預り金(預かり金)とは — 会社の金ではない。天引きした源泉所得税・住民税・社会保険料を納めるまでの負債
結論から言うと、預り金(預かり金)とは、他人のお金を一時的に預かっていて、いずれ本人に返すか、本人に代わって国や市区町村・年金事務所に納める義務を表す負債の勘定科目です。経理でよく出てくるのは、給与から天引きした源泉所得税・住民税(特別徴収)・健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料の従業員負担分で(源泉所得税は、納付する税額が生じない給与もあります)、これらは会社の収益でも費用でもなく、預かった瞬間から会社のものではありません。英語では deposits received などと表記されます。
給与から天引きする預り金が他の負債と違うのは、納める期限を法律が決めていることです。給与の源泉所得税は原則として「徴収の日の属する月の翌月十日」(所得税法183条1項、休日に当たれば休日明け、納期の特例の承認を受けていれば年2回)、住民税の特別徴収税額は原則として「徴収した月の翌月の十日」(地方税法321条の5第1項、市町村長の承認を受けて納期の特例を使っていれば年2回)、健康保険料・厚生年金保険料は「翌月末日」(健康保険法164条1項・厚生年金保険法83条1項)です。買掛金や未払金の支払日は取引先との契約で決まりますが、給与から天引きした税金・保険料の納付期限は条文に書いてあります。期末残高は、原則として納期限が未到来の額と照合します(年末調整の還付を翌月以降に繰り越している間は、その分だけ少なくなります)。源泉所得税の納期の特例では半年分をまとめて納付するため、残高が毎月納付の1か月分を超えても、直ちに納め忘れとはいえません。
一方で、「預り金」という語そのものは、法人税法・所得税法・消費税法の本則に一度も出てきません。名指ししているのは、財務諸表等規則47条5号・49条1項9号、会社計算規則75条2項1号ホ、そして法人税法施行規則の別表二十四「青色申告書の提出の承認を受けようとする法人の帳簿の記載事項」です。会社の金ではありません。天引きした税金・保険料を納める期限は法律が決めます。納期の特例・住民税の特別徴収・社会保険料をいつ引くか・勘定科目内訳明細書は、それぞれの記事が詳しく持っているのでリンクで譲ります。
条文の中の「預り金」 — 税法の本則に0回、名指しは財規・会社計算規則・法規の別表
まず、この科目がどこで決まっているかを条文で確かめます。法人税法・所得税法・消費税法の本則に「預り金」という語はありません。附則に出てくるのは「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」「旧郵便振替預り金寄附委託法」という他の法律の題名だけで、預り金という科目を定めた条文ではありません。税法は、預り金を「こういう科目だ」と定義していないのです。
名指ししているのは計算書類と帳簿の側です。上場会社などが従う財務諸表等規則は、47条(流動負債の範囲)で次の負債を流動負債に入れると書いています。
通常の取引に関連して発生する未払金又は預り金で一般の取引慣行として発生後短期間に支払われるもの
会社法に基づく会社計算規則75条2項1号ホも、一字一句同じ文で預り金を流動負債に置いています。ここで目を止めたいのは「一年内」ではなく「発生後短期間に支払われるもの」という言い方です。給与の源泉所得税は原則として支払った月の翌月10日まで(休日に当たれば休日明け、納期の特例の承認を受けていても年2回の期限まで)に納め、社会保険料も翌月末日が納付期限なので、1年基準を持ち出すまでもなく流動負債です。逆に、テナントから預かった敷金のように返すのが何年も先のものは、この文には当てはまらず、1年基準(財務諸表等規則47条6号・会社計算規則75条2項1号ヌ)で判定して固定負債に回ります。
財務諸表等規則49条1項は流動負債の表示区分を列挙しており、その9号が預り金です。
預り金。ただし、株主、役員又は従業員からの預り金を除く。
このただし書で除かれた「株主、役員又は従業員からの預り金」は、同項14号の「その他」に落ち、50条によって負債・純資産合計の5%を超えるときは独立の科目で掲記することになります。短期借入金の3号にも「株主、役員又は従業員からの短期借入金を除く」という同じ形のただし書があり、会社と関係者の間の資金のやり取りは一般の取引先との預り金や借入金と分けて見せる、という設計です。後述する社内預金(従業員から預かる貯蓄金)が典型です。
税法の側で「預り金」を名指しする例が、法人税法施行規則の別表二十四「青色申告書の提出の承認を受けようとする法人の帳簿の記載事項」です。その(六)は、預金・手形・売掛金・買掛金以外の債権債務について次のように求めています。
貸付金、借入金、預け金、預り金、仮払金、仮受金、未収入金、未払金等に、それぞれ適当な名称を付して区分し、それぞれ、その取引の年月日、事由、相手方及び金額
つまり法人税法が預り金に求めているのは「科目の定義」ではなく、取引の年月日・事由・相手方・金額を帳簿に残すことです。源泉所得税なら、何月分の給与から誰の分をいくら預かり、いつ納めたかが追えることが求められています。個人事業主の側でも、所得税の青色申告決算書(一般用)の貸借対照表に「預り金」の欄があり、書き方の説明書は、専従者や使用人の給与から徴収した源泉徴収税額のうちまだ納付していない金額を含めて記入するよう求めています(後述)。
民法の世界では、金銭を預かって同額を返す契約は消費寄託(666条)が典型です。
受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。
ただし、給与から天引きする預り金は本人との契約で預かるものではなく、法律が会社に「控除して納付せよ」と命じているものです。天引きした額は、本人に代わって納める先が決まっています。次の節で、その「どこへ・いつ」を条文で並べます。
預り金の中身4つと納付期限 — 法律が「いつ納めるか」を決めている
給与計算で毎月立つ預り金は4種類です。控除の根拠、納付先、納付期限を条文ごとに並べると次の表になります。
| 預り金の中身 | 控除(天引き)の根拠 | 納付先 | 納付期限 | 常時10人未満の納期の特例 |
|---|---|---|---|---|
| 源泉所得税(所得税と復興特別所得税) | 所得税法183条1項(給与) | 国(税務署) | 原則 翌月10日(休日に当たれば休日明け、納期の特例の承認を受けていれば右の欄の年2回) | 給与の支給人員が常時10人未満で、所轄税務署長に申請して承認を受けた場合は年2回(216条・217条。1〜6月分は7月10日/7〜12月分は翌年1月20日)。対象は給与・退職手当と税理士等の報酬(204条1項2号)の源泉所得税に限る。期限までに通知がなければ申請月の翌月末日に承認があったものとされ、申請月の翌々月の納付分から適用 |
