休職中の社会保険料はどう徴収する?給与ゼロ・立替金の仕訳
結論から言うと、私傷病休職で給与がゼロになっても、在籍し、健康保険・厚生年金の被保険者資格が続く限り、社会保険料は原則として発生し続けます。給与がないため天引きはできませんが、会社の納付義務が消えるわけではありません。
実務では、本人から毎月振り込んでもらう、会社がいったん立て替えて後日回収する、復職後の給与から合意した分割額を控除する、といった方法を就業規則・休職通知書で明確にします。会社負担分まで本人に請求するのではなく、本人負担分だけを回収します。
無料ツール:社会保険料計算標準報酬月額、都道府県、年齢から本人負担・会社負担を確認できます。給与ゼロでも保険料が続く理由
健康保険料と厚生年金保険料は、実際にその月に支払われた給与へ直接料率を掛けるのではなく、被保険者の標準報酬月額を基礎に月単位で計算します。休職は労働契約を維持したまま就労義務を免除する社内制度であり、休職しただけで被保険者資格を喪失する手続ではありません。
事業主は被保険者負担分と事業主負担分をまとめ、対象月の翌月末までに納付します。日本年金機構は、当月支払う給与から前月の標準報酬月額にかかる本人負担保険料を差し引けると案内しています。しかし給与ゼロなら差し引く原資がないので、別の回収方法が必要になります。
月給30万円なら毎月いくらか
月給30万円の設例では、本人負担は月42,570円です。この記事の金額は、この設例で計算しています。
設例の前提:2026年4月分以降、協会けんぽ東京支部の一般被保険者、35歳、健康保険・厚生年金の標準報酬月額ともに30万円、厚生年金基金未加入。
| 保険料 | 本人負担(月額) |
|---|---|
| 健康保険 | 14,775円 |
| 子ども・子育て支援金 | 345円 |
| 厚生年金 | 27,450円 |
| 合計 | 42,570円 |
料率・標準報酬が変わらなければ、本人負担の累計は3か月で127,710円、6か月で255,420円です。市町村区域内に住所を有する40歳以上65歳未満の医療保険加入者(介護第2号)なら介護保険料も加わります。
雇用保険・住民税・労災保険との違い
雇用保険料は実際に支払われた賃金を基礎にするため、無給で対象賃金がゼロならその月の控除もゼロです。ここが、標準報酬月額で続く健康保険・厚生年金との違いです。住民税の特別徴収も別制度であり、給与ゼロなら普通徴収への切替え等を自治体と確認します。
| 項目 | 無給休職中の扱い | 会社の対応 |
|---|---|---|
| 健康保険・支援金 | 資格継続中は原則、標準報酬で発生 | 本人負担と会社負担を納付 |
| 厚生年金 | 資格継続中は原則、標準報酬で発生 | 本人負担と会社負担を納付 |
| 雇用保険 | 対象賃金ゼロなら保険料ゼロ | 賃金支払の有無を確認 |
| 住民税 | 前年所得に基づく税額は残る | 自治体通知・切替手続を確認 |
健康保険・支援金と厚生年金は、産前産後休業・育児休業等の免除期間を除きます。健康保険・支援金は、健康保険法158条の不徴収期間も除きます。
労災保険料は全額を事業主が負担するため、休職者に請求する本人負担分には含めません。
本人負担分の徴収方法
毎月、本人から会社口座へ振り込んでもらう
未回収残高を累積させないため、毎月の本人負担額と入金額を照合しましょう。休職通知書に、対象となる保険料、概算額、毎月の通知日、振込期限、振込先、手数料負担、料率改定時の扱いを記載します。確定額は給与台帳や本人向け明細で示し、単なる定額請求にしません。
会社が立て替え、復職後に回収する
傷病で収入が減った本人に配慮できますが、休職が長期化すると会社の債権が大きくなります。月給30万円の設例で料率・標準報酬が変わらない場合、立替額は3か月で127,710円、6か月で255,420円です。退職して復職給与が出ない可能性もあるため、回収時期、分割方法、退職時の精算方法を事前に書面化します。
復職後の給与から控除する
