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決算整理仕訳 — 入れ忘れを申告書で取り返せるかは「損金経理」の3文字で決まる

決算日を過ぎてから「減価償却を計上し忘れていた」「未払いの家賃を拾っていなかった」と気づく。そういうとき現場で最初に出る質問は決まっています。「申告書のほうで直せますか?」

結論から言うと、直せるものと直せないものに割れます。そして分かれ目は仕訳の難しさでも金額の大きさでもなく、その項目の根拠条文に「損金経理」という3文字が書かれているかどうかです。書かれていれば、帳簿に入れること自体が損金算入の要件なので、申告書だけでは取り返せません。書かれていなければ、その事業年度に帰属する費用かどうかという別の土俵の話になります。

この記事は、決算整理仕訳の一覧を並べるのではなく、各項目を「入れ忘れたらどうなるか」で仕分けることを目的にしています。根拠はすべて条文で確かめます。

この記事の要点
  • 法人税法にも会社法にも「決算整理」という言葉は無い。簿記の用語であって、法令用語ではない
  • それでも効くのは法人税法22条4項の公正処理基準を経由するから。会計の慣行がそのまま課税所得に入ってくる
  • 損金経理=「確定した決算において費用又は損失として経理すること」(法人税法2条25号)。定義そのものが「帳簿に書け」と言っている
  • 損金経理が要るもの: 減価償却費・繰延資産の償却・評価損・貸倒引当金・少額減価償却資産・一括償却資産
  • 要らないもの: 未払費用・前払費用・未収収益・前受収益(22条3項2号の債務確定基準の側の話)
  • 「償却費以外の費用で」——22条3項2号の括弧書きは、減価償却費だけを債務確定基準の外に出している
  • 3月決算の設例で、同じ100万円の入れ忘れが取り返せる/取り返せないに割れる様子を示す

決算整理仕訳とは — 条文に「決算整理」という言葉は無い

決算整理仕訳とは、期中の記帳を締めたあと、その事業年度の損益と期末の財政状態を正しく表すために決算日付で追加する仕訳のことです。減価償却費の計上、経過勘定(未払費用・前払費用・未収収益・前受収益)の振替、棚卸資産の把握、引当金の繰入などが代表例です。

ここで先に押さえておきたいことがあります。「決算整理」も「決算整理仕訳」も、法令用語ではありません。法人税法にも会社法にも、その言葉で定義された条文はありません。簿記の教科書と実務の言葉です。

では、なぜ税務で問題になるのか。法人税法22条4項が橋渡しをしているからです。

第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

いわゆる公正処理基準です。課税所得の計算は、条文が個別に「別段の定め」を置いていない限り、会計の慣行に従って行われます。決算整理は会計の慣行の側にあるので、法令に名前が無くても課税所得に効いてくる、という構造です。

ここが実務の分かれ目決算整理仕訳のうち、公正処理基準だけで効いているものと、「別段の定め」が個別に条件を付けているものがあります。後者の条件がまさに「損金経理」で、そこに入れ忘れの致命傷が生まれます。

なぜ帳簿に入れないと間に合わないのか — 確定決算主義

法人税の申告書は、帳簿とは独立に作れる書類ではありません。法人税法74条1項がこう定めています。

内国法人は、各事業年度終了の日の翌日から二月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。

「確定した決算に基づき」——ここが確定決算主義と呼ばれる部分です。確定した決算とは、株主総会の承認など、会社法上の手続で確定した計算書類のことを指します。申告書はその上に載る二階部分であって、一階を作り直さずに二階だけ書き換えることはできません。

決算日 3/31 株主総会で承認 =「確定した決算」 申告期限 5/31(2か月以内) 決算整理仕訳を入れられる期間 申告調整だけの期間(帳簿は動かせない) 損金経理要件のある項目は、左の帯の中で帳簿に入れないと、その事業年度では損金にならない
決算整理仕訳を入れられるのは決算が確定するまで。確定後にできるのは申告調整だけで、損金経理要件のある項目はそこでは救えない。

「損金経理」の定義が、そのまま答えになっている

損金経理という言葉は、法人税法2条25号に定義があります。

法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいう。

短い定義ですが、実務上の効き目は大きいものです。ある条文が「損金経理をした金額」を損金算入の対象にしていれば、それは「確定した決算で費用に落としていない限り、損金にしない」と言っているのと同じことになります。金額が正しくても、計算根拠が説明できても、帳簿に費用として入っていなければ要件を満たしません。

