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事業承継税制の特例措置|特例承継計画の期限は令和9年9月30日まで延長

結論から言うと、事業承継税制の特例措置を使うための「特例承継計画」の提出期限は、令和9年9月30日です。よく見かける「令和8年3月31日まで」という期限は、令和8年4月1日施行の省令改正で書き換えられた古い日付です。

この違いは実害になります。令和8年3月31日は本記事の公開時点で136日前に過ぎています。古い期限だけを見た人は「もう間に合わない」と判断して検討をやめてしまいますが、実際にはまだ412日残っています。

やっかいなことに、国税庁のタックスアンサーNo.4148は、本記事の公開時点でも「令和8年3月31日まで」と表示したままです(2026年8月14日に取得して確認)。一次情報にあたる場所が食い違っているので、以下では根拠になる条文そのものを並べて確認していきます。

結論:計画の提出期限は令和9年9月30日

特例承継計画そのものは税法ではなく、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則(以下「円滑化法施行規則」)が定めています。期限を書いているのは17条2項です。現行の条文はこうなっています。

円滑化法施行規則17条2項(令和8年4月1日施行)

前項の確認(前項第一号の事由に係るものに限る。)を受けようとする中小企業者は、令和九年九月三十日までに、様式第二十一による申請書に、当該申請書の写し一通及び次に掲げる書類を添付して、都道府県知事に提出するものとする。

ここでいう「前項第一号の事由」は同規則16条1号を指し、そこで特例承継計画という語が定義されています。すなわち「当該中小企業者の経営を確実に承継するための具体的な計画」であって、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けたものです。提出先は税務署ではなく都道府県知事である点にも注意してください。

残り日数を整理すると次のようになります(起点は2026年8月14日)。

期限日付根拠残り
特例承継計画の提出(法人版)令和9年9月30日(木)円滑化法施行規則17条2項412日
贈与・相続そのもの(法人版)令和9年12月31日(金)措置法70条の7の5第1項・70条の7の6第1項504日
個人事業承継計画の提出令和10年9月30日(土)円滑化法施行規則17条4項778日
贈与・相続そのもの(個人版)令和10年12月31日(日)措置法70条の6の8第1項・70条の6の10第1項870日

省令の新旧を並べる — どこが書き換わったのか

「本当に延びたのか」は、施行日の違う2つの版を並べれば確かめられます。e-Gov法令APIは過去の版も引けるので、令和7年4月1日施行の版と、現行(令和8年4月1日施行)の版の同じ条項を取り出して比べました。

条項令和7年4月1日施行版令和8年4月1日施行版(現行)
17条2項(法人版・特例承継計画)令和八年三月三十一日までに令和九年九月三十日までに
17条4項(個人版・個人事業承継計画)令和八年三月三十一日までに令和十年九月三十日までに

条文の中で動いたのは日付だけで、それ以外の文言(様式第二十一・都道府県知事あて・添付書類)は変わっていません。法人版は1年6か月、個人版は2年6か月延びたことになります。旧版では法人も個人も同じ令和8年3月31日でしたが、現行版では両者の期限が1年ずれた点が実務上の変更です。

「令和8年3月31日」と書いてある資料を見たときの見分け方

その資料がいつ時点のものかを確かめてください。令和8年3月31日は、令和7年4月1日施行版までは正しい期限でした。誤りだったのではなく、古くなったのです。なお国税庁のタックスアンサーNo.4148は、2026年8月14日に取得した時点でも「特例承継計画の提出【平成30年4月1日から令和8年3月31日まで】」と表示していました。計画の提出期限を定めているのは税法ではなく円滑化法施行規則なので、この点については省令の条文が根拠になります。

期限は2段構え。計画と贈与・相続の差は92日しかない

特例措置には性質の違う期限が2つあり、両方を満たす必要があります。ひとつは今見た計画の提出期限、もうひとつは贈与・相続そのものがいつ起きたかという期限です。後者は措置法が定めています。

措置法70条の7の5第1項(特例贈与)の抜粋

……当該特例認定贈与承継会社の非上場株式等の贈与(平成三十年一月一日から令和九年十二月三十一日までの間の最初のこの項の規定の適用に係る贈与……に限る。)をした場合において……

相続側の70条の7の6も同じ「平成三十年一月一日から令和九年十二月三十一日まで」です。ここで気づいてほしいのは、計画の期限(令和9年9月30日)と、贈与・相続の期限(令和9年12月31日)が92日しか離れていないことです。

特例措置の2つの期限(起点=2026年8月14日) 法人版 計画 令和9年9月30日 贈与・相続 令和9年12月31日 92日 個人版 計画 令和10年9月30日 贈与・相続 令和10年12月31日 92日 今日
色の濃い区間が計画を出せる期間、枠で囲った短い区間は「計画の締切は過ぎたが、贈与・相続の期限はまだ残っている」92日間。相続はこの区間に入ってから発生しても、計画を新たに出すことはできない。

