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中退共(中小企業退職金共済)とは — 掛金は全額損金。解約手当金は事業主ではなく従業員に支払われる

結論から言うと、中退共(中小企業退職金共済)は、中小企業退職金共済法(昭和34年法律第160号)に基づく国の退職金制度です。事業主が毎月の掛金を独立行政法人勤労者退職金共済機構に納付し、従業員が退職したときに、機構からその従業員へ直接退職金が支払われます。掛金は法人なら損金、個人事業主なら必要経費に算入でき、しかも従業員側で給与として課税されません。

ここまでは多くの解説に書かれていることです。実務で効いてくるのに、あまり書かれていない点が3つあります。1つ目は、掛金納付月数が12月に満たないと退職金は1円も支給されないこと(法10条1項ただし書)。2つ目は、23月以下は「掛金総額を下回る額」だと法律そのものが定めていること(法10条2項1号)。元本割れは運用の失敗ではなく、制度の設計としてそう書かれています。

そして3つ目が最大の落とし穴です。契約を解除しても、解約手当金が支払われる相手は事業主ではなく従業員(被共済者)です(法16条1項)。積み立てたお金を会社が引き上げるという発想は、この制度では成り立ちません。「思ったより資金繰りが厳しいので解約して戻そう」は、条文上できないのです。

中退共とは — 国が作った中小企業向けの退職金制度

中退共制度は、中小企業退職金共済法に基づいて昭和34年に設けられた制度です。単独では退職金制度を持ちにくい中小企業のために、国が制度の器を用意しているという位置づけになります。

法律上の骨格は、法2条3項が定める「退職金共済契約」の定義に集約されています。すなわち事業主が機構に掛金を納付することを約し、機構がその事業主の雇用する従業員の退職について退職金を支給することを約する契約です。契約の当事者は事業主と機構ですが、法5条は「被共済者及びその遺族は、当然退職金共済契約の利益を受ける」と定めており、従業員は契約の当事者でないまま、法律の力で受益者になります。

この「当然」という一語が、後で述べる解約手当金の話にそのままつながります。従業員の権利は事業主を経由して発生しているのではなく、法律が直接与えているものだからです。

規模としては、中退共の公表資料によると令和7年度末で加入企業 375,555所・加入従業員 3,571,957人・運用資産額 約5.6兆円となっています。

加入できる企業と、加入させる従業員

法3条1項は「中小企業者でなければ、退職金共済契約を締結することができない」と定めています。その「中小企業者」の範囲は法2条1項が業種別に定めており、中退共の公表資料では次の表の形で示されています。従業員数と資本金・出資金はどちらか一方を満たせばよいという関係です。

業種常用従業員数資本金・出資金
一般業種(製造業、建設業等)300人以下または3億円以下
卸売業100人以下または1億円以下
サービス業100人以下または5,000万円以下
小売業50人以下または5,000万円以下

個人企業や公益法人等の場合は、資本金という概念がないため常用従業員数だけで判定されます。

従業員の側は、法3条3項が「中小企業者は、次の各号に掲げる者を除き、すべての従業員について退職金共済契約を締結するようにしなければならない」と定めています。原則は全員加入で、条文が除外を認めているのは、期間を定めて雇用される者・季節的業務に雇用される者・試みの雇用期間中の者・現に他の退職金共済契約の被共済者である者などです。中退共の案内では、これに短時間労働者、休職期間中の者、定年などで相当の期間内に雇用関係の終了することが明らかな従業員が加えられています。

役員と個人事業主は加入できない

中退共の被共済者になれるのは「事業主が雇用する従業員」です。法2条2項が「退職」を事業主との雇用関係が終了することと定義していることからも、雇用関係にない個人事業主本人や法人の役員が対象外であることが読み取れます。経営者自身の退職金を積み立てたい場合は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する小規模企業共済が別制度として用意されています。なお中退共の案内では、小規模企業共済制度に加入している方は中退共に加入できないとされています。

もう1つ、法6条1項は「中小企業者は、その雇用する従業員の意に反して当該従業員を被共済者とする退職金共済契約の申込みを行つてはならない」と定めています。会社の福利厚生だから全員入れておく、というわけにはいかず、反対の意思を表明した従業員は加入させられません。