実際の条文を見ると、この3文字は要件の位置にはっきり置かれています。減価償却費(31条1項)はこうです。

その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち

資産の評価損(33条2項)も同じ形です。

その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは

貸倒引当金(52条1項)も同じです。

損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については

少額減価償却資産(法人税法施行令133条1項)は、政令の側に同じ要件が置かれています。

その内国法人が当該資産の当該取得価額に相当する金額につきその事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理をしたときは、その損金経理をした金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
読み方のコツ決算整理仕訳を入れ忘れたときにやることは、記憶をたどることではなく、その項目の根拠条文を開いて「損金経理」を検索することです。あれば帳簿の問題、なければ帰属年度の問題。判断の順序が変わります。

損金経理が要るもの・要らないもの(一覧)

代表的な決算整理仕訳を、損金経理要件の有無で仕分けると次のようになります。

決算整理仕訳根拠条文損金経理要件入れ忘れたとき
減価償却費の計上法人税法31条1項ありその事業年度では損金にならない(償却不足額として翌期以降へ繰り越される)
繰延資産の償却法人税法32条1項あり同上
資産の評価損法人税法33条2項ありその事業年度では損金にならない
貸倒引当金の繰入法人税法52条1項ありその事業年度では損金にならない
少額減価償却資産の一時損金算入施行令133条1項あり適用を受けられず、通常の減価償却資産として扱う
一括償却資産の3年均等償却施行令133条の2あり同上
未払費用・未払金の計上法人税法22条3項2号なし債務が確定していれば、その事業年度に帰属する費用である(帳簿の記載が要件ではない)
前払費用の繰延べ法人税法22条3項2号なし翌期の費用を当期に落としていた場合は、当期の損金にならない(逆方向の誤り)
未収収益・前受収益の振替法人税法22条2項なし益金の帰属年度の問題として扱う
売上原価の確定(期末棚卸)法人税法22条3項1号なし原価の額そのものの問題。棚卸を落とすと原価が過大になる

この表は「入れ忘れを申告書で救えるかどうか」の目安であって、実際に更正の請求や修正申告ができるかは事案ごとに異なります。損金経理要件が無い項目であっても、自動的に申告調整が認められるという意味ではありません。個別の判断は税理士へご確認ください。

決算整理仕訳を入れ忘れた 根拠条文に「損金経理」があるか ある ない 帳簿に入っていないこと自体が 要件不充足。申告書では救えない 帰属年度の問題。債務確定なら その年度の費用として検討できる 例: 減価償却費・評価損・貸倒引当金・少額減価償却資産 例: 未払費用・未収収益・棚卸による売上原価の確定
入れ忘れの重さは、仕訳の種類ではなく根拠条文の書きぶりで決まる。

22条3項2号の括弧書き — 減価償却費だけが外に出ている

ここが、決算整理仕訳を条文の側から見たときにいちばん面白い一段です。損金の額を定める22条3項の2号を、括弧書きまで含めて読んでみます。

前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

費用が損金になるには、期末までに債務が確定していることが必要——これがいわゆる債務確定基準です。ところが括弧書きの先頭に、「償却費以外の費用で」という限定が置かれています。

つまり、除外の対象になっているのは償却費以外の費用だけで、償却費は債務確定基準の外に置かれているということです。減価償却費に相手方はいませんから、債務が確定することは原理的にありません。もしこの括弧書きが無ければ、減価償却費は「債務の確定しないもの」として一律に除外されてしまいます。

2つの要件は入れ替わっている減価償却費は債務確定基準の外にある代わりに、損金経理という別の要件を31条1項で課されています。未払費用は損金経理を要求されない代わりに、債務確定基準の中にいます。どちらも要件が無いわけではなく、掛かっている要件が違うだけです。ここを「減価償却は特別扱い」と大雑把に覚えると、入れ忘れたときの打ち手を間違えます。

