棚卸資産の評価方法6種の違い|移動平均法・総平均法・低価法と、届出しないと最終仕入原価法になる理由
結論から言うと、選べるのは原価法6種と低価法の合計7つで、届け出なければ最終仕入原価法による原価法になります(法人税法施行令31条1項)。届出をしていない事業者は、積極的にこの方法を選んだのではなく、選ばなかった結果としてこの方法で評価していることになります。
これは「どれでも似たようなもの」では済みません。後で実数を出しますが、同じ仕入400個・550,000円・同じ販売250個でも、評価方法を変えるだけで期末在庫は180,000円から300,000円まで、120,000円(40%)動きます。期末在庫がそのまま売上原価の裏返しになるので、その差はそのまま当期の利益の差になります。
以下、7つの方法を条文の定義どおりに並べて実数で比較し、実務でつまずきやすい3点――低価法は個人事業だと青色申告者しか選べない、変更の申請期限が法人と個人で非対称、通達が「6月ごと移動平均法」を移動平均法から外している――を原文で確認します。
結論:届け出たかどうかで最初の分岐が決まる
法人税法29条1項は、期末棚卸資産の価額を「その内国法人が当該期末棚卸資産について選定した評価の方法により評価した金額」とし、括弧書きで「評価の方法を選定しなかつた場合又は選定した評価の方法により評価しなかつた場合には、評価の方法のうち政令で定める方法により評価した金額」と続けています。この「政令で定める方法」が、施行令31条1項の最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法です。
原価法6種を条文の定義で並べる
施行令28条1項1号は、原価法として次の6つを掲げています。カッコ内は条文が与えている定義の要点です。
| 方法 | 条文 | 期末在庫の単価をどう決めるか |
|---|---|---|
| 個別法 | 1号イ | 期末棚卸資産の全部について、その個々の取得価額をその取得価額とする |
| 先入先出法 | 1号ロ | 期末在庫は「事業年度終了の時から最も近い時に取得したもの」から順次成るものとみなす |
| 総平均法 | 1号ハ | 期首の取得価額の総額と当期取得の総額を合計し、総数量で割る |
| 移動平均法 | 1号ニ | 取得の都度、その時点の在庫と取得分から平均単価を改定する |
| 最終仕入原価法 | 1号ホ | 事業年度終了の時から最も近い時に取得したものの単価を、期末在庫の全部に使う |
| 売価還元法 | 1号ヘ | 期末在庫の通常の販売価額の総額に「原価の率」を掛ける |
ここで見落とされがちなのが、先入先出法と最終仕入原価法は別物だという点です。どちらも直近の単価を使いますが、先入先出法は期末在庫を新しい順に積み上げていくので、直近の仕入数量が期末在庫より少なければその前の仕入単価まで遡ります。最終仕入原価法は遡らず、期末在庫の全部を最後の一回の単価で評価します。直前にごく少量だけ高値で仕入れた場合、この差はそのまま期末在庫の差になります。
実数で比較:期末在庫が120,000円動く
3月決算法人(当期=2026年4月1日〜2027年3月31日)で、期首在庫はゼロ、商品Aの動きが次のとおりだったとします。通常の販売価額は一律1個2,500円とします。
| 日付 | 取引 | 数量 | 単価 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 2026/4/1 | 仕入 | 200個 | 1,000円 | 200,000円 |
| 2026/6/1 | 販売 | 100個 | — | — |
| 2026/8/1 | 仕入 | 100個 | 1,500円 | 150,000円 |
| 2026/10/1 | 販売 | 100個 | — | — |
| 2026/12/1 | 仕入 | 100個 | 2,000円 | 200,000円 |
| 2027/1/20 | 販売 | 50個 | — | — |
| 合計 | 仕入400個 / 販売250個 | — | 仕入 550,000円 | |
期末在庫は400個−250個=150個です。これを7つの方法で評価すると、次のようになります。売上原価は「期首0+当期仕入550,000円−期末在庫」で計算しています。
| 評価方法 | 期末在庫150個の評価額 | 売上原価 | 法定評価方法との差 |
|---|---|---|---|
| 最終仕入原価法(届出なしのとき) | 300,000円 | 250,000円 | — |
| 先入先出法 | 275,000円 | 275,000円 | −25,000円 |
| 移動平均法 | 243,750円 | 306,250円 | −56,250円 |
| 総平均法 | 206,250円 | 343,750円 | −93,750円 |
| 売価還元法 | 206,250円 | 343,750円 | −93,750円 |
| 低価法(総平均法ベース・期末時価1,200円) | 180,000円 | 370,000円 | −120,000円 |
とくに紛らわしい3つだけ、計算の中身を追います。
- 先入先出法:新しい順に12/1の100個(2,000円)+8/1の残り50個(1,500円)=275,000円。直近の仕入100個では150個に届かないので、1つ前の単価まで遡ります。最終仕入原価法はここで遡らず、150個全部を2,000円で見るため25,000円の差が出ます。
- 移動平均法:取得の都度、単価を改定します。4/1は1,000円、8/1の仕入後は1,250円、12/1の仕入後は1,625円。期末は150×1,625=243,750円。
- 売価還元法:原価の率は、分子が取得価額の総額550,000円、分母が「期末在庫の通常の販売価額375,000円+当期販売した対価625,000円」=1,000,000円で、0.55。375,000×0.55=206,250円。
