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高額療養費の自己負担限度額【令和8年】区分は年収でなく標準報酬月額で決まる

結論から言うと、高額療養費の自己負担限度額を決めるのは「年収」ではありません。健康保険法施行令42条が見ているのは「療養のあった月の標準報酬月額」です。多くの解説が「年収約770万円以上なら区分ア」と書きますが、それは目安の言い換えであって、条文が判定に使う値ではありません。

この違いは実害になります。標準報酬月額は等級表の階段なので、報酬月額が1円増えて等級が1つ上がるだけで区分が変わることがあります。報酬月額514,999円の人と515,000円の人では、医療費が100万円かかった月の自己負担が87,430円と171,820円——84,390円も違います。給料の差は1円です。

この記事では、令和8年7月現在の政令・省令の条文だけを使って、5つの区分と限度額世帯合算が21,000円未満を1円も拾わないこと、そしてマイナ保険証を使う人は限度額適用認定証を申請する対象ですらないことまで確認します。

自己負担限度額の早見表(70歳未満・令和8年)

ひと月(月の初日から末日まで)に窓口で払った自己負担が、下の額を超えた分が高額療養費として戻ってきます。健康保険法施行令42条1項の各号を、そのまま表にしたものです。

区分標準報酬月額(条文の基準)自己負担限度額(ひと月)多数回該当(4回目から)
83万円以上252,600円+(医療費−842,000円)×1%140,100円
53万円以上83万円未満167,400円+(医療費−558,000円)×1%93,000円
28万円以上53万円未満80,100円+(医療費−267,000円)×1%44,400円
28万円未満57,600円44,400円
住民税非課税35,400円24,600円

「医療費」は窓口で払った額ではなく、保険が使われた医療費の総額(10割)です。1%を掛ける前に引く額(842,000円・558,000円・267,000円)も、この10割の医療費から引きます。

条文は「区分ウ」を基準に書かれている

施行令42条1項の第1号は、じつは「次号から第五号までに掲げる者以外の者」=区分ウです。ア・イ・エ・オのほうが「例外」として2号以下に並びます。表では上から順にア・イ・ウと並べますが、条文の号の順番はウ・ア・イ・エ・オで、まったく違います。条文を号の順に読んで「1号が一番上の区分だ」と思い込むと、限度額を取り違えます。

区分を決めるのは年収ではない — 1円で84,390円変わる

施行令42条1項2号〜4号は、区分の基準を「療養のあった月の標準報酬月額が八十三万円以上/五十三万円以上八十三万円未満/二十八万円未満の被保険者又はその被扶養者」と書いています。年収も、月給(報酬月額)そのものも出てきません。出てくるのは標準報酬月額だけです。

標準報酬月額は、実際の月給(報酬月額)を等級表に当てはめて決める階段です。健康保険の等級表では、第30級(標準報酬月額50万円)が報酬月額485,000円以上515,000円未満、第31級(標準報酬月額53万円)が報酬月額515,000円以上545,000円未満です。つまり——

実際の報酬月額等級・標準報酬月額区分限度額(医療費100万円の月)
514,999円の人第30級・50万円87,430円
515,000円の人第31級・53万円171,820円

報酬月額の差は1円。自己負担の差は84,390円です。残業代や通勤手当が少し増えて等級が1つ上がった月に大きな病気をすると、こういうことが起こります。「年収でおよそ770万円から」といった目安だけを見ていると、自分がどちら側にいるのか永久にわかりません。確かめるべきは自分の標準報酬月額で、それは給与明細か、下のツールで報酬月額から求められます。

「53万〜79万円」と「53万円以上83万円未満」は矛盾していない

協会けんぽの表は区分イを「標準報酬月額53万〜79万円」と書き、条文は「五十三万円以上八十三万円未満」と書きます。食い違って見えますが、標準報酬月額に80万円台の等級が存在しない(第39級=79万円の次は第40級=83万円)ので、結果は同じです。同じ理由で、区分ウの「28万円以上53万円未満」は等級で言えば「28万〜50万円」になります。

社会保険料計算ツールで、自分の標準報酬月額と等級を確かめる

計算のしかた(医療費100万円の例)