設例: 3月決算で4つ入れ忘れた場合

3月決算の中小企業(資本金3,000万円・卸売業)が、5月の申告書作成中に次の4件の決算整理漏れに気づいたとします。金額はいずれも当期分です。

入れ忘れた項目金額損金経理要件当期の所得への影響
機械装置の減価償却費1,000,000円あり(法31条1項)減らせない(所得はその分だけ多いまま)
3月分の外注費(4月支払・役務提供は3月に完了)1,000,000円なし(法22条3項2号)債務確定していれば当期の費用として検討できる
取得価額8万円のPCを10台、3月に使用開始800,000円あり(令133条1項)一時損金算入は使えない
期末棚卸で判明した商品の数量差500,000円なし(法22条3項1号)売上原価の額そのものの是正

合計330万円の漏れですが、性質は同じではありません。損金経理要件のある180万円(減価償却費100万円+少額減価償却資産80万円)は、決算が確定してしまった時点でその事業年度の損金にする道が閉じています。一方、外注費100万円と棚卸差異50万円は帰属年度の問題として扱われます。

税率の影響を粗く見ます。中小法人の年800万円以下の部分の法人税率を15%として計算すると、閉じてしまった180万円に対応する法人税相当額は1,800,000円 × 15% = 270,000円です(地方法人税・法人住民税・事業税は含めていません)。同じ「入れ忘れ」でも、この27万円分だけは性質が違う、ということになります。

ただし全部が消えるわけではない減価償却費の入れ忘れは、その事業年度の損金にならないだけで、資産の帳簿価額はその分だけ高いまま残ります。したがって翌期以降の償却余地や、売却・除却したときの損益を通じて、いずれは費用になります。消えるのではなく、後ろにずれる。少額減価償却資産も同じで、一時に落とせないだけで通常の減価償却資産として償却していくことになります。

上記の税率は法人税の本税部分のみを用いた粗い試算です。実際の税負担は地方法人税・法人住民税・法人事業税を含めて計算する必要があり、また中小法人の軽減税率の適用要件(資本金の額、適用除外事業者に該当しないこと等)を満たしているかによって変わります。

減価償却費を計算する(定額法・定率法)→

翌期に振り戻すもの・振り戻さないもの

決算整理仕訳は、翌期首に反対仕訳を入れて戻すもの(再振替)と、戻さないものに分かれます。ここを混ぜると翌期の損益が二重になります。

項目翌期首の再振替理由
未払費用・前払費用・未収収益・前受収益する期間を切るための一時的な振替なので、翌期に戻して実際の入出金で処理する
減価償却費しない資産の帳簿価額を実際に減らす仕訳であり、一時的な振替ではない
貸倒引当金洗替えの場合は戻す期首に前期繰入額を戻入し、期末に当期分を繰り入れる方法(洗替法)を採る場合
売上原価の確定(期末棚卸)しない期末商品が翌期の期首商品になるだけで、戻す仕訳ではない

経過勘定の詳しい仕組みは、未払費用と未払金と買掛金の違い前払費用で個別に整理しています。

消費税 — 決算整理仕訳の多くは課税対象外

見落とされやすいのが消費税の税区分です。決算整理仕訳の主要なものは、資産の譲渡等にも課税仕入れにも当たりません。

ここに課税区分を付けてしまうと、仕入税額控除の金額が実態からずれます。税抜経理を採っている場合、決算整理仕訳の税区分は原則として対象外で入れる、と覚えておくと事故が減ります。

消費税の個別の取扱いは、税抜経理か税込経理か、原則課税か簡易課税か、また各仕訳の内容によって異なります。本記事では法人税法の損金経理要件を主題としており、消費税法の条文までは確認していません。個別の判断は税理士へご確認ください。

よくある間違い

1. 「申告書で調整すればいい」を全部に当てはめるこの記事の主題です。損金経理要件のある項目は、申告調整では要件を満たしません。先に条文を開くのが正しい順序です。
2. 決算が確定する前なのに、直せないと思い込む逆の間違いもあります。株主総会の承認前であれば、決算整理仕訳を追加して計算書類を作り直す余地があります。「決算日を過ぎた」と「決算が確定した」は違います。74条1項が言っているのは後者です。
3. 減価償却費の入れ忘れを「消えた」と考えるその事業年度の損金にならないだけで、帳簿価額は減っていません。翌期以降の償却や譲渡時の損益を通じて回収されます。失うのは金額ではなく時期です。
4. 未払費用を「払っていないから計上できない」と考える債務確定基準が見ているのは支払いの有無ではなく、債務が確定しているかどうかです。役務の提供が終わっていて金額が確定していれば、支払いが翌期でも当期の費用として検討する対象になります。

