永年勤続表彰の記念品は課税されるか — 通達36-21に金額の上限は無い。効いているのは「換金性が無いこと」
結論から言うと、永年勤続表彰で渡す記念品や旅行への招待は、所得税基本通達36-21の要件を満たせば給与として課税しなくてよい取扱いになっています。ただしその通達が置いている要件は2つだけで、そこに金額の上限は書かれていません。書かれているのは、利益の額が勤続期間等に照らし社会通念上相当と認められること、そして表彰がおおむね10年以上の勤続年数の者を対象とし2回以上表彰を受ける者にはおおむね5年以上の間隔をおいて行われるものであることの2つです(逐語は後述)。
実務でよく引用される「1万円以下」は、永年勤続表彰の基準ではありません。それは創業記念や合併記念などの記念品を定めた36-22の要件で、条番号が1つ違います。この2つを取り違えると、金額を1万円に抑えたのに課税される/逆に1万円を超えたから課税だと思い込む、という両方向の誤りが起きます。
そしてもっと実害が出やすいのが逆側です。商品券やカタログギフトは、金額がいくら小さくても全額が給与として課税されます。国税庁は、一定金額の範囲内で本人に品物を選ばせる方式について「記念品の金額の多少にかかわらず」課税すると回答しています。この取扱いを支えているのは金額の小ささではなく、記念品に市場への売却性・換金性がなく、選択性も乏しいことだからです。この記事では、条文と通達の言葉、国税庁の質疑応答事例3件、そして旅行券を非課税にするための4つの条件までを、原文にあたって追いかけます。
原則は課税。通達は「課税しなくて差し支えない」と書いている
出発点を間違えないために、まず法律の側を見ます。所得税法36条1項は、収入金額に入るものを次のように定めています(e-Gov法令API v2、2026年8月26日取得)。
その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
かっこ書きが「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」を明示的に含めています。つまり現金を渡さなくても、物や利益を渡せばそれは収入金額です。続く2項が、その価額をいつ時点で測るかを決めています。
前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。
この2つを素直に読むと、会社が従業員に記念品を渡したり旅行に招待したりすれば、原則としてその価額が給与所得の収入金額になります。非課税にする規定が所得税法の側にあるわけではありません。
そこに国税庁が置いているのが所得税基本通達36-21です。見出しは「課税しない経済的利益……永年勤続者の記念品等」で、条文の末尾は「課税しなくて差し支えない」という言い回しになっています。これは法律が非課税と定めたものではなく、課税庁が課税しない取扱いを示したものです。要件を外れれば原則に戻る、という関係になっている点をまず押さえておきます。
非課税規定であれば、金額や形式が多少ずれても「非課税だ」と主張する余地があります。しかし36-21は取扱いなので、要件を1つでも外れた瞬間に、法律の原則である「価額が収入金額」へ戻ります。後で見るとおり、要件のうち「現物であること」はかっこ書きに畳まれており、外れると金額の大小に関係なく全額が課税されます。
36-21が置いている要件は2つだけ — 金額の上限は無い
所得税基本通達36-21の本文は次のとおりです(国税庁「所得税基本通達」法第36条《収入金額》関係、2026年8月26日取得)。
使用者が永年勤続した役員又は使用人の表彰に当たり、その記念として旅行、観劇等に招待し、又は記念品(現物に代えて支給する金銭は含まない。)を支給することにより当該役員又は使用人が受ける利益で、次に掲げる要件のいずれにも該当するものについては、課税しなくて差し支えない。
そして「次に掲げる要件」が2つ挙げられています。1つ目。
当該利益の額が、当該役員又は使用人の勤続期間等に照らし、社会通念上相当と認められること。
2つ目。
当該表彰が、おおむね10年以上の勤続年数の者を対象とし、かつ、2回以上表彰を受ける者については、おおむね5年以上の間隔をおいて行われるものであること。
並べて読むと、この通達が要求しているものは次の表に尽きます。
| どこに書かれているか | 要件 | 実務での意味 |
|---|---|---|
