棚卸資産回転率と回転期間|分母を売上高にすると、在庫ではなく粗利率を測ってしまう
結論から言うと、棚卸資産回転率は「売上原価 ÷ 棚卸資産」で計算します。分子に売上高を置く式も広く出回っていますが、それは在庫の回り方ではなく粗利率の変化を拾ってしまうので、期をまたいで比べる指標としては使えません。
理由は物差しが違うことにあります。棚卸資産は取得価額をもとに評価される資産です(法人税法29条1項)。一方の売上高は売価です。原価で測ったものを売価で割ると、値付けを変えただけで比率が動きます。後で実数を出しますが、在庫も販売数量も1円・1個も動かさずに値上げしただけで、売上高ベースの回転率は8.6回から10.0回へ「改善」します。原価ベースなら、正しく6.0回のまま動きません。
この記事では、まず2つの式を並べてどちらを使うかを決め、次に同じ設例で数字がどれだけずれるかを見ます。そのうえで、回転期間との関係、分母に期末残高を使うか期首期末平均を使うか、月商ベースと年商ベースの混在、そして「回転が速いほど良い」とは限らないことまで扱います。
結論:2つの式と、売上原価にそろえる理由
棚卸資産回転率には、実務で2つの式が流通しています。
| 呼び方 | 式 | 評価 |
|---|---|---|
| 原価ベース | 売上原価 ÷ 棚卸資産 | こちらを使う |
| 売上高ベース | 売上高 ÷ 棚卸資産 | 粗利率の影響を受ける |
分けているのは分子だけで、分母はどちらも棚卸資産です。ではなぜ分子をそろえる必要があるのか。棚卸資産がいくらで貸借対照表に載っているかを見ると分かります。法人税法29条1項は、期末に持っている棚卸資産の価額について次のように定めています。
棚卸資産の取得価額の平均額をもつて事業年度終了の時において有する棚卸資産の評価額とする方法その他の政令で定める評価の方法のうちからその内国法人が当該期末棚卸資産について選定した評価の方法により評価した金額
条文が並べているのはいずれも取得価額を出発点にした評価方法です(具体的な6種類の中身は棚卸資産の評価方法6種の違いで扱っています)。つまり分母の棚卸資産は原価で測った金額です。
ここに売上高、すなわち売価で測った金額を分子として乗せると、比率の中に「原価と売価の差」=粗利がまぎれ込みます。回転率という名前がついているのに、実際には値付けの変化を測ってしまう。これが売上高ベースを避ける理由です。
在庫を動かさず値上げすると、売上高ベースだけが動く
言葉で説明するより、実数のほうが早いので設例を置きます。A社は同じ商品を扱っていて、第1期と第2期で仕入も在庫も販売数量もまったく同じとします。違うのは売値だけで、第2期に値上げして粗利率を30%から40%に上げました。
| 項目 | 第1期 | 第2期 |
|---|---|---|
| 売上原価 | 84,000,000円 | 84,000,000円 |
| 粗利率 | 30% | 40% |
| 売上高 | 120,000,000円 | 140,000,000円 |
| 棚卸資産(期首期末平均) | 14,000,000円 | 14,000,000円 |
売上高は、売上原価84,000,000円を「1 − 粗利率」で割って求めています。第1期は 84,000,000 ÷ 0.7 = 120,000,000円、第2期は 84,000,000 ÷ 0.6 = 140,000,000円です。在庫の金額は両期とも14,000,000円で動かしていません。
この数字で2つの式を計算すると、次のようになります。
| 式 | 第1期 | 第2期 | 差 |
|---|---|---|---|
| 原価ベース(売上原価÷棚卸資産) | 6.0回 | 6.0回 | ±0 |
| 売上高ベース(売上高÷棚卸資産) | 8.57回 | 10.0回 | +1.43回 |
検算します。原価ベースは 84,000,000 ÷ 14,000,000 = 6.0 で両期とも同じ。売上高ベースは第1期が 120,000,000 ÷ 14,000,000 = 8.571…、第2期が 140,000,000 ÷ 14,000,000 = 10.0 です。
在庫は1円も動いていません。売れた数量も同じです。それなのに売上高ベースだけが8.57回から10.0回へ、17%も上がりました。上がったのは在庫の効率ではなく、値付けです。
逆向きも起こります。値下げして粗利率を下げれば、在庫管理を何も変えていなくても売上高ベースの回転率は悪化して見えます。値引き販売で在庫を減らした期に「回転率が落ちた」という結論が出るなら、それは式のほうを疑ってください。
回転率と回転期間は、同じことを裏返しに言っている
回転率が「1年に何回入れ替わったか」を表すのに対し、回転期間は「入れ替わるのに何日かかったか」を表します。逆数の関係なので、どちらか一方を出せばもう一方はすぐ出ます。
| 指標 | 式 | 設例の値 |
|---|---|---|
| 回転率(回) | 売上原価 ÷ 棚卸資産 | 6.0回 |
| 回転期間(日) | 365 ÷ 回転率 | 60.8日 |
| 回転期間(別の書き方) | 棚卸資産 ÷ (売上原価 ÷ 365) | 60.8日 |
2つ目と3つ目は同じ計算です。365 ÷ 6.0 = 60.83…日。あるいは1日あたりの売上原価が 84,000,000 ÷ 365 = 230,136.9…円なので、14,000,000 ÷ 230,136.9 = 60.83…日。どちらでも同じ値になります。
実務では回転期間のほうが会話に乗せやすいことが多いです。「6回転」と言われてもピンと来なくても、「在庫が60日ぶん寝ている」と言えば、その60日ぶんの仕入代金が資金として拘束されていることが直感的に伝わります。仕入代金をいつ払うか(支払サイト)と並べると、運転資金の話に直結します。