よくある質問

Q. 決算整理仕訳という言葉は法人税法に出てきますか?

A. 出てきません。決算整理・決算整理仕訳は簿記および実務の用語であって、法人税法にも会社法にもその語で定義された条文はありません。それでも課税所得に効くのは、法人税法22条4項が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする」と定めており、会計の慣行が別段の定めのない範囲でそのまま所得計算に入ってくるためです。

Q. 減価償却費を計上し忘れました。申告書で損金にできますか?

A. その事業年度についてはできないと考えるのが原則です。法人税法31条1項は損金算入の対象を「その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額」と定めており、帳簿に費用として計上していること自体が要件になっているためです。ただし金額が消えるわけではなく、資産の帳簿価額はその分だけ高いまま残るので、翌期以降の償却や譲渡・除却の際の損益を通じて費用になります。個別の判断は税理士へご確認ください。

Q. 損金経理とは具体的に何をすることですか?

A. 法人税法2条25号が「法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいう」と定義しています。確定した決算とは株主総会の承認など会社法上の手続で確定した計算書類を指すので、その計算書類の損益計算書に費用または損失として金額が載っていることが必要になります。申告書の別表で加減算しただけでは、この定義には当たりません。

Q. 未払費用の計上漏れも同じように救えませんか?

A. 未払費用には損金経理要件がありません。法人税法22条3項2号は当該事業年度の販売費・一般管理費その他の費用を損金の額とし、括弧書きで「償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないもの」を除いています。したがって論点は帳簿に書いたかどうかではなく、期末までに債務が確定していたかどうかになります。ただし実際に更正の請求が認められるかは事案によりますので、税理士へご確認ください。

Q. なぜ22条3項2号にわざわざ「償却費以外の費用で」と書いてあるのですか?

A. 減価償却費には相手方がおらず、債務が確定することが原理的にないためです。この限定が無ければ減価償却費は「債務の確定しないもの」として一律に除外されてしまいます。減価償却費は債務確定基準の外に置かれる代わりに、法人税法31条1項で損金経理という別の要件を課されているという関係になっています。

Q. 10万円未満のパソコンを買いましたが、決算で費用処理を忘れました。

A. 法人税法施行令133条1項の一時損金算入は「その事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理をしたとき」に適用されるので、その事業年度の決算で費用にしていない場合は適用を受けられません。ただし通常の減価償却資産として耐用年数に応じて償却していくことになるので、費用にならなくなるわけではありません。20万円未満であれば施行令133条の2の一括償却資産の制度もありますが、こちらも損金経理が要件になっています。

Q. 決算整理仕訳の消費税の税区分はどうすればよいですか?

A. 減価償却費・引当金繰入・経過勘定の振替は、資産の譲渡等にも課税仕入れにも当たらないため、一般には対象外として処理します。資産の取得時にすでに課税仕入れの処理が済んでいるため、償却の段階で重ねて税区分を付けると仕入税額控除が実態からずれます。ただし取扱いは経理方式や取引の内容によって異なるので、個別の判断は税理士へご確認ください。

Q. 決算日を過ぎてしまったら、もう決算整理仕訳は入れられませんか?

A. 決算日を過ぎたことと決算が確定したことは別です。法人税法74条1項が申告の前提としているのは「確定した決算」であり、株主総会の承認等によって計算書類が確定する前であれば、決算整理仕訳を追加して計算書類を作り直す余地があります。確定した後にできるのは申告調整だけになります。

出典

本記事の確認範囲は、上記の法人税法および法人税法施行令の条文本文です。法人税基本通達、企業会計原則および企業会計基準委員会の各会計基準、中小企業の会計に関する指針および基本要領、会社法および会社計算規則の計算書類の確定に関する規定、消費税法の各条文、租税特別措置法上の特例(特別償却・圧縮記帳等)、および国税通則法の更正の請求に関する規定は確認していません。更正の請求や修正申告が実際に認められるかは、上記のうち確認していない法令の適用を受けるため、本記事の仕分けは目安にとどまります。また各法令は取得時点のリビジョンで確認しており、これより後に施行される改正は反映していません。

この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。どの決算整理仕訳が必要か、入れ忘れた場合にどう対応するかは、その会社の状況や決算の確定状況によって異なります。個別の判断については税理士へご確認ください。

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