掛金は月5,000円から30,000円の16種類(全額事業主負担)

法4条2項は掛金月額を「五千円…以上三万円以下」と定め、短時間労働被共済者については下限を2,000円としています。さらに法4条3項が刻みを定めており、2,000円を超え10,000円未満は1,000円の整数倍、10,000円を超え30,000円未満は2,000円の整数倍でなければなりません。この条文どおりに並べると、実際に選べるのは次の16種類になります。

区分選べる掛金月額
一般(16種類)5,000円/6,000円/7,000円/8,000円/9,000円/10,000円/12,000円/14,000円/16,000円/18,000円/20,000円/22,000円/24,000円/26,000円/28,000円/30,000円
短時間労働者の特例(上記に追加)2,000円/3,000円/4,000円

ここでいう短時間労働者とは、中退共の案内では「1週間の所定労働時間が、同じ事業所に雇用される通常の従業員より短く、かつ30時間未満である従業員」とされ、申込時に労働条件通知書または労働契約書の写しによる証明が必要です。

掛金を従業員に負担させることはできない

中退共の案内は「中退共制度の掛金は全額事業主が負担し、掛金の一部でも従業員に負担させることはできません」と明示しています。給与から天引きして掛金の一部に充てる、という設計は取れません。

掛金月額の変更については、増額と減額で扱いが大きく違います。法9条1項は、共済契約者から増額の申込みがあったとき機構は「これを承諾しなければならない」と定めており、増額は事実上いつでも通ります。一方の減額は、中退共の案内によれば、①その従業員が減額に同意した場合、②現在の掛金月額を継続することが著しく困難であると厚生労働大臣が認めた場合、のいずれかに限られます。上げるのは自由、下げるのは相手の同意か大臣の認定が要るという非対称な作りです。

納付は口座振替で、当月または翌月の18日(金融機関が休業日の場合は翌営業日)に引き落とされます。掛金は12か月分を限度として前納でき、前納した場合は法24条により一定の額が減額されます。また法26条1項は、常時5人未満の従業員を雇用する共済契約者について、3月の範囲内で納付期限を延長できると定めています。

掛金の税務 — 損金・必要経費、そして従業員に給与課税されない

掛金の税務上の扱いは、中退共法ではなく法人税・所得税の側の政令に書かれています。3つの条文がそれぞれ別の当事者を向いており、まとめると次の表になります。

誰の税金か扱い根拠
法人(会社)支出した金額を損金の額に算入する法人税法施行令135条1号
個人事業主支出した日の属する年分の事業所得等の計算上必要経費に算入する所得税法施行令64条2項
従業員(被共済者)被共済者に対する給与所得に係る収入金額に含まれない所得税法施行令64条1項1号

3つ目が見落とされやすい点です。会社が従業員のために積み立てているお金なのに、その時点では従業員の給与になりません。給与として課税されるのは受け取るときで、しかも後述のとおり退職所得として扱われます。生命保険を使った退職金の準備などと比べたときに、この制度が有利だとされる根拠の中心はここにあります。

資本金1億円超の法人は外形標準課税に注意

中退共の案内は、資本金または出資金が1億円を超える法人の法人事業税については外形標準課税が適用される点に留意するよう付記しています。外形標準課税の付加価値割は報酬給与額を課税標準の一部とするため、法人税の損金算入とは別の考慮が要ります。

掛金納付月数で退職金は3段階に変わる(12月・24月・43月が境目)

ここが制度の核心で、かつ最も誤解されている部分です。退職金の額は法10条2項が掛金納付月数の区分ごとに定めており、金額の水準そのものが法律で方向づけられています。

掛金納付月数法律が定める退職金の額根拠
12月未満支給しない法10条1項ただし書
12月以上23月以下納付された掛金の総額を下回る額(政令で定める額)法10条2項1号
24月以上42月以下納付された掛金の総額に相当する額法10条2項2号
43月以上納付された掛金の総額を上回る額+付加退職金法10条2項3号
退職金 掛金納付月数 納付した掛金の総額 0円 〜11月 総額を下回る 12〜23月 総額と同額 24〜42月 総額を上回る+付加退職金 43月〜
掛金納付月数と退職金の関係。段の高さは法10条1項・2項が定める水準を模式的に示したもので、実際の金額を縮尺どおりに描いたものではない。