最大の開きは最終仕入原価法と低価法の間で、期末在庫が120,000円、売上原価も同じく120,000円違います。実効税率を30%とすれば、その期の税額に36,000円の差が出る計算です。届出をしていない会社は、この表の一番上の行を「選んだ覚えのないまま」使っていることになります。
法人税の概算を計算する(軽減税率15%は年800万円以下の部分だけ)低価法:法人は誰でも、個人は青色申告者だけ
低価法は、原価法で計算した価額と期末時点の時価を比べて低いほうを評価額にする方法です(施行令28条1項2号)。値下がりした在庫を抱えている事業では、評価損を待たずに期末で反映できるため実務上よく検討されます。
ここに、法人と個人事業でくっきり分かれる違いがあります。法人税法施行令28条1項には、低価法を選べる法人を限定する文言がありません。届出さえすれば規模や申告の色にかかわらず選べます。
一方、所得税法施行令99条1項は柱書がこう書かれています――「次に掲げる方法(その年分の所得税について青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けていない場合には、第一号に掲げる方法)とする」。第一号は原価法、第二号が低価法です。つまり青色申告の承認を受けていない年分は、そもそも原価法しか選択肢に入りません。
選ぶ単位は「事業の種類 × 資産の区分」の2軸
評価方法は会社全体で1つに決めるものではありません。施行令29条1項は、「内国法人の行う事業の種類ごとに、かつ、商品又は製品(副産物及び作業くずを除く。)、半製品、仕掛品(半成工事を含む。)、主要原材料及び補助原材料その他の棚卸資産の区分ごとに選定しなければならない」と定めています。「事業の種類ごと」と「資産の区分ごと」が「かつ」でつながれた2軸である点が要点で、2つの事業を営んでいれば、同じ「商品」でも事業ごとに別の方法を選べます。
さらに法人税基本通達5-2-12は、事業所別に、または区分をその種類の異なるごとその他合理的な区分ごとに細分して、それぞれ異なる方法を選定できるとしています。粒度を細かくする方向には、条文よりもう一段の余地があるということです。個人事業の側も所得税法施行令100条1項が同じ2軸の書き方をしています。
届出は申告期限まで、変更は事前
手続きの期限は、最初の届出とあとからの変更でまったく性格が違います。ここを取り違えると1年待つことになります。
| 法人 | 個人事業 | |
|---|---|---|
| 最初の届出の期限 | 設立の日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで(令29条2項1号) | 事業を開始した日の属する年分の確定申告期限まで(所令100条2項1号) |
| 変更の手続 | 税務署長の承認が必要(令30条1項/所令101条1項) | |
| 変更申請書の期限 | 新たな方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日まで(令30条2項) | 新たな方法を採用しようとする年の3月15日まで(所令101条2項) |
| みなし承認 | その事業年度終了の日まで(中間申告書を提出すべき法人は開始の日以後6月を経過した日の前日まで)に処分がなければ承認とみなす(令30条5項) | その年12月31日までに処分がなければ承認とみなす(所令101条5項) |
最初の届出は申告期限まで待てる――つまり事業年度が終わってから決めても間に合います。ところが変更は事前で、法人の場合は適用したい事業年度が始まる前日が締切です。3月決算法人が2027年4月1日開始の事業年度から総平均法に変えたいなら、申請書の提出期限は2027年3月31日です。決算作業をしながら「来期は変えよう」と気づいたときには、その締切をまたいでいることがあります。
個人事業のほうはその年の3月15日までなので、2027年分から変えたい場合の締切は2027年3月15日――年が明けて2か月半後でも間に合います。同じ「事前の承認」でありながら、法人だけが期首前という厳しい側に置かれている形です。
通達が引いた境界線
条文の6種は名前だけ見ると素直ですが、実務でよく使われる運用が「その方法に該当するのか」は通達が個別に答えています。とくに次の2つは対になっていて、片方だけ知っていると間違えます。
| 実務でやりたい運用 | 通達 | 結論 |
|---|---|---|
| 1月ごとに総平均法で計算し、翌月へ繰り越す(月別総平均法) | 5-2-3 | 総平均法に該当する |
| 1月ごとに移動平均法で計算し、翌月へ繰り越す(月別移動平均法) | 5-2-3 | 移動平均法に該当する |
| 6月ごとに総平均法で計算する | 5-2-3の2 | 総平均法に該当する |
| 6月ごとに売価還元法で計算する | 5-2-3の2 | 売価還元法に該当する |
| 6月ごとに移動平均法で計算する | 5-2-3の2(注) | 移動平均法に該当しない |
6月ごとでも総平均法と売価還元法は認められるのに、移動平均法だけが外されています。条文に立ち返ると理由は読み取りやすく、施行令28条1項1号ニの移動平均法は「棚卸資産の取得をする都度同様の方法により一単位当たりの取得価額が改定されたものとみなし」と、改定のタイミングを取得の都度に結び付けて定義されています。1か月ごとならその近似として許容されるが、6か月ごとでは「都度」から離れすぎる、という線引きになっています。
もう1つ、低価法を選んだときの判定単位も通達が広げています。法人税基本通達5-2-9は、低価の事実の判定は本来「棚卸資産の種類等の同じもの」ごとに行うべきものとしつつ、法人が事業の種類ごと、かつ施行令29条1項の資産の区分ごとに一括して計算した場合には、これを認めるとしています。品目単位で時価を突き合わせるのが原則で、区分単位での一括計算は認容という順序です。