| 本文 | 永年勤続した役員又は使用人の表彰に当たり、その記念として渡すもの | 表彰という制度の中の支給であること。日常の手当や慰労とは別 |
| 本文のかっこ書き | 記念品(現物に代えて支給する金銭は含まない。)/旅行、観劇等への招待 | 現物または招待に限る。金銭は最初から対象外 |
| (1) | 利益の額が勤続期間等に照らし社会通念上相当と認められること | 金額についての唯一の条件。上限額は示されていない |
| (2) | おおむね10年以上の勤続年数の者を対象とし、2回以上表彰を受ける者にはおおむね5年以上の間隔 | 制度の設計についての条件。個々の支給ではなく表彰制度の形を見ている |
ここで確認しておきたいのは、金額について書かれているのは(1)の「社会通念上相当」だけで、具体的な上限額が1つも出てこないことです。国税庁タックスアンサー No.2591 も、永年勤続者に支給する記念品や旅行・観劇への招待費用については「その人の勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること」と書いており、やはり金額を示していません。
もう1つ、(2)には「おおむね」が2回出てきます。10年ちょうど・5年ちょうどで線を引く書き方ではなく、制度の設計として概ねそのあたりであることを求める書き方です。10年・15年・20年・30年という刻みで表彰制度を作っている会社が多いのは、この2つの「おおむね」に素直に沿った形になるためです。
「1万円以下」は創業記念品(36-22)の基準
永年勤続表彰の解説で「1万円まで非課税」という説明を見かけますが、その金額が書かれているのは1つ後ろの36-22です。こちらは創業記念・増資記念・工事完成記念・合併記念などに際して支給する記念品を扱っており、要件の1つ目が次のようになっています。
その支給する記念品が社会通念上記念品としてふさわしいものであり、かつ、そのものの価額(処分見込価額により評価した価額)が1万円以下のものであること。
2つの通達を並べると、対象も条件も違うことがはっきりします。
| 36-21(永年勤続者の記念品等) | 36-22(創業記念品等) | |
|---|---|---|
| きっかけ | 永年勤続した役員・使用人の表彰 | 創業記念、増資記念、工事完成記念、合併記念等 |
| 渡せるもの | 記念品、または旅行・観劇等への招待 | 記念品のみ(招待は書かれていない) |
| 金額の基準 | 上限額の定めなし(社会通念上相当) | 処分見込価額で1万円以下 |
| 対象者の条件 | おおむね10年以上の勤続年数 | 勤続年数の条件なし |
| 間隔 | 2回以上表彰する者はおおむね5年以上 | 一定期間ごとに到来する記念は創業後おおむね5年以上の期間ごと |
| 金銭 | 現物に代えて支給する金銭は含まない | 現物に代えて支給する金銭は含まない |
| 除外 | — | 建築業者・造船業者等が請負工事や造船の完成等に際し支給するものは対象外 |
間隔の「おおむね5年以上」は両方にありますが、数えている対象が違います。36-21は同じ人が2回以上表彰を受ける場合の間隔、36-22は会社の記念行事そのものの間隔です。前者は人ごと、後者は会社ごとに数えます。
永年勤続表彰に1万円の上限があると誤解すると、勤続30年の社員に相応の記念品を用意することを避けてしまいます。逆に、1万円以下なら何を渡しても大丈夫と誤解すると、次の節で見るとおり1万円ちょうどの商品券を配って全額課税されることになります。金額の基準と現物の要件は、それぞれ別の関門です。
現金・商品券・カタログギフトは、金額を問わず全額課税
36-21の本文は、対象を「記念品(現物に代えて支給する金銭は含まない。)」と書いています。かっこ書きが金銭を明示的に外しているので、要件(1)(2)を見るまでもなく、金銭は最初から対象になりません。国税庁タックスアンサー No.2591 も、記念品の支給や旅行・観劇への招待費用の負担に代えて現金や商品券などを支給する場合には、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されるとしています。加えて、本人が自由に記念品を選択できる場合にも、その記念品の価額が給与として課税されるとしています。
商品券 — 1万円ちょうどでも課税された事例
国税庁の質疑応答事例(源泉所得税)「創業50周年を記念して従業員に支給した商品券」は、創業50周年に際して全従業員へ一律1万円分の商品券を支給した場合を扱っています。回答は「給与等として課税の対象になります」で、理由は次のように書かれています。