| 住民税(特別徴収) | 地方税法321条の5第1項 | 市区町村 | 原則 翌月10日(市町村長の承認を受けて納期の特例を使っていれば右の欄の年2回) | 給与の支払を受ける者が常時10人未満の事業所について市町村長の承認を受けた場合は年2回(321条の5の2。6〜11月分は12月10日/12〜翌年5月分は6月10日。承認を受けた日の属する期間は、その日の属する月からその期間の最終月までの分) |
| 健康保険料・厚生年金保険料(本人負担分) | 健康保険法167条1項・厚生年金保険法84条1項(前月分を控除できる) | 年金事務所(協会けんぽ分を含む) | 翌月末日(健保法164条1項・厚年法83条1項) | — |
| 雇用保険料(本人負担分) | 労働保険徴収法32条1項(賃金を支払う都度) | 労働局(労働保険料として) | 年度更新で精算(保険年度の6月1日から40日以内=7月10日・徴収法15条1項、保険年度の中途に保険関係が成立した事業は成立した日から50日以内、有期事業と政府から労働保険料の決定の通知を受けた場合は同条2項・4項に別の期限) | — |
源泉所得税の条文は所得税法183条1項です。「支払の際」に徴収し、「翌月十日」までに納付する、の2つの時点が1文に入っています(実際の期限は、休日に当たれば休日明け、納期の特例の承認を受けていれば年2回)。
税理士・弁護士への顧問報酬は、個人と法人を分ける
会社が国内で居住者である個人の税理士・弁護士に支払う顧問報酬は、源泉徴収の対象です。一方、内国法人である税理士法人・弁護士法人に支払う通常の顧問報酬には源泉徴収をせず、その支払について源泉所得税の預り金も計上しません。
この区別は顧問報酬についての説明です。内国法人への支払でも、競馬の賞金や利子・配当などには別の源泉徴収の規定があるため、法人への支払全般に広げることはできません。非居住者・外国法人への支払は、この説明の対象外です。
居住者である個人の税理士や社会保険労務士に国内で支払う報酬から引く源泉所得税も、納付期限は204条1項で給与と同じ「翌月十日」が原則で、休日に当たれば休日明け、納期の特例の承認を受けていれば年2回の期限になります。給与の支給人員が常時10人未満で、所轄税務署長に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を出して承認を受ければ、給与・退職手当と税理士等の報酬(204条1項2号)の源泉所得税に限り、216条の納期の特例により半年分をまとめて納められます(期限までに通知がなければ申請月の翌月末日に承認があったものとされ、申請月の翌々月の納付分から適用)。なお、このとき銀行へ持っていく紙は所得税徴収高計算書(源泉所得税の納付書)で、法令上は納付書と計算書という別々の書類が1枚になったものです。だから、給与の支払があれば納める税額が0円でも提出だけは必要になります(納期の特例の承認を受けている場合は、各月の人員・支給額・税額を合計して記載します)。
住民税の特別徴収は地方税法321条の5第1項で、6月から翌年5月までの12回に分けて給与から徴収し、これも原則として翌月10日に市区町村へ納入します(次の納期の特例の承認を受けている場合は年2回)。
給与の支払を受ける者が常時10人未満の事業所は、市町村長の承認を受ければ、321条の5の2の納期の特例により、6月〜11月分を12月10日、12月〜翌年5月分を6月10日にまとめて納入できます(承認を受けた日の属する期間は、その日の属する月からその期間の最終月までの分)。源泉所得税の特例(7月10日・1月20日)と区切りの月も期限も違うので、両方の承認を受けている会社は別々に管理することになります。
社会保険料は、控除できる月と納める月の両方が条文にあります。健康保険法167条1項は「前月の標準報酬月額に係る保険料」を報酬から控除できる、と書いています。
事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。
そして164条1項が納付期限です。
被保険者に関する毎月の保険料は、翌月末日までに、納付しなければならない。
厚生年金保険法84条1項・83条1項も同じ構造で、83条1項は「毎月の保険料は、翌月末日までに、納付しなければならない。」と定めています。つまり4月25日に支給する給与から「3月分」の保険料を控除し、3月分の納付期限は4月末日なので、4月に預かった保険料は4月のうちに納めて消えるのが翌月控除の標準形です。退職月に2か月分を控除できる括弧書きの意味は 社会保険料は入社月・退職月にいつ引くか で扱っています。
雇用保険料は労働保険徴収法32条1項が根拠で、「賃金から控除することができる」と同時に、控除額を本人に知らせる義務まで書いてあります。
事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、前条第一項又は第二項の規定による被保険者の負担すべき額に相当する額を当該被保険者に支払う賃金から控除することができる。この場合において、事業主は、労働保険料控除に関する計算書を作成し、その控除額を当該被保険者に知らせなければならない。
健康保険法167条3項・厚生年金保険法84条3項にも同じ「保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知」する義務があります。給与明細の控除欄は、この3つの条文が求める通知そのものです。雇用保険料だけは毎月の納付先がなく、年に1回の年度更新(徴収法15条1項・保険年度の6月1日から40日以内、保険年度の中途に保険関係が成立した事業は成立した日から50日以内、有期事業と政府から労働保険料の決定の通知を受けた場合は同条2項・4項に別の期限)で前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を申告・納付するときに精算されます。そのため本人負担分を預り金で積み上げていく会社と、控除のたびに法定福利費の貸方に入れて会社負担と相殺してしまう会社の両方があり、どちらでも年度更新の結果は同じです。
なお、これらの期限が土曜・日曜・祝日などの休日に当たるときは、その休日明けの日が期限になります。国税通則法10条2項は次のように定めており、地方税法・健康保険法にも同趣旨の規定があります。
納付又は徴収に関する期限(時をもつて定める期限その他の政令で定める期限を除く。)が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他一般の休日又は政令で定める日に当たるときは、これらの日の翌日をもつてその期限とみなす。
設例:東京都・月給30万円・令和8年6月支給の預り金を計算する
