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福利厚生費とは — 法律に定義は無い。給与・交際費・寄附金から「除かれた残り」がこの科目になる

結論から言うと、福利厚生費とは、役員や従業員の生活・健康・慰安のために会社が負担する費用のうち、給与としても交際費としても寄附金としても扱われないものを入れる勘定科目です。社員食堂や弁当の補助、健康診断、社員旅行、永年勤続の記念品、結婚・出産の祝い金や香典、社宅の会社負担分、制服などがここに入ります。

ただし、「福利厚生費」という科目を法律が定義している条文はありません。法人税法の全文に「福利厚生費」の語は2回しか出てこず、どちらも25条の2(受贈益)と37条(寄附金)の括弧書きで「交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く」と書かれている部分です。所得税法・所得税法施行令・租税特別措置法・同施行令・消費税法の条文では0回でした(e-Gov法令API v2 で全文を取得して検索)。法律にとって福利厚生費は「こういうもの」と定義する対象ではなく、寄附金の定義から除き、交際費等の定義から除き、給与課税の通達が「課税しなくて差し支えない」と認めたものが残る場所です。つまり、ある支出が福利厚生費になるかどうかは、①給与ではないか、②交際費等ではないか、③寄附金ではないか、という3つの検問を通るかどうかで決まります。

この記事は、①条文の中の「福利厚生費」の位置、②3つの検問の中身、③通達に散らばる数値基準の一覧、④令和8年4月1日から月額3,500円が7,500円に引き上げられた食事補助、⑤給与になる境目、⑥交際費等になる境目、⑦法定福利費との違い、⑧個人事業主の場合、⑨消費税、⑩仕訳例、の順で整理します。個別の項目のうち、社宅の賃貸料相当額健康診断の費用負担慶弔見舞金通勤手当の非課税限度額は、それぞれの記事が詳しく持っているのでリンクで譲ります。

条文の中の「福利厚生費」 — 法人税法に2回、どちらも「除く」の括弧書き

法人税法の全文で「福利厚生費」を検索すると、ヒットは2か所だけです。1つは寄附金の額を定義する37条7項です。

前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。

もう1つは、完全支配関係のある法人からの受贈益を定める25条の2第2項で、同じ括弧書きがそのまま入っています。法律が福利厚生費という語を使うのは、名義を問わず贈与・無償の供与を寄附金とみなしたうえで、福利厚生費とされるべきものを寄附金から外す、という除外規定の中だけです。何が福利厚生費かは書かれていません。

租税特別措置法の条文にもこの語はありません。交際費等の側で福利厚生費を名指しするのは、法律ではなく国税庁の通達(租税特別措置法関係通達61の4(1)-1)です。

主として次に掲げるような性質を有するものは交際費等には含まれないものとする。

と書いたうえで、(1)寄附金、(2)値引き及び割戻し、(3)広告宣伝費、(4)福利厚生費、(5)給与等の5つを並べています。ここでも福利厚生費は「交際費等に含まれないものの名前」として出てくるだけです。

では福利厚生費が損金(法人税の経費)になる根拠はどこにあるかというと、法人税法22条3項2号の一般規定です。

前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

福利厚生費は販売費及び一般管理費の1つとして、この条文でそのまま損金になります。給与のように別段の定め(役員給与の損金不算入など)があるわけでも、交際費等のように損金不算入の枠があるわけでもありません。だからこそ、ある支出を福利厚生費と呼ぶためには「給与でも交際費等でも寄附金でもない」と言えなければならない、という構造になっています。

福利厚生費になるための3つの検問 — 給与か、交際費等か、寄附金か

役員・従業員のために会社がお金を使ったとき、その支出は次の順に検問を通ります。

役員・従業員の ための支出 ① 給与か? 所得税法36条 所基通36-21〜36-38の2 いいえ ② 交際費等か? 措置法61条の4第6項 措通61の4(1)-10・-22 いいえ ③ 寄附金か? 法人税法37条7項 (福利厚生費は除く) はい 給与 源泉徴収・役員は34条 はい 交際費等 損金不算入の枠あり はい 寄附金 損金算入限度額あり いいえ 福利厚生費 法人税法22条3項2号で損金
福利厚生費は「何であるか」ではなく「何でないか」で決まる。①は所得税(源泉徴収)の検問、②③は法人税の検問。3つとも「いいえ」で残ったものが福利厚生費として全額損金になる。

検問① 給与ではないか(所得税法36条)

