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前受金とは — 売上になる日・消費税の時期・前受収益/仮受金/預り金との違いを条文で

結論から言うと、前受金とは、商品やサービスを引き渡す前に受け取った代金を、引き渡すまでのあいだ負債として置いておく科目です。受け取った時点ではまだ売上ではなく、売上になるのは引渡し・役務提供の日(法人税法22条の2第1項)、消費税の課税も引渡し・役務提供の時(消費税法基本通達9-1-27)で、どちらも入金日ではありません。手付金・内金・着手金・予約金・年会費の前受けは、名前が違っても帳簿の中身は同じ前受金です。

科目の名前が法律に出てこない雑収入預り金と違い、前受金は条文が名指ししている数少ない科目です。会社計算規則75条2項1号ハは流動負債の中に「前受金(受注工事、受注品等に対する前受金をいう。)」を置き、財務諸表等規則47条3号・49条1項8号も同じ名前で載せています。しかも財務諸表等規則は2021年の改正で、前受金の隣に「契約負債」という科目を定義つきで足しました。収益認識基準を適用する会社では、顧客からの前受けはこの契約負債に吸収されます。

この記事は、①条文の中の前受金(会社計算規則75条・財務諸表等規則47〜49条と契約負債の定義)、②前受収益・仮受金・預り金・契約負債との違いの表、③売上になるのはいつか(法人税法22条の2・法人税基本通達2-1-2/2-1-21の2/2-1-40の2・所得税基本通達36-8)、④消費税の時期(消費税法基本通達9-1-27・9-1-1・9-1-5・9-1-20・消費税法18条)とインボイスの交付時点、⑤仕訳例6本、の順に条文を引用しながら整理します。預り金の側から見た違いは預り金とはの節に、仮受金の処理は仮払金と仮受金の違いに、収益認識基準そのものは収益認識基準と法人税法22条の2に譲ります。

前受金とは — 会社計算規則75条と財務諸表等規則47条が名指しする流動負債。隣に「契約負債」の定義がある

貸借対照表の負債の部の区分を決めているのは会社計算規則75条です。1項で流動負債と固定負債に分けよと命じ、2項1号で流動負債に属する負債を「イ」から「ヌ」まで列挙しています。そのハが前受金で、括弧書きで中身まで書いています。

前受金(受注工事、受注品等に対する前受金をいう。)

「受注工事、受注品等に対する」という限定が、前受金の性格をそのまま表しています。自社がこれから引き渡す工事・商品・サービスに対して、先に受け取った代金です。同じ号のイ(支払手形)・ロ(買掛金)と並んでいるのは、どれも通常の営業取引から生じる負債だからで、こうした負債は返済までの期間が1年を超えても流動負債に置きます(正常営業循環基準)。同じ2項1号の「ト」には前受収益が、「ホ」には預り金が別の項目として並んでいます。

金融商品取引法の開示会社に適用される財務諸表等規則は、もう一段細かく書いています。47条が流動負債の範囲を、49条が表示の区分を定め、どちらにも前受金の名があります。

次に掲げる負債は、流動負債に属するものとする。

47条の号は「一 支払手形」「一の二 電子記録債権に係る債務」「二 買掛金」「二の二 契約負債」「三 前受金」「四 引当金」「五 通常の取引に関連して発生する未払金又は預り金で一般の取引慣行として発生後短期間に支払われるもの」「六 その他の負債で一年内に支払又は返済されると認められるもの」の8つです(枝番号を含めて数えています)。前受金は3号で、1年以内という限定が付いていません。1年以内の限定が付くのは6号の「その他の負債」だけで、工事の前受金のように引渡しまで1年を超えるものがあっても、営業取引から生じた前受金は流動負債のままです。

注目すべきは2号の2の「契約負債」です。2021年(令和3年)の改正で収益認識基準に対応して加わった号で、財務諸表等規則の中でこの概念を定義しているのはここだけです。

契約負債(顧客との契約に基づいて財貨若しくは役務を交付又は提供する義務に対して、当該顧客から支払を受けた対価又は当該対価を受領する期限が到来しているものであつて、かつ、未だ顧客との契約から生じる収益を認識していないものをいう。以下同じ。)

