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給与から控除できるもの・できないもの|法定控除と労使協定

結論から言うと、会社が給与から控除できる原則的な根拠は、法令に根拠があるものと、事業場の過半数労働組合(ない場合は適正に選出された過半数代表者)との書面による労使協定で定めたもの(協定で控除できるのは事理明白なものに限る)です。本人に説明した、就業規則に書いた、雇用契約書に署名をもらった、という事情だけで自由に天引きできるわけではありません。

所得税、住民税、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、子ども・子育て支援金は法定控除です。一方、社宅費、食事代、組合費・親睦会費、財形貯蓄などは、その事業場の過半数組合(ない場合は適正に選出された過半数代表者)との書面による賃金控除協定に項目を具体的に定めて控除します(協定で控除できるのは事理明白なものに限る)。制服代、備品の紛失代、遅刻の「罰金」、会社の損害を一方的に給与から引く処理は、全額払いの原則と衝突します。

賃金支払の5原則と全額払い

労働基準法24条は、賃金を通貨で、直接労働者に、全額を、毎月1回以上、一定の期日に支払うことを原則とします。給与控除で問題になるのは3番目の「全額払い」です。労働者の生活の基礎となる賃金を、会社が一方的な債権回収の手段にしないための規定です。

控除可否の二段階判定まず法令に控除根拠があるかを確認します。なければ、事業場の過半数組合(ない場合は適正に選出された過半数代表者)との書面協定に、控除項目が具体的に含まれるか(事理明白なものに限る)を確認します。どちらもなければ、給与からは引かず、別途の精算を検討するのが基本です。
給与控除の判定フロー給与から引きたい項目法令に根拠がある?税・社会保険料など法定控除いいえ過半数組合等との書面協定に具体的な定めがある?協定控除一方的な控除は不可
就業規則や個別契約だけでなく、24条所定の控除根拠を確認する(協定は事業場の過半数組合、ない場合は投票・挙手等で使用者の意向によらず選ばれた過半数代表者(原則として管理監督者以外。例外は労働基準法施行規則6条の2第2項)と書面で結ぶ。協定控除は事理明白なものに限る)
項目主な根拠実務上の注意
所得税所得税法の源泉徴収課税支給額、扶養申告、税額表により計算
住民税地方税法の特別徴収自治体から通知された税額を通知に従って控除(通常は月割り。例外は地方税法321条の5)
健康保険・厚生年金健康保険法167条、厚生年金保険法84条通貨で報酬を支払う場合、被保険者負担分(原則は折半。健康保険組合は規約で異なる場合あり=健康保険法162条)の前月分を、報酬から控除できる(退職時の扱いは健康保険法167条1項かっこ書)。ただし健康保険料は、前月から引き続き加入していた人が資格を喪失した月(資格喪失日は原則として退職日の翌日。例外は健康保険法36条かっこ書)の分は算定されず(健康保険法156条3項・36条)、育児休業等・産前産後休業で申出により徴収されない月(同法159条・159条の3)も控除しない
雇用保険労働保険徴収法32条(本人負担は31条)対象賃金に年度・事業区分の料率を乗じる
子ども・子育て支援金子ども・子育て支援法の医療保険者への徴収(令和8年度から)協会けんぽの支援金率は令和8年4月分(5月納付分)から適用。標準報酬月額に支援金率を乗じた額のうち、被保険者負担分(原則は折半。健康保険組合は規約で異なる場合あり=健康保険法162条)の前月分を、健康保険料とあわせて報酬から控除できる(通貨で報酬を支払う場合。退職時の扱いは健康保険法167条1項かっこ書)。ただし前月から引き続き加入していた人が資格を喪失した月(資格喪失日は原則として退職日の翌日。例外は健康保険法36条かっこ書)の分は算定されず(健康保険法156条3項・36条)、育児休業等・産前産後休業で申出により徴収されない月(同法159条・159条の3)も控除しない

法定控除でも、好きな額を引けるわけではありません。通知額、標準報酬月額、対象賃金、適用料率など、それぞれの制度の算定根拠に従います。健康保険と厚生年金は標準報酬月額で計算するため、基本給に単純に料率を掛けた額と一致しない場合があります。手取りの全体像は手取り計算ツール、計算順序は手取り給与の計算方法で確認できます。

労使協定で控除できるもの(事理明白なものに限る)

法令に直接の根拠がない福利厚生費等は、その事業場の過半数組合(ない場合は適正に選出された過半数代表者)との書面の賃金控除協定で項目を定めます(協定で控除できるのは事理明白なものに限る)。代表例は、社宅・寮費、購買代金、団体保険料、財形貯蓄、労働組合費、親睦会費です。協定があれば何でも控除できるわけではなく、事理明白なものに限られます。ただし「その他会社が必要と認めるもの」のような包括表現だけでは、控除対象と金額の根拠が不明瞭です。協定では控除項目を具体化し、賃金台帳には控除額を記録します。給与明細の法定記載事項は別に確認します。

協定の相手方は、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があればその労働組合、なければ労働者の過半数を代表する者です。代表者は、原則として管理監督者ではなく(管理監督者しかいない事業場の例外は労働基準法施行規則6条の2第2項)、協定を締結する者を選ぶことを明らかにした投票・挙手などの手続で、使用者の意向によらず選ばれている必要があります。会社が指名した人の署名だけで済ませると、協定の前提が崩れます。