所得税法は、金銭でない利益も収入金額に数えると定めています。

その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。

会社が弁当を出す・旅行に連れていく・記念品を渡すという行為は、この条文の「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」に当たり、原則はすべて給与(現物給与)です。国税庁タックスアンサー No.2508 も、福利厚生施設の利用など用役を無償または低い対価で提供したことによる経済的利益を現物給与として挙げ、原則として給与所得の収入金額になると書いています。それを「課税しなくて差し支えない」と緩めているのが所得税基本通達36-21〜36-38の2 などの個別の通達で、そこに後述の数値基準(月額7,500円、10年以上、1万円以下など)が並んでいます。通達の条件を外れた瞬間に、その支出は福利厚生費ではなく給与に戻り、源泉徴収の対象になります。

検問② 交際費等ではないか(租税特別措置法61条の4第6項)

措置法は交際費等を次のように定義し、そこから除く費用を3つ挙げています。

第一項、第三項及び前項に規定する交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下この項において「接待等」という。)のために支出するもの(次に掲げる費用のいずれかに該当するものを除く。)をいい、

その1号が従業員の慰安です。

専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用

この1号があるので、社員旅行や運動会は交際費等ではなく福利厚生費になります。注意したいのは、この定義の「事業に関係のある者等」に従業員自身が含まれることです。通達61の4(1)-22 がはっきり書いています。

措置法第61条の4第6項に規定する「得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」には、直接当該法人の営む事業に取引関係のある者だけでなく間接に当該法人の利害に関係ある者及び当該法人の役員、従業員、株主等も含むことに留意する。

つまり、従業員を相手にした飲食や贈答も、「専ら従業員の慰安」のための通常の費用と言えなければ交際費等になります。福利厚生費と交際費等の境目を具体的に引いているのが通達61の4(1)-10 で、社内行事の一律の飲食と、一定の基準に従った慶弔金品を交際費等から外しています(後述)。

検問③ 寄附金ではないか(法人税法37条7項)

冒頭で引用した37条7項は、名義を問わず金銭・資産・経済的利益の贈与や無償の供与を寄附金とみなしたうえで、「交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきもの」を除いています。従業員やその家族に渡す祝い金・見舞金は、社内規程の基準に従って支給されていれば福利厚生費とされるべきものであり、寄附金には入りません。逆に、従業員でも取引先でもない相手(地域の団体や個人)に会社が出した金品は、この除外に当たらず寄附金か交際費等のどちらかになります。

会社が負担する社会保険料・労働保険料(法定福利費)を給与額から計算する(法定福利費 計算ツール)

数値基準の一覧 — 通達に散らばる「いくらまで」を1枚に

「福利厚生費はいくらまで」という問いに、法律上の一律の上限額はありません(法人税法・措置法の条文に福利厚生費の金額基準は1つも無い)。あるのは、個々の項目ごとに通達が置いた「ここまでなら給与として課税しない」「ここまでなら交際費等にしない」という基準です。金額の単位は、国税庁の案内にある項目は消費税・地方消費税を除いた金額で判定します。