読み替えると「顧客から先にお金をもらった(または請求期限が来た)が、まだ売上にしていないもの」で、前受金とほとんど同じ中身です。違いは適用される会社です。収益認識基準(企業会計基準第29号)を適用する会社では、顧客との契約から生じる前受けは契約負債として扱い、前受金の科目はそれ以外(顧客との契約に当たらない前受け)に残ります。収益認識基準の適用が任意の中小企業では、従来どおり前受金のままで差し支えありません。

経過勘定である前受収益は、47条ではなく48条に別建てで置かれています。

未払費用及び前受収益は、流動負債に属するものとする。

表示の区分を定める49条1項は、流動負債を15の項目(「七の二 契約負債」を含む)に分けて科目名を付けて掲記せよと命じ、「八 前受金」「九 預り金」「十 前受収益」を別々の項目にしています。

流動負債に属する負債は、次に掲げる項目の区分に従い、当該負債を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。

ただし契約負債については5項に特則があり、他の項目と一括して表示したうえで、科目と金額を注記することが認められています。

第一項の規定にかかわらず、同項第七号の二に掲げる項目に属する負債については、他の項目に属する負債と一括して表示することができる。

ここまでをまとめると、貸借対照表の上で「先にもらったお金」は、前受金(営業取引の前受け)・前受収益(継続的役務の未経過分)・契約負債(収益認識基準を適用する会社の顧客からの前受け)の3つの名前で現れ、どれも流動負債です。預り金は「他人のお金」、仮受金は「内容未確定のお金」で、性格が違います。次の節で表にします。勘定科目の名前が法律で決まっているものと決まっていないものの全体像は勘定科目一覧に、貸借対照表の区分は貸借対照表の見方にまとめています。

前受収益・仮受金・預り金・契約負債との違い — 「売上になるか」「いつ消えるか」で分ける

前受金と取り違えやすい科目を、「自社の売上になるお金か」「何をしたら消えるか」の2軸で並べます。この2つを先に決めれば、科目は自然に決まります。

科目中身自社の売上になるかいつ消えるか条文上の位置
前受金商品・工事・サービスの代金を引渡し前に受け取ったもの(手付金・内金・着手金・予約金)なる(引渡し・役務提供の日に売上高へ)引き渡したとき、または契約が消えて返金したとき会社計算規則75条2項1号ハ/財規47条3号・49条1項8号
前受収益家賃・保守料・利息など、一定の契約で継続して役務を提供する場合の、まだ提供していない期間に対応する受取額なる(期間の経過に応じて収益へ)時間が経つと消える(翌期に振り戻す経過勘定)会社計算規則75条2項1号ト/財規48条・49条1項10号
契約負債収益認識基準を適用する会社で、顧客との契約に基づき対価を受け取った(または受領期限が到来した)が未だ収益を認識していないものなる(履行義務の充足に応じて収益へ)履行義務を充足したとき財規47条2号の2(定義)・49条1項7号の2・5項(一括表示と注記)
仮受金入金はあったが内容・相手が確定していないもの分からない(確定するまで)内容が確定して正しい科目へ振り替えたとき条文に名前なし。仮払金と仮受金の違い
預り金源泉所得税・社会保険料の本人負担分など他人のお金を一時的に預かっているものならない本人に代わって納付・返還したとき財規47条5号・49条1項9号。預り金とは
売掛金(対照)引き渡したがまだもらっていない代金(資産)売上は計上済み入金されたとき財規15条。売掛金と未収入金と未収収益の違い
前払金(対照)自社が仕入先に先に払った代金(資産)。前受金の鏡像—(仕入の前払い)商品・サービスを受け取ったとき前払費用と短期前払費用

前受金と前受収益の線は「1回の引渡しか、期間にわたる役務か」です。注文品の代金を先にもらったら前受金、1年分の保守料や家賃を先にもらったら前受収益(または前受金に入れて期末に未経過分を前受収益へ振り替え)です。どちらも売上になる点は同じで、違うのは売上になるタイミングが「一時点」か「期間按分」かだけです。この区別は法人税基本通達2-1-21の2・21の3の「履行義務が一定の期間にわたり充足されるもの」と「履行義務が一時点で充足されるもの」の区別と重なります(次節)。

前受金を「売上」で受けてしまう誤りが、いちばん多い入金の都度「普通預金/売上高」で起票していると、期末に引渡しが済んでいない分だけ売上が早く立ち、翌期の売上がその分へこみます。法人税では引渡し前の前受けは益金ではないので(法人税法22条の2第1項)、申告調整で戻すことになりますし、消費税でも引渡し前の前受金は課税売上ではありません(消費税法基本通達9-1-27)。入金と売上は別の事実として、入金時は前受金、引渡し時に売上、と2本に分けて起票します。