実額で見ます。東京都の事業所(雇用保険は一般の事業)、40歳未満(介護保険第2号被保険者ではない)、月給300,000円で通勤手当その他の手当なし、扶養控除等申告書を提出済みで扶養親族等0人(源泉徴収税額表の備考による加算をした後の数も0人)、住民税の特別徴収税額の月割額を10,000円と仮定し、令和8年6月25日に支給する給与から5月分の社会保険料を控除します(翌月控除)。健康保険料率は、協会けんぽ東京支部の令和8年度9.85%(一般の被保険者は令和8年3月分から、任意継続被保険者・日雇特例被保険者は4月分から)に、令和8年4月分(5月納付分)から全国一律で加わる子ども・子育て支援金率0.23%を合わせた10.08%、厚生年金保険料率は厚生年金保険法81条4項の千分の183.00、雇用保険料率は令和8年度(令和8年4月1日〜令和9年3月31日)の一般の事業の労働者負担5/1,000です。保険料は健康保険法161条1項・厚生年金保険法82条1項により本人と会社が2分の1ずつ負担します。
| 項目 | 計算(令和8年6月支給分) | 本人負担=預り金(令和8年6月支給分) |
|---|---|---|
| 健康保険料(令和8年5月分・支援金を含む) | 標準報酬月額300,000円 × 10.08% ÷ 2 | 15,120円 |
| 厚生年金保険料 | 300,000円 × 18.3% ÷ 2 | 27,450円 |
| 雇用保険料(令和8年度・一般の事業) | 賃金300,000円 × 5/1,000 | 1,500円 |
| 社会保険料等の計(令和8年5月分の健康保険・厚生年金と6月の雇用保険) | 44,070円 | |
| 源泉所得税(所得税と復興特別所得税、令和8年分の月額表の甲欄(扶養控除等申告書の提出あり)・社会保険料等控除後254,000円以上257,000円未満・扶養親族等の数が備考の加算後で0人の場合) | 社会保険料等控除後 255,930円 → 令和8年分の月額表 254,000円以上257,000円未満・甲欄(扶養控除等申告書の提出あり)・扶養親族等の数は備考の加算後で0人 | 6,320円 |
| 住民税(特別徴収) | 月割額(仮定) | 10,000円 |
| 預り金の合計 | 60,390円 | |
| 手取り | 300,000 − 60,390 | 239,610円 |
源泉所得税の6,320円は、令和8年分の給与所得の源泉徴収税額表(月額表)で「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」254,000円以上257,000円未満の行の甲欄(扶養控除等申告書を提出している人に使う欄)・扶養親族等0人(備考による加算をした後の数)の税額です。令和8年分の月額表の備考による加算とは、扶養控除等申告書に、本人が障害者・寡婦・ひとり親・勤労学生に当たる旨の記載があるとき、または同一生計配偶者・扶養親族のうちに障害者・同居特別障害者に当たる人がいる旨の記載があるとき(国外居住親族は、親族に該当する旨を証する書類の添付か提示があった人に限る)に、該当するごとに、甲欄で使う扶養親族等の数に1人を加えることです(月額表の備考1(4))。令和8年分の月額表では、扶養控除等申告書の提出がない人(従たる給与についての扶養控除等申告書を提出した人を含む)には甲欄ではなく乙欄を使うので、税額は変わります(月額表の備考2)。月額表の税額は所得税と復興特別所得税を合わせた額なので、預り金もその合計で立てます。この金額は 源泉徴収税額 計算機(令和8年分の月額表・甲欄/乙欄) で、社会保険料は 社会保険料 計算機(都道府県別) で確かめられます。
仕訳 — 支給時に立てて、納付時に消す
設例の1か月を仕訳にすると次のとおりです。社会保険料は翌月控除(令和8年6月給与から5月分を控除)とし、会社負担分は健康保険15,120円+厚生年金27,450円=42,570円、雇用保険の会社負担は令和8年度の一般の事業の8.5/1,000で2,550円です(子ども・子育て拠出金・労災保険料など会社だけが負担するものは省略)。
| 日付 | 借方 | 貸方 | 何が起きたか |
|---|---|---|---|
| 令和8年6月25日 給与支給(源泉所得税は令和8年分の月額表の甲欄(扶養控除等申告書の提出あり)・社会保険料等控除後254,000円以上257,000円未満・扶養親族等の数が備考の加算後で0人の場合) | 給与手当 300,000 | 預り金(社会保険料)44,070 預り金(源泉所得税)6,320 預り金(住民税)10,000 普通預金 239,610 | 天引きした瞬間に預り金が立つ。給与手当は総額30万円のまま |
| 令和8年6月30日 社会保険料納付(5月分) | 預り金(社会保険料)42,570 法定福利費 42,570 | 普通預金 85,140 | 5月分。本人負担分(預り金)と会社負担分(法定福利費)を合わせて1本で納める(健保法161条2項・厚年法82条2項) |
| 令和8年7月10日 源泉所得税納付(毎月納付の場合、税額は令和8年分の月額表の甲欄(扶養控除等申告書の提出あり)・社会保険料等控除後254,000円以上257,000円未満・扶養親族等の数が備考の加算後で0人の場合) | 預り金(源泉所得税)6,320 | 普通預金 6,320 | 所得税徴収高計算書(納付書)で納付。6月支給分 |
| 令和8年7月10日 住民税納入(住民税の納期の特例の承認を受けていない毎月納入の場合) | 預り金(住民税)10,000 | 普通預金 10,000 | 市区町村ごとの納入書で納入。6月徴収分 |
| 翌年の年度更新(令和8年度分・一般の事業・賃金が毎月30万円の場合) | 預り金(雇用保険料)18,000 法定福利費 30,600 ほか | 普通預金 48,600 ほか | 令和8年4月〜令和9年3月の本人分1,500円×12か月と会社分2,550円×12か月を確定保険料に充てる(実際は概算保険料との差額精算になる) |
預り金を「社会保険料」「源泉所得税」「住民税」「雇用保険料」と補助科目で分けておくと、納付先と期限が違う4本を別々に突き合わせられます。納付額の全額(本人負担分と会社負担分の合計)を預り金の取崩しにしてしまうと、預り金が借方残になる一方で会社負担分の費用が計上されず、逆に本人負担分まで法定福利費にすると会社の人件費が過大になります。法定福利費とは で「本人負担の預り金を法定福利費に混ぜない」と書いているのはこのためです。
預り金はゼロに戻る科目 — 期末残高の正常値は控除方式で決まる
給与の預り金は、立てた分を期限までに納めて消していくので、期末の残高は原則として「まだ納付期限が来ていない分」になります(年末調整の還付を翌月以降に繰り越している間は、その分だけ少なくなります)。設例と同じ金額が毎月続く会社が令和8年9月30日に決算を迎えるとして、9月25日支給のあと期末に残っているべき金額を数えると次のとおりです。