贈与であれば、いつ実行するかを自分で決められます。計画を令和9年9月30日までに出しておき、年内に贈与すればよい。しかし相続はそうはいきません。相続の開始日、つまり人が亡くなる日は選べないからです。計画を出さないまま令和9年10月以降に相続が発生した場合、贈与・相続の期限(令和9年12月31日)には間に合っていても、計画の提出期限を過ぎているので特例措置は使えません

先に計画だけ出しておくことはできる

特例承継計画は、贈与や相続が実際に起きる前に出しておけます。円滑化法施行規則17条1項は「中小企業者は、次の各号に該当することについて、都道府県知事の確認を受けることができる」と定めており、確認を受ける時点で承継が済んでいることを要件にしていません。承継の時期が読めない場合に、期限内に計画だけ確認を受けておくという順番は条文上とれる形です。実際にどう進めるかは、認定経営革新等支援機関や都道府県の担当窓口に確認してください。

特例措置と一般措置の違い

事業承継税制には特例措置一般措置の2つがあります。ここまで見てきた期限は、すべて特例措置の話です。よく「事業承継税制は令和9年までの制度」と言われますが、これは正確ではありません。

一般措置を定める措置法70条の7(贈与)と70条の7の2(相続)の条文を全文取り出して調べたところ、「平成◯年◯月◯日」形式の日付が1つも出てきません(機械的に計数して0件)。特例措置の70条の7の5・70条の7の6には「平成三十年一月一日から令和九年十二月三十一日まで」がはっきり書かれているのと対照的です。つまり一般措置には適用期限がありません

項目特例措置一般措置
事前の計画特例承継計画が必要(令和9年9月30日まで)不要
適用期限平成30年1月1日〜令和9年12月31日の贈与・相続なし
対象株数全株式総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合100%相続等80%、贈与100%
後継者の人数最大3人1人
雇用確保要件弾力化(未達でも報告書の提出で継続可)承継後5年間、平均8割の雇用維持
根拠条文措置法70条の7の5〜70条の7の8措置法70条の7〜70条の7の4

後継者の人数は条文にそのまま出ています。措置法70条の7の5第1項2号は「特例経営承継受贈者が二人又は三人である場合」という区分を置き、その場合は各後継者が発行済株式の10分の1以上を持ち、かつ各後継者の持分が贈与者の持分を上回ることを求めています。一般措置の70条の7にはこの区分がありません。

相続税がいくらかかるか計算する(遺産額と相続人から自動計算)

「3分の2」は一般措置では上限、特例措置では最低ライン

ここは間違えやすいところです。「3分の2」という数字は特例措置の条文にも一般措置の条文にも出てきますが、意味が正反対です。

一般措置の70条の7第1項は、猶予の対象になる株式を次のように定義しています。

措置法70条の7第1項(一般贈与)の抜粋 — こちらは上限

……当該贈与の時における当該認定贈与承継会社の発行済株式又は出資……の総数又は総額の三分の二に達するまでの部分として政令で定めるものに限る。以下……「対象受贈非上場株式等」という。

つまり一般措置では、3分の2を超える部分は猶予の対象にならないという上限として働きます。

一方、特例措置の70条の7の5第1項が定める「特例対象受贈非上場株式等」の定義には、この3分の2の限定がありません。贈与税の申告書に適用を受ける旨の記載があるものが対象になるだけです。では特例措置の条文に出てくる3分の2は何かというと、第1項1号イ、つまり「いくら贈与しなければならないか」という最低ラインです。

措置法70条の7の5第1項1号イの抜粋 — こちらは最低ライン

当該贈与の直前において、当該特例贈与者が有していた当該特例認定贈与承継会社の非上場株式等の数又は金額が、当該特例認定贈与承継会社の発行済株式又は出資……の総数又は総額の三分の二から当該特例経営承継受贈者が有していた……を控除した残数又は残額以上の場合 当該控除した残数又は残額以上の数又は金額に相当する非上場株式等の贈与

読み下すと「後継者の持分が発行済株式の3分の2に達するまで贈与しなさい」という要件です。一般措置の3分の2は「これ以上は猶予されない天井」、特例措置の3分の2は「ここまで渡さないと使えない床」ということになります。同じ数字なので資料を読み比べるときは、どちらの意味で使われているかを必ず確かめてください。