売上になるのはいつか — 引渡し・役務提供の日。返金不要の入会金・着手金は取引開始の日

法人の売上(益金)の時期は、法人税法22条の2第1項が「引渡し又は役務の提供の日」と定めています。

内国法人の資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供(以下この条において「資産の販売等」という。)に係る収益の額は、別段の定め(前条第四項を除く。)があるものを除き、その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。

前受金を受け取った日は、この「引渡し又は役務の提供の日」ではありません。だから前受金は受け取った事業年度の益金にならず、引き渡した事業年度の益金になります。では「引渡しの日」はいつかというと、法人税基本通達2-1-2が棚卸資産について、出荷・船積み・着荷・検収・使用収益可能の各日のうち、合理的で継続適用している日を認めています。

棚卸資産の販売に係る収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、その引渡しの日がいつであるかについては、例えば出荷した日、船積みをした日、相手方に着荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする。

役務の提供(サービス)は2つに分かれます。一時点で終わるサービスは完了の日、期間にわたるサービスはその期間のそれぞれの日が「役務の提供の日」です(法人税基本通達2-1-21の3・2-1-21の2)。

役務の提供のうち履行義務が一定の期間にわたり充足されるもの以外のもの(以下2-1-30までにおいて「履行義務が一時点で充足されるもの」という。)については、その引渡し等の日が法第22条の2第1項《収益の額》に規定する役務の提供の日に該当し、その収益の額は、引渡し等の日の属する事業年度の益金の額に算入されることに留意する。
その履行に着手した日から引渡し等の日……までの期間において履行義務が充足されていくそれぞれの日が法第22条の2第1項《収益の額》に規定する役務の提供の日に該当し、その収益の額は、その履行義務が充足されていくそれぞれの日の属する事業年度の益金の額に算入されることに留意する。

1年分の保守料を先に受け取ったケースがまさに後者で、受け取った全額を前受金(前受収益)に置き、月が経過するごとに売上へ振り替えます。

ここで1つ、前受金の原則から外れる例外を押さえておきます。受け取った時点で返金しないことが決まっている支払(入会金・頭金・着手金のうち精算して返さないもの)は、引渡し前でも取引開始の日の事業年度の益金です(法人税基本通達2-1-40の2)。

法人が、資産の販売等に係る取引を開始するに際して、相手方から中途解約のいかんにかかわらず取引の開始当初から返金が不要な支払を受ける場合には、原則としてその取引の開始の日の属する事業年度の益金の額に算入する。ただし、当該返金が不要な支払が、契約の特定期間における役務の提供ごとに、それと具体的な対応関係をもって発生する対価の前受けと認められる場合において、その支払を当該役務の提供の対価として、継続して当該特定期間の経過に応じてその収益の額を益金の額に算入しているときは、これを認める。

通達の注は、工業所有権の実施権の一時金、ノウハウの頭金、技術役務の着手金のうち精算して返さないもの、スポーツクラブの入会金を例に挙げています。「返さないお金」は前受金に置き続けられない、と覚えておくと実務で迷いません。逆に、期間に対応する対価の前受けと認められ、継続して期間按分しているなら前受金(前受収益)のままでよい、というのがただし書です。

個人事業主も考え方は同じです。所得税法36条1項は「その年において収入すべき金額」を収入金額とし、所得税基本通達36-8がその日を取引の種類ごとに定めています。

その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
事業所得の総収入金額の収入すべき時期は、別段の定めがある場合を除き、次の収入金額については、それぞれ次に掲げる日によるものとする。
棚卸資産の販売(試用販売及び委託販売を除く。)による収入金額については、その引渡しがあった日
人的役務の提供(請負を除く。)による収入金額については、その人的役務の提供を完了した日。

「収入すべき金額」は「収入した金額」ではありません。前受金は収入した金額ではあっても、引渡しが済むまでは収入すべき金額ではないので、その年の事業所得に入れません。貸借対照表を付ける青色申告(65万円・55万円控除)では、前受金は負債として期末残高に残ります。なお小規模事業者が所得税法67条の現金主義の特例を選んでいる場合だけは、収入した日で計上します(次節の消費税法18条と対になる規定です)。