区分ウ(標準報酬月額28万円以上53万円未満)の人が、ひと月に医療費100万円(10割)の治療を受けた場合を見ます。窓口では3割の300,000円を払います。

自己負担限度額 = 80,100円 +(1,000,000円 − 267,000円)× 1% = 80,100円 + 7,330円 = 87,430円

高額療養費として戻る額 = 300,000円 − 87,430円 = 212,570円

ひと月の医療費(10割)= 1,000,000円 保険給付 7割 = 700,000円 窓口 3割 = 300,000円 窓口で払った 300,000円 の内わけ 自己負担限度額 87,430円 高額療養費として戻る 212,570円 80,100円 +(1,000,000円 − 267,000円)× 1% = 87,430円 ← これが最後まで残る自己負担 ※ 入院時の食費・差額ベッド代は、この限度額の対象に含まれません(別途かかります)
区分ウ・医療費100万円の月。窓口の3割のうち、最後まで自分の負担として残るのは87,430円だけ。

1%を掛けた部分に1円未満の端数が出たときの丸め方も、施行令42条が明記しています。端数が50銭未満なら切り捨て、50銭以上なら1円に切り上げです。実務の慣行ではなく、政令が書いています。

限度額適用認定証は、マイナ保険証なら申請できない

窓口での支払いを最初から限度額までに抑える方法として、昔から「限度額適用認定証」を事前に申請する方法が知られています。ところがマイナ保険証を使っている人は、そもそもこの認定証の交付対象ではありません。「申請しなくてよい」のではなく、申請する対象から外れているのです。

根拠は健康保険法施行規則129条の2第2項です。保険者が限度額適用認定証を交付するのは、申請者のうち「資格確認書の交付又は提供を受けているものに限る」とかっこ書きで限定されています。資格確認書は、マイナ保険証を持たない人に配られるものです。

マイナ保険証なら、何も申請しなくても窓口が限度額で止まる

厚生労働省は、マイナンバーカードを健康保険証として利用すれば「『限度額適用認定証』がなくても、公的医療保険が適用される診療に対しては限度額を超える分を支払う必要がありません」と明記しています。オンライン資格確認で、医療機関が限度額の区分を確認できるためです。急な入院で認定証の申請が間に合わない、という昔ながらの心配は、マイナ保険証を使うかぎり起きません。

逆に言えば、マイナ保険証を使っていない人(資格確認書の人)は、今も事前申請が必要です。申請が間に合わなければ窓口で3割を全額払い、あとから高額療養費を請求することになります。戻ってはきますが、数十万円を数か月立て替えることになります。

世帯合算は21,000円未満を1円も拾わない

同じ月に家族が別々の病院にかかった場合、自己負担を合算して限度額と比べられます(世帯合算)。ただし70歳未満には、合算できる自己負担額の下限があります。施行令41条1項1号のかっこ書きが、合算の対象を「二万千円…以上のものに限る」としているからです。

これは「21,000円を超えた分だけ合算する」という意味ではありません21,000円未満の自己負担は、まるごと合算の対象から外れます

同じ月の自己負担世帯合算に入るか
本人・A病院 20,000円入らない(21,000円未満)
妻・B病院 20,000円入らない(21,000円未満)
子・C病院 20,000円入らない(21,000円未満)
合算される額0円(3件で6万円払っていても)

この21,000円は「ひとつの病院等ごと・ひとりごと・ひと月ごと」に見ます。同じ人が同じ月に同じ病院で20,000円ずつ2回払えば合計40,000円なので合算対象に入りますが、別の病院で20,000円ずつなら、どちらも入りません

多数回該当 — 4回目から下がり、ウとエは同じ額に潰れる

施行令42条の各号のただし書は、「当該療養のあった月以前の十二月以内に既に高額療養費が支給されている月数が三月以上ある場合」に限度額を下げると定めています。つまり直近12か月で3回もらっていれば、4回目から下がります。「1年で4回目」ではなく「その月から数えて過去12か月の中で4回目」です。

ここで見落とされがちなのが、区分ウと区分エの多数回該当額が、どちらも44,400円で同じだということです。

区分通常の限度額(医療費100万円の月)多数回該当(4回目から)
区分ウ(標準報酬月額28万〜50万円)87,430円44,400円
区分エ(標準報酬月額28万円未満)57,600円44,400円

通常月には約3万円あった差が、多数回該当ではゼロになります。長期の治療が続く人にとっては、区分ウと区分エの違いが4回目以降は消えるということです。一方、区分ア(140,100円)と区分イ(93,000円)は下がってもなお高く、区分による差はむしろ広がったまま残ります。

対象にならないもの・医療費控除との関係

高額療養費が面倒を見るのは公的医療保険が使われた医療費の自己負担だけです。厚生労働省が明記しているとおり、入院時の食費負担や差額ベッド代は、自己負担限度額の対象に含みません。個室を希望して1日1万円の差額ベッド代がかかれば、それは限度額とは関係なく全額自己負担です。「限度額まで払えばあとは無料」と考えていると、退院時の請求書で驚くことになります。

