税抜経理と税込経理の違い — 納付する消費税は同額でも、資産計上の壁が動く
結論から言うと、税抜経理方式と税込経理方式はどちらを選んでもかまいません。国税庁も「どちらを選択してもよいこととされています。なお、いずれの方式によっても納付する消費税等の額は同額となります」と明言しています。届出も要りません。
それなら好きな方でいい、とはなりません。納付する消費税は同額でも、法人税や所得税の課税所得は変わります。いちばん効くのが資産計上の判定金額です。10万円未満なら一括で経費、20万円未満なら一括償却資産、40万円未満なら中小企業者等の特例——この「いくら」を、その会社が採用している経理方式で計算した価額で判定すると決められているためです。
差が出るのは大きく3か所です。資産計上の判定金額(10万円未満などの判定を税抜と税込のどちらで行うか)、納付する消費税をいつ・どの科目で計上するか、そして控除しきれなかった消費税の処理です。判定金額のほうは少額減価償却資産と一括償却資産が実額で比較しているので、この記事では方式の選択そのもの——誰が選べるのか、仕訳と決算がどう変わるのか——を条文と通達で確かめます。消費税額の計算は消費税の計算機が担当します。
選べるのは課税事業者だけ — 免税事業者に選択肢はない
まず前提を押さえます。経理方式を選べるのは消費税の課税事業者です。国税庁は「消費税の課税事業者である事業者は、所得税または法人税の所得金額の計算に当たり、消費税および地方消費税(以下「消費税等」といいます。)について、税抜経理方式または税込経理方式のどちらを選択してもよいこととされています」としています。
一方、免税事業者には選択肢がありません。ここは誤解が多いところです。国税庁は次のように書いています。
なお、消費税の納税義務が免除されている免税事業者は、その行う取引について税抜経理方式で経理をしている場合であっても、税込経理方式を適用して所得税または法人税の所得金額を計算することになります。
読み飛ばしやすいのですが、「税抜経理方式で経理をしている場合であっても」がこの文の要点です。会計ソフト上で税抜で入力していても、所得金額の計算は税込経理として行う、という意味です。免税事業者は仕入税額控除を受けられないので、支払った消費税は仕入や資産の取得価額そのものになります。前掲の質疑応答も「消費税の免税事業者となっている法人は税込経理方式しか採用できないので消費税等込みの価額が取得価額となります」と注記しています。
簡易課税制度や2割特例は「納付税額の計算方法」の話で、経理方式とは別の軸です。両方を適用している事業者が税抜経理を選ぶこともできます。この場合、取引相手が適格請求書発行事業者かどうかを厳密に区分する事務負担に配慮して、継続適用を条件に、すべての課税仕入れについて支払対価の額に110分の10(軽減税率対象は108分の8)を乗じた金額を仮払消費税等として経理する処理も認められています。
仕訳はどう変わるか — 国税庁の例で見る
タックスアンサーNo.6375が挙げている設例で見ます。小売店が商品(標準税率10%)を7,000円(税抜き)で掛仕入し、10,000円(税抜き)で現金販売した場合です。
税抜経理方式では、課税売上げに係る消費税等の額は仮受消費税等、課税仕入れに係る消費税等の額は仮払消費税等として、本体価額と分けて記録します。
| 時点 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 仕入時 | 仕入 | 7,000円 | 買掛金 | 7,700円 |
| 仮払消費税等 | 700円 | |||
| 売上時 | 現金 | 11,000円 | 売上 | 10,000円 |
| 仮受消費税等 | 1,000円 |
税込経理方式では、消費税等の額を売上金額や仕入金額に含めたまま計上します。仮受・仮払の科目は登場しません。
| 時点 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 仕入時 | 仕入 | 7,700円 | 買掛金 | 7,700円 |
| 売上時 | 現金 | 11,000円 | 売上 | 11,000円 |
この取引だけを見ると、税抜経理の粗利は10,000−7,000=3,000円、税込経理の粗利は11,000−7,700=3,300円です。差の300円は、後で納付する消費税(1,000−700=300円)です。税込経理ではこの300円が納付時に租税公課として費用になるので、期をまたがなければ最終的な所得は一致します。