よくある質問
Q. 棚卸資産の評価方法を届け出ないとどうなりますか?
A. 最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法で評価することになります。法人税法29条1項が「評価の方法を選定しなかつた場合」の評価額を政令に委ね、法人税法施行令31条1項がその方法を最終仕入原価法による原価法と定めているためです。個人事業も同じ構造で、所得税法47条1項と所得税法施行令102条1項により、やはり最終仕入原価法による原価法になります。届出がないこと自体が誤りになるわけではなく、この方法を選んだものとして扱われます。
Q. 低価法は誰でも選べますか?
A. 法人と個人事業で扱いが違います。法人税法施行令28条1項は低価法を選べる法人を限定していないため、届出をすれば選べます。これに対し所得税法施行令99条1項は柱書に「その年分の所得税について青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けていない場合には、第一号に掲げる方法」という括弧書きを置いており、第一号は原価法です。青色申告の承認を受けていない年分は、低価法が選択肢そのものに含まれない形になっています。
Q. 評価方法を変更したいときの締切はいつですか?
A. 法人は、新たな評価方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに変更承認申請書を提出します(法人税法施行令30条2項)。個人事業は、採用しようとする年の3月15日までです(所得税法施行令101条2項)。いずれも税務署長の承認が必要で、法人税基本通達5-2-13は、現によっている方法を採用してから3年を経過していないときは、合併や分割に伴うもの等の特別な理由がある場合を除き却下事由に当たるとしています。
Q. 評価方法は会社全体で1つに決めるのですか?
A. 事業の種類ごと、かつ商品または製品・半製品・仕掛品・主要原材料および補助原材料その他の資産の区分ごとに選定します(法人税法施行令29条1項)。2つの軸が「かつ」でつながれているため、複数の事業を営んでいれば同じ区分の資産でも事業ごとに別の方法を選べます。法人税基本通達5-2-12は、さらに事業所別に、または区分を種類の異なるごとその他合理的な区分ごとに細分して選定することも認めています。
Q. 変更承認申請を出したのに返事が来ないときはどうなりますか?
A. 一定の日までに承認または却下の処分がなかったときは、その日に承認があったものとみなされます。法人は、申請に係る事業年度終了の日(その事業年度について中間申告書を提出すべき法人は、事業年度開始の日以後6月を経過した日の前日)が基準になります(法人税法施行令30条5項)。個人事業はその年の12月31日です(所得税法施行令101条5項)。ただし申請書自体が期限内に提出されていることが前提になります。
出典
- e-Gov法令検索「法人税法」(昭和四十年法律第三十四号)第29条第1項・第2項(棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法)。API v2で本則を取得
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」(昭和四十年政令第九十七号)第28条第1項第1号イ〜ヘ・第2号・第2項(棚卸資産の評価の方法)、第28条の2第1項〜第7項(特別な評価の方法)、第29条第1項・第2項(評価の方法の選定)、第30条第1項〜第5項(変更手続)、第31条第1項・第2項(法定評価方法)。API v2で本則を取得
- e-Gov法令検索「所得税法」(昭和四十年法律第三十三号)第47条第1項、「所得税法施行令」(昭和四十年政令第九十六号)第99条第1項柱書・第1号・第2号(青色申告の承認がない場合は第1号のみ)、第100条第1項・第2項、第101条第2項・第5項、第102条第1項。API v2で本則を取得
- 国税庁「法人税基本通達」第5章第2節5-2-1(個別法を選定することができる棚卸資産)、5-2-3(月別総平均法等)、5-2-3の2および同(注)(6月ごと総平均法等/6月ごと移動平均法は移動平均法に該当しない)、5-2-9(低価法における低価の事実の判定の単位)、5-2-12(評価方法の選定単位の細分)、5-2-13および同(注)(変更申請があった場合の「相当期間」=3年)。通達原文を取得
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。評価方法の選定・変更の可否や、期末時価の把握の仕方は、事業の内容や棚卸資産の性質によって判断が分かれることがあります。届出書・申請書の提出や申告書への記載にあたっては、顧問税理士にご確認ください。