- 源泉所得税 6,320円(令和8年分の月額表の甲欄(扶養控除等申告書の提出あり)・社会保険料等控除後254,000円以上257,000円未満・扶養親族等の数が備考の加算後で0人の場合)と住民税 10,000円 — 令和8年9月25日支給分の納付期限は翌月(原則10日、休日に当たれば休日明け)で、源泉所得税・住民税のどちらも納期の特例の承認を受けていない毎月納付で年末調整の還付の繰越しも残っていなければ、9月30日にはまだ期限が来ていないので残る(合計16,320円)。
- 健康保険料・厚生年金保険料 42,570円(設例の協会けんぽ東京支部・標準報酬月額30万円・40歳未満で介護保険料なしの本人負担分) — 翌月控除(令和8年9月給与から8月分を控除)なら8月分の納付期限は9月末日で、9月30日に口座振替されていれば残高0。当月控除(令和8年9月給与から9月分を控除)なら、9月分の納付期限(翌月末日、休日に当たれば休日明け)は9月30日にはまだ来ていないので、設例(協会けんぽ東京支部・標準報酬月額30万円・40歳未満で介護保険料なし)の令和8年9月分の本人負担分42,570円が残る。
- 雇用保険料 — 預り金で積む方式なら令和8年4月〜9月の6か月分9,000円(令和8年度・一般の事業・賃金が毎月30万円の場合)が残り、翌年の年度更新で消える。法定福利費の貸方で処理する方式なら残高0。
| 預り金残高(設例の正常値) | 雇用保険を法定福利費と相殺 | 雇用保険を預り金で積む(令和8年度・一般の事業の労働者負担5/1,000・賃金が毎月30万円の場合の4〜9月の6か月分9,000円) |
|---|---|---|
| 令和8年9月30日の残高・社会保険料は翌月控除(源泉所得税は令和8年分の月額表の甲欄(扶養控除等申告書の提出あり)・社会保険料等控除後254,000円以上257,000円未満・扶養親族等の数が備考の加算後で0人の6,320円、源泉所得税・住民税は毎月納付、還付の繰越しなし) | 16,320円 | 25,320円 |
| 令和8年9月30日の残高・社会保険料は当月控除(協会けんぽ東京支部・標準報酬月額30万円・40歳未満で介護保険料なしの令和8年9月分の本人負担分42,570円が残る、源泉所得税は令和8年分の月額表の甲欄(扶養控除等申告書の提出あり)・社会保険料等控除後254,000円以上257,000円未満・扶養親族等の数が備考の加算後で0人の6,320円、源泉所得税・住民税は毎月納付、還付の繰越しなし) | 58,890円 | 67,890円 |
つまり、期末の預り金残高の正常値は、社会保険料を翌月控除しているか当月控除しているか、雇用保険料をどう処理しているかで変わります。逆に言えば、設例の会社でこの4つのどれにも当てはまらない残高は、納期の特例の承認や年末調整の還付の繰越しといった理由がなければ、納め忘れ(残高が大きい)か、天引き漏れ・納め過ぎ(残高が小さい、またはマイナス)を疑います。決算で預り金の残高を「前期末と同じくらいだから大丈夫」と流さず、納付書と突き合わせてゼロに戻る計算をするのが、この科目の正しい締め方です。法人税の申告書に添付する勘定科目内訳明細書には「仮受金(前受金・預り金)の内訳書」があり、その中に源泉所得税預り金の内訳を書く欄があります(e-Tax の標準フォームでも同じ並びです)。どの科目にどこまで書くかは 勘定科目内訳明細書 の記事に譲ります。
預り金がマイナス(借方残)になる3つの原因 — 年末調整の還付は正常
預り金は負債なので貸方残が正常ですが、実務では借方残(マイナス)になることがあります。原因は3つに分かれ、1つ目は正常、あとの2つは訂正が要ります。
①年末調整の還付超過(正常)。年末調整で1年分の税額を計算し直した結果、それまでに徴収した額の方が多ければ、差額を本人に還付します(年末調整をした給与に未払の分があるときは、その未払給与についてまだ徴収していない税額を除いた残額)。所得税法191条は、その年最後の給与で徴収すべき税額に充当してなお残る額(まだ徴収していない部分があればそれを除いた額=過納額)を支払者が還付する、と定めています。
前条の場合において、同条に規定する超過額をその年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、なお充当しきれない超過額(当該超過額のうちにまだ徴収されていないものがあるときは、その徴収されていない部分の金額に相当する金額を控除した金額。以下この条において「過納額」という。)があるときは、前条の給与等の支払者は、その過納額を還付する。
年末調整で従業員に還付した額が、年末調整を行った月分(通常は12月分、納期の特例の承認を受けている場合は7月から12月までの分)として納付する給与・退職手当と税理士等の報酬の源泉所得税を上回ると、預り金(源泉所得税)は借方残になります。これは法律が予定している状態で、所得税法施行令312条により、還付した額はその後に納付する給与・退職手当と税理士等の報酬(204条1項2号)の源泉所得税から控除していきます。
法第百九十一条(過納額の還付)の規定により還付をする場合には、その還付をすべき金額に相当する金額は、同条に規定する給与等の支払者が法第百八十三条(源泉徴収義務)、第百九十条(年末調整)、第百九十二条(不足額の徴収)、第百九十九条(退職所得に係る源泉徴収義務)、第二百四条第一項第二号(報酬、料金等に係る源泉徴収義務)又は第二百十六条(源泉徴収に係る所得税の納期の特例)の規定により納付すべき金額から控除する。
1月以降に納付する給与・退職手当・税理士等の報酬の源泉所得税から差し引いていけば、借方残は解消していきます。ただし、解散・廃業などで給与の支払者でなくなった場合、徴収して納付する税額が全くなくなった場合、過納額が多く還付することとなった日の翌月から2か月を経過しても還付しきれないと見込まれる場合のいずれかで、支払者のところで還付できないときは、「源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書 兼 残存過納額明細書」に各人の源泉徴収簿の写しと過納額の請求・受領に関する委任状を添えて所轄税務署に提出し、税務署から還付を受けます(施行令313条、翌年に繰り越して還付しているときは翌年分の源泉徴収簿の写しも添え、委任状を出せない退職者などの分は用紙を分けて税務署から本人に直接還付)。国税庁タックスアンサー No.2675 が手順を説明しています。年末調整の還付で預り金がマイナスになったら、税務署から還付を受ける上の3つの場合を除き、仕訳を無理に組み替えず、翌月以降の納付額と突き合わせて解消を追います。
②天引き漏れ。控除すべき保険料や税額を給与計算で引き忘れ、納付だけ正しい額で行うと、預り金の貸方が不足して借方残になります。本人から追加で徴収するか、会社が負担する(負担した分は本人への給与として扱う)かを決めて訂正します。健康保険法167条1項は「前月の」保険料を控除できると書いているので、当月分を翌月に引き忘れた場合、翌々月にまとめて2か月分を控除することは条文上の根拠がなく、本人の同意を得て精算するのが実務です。
