所得金額調整控除とは — 2種類あり、年末調整でできるのは片方だけ
結論から言うと、所得金額調整控除は名前がひとつでも中身は2種類あり、年末調整でできるのは片方だけです。
ひとつめは「子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除」で、給与収入が850万円を超える人に23歳未満の扶養親族などがいるときに使えます。控除額は超えた分の10%、上限15万円。これは年末調整でできます。
ふたつめは「給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除」で、給与と公的年金の両方がある人の控除です。上限10万円。こちらは年末調整ではできず、確定申告が必要です。給与収入850万円という条件はこちらには一切かかりません。
この線引きは条文で確かめられます。年末調整の手続を定めた租税特別措置法41条の3の12は、控除の対象を「前条第一項」としか書いていません。2種類のうち1項(子ども・特別障害者等)だけを指しており、2項(給与と年金)は最初から年末調整の射程に入っていないのです。この記事では、2つの控除の要件と金額、手続、そして実務で間違えやすい点を条文で確認していきます。
名前はひとつ、中身は2種類
どちらも根拠は租税特別措置法41条の3の11で、1つの条文の1項と2項に分かれて入っています。同じ名前で呼ばれますが、要件も金額も手続も別物です。
| ①子ども・特別障害者等 | ②給与と年金の双方 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 措置法41条の3の11第1項 | 措置法41条の3の11第2項 |
| 給与収入の条件 | 850万円超 | 条件なし |
| もうひとつの条件 | 本人が特別障害者/23歳未満の扶養親族がいる/特別障害者である同一生計配偶者・扶養親族がいる | 給与所得控除後の給与等の金額と公的年金等の雑所得の合計が10万円超 |
| 控除額 | (給与収入 − 850万円)× 10% ※給与収入は1,000万円が上限 | {給与所得控除後の金額(10万円上限)+ 年金の雑所得(10万円上限)}− 10万円 |
| 控除額の上限 | 15万円 | 10万円 |
| 年末調整 | できる | できない(確定申告) |
| 適用の順序 | 先に引く | ①を引いた後の給与所得から引く |
①子ども・特別障害者等の控除 — 上限15万円
条文はこう定めています。
その年中の給与等の収入金額が八百五十万円を超える居住者で、特別障害者に該当するもの又は年齢二十三歳未満の扶養親族を有するもの若しくは特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族を有するものに係る総所得金額を計算する場合には、その年中の給与等の収入金額(当該給与等の収入金額が千万円を超える場合には、千万円)から八百五十万円を控除した金額の百分の十に相当する金額を、その年分の給与所得の金額から控除する。
要件を分解すると、給与収入が850万円を超えることに加えて、次の3つのいずれかに当てはまることが必要です。
- 本人が特別障害者である
- 年齢23歳未満の扶養親族がいる
- 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる
控除額は、給与収入(1,000万円を超える場合は1,000万円)から850万円を差し引いた金額の10%です。給与収入950万円なら(950万円 − 850万円)× 10% = 10万円、給与収入1,200万円なら1,000万円で頭打ちになるので(1,000万円 − 850万円)× 10% = 15万円が上限になります。国税庁タックスアンサー No.1411 は、1円未満の端数があるときは切り上げると説明しています。所得税の計算では切り捨てが多いので、ここは逆だと覚えておくと間違えません。
扶養控除の対象になるのは、所得税法2条1項34号の2により、扶養親族のうち居住者については「年齢十六歳以上の者」に限られます。つまり15歳以下の子は扶養控除の対象外です。ところが所得金額調整控除の条文は「年齢二十三歳未満の扶養親族」としか書いておらず、下限がありません。0歳の子でもこの控除の対象になります。「扶養控除が取れないから関係ない」と考えて申告書を出さない人がいるのは、この差が知られていないからです。
判定の時期も条文が決めています。
第一項の場合において、居住者が特別障害者に該当するかどうか又はその者が年齢二十三歳未満の扶養親族に該当するかどうか若しくは特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日(その居住者がその年の中途において死亡し、又は出国をする場合には、その死亡又は出国の時)の現況による。ただし、その判定に係る者がその当時既に死亡している場合は、その死亡の時の現況による。