社宅費は、役員・従業員に対する税務上の取扱いとは別に考える点も重要です。給与控除の適法性と、社宅賃料相当額の税務計算は別問題です。役員社宅の計算は役員社宅の賃貸料相当額計算ツールで扱っています。

締結した協定は労働者に周知する

賃金控除の労使協定は、結んだ後に使用者が労働者へ周知する必要があります。労働基準法106条1項は、24条1項ただし書の協定を周知の対象に含めています。

周知の方法は、常時各作業場の見やすい場所に掲示・備え付ける方法、労働者に書面を交付する方法、使用者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル等に記録し、かつ、各作業場に労働者が記録の内容を常時確認できる機器を設置する方法です(労働基準法施行規則52条の2)。

協定書の記載例で確認する項目

神奈川労働局の賃金控除協定書の記載例には、控除の対象となる具体的な項目と、控除を行う賃金支払日が示されています。控除項目ごとに、どの賃金支払日に控除するかが分かるように定めます。また、協定が有効になる日(発効日)と、いずれかの当事者が協定で定めた日数(記載例では「○○日」)前までに文書で破棄を通告しない限り効力が続く旨も記載されています。これは協定の効力・有効期間に関する記載例であり、法定の有効期間や毎年更新の義務を示すものではありません。

控除できない・慎重な判断が必要なもの

損害賠償や備品の紛失代

ミスで会社に損害が出たとしても、会社が損害額を決め、その全額を給与から一方的に差し引く処理はできません。損害賠償債権があるか、労働者の責任範囲がどこまでかという問題と、賃金を全額支払う義務は別です。制服・鍵・端末の紛失も同じで、賃金控除協定があれば無条件に損害全額を回収できる、という意味にはなりません。

遅刻・欠勤控除と罰金は違う

働かなかった時間に対応する賃金を支給しない「ノーワーク・ノーペイ」の計算と、制裁として定額を引く「罰金」は区別します。月給30万円、所定労働時間160時間の人が1時間遅刻した例なら、時間単価を基礎に不就労1時間分を計算する問題です。腹いせに5,000円を引く処理ではありません。減給の制裁には労基法91条の別の上限規制もあります。

貸付金・過払い賃金との相殺

会社の貸付金が残っていても、会社の意思だけで最終給与と相殺するのは避けます。個別の相殺合意については、労働者の自由意思に基づくことが客観的に認められるかが問題になります。過払い調整も、時期・方法・金額により生活を脅かさないかが変わるため、通常の法定控除と同列には扱えません。

給与計算の実務手順と具体例

総支給30万円の従業員について、社宅費5万円、食事代5,000円、親睦会費3,000円を回収する例を考えます。税・社会保険料は各制度に従って控除します。社宅費等は、その事業場の過半数組合(ない場合は適正に選出された過半数代表者)と書面で結んだ賃金控除協定が発効済みで、文書による破棄の通告で終了していないこと、その協定に3項目が事理明白なものとして具体的に記載され、本人別の利用・請求額と一致するかを確認します。協定に親睦会費しかなければ、社宅費と食事代を当然には追加できません。

  1. 総支給額と欠勤控除を確定する
  2. 課税・非課税、社会保険・雇用保険の対象を分ける
  3. 法定控除を制度ごとの根拠で計算する
  4. 協定控除は、協定の締結当事者(その事業場の過半数組合(ない場合は適正に選出された過半数代表者))と書面、発効済みで破棄されていないこと、事理明白な項目か、本人の利用明細、金額を照合する
  5. 給与明細に各控除を分け、差引支給額と振込額を一致させる
同意書と賃金控除協定は区別します。労基法24条の全額払いと書面協定の要件を確認し、個別の相殺への同意については労働者の自由意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかが問題になります。
この記事のまとめ
  • 給与は全額払いが原則
  • 税・社会保険料等は法令に基づく法定控除
  • 社宅費・食事代等は、その事業場の過半数組合(ない場合は適正に選出された過半数代表者)との書面の賃金控除協定で具体化する(事理明白なものに限る)
  • 損害額や罰金を会社が一方的に天引きしない
  • 協定の存在だけでなく、代表者の選出と実際の請求根拠も確認する
手取り額を計算する

よくある質問

就業規則に書けば社宅費を給与から引けますか?

就業規則だけでなく、労基法24条1項の賃金控除協定を確認します。その事業場の過半数組合(ない場合は適正に選出された過半数代表者)との書面協定に、社宅費を具体的に定めます(協定で控除できるのは事理明白なものに限る)。

本人が同意すれば損害額を給与から引けますか?

単なる署名があれば常に可能というわけではありません。損害賠償の成立・範囲と賃金全額払いは別問題で、相殺合意も本人の自由意思が客観的に認められるかが問われます。

労使協定は労働基準監督署への届出が必要ですか?

賃金控除協定は、36協定と異なり、労働基準監督署への届出が効力要件ではありません。ただし書面を作成し、対象項目と締結当事者を確認できる状態で保存します。

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出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は労働基準監督署・社会保険労務士・弁護士にご確認ください。

労働基準法24条1項、厚生労働省「確かめよう労働条件」に基づいて作成。

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