一般措置の「相続80%」はどの条文から出てくるか

一般措置の納税猶予割合は、贈与は100%なのに相続等は80%とされています。この非対称はどこから来るのでしょうか。答えは、猶予される税額の計算方法にあります。

一般措置の相続を定める70条の7の2第2項5号は、猶予される相続税額(納税猶予分の相続税額)を、イとロの差額として組み立てています。ロがこう書かれています。

措置法70条の7の2第2項5号ロの抜粋

前項の規定の適用に係る対象非上場株式等の価額に百分の二十を乗じて計算した金額を同項の経営承継相続人等に係る相続税の課税価格とみなして、相続税法第十三条から第十九条までの規定を適用して政令で定めるところにより計算した当該経営承継相続人等の相続税の額

株式の価額の全額で計算した税額(イ)から、価額の20%で計算した税額(ロ)を引いた残りが猶予される、という構造です。20%相当分の税額は猶予されず、期限までに納付する必要がある。これが「猶予割合80%」の正体です。

特例措置ではこの20%の差し引きがありません。70条の7の5が定める納税猶予分の贈与税額は、特例対象受贈非上場株式等の価額そのものを課税価格とみなして計算した金額とされており、20%を乗じる規定が置かれていません。相続側の70条の7の6でも、70条の7の2の規定を準用する際に「当該対象非上場株式等の価額に百分の二十を乗じて計算した価額」を「零」と読み替えると明記しています。読み替えによって20%の控除を消しているのが、特例措置が100%になる仕組みです。

なお一般措置でも贈与は100%です。70条の7には20%を乗じる規定が置かれていないためで、贈与と相続で扱いが分かれているのは条文上の設計によるものです。

個人版事業承継税制はちょうど1年ずれる

個人事業者向けにも同じ構造の制度があります。措置法70条の6の8(贈与)と70条の6の10(相続)で、対象は非上場株式ではなく特定事業用資産です。こちらの期限は法人版とちょうど1年ずれています。

法人版個人版
計画の名称特例承継計画個人事業承継計画
計画の提出期限令和9年9月30日令和10年9月30日
贈与・相続の期間平成30年1月1日〜令和9年12月31日平成31年1月1日〜令和10年12月31日
様式様式第二十一様式第二十一の三
根拠(計画)円滑化法施行規則17条2項円滑化法施行規則17条4項

期限が1年ずれるだけで、計画の期限と贈与・相続の期限の間隔は個人版も92日で同じです。相続の時期を選べないという問題も同じ形で起きます。

この記事で踏み込んでいないこと

特例承継計画に具体的に何を書くか(後継者の氏名、承継時までの経営見通し、承継後5年間の経営計画など)は様式第二十一が定めており、本記事では様式そのものを確認していないため扱っていません。また、認定経営革新等支援機関の探し方、都道府県ごとの提出窓口の運用、資産保有型会社・資産運用型会社に当たるかどうかの判定も対象外です。これらは中小企業庁および各都道府県の公表資料をご確認ください。

よくある質問

Q. 令和8年3月31日を過ぎましたが、特例措置はもう使えませんか?

A. 使えます。円滑化法施行規則17条2項は令和8年4月1日施行の改正で書き換えられ、法人版の特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日になっています。令和8年3月31日は改正前の期限です。ただし国税庁のタックスアンサーなど、旧期限のまま掲載されている資料があるため注意してください。

Q. 計画を出さずに相続が起きてしまった場合はどうなりますか?

A. 特例措置は使えません。計画の提出期限(令和9年9月30日)を過ぎていれば、贈与・相続の期限内であっても特例措置の適用は受けられません。ただし一般措置には計画も適用期限もないため、一般措置の要件を満たすかどうかを検討する余地は残ります。

Q. 特例措置と一般措置はどちらが有利ですか?

A. 猶予される税額だけを見れば、対象が全株式で猶予割合100%の特例措置が有利です。一方で一般措置には適用期限も計画の提出義務もありません。どちらを選ぶかは承継の時期や後継者の人数にも左右されるため、顧問税理士にご相談ください。

Q. 後継者は何人まで認められますか?

A. 特例措置は最大3人です。措置法70条の7の5第1項2号が「二人又は三人である場合」の区分を置き、各後継者が発行済株式の10分の1以上を保有し、かつ贈与者の持分を上回ることを求めています。一般措置にこの区分はなく、後継者は1人です。

Q. 特例承継計画はどこに出すのですか?

A. 税務署ではなく都道府県知事です。円滑化法施行規則17条2項が、様式第二十一による申請書に写し一通と所定の添付書類を添えて都道府県知事に提出すると定めています。あわせて同規則16条1号により、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けている必要があります。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。適用の可否・計算・申告書への記載にあたっては、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。特例承継計画の様式・提出手続きについては、認定経営革新等支援機関または計画を提出する都道府県の担当窓口にご確認ください。

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