つまり12月31日の現況です。年の途中で子が23歳になった場合、12月31日時点で23歳なら対象外、22歳のままなら対象になります。年の途中で生まれた子は、12月31日に扶養親族であれば対象です。
扶養控除には、同一生計内のいずれか一方の所得者にしか適用できないという制限があります。所得金額調整控除にはこの制限がありません。国税庁タックスアンサー No.1411 は「この控除は、扶養控除と異なり、同一生計内のいずれか一方のみの所得者に適用するという制限がありません」と明記し、夫婦ともに給与収入が850万円を超えていて23歳未満の子が1人いる場合には夫婦双方が適用を受けられると説明しています。子ひとりで最大30万円分の控除になります。
②給与と年金の双方がある人の控除 — 上限10万円
2項はこう定めています。
その年分の給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額がある居住者で、当該給与所得控除後の給与等の金額及び当該公的年金等に係る雑所得の金額の合計額が十万円を超えるものに係る総所得金額を計算する場合には、当該給与所得控除後の給与等の金額(当該給与所得控除後の給与等の金額が十万円を超える場合には、十万円)及び当該公的年金等に係る雑所得の金額(当該公的年金等に係る雑所得の金額が十万円を超える場合には、十万円)の合計額から十万円を控除した残額を、その年分の給与所得の金額(前項の規定の適用がある場合には、同項の規定による控除をした残額)から控除する。
ここに給与収入850万円という条件は出てきません。給与所得控除後の給与等の金額と公的年金等に係る雑所得の金額があり、その合計が10万円を超えていれば対象です。どちらも10万円で頭打ちになるので、控除額は最大でも10万円です。給与所得控除後の金額が10万円以上あり、年金の雑所得も10万円以上ある人は、計算するまでもなく10万円になります。
「給与所得控除後の給与等の金額」の意味も、同じ条文の4項が定義しています(4項には用語の定義が7号あります)。
給与等の収入金額から所得税法第二十八条第三項に規定する給与所得控除額を控除した残額(同条第四項の規定の適用がある場合には、同項に規定する給与所得控除後の給与等の金額に相当する金額)をいう。
在職中に年金を受け取りはじめた人、定年後に再雇用で働きながら年金を受け取っている人が典型的な対象です。ところがこの控除は年末調整ではできません。措置法41条の3の12は「年末調整に係る所得金額調整控除」という見出しの条文ですが、その1項が対象にしているのは「前条第一項の規定による控除をされる金額に相当する金額」だけで、2項には触れていません。年末調整の対象外なので、②を受けるには確定申告が必要です。同条6項が所得税法121条3項(給与所得者の確定申告不要制度)の読み替えを2項についてだけ置いているのも、2項が申告の場面で働くことを前提にしているからだと読めます。
源泉徴収票の書き方と各欄の意味を確かめる手続き — 申告書はいつまでに出すか
①を年末調整で受けるには、給与の支払者に「所得金額調整控除申告書」を出します。令和7年分からこの申告書は、基礎控除申告書・配偶者控除等申告書・特定親族特別控除申告書と1枚にまとまった様式になっています。提出期限は条文が定めています。
前項に規定する申告書は、同項の給与等の支払者からその年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、提出しなければならない。
その年最後に給与等の支払を受ける日の前日までです。12月25日が最後の給与日なら12月24日までということになります。実務では会社が11月中に締め切るのが普通なので、社内の締切のほうが早いのが通常です。
この申告書は形式上は給与の支払者を経由して税務署長へ提出するものですが、同条3項により、支払者が受け取った日に税務署長へ提出されたものとみなされます。会社が保管していれば足り、税務署へ送る必要はありません。4項は電磁的方法による提供も認めており、給与システム上での入力で足りる場合があります。
同条6項には実務で効く定めがあります。支払者が扶養親族等の氏名・個人番号を記載した帳簿を備えているときは、申告書への個人番号の記載を要しないというものです。ただし申告書に書かれるべき氏名・個人番号が帳簿と異なるときは、この省略はできません。
令和8年12月の改正でも、この控除の条文は変わらない
令和8年12月1日に所得税の基本的な部分が組み替わります。給与所得控除もそのひとつで、所得税法28条3項は号の構成そのものが変わります。現行は収入190万円以下なら65万円という定額から始まる5号構成ですが、改正後は収入360万円以下なら8万円+収入の30%(下限69万円)という式から始まる4号構成になります。さらに租税特別措置法29条の4が、令和8年・令和9年に限って最低控除額の特例を置きます。
令和八年又は令和九年において、その年中の所得税法第二十八条第一項に規定する給与等(以下この項及び次項において「給与等」という。)の収入金額が二百二十万円以下である場合には、当該給与等に係る同条第三項に規定する給与所得控除額は、同項第一号の規定にかかわらず、七十四万円(当該収入金額が七十四万円に満たない場合には、当該収入金額に相当する金額)とする。