① 契約・手付金の入金 ② 引渡し(役務の完了) ③ 残金の入金 会計 法人税 消費税 前受金(負債) 売上高+売掛金 売掛金の回収 益金ではない 益金(法22条の2第1項) 何も起きない 課税売上でない 課税売上(消基通9-1-27) 何も起きない 会計・法人税・消費税の3つとも、売上が立つのは②の引渡しの日。①の入金日でも③の残金日でもない。 例外1: 返金不要の入会金・頭金は①の時点で益金(法基通2-1-40の2) 例外2: 小規模事業者の現金主義(所法67条・消法18条)は入金日に計上
図1: 前受金の一生。入金(①)では負債が増えるだけで、売上・益金・課税売上はすべて引渡し(②)の日に立つ。残金の入金(③)は売掛金の回収で、損益には影響しない。

消費税 — 前受金を受け取った時には課税されない。インボイスの交付義務が生じるのも引渡しの時

消費税は「資産の譲渡等」を課税の対象にします(消費税法4条1項)。前受金を受け取った時点では、まだ資産を譲渡していませんし、役務も提供していません。消費税法基本通達9-1-27が、そのことを前受金・仮受金について名指しで書いています。

資産の譲渡等に係る前受金、仮受金に係る資産の譲渡等の時期は、法第18条《小規模事業者に係る資産の譲渡等の時期等の特例》の規定の適用を受ける事業者を除き、現実に資産の譲渡等を行った時となることに留意する。

国税庁のタックスアンサー No.6165「前受金や前払金などがあるとき」も、工事代金の前受金を受け取っても、受取の時期に関係なく実際に引渡しやサービスの提供があった時が売上げの時期になる、と同じことを書いています。では「資産の譲渡等を行った時」はいつか。棚卸資産は引渡しの日、請負は目的物の引渡し(役務の完了)の日です。

棚卸資産の譲渡を行った日は、その引渡しのあった日とする。
請負による資産の譲渡等の時期は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日とする。

法人税基本通達2-1-2と同じ並びで、消費税でも「引渡しの日」の判定は出荷・検収・使用収益可能の各日から合理的で継続適用している日を選びます(消費税法基本通達9-1-2)。つまり会計・法人税・消費税は同じ日に売上を立てるのが原則で、前受金の入金日に仮受消費税を立てる処理は、この原則から外れます。

家賃・使用料のような賃貸借の対価は少し違い、「支払を受けるべき日」が譲渡等の時期です。ここでも前受けに係る額は除くと明記されています。

資産の賃貸借契約に基づいて支払を受ける使用料等の額(前受けに係る額を除く。)を対価とする資産の譲渡等の時期は、当該契約又は慣習によりその支払を受けるべき日とする。

翌月分の家賃を当月末に受け取る契約なら、支払を受けるべき日は当月末で、その日の課税売上です。一方、1年分の家賃を一括で先にもらったような前受けは、この本文から外れ、各月の支払期日(=賃貸の期間)に応じて課税売上になります。

9-1-27が唯一の例外として挙げる消費税法18条は、所得税で現金主義を選んでいる小規模な個人事業者のための規定です。

個人事業者で所得税法第六十七条第一項又は第二項(小規模事業者等の収入及び費用の帰属時期)の規定の適用を受ける者の資産の譲渡等及び課税仕入れを行つた時期は、その資産の譲渡等に係る対価の額を収入した日及びその課税仕入れに係る費用の額を支出した日とすることができる。

この特例を使う事業者だけは、前受金を受け取った日が課税売上の日になります(申告書にその旨を付記します)。法人には適用がありません。

インボイス(適格請求書)の交付義務も、同じ時点で生じます。消費税法57条の4第1項は、交付義務の要件を「課税資産の譲渡等を行つた場合」としています。

適格請求書発行事業者は、国内において課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この条において同じ。)を行つた場合……から次に掲げる事項を記載した請求書、納品書

前受金の領収書は、課税資産の譲渡等を行う前に渡す書類なので、この条文上の交付義務の対象ではありません。引渡し時の請求書(または納品書)に登録番号・税率ごとの対価の額・消費税額を記載すれば要件を満たします。手付金の領収書に先に登録番号を書いておくこと自体を禁じる規定ではありませんが、消費税額の記載は引渡し時の書類で合計が合うようにしておくのが安全です。税込・税抜の換算と端数処理の確認は消費税計算ツールで、課税売上割合の影響は課税売上割合とはで扱っています。