③納め過ぎ・二重納付。納付書の金額を誤って多く納めた場合です。源泉所得税を誤って正当税額を超えて納付したときは、次の納付書の金額を自分の判断で減らして済ませるのではなく、その差額(過誤納金)について、所轄税務署に誤納額還付請求書を出して還付を受けるか(納付した日から5年間に提出しないと、時効で請求権が消滅します)、給与等の源泉所得税であれば誤納額充当届出書を出して、その後に納付する給与等の源泉所得税に充当します(国税通則法56条、国税庁 税務手続の案内 A2-18・A2-19)。誤納額還付請求書・誤納額充当届出書のどちらにも、その税額を納付した際の徴収高計算書の写しと、誤納額が生じた事実を記載した帳簿書類の写し(総勘定元帳の「預り金」勘定の部分など)を添付します。社会保険料の過納は、健康保険法164条2項・厚生年金保険法83条2項により、保険者が6か月以内の保険料に充当したものとみなすことができます。
預かったまま納めないとどうなるか — 不納付加算税10%と10年以下の拘禁刑
預り金が「会社の金ではない」ことは、納めなかったときの扱いに最もはっきり表れます。源泉所得税には不納付加算税という、源泉徴収等による国税にだけ用意された加算税があります。国税通則法67条1項です。
源泉徴収等による国税がその法定納期限までに完納されなかつた場合には、税務署長又は税関長は、当該納税者から、納税の告知(第三十六条第一項(納税の告知)の規定による納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)をいう。次項において同じ。)に係る税額又はその法定納期限後に当該告知を受けることなく納付された税額に百分の十の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収する。
税率は原則10%、告知前で、調査により告知を予知した納付でない場合は2項により5%に下がります。さらに3項は、法定納期限から1か月以内に納め、かつ政令で定める「納付する意思があつたと認められる場合」に当たるときは不納付加算税を課さない、と定めています。
第一項の規定は、前項の規定に該当する納付がされた場合において、その納付が法定納期限までに納付する意思があつたと認められる場合として政令で定める場合に該当してされたものであり、かつ、当該納付に係る源泉徴収等による国税が法定納期限から一月を経過する日までに納付されたものであるときは、適用しない。
その政令(国税通則法施行令27条の2第2項)は、その法定納期限の属する月の前月末日から1年前の日までの間に法定納期限が到来した源泉所得税について、納税の告知を受けたことがなく、告知を受けずに期限後納付した事実もないこと、を条件にしています。つまり告知を予知しない自主納付で、政令所定の過去1年間に遅れがなく、1か月以内に納めたときには同条3項による不適用となります。これとは別に、同条1項ただし書の正当な理由がある場合も不適用です。翌月10日を1日過ぎた納付でも、この1年間に遅れがあって同条3項の不適用要件を満たさず、正当な理由もなければ10%(調査による告知を予知しない自主納付では5%)がかかります。これに加えて、法定納期限の翌日から延滞税がかかります(国税通則法60条1項5号)。
罰則はさらに重く、所得税法240条1項は徴収した所得税を納付しなかった者に10年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金(併科あり)を定めています。
第二百十六条(源泉徴収に係る所得税の納期の特例)の規定により徴収して納付すべき所得税を納付しなかつた者は、十年以下の拘禁刑若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
同じ条文は183条(給与)・204条1項(報酬)・199条(退職手当)など源泉徴収義務の条文を全部列挙しており、引用したのはその末尾の部分です。納付しなかった所得税は221条1項により税務署長が支払者から徴収します。
第一章から前章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収して納付すべき者がその所得税を納付しなかつたときは、税務署長は、その所得税をその者から徴収する。
社会保険料も同じ構造です。健康保険法208条は、事業主が正当な理由なく督促状の期限までに保険料を納付しないときを罰則の対象にしています。
事業主が、正当な理由がなくて次の各号のいずれかに該当するときは、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
第百六十一条第二項又は第百六十九条第七項の規定に違反して、督促状に指定する期限までに保険料を納付しないとき。
厚生年金保険法102条1項3号も同じ文言で、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。
仮受金・前受金・預り保証金・立替金との違い
預り金と取り違えやすい科目を、「誰のお金か」「いつ消えるか」で並べます。
| 科目 | 区分 | 中身 | 預り金との違い |
|---|---|---|---|
| 預り金 | 流動負債 | 源泉所得税・住民税・社会保険料の本人負担分、社内預金、取引先から一時的に預かった金銭 | — |
| 仮受金 | 流動負債 | 入金はあったが内容が確定していないもの | 預り金は内容と相手が確定している。仮受金は確定したら正しい科目へ振り替える(仮払金と仮受金の違い) |
| 前受金 | 流動負債 | 商品・サービスを引き渡す前に受け取った代金 | 前受金は自社の売上になるお金。預り金は自社の売上にならない(売上になる日・消費税の時期は前受金とは) |
| 預り保証金(敷金) | 1年内に返すものは流動・それ以外は固定負債 | テナントから預かった敷金・保証金 | 同じ「預かり」でも返還が長期なので、財務諸表等規則47条5号の「短期間に支払われるもの」に当たらず1年基準(47条6号・52条)で固定負債に回る |
| 立替金 | 流動資産 | 会社が先に払った他人のお金(休職中の従業員の社会保険料本人負担分など) | 向きが逆。預り金は先に預かる負債、立替金は先に払う資産(休職中の社会保険料) |
| 未払金 | 流動負債 | 固定資産の購入代金など、営業取引以外の未払い | 会社自身の債務。預り金は他人のお金を納める債務 |
判定の順序は、①そのお金は自社の売上になるか(なるなら前受金)、②内容と相手が確定しているか(していなければ仮受金)、③先に預かったか先に払ったか(払ったなら立替金)、④預かったお金を返す・納めるまでの期間が短いか(長ければ固定負債の預り保証金)、です。財務諸表等規則49条1項9号のただし書により、株主・役員・従業員から預かった金銭は「預り金」の行から外して「その他」に入れ、5%を超えれば独立の科目で示します。次の節の社内預金がそれに当たります。
