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中小企業経営強化税制と経営力向上計画|即時償却と税額控除10%の条件

結論から言うと、中小企業経営強化税制は「設備を買ってから税務署に申請する制度」ではありません。先に経営力向上計画をつくって主務大臣の認定を受け、そのうえで計画に書いた設備を取得して事業に使ったときに、即時償却税額控除のどちらかを選べる、という順番になっています(租税特別措置法42条の12の4第1項)。順番を逆にすると使えません。

税額控除の割合は取得価額の7%で、資本金3,000万円以下の法人であれば10%になります(同条2項1号、同法施行令27条の12の4第3項)。ただし控除できるのはその年度の法人税額の20%までで、超えた分は1年だけ繰り越せます。

そして実務でいちばん誤解が多いのが建物です。建物は制度の対象に入っていますが、即時償却にはなりません(特別償却15%、財務省令で定める特定建物等は25%)。さらに、建物を経営力向上計画に書き込むと、中小企業投資促進税制のほうが使えなくなります。これは条文のかっこ書きに畳まれていて見落としやすい部分なので、後半で詳しく扱います。適用期限は令和9年3月31日です。

全体の流れ:入口は税務署ではなく主務大臣

この制度は、税法と、税法ではない法律(中小企業等経営強化法)が組み合わさってできています。税法の側(租税特別措置法42条の12の4)は「中小企業等経営強化法17条1項の認定を受けた特定事業者等が、その計画に記載された設備を取得したとき」という書き方をしており、認定そのものは税法の外にあります。

経営力向上計画は、経営強化法17条1項により、特定事業者等が作成して主務大臣に提出し、「適当である旨の認定」を受けるものです。計画に書く事項は同条2項に列挙されており、経営力向上の目標、経営の向上の程度を示す指標、経営力向上の内容および実施時期などが含まれます。

① 経営力向上計画 を作って認定を受ける 経営強化法17条 ② 設備を取得して 事業に使う 令和9年3月31日まで ③ 確定申告で選ぶ 明細書の添付が要件 措法42条の12の4 即時償却(特別償却) 取得価額の全額をその年度の損金に → 税金の繰延べ(総額は変わらない) 建物は即時償却ではない(15%) 税額控除 7% または 10% 資本金3,000万円以下なら10% → 税額そのものが減る(恒久) ただし法人税額の20%が上限
認定が先、設備の取得が後。順番が逆になると適用できない。①と②の間に「計画に記載されていること」という条件が入る。
設備を買ってから計画をつくっても間に合わないのはなぜか

条文が対象としているのは「その中小企業者等の経営力向上計画に記載されたもの」だからです(42条の12の4第1項)。取得より前に計画に載っている必要があり、後から計画を出しても、その設備は「記載されたもの」になりません。なお経営強化法18条1項には計画の変更認定の規定があり、42条の12の4第1項も変更後の計画を対象に含めると書いています。

使えるのは誰か:2つの物差しを同時に満たす

ここが条文を読まないと分からないところです。42条の12の4第1項は、対象者を「中小企業者等」と呼びますが、その定義は税法の物差しと、経営強化法の物差しの両方を要求しています。

この2つ目の物差しが見落とされがちです。経営強化法2条5項の「特定事業者」は、常時使用する従業員の数だけで線を引いており、資本金の要件がありません

区分常時使用する従業員の数
製造業、建設業、運輸業その他の業種500人以下
卸売業400人以下
小売業、サービス業300人以下

中小企業等経営強化法2条5項1号〜3号。4号により、政令で定める業種はこれと別の人数になる。5号〜8号として企業組合・協業組合・事業協同組合等も特定事業者に含まれる。2条6項の「特定事業者等」は、この特定事業者に加えて、常時使用する従業員の数が政令で定める数以下の会社その他政令で定める法人および個人を含む。

資本金で足りていても、従業員数で外れることがある

税法側の中小企業者は資本金を軸に判定するのに対し、経営強化法側の特定事業者は従業員数を軸に判定します。軸が違うため、片方だけを見て「うちは中小企業だから使える」と判断すると外れることがあります。たとえば資本金1億円以下でも、サービス業で常時使用する従業員が300人を超えていれば、2条5項3号の特定事業者には当たりません。逆に、従業員数の要件を満たしていても、資本金が大きければ税法側で外れます。一般には、両方の条文をそれぞれ当てて確認します。