もう1つ、前受金に絡んで消費税の判定が分かれるのがキャンセル時の扱いです。解約に伴って受け取る金銭は、逸失利益の賠償(キャンセル料・解約損害金)なら不課税、解約の事務の対価(解約手数料・取消手数料)なら課税です(消費税法基本通達5-5-2)。

予約の取消し、変更等に伴って予約を受けていた事業者が収受するキャンセル料、解約損害金等は、逸失利益等に対する損害賠償金であり、資産の譲渡等の対価に該当しないが、解約手数料、取消手数料又は払戻手数料等を対価とする役務の提供のように、資産の譲渡等に係る契約等の解約又は取消し等の請求に応じ、対価を得て行われる役務の提供は、資産の譲渡等に該当することに留意する。

通達の後段は、両方が区分されずに一括して授受される場合は全体を不課税として扱う、としています。約款で、解約等の時期にかかわらず一定額を手数料等として授受すると定めていれば課税、損害の賠償として受けると定めていれば不課税です。前受金からこれらを差し引いて返金するときに、差し引いた金額の性格を約款で確かめてから消費税コードを付けます。

お金を受け取った ① 自社の売上(対価)になるお金か? いいえ 売上にならない負債 ・他人のお金 → 預り金 ・借りたお金 → 借入金 ・内容が不明 → 仮受金 はい ② 引渡し・役務の提供は済んでいるか? はい 売掛金の回収 いいえ(まだ) ③ 返金不要で、取引開始時に確定する支払か? はい 受取時に売上 (法基通2-1-40の2) いいえ ④ 期間にわたる役務の、未経過分の対価か? はい 前受収益(期間按分で売上へ) いいえ 前受金(引渡しの日に売上へ)
図2: 入金を受けたときの科目の決め方。①で売上になるお金かを切り、②で引渡しの前か後かを切る。引渡し前でも返金不要なら受取時に売上(③)、期間按分する役務なら前受収益(④)、それ以外が前受金。収益認識基準を適用する会社では④以降の顧客からの前受けが契約負債になる。

仕訳例6本 — 手付金・引渡し・返金・解約手数料・年間契約の前受け・返金不要の入会金

税抜経理方式の法人の例です。消費税区分を右端に付けました。①〜④は受注品(税込1,100,000円・税抜1,000,000円)の取引を追っています。

取引借方貸方消費税補足
① 受注品の手付金330,000円(税込)が入金した普通預金 330,000前受金 330,000対象外引渡し前なので売上でも課税売上でもない(消基通9-1-27)。この時点で仮受消費税等を立てない
② 受注品を引き渡し、残金770,000円を請求した前受金 330,000
売掛金 770,000
売上高 1,000,000
仮受消費税等 100,000
課税10%引渡しの日に全額を売上に(法22条の2第1項・消基通9-1-1)。インボイスはこの請求書で交付(消法57条の4)
③ 注文が取り消され、手付金330,000円を全額返金した前受金 330,000普通預金 330,000対象外売上は一度も立っていないので、売上のマイナスではなく負債の取崩し
④ 取消しで約款の解約手数料11,000円(税込)を差し引いて返金した前受金 330,000普通預金 319,000
雑収入 10,000
仮受消費税等 1,000
課税10%(手数料部分)解約の請求に応じる役務の対価なので課税(消基通5-5-2)。逸失利益の賠償としてのキャンセル料なら不課税で、仮受消費税等は立てない
⑤ 1年契約の保守料132,000円(税込)を契約時に一括で受け取った普通預金 132,000前受金 132,000対象外月末ごとに「前受金 11,000/売上高 10,000・仮受消費税等 1,000」。履行義務が一定の期間にわたり充足される役務(法基通2-1-21の2)。期末残高は前受収益へ振り替えて表示してもよい
⑥ 会員契約に際して返金不要の入会金55,000円(税込)を受け取った普通預金 55,000売上高 50,000
仮受消費税等 5,000
課税10%返金不要の支払は取引開始の日の益金(法基通2-1-40の2)。前受金に置き続けない。月会費の前受けは⑤と同じ扱い

①と②を並べると、前受金は売上の「前借り」ではなく、売上を正しい日に立てるための置き場だと分かります。①で売上を立ててしまうと、期をまたいだときに売上が1期早く、仮受消費税も1期早く立ちます。③は返金しても損益に触らないこと、④は差し引いた金額の性格で消費税が変わること、⑤⑥は「返すか返さないか」「期間に対応するか」で売上の日が動くことを、それぞれ1行で示しています。