社内預金(従業員からの預り金)は労働基準法18条が縛る
従業員から任意に預かる社内預金も勘定科目は預り金ですが、こちらは税法ではなく労働基準法18条が内容を縛っています。1項は、労働契約に付随して貯蓄させることを禁じています。
使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
この強制貯金の禁止に違反すると、119条により6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金です。任意の社内預金は2項以下の条件を満たせば認められます。労働者の過半数で組織する労働組合(無いときは労働者の過半数を代表する者)との書面による協定と行政官庁への届出(2項)、貯蓄金管理規程の作成と周知(3項)、利子を付けること(4項)、返還を請求されたら遅滞なく返すこと(5項)です。4項の利子には下限があります。
使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入であるときは、利子をつけなければならない。この場合において、その利子が、金融機関の受け入れる預金の利率を考慮して厚生労働省令で定める利率による利子を下るときは、その厚生労働省令で定める利率による利子をつけたものとみなす。
この下限利率は「労働基準法第十八条第四項の規定に基づき使用者が労働者の預金を受け入れる場合の利率を定める省令」が、全国の銀行の定期預金平均利率をもとに年度ごとに決める仕組みで(同省令2条・3条)、厚生労働省労働基準局監督課長の通知(令和8年2月5日付 基監発0205第2号)によれば、令和8年4月から適用される下限利率は引き続き年5厘(0.5%)です。さらに、賃金の支払の確保等に関する法律3条は、毎年3月31日時点の受入預金額について、金融機関の保証契約などの保全措置を1年間講じることを事業主に義務づけています。社内預金は、会社が倒産すれば従業員のお金が戻らないおそれがあるため、預り金の中でも最も厳しく保護されている類型です。
なお、給与から控除すること自体にも労働基準法の根拠が要ります。24条1項は賃金の全額払いを原則とし、ただし書で控除できる場合を2つに限っています。
法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
源泉所得税・住民税・社会保険料・雇用保険料は「法令に別段の定めがある場合」で、所得税法183条・地方税法321条の5・健康保険法167条・厚生年金保険法84条・労働保険徴収法32条がその法令です。社内預金・組合費・親睦会費・社宅家賃などを控除するには、もう一方の労使協定(いわゆる賃金控除協定)が要ります。協定なしに天引きした預り金は、金額が正しくても全額払い違反になります。
消費税・インボイス — 預り金は「資産の譲渡等」ではない
預り金の受け払いには消費税がかかりません。消費税の課税対象は消費税法2条1項8号の「資産の譲渡等」で、次のように定義されています。
事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
給与から源泉所得税を預かって国に納める、保険料を預かって年金事務所に納める、という流れには、対価を得て行う資産の譲渡や貸付け、役務の提供がどこにもありません。国税庁タックスアンサー No.6157 が挙げる不課税の考え方(対価性がない、資産の譲渡等に当たらない)と同じで、預り金の計上も取り崩しも課税売上・課税仕入れのどちらにもなりません。
インボイス制度との関係も同じ線で決まります。消費税法57条の4第1項が適格請求書の交付義務を課しているのは「課税資産の譲渡等を行つた場合」で、記載事項も課税資産の譲渡等の対価の額です。取引先から一時的に預かる金銭や、本人に代わって納める税金は対価ではないので、適格請求書の税率ごとの対価の額に含めません。請求書に載せるなら、対価の部分と預り金・立替金の部分を分けて書くことになります。取引先の経費を立て替えて払い、後で精算する「立替金」は、国税庁のインボイス制度Q&A 問94 が、立替払をした者宛の適格請求書をそのまま渡しても受け取った側の仕入税額控除には使えず、立替金精算書等の交付を受けて自分の課税仕入れであることを明らかにする、と整理しています。預り金(先に預かる)と立替金(先に払う)は向きが逆ですが、どちらも対価ではないので自社の売上・仕入れに混ぜない、という点は共通です。なお、その精算書に何を書けば足りるのかは消費税法基本通達11-6-2が定めており、原則は適格請求書の写しと明細書等の2枚をあわせて保存する形です(立替金精算書の書き方)。「立替金精算書」という語は消費税法にも施行令にも通達にも出てこないので、様式ではなく記載内容で判断することになります。
個人事業主の預り金 — 青色申告決算書の貸借対照表に欄がある
個人事業主でも、従業員や青色事業専従者に給与を払えば源泉徴収義務者になり、給与から天引きした税額が預り金になります(納付する税額が生じない給与もあります)。国税庁タックスアンサー No.2502 のとおり、常時2人以下の家事使用人だけに給与を払う個人は、その給与について源泉徴収を要しません(所得税法184条)。
常時二人以下の家事使用人のみに対し給与等の支払をする者は、前条の規定にかかわらず、その給与等について所得税を徴収して納付することを要しない。
常時2人以下の家事使用人(お手伝いさんなど)だけに給与を払う個人は源泉徴収しなくてよい、という例外で、事業のために人を雇えば法人と同じ183条の義務がかかります。納期の特例(216条)も、法人と同じく「常時十人未満」で税務署長の承認を受けた場合の制度です。また、給与等の支払者でない個人(常時2人以下の家事使用人だけに給与を払う個人を含む)が税理士に払う報酬は源泉徴収不要ですが、従業員に給与を払っている個人事業主は、居住者である個人の税理士に国内で払う報酬からは源泉徴収して預り金に立てます(内国法人である税理士法人への通常の顧問報酬は対象外)。
所得税の青色申告決算書(一般用)の4ページ目、貸借対照表の負債・資本の部には「預り金」の欄があり、国税庁の書き方の説明書は、専従者給与や使用人の給与から徴収した源泉徴収税額のうち、まだ納付していない金額を含めて記入するよう求めています。12月の給与から徴収して、原則として翌年1月10日(休日に当たれば休日明け、納期の特例の承認を受けていれば7〜12月分をまとめて1月20日)までに納める分が、12月31日の預り金として残るわけです。一方、事業主自身の所得税・住民税は必要経費にも預り金にもならず、事業のお金から払えば事業主貸です(事業主貸・事業主借とは)。
よくある質問
預り金(預かり金)とは何ですか?