項目福利厚生費(課税なし)でいられる条件根拠条件を外れたら
食事の支給(弁当・社員食堂)本人が食事の価額の50%以上を負担し、かつ会社の負担額が月額7,500円以下(令和8年4月1日以後に支給する食事。改正前は3,500円)所基通36-38・36-38の2、No.2594会社負担額(価額−本人負担)が給与
残業・宿直・日直のときの食事無料で支給しても課税しない所基通36-24
深夜勤務者に夜食の代わりに渡す金銭1回650円以下(令和8年3月31日改正。改正前は300円)昭59直法6-5(令和8年課法12-3改正)、No.2594全額が給与
現金の食事手当・食事代の振込補助—(現物でなく金銭なので36-38の2の対象外)No.2594、質疑応答事例(食事代として金銭を支給した場合)全額が給与
永年勤続表彰の記念品・旅行招待おおむね10年以上の勤続者が対象、2回目以降はおおむね5年以上の間隔、勤続年数等に照らして社会通念上相当、現物(代わりの金銭・商品券は不可)所基通36-21、No.2591給与
創業記念・合併記念などの記念品処分見込価額で1万円以下、定期の記念はおおむね5年以上ごと、現物所基通36-22、No.2591給与
自社商品の値引販売取得価額以上かつ通常販売価額のおおむね70%以上の価額、一律または合理的な格差、家事で消費する程度の数量所基通36-23給与
役員・従業員への無利息・低利の貸付け災害等の臨時資金、合理的な利率、またはその年の利益合計が5,000円以下所基通36-28給与
会社が負担する本人負担分の保険料・掛金月額300円以下、特定の者だけを対象にしない所基通36-32給与
会食・旅行・演芸会・運動会(レクリエーション)社会通念上一般的な内容、不参加者に代わりの金銭を払わない、役員だけを対象にしない所基通36-30、措置法61条の4第6項1号給与(交際費等になる場合もある)
社員旅行4泊5日以内(海外は現地滞在日数)、参加者が全体の50%以上、少額不追求の趣旨を逸脱しない昭63直法6-9、No.2603給与
保養所・福利厚生施設の運営費経済的利益が著しく多額でない、役員だけを対象にしない所基通36-29給与
社宅・寮賃貸料相当額の50%以上を本人から徴収(計算は社宅の賃貸料相当額所基通36-45・36-47、No.2597差額が給与
制服・事務服・作業服職務の性質上着用すべきもの、専ら勤務場所のみで着用するもの所得税法9条1項6号、施行令21条2号・3号、所基通9-8給与
健康診断全員を対象とし、通常の検診内容(詳細は健康診断は会社の義務か労働安全衛生法66条ほか給与
結婚祝・出産祝・香典・見舞金社内規程などの一定の基準に従って支給措通61の4(1)-10(2)、No.5261交際費等・給与
創立記念日・祝日・落成式の社内飲食従業員等におおむね一律社内で、通常の飲食措通61の4(1)-10(1)、No.5261交際費等

取引先との飲食の「1人当たり1万円以下」(措置法施行令37条の5第1項)は交際費等の側の基準で、福利厚生費の基準ではありません。しかも61条の4第6項の本文が、この飲食費から「専ら当該法人の法人税法第二条第十五号に規定する役員若しくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するもの」を除いているので、社内だけの飲み会に1万円基準は使えません。社内の飲食は、一律なら福利厚生費、特定の人だけなら交際費等(または給与)の二択です。

食事補助は令和8年4月1日から月額7,500円 — 改正前は3,500円

数値基準の中でいちばん新しく動いたのが食事の支給です。国税庁は令和8年3月31日付で所得税基本通達36-38の2を改正し、会社負担の上限を月額3,500円から7,500円に引き上げました。改正後の通達は次のとおりです。

使用者が役員又は使用人に対し支給した食事(36-24の食事を除く。)につき当該役員又は使用人から実際に徴収している対価の額が、36-38により評価した当該食事の価額の50%相当額以上である場合には、当該役員又は使用人が食事の支給により受ける経済的利益はないものとする。ただし、当該食事の価額からその実際に徴収している対価の額を控除した残額が月額7,500円を超えるときは、この限りでない。

国税庁の案内ページは、引上げ後の7,500円は令和8年4月1日以後に支給する食事について適用されると明記しています。同じ日付で、深夜勤務者に夜食の現物支給の代わりに渡す金銭の非課税額も1回300円から650円に引き上げられました。

数字で見ると、改正の効き方がはっきりします。弁当1食を税抜600円で月20日支給し、本人から半額の300円×20日=6,000円を給与天引きで徴収する会社を考えます。

食事の価額本人負担会社負担50%以上か上限以下か給与課税
令和8年3月まで(上限3,500円)12,000円6,000円6,000円○(50%)×(3,500円超)6,000円が給与
令和8年4月以後(上限7,500円)12,000円6,000円6,000円○(50%)0円
No.2594 の設例13,000円6,000円7,000円×(46.2%)7,000円が給与

ポイントは3つです。第一に、2つの要件は両方必要で、片方でも外れると会社負担額の全額が給与になります(7,500円を超えた部分だけが課税されるのではありません)。第二に、判定は消費税・地方消費税を除いた金額で行い、10円未満の端数は切り捨てます(No.2594)。第三に、現物の食事でなければこの通達は使えません。国税庁の質疑応答事例は、従業員が飲食店に払った食事代の50%を月7,500円を上限に口座へ振り込む制度について、支給するのが食事ではなく金銭であるため36-38の2の適用はなく、給与所得の収入金額になると回答しています。同じ7,500円でも、弁当を渡せば非課税、現金を渡せば課税です。

食事の価額の数え方 弁当を買って渡すなら業者への購入金額、社員食堂で作るなら材料費など直接費の合計が価額です(所基通36-38、No.2594)。運営を外部に委託していても、施設を無償で使わせ材料を会社が提供していれば直接費で数えてよいとされています。