つまり元本割れは運用の失敗ではありません。法10条2項1号が「掛金の総額を下回る額として…政令で定める額」と書いているとおり、23月以下で退職した場合に元本を割ることは制度としてあらかじめ決まっています。掛金月額10,000円で1年11か月なら、納付した23万円より少ない金額しか出ません。掛金が事業主負担であることを考えると、この期間に退職者が出たときの損失は会社ではなく従業員が被る点に注意が要ります。

死亡退職のときだけ元本割れしない

法10条2項1号にはかっこ書きが付いています。退職が死亡によるものであるときは、納付された掛金の総額に相当する額とされており、23月以下でも元本割れしません。同じ「23月以下」でも、自己都合退職と死亡退職で結論が変わるということです。この扱いは条文のかっこ書きの中だけに書かれているため、要約された解説では落ちていることがあります。なお法10条1項ただし書の「12月未満は支給しない」には、死亡の例外が置かれていません。

付加退職金は「43月目とその後12か月ごと」にしか付かない

43月以上のときの退職金は、法10条2項3号のイとロの合計です。イが基本退職金(予定運用利回り1%で計算される部分)、ロが付加退職金で、機構の運用収入の状況に応じて上乗せされます。

見落とされやすいのは、付加退職金がいつでも付くわけではないことです。法10条2項3号ロは「計算月」という概念を定義しており、それは「その月分の掛金の納付があつた場合に掛金納付月数が四十三月又は四十三月に十二月の整数倍の月数を加えた月数となる月」です。つまり43月目、55月目、67月目…という飛び飛びの月にだけ、その年度の支給率を掛けた額が積み上がっていきます。

支給率は法10条4項により、厚生労働大臣が各年度ごとに、労働政策審議会の意見を聴いて前年度末までに定めます。中退共が公表している資料によると、令和8年度の付加退職金の支給率は0.61%です。同資料は対象を「令和8年度中に中退共への加入月数が43月以上となる被共済者」とし、退職月は「加入月数43月目とその後12か月ごと」と明記しています。

解約しても事業主に1円も戻らない

法16条1項は、一文だけの短い条文です。

退職金共済契約が解除されたときは、機構は、被共済者に解約手当金を支給する。

支給の相手は「被共済者」、すなわち従業員です。事業主ではありません。会社が資金繰りを理由に契約を解除しても、それまで積み立てた分は在職中の従業員に支払われ、会社には戻りません。中退共が「安心・確実」と説明する制度の実質は、この一文にあります。

事業主 (共済契約者) 機構 (中退共) 従業員 (被共済者) 掛金 退職金 解約手当金 事業主へ戻る経路は無い(法16条1項)
中退共のお金の流れ。退職金も解約手当金も、機構から従業員へ直接支払われる。

そもそも解除できる場面自体が限られています。法8条1項は「機構又は共済契約者は、第二項又は第三項に規定する場合を除いては、退職金共済契約を解除することができない」と定め、事業主側から解除できるのは法8条3項の2つの場合、すなわち①被共済者の同意を得たとき、②掛金の納付を継続することが著しく困難であると厚生労働大臣が認めたときだけです。従業員に無断で解約することはできません。

なお解約手当金の額も、法16条3項が法10条1項ただし書と2項を準用しているため、掛金納付月数12月未満なら支給されず、23月以下なら掛金総額を下回るという同じ構造になります。また法16条2項は、被共済者が偽りその他不正の行為によって退職金等の支給を受けようとしたことで解除された場合には、解約手当金を支給しないと定めています。

受け取る権利は差し押さえられない(ただし国税滞納処分は別)

法20条は、退職金等の支給を受ける権利について「譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない」と定めています。ただし同条ただし書は、被共済者の権利について国税滞納処分(その例による処分を含む)により差し押える場合を例外としています。一般の債権者は差し押さえられないが、税金の滞納処分は例外、という非対称です。