照会のように、会社の創業記念として商品券の支給が行われる場合、その支給を受けた各従業員は当該商品券と引き換えに、商品を自由に選択して入手することが可能となりますので、商品券の支給については金銭による支給と異ならないといえます。
この事例が示しているのは、金額の要件を満たしていても現物の要件で落ちるということです。1万円分の商品券は、36-22が求める「1万円以下」をちょうど満たしています。それでも、商品を自由に選択して入手できる以上、金銭による支給と異ならないとされました。金額と現物は独立した関門で、片方を通っても他方で落ちます。
カタログギフト・選択制 — 金額の多少にかかわらず課税
永年勤続表彰でよく採用される「一定金額の範囲内で本人に品物を選ばせる」方式は、国税庁の質疑応答事例(源泉所得税)「自由に選択できる永年勤続者表彰記念品」が正面から扱っています。照会は「その金額はそれほど多額ではないため、課税しないこととして差し支えありませんか」というものでした。回答の冒頭はこうです。
記念品の金額の多少にかかわらず、その品物の価額を給与等として課税することとなります。
そして、なぜ永年勤続の記念品が課税されない取扱いになっているのかという理由が続きます。
永年勤続者の表彰のための記念品については、その支給が社会一般的に行われているものであり、また、その記念品は、通常、市場への売却性、換金性がなく、選択性も乏しく、その金額も多額となるものでないこと等から、現金による手当とは異なり、強いて課税しないこととしています。
ここが、この論点で最も見落とされている一段です。非課税の取扱いを支えている根拠は、金額の小ささではありません。挙げられているのは「市場への売却性」「換金性」「選択性」「金額」の4つで、金額は最後に「等」を伴って並んでいるうちの1つにすぎません。だからこそ、金額が小さくても選択性を与えれば取扱いの前提が崩れます。同じ回答は、その帰結を次のように書いています。
照会のように、自由に記念品とする品物を選択できるとすれば、それは使用者から支給された金銭でその品物を購入した場合と同様の効果をもたらすものと認められますから、非課税として取り扱っている永年勤続者の記念品には該当しません。
カタログギフトは、この「自由に記念品とする品物を選択できる」形の典型です。会社の側から見ると、社員に喜ばれやすく、在庫も配送も業者に任せられる合理的な方法に見えます。しかし課税の側から見ると、金銭を渡して各自に買ってもらったのと同じ効果をもたらす仕組みだと評価されます。
「会社が品物を決めて渡す」のと「本人に決めさせる」のとで扱いが変わります。記念の楯、社名入りの記念品、会社が選定した時計といったものは前者です。一方、カタログギフト、商品券、ギフトカード、ポイント付与、金額指定のオンラインギフトは後者に当たります。選択の幅を広げるほど、非課税の取扱いから遠ざかる向きになっている点に注意が要ります。
旅行券は原則課税。非課税にできる4つの条件
36-21は「旅行、観劇等に招待し」と書いており、会社が旅行を手配して招待する形は正面から対象に入っています。問題になるのは、旅行そのものではなく旅行券を渡す方式です。国税庁タックスアンサー No.2591 に付いているQAリンク「永年勤続者に対する旅行券の支給」は、勤続20年の使用人に一人当たり10万円の旅行券を支給する例を扱っています。回答はまず原則を示します。
一般的に、旅行券は有効期限もなく、換金性もあり、実質的に金銭を支給したことと同様になりますので、原則として給与等として課税されます。
ここでも効いているのは金額ではなく換金性です。そのうえで、実質的に金銭を支給したことと同様と認められない場合には課税しなくて差し支えないとして、4つの要件が挙げられています。
| 要件 | 会社側で必要になること | |
|---|---|---|
| (1) | 旅行の実施は、旅行券の支給後1年以内であること | 支給日と実施期限の管理 |
| (2) | 旅行の範囲は、支給した旅行券の額からみて相当なもの(海外旅行を含みます。)であること | 券面額と旅行内容の釣り合いの確認 |
| (3) | 旅行を実施した場合には、所定の報告書に必要事項を記載し、これに旅行先等を確認できる資料を添付して会社に提出すること | 報告書の様式を作り、提出を運用として回す |