加えて、適用除外事業者に当たると使えません。これは42条の4第19項8号の用語で、過去3年間の所得金額の平均が年15億円を超える法人が該当します。資本金が小さくても所得が大きい法人はここで外れます。

対象になる設備と、金額の下限

対象になるのは、生産等設備を構成する減価償却資産のうち、経営力向上計画に記載され、かつ政令で定める規模のものです。金額の下限は租税特別措置法施行令27条の12の4第2項が定めています。条文は資産を1号と2号に分けており、下限は次のとおりです。

資産の種類1号(経営の向上に著しく資するもの)2号(建物を含む生産等設備)
機械及び装置1台または1基 160万円以上1台または1基 160万円以上
工具、器具及び備品1台または1基 40万円以上1台または1基 40万円以上
建物附属設備1の建物附属設備 60万円以上—(建物とあわせて判定)
建物及びその附属設備対象外取得価額の合計額 1,000万円以上
ソフトウエア1のソフトウエア 70万円以上1のソフトウエア 70万円以上

租税特別措置法施行令27条の12の4第2項1号・2号。取得価額は法人税法施行令54条1項の規定により計算した金額による。「通常一組または一式をもって取引の単位とされるもの」は、一組・一式で判定する。

1号には建物本体が入っていません。1号が対象にしているのは、機械及び装置、工具、器具及び備品、建物附属設備、そして政令で定めるソフトウエアの4つです。建物そのものを対象にできるのは2号だけで、2号は「建物の新設または増設をする場合における当該建物を含む生産等設備を構成するもので、経営の向上及び経営の規模の拡大に著しく資するものとして財務省令で定めるもの」と限定されています。

条文には「A類型」「B類型」という言葉は出てこない

解説記事では類型で説明されることが多いのですが、租税特別措置法42条の12の4と同法施行令27条の12の4の条文を通して読むと、「類型」という語は1度も使われていません。条文が分けているのは1号と2号で、その中身は「経営の向上に著しく資するものとして財務省令で定めるもの」というように、さらに下位の法令へ委ねられています。実務で使われる類型の区分や、それぞれに必要な証明書の種類は、この委任先と運用のレベルで決まっている、という構造です。本記事は法律と政令のレベルまでを確認した内容であり、類型ごとの証明書の取り方には踏み込んでいません。

即時償却と税額控除、どちらを選ぶか

1項(特別償却)と2項(税額控除)は選択適用です。2項には「当該特定経営力向上設備等につき前項の規定の適用を受けないときは」とあり、同じ設備で両方は使えません。

対象特別償却(1項)税額控除(2項)
1号の資産(機械装置・工具器具備品・建物附属設備・ソフトウエア)取得価額 − 普通償却限度額=即時償却7%(資本金3,000万円以下は10%
2号イ(機械装置・工具器具備品・ソフトウエア)基準取得価額 − 普通償却限度額=即時償却7%(資本金3,000万円以下は10%
2号ロ(建物及びその附属設備)基準取得価額の15%(特定建物等は25%1%(特定建物等は2%

租税特別措置法42条の12の4第1項1号・2号、第2項1号・2号。税額控除10%の分かれ目である「政令で定める法人以外の法人」は、同法施行令27条の12の4第3項により、資本金の額または出資金の額が3,000万円を超える法人以外の法人をいう(農業協同組合等・商店街振興組合を除く)。

2項には上限があります。その年度の調整前法人税額の20%が限度で、しかも中小企業投資促進税制(42条の6第2項)で控除する金額があるときは、それを差し引いた残額が枠になります。つまり2つの制度の税額控除は合算して20%枠を分け合う関係です。

控除しきれなかった分は3項により繰り越せますが、繰越せる期間は1年です。4項が繰越税額控除限度超過額を「当該事業年度開始の日前1年以内に開始した各事業年度における税額控除限度額のうち、控除しきれない金額」と定義しているためです。

数字で見る:機械装置2,000万円を取得した場合の税額控除

資本金2,000万円の製造業が、経営力向上計画に記載した機械装置を2,000万円で取得し、指定事業に使ったとします。資本金3,000万円以下なので税額控除の割合は10%=200万円です。ただし枠は法人税額の20%なので、その年度の調整前法人税額が800万円なら上限は160万円。控除できるのは160万円で、残り40万円は翌年度に繰り越します(3項)。翌年度に枠が空いていなければ、2年目以降には持ち越せません。