懲戒解雇でも、事業主が勝手に減額することはできない

自社の退職金規程であれば、懲戒解雇のときに退職金を減額または不支給とする定めを置くことがあります。中退共では、その判断を事業主だけで完結させることができません。

法10条5項は、減額の要件を3つ重ねています。①被共済者がその責めに帰すべき事由により退職し、②共済契約者(事業主)の申出があり、③厚生労働省令で定める基準に従い厚生労働大臣が相当であると認めたときに、機構が減額して支給することが「できる」という構造です。事業主にできるのは申し出るところまでで、減額するかどうかを決めるのは機構と大臣です。

また減額されたとしても、その分が事業主に戻るわけではありません。ここでも法5条の「被共済者及びその遺族は、当然退職金共済契約の利益を受ける」が効いています。

国の助成 — 新規加入助成と月額変更助成

法23条1項は、機構が加入促進のため「共済契約者の掛金に係る負担を軽減する措置として、一定の月分の掛金の額を減額することができる」と定めています。この条文を受けた実際の助成の内容は、中退共が次のとおり公表しています。

新規加入助成

月額変更助成

具体的に当てはめると、一般に次のような計算になります。

ケース助成額(月)1年間の合計
掛金10,000円で新規加入5,000円(1/2=5,000円で上限ちょうど)60,000円
掛金30,000円で新規加入5,000円(1/2=15,000円だが上限5,000円)60,000円
掛金5,000円で新規加入2,500円30,000円
短時間労働者・掛金2,000円で新規加入1,300円(1/2の1,000円+上乗せ300円)15,600円
掛金10,000円を18,000円へ増額2,660円(増額分8,000円÷3=2,666円、10円未満切り捨て)31,920円

中退共は、これとは別に独自の補助金制度を設けている地方自治体があるとして、自治体の一覧を公表しています。

通算制度 — 退職後3年以内なら掛金納付月数を引き継げる

中退共には掛金納付月数を引き継ぐしくみがあり、43月の壁を越えるうえで実務的に効きます。

法18条は、被共済者が退職した後3年以内に、退職金を請求しないで再び中小企業者に雇用されて被共済者となり、かつ本人の申出があった場合に、前後の契約に係る掛金納付月数を通算できると定めています。条件は、退職前の掛金納付月数が12月以上であること。12月未満であっても、その退職が本人の責めに帰すべき事由や自己都合によるものでないと厚生労働大臣が認めたときは通算できます。

「請求しないで」がポイント

転職時に退職金を受け取ってしまうと、この通算は使えません。条文が「退職金を請求しないで再び…被共済者となり」と書いているためです。3年以内に同じく中退共に加入している会社へ移る見込みがあるなら、受け取らずに置くという選択肢があることになります。

このほか法27条・28条は過去勤務期間の通算を定めており、加入前からその会社で働いていた期間について、過去勤務掛金を納付することで通算する道を用意しています。中退共の案内では、企業間の通算、特定業種退職金共済制度との通算、特定退職金共済制度との通算も可能とされています。

受け取り方と税金 — 退職所得になるのは「退職金」であって解約手当金ではない

法11条は「退職金は、一時金として支給する」と定めるのが原則で、法12条が本人の請求による分割払を認めています。中退共の案内では、分割して受け取れるのは退職時に60歳以上である場合とされています。

税金の扱いは、所得税法31条3号から政令へ降りていく形で決まっています。所得税法施行令72条3項2号は、機構が中小企業退職金共済法10条1項(退職金)・30条2項・43条1項の規定により支給する退職金を、退職手当等とみなす一時金として列挙しています。したがって一時金で受け取る退職金は退職所得として扱われ、勤続年数に応じた退職所得控除が使えます。実際の手取りは退職金の税金 計算ツールで確認できます。

