事者が違うからです。

通達11-6-2の立替払い従業員の経費精算
課税仕入れをしたのは立替払いを受けた各事業者最初から会社
従業員・他社の立場別の事業者(別の納税義務者)会社の手足として買っている
宛名のズレ起きる(だから通達が要る)問題にならない
要るもの写し + 明細書等領収書(適格請求書)と社内の精算書類

社内で回している「経費精算書」は、社内の承認と支払いのための書類であって、通達11-6-2の明細書等ではありません。同じ「立替」でも、根拠が別のところにあります。

あわせて押さえておきたいのが、出張旅費等の特例です。通達11-6-4は、消費税法施行規則15条の4第2号の「その旅行に必要な支出に充てるために事業者がその使用人等又はその退職者等に対して支給する金品」について、①使用人等が勤務する場所を離れて職務を遂行するために行う旅行、②使用人等の転任に伴う転居のための旅行、③退職者等の就職・退職に伴う転居のための旅行を挙げたうえで、対象になるのは「その旅行について通常必要であると認められる部分」に係るものに限られると述べています。この特例に当たる場合は、法30条7項のかっこ書きが働き、帳簿の保存のみで控除が認められます。

「通常必要であると認められる部分」の範囲は、通達11-6-4の注が、所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)の例により判定すると定めています。金額の上限が数字で決められているわけではありません。

立替払いした側は、その分を自分の課税仕入れにしない

ここが帳簿側の要点です。立替払いをした分は、払った会社の課税仕入れではありません。課税仕入れをしたのは、あくまで負担する各社だからです。したがって立替払いをした側では、支払った金額を費用に落とさず、回収すべき債権として処理します。実務では立替金(または未収入金)の科目を使います。

場面立替払いをしたA社負担するB社
賃料11万円を支払った立替金/現預金(B社負担分)
A社の課税仕入れにしない
精算書を交付し回収した現預金/立替金地代家賃/現預金
B社の課税仕入れ

ここを取り違えると二重控除になります。A社が自分の課税仕入れとして全額を控除し、B社も精算書をもとに控除すれば、同じ取引で2回控除したことになります。立替金勘定を通すことは、消費税の側では「自分の仕入れではない」という表明でもあります。似た科目との使い分けは預り金と仮受金・前受金・立替金の違いに整理しています。

よくある落とし穴

落とし穴なぜ問題かどうするか
精算書だけを交付している原則は写しと2枚。例外の要件(大量・困難)に当たらない適格請求書の写しを添える
総額のまま配っている注1が4号・5号を事業者ごとに合理的に区分と要求税率ごとに按分し、各社の消費税額等を出す
相手方の登録番号がどこにも無い各社が登録事業者からの仕入れか確認できない精算書に書くか、別途通知か、基本契約書に書く
軽減税率の取引が混ざっている税率ごとの区分が崩れる8%と10%を分けて集計する
従業員の経費精算に11-6-2を当てている当事者が違い、そもそも場面が異なる領収書(適格請求書)を保存。出張旅費等は特例の可否を確認
「立替金精算書」という題名で安心している要件は名前ではなく記載内容4号・5号の区分と登録番号の担保を点検する

よくある質問

Q. 立替金精算書だけを保存していれば、仕入税額控除は受けられますか?

A. 原則としては受けられません。消費税法基本通達11-6-2は、立替払いをした事業者から適格請求書の写しの交付を受け、明細書等とあわせて保存することにより、適格請求書の保存があるものとして取り扱うと定めています。明細書等のみの保存で足りるのは、多数の事業者につき一括して立替払いを行ったために写しの作成が大量となり交付が困難である場合で、かつ各事業者が適格請求書発行事業者からの仕入れかどうかを確認できる措置が講じられている場合に限られます。

Q. 「立替金精算書」という決まった様式はありますか?

A. ありません。消費税法にも同法施行令にも「立替」の語は出てこず、通達が用いているのは「明細書等」です。したがって様式は定められておらず、請求書の一欄でも一覧表でも、必要な事項が記載されていれば足ります。逆に、題名を立替金精算書としても記載事項が欠けていれば要件を満たしません。一般に、様式ではなく記載内容で判断すると理解されています。

Q. 精算書には何を書けばよいですか?

A. 通達11-6-2の注1は、明細書等に記載する消費税法57条の4第1項第4号および第5号に掲げる事項について、課税仕入れを行った事業者ごとに合理的に区分する必要があるとしています。第4号は税抜価額または税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額および適用税率、第5号は消費税額等です。あわせて、相手方の氏名または名称と登録番号を確認できるようにしておく必要があります。

Q. 相手方の登録番号は、必ず精算書に書かなければいけませんか?

A. 精算書に書く方法のほかにも経路があります。通達11-6-2の注2は、確認できるための措置として、明細書等に相手方の氏名または名称および登録番号を記載する方法のほか、これらの事項を各事業者へ別途書面等により通知する方法、または立替払に関する基本契約書等で明らかにする方法を挙げています。毎月定型的に精算が続く場合は、基本契約書で担保する設計も考えられます。

Q. 従業員が立て替えた経費も、立替金精算書が必要ですか?

A. 通達11-6-2の場面とは異なります。従業員が会社の経費を立て替えた場合、課税仕入れを行っているのは最初から会社であり、別の事業者間で生じる宛名のズレの問題が起きないためです。一般に、受け取った適格請求書と社内の精算書類を保存して処理します。出張旅費、宿泊費、日当等については、その旅行について通常必要であると認められる部分に係るものに限り、帳簿の保存のみで控除が認められる特例があります。

Q. 立替払いをした側は、その支払いを自分の課税仕入れにできますか?

A. できません。課税仕入れを行っているのは費用を負担する各事業者であり、立て替えた側は回収すべき債権を持っているにすぎないためです。一般に、立替金や未収入金の科目で処理し、費用にも課税仕入れにも計上しません。ここで両方が控除すると、同じ取引について二重に控除することになります。

Q. 軽減税率の対象が混ざっている場合はどうしますか?

A. 税率ごとに分けて集計します。消費税法57条の4第1項第4号が、税抜価額または税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額および適用税率を記載事項としており、通達11-6-2の注1がこれを課税仕入れを行った事業者ごとに合理的に区分することを求めているためです。8%と10%が混在する立替払いでは、按分と税率区分の両方を行う必要があります。

出典

この記事は令和8年(2026年)8月時点の条文および通達に基づく一般的な情報提供であり、個別の取引についての税務相談ではありません。筆者は税理士・弁護士・行政書士ではありません。個別の立替払いが通達11-6-2の適用を受けるか、例外の要件を満たすかどうかの判断については、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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