選び方の考え方としては、即時償却は課税の繰延べである一方、税額控除は税額そのものが減るという違いが軸になります。即時償却を選ぶと初年度の損金は大きくなりますが、その分、翌年度以降に計上できる減価償却費は無くなります。耐用年数の全期間を通した損金の総額は変わりません。手元資金を早く厚くしたいのか、負担の総額を減らしたいのかで向きが変わる、という整理になります。

法人税の概算を計算してみる(法人税かんたん計算)

建物を計画に書くと、投資促進税制が使えなくなる

これは条文のかっこ書きに畳まれているため、いちばん見落としやすい点です。中小企業投資促進税制(42条の6)の第1項は、対象者である「中小企業者等」を定義するかっこ書きの中で、次のように除外を置いています。

第四十二条の十二の四第一項に規定する特定認定を受けた同項に規定する特定事業者等に該当するもののうち当該特定認定に係る同項に規定する特定経営力向上計画に同項第二号に掲げる減価償却資産が記載されているものを除く

「同項第二号に掲げる減価償却資産」とは、前掲の2号=建物を含む生産等設備のことです。つまり、経営力向上計画に2号の資産を記載して認定を受けると、その法人は42条の6の「中小企業者等」から外れます42条の6(中小企業投資促進税制)は特別償却30%または税額控除7%を定める制度なので、計画に建物を書き込んだことで、別の制度をまるごと失うという関係になります。認定も申請も要らず機械160万円以上から使える制度なので、失う側の大きさも確かめておく価値があります。

建物には二重の不利がある

第一に、建物は即時償却になりません(特別償却15%、特定建物等25%)。税額控除も1%(特定建物等2%)で、機械装置等の7%・10%より大幅に低くなります。第二に、上のかっこ書きにより中小企業投資促進税制が使えなくなります。建物を計画に載せるかどうかは、この2つを踏まえて判断する論点になります。一般には、機械装置だけで計画を組む場合と、建物を含めて組む場合の両方を試算して比べます。

もう一つ、金額が大きい場合の頭打ちがあります。一の生産等設備を構成する特定機械装置等の取得価額の合計額が60億円を超える場合、特別償却・税額控除の計算の基礎は、60億円にその設備の取得価額が合計額に占める割合を乗じた「基準取得価額」に置き換わります(1項2号イ)。

手続き・添付書類・期限

この制度は、条文上、申告書への添付が適用の条件になっています。添付が無ければ適用されません。

使う規定確定申告書等に添付するもの根拠
特別償却(1項)償却限度額の計算に関する明細書6項
税額控除(2項)取得価額・控除を受ける金額・その計算に関する明細を記載した書類7項
繰越控除(3項)供用年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書、かつ適用年度の確定申告書等に明細記載書類8項
共通特定経営力向上設備等に該当することを証する財務省令で定める書類施行令27条の12の4第4項

7項には、見落とすと損をする一文があります。「同項の規定により控除される金額の計算の基礎となる特定経営力向上設備等の取得価額は、確定申告書等に添付された書類に記載された取得価額を限度とする」。つまり書類に書いた金額が控除計算の上限になり、後から実際の取得価額のほうが大きかったと主張しても、書いた額を超えては計算できません。

所有権移転外リースは、税額控除だけが残る

5項は「第一項の規定は、中小企業者等が所有権移転外リース取引により取得した特定経営力向上設備等については、適用しない」と定めています。除外されているのは1項(特別償却)だけで、2項(税額控除)には同じ除外が置かれていません。所有権移転外リースで導入した設備は即時償却の対象にならない一方、税額控除の側は条文上の除外が無い、という非対称な作りになっています。

期限については、1項が指定期間を「平成29年4月1日から令和9年3月31日まで」と定めています。この期間内に取得し、かつ指定事業の用に供したことが要件で、取得しただけでは足りません。指定事業の範囲は42条の6第1項の指定事業(製造業、建設業その他政令で定める事業)を引いています。なお42条の6の指定期間も令和9年3月31日までです。

要点
  • 順番は計画の認定が先、設備の取得が後。買ってからでは間に合わない
  • 対象者は税法の中小企業者経営強化法の特定事業者等(従業員数で判定)の両方を満たす必要がある
  • 下限は機械装置160万円・工具器具備品40万円・建物附属設備60万円・ソフトウエア70万円・建物1,000万円
  • 税額控除は7%、資本金3,000万円以下なら10%。上限は法人税額の20%(投資促進税制と枠を共有)、繰越は1年
  • 建物は即時償却ではなく15%(特定建物等25%)。しかも計画に建物を書くと中小企業投資促進税制が使えなくなる
  • 適用期限は令和9年3月31日まで(取得+事業供用)