| (4) | 支給後1年以内に旅行券の全部または一部を使用しなかった場合には、その使用しなかった旅行券は会社に返還すること | 未使用分を回収する仕組み |
(3)の「必要事項」として原文が挙げているのは、旅行実施者の所属・氏名・旅行日・旅行先・旅行社等への支払額等です。(1)から(4)を並べて読むと分かるのは、この4つが要求しているのは金額の抑制ではなく事務の作り込みだということです。渡しっぱなしにできない、期限内に使わせる、使ったことを確認する、使わなければ返してもらう。これらを制度として回して初めて、金銭を渡したのと同じではないと言える形になります。
逆に言えば、報告書の提出も未使用分の返還も定めずに旅行券だけを配る運用は、原則どおり全額が給与として課税される側に落ちます。制度を作る前に、この事務を続けられるかどうかを先に決めておくのが実務的です。
設例で組む — 10年・15年・20年・30年の表彰制度
ここまでの要件を、勤続年数ごとに表彰する制度に当てはめてみます。以下は条文と通達、および国税庁の質疑応答事例の考え方をそのまま当てはめた場合の整理であり、実際の判定は制度の内容と支給の実態によって変わります。
| 勤続 | 渡すもの | どの関門で見るか | 整理 |
|---|---|---|---|
| 10年 | 会社が選定した記念品(現物) | 現物○/選択性なし/おおむね10年以上○ | 金額が勤続期間等に照らし社会通念上相当であれば、課税しない取扱いの範囲 |
| 15年 | 会社が選定した記念品(現物) | 前回10年から5年の間隔○ | 2回目の表彰だが、おおむね5年以上の間隔の要件を満たす |
| 20年 | 会社が手配した旅行への招待 | 36-21本文が「旅行、観劇等に招待し」を明記 | 招待の形なら本文の対象。金額は(1)で見る |
| 20年 | 10万円の旅行券 | 換金性があるため原則課税 | 1年以内の実施・額に相当する旅行・報告書と確認資料の提出・未使用分の返還の4つを満たせば課税しない扱い。1つでも欠ければ10万円が給与 |
| 30年 | 3万円分のカタログギフト | 本人が自由に選べる | 金額の多少にかかわらず課税。3万円が給与になる |
| 30年 | 3万円の現金(表彰金) | 本文のかっこ書きで対象外 | 全額が給与。要件(1)(2)を見るまでもない |
| 3年 | 会社が選定した記念品(現物) | おおむね10年以上の要件から外れる | 36-21の対象外。原則に戻って価額が収入金額 |
| 13年 | 会社が選定した記念品(現物) | 前回10年から3年の間隔 | 2回以上表彰を受ける者についておおむね5年以上という要件から外れる |
この表で目を引くのは、同じ勤続30年に対して、渡し方を変えるだけで結論が変わることです。会社が選んだ記念品なら課税しない取扱いの範囲に入りうるのに、カタログギフトにすると3万円が給与になり、現金にすればもちろん給与になります。金額はどれも3万円で同じです。この論点で動いている変数は、金額ではなく渡し方です。
課税になったときの処理
要件を外れた場合、渡したものは給与等として扱われます。金額は所得税法36条2項により、その利益を享受する時における価額です。商品券の場合、タックスアンサー No.2591 は券面額と明示しています。現物の記念品であれば、その物の価額になります。
給与等として扱う以上、源泉徴収の対象になります。毎月の給与に上乗せして計算するのか、賞与として扱うのかは支給の形態によって変わるため、ここでは一般論として、給与等の収入金額に含めて源泉徴収税額を計算する、という点までにとどめます。具体的な税額表の適用区分は、社内での支給の位置づけによって判断が分かれます。
源泉徴収税額を計算する(給与・賞与)なお、会社側の費用としての扱い(勘定科目や損金算入の時期)、および消費税の仕入税額控除の可否については、この記事では扱っていません。福利厚生費という科目そのものの範囲は福利厚生費とはで、給与と外注費の区分は外注費と給与の区分で整理しています。
社会保険の報酬に入るか(健康保険法3条5項)
税と社会保険は別の法律で動くので、所得税で給与になったから社会保険の報酬にも入る、と自動的に決まるわけではありません。健康保険法3条5項は報酬を次のように定義しています(e-Gov法令API v2、2026年8月26日取得)。
この法律において「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。