他人のお金を一時的に預かっていて、いずれ本人に返すか本人に代わって納める義務を表す負債の勘定科目です。給与から天引きした源泉所得税・住民税・健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料の本人負担分が代表で、ほかに社内預金や取引先から一時的に預かった金銭も入ります。会社の収益でも費用でもなく、預かった時点から会社のものではありません。法人税法・所得税法・消費税法の本則に「預り金」という語は出てこず、財務諸表等規則47条・49条、会社計算規則75条、法人税法施行規則の別表二十四(青色申告法人の帳簿の記載事項)が名指ししています。表記は「預り金」が法令・様式の用字で、「預かり金」と送り仮名を付けても同じ科目です。
預り金は資産ですか、負債ですか?
負債です。財務諸表等規則47条5号と会社計算規則75条2項1号ホは、通常の取引に関連して発生する未払金又は預り金で一般の取引慣行として発生後短期間に支払われるものを流動負債に入れています。給与の源泉所得税は原則として支払った月の翌月10日まで(休日に当たれば休日明け、納期の特例の承認を受けていても年2回の期限まで)に納め、社会保険料も翌月末日が納付期限なので流動負債です。テナントから預かった敷金のように返還が何年も先のものは、1年基準で固定負債に回ります。貸借対照表で借方(マイナス)になっていたら、年末調整の還付超過、天引き漏れ、納め過ぎのどれかを疑います。
預り金はいつまでに納付しますか?
給与の源泉所得税は原則として徴収した月の翌月10日(所得税法183条1項、休日に当たれば休日明け、納期の特例の承認を受けていれば年2回)、住民税の特別徴収税額も原則として徴収した月の翌月10日(地方税法321条の5第1項、市町村長の承認を受けて納期の特例を使っていれば年2回)、健康保険料・厚生年金保険料は翌月末日(健康保険法164条1項・厚生年金保険法83条1項)です。雇用保険料を含む労働保険料は、原則として保険年度ごとに6月1日から40日以内(7月10日まで)の年度更新で申告・納付します(概算保険料について労働保険徴収法15条1項、保険年度の中途に保険関係が成立した事業は成立した日から50日以内、特別加入保険料・有期事業・政府から労働保険料の決定の通知を受けた場合は同条1項かっこ書・2項・4項に別の期限)。給与の支給人員が常時10人未満で、所轄税務署長に申請して承認を受ければ、給与・退職手当と税理士等の報酬(204条1項2号)の源泉所得税は7月10日と翌年1月20日の年2回にまとめられます(216条・217条、期限までに通知がなければ申請月の翌月末日に承認があったものとされ、申請月の翌々月の納付分から適用)。住民税にも、給与の支払を受ける者が常時10人未満の事業所について市町村長の承認を受けた場合の納期の特例があり、12月10日と6月10日の年2回です(321条の5の2)。期限が土曜・日曜・祝日などの休日に当たるときは、その休日明けの日が期限です(国税通則法10条2項)。
預り金を納め忘れるとどうなりますか?
源泉所得税は国税通則法67条の不納付加算税(原則10%、告知前で、調査による告知を予知せず自主納付した場合は5%)と延滞税がかかります。調査による告知を予知しない自主納付で、法定納期限から1か月以内に納め、かつ政令所定の過去1年間に遅れがなければ不納付加算税は課されません(67条3項・施行令27条の2第2項)。徴収した所得税を納付しなかった者には所得税法240条1項で10年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金が定められています。社会保険料は、正当な理由なく督促状の期限までに納付しないと健康保険法208条・厚生年金保険法102条で6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です。
年末調整で預り金がマイナスになりました。どうすればよいですか?
正常な状態です。所得税法191条により、年末調整で過納となった額はその年最後の給与で徴収すべき税額に充当してなお残る分(未払の給与についてまだ徴収していない税額を除く)を本人に還付するので、年末調整を行った月分(通常は12月分、納期の特例の承認を受けている場合は7月から12月までの分)として納付する給与・退職手当と税理士等の報酬の源泉所得税より還付額が多ければ預り金(源泉所得税)は借方残になります。施行令312条により、その還付額はその後に納付する給与・退職手当と税理士等の報酬(204条1項2号)の源泉所得税から控除して解消していきます。給与の支払者でなくなった場合、徴収して納付する税額が全くなくなった場合、還付することとなった日の翌月から2か月を経過しても還付しきれないと見込まれる場合は、源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書 兼 残存過納額明細書に各人の源泉徴収簿の写しと委任状を添えて所轄税務署に提出し、税務署から還付を受けます(施行令313条・国税庁 No.2675、翌年に繰り越して還付しているときは翌年分の源泉徴収簿の写しも添え、委任状を出せない退職者などの分は用紙を分けて税務署から本人に直接還付)。仕訳を組み替えて無理に貸方残に戻す必要はありません。
預り金と仮受金、前受金の違いは何ですか?
預り金は内容も相手も確定している他人のお金で、自社の売上にはなりません。仮受金は入金はあったが内容が確定していないもので、確定した時点で正しい科目に振り替えます。前受金は商品やサービスを引き渡す前に受け取った代金で、引き渡せば自社の売上になります。判定は、自社の売上になるか(なるなら前受金)、内容と相手が確定しているか(していなければ仮受金)、先に預かったか先に払ったか(払ったなら資産の立替金)の順です。
預り金に消費税はかかりますか?インボイスは必要ですか?
かかりません。消費税の課税対象は消費税法2条1項8号の「資産の譲渡等」(事業として対価を得て行う資産の譲渡・貸付け・役務の提供)で、税金や保険料を預かって納める流れには対価がなく、資産の譲渡等に当たらない不課税取引です。適格請求書の交付義務(57条の4第1項)も課税資産の譲渡等を行った場合に限られるので、預り金は適格請求書の税率ごとの対価の額に含めず、請求書に載せるなら対価の部分と分けて書きます。取引先の経費を立て替えて払った場合は、国税庁インボイスQ&A 問94 のとおり、経費を負担する取引先の側が、立替金精算書等の交付を受けてその取引先自身の課税仕入れであることを明らかにします。
個人事業主にも預り金はありますか?