会社立替分は法定保険料そのものの通常控除とは時期が異なり、会社の立替債権の回収という性格を持ちます。給与から一括で差し引けば生活に大きな影響が出ます。賃金全額払いの原則も踏まえ、本人の自由意思に基づく明確な合意、賃金控除協定、無理のない分割額を確認します。
会社立替の仕訳
月給30万円の設例で、会社が1か月分を納付し、後日、本人から回収するときの仕訳です。
| 時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 会社が納付 | 立替金 42,570 法定福利費 43,650 | 普通預金 86,220 |
| 本人から回収 | 普通預金 42,570 | 立替金 42,570 |
- 立替金 42,570円:本人負担分です。
- 法定福利費 43,650円:会社負担42,570円に、会社が全額負担する子ども・子育て拠出金1,080円(標準報酬月額30万円×0.36%)を加えた額です。
- 普通預金 86,220円:会社が納付する合計額です。
後日、本人から42,570円の振込を受けたら、普通預金42,570円/立替金42,570円として消し込みます。
通常給与で先に本人負担を控除している場合は「預り金」を使う処理が一般的です。休職中に会社が本人分を負担した後で回収する場面では、預かっていないため「立替金」等で債権を示すほうが残高を追いやすくなります。会社の会計方針に合わせつつ、従業員別補助簿で発生月・請求・入金・残高を管理します。
傷病手当金との関係
傷病手当金から保険料は天引きできない
傷病手当金は給与ではなく健康保険の給付です。会社が代理受領する特別な運用を除き、協会けんぽ等から本人へ支払われる給付から会社が当然に社会保険料を天引きできるわけではありません。本人へ保険料の請求額と支払期限を別途通知します。
支給の要件と所得税
被保険者(任意継続被保険者を除く)が業務上・通勤災害を除く病気・けがの療養のため働けず、連続3日の待期後も休み、給与を受けられない等の要件を満たすと、健康保険の傷病手当金が支給されます。報酬の一部、出産手当金、障害年金等を受けられる場合は支給の調整があります(健康保険法103条・108条)。また給与が一部出る場合、給与の日額が傷病手当金の日額より少なければ差額支給となることがあります。
健康保険から支給される傷病手当金には、所得税はかかりません。一方、会社が休職中に支払う給与・休職給は給与所得として課税の対象です。傷病手当金の非課税と、休職中も続く社会保険料の本人負担は分けて扱います。
日額の計算
日額の基礎は、支給開始日の属する月以前の直近の継続した12か月間の各月の標準報酬月額(現在加入している保険者等が定めたものに限る)の平均額です。
支給開始日の属する月以前の直近の継続した期間で標準報酬月額が定められている月が12か月に満たない場合は、次のいずれか少ない額を使います。
- その各月の標準報酬月額の平均額
- 支給開始日の属する年度の前年度9月30日における全被保険者の標準報酬月額の平均額を報酬月額とみなしたときの標準報酬月額
この額を30で割って10円未満を四捨五入し、3分の2を掛けて1円未満を四捨五入した額が日額になります。詳しい要件と期間は傷病手当金の記事、試算は傷病手当金計算ツールで確認できます。
月額変更・免除の落とし穴
無給になったから翌月から標準報酬月額をゼロにする、という処理はしません。休職による一時的な無給だけを理由に自動的に等級を下げる制度ではありません。
随時改定(月額変更)の対象になる条件
随時改定(月額変更)は、次の3つの条件を満たす場合が対象です。
- 昇給・降給などで固定的賃金が変動した
- 変動月以降の継続した3か月とも、報酬の支払基礎日数が17日以上ある
- その3か月間の報酬の平均額と現在の標準報酬月額に、原則として2等級以上の差がある
支払基礎日数は、特定・任意特定適用事業所および国・地方公共団体の短時間労働者では11日以上で見ます。