期末に前受金の残高が残っているときは、明細(誰から・いつ・何の代金か)を内訳書で説明できる状態にしておきます。法人税の申告書に添付する勘定科目内訳明細書では、前受金は仮受金・預り金とまとめて1枚の内訳書に載せます(勘定科目内訳明細書)。決算で前受金を売上に振り替え忘れたときの取り返し方は決算整理仕訳とはにまとめています。

消費税計算ツール — 前受金と残金を合わせた税込額から、引渡し時に立てる消費税額と端数処理を確認する

よくある質問

Q. 前受金とは何ですか?

A. 商品やサービスを引き渡す前に受け取った代金を、引き渡すまでのあいだ負債として置いておく科目です。会社計算規則75条2項1号ハが流動負債の中に「受注工事、受注品等に対する前受金」として名指しし、財務諸表等規則47条3号・49条1項8号にも載っています。手付金・内金・着手金・予約金と呼び方が違っても、帳簿では同じ前受金です。

Q. 前受金はいつ売上になりますか?

A. 入金日ではなく、引渡し・役務提供の日です。法人税法22条の2第1項が益金の時期を目的物の引渡し又は役務の提供の日と定め、所得税基本通達36-8も棚卸資産の販売は引渡しがあった日、人的役務の提供は完了した日としています。例外は返金不要の入会金・頭金で、法人税基本通達2-1-40の2により取引開始の日の事業年度の益金になります。

Q. 前受金を受け取ったときに消費税はかかりますか?

A. かかりません。消費税法基本通達9-1-27は、前受金・仮受金に係る資産の譲渡等の時期を現実に資産の譲渡等を行った時としています。前受金の入金時には仮受消費税を立てず、引渡し・役務提供の時に売上と一緒に計上します。例外は、所得税法67条の現金主義を選んだ小規模な個人事業者で、消費税法18条により収入した日を譲渡等の時期にできます。

Q. 前受金と前受収益はどう違いますか?

A. 前受金は1回の引渡しに対する代金の前受け、前受収益は家賃・保守料・利息のように一定の契約で継続して役務を提供する場合の、まだ提供していない期間に対応する受取額です。どちらも売上になりますが、前受金は引渡しの日に一時点で、前受収益は期間の経過に応じて売上になります。会社計算規則75条2項1号はハ(前受金)とト(前受収益)を別項目にし、財務諸表等規則は47条と48条で分けています。

Q. 前受金と預り金・仮受金の違いは?

A. 前受金は自社の売上になるお金、預り金は源泉所得税や社会保険料のように他人のお金を一時的に預かっているもので売上にはなりません。仮受金は入金はあったが内容や相手が確定していないもので、確定した時点で前受金・売掛金の回収・預り金など正しい科目に振り替えます。判定は「売上になるか」「内容が確定しているか」の順です。

Q. 契約負債と前受金は同じものですか?

A. 中身はほぼ同じです。財務諸表等規則47条2号の2は契約負債を、顧客との契約に基づいて対価を受け取った(または受領期限が到来した)がまだ収益を認識していないものと定義しています。収益認識基準を適用する会社では顧客からの前受けを契約負債として扱い、適用が任意の中小企業では従来どおり前受金で差し支えありません。財務諸表等規則49条5項により、契約負債は他の項目と一括表示して注記する方法も認められています。

Q. 注文がキャンセルされて前受金を返すとき、消費税はどうなりますか?

A. 全額返金なら、売上が一度も立っていないので負債を取り崩すだけで消費税も動きません。差し引いて返す金額がある場合、その性格で分かれます。逸失利益の賠償としてのキャンセル料・解約損害金は不課税、解約の事務の対価としての解約手数料・取消手数料は課税です(消費税法基本通達5-5-2)。両方が区分されず一括なら全体を不課税として扱います。

Q. 前受金の領収書にインボイスの登録番号は要りますか?

A. 交付義務の対象ではありません。消費税法57条の4第1項は、適格請求書の交付義務を課税資産の譲渡等を行った場合に生じるものとしており、前受金の受領はその前の時点です。引渡し時の請求書・納品書に登録番号・税率ごとの対価の額・消費税額を記載すれば足ります。前受金の領収書に登録番号を書くこと自体は禁じられていませんが、消費税額は引渡し時の書類で合計が合うようにします。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。

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