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賃上げ促進税制(旧・所得拡大促進税制)|中小15%+上乗せと5年繰越の要件

結論から言うと、中小企業者等が給与総額を前期より1.5%以上増やすと、その増加額の15%を法人税額から直接引けます。増加率が2.5%以上なら15%が上乗せされて30%、くるみん・えるぼし等の認定を受けていればさらに5%が乗って最大35%です。ただし引ける金額には天井があり、調整前法人税額の20%までしか控除できません。

「所得拡大促進税制」という名前で探されることが多い制度ですが、これは旧称です。条文の見出しは「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」で、「所得拡大促進税制」も「賃上げ促進税制」も法令上の用語ではありません。同じ租税特別措置法42条の12の5を指しています。

実務で取り違えが起きやすいのは次の3点です。教育訓練費による上乗せが現行条文には見当たらないこと、控除しきれない分を5年繰り越せるのは中小企業者等だけであること、そして資本金1億円以下でも中小企業者等から外れる入口が2つあることです。順に条文で確かめます。

「所得拡大促進税制」は旧称。条文の見出しは別の名前

租税特別措置法42条の12の5の見出しは「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」です。「所得拡大促進税制」も「賃上げ促進税制」も条文には出てきません。

適用期間は項によって違います。中小企業者等向けの第2項は平成30年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度、全企業向けの第1項は令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度が対象です。いずれも「開始する事業年度」で数えるので、3月決算法人なら令和8年4月1日開始事業年度が対象に入ります。

そもそも対象外になる事業年度がある第1項・第2項とも、設立事業年度解散(合併による解散を除く)の日を含む事業年度清算中の各事業年度は適用対象から除かれています。設立1期目は前期との比較ができないため、賃上げをしていても使えません。

中小企業者等は1.5%の賃上げで15%、上乗せで最大35%

第2項が中小企業者等向けの規定です。判定に使うのは雇用者給与等支給増加割合で、条文は「雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の、当該比較雇用者給与等支給額に対する割合」と定義しています。かみ砕くと(当期の給与総額 − 前期の給与総額)÷ 前期の給与総額です。

この割合が1.5%以上であれば、控除対象雇用者給与等支給増加額に15%を乗じた金額を法人税額から控除できます。そのうえで、次の上乗せがあります。

区分要件控除率
基本雇用者給与等支給増加割合 1.5%以上15%
上乗せ(1号)同 2.5%以上+15%
上乗せ(2号)くるみん/プラチナくるみん/えるぼし/プラチナえるぼしのいずれかの認定+5%
合計(最大)35%

2号の認定は、次世代育成支援対策推進法13条の認定(くるみん)・同法15条の3第1項の特例認定(プラチナくるみん)・女性活躍推進法9条の認定(えるぼし)・同法13条1項の特例認定(プラチナえるぼし)のいずれかを満たせば足ります。いずれか1つでよく、複数取っても+5%は1回だけです。

税額控除率の積み上げ(いずれも上限は調整前法人税額の20%) 中小企業者等(2項) 15% +15% +5% 最大35% 1.5%以上で15%/2.5%以上で+15%/認定で+5% 特定法人(1項) 10% +15% +5% 最大30% 4%以上で10%/5%以上で+5%/6%以上で+15% 特定法人=常時使用する従業員2,000人以下(4項4号) 控除しきれない分を5年繰り越せるのは中小企業者等(2項)の分だけ(4項10号)
控除率の積み上げ。棒の長さは控除率に比例(1%=10px)。天井の20%は控除率ではなく法人税額に対する上限。

全企業向けは「従業員2,000人以下」の特定法人に限られる

第1項は中小企業者等以外も使える規定ですが、条文は適用対象を「当該事業年度終了の時において特定法人に該当する場合」に絞っています。そして特定法人とは、4項4号により常時使用する従業員の数が2,000人以下の法人(当該法人と支配関係のある他の法人との従業員数の合計が1万人を超えるものを除く)と定義されています。

つまり従業員が2,000人を超える法人は、第1項をそもそも使えません。従業員2,000人以下でも、グループ全体の従業員数が1万人を超えると外れます。

第1項が見るのは給与総額ではなく継続雇用者の給与です。継続雇用者とは、適用年度と前事業年度の全期間の各月分の給与の支給を受けた国内雇用者として政令で定めるもので、要するに両期を通じて在籍し続けた人です。この人たちの給与が4%以上増えているかを見ます。基本の控除率は10%、5%以上で+5%、6%以上なら+15%、認定要件で+5%が乗り、最大30%です。

認定要件のハードルが項によって違う第2項(中小)の2号は「くるみん」(次世代法13条の認定)を含みますが、第1項の2号はこれを含まず、次世代法15条の3第1項の特例認定(プラチナくるみん)からです。女性活躍推進法9条の認定も、第2項は「良好な場合」、第1項は「特に良好な場合」と条文の文言が違います。中小のほうが認定のハードルが低く設定されています。
資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上は方針の公表が要る第1項の括弧書きは、事業年度終了の時に資本金または出資金が10億円以上で、かつ常時使用する従業員が1,000人以上である場合には、給与等の支給額の引上げの方針や、受託中小企業振興法2条5項の中小受託事業者その他の取引先との適切な関係の構築の方針などを公表している場合に限る、としています。いわゆるマルチステークホルダー方針の公表です。