続くただし書が、範囲を絞っています。
ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。
本文は「いかなる名称であるかを問わず」「すべてのもの」と非常に広く書かれており、現物であることを理由に外れる構造にはなっていません。範囲を絞っているのはただし書の側で、「臨時に受けるもの」と「三月を超える期間ごとに受けるもの」の2つが除かれます。なお同条6項は、労働の対償として受けるもののうち三月を超える期間ごとに受けるものを「賞与」と定義しており、報酬から外れたものが賞与の側で拾われる作りになっています。
個々の永年勤続表彰の記念品や表彰金が、ただし書の「臨時に受けるもの」に当たるかどうかの判断基準については、一次情報を確認できなかったため書いていません。健康保険法3条5項が置いているのは定義とただし書までで、具体的な当てはめは運営側の取扱いによります。実際の判定は、日本年金機構または加入している健康保険組合にご確認ください。
定年退職者の旅行は「退職所得」の側で判定される
最後に、隣接するが結論が違う類型を1つ。定年退職者を旅行に招待する場合です。国税庁の質疑応答事例(源泉所得税)「定年退職者に対する海外慰安旅行についての課税関係」は、関係法令通達として同じ36-21を挙げたうえで、次のように回答しています。
定年退職者に対する海外慰安旅行の供与については、それが永年勤続者表彰制度と同様の内容に基づくものであり、社会通念上相当と認められるものについては非課税として取り扱い、それを上回るものについては、退職所得に該当するものとして課税されることとなります。
注目したいのは、相当と認められる範囲を超えた分が給与所得ではなく退職所得になると書かれている点です。永年勤続表彰で要件を外れたときは給与等として課税されますが、定年退職を機会とする旅行では所得の区分そのものが変わります。退職所得は退職所得控除と2分の1課税があるため、同じ金額でも税額の出方が違います。
この事例が挙げている理由の1つは、永年勤続者表彰では同一人が数回旅行をすることもあり得るのに対し、定年退職者旅行は通常は生涯に1回しかない機会をとらえて行うものであり、前者を非課税とし後者を退職所得として課税するのは権衡を失する、というものです。36-21という同じ通達を出発点にしながら、外れた先の行き先が違うという構造になっています。退職金そのものの計算は退職金にかかる税金で扱っています。
よくある質問
Q. 永年勤続表彰の記念品は、いくらまでなら課税されませんか?
A. 所得税基本通達36-21に金額の上限は書かれていません。置かれている要件は、利益の額が勤続期間等に照らし社会通念上相当と認められること、およびおおむね10年以上の勤続年数の者を対象とし2回以上表彰を受ける者にはおおむね5年以上の間隔をおくことの2つです。よく引用される1万円以下という基準は、創業記念品等を定めた36-22のもので、永年勤続表彰の記念品の基準ではありません。
Q. 記念品の代わりに現金を渡してもよいですか?
A. 現金を渡すとその全額が給与として課税されます。36-21は対象を記念品と書いたうえで、かっこ書きで現物に代えて支給する金銭は含まないと明示しています。国税庁タックスアンサー No.2591 も、記念品の支給や旅行・観劇への招待費用の負担に代えて現金や商品券などを支給する場合には、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されるとしています。
Q. 商品券やギフトカードなら現物として扱われますか?
A. 現物としては扱われません。国税庁の質疑応答事例「創業50周年を記念して従業員に支給した商品券」は、一律1万円分の商品券について、受け取った従業員が商品を自由に選択して入手できるため商品券の支給は金銭による支給と異ならないとして、給与等として課税の対象になるとしています。金額が創業記念品の基準である1万円以下であっても、現物でない点で外れます。
Q. カタログギフトから本人に選ばせる方式はどうなりますか?
A. 課税されます。国税庁の質疑応答事例「自由に選択できる永年勤続者表彰記念品」は、一定金額の範囲内で自由に品物を選択させる方式について、記念品の金額の多少にかかわらずその品物の価額を給与等として課税することとなると回答しています。理由として、非課税の取扱いは記念品に市場への売却性や換金性がなく選択性も乏しいことなどを前提にしていることが挙げられています。