退職金の手取りを計算する(所得税・住民税を自動計算)
政令の列挙に「解約手当金」は入っていない

所得税法施行令72条3項2号が挙げているのは中退共法10条1項・30条2項・43条1項で、解約手当金を定めた16条は入っていません。対照的に、同じ72条3項の3号ロ・ハは、小規模企業共済については解約手当金(65歳以上の共済契約者が解除した場合など)を名指しで列挙しています。政令が一方では解約手当金を書き、他方では書いていない、という違いがあるということです。中退共の解約手当金を受け取る場面が生じた場合、その所得区分は退職金と同じとは限らないため、顧問税理士に確認することをおすすめします。

なお、受け取り方に関わらず、掛金を払っている段階では従業員に課税されません(所得税法施行令64条1項1号)。課税は受け取る時点まで繰り延べられます。

よくある質問

Q. 中退共の掛金は全額経費になりますか?

A. 法人の場合は法人税法施行令135条1号により、支出した金額がその事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されます。個人事業主の場合は所得税法施行令64条2項により、支出した日の属する年分の不動産所得・事業所得・山林所得の金額の計算上、必要経費に算入されます。さらに所得税法施行令64条1項1号により、事業主が支出した掛金は被共済者である従業員の給与所得に係る収入金額に含まれないため、従業員の側でも課税されません。中退共の案内でも「法人企業の場合は損金として、個人企業の場合は必要経費として、全額非課税となります」と説明されています。ただし資本金または出資金が1億円を超える法人の法人事業税については外形標準課税が適用されるため、法人税の損金算入とは別の考慮が必要になる点が中退共の案内でも注意喚起されています。

Q. 従業員がすぐ辞めた場合、掛金は戻ってきますか?

A. 事業主には戻りません。中小企業退職金共済法10条1項ただし書により、掛金納付月数が12月に満たないときは退職金が支給されず、この場合の掛金が事業主に返還される規定も置かれていません。掛金納付月数が12月以上23月以下の場合は、同法10条2項1号により「納付された掛金の総額を下回る額」が退職金として従業員に支払われます。24月以上42月以下でようやく掛金総額に相当する額となり、43月以上で初めて掛金総額を上回ります。したがって短期間で退職する可能性が高い従業員については、加入のタイミングを含めて検討する余地があります。なお同法3条3項は原則として全従業員の加入を求めつつ、期間を定めて雇用される者、季節的業務に雇用される者、試みの雇用期間中の者などを除外できるものとしています。

Q. 資金繰りが苦しくなったら解約して掛金を回収できますか?

A. できません。中小企業退職金共済法16条1項は「退職金共済契約が解除されたときは、機構は、被共済者に解約手当金を支給する」と定めており、支給の相手は従業員であって事業主ではありません。積み立てた資金が会社に戻る経路は制度上存在しません。そもそも解除できる場面も限られており、同法8条1項が原則として解除を禁じたうえで、事業主側から解除できるのは同条3項の2つの場合、すなわち被共済者の同意を得たとき、または掛金の納付を継続することが著しく困難であると厚生労働大臣が認めたときだけです。資金繰りへの対応としては、解約ではなく掛金月額の減額が考えられますが、減額も従業員の同意か厚生労働大臣の認定が必要とされています。

Q. 懲戒解雇した従業員の退職金を減額できますか?

A. 事業主の判断だけで減額することはできません。中小企業退職金共済法10条5項は、被共済者がその責めに帰すべき事由により退職し、かつ共済契約者の申出があった場合において、厚生労働省令で定める基準に従い厚生労働大臣が相当であると認めたときに、機構が退職金の額を減額して支給することができると定めています。事業主にできるのは申し出るところまでで、減額の可否を決めるのは厚生労働大臣と機構です。また減額された部分が事業主に支払われるわけでもありません。自社の退職金規程で懲戒解雇時の不支給を定めていても、中退共から支給される退職金についてはこの条文の手続きによることになります。

Q. 43月未満で退職すると必ず元本割れしますか?

A. 掛金納付月数が12月以上23月以下の場合は、中小企業退職金共済法10条2項1号により「納付された掛金の総額を下回る額」と定められているため、原則として元本割れします。24月以上42月以下の場合は同項2号により「納付された掛金の総額に相当する額」となるため、元本割れはしませんが増えもしません。ただし例外があり、同項1号のかっこ書きは、退職が死亡によるものであるときは掛金納付月数が23月以下であっても「納付された掛金の総額に相当する額」とすると定めています。つまり死亡退職の場合は23月以下でも元本割れしません。なお12月未満については同法10条1項ただし書が支給しないと定めており、死亡の例外は置かれていません。