教育訓練費の上乗せは現行条文には無い

この制度の解説では「教育訓練費を増やせばさらに上乗せがある」と書かれていることがあります。しかし令和8年8月12日時点で施行されている42条の12の5の条文には、「教育訓練費」という語が1か所も出てきません。e-Gov法令API v2で取得したリビジョン332AC0000000026_20260812_508AC0000000064の同条全文を検索した結果です。

現行条文で上乗せの根拠になっているのは、第1項・第2項とも各号に掲げられた賃上げ率の要件認定の要件の2つだけです。過去の版に教育訓練費の上乗せがあったかどうかは附則を読まないと断定できないため、ここでは踏み込みません。確実に言えるのはいま施行されている条文には無いということです。

年度をまたぐ解説記事に注意この制度は改正が多く、控除率も要件も版によって変わります。解説を読むときは、その記事がどの事業年度に適用される版の話なのかを確かめてください。適用しようとしている事業年度の開始日に施行されていた条文が正本です。

控除しきれない分の5年繰越は中小企業者等だけ

第3項は、控除しきれなかった金額を後の事業年度に繰り越して控除する規定です。ここが読み違えられやすいところで、繰り越せる金額の定義(4項10号)は「中小企業者等税額控除限度額」のうち第2項の規定による控除をしてもなお控除しきれない金額となっています。「中小企業者等税額控除限度額」は第2項でしか定義されていない用語なので、第1項(特定法人)の控除には繰越しがありません

繰越しの条件は3つあります。

3つ目は見落としやすい要件です。繰越しを使う年度に必要なのは「前期を超えている」ことだけで、1.5%といった率の要件はありません。逆に言えば、給与総額が前期と同額または減っている年度では、繰越額が残っていても使えません。

明細書は毎年つなぐ必要がある第7項は繰越控除の適用条件として、第2項の適用を受けた事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書の添付があり、かつ適用を受けようとする事業年度の確定申告書等に控除額の明細を記載した書類の添付がある場合に限る、と定めています。つまり控除しきれなかった年度から実際に使う年度まで、途中の年度も含めて毎年つなぎ続ける必要があります。1年でも添付が欠けると条文上の条件を満たさなくなります。

雇用調整助成金は「要件」と「控除額」で扱いが違う

ここは条文の構造を読まないと気づきにくいところです。控除額の基数である控除対象雇用者給与等支給増加額は、4項7号で次のように定義されています。

まず「雇用者給与等支給額 − 比較雇用者給与等支給額」を計算します。ただしこの金額が調整雇用者給与等支給増加額を超えるときは、そちらが上限になります。調整雇用者給与等支給増加額とは、当期・前期それぞれの給与総額から雇用安定助成金額(雇用保険法62条1項1号に掲げる事業として支給される助成金等=雇用調整助成金など)を控除したうえで差額を取ったものです。

一方、要件判定に使う雇用者給与等支給額(4項8号)と比較雇用者給与等支給額(4項9号)は、「所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額」であって、助成金を控除する規定がありません。

要件は満たすのに控除額が小さくなることがある前期に雇用調整助成金を受けていた会社では、助成金を差し引く前の給与総額で見れば1.5%増を満たしていても、助成金控除後で見た増加額のほうが小さくなることがあります。その場合、控除額の基数は小さいほうの金額になります。要件判定と控除額計算で見ている数字が違う、という点を押さえておくと、申告書上の数字が想定より小さくなった理由を説明できます。

資本金1億円以下でも中小企業者等から外れる2つの入口

第2項の「中小企業者等」は、42条の4第19項7号の中小企業者(同項8号の適用除外事業者・8号の2の通算適用除外事業者に該当するものを除く)または同項9号の農業協同組合等で、青色申告書を提出するものと定義されています。資本金1億円以下でも外れる入口が2つあります。

ひとつは適用除外事業者です。42条の4第19項8号は、その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の合計額を月数で割って12を乗じた金額(=過去3年の平均所得)が15億円を超える法人と定義しています。資本金が小さくても、儲かっている会社は外れます。

もうひとつは大規模法人による株式の保有です。租税特別措置法施行令27条の4第17項は、中小企業者を「資本金1億円以下の法人のうち次に掲げる法人以外の法人」等と定め、除外する法人として次を掲げています。

除外される場合条文
発行済株式の総数の2分の1以上を同一の大規模法人が所有施行令27条の4第17項1号
発行済株式の総数の3分の2以上を複数の大規模法人が所有同項2号
通算法人で、他の通算法人のいずれかが中小要件を満たさない場合同項3号

ここでいう大規模法人は、資本金1億円超の法人、資本を有しない法人のうち従業員1,000人超の法人、および大法人(資本金5億円以上の法人など)に完全支配されている普通法人などです。中小企業投資育成株式会社は大規模法人から除かれます。同じ「資本金1億円以下でも親会社次第で外れる」という構造は繰越欠損金の50%制限にも出てきます。