給与になる境目 — 「一律」「現物」「社会通念上」の3語

一覧表の右端が「給与」になる条件は、項目ごとに違って見えて、実は同じ3つの言葉に集約できます。レクリエーションの通達36-30 を読むと分かりやすいです。

使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を負担することにより、これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益については、使用者が、当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えない。

役員だけが受ける利益が給与になると、所得税の源泉徴収だけでなく法人税側でも問題になります。役員に対する給与は法人税法34条で損金算入できる形(定期同額給与など)が限られているため、役員限定の福利厚生は「課税される給与」であると同時に「損金にならない役員給与」になりかねません。詳しくは役員報酬の決め方に譲ります。

交際費等になる境目 — 従業員も「事業に関係のある者等」に含まれる

給与の検問を通っても、次に交際費等の検問があります。社内の支出で福利厚生費と交際費等を分ける通達が61の4(1)-10 です。

社内の行事に際して支出される金額等で次のようなものは交際費等に含まれないものとする。

そこに挙がる2つが、一律の社内飲食と、基準のある慶弔金品です。

創立記念日、国民祝日、新社屋落成式等に際し従業員等におおむね一律に社内において供与される通常の飲食に要する費用
従業員等(従業員等であった者を含む。)又はその親族等の慶弔、禍福に際し一定の基準に従って支給される金品に要する費用

タックスアンサー No.5261 はこれを受けて、結婚祝・出産祝・香典・病気見舞いなどが福利厚生費になると書いています。裏返すと、一部の従業員だけを連れて行く飲み会、基準なく社長の裁量で渡す金一封、社外の店で特定のメンバーだけで行う会食は、この除外に当たらず交際費等になります。前述のとおり従業員は「事業に関係のある者等」に含まれるので、相手が社員だからという理由では交際費等を免れません。

交際費等になると、資本金1億円以下の法人でも年800万円(定額控除限度額)か接待飲食費の50%のどちらかまでしか損金にならず、それを超える部分は損金不算入です(措置法61条の4第1項・2項、No.5265)。同じ5万円の飲食代でも、全員参加の忘年会なら福利厚生費として全額損金、営業部の有志だけなら交際費等として枠の計算に入る、という差が出ます。社内の行事でも「おおむね一律」と「社内において」の2つを満たしているかを、案内の記録(対象者・参加者名簿)で残しておくのが実務上の線引きです。

法定福利費との違い — 法律が会社に負担を命じているかどうか

決算書では福利厚生費の隣に法定福利費という科目が並びます。2つの違いは、法律が会社に負担を命じているかどうかです。

法定福利費福利厚生費
中身健康保険料・厚生年金保険料の会社負担分、雇用保険料の事業主負担分、労災保険料(全額会社負担)、子ども・子育て拠出金など食事補助、社員旅行、健康診断、慶弔金、社宅の会社負担、記念品、保養所など
会社が出す根拠各保険の法律が負担割合を定めている(会社が出すかどうかを選べない)会社が任意に決める(就業規則・社内規程)
金額給与額×法定の料率で自動的に決まる会社が決める。ただし上の一覧の基準を外れると給与・交際費等になる
給与課税会社負担分は従業員の給与にならない通達の条件を外れた部分が給与になる

法定福利費の料率と会社負担額の計算は法定福利費とは|給与・賞与から会社負担額を計算法定福利費の計算ツールに置いています。通達36-32 が「健康保険法、雇用保険法、厚生年金保険法又は船員保険法の規定により役員又は使用人が被保険者として負担すべき保険料」を会社が肩代わりしたら月300円以下でなければ給与と書いているのは、本人負担分を会社が持つのは法定福利費ではなく福利厚生(=給与課税の検問を通る必要がある)だからです。

個人事業主の福利厚生費 — 事業主本人の分は家事費

個人事業主にも福利厚生費の科目はありますが、対象は従業員です。事業主本人の健康診断代や昼食代、旅行代は、所得税法45条1項1号が必要経費から外している家事上の経費に当たります。

居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

理由は条文の構造にあります。所得税法36条が課税する「経済的利益」も、基本通達36-21〜36-38の2が「課税しなくて差し支えない」とする利益も、すべて「使用者」が「役員又は使用人」に与えるものを前提にしています。事業主本人は自分の使用人ではないので、自分に福利厚生を与えるという関係が条文上そもそも成り立たず、残るのは家事費かどうかの判定だけです。施行令96条は、家事関連費のうち業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できるもの(青色申告者は取引の記録等で直接必要だったことが明らかな部分)だけを必要経費に認めています。