ずれるのは売上高や仕入高の見かけの大きさです。税込経理では損益計算書の売上高が税込みで並びます。売上高で判定する社内基準や、金融機関に見せる数字を扱うときは、この違いを意識しておく必要があります。
10万・20万・40万円の壁は、経理方式で動く
減価償却の金額基準は、その法人が適用している経理方式に応じて算定した価額で判定します。国税庁の質疑応答(No.5403のQAリンク)は次のように書いています。
少額の減価償却資産の取得価額の損金算入の規定を適用する場合において、取得価額が10万円未満であるかどうかは、法人が適用している消費税等の経理処理方式に応じて算定した価額により判定することになります。つまり、法人が税抜経理方式を適用している場合は、消費税等抜きの価額が取得価額となり、法人が税込経理方式を適用している場合は、消費税等込みの価額が取得価額となります。
関係する基準は3つあります(少額の減価償却資産=10万円未満・法人税法施行令133、一括償却資産=20万円未満・同133の2、中小企業者等の少額減価償却資産=40万円未満・租税特別措置法67条の5)。税込経理を採用していると、この3つすべてが消費税10%ぶん手前で閉じます。税抜価額に直した実質的な境界は次のとおりです。
| 基準 | 税抜経理なら(判定は本体価格) | 税込経理なら(判定は税込価格) |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 本体価格 99,999円まで | 本体価格 約90,900円まで(税込99,999円) |
| 20万円未満 | 本体価格 199,999円まで | 本体価格 約181,800円まで(税込199,999円) |
| 40万円未満 | 本体価格 399,999円まで | 本体価格 約363,600円まで(税込399,999円) |
つまり税込経理の会社は、税抜経理の会社より約9%低い値段の資産しか一括で費用にできません。逆に言えば、税抜経理を選ぶだけで、追加の手続きもコストもなしに一括損金の枠が広がります。ただしこれはいつ損金になるかの差であって減税ではありません。税込経理でも耐用年数にわたって同額(むしろ税込のぶん総額は多い)が損金になります。
4つの選択肢(全額損金・一括償却・中小企業者等の特例・通常の減価償却)の使い分け、107,800円のパソコンを例にした判定、償却資産税への影響までは少額減価償却資産と一括償却資産で実額比較しています。中小企業者等の特例は令和11年3月31日までの期限付きで、年300万円が上限、確定申告書等への明細書の添付が適用の条件です(措置法67条の5第1項・3項)。
壁を越えた資産の償却額を計算する(定額法・定率法)納付する消費税を、いつ・どの科目で計上するか
納付税額の扱いも方式で分かれます(タックスアンサーNo.6901)。
税抜経理では、納付すべき税額は仮受消費税等から仮払消費税等を差し引いて計算し、未払消費税等として計上します(還付なら未収消費税等)。国税庁は「所得税または法人税の課税所得金額には影響しません」としています。損益を通らないためです。
税込経理では、納付すべき消費税等の額を租税公課として損金・必要経費に算入します。還付額は雑収入などとして益金・総収入金額に入ります。問題はその時期で、原則は次のとおりです。
| 区分 | 計上時期(原則) |
|---|---|
| 申告に係るもの | その申告書が提出された日の属する年または事業年度 |
| 更正または決定に係るもの | その更正または決定があった日の属する年または事業年度 |
原則どおりだと、3月決算の会社が5月に消費税の申告書を出した場合、その消費税は翌事業年度の損金になります。ただし例外があり、法人が申告期限未到来の納税申告書に記載すべき消費税等の額を損金経理により未払金に計上した場合は、その計上した事業年度の損金に算入できます。個人事業者も未払金に計上すればその年の必要経費にできます。
税込経理を選ぶなら、決算で消費税を未払計上するかどうかを毎期そろえておくのが実務上は安全です。ある期は未払計上、次の期は納付時、と揺れると、期間損益が理由なく上下します。
税抜経理だけに出てくる「控除対象外消費税額等」