これだけ動くのだから所得金額調整控除も変わりそうに見えますが、変わりません。e-Gov 法令API v2 で措置法の現行版(リビジョン 332AC0000000026_20260812_508AC0000000064)と2026年12月1日施行版(同 _20261201_508AC0000000012)から41条の3の11と41条の3の12を条単位で取得し、条文テキストのハッシュを突き合わせたところ両方とも完全に一致しました(41条の3の11 は1,397字、41条の3の12 は1,471字で、どちらも新旧でハッシュが同一)。
「差が出なかった」は、比べ方が壊れていても同じ見た目になります。そこで同じ2つのリビジョンから措置法29条の4を取って対照しました。こちらはハッシュが異なり、しかも見出しが「退職勤労者が弁済を受ける未払賃金に係る課税の特例」から「給与所得控除の最低控除額等の特例」へまるごと別の制度に置き換わっていました。措置法は条番号が別の制度に付け替わることがあるので、番号だけを頼りに条文を引くと中身が入れ替わっていても気づけません。比較経路が生きていることを確かめたうえでの「一致」です。
変わらない理由は2つあります。ひとつは、給与所得控除の上限が動かないことです。所得税法28条3項は改正後も「八百五十万円を超える場合百九十五万円」を維持しています(現行は5号、改正後は4号と番号だけがずれます)。所得金額調整控除は、この850万円で頭打ちになる仕組みの緩和として置かれているので、850万円が動かない限り前提が崩れません。
もうひとつは条文の指し方です。措置法41条の3の11第4項5号は、給与所得控除額を「所得税法第二十八条第三項に規定する給与所得控除額」と項までしか指していません。もし「同項第一号」のように号まで指していたら、28条3項の号が5号構成から4号構成へ組み替わった時点で引用が壊れ、改正が必要になっていたはずです。項どまりで書いてあるおかげで、中の号がどう入れ替わっても引用が生き続けます。
なお措置法29条の4の74万円の特例は、令和8年・令和9年に給与収入220万円以下である場合の話なので、給与収入850万円超が入口の①には及びません。
間違えやすい6つの点
| よくある思い込み | 実際 |
|---|---|
| 850万円は「所得」の基準 | 「収入」の基準。給与所得控除を引く前の額面で判定する |
| 扶養控除が取れない15歳以下の子は関係ない | 条文は「23歳未満の扶養親族」で下限が無い。0歳でも対象 |
| 夫婦のどちらか一方しか使えない | 双方が使える。扶養控除のような一方限定の制限が無い |
| 年金との併用分も年末調整でやってもらえる | ②は年末調整の対象外。確定申告が要る |
| 端数は切り捨て | 1円未満は切り上げ(国税庁 No.1411) |
| 共働きで子が2人なら人数分もらえる | ①の控除額は人数に比例しない。要件を満たす人がいるかどうかだけを見て、金額は給与収入で決まる |
6つめは特に誤解が多いところです。①の控除額の式に扶養親族の人数は入っていません。23歳未満の子が1人でも3人でも、控除額は(給与収入 − 850万円)× 10% で同じです。人数が効くのは扶養控除のほうで、こちらとは別の話になります。
また、①と②の両方に当てはまる人もいます。給与収入が850万円を超えていて23歳未満の子がいて、かつ年金も受け取っているケースです。この場合は2項の「前項の規定の適用がある場合には、同項の規定による控除をした残額」という書き方のとおり、①を引いた後の給与所得から②を引きます。合計で最大25万円の控除になります。
よくある質問
Q. 給与収入が850万円ぴったりのときは対象になりますか?
A. 対象になりません。条文は「その年中の給与等の収入金額が八百五十万円を超える居住者」と書いており、850万円ちょうどは「超える」に当たらないためです。また仮に対象になったとしても、控除額は(850万円 − 850万円)× 10% で0円になります。境界のすぐ上、たとえば給与収入851万円なら控除額は1,000円です。なおここでいう850万円は給与所得控除を引く前の収入金額なので、源泉徴収票では「支払金額」の欄で判定します。「給与所得控除後の金額」で見ると誤ります。
Q. 子が2人いれば控除額は2倍になりますか?
A. なりません。子ども・特別障害者等の所得金額調整控除の控除額は、租税特別措置法41条の3の11第1項が定めるとおり、給与収入(1,000万円を超える場合は1,000万円)から850万円を差し引いた金額の10%であり、扶養親族の人数は式に入っていません。23歳未満の扶養親族が1人いれば要件を満たし、それ以上何人いても控除額は同じです。人数で増えるのは扶養控除のほうです。ただし夫婦それぞれが給与収入850万円を超えていれば、同じ子について夫婦の双方が適用を受けられるため、世帯で見た控除額は2倍になり得ます。