支払サイト・支払日計算ツールで、仕入代金の支払日を確認する分母は期末残高か、期首期末の平均か
分母の棚卸資産に何を入れるかで、実務は割れます。どちらにも理屈があるので、決めたら期をまたいで変えないことのほうが大事です。
| 取り方 | 式 | 向き・不向き |
|---|---|---|
| 期末残高 | 期末の棚卸資産 | 決算書から1つ拾うだけで済む。期末が閑散期だと実態より良く出る |
| 期首期末平均 | (期首 + 期末) ÷ 2 | 期中の水準に近づく。前期の決算書も要る |
| 月末残高の平均 | 12か月の月末残高の平均 | いちばん実態に近い。月次の棚卸をしていないと出せない |
期末残高を使うときに気をつけたいのが期末の水準がその期を代表していないケースです。決算期末が閑散期にあたる会社では、期末在庫が年間でいちばん少ない時期の数字になります。分母が小さくなるので回転率は高く出ますが、期中ずっとその水準だったわけではありません。
設例で言えば、期首12,000,000円・期末16,000,000円なので平均は14,000,000円でした。もし期末残高16,000,000円だけを使えば 84,000,000 ÷ 16,000,000 = 5.25回となり、平均を使った6.0回より低く出ます。同じ会社の同じ期でも0.75回の差が出るので、他社と比べるときは相手がどちらで計算しているかを確かめないと意味がありません。
決算書のどの数字を拾うか
式が決まっても、決算書のどの行を取るかで迷うことがあります。拾う場所は2か所だけです。
| 要素 | どこから | 注意点 |
|---|---|---|
| 売上原価 | 損益計算書の「売上原価」 | 期首棚卸高+当期仕入高−期末棚卸高の差引後の金額 |
| 棚卸資産 | 貸借対照表の流動資産 | 1行とは限らない |
つまずきやすいのは分母のほうです。棚卸資産は貸借対照表で商品・製品・半製品・仕掛品・原材料・貯蔵品といった複数の科目に分かれて並んでいることがあり、「棚卸資産」という1行が無い決算書も珍しくありません。そのときは該当する科目を合計するのが原則です。
ここで一部だけを拾うと、分母が小さくなって回転率が実態より高く出ます。製造業で製品だけを拾い、仕掛品と原材料を落とすのがよくある形です。工程の途中にある在庫も資金を拘束している以上、回転を見る目的からは外す理由がありません。
月商ベースと年商ベースを混ぜない
回転期間には「◯か月ぶん」という言い方もあります。年間の売上原価ではなく月平均の売上原価で割る書き方です。
設例なら、月平均の売上原価は 84,000,000 ÷ 12 = 7,000,000円。棚卸資産14,000,000円をこれで割ると2.0か月となります。日数で出した60.8日とほぼ同じことを言っています(60.8 ÷ 30.4 ≒ 2.0)。
問題は、社内の資料でこの2つが混在したときです。「回転期間2.0」と書かれた数字が月なのか日なのか、単位を落とすと30倍ずれます。表の見出しに単位を必ず書くだけで防げる事故なので、様式を作る側で決めておくのが確実です。
回転が速すぎるのも問題になる
回転率は高いほど良い、と説明されることが多いのですが、これは片側だけを見た言い方です。在庫を持たなければ回転率はいくらでも上がりますが、その先にあるのは欠品です。
在庫が持つ役割は2つあります。ひとつは需要の振れを吸収すること、もうひとつは仕入のリードタイムを埋めることです。回転期間が仕入のリードタイムを下回ると、注文してから届くまでのあいだに在庫が尽きる計算になります。
設例の回転期間は60.8日でした。仕入のリードタイムが30日なら余裕がありますが、これが2週間まで縮んで回転期間が10日になっていたら、リードタイム30日の商品は構造的に欠品します。回転率だけを追って在庫を絞ると、売上そのものを落とします。
| 症状 | 疑うこと |
|---|---|
| 回転期間が長い | 滞留在庫・過剰発注・売れ筋の読み違い |
| 回転期間が短い | 欠品による機会損失・発注頻度の増加による手間とコスト |
| 全体は普通なのに現場が欠品を訴える | 平均値が滞留在庫に引っ張られている(商品別に分解する) |
最後の行が実務ではいちばん多い形です。全社合計の回転期間は、動かない在庫と動きすぎる在庫を足して2で割った数字なので、両方の問題を同時に隠します。数字で置くと分かりやすいので、設例の14,000,000円を2つの商品群に分けてみます。
| 商品群 | 棚卸資産 | 年間売上原価 | 回転期間 |
|---|---|---|---|
| A(主力・よく動く) | 2,000,000円 | 73,000,000円 | 10.0日 |
| B(滞留) | 12,000,000円 | 11,000,000円 | 398.2日 |
| 合計 | 14,000,000円 | 84,000,000円 | 60.8日 |
合計は先ほどと同じ60.8日で、この数字だけを見ればごく普通です。ところが中身は10.0日と398.2日で、40倍近く離れています。Aは仕入のリードタイムが2週間あれば欠品しますし、Bは1年以上動いていないので評価損や廃棄を検討する水準です。合計の60.8日は、そのどちらの実態も表していません。
検算しておくと、Aは 2,000,000 ÷ (73,000,000 ÷ 365) = 2,000,000 ÷ 200,000 = 10.0日。Bは 12,000,000 ÷ (11,000,000 ÷ 365) = 12,000,000 ÷ 30,136.9 = 398.2日です。合計は 14,000,000 ÷ (84,000,000 ÷ 365) = 60.8日で、最初の設例と一致します。
指標を1つ出して終わりにせず、分解して見るのが前提です。合計値が動かないまま中身だけが悪化することもあるので、合計が横ばいであることを「変化なし」と読まないようにしてください。