数字で見る:給与総額4,000万円→4,100万円のとき

3月決算の中小企業者等、令和8年4月1日開始事業年度を例にします。前期の給与総額(比較雇用者給与等支給額)4,000万円、当期4,100万円、雇用調整助成金の受給なし、調整前法人税額100万円とします。

項目金額・率
増加額4,100万円 − 4,000万円 = 100万円
雇用者給与等支給増加割合100万円 ÷ 4,000万円 = 2.5%
控除率15%(基本)+ 15%(2.5%以上)= 30%
計算上の税額控除額100万円 × 30% = 30万円
上限(調整前法人税額の20%)100万円 × 20% = 20万円
当期に実際に控除する額20万円
繰越税額控除限度超過額30万円 − 20万円 = 10万円

この10万円は、翌期以降5年以内で、かつ給与総額が前期を超えている年度に、その年度の調整前法人税額の20%(当期分の控除後の残額)を限度として使えます。使うためには、この事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を添付し続ける必要があります。

申告書に書いた額が上限になる第6項は、第1項・第2項の適用は控除対象雇用者給与等支給増加額や控除額の明細を記載した書類の添付がある場合に限るとし、さらに控除の計算の基礎となる金額は「確定申告書等に添付された書類に記載された控除対象雇用者給与等支給増加額を限度とする」と定めています。添付を忘れた場合や、記載額が実際より少なかった場合の扱いに影響します。なお同項の括弧書きは、控除額を増加させる修正申告書・更正請求書を提出する場合にはそれらを含むとしています。
法人税の簡易計算で、控除前の税額と20%の上限を確かめる

よくある質問

Q. 所得拡大促進税制と賃上げ促進税制は別の制度ですか?

A. どちらも租税特別措置法42条の12の5を指す通称で、条文の見出しは「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」です。「所得拡大促進税制」も「賃上げ促進税制」も法令上の用語ではありません。ただし条文は改正を重ねているため、控除率や要件は適用しようとする事業年度に施行されていた版で確認する必要があります。

Q. 給与総額に役員報酬は含まれますか?

A. 含まれません。42条の12の5第4項2号は国内雇用者を「法人の使用人(当該法人の役員と政令で定める特殊の関係のある者及び当該法人の使用人としての職務を有する役員を除く)のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者として政令で定めるもの」と定義しています。役員のほか、役員と特殊の関係のある者と使用人兼務役員も除かれます。

Q. 中小企業者等の控除率は最大で何%ですか?

A. 第2項の基本が15%、1号(雇用者給与等支給増加割合2.5%以上)で+15%、2号(くるみん・プラチナくるみん・えるぼし・プラチナえるぼしのいずれかの認定)で+5%なので、合計35%が上限です。ただしこれは控除対象雇用者給与等支給増加額に乗じる率であって、控除できる金額そのものは調整前法人税額の20%が限度です。

Q. 控除しきれなかった分は何年繰り越せますか?

A. 第3項と第4項10号により、適用年度開始の日前5年以内に開始した各事業年度に生じた中小企業者等税額控除限度額の控除しきれない部分が対象です。その適用年度まで連続して青色申告書を提出していることが条件で、繰越税額控除限度超過額の定義上、第1項(特定法人向け)の控除には繰越しの規定がありません。

Q. 繰越した分を使う年度にも1.5%の賃上げが必要ですか?

A. 率の要件はありません。第3項本文は「当該法人の雇用者給与等支給額がその比較雇用者給与等支給額を超える場合において」と定めているだけなので、前期の給与総額を超えていれば足ります。逆に、給与総額が前期と同額または減少した年度では、繰越額が残っていても控除できないことになります。

Q. 資本金1億円以下なら必ず中小企業者等に当たりますか?

A. 当たらない場合があります。42条の4第19項8号の適用除外事業者(過去3年の平均所得金額が15億円を超える法人)に該当する場合と、租税特別措置法施行令27条の4第17項が掲げる大規模法人の株式保有要件(発行済株式の2分の1以上を同一の大規模法人が所有、または3分の2以上を複数の大規模法人が所有)に当たる場合は、中小企業者等から外れます。

Q. 第1項と第2項の両方を同じ年度に使えますか?

A. 使えません。第2項は適用対象の事業年度から「前項の規定の適用を受ける事業年度」を除いているため、同一の事業年度で第1項と第2項の両方を適用することはできない構造になっています。どちらの要件も満たす場合はいずれかを選ぶことになります。

Q. 雇用調整助成金を受けていると控除額はどうなりますか?

A. 第4項7号の控除対象雇用者給与等支給増加額は、給与総額の増加額が調整雇用者給与等支給増加額を超えるときはそちらを上限とすると定めています。調整雇用者給与等支給増加額は当期・前期の給与総額から雇用安定助成金額を控除して差額を取ったものです。一方、要件判定に使う4項8号・9号の金額には助成金を控除する規定がないため、要件は満たしていても控除額の基数が小さくなることがあります。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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