Q. 社長や役員も中退共に加入できますか?

A. 加入できるのは事業主が雇用する従業員に限られます。中小企業退職金共済法2条2項は「退職」を事業主との雇用関係が終了することと定義しており、雇用関係にない個人事業主本人や法人の役員は対象になりません。経営者自身の退職金の準備としては、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する小規模企業共済が別の制度として設けられており、中退共の案内でも問い合わせ先として案内されています。なお中退共の案内では、小規模企業共済制度に加入している方は中退共の被共済者になれないとされています。役員であっても使用人としての職務を持つ場合の取扱いなど、個別の判定については中退共または顧問の社会保険労務士・税理士に確認することをおすすめします。

Q. 掛金はいくらから始められますか。あとで変えられますか?

A. 中小企業退職金共済法4条2項により、掛金月額は被共済者一人につき5,000円以上30,000円以下です。短時間労働被共済者については下限が2,000円とされています。同条3項が刻みを定めており、実際に選べるのは5,000円から10,000円までは1,000円刻み、10,000円から30,000円までは2,000円刻みの合計16種類で、短時間労働者はこれに加えて2,000円・3,000円・4,000円が選べます。変更については、増額は同法9条1項により機構が承諾しなければならないとされているため事実上いつでも可能ですが、減額は中退共の案内によれば、その従業員が同意した場合か、継続が著しく困難であると厚生労働大臣が認めた場合に限られます。また掛金は全額事業主負担で、一部でも従業員に負担させることはできないとされています。

Q. 令和8年度の付加退職金はいくら上乗せされますか?

A. 中退共が公表している資料によると、令和8年度の付加退職金の支給率は0.61%です。これは基本退職金(予定運用利回り1%で計算される部分)に上乗せされるもので、中小企業退職金共済法10条2項3号ロに基づきます。注意が必要なのは上乗せされるタイミングで、同号ロは「計算月」を、その月分の掛金の納付があった場合に掛金納付月数が43月または43月に12月の整数倍の月数を加えた月数となる月と定義しています。つまり43月目、55月目、67月目というように12か月ごとの飛び飛びの月にだけ支給率が適用されます。中退共の資料も対象を「令和8年度中に加入月数が43月以上となる被共済者」とし、退職月について「加入月数43月目とその後12か月ごと」としたうえで、43月以上でも令和8年度中に退職した場合は退職月により上乗せされないことがあると注記しています。支給率は同法10条4項により、厚生労働大臣が労働政策審議会の意見を聴いて前年度末までに定めます。

Q. 転職しても中退共の退職金は引き継げますか?

A. 一定の条件を満たせば掛金納付月数を通算できます。中小企業退職金共済法18条は、被共済者が退職した後3年以内に、退職金を請求しないで再び中小企業者に雇用されて被共済者となり、かつ本人の申出があった場合において、退職前の掛金納付月数が12月以上であるときは、前後の契約に係る掛金納付月数を通算することができると定めています。掛金納付月数が12月未満であっても、その退職が本人の責めに帰すべき事由や自己都合によるものでないと厚生労働大臣が認めたときは通算の対象になります。重要なのは「退職金を請求しないで」という条件で、転職時に退職金を受け取ってしまうとこの通算は使えません。このほか同法27条・28条は加入前の過去勤務期間についての通算を定めており、中退共の案内では特定業種退職金共済制度や特定退職金共済制度との通算も可能とされています。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。自社が中小企業者に当たるかどうか、どの従業員を加入させるべきか、掛金月額をいくらに設定するか、また退職金・解約手当金を受け取ったときの所得区分や税額については、個別の事情によって結論が変わります。加入や手続の可否については中小企業退職金共済事業本部(中退共)へ、税務上の取扱いについては顧問税理士へ、労務管理上の取扱いについては社会保険労務士へご確認ください。

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