よくある質問
Q. 棚卸資産回転率は売上高と売上原価のどちらで計算しますか?
A. 売上原価で計算します。棚卸資産は取得価額をもとに評価される資産で(法人税法29条1項)、貸借対照表には原価で載っています。分子に売価である売上高を置くと、原価で測ったものを売価で割ることになり、比率の中に粗利が混ざります。その結果、在庫の量も回り方も変えずに値上げしただけで回転率が上がってしまいます。分子と分母の物差しをそろえるという意味で、売上原価を使うのが筋の通った取り方です。
Q. 棚卸資産回転期間はどう計算しますか?
A. 365を回転率で割ると日数が出ます。回転率が6.0回なら 365 ÷ 6.0 = 60.8日です。棚卸資産を1日あたりの売上原価で割っても同じ値になり、売上原価が年間84,000,000円で棚卸資産が14,000,000円なら、1日あたりの売上原価は230,136.9円、14,000,000 ÷ 230,136.9 = 60.8日です。月数で言いたい場合は月平均の売上原価で割り、この例では 14,000,000 ÷ 7,000,000 = 2.0か月となります。日と月は30倍違うので、資料には必ず単位を書いてください。
Q. 分母の棚卸資産は期末残高と期首期末平均のどちらを使いますか?
A. どちらでも計算できますが、決めたら期をまたいで変えないことが大切です。期末残高は決算書から1つ拾えば済む反面、決算期末が閑散期にあたる会社では分母が小さくなり回転率が高く出ます。期首期末平均は期中の水準に近づきます。本文の設例では期首12,000,000円・期末16,000,000円で、平均を使えば6.0回、期末残高だけを使えば5.25回となり、同じ期でも0.75回の差が出ます。他社と比べるときは相手の計算方法を確認しないと比較になりません。
Q. 回転率は高ければ高いほど良いのですか?
A. そうとは限りません。在庫には需要の振れを吸収する役割と、仕入のリードタイムを埋める役割があります。回転期間が仕入のリードタイムを下回ると、発注してから入荷するまでの間に在庫が尽きる計算になり、欠品による機会損失が発生します。回転期間が長ければ滞留在庫や過剰発注を疑い、短ければ欠品や発注頻度の増加を疑う、という両側の指標として使うのが実務的です。
Q. 全社の回転期間は普通なのに、現場では欠品が起きています。
A. 全社合計の回転期間は、まったく動かない在庫と動きすぎる在庫を合算した平均値なので、両方の問題を同時に隠すことがあります。滞留在庫が分母を押し上げているぶん、回転の速すぎる商品の欠品が数字の上では見えなくなります。商品別・カテゴリ別に分解して分布を見ると、平均のまわりに集まっているのではなく二山になっていることがあります。指標を1つ出して終わりにせず、分解して確かめるのが前提です。
Q. 棚卸資産の評価方法を変えると回転率も変わりますか?
A. 変わります。評価方法によって期末の棚卸資産の金額が動き、それが分母になるためです。法人税法29条1項は評価方法を選定して評価する仕組みを定めており、選べる方法は複数あります。同じ仕入・同じ販売数量でも期末在庫の評価額は方法ごとに異なるので、評価方法を変更した期は回転率が不連続に動きます。前期と比べるときは、評価方法の変更がなかったかを先に確認してください。
出典
- 法人税法 29条(棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法)(e-Gov法令検索。本文の引用は法令APIで取得した条文原文)
- 法人税法 22条3項(各事業年度の損金の額に算入する金額)(29条1項が計算の起点として参照している規定)
この記事は一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。設例の数字は計算方法を示すために置いたもので、実在の会社の数値ではありません。実際の判断は顧問税理士にご確認ください。筆者は税理士ではありません。