よくある質問

Q. 設備を先に買ってしまいました。あとから経営力向上計画を出せば使えますか?

A. 条文上は難しいと考えられます。42条の12の4第1項が対象としているのは「その中小企業者等の特定認定に係る経営力向上計画に記載されたもの」であり、取得の時点で計画に記載されている前提の書き方になっているためです。経営強化法18条1項の変更認定を受けた場合は変更後の計画が対象になりますが、これは計画そのものが既にある場合の話です。実際の可否は取得日と認定日の関係で決まるため、個別の事情を含めて顧問税理士に確認するのが確実です。

Q. 税額控除の7%と10%は、何で分かれますか?

A. 資本金です。42条の12の4第2項1号は「百分の七(中小企業者等のうち政令で定める法人以外の法人が…供したこれらの減価償却資産については、百分の十)」と定めており、この「政令で定める法人」を同法施行令27条の12の4第3項が資本金の額または出資金の額が3,000万円を超える法人としています。したがって資本金3,000万円以下であれば10%、3,000万円超1億円以下であれば7%という分かれ方になります。通算法人については、他の通算法人のいずれかが3,000万円超であれば3,000万円超として扱う旨も同項に置かれています。

Q. 建物も即時償却できると聞きましたが本当ですか?

A. 建物は即時償却になりません。42条の12の4第1項2号ロは、建物及びその附属設備について「基準取得価額の百分の十五(…特定建物等については、百分の二十五)に相当する金額」を特別償却限度額と定めており、取得価額から普通償却限度額を控除した全額とする即時償却の書き方(1項1号・2号イ)とは異なります。税額控除も建物は1%(特定建物等は2%)で、機械装置等の7%・10%とは大きく違います。

Q. 控除しきれなかった税額控除は何年繰り越せますか?

A. 1年です。42条の12の4第4項が繰越税額控除限度超過額を「当該事業年度開始の日前一年以内に開始した各事業年度における税額控除限度額のうち、第二項の規定による控除をしてもなお控除しきれない金額」と定義しているためです。繰越にあたっては、供用年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を添付し続ける必要があります(8項)。

Q. 中小企業投資促進税制と両方使えますか?

A. 別の設備であれば、それぞれの要件を満たす限り併用の余地はありますが、注意点が2つあります。第一に、税額控除の枠は合算して法人税額の20%です。42条の12の4第2項の上限は「42条の6第2項の規定により控除される金額がある場合には、当該金額を控除した残額」とされています。第二に、経営力向上計画に42条の12の4第1項2号(建物を含む生産等設備)の資産を記載していると、42条の6の中小企業者等から除外されます。この場合は投資促進税制そのものが使えません。

Q. リースで導入した設備でも使えますか?

A. 所有権移転外リース取引により取得した場合、5項により特別償却(1項)は適用されません。一方、税額控除(2項)については同様の除外規定が条文上置かれていません。したがって条文の構造としては、特別償却は使えず税額控除の側が残る形になります。リース契約が所有権移転外リース取引に当たるかどうかの判定を含め、個別の契約内容については顧問税理士に確認するのが確実です。

Q. 資本金1億円以下なら必ず使えますか?

A. 必ずではありません。理由は3つあります。第一に、経営強化法2条5項・6項の特定事業者等にも該当する必要があり、こちらは従業員数で線を引きます(製造業等500人以下、卸売業400人以下、小売業・サービス業300人以下)。第二に、42条の4第19項8号の適用除外事業者(過去3年間の所得金額の平均が年15億円超)に当たると外れます。第三に、青色申告書を提出していることが要件です。

Q. 経営力向上計画には何を書くのですか?

A. 中小企業等経営強化法17条2項が記載事項を列挙しており、経営力向上の目標、経営力向上による経営の向上の程度を示す指標、経営力向上の内容および実施時期などが含まれます。計画は単独でも共同でも作成でき、共同で作成した場合は代表者を定めて主務大臣に提出します(17条1項ただし書)。税制の適用を受けるためには、対象としたい設備がこの計画に記載されている必要があります。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。適用の可否・計算・申告書への記載にあたっては、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。経営力向上計画の認定手続きについては、事業分野を所管する主務大臣(担当窓口)にご確認ください。

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