賃金台帳とは|記載項目・保存期間・給与明細との違い
結論から言うと、賃金台帳は、使用者が事業場ごとに作り、賃金を支払うたびに記入する法定帳簿です。給与明細を従業員へ渡していても、それだけで賃金台帳を作成したことにはなりません。
労働基準法108条は、賃金計算の基礎となる事項、賃金額などを支払の都度記入するよう求めています。施行規則54条に沿って、氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外・休日・深夜労働時間数、基本給・手当等、控除額を追える状態にします。
実務の要点は「月給の総額を残す」だけではなく、なぜその支給額・控除額になったかを後から再計算できる記録にすることです。
賃金台帳の意味と対象
対象は正社員だけではありません。賃金を支払う労働者について作成するため、パート、アルバイト、有期契約社員も含みます。事業場単位で備え、給与計算のたびに更新します。日々雇い入れられる者については、施行規則54条に一部の取扱いがあります。
必須記載項目
| 区分 | 記載する内容 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 本人 | 氏名、性別 | 従業員番号だけにしない |
| 計算期間 | 賃金計算期間 | 締日との対応が分かるようにする |
| 勤怠 | 労働日数、労働時間数 | 欠勤・遅刻控除の根拠になる |
| 割増 | 時間外、休日、深夜の時間数 | 種類ごとに分ける |
| 支給 | 基本給、手当その他賃金の種類ごとの額 | 総支給額だけでは内訳不足 |
| 控除 | 法令または協定により控除した額 | 社会保険、税、その他を分ける |
たとえば基本給300,000円、時間外手当20,000円、通勤手当10,000円なら、総支給330,000円だけでなく三つの内訳を記録します。時間外手当20,000円に対応する時間数も別欄で追えるようにします。
給与明細・労働者名簿との違い
| 賃金台帳 | 給与明細 | 労働者名簿 | |
|---|---|---|---|
| 目的 | 賃金計算の法定記録 | 支給・控除を本人へ通知 | 労働者の身元・履歴を管理 |
| 単位 | 事業場・労働者・支払回 | 本人・支払回 | 事業場・労働者 |
| 特徴 | 勤怠時間も記載 | 手取り額の確認が中心 | 住所、雇入年月日等を記載 |
給与明細に法定項目がすべてあり、期間を通じて検索・出力できる場合は同じデータを活用できます。ただし「明細を配ったから台帳不要」とはなりません。労働者名簿とは合わせて調製できますが(労働基準法施行規則55条の2)、必要項目が欠けないことが条件です。なお給与明細の側にも交付を義務づける法律があり、それは労働基準法ではなく所得税法231条です。明細の各欄がどの法律から来ているかは給与明細の見方で整理しています。
あわせて調製する場合に注意したいのが保存期間の起算日です。同じ3年でも、賃金台帳は施行規則56条1項2号により「最後の記入をした日」から数えるのに対し、労働者名簿は同項1号により「労働者の死亡、退職又は解雇の日」から数えます。1つのファイルにまとめた結果、先に到来する起算日に合わせて全体を廃棄すると、もう一方の保存義務を落とすことになります。労働者名簿側の記載事項9項目と保存期間の考え方は労働者名簿の書き方と記載事項9項目で詳しく整理しています。
給与の支給額から手取りを試算 社会保険料・税を含む概算を確認できます。実際の賃金台帳は会社の給与データで作成してください。保存期間と起算日
労働関係書類の保存は、法改正により法律上の原則が5年となり、当分の間は3年とする経過措置があります。賃金台帳については、最後の記入日を基準に管理します。ただし、賃金支払期日が最後の記入日より遅い場合は、その支払期日から数えます。
「各月の給与日から毎月別々に廃棄する」運用は事故につながります。退職者を含め、台帳単位で最後の記入日と最後の支払期日の遅い方を記録し、保存期限を設定すると追跡しやすくなります。税務、社会保険、助成金など別制度がより長い証憑保存を求める場合もあるため、労基法上の期間だけで一律廃棄しないことも重要です。
保存期間を満たしていても、必要なときに出力できなければ確認に使えません。年度別のPDFやCSVを定期的に保管し、氏名・支払年月・事業場で検索できるファイル名にします。バックアップは給与ソフト本体と別の場所にも置き、閲覧権限を給与担当者など必要な範囲に限定します。マイナンバーを賃金台帳へ不要に記載しないなど、法定項目と機密情報を分けることも大切です。
作成・訂正の実務
電子作成でも、必要事項を直ちに表示・印刷でき、事業場ごとに確認できる状態なら実務に適します。クラウド給与ソフトを使う場合は、退職者を削除して過去データが消えないか、契約終了後に出力できるかも確認します。
勤怠と給与結果を照合する
賃金台帳は給与結果の一覧であると同時に、勤怠記録とつながる帳簿です。所定労働日数、実労働時間、時間外・休日・深夜の各時間を勤怠システムと照合します。固定残業代がある場合も実際の時間数を省略せず、欠勤控除がある月は控除単価と日数・時間を再計算できる資料を残します。
賞与・退職者も記録をつなげる
賞与を別システムで計算する会社では、月例給与の台帳だけが残り、賞与記録が抜けやすくなります。退職月の給与、未払残業代の後日支給、遡及昇給の差額も、誰のどの期間に対応する賃金か分かるようにします。事業場間の転勤があった場合は、双方の帳簿で記録が連続して追えるかも確認します。
訂正時は元データを黙って上書きせず、訂正日、訂正理由、訂正前後の金額、差額の支払・返還日を残します。例として、時間外労働2時間の入力漏れで3,000円不足したなら、対象月の時間数と時間外手当を訂正し、3,000円を追加支給した日まで関連づけます。源泉徴収票にも影響するときは源泉徴収票の見方も確認します。
- 全労働者が対象になっている
- 支給総額だけでなく、手当・控除の種類別金額がある
- 時間外・休日・深夜の時間数が分かれている
- 支払の都度更新されている
- 訂正履歴と差額精算を追跡できる
よくある質問
Q. 給与明細を保存すれば賃金台帳の代わりになりますか?
A. 給与明細という名称だけでは判断できません。施行規則54条の必要項目を満たし、事業場ごとに支払の都度記録され、表示できる必要があります。一般的な給与明細には性別や労働時間の区分がないため、そのままでは不足します。
Q. 賞与も記載しますか?
A. 賞与も賃金に該当するため、支払時の記録が必要です。厚生労働省の主要様式には常用労働者用の賃金台帳のほか、日々雇い入れられる者用の様式もあります。
Q. 手取り額だけ記録すれば足りますか?
A. 足りません。基本給・手当等の種類別支給額と、控除項目の額を分け、支給から控除を引いて手取りに至る過程を確認できる必要があります。源泉所得税の確認には源泉徴収税額表も利用できます。
出典
- e-Gov法令検索「労働基準法」第108条、第109条、第143条
- e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」第54条、第55条、第56条
- 厚生労働省「労働基準法関係主要様式」(賃金台帳・様式第20号)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は労働基準監督署・社会保険労務士にご確認ください。