従業員を雇っている個人事業主なら、その従業員のための食事補助・慶弔金・健康診断は、法人と同じ通達の基準で福利厚生費になります。家族だけで営む事業で、生計を一にする家族従業者の分が福利厚生費になるかどうかについては所得税法に明文の定めがなく、45条1項1号の家事上の経費に当たるかどうかで個別に判断されることになるので、本記事では一般論にとどめます。

消費税 — 課税仕入れの定義が「給与等を対価とする役務の提供」を除いている

福利厚生費の消費税は、3つの検問の結果がそのまま効いてきます。消費税法2条1項12号は課税仕入れを次のように定義しています。

事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けること

給与は課税仕入れから除かれています。したがって、給与の検問で給与と判定された部分(現金の食事手当、役員だけの旅行費など)は、仕入税額控除の対象にもなりません。逆に、福利厚生費として弁当や記念品を業者から買う・旅行会社に旅行代金を払うのは通常の課税仕入れで、飲食料品である弁当は軽減税率8%、その他は10%で仕入税額控除の計算に入ります。

2つ例外があります。結婚祝金や香典のように金銭を渡すだけのものは、相手から資産も役務も受け取っていないので課税仕入れではありません(不課税)。社宅を会社が借り上げて従業員に貸す家賃は、消費税法別表第二13号の

住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け

に当たる非課税取引なので、大家に払う家賃は非課税仕入れ、従業員から受け取る社宅負担金は非課税売上げになります。税抜経理と税込経理で福利厚生費の計上額がどう変わるかは税抜経理と税込経理の違いに譲ります。

役員社宅でいくら受け取れば給与課税されないかを計算する(役員社宅の賃貸料相当額 計算ツール)

仕訳例

前提は税抜経理、消費税は別途です。

取引借方貸方判定
弁当20食分12,000円(税抜)を業者から購入福利厚生費 12,000
仮払消費税等 960
未払金 12,960現物・全員対象・会社負担6,000円は7,500円以下 → 福利厚生費
本人負担6,000円を給与から天引き給与手当 ×××預り金(食事代)6,000 ほか徴収額は食事価額の50%以上
天引きした食事代を会社負担と相殺預り金(食事代)6,000福利厚生費 6,000損益に残る福利厚生費は6,000円
勤続10年の表彰で記念品(時計・30,000円)を支給福利厚生費 30,000
仮払消費税等 3,000
未払金 33,000現物・社会通念上相当 → 福利厚生費(商品券なら給与)
慶弔規程にもとづき結婚祝金30,000円を支給福利厚生費 30,000現金 30,000一定の基準あり → 福利厚生費。消費税は不課税
営業部の有志5名で社外の店で飲食50,000円交際費等 50,000
仮払消費税等 5,000
未払金 55,000一律でない・社内でない → 交際費等(1万円基準は社内飲食に使えない)
役員3名だけで温泉旅行150,000円役員給与(または交際費等)150,000 ほか未払金 ほか役員だけ → 福利厚生費にならない(No.2603 注2)

給与課税の検問と交際費等の検問は、同じ飲食でも相手の範囲と場所で結果が変わります。証憑に「誰が対象で誰が参加したか」が残るようにしておくと、科目の判定も税務調査での説明も楽になります。

よくある質問

Q. 福利厚生費とは何ですか?

A. 役員や従業員の生活・健康・慰安のために会社が負担する費用のうち、給与・交際費等・寄附金のどれにも当たらないものを処理する勘定科目です。食事補助、健康診断、社員旅行、永年勤続の記念品、結婚祝金や香典、社宅の会社負担分、制服などが入ります。法人税法がこの語を使うのは25条の2第2項と37条7項の括弧書き「交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く」の2か所だけで、所得税法・租税特別措置法の条文には出てこないため、定義は法律ではなく、給与課税の通達(所得税基本通達36-21〜36-38の2など)と交際費等の通達(措通61の4(1)-10など)の条件を満たすかどうかで決まります。