高額療養費で戻った分は、医療費控除では差し引く

確定申告で医療費控除を使うとき、高額療養費として戻ってきた額は「保険金などで補填される金額」として差し引きます。ただし引くのはその給付の目的となった医療費からだけです。一方、傷病手当金や出産手当金は差し引きません(所得税基本通達73-9)。これらは医療費の補填ではなく所得の補償だからです。詳しくは医療費控除の記事で扱っています。

令和8年8月1日の改正で限度額は変わらない

健康保険法施行令には令和8年8月1日に施行される改正(令和8年政令第219号)があります。今日の時点の条文だけを見て記事を書くと、8月に嘘になるおそれがあるので、施行後の条文と突き合わせて確認しました。

結論として、この記事に載せた自己負担限度額は、8月1日以降も1円も変わりません。252,600円・167,400円・80,100円・57,600円・35,400円、多数回該当の140,100円・93,000円・44,400円・24,600円、1%の起点である842,000円・558,000円・267,000円、世帯合算の21,000円——いずれも改正後の条文で同じです。改正が触れているのは70歳以上の低所得区分を判定するときの所得の計算方法(公的年金等控除の読替額)であって、限度額そのものではありません。

よくある質問

Q. 高額療養費の区分は、年収で決まるのですか?

A. いいえ、決まりません。健康保険法施行令42条1項が判定に使うのは「療養のあった月の標準報酬月額」であり、年収も報酬月額そのものも条文には出てきません。「年収約770万円以上なら区分ア」といった説明は目安の言い換えです。標準報酬月額は等級表の階段なので、報酬月額が1円増えて等級が1つ上がるだけで区分が変わることがあります。報酬月額514,999円なら第30級(標準報酬月額50万円)で区分ウ、515,000円なら第31級(53万円)で区分イとなり、医療費100万円の月の自己負担限度額は87,430円と171,820円で84,390円も違います。

Q. マイナ保険証を使っていますが、限度額適用認定証を申請すべきですか?

A. 申請する必要はなく、そもそも交付の対象ではありません。健康保険法施行規則129条の2第2項は、限度額適用認定証を交付する相手を「資格確認書の交付又は提供を受けているもの」に限っており、資格確認書はマイナ保険証を持たない人に配られるものだからです。厚生労働省も、マイナンバーカードを健康保険証として利用すれば「限度額適用認定証」がなくても限度額を超える分を支払う必要がないと明記しています。マイナ保険証を使っていない人は、今も事前の申請が必要です。

Q. 家族の医療費は、いくらから合算できますか?

A. 70歳未満は、ひとつの病院等・ひとり・ひと月あたりの自己負担が21,000円以上のものだけを合算できます。健康保険法施行令41条1項1号のかっこ書きが「二万千円以上のものに限る」と定めているためです。21,000円を超えた部分だけを合算するのではなく、21,000円未満の自己負担はまるごと対象外になります。家族3人がそれぞれ別の病院で20,000円ずつ、合計6万円払っていても、合算される額は0円です。

Q. 多数回該当は、1年に4回目からですか?

A. 暦年で数えるのではありません。施行令42条のただし書は「当該療養のあった月以前の十二月以内に既に高額療養費が支給されている月数が三月以上ある場合」と定めており、その月から遡って12か月の中で4回目にあたる月から限度額が下がります。区分ウは80,100円+1%から44,400円へ、区分エは57,600円から44,400円へ下がり、この2つの区分は多数回該当では同じ額になります。

Q. 限度額まで払えば、入院費用はそれ以上かかりませんか?

A. かかります。高額療養費の対象は公的医療保険が適用された医療費の自己負担だけです。厚生労働省が明記しているとおり、入院時の食費負担や差額ベッド代は自己負担限度額の対象に含まれません。個室を希望した場合の差額ベッド代は、限度額とは無関係に全額が自己負担となります。

Q. 高額療養費でお金が戻ったら、医療費控除はどうなりますか?

A. 戻った高額療養費は「保険金などで補填される金額」として、医療費控除の計算で差し引きます。ただし差し引くのは、その給付の目的となった医療費からだけです。なお傷病手当金や出産手当金は、所得税基本通達73-9により補填金には当たらないため差し引きません。これらは医療費の補填ではなく所得の補償だからです。

出典

この記事は令和8年7月時点の法令にもとづく一般的な情報であり、個別の事案に対する助言ではありません。標準報酬月額や区分の判定、実際の支給額は、加入している健康保険や個別の事情によって異なる場合があります。判断に迷う場合は、加入先の健康保険(協会けんぽ・健康保険組合など)にご確認ください。