あります。従業員や青色事業専従者に給与を払えば所得税法183条の源泉徴収義務者になり、天引きした源泉所得税・住民税・社会保険料は預り金です。例外は184条の常時2人以下の家事使用人のみに給与を払う場合だけです。所得税の青色申告決算書(一般用)の貸借対照表には「預り金」の欄があり、国税庁の書き方の説明書は、給与から徴収した源泉徴収税額のうちまだ納付していない金額を含めて記入するよう求めています。事業主本人の所得税・住民税は預り金ではなく事業主貸です。
出典
所得税法・同施行令・法人税法・同施行規則・国税通則法・同施行令・地方税法・健康保険法・厚生年金保険法・労働保険徴収法・労働基準法・賃金の支払の確保等に関する法律・財務諸表等規則・会社計算規則・消費税法・民法をe-Gov法令検索で確認し、国税庁タックスアンサー No.2502・No.2505・No.2675・No.6157、令和8年分 源泉徴収税額表(月額表)、令和7年分 青色申告決算書(一般用)の書き方、インボイス制度Q&A 問94、協会けんぽ 令和8年度 都道府県毎の保険料率、厚生労働省 令和8年度 雇用保険料率のご案内・基監発0205第2号の原文と合わせて確認。
- e-Gov法令検索 所得税法(昭和四十年法律第三十三号) — 第174条(内国法人に係る所得税の課税標準)、第183条第1項(源泉徴収義務)、第184条(源泉徴収を要しない給与等の支払者)、第191条(過納額の還付)、第204条第1項(報酬・料金等の源泉徴収義務)、第216条(源泉徴収に係る所得税の納期の特例)、第221条第1項(源泉徴収に係る所得税の徴収)、第240条第1項(罰則)。所得税法施行令 — 第312条(年末調整による過納額の還付の方法)、第313条(給与等の支払者が還付できなかつた場合の処理)。「預り金」は本則に無く、附則では他法令名としてのみ出る
- e-Gov法令検索 法人税法(昭和四十年法律第三十四号) — 全文を取得し「預り金」が本則に0回であることを確認。法人税法施行規則 — 別表二十四「青色申告書の提出の承認を受けようとする法人の帳簿の記載事項」(六)
- e-Gov法令検索 国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号) — 第10条第2項(期限の特例)、第60条第1項第5号(延滞税)、第67条第1項〜第3項(不納付加算税)。国税通則法施行令 — 第27条の2第2項(法定納期限までに納付する意思があつたと認められる場合)
- e-Gov法令検索 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号) — 第321条の5第1項(給与所得に係る特別徴収税額の納入の義務等)、第321条の5の2第1項(納期の特例)
- e-Gov法令検索 健康保険法(大正十一年法律第七十号) — 第161条(保険料の負担及び納付義務)、第164条第1項・第2項(保険料の納付)、第167条(保険料の源泉控除)、第208条(罰則)。厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号) — 第81条第4項(保険料率・千分の183.00)、第82条(保険料の負担及び納付義務)、第83条第1項・第2項(保険料の納付)、第84条(保険料の源泉控除)、第102条(罰則)
- e-Gov法令検索 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号) — 第15条第1項(概算保険料の納付)、第31条第1項(労働保険料の負担)、第32条第1項(賃金からの控除)
- e-Gov法令検索 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号) — 第18条(強制貯金)、第24条第1項(賃金の支払)、第119条・第120条(罰則)。労働基準法第十八条第四項の規定に基づき使用者が労働者の預金を受け入れる場合の利率を定める省令(昭和二十七年労働省令第二十四号) — 第1条〜第3条。賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五十一年法律第三十四号) — 第3条(貯蓄金の保全措置)
- e-Gov法令検索 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和三十八年大蔵省令第五十九号) — 第47条(流動負債の範囲)、第49条第1項(流動負債の区分表示)、第50条、第52条(固定負債の区分表示)、第53条。会社計算規則(平成十八年法務省令第十三号) — 第75条(負債の部の区分)
- e-Gov法令検索 消費税法(昭和六十三年法律第百八号) — 第2条第1項第8号(資産の譲渡等)、第57条の4第1項(適格請求書発行事業者の義務)。民法(明治二十九年法律第八十九号) — 第657条(寄託)、第666条(消費寄託)。条文はいずれも e-Gov法令API v2(/api/2/law_data/{law_id})で2026年8月21日に取得した現行リビジョンの原文と機械で逐語照合した
- 国税庁 タックスアンサー No.2502 源泉徴収義務者とは、No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例、No.2675 年末調整の過不足額の精算、No.6157 課税の対象とならないもの(不課税)の具体例。いずれもページの生テキストを取得して確認
- 国税庁 給与所得の源泉徴収税額表(令和8年分)月額表 — その月の社会保険料等控除後の給与等の金額254,000円以上257,000円未満・甲欄(扶養控除等申告書の提出あり)・扶養親族等の数が備考の加算後で0人の税額6,320円。令和7年分 青色申告決算書(一般用)の書き方 — 貸借対照表「預り金」欄の記入説明。消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A 問94(立替金)(令和6年4月改訂)。e-Tax 勘定科目内訳明細書の標準フォーム等(令和6年3月1日以後終了事業年度分) — 「仮受金(前受金・預り金)の内訳書、源泉所得税預り金の内訳」
- 全国健康保険協会(協会けんぽ) 都道府県毎の保険料率(令和8年度) — 東京都 9.85%(令和8年3月分から)、子ども・子育て支援金0.23%(令和8年4月分から全国一律で加算)、介護保険料率1.62%。厚生労働省 令和8年度 雇用保険料率のご案内 — 一般の事業 労働者負担5/1,000・事業主負担8.5/1,000。厚生労働省労働基準局監督課長 令和8年4月から適用される社内預金の下限利率について(令和8年2月5日 基監発0205第2号) — 下限利率は引き続き年5厘(0.5%)
- 国税庁 令和8年版 源泉徴収のあらまし 第1 源泉徴収制度について — 納付期限(休日明け)と納期の特例(承認・対象・適用開始)。令和8年分 年末調整のしかた — 過納額の還付と税務署から還付する場合。税務手続の案内 A2-18 源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額の還付請求・A2-19 源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額の充当届出。
- 国税庁 No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは・No.2793 報酬・料金等の源泉徴収義務者 — 居住者と内国法人に支払う報酬・料金等の区別。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士・社会保険労務士にご確認ください。