Q. 福利厚生費はいくらまでですか?上限はありますか?

A. 福利厚生費の合計額に法律上の上限はありません。法人税法・租税特別措置法の条文に福利厚生費の金額基準は1つもなく、販売費及び一般管理費として法人税法22条3項2号で全額が損金になります。ただし項目ごとに「これを超えると給与になる」という通達の基準があり、食事補助は会社負担が月額7,500円以下(本人が50%以上負担)、創業記念品は1万円以下、会社が肩代わりする本人負担の保険料は月300円以下、無利息貸付けの利益は年5,000円以下、社員旅行は4泊5日以内で参加50%以上などです。これらを外れた部分は福利厚生費ではなく給与として源泉徴収の対象になります。

Q. 法定福利費と福利厚生費の違いは何ですか?

A. 法律が会社に負担を命じているかどうかの違いです。健康保険料・厚生年金保険料の会社負担分、雇用保険料の事業主負担分、労災保険料、子ども・子育て拠出金のように各保険の法律で負担割合が決まっているものが法定福利費で、会社が任意に決める食事補助・社員旅行・慶弔金・健康診断などが福利厚生費です。法定福利費は給与額に法定の料率を掛けて自動的に決まり、会社負担分が従業員の給与になることはありません。福利厚生費は通達の条件を外れると給与や交際費等になります。

Q. 食事補助はいくらまで非課税ですか?

A. 令和8年4月1日以後に支給する食事については、本人が食事の価額の50%以上を負担し、かつ会社の負担額(価額−本人負担額)が月額7,500円以下であれば給与として課税されません(所得税基本通達36-38の2、令和8年3月31日付課法12-1で3,500円から引上げ)。判定は消費税・地方消費税を除いた金額で行い、10円未満は切り捨てます。どちらかの要件を外れると会社負担額の全額が給与になります。現物の食事ではなく現金で食事代を補助する場合は、深夜勤務者への1回650円以下の夜食代を除き、金額にかかわらず全額が給与です。残業・宿直・日直の食事は無料で出しても課税されません。

Q. 役員だけ、または特定の社員だけの福利厚生は認められますか?

A. 給与として課税されます。所得税基本通達36-30(レクリエーション)、36-29(福利厚生施設)、36-32(少額保険料)はいずれも役員だけ・特定の使用人だけを対象とする場合を非課税の扱いから除いており、国税庁 No.2603 も役員だけで行う旅行は従業員レクリエーション旅行に該当せず給与や交際費などとして処理する必要があると書いています。役員への給与は法人税法34条で損金にできる形が限られているため、役員限定の福利厚生は課税される給与であると同時に損金にならない役員給与になるおそれがあります。

Q. 社員旅行や忘年会は福利厚生費ですか、交際費ですか?

A. 全員を対象にし、社会通念上一般的な内容なら福利厚生費です。租税特別措置法61条の4第6項1号が「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」を交際費等から除き、所得税基本通達36-30が不参加者に金銭を払わず役員だけを対象にしない限り課税しないとしています。社員旅行は4泊5日以内・参加50%以上が目安です(No.2603)。一方、一部の従業員だけの飲み会や社外の店での特定メンバーの会食は、通達61の4(1)-10の「おおむね一律に社内において」の条件を満たさず交際費等になります。従業員も措置法の「事業に関係のある者等」に含まれるので(通達61の4(1)-22)、相手が社員だからという理由だけでは交際費等を免れません。

Q. 一人で事業をしている個人事業主は福利厚生費を計上できますか?

A. 事業主本人のための支出は福利厚生費になりません。所得税法45条1項1号が家事上の経費を必要経費から外しており、所得税法36条の経済的利益の課税も基本通達の非課税の扱いも「使用者」が「役員又は使用人」に与えるものを前提にしているため、自分自身への福利厚生という関係が条文上成り立たないからです。本人の健康診断代・昼食代・旅行代は家事費です。従業員を雇っていれば、その従業員のための食事補助や慶弔金は法人と同じ基準で福利厚生費になります。

Q. 福利厚生費に消費税はかかりますか?仕入税額控除できますか?

A. 業者から弁当や記念品を買う、旅行会社に代金を払うといった支出は通常の課税仕入れで、仕入税額控除の対象です(飲食料品の弁当は軽減税率8%)。一方、消費税法2条1項12号は課税仕入れから「給与等を対価とする役務の提供」を除いているので、給与と判定された部分(現金の食事手当など)は仕入税額控除できません。結婚祝金や香典のように金銭を渡すだけのものは資産の譲渡や役務の提供を受けていないため不課税、借上社宅の家賃は消費税法別表第二13号の住宅の貸付けに当たり非課税仕入れです。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。

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