3つの条件を満たしても、固定的賃金が上がって平均等級が下がる場合、固定的賃金が下がって平均等級が上がる場合は対象外です。残業手当などの非固定的賃金の変動だけでは随時改定は行いません。
対象となる場合に届出を行い、変動した報酬を支払った月から数えて4か月目に新しい標準報酬月額が適用されます。算定基礎届の対象月に休職が重なる場合も、日本年金機構の記載方法を確認します。
産前産後休業・育児休業の免除は私傷病休職に使えない
私傷病休職と、産前産後休業・育児休業は区別します。後二者には事業主が年金事務所または健康保険組合に申出して健康保険・厚生年金保険料が免除される制度がありますが、私傷病休職へ横滑りで適用はできません。
産前産後休業・育児休業等の主な免除条件は、次のとおりです。
- 産前産後休業:産前6週間(多児14週間)〜産後8週間のうち妊娠・出産を理由に働かない期間です。
- 育児休業等:子が3歳に達するまでで、開始月から終了日の翌日が属する月の前月までのほか、開始月に14日以上取得した場合もその月が対象です。
- 賞与:賞与月末日を含む連続1か月を超える育児休業等の場合に限り免除対象です。
- 厚生年金基金:基金の代行部分は事業主申出で免除し、加算部分は基金規約によります。
国民年金・国民健康保険の産前産後の免除・軽減は別制度で、被保険者が市区町村へ届出します。
退職するときの最後の保険料
- 前月から継続して加入していた人が退職により資格を喪失した場合は、原則として喪失月の前月分までです。
- 月末退職は翌月1日喪失となるため、退職月分も発生します。
- 資格取得月と喪失月が同じ同月得喪では、その月分も発生する例外があります。ただし、その月に別の厚生年金または国民年金の資格を取得した場合、先に喪失した厚生年金保険料は不要で、納付済みなら還付されます。
- 被保険者資格が継続するか
- 本人負担額を年度・地域・年齢で計算したか
- 毎月振込か会社立替かを文書で通知したか
- 従業員別の立替金残高を管理しているか
- 傷病手当金と給与・保険料回収を混同していないか
- 復職せず退職する場合の精算方法を確認したか
よくある質問
休職中は社会保険を抜けられますか?
一般の被保険者は、在籍・使用関係が続いているのに、保険料を避ける目的だけで自由に資格喪失するものではありません。退職等の資格喪失事由があるかを事実に基づいて判定します。例外として、最低賃金の減額特例を受ける一部の短時間労働者(特定減額特例対象者)で任意加入した人は、本人の申出により任意喪失できます。
傷病手当金から社会保険料を天引きできますか?
傷病手当金は保険者から本人に支給される給付で、会社の給与ではありません。会社が当然に控除するのではなく、本人負担保険料は別途請求・回収します。
会社が本人負担分も負担してあげる場合は?
会社が返済不要として負担する額は、従業員に対する経済的利益・報酬となる可能性があり、税・社会保険の扱いが連鎖します。単なる立替金と区別し、税理士・年金事務所等に確認します。
出典
- e-Gov法令検索「健康保険法」(保険料、傷病手当金、保険料の源泉控除)
- e-Gov法令検索「厚生年金保険法」84条(保険料の源泉控除)
- 日本年金機構「厚生年金保険料等の納付」(納付期限、前月分保険料の給与控除)
- 日本年金機構「保険料の計算方法について」
- 全国健康保険協会「傷病手当金」
- 国税庁「給与所得以外に、傷病手当金、育児休業手当金を受け取った場合」
- 国税庁「No.1400 給与所得」
- e-Gov法令検索「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」(保険料の負担)
- 宮城労働局「労災保険とは」
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は年金事務所・加入先健康保険・社会保険労務士・税理士にご確認ください。
健康保険法、厚生年金保険法、日本年金機構・協会けんぽの案内に基づいて作成。