Q. 旅行券を渡す方式は必ず課税されますか?
A. 原則として課税されますが、例外があります。国税庁は、旅行券は有効期限もなく換金性もあり実質的に金銭を支給したことと同様になるとして原則課税としたうえで、旅行の実施が支給後1年以内であること、旅行の範囲が旅行券の額からみて相当なものであること、旅行を実施した場合に所定の報告書と旅行先等を確認できる資料を会社へ提出すること、1年以内に使わなかった旅行券は会社へ返還することという要件を満たすなど、実質的に金銭の支給と同様と認められない場合には課税しなくて差し支えないとしています。
Q. 勤続10年に満たない人を表彰したら課税されますか?
A. 36-21の要件は、おおむね10年以上の勤続年数の者を対象とする表彰であることです。おおむねという語が付いているため10年ちょうどで機械的に切れる書き方ではありませんが、勤続数年の者を対象とする表彰は、この取扱いが前提としている範囲から外れます。外れた場合は所得税法36条の原則に戻り、その物の価額が収入金額になります。
Q. 同じ人を何年おきに表彰できますか?
A. 2回以上表彰を受ける者について、おおむね5年以上の間隔をおいて行われるものであることが要件です。10年・15年・20年・30年のように5年以上の刻みで設計する制度が多いのは、この要件に沿った形になるためです。1回しか表彰しない場合は、間隔の要件は問題になりません。
Q. 表彰の記念品は社会保険の報酬に入りますか?
A. 健康保険法3条5項は報酬を、いかなる名称であるかを問わず労働者が労働の対償として受けるすべてのものと定めたうえで、ただし書で臨時に受けるものおよび三月を超える期間ごとに受けるものを除いています。個々の表彰の記念品や表彰金がこのただし書に当たるかどうかの判断基準は、この記事で一次情報として確認できていないため書いていません。日本年金機構または加入している健康保険組合にご確認ください。
出典
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「所得税法」36条(収入金額)1項・2項 — 法令API v2(2026年8月26日取得)
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「健康保険法」3条(定義)5項・6項 — 法令API v2(2026年8月26日取得)
- 国税庁「所得税基本通達」法第36条《収入金額》関係 36-21(課税しない経済的利益……永年勤続者の記念品等)、36-22(課税しない経済的利益……創業記念品等)、36-23(課税しない経済的利益……商品、製品等の値引販売) — 法令解釈通達(2026年8月26日取得)
- 国税庁 タックスアンサー No.2591「創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき」[令和7年4月1日現在法令等] — 根拠法令等として所基通36-15、36-21〜22、平元直法6-1外を掲げる(2026年8月26日取得)
- 国税庁 タックスアンサー No.2591 QAリンク「永年勤続者に対する旅行券の支給」 — 勤続20年・一人当たり10万円の旅行券の例、非課税とするための4要件(所基通36-21、昭60直法6-4)(2026年8月26日取得)
- 国税庁 質疑応答事例(源泉所得税)「自由に選択できる永年勤続者表彰記念品」[令和7年8月1日現在の法令・通達等] — 関係法令通達は所得税基本通達36-21(2026年8月26日取得)
- 国税庁 質疑応答事例(源泉所得税)「創業50周年を記念して従業員に支給した商品券」 — 関係法令通達は所得税基本通達36-22(2026年8月26日取得)
- 国税庁 質疑応答事例(源泉所得税)「定年退職者に対する海外慰安旅行についての課税関係」 — 関係法令通達は所得税基本通達36-21(2026年8月26日取得)
この記事は一般的な情報提供であり、個別の税務についての助言ではありません。永年勤続表彰の記念品が課税されるかどうかは、表彰制度の内容と実際の支給の形によって変わります。会社側の勘定科目と損金算入の時期、消費税の仕入税額控除の可否、記念品を給与として課税する場合にどの税額表を適用するか、社会保険の報酬に当たるかどうかの具体的な判断基準、役員に対する表彰と役員給与の損金不算入との関係、および裁判例・裁決例は、この記事では扱っていません。実際の取扱いにあたっては所轄の税務署または税理士にご確認ください。