Q. 年金と給与の両方がありますが、年末調整で処理してもらえませんか?
A. できません。年末調整の手続を定めた租税特別措置法41条の3の12第1項は、控除の対象を「前条第一項の規定による控除をされる金額に相当する金額」と書いており、給与と年金の双方を有する人の控除である同条2項には触れていないためです。したがって②の適用を受けるには確定申告が必要になります。会社の年末調整だけで完結すると思っていると、受けられるはずの最大10万円の控除を取りこぼします。年金を受け取りながら働いている方は、年末調整とは別に確定申告の要否を確認してください。
Q. 所得金額調整控除申告書を出し忘れました。どうすればよいですか?
A. 確定申告で適用を受けることができます。所得金額調整控除は年末調整でも申告でも受けられる控除で、年末調整での適用は租税特別措置法41条の3の12が用意した簡便な経路にすぎません。年末調整で漏れた場合は、確定申告書で給与所得の金額を計算する際に控除します。源泉徴収票の「支払金額」と扶養親族の年齢が分かる資料を手元に用意してください。なお申告書の提出期限そのものは、同条2項により「その年最後に給与等の支払を受ける日の前日まで」と定められています。
Q. 令和8年12月からの改正で、850万円の基準や15万円の上限は変わりますか?
A. 変わりません。租税特別措置法41条の3の11と41条の3の12について、e-Gov 法令API v2 で現行版と2026年12月1日施行版の条文を取得して突き合わせたところ、どちらの条も文字数・ハッシュとも完全に一致しました。同じ2つのリビジョンで措置法29条の4を比べるとハッシュが異なり制度自体が別物に置き換わっているので、比較の経路が生きていることは確認済みです。給与所得控除は令和8年12月1日に号の構成が組み替わりますが、収入850万円超で195万円という上限部分は据え置かれているため、その緩和として置かれた所得金額調整控除も前提が変わらずに済んでいます。
Q. 特別障害者に当たるかどうかは、いつの時点で判定しますか?
A. その年の12月31日の現況で判定します。租税特別措置法41条の3の11第3項が、本人が特別障害者に該当するか、23歳未満の扶養親族に該当するか、特別障害者である同一生計配偶者・扶養親族に該当するかの判定を「その年十二月三十一日……の現況による」と定めているためです。年の中途で死亡または出国する場合はその死亡・出国の時、判定される者がその当時すでに死亡している場合はその死亡の時の現況によります。年の途中で障害者手帳の交付を受けた場合も、12月31日時点で該当していれば対象になります。
出典
- 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)41条の3の11 — 所得金額調整控除。1項(子ども・特別障害者等/850万円超・1,000万円上限・100分の10)、2項(給与と年金の双方/10万円)、3項(12月31日の現況による判定)、4項(用語の定義。号数は7で、
tools/egov_elm.pyにより木構造から計数)を e-Gov 法令API v2 で取得 - 租税特別措置法41条の3の12 — 年末調整に係る所得金額調整控除。1項が対象を「前条第一項」に限っていること、2項の提出期限、3項のみなし提出、4項の電磁的方法、6項の個人番号の記載省略はいずれも条文本文による
- 租税特別措置法29条の4 — 現行版(リビジョン 332AC0000000026_20260812_508AC0000000064)は「退職勤労者が弁済を受ける未払賃金に係る課税の特例」、2026年12月1日施行版(同 _20261201_508AC0000000012)は「給与所得控除の最低控除額等の特例」。同じ条番号が別制度に置き換わる実例であり、本記事では新旧比較が空振りしていないことの対照として用いた
- 所得税法(昭和40年法律第33号)28条3項 — 給与所得控除額。現行は5号構成(190万円以下=65万円ほか)、2026年12月1日施行版は4号構成(360万円以下=8万円+30%、69万円が下限)。「八百五十万円を超える場合百九十五万円」は新旧で同一
- 所得税法2条1項34号の2 — 控除対象扶養親族の定義。居住者については「年齢十六歳以上の者」に限られており、所得金額調整控除の「23歳未満の扶養親族」に下限が無いこととの差はここから生じる
- 国税庁タックスアンサー No.1411 所得金額調整控除(令和7年4月1日現在法令等)— 1円未満の端数の切り上げ、扶養控除と異なり同一生計内の一方のみという制限が無いこと、年末調整で適用できるのは子ども・特別障害者等の控除であることの説明。根拠法令等として措法41の3の11、41の3の12、措令26の5、措通41の3の11-1 を挙げている
- 租税特別措置法施行令26条の5 — 所得金額調整控除の適用がある場合の読み替え。雑損控除(所得税法69条)、予定納税(同154条・155条)、災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律に基づく徴収猶予にまで読み替えが及ぶ
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の控除の可否や申告の要否については、所轄の税務署または税理士にご確認ください。