税抜経理には、税込経理には無い論点がひとつあります。払った消費税を全額は控除できない場合です。
その課税期間の課税売上高が5億円超、または課税売上割合が95%未満のときは、仕入控除税額が課税仕入れ等に対する消費税額等の全額ではなく、課税売上げに対応する部分だけになります。控除しきれなかった仮払消費税等が「控除対象外消費税額等」です。資産に係るものは原則としてその資産の取得価額に算入し、要件に当たる場合だけ損金経理を条件に全額をその期の損金にできます。どれにも当たらないものは「繰延消費税額等」として60か月で償却し、取得した事業年度は2分の1までです(法人税法施行令139条の4第3項)。
税込経理では、この処理そのものが要りません。消費税額が最初から取得価額や経費に含まれているためで、国税庁も「税込経理方式を採用している場合には、消費税額および地方消費税額は資産の取得価額または経費の額に含まれますので、特別な処理は要しません」としています。経理方式の選択は、この論点を抱えるかどうかの選択でもあります。
なお、全額損金にできる場合として、国税庁タックスアンサーNo.6921は「課税売上割合が80パーセント以上」「棚卸資産に係るもの」「一の資産に係るものが20万円未満」の3つを挙げていますが、条文(同条2項)には特定課税仕入れ(いわゆるリバースチャージ対象取引)に係る場合という4つ目が置かれています。国外事業者から電気通信利用役務の提供などを受けている会社は見落とさないようにしてください。また1項の割合は条文上「課税売上割合に準ずる割合として財務省令で定めるところにより計算した割合」であり、単純な課税売上割合そのものとは書かれていません。
控除対象外消費税額等の判定と、繰延消費税額等を6年かけて落とす実数の計算、法人は任意で個人は強制という条文の非対称については、仮払金と仮受金の違い(仮払消費税等と控除対象外消費税額等)で詳しく扱っています。資産以外に係るものは全額その期の損金ですが、交際費等に係るぶんは交際費等の額に加算して損金不算入額を計算する点だけ、ここで注意しておきます(交際費と会議費の違い)。
よくある質問
Q. 税抜経理と税込経理は、どちらが得ですか?
A. 納付する消費税額はどちらでも同額です。所得計算で差が出るのは主に資産計上の判定金額で、10万円未満・20万円未満・40万円未満の判定を税抜価額で行える税抜経理のほうが、一括で損金にできる範囲が広くなります。標準税率10%なら、税込経理は実質的に約9%低い価格帯でこれらの基準が閉じます。ただし税込経理でも耐用年数にわたって同額(むしろ税込のぶん総額は多い)が損金になるので、差は「いつ損金になるか」であって減税ではありません。事務負担の少なさを優先して税込経理を選ぶ判断もあります。
Q. 経理方式を選ぶのに届出は必要ですか?
A. 税務署への届出は不要です。国税庁も、課税事業者はどちらを選択してもよいと説明しており、選択の届出について触れていません。ただし期の途中で理由なく行き来すると期間損益が比較できなくなるため、継続して適用するのが一般的です。なお簡易課税制度や2割特例を適用している事業者が税抜経理で一定の簡便処理を行う場合は、国税庁の取扱い上「継続適用」が条件とされています。
Q. 免税事業者ですが、会計ソフトで税抜入力しています。問題ありますか?
A. 記帳をどう入力するかとは別に、所得金額の計算は税込経理として行うことになります。国税庁は、免税事業者は税抜経理方式で経理をしている場合であっても税込経理方式を適用して所得金額を計算する、としています。したがって資産の取得価額も税込価額で判定します。10万円未満かどうかの判定で、税抜価額を使ってしまわないよう注意してください。
Q. インボイスの経過措置を使っているとき、税抜経理はどうなりますか?
A. 適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れは、令和11年9月30日までの経過措置により、従前の仕入税額相当額の80%または50%を課税仕入れに係る消費税額とみなします。税抜経理では、この80%または50%相当額を仮払消費税等とし、残額は取引の対価の額に含めて所得金額を計算します。国税庁の設例では、税込7,700円の仕入で仮払消費税等700円を計上していた場合、決算時に700−(700×80%)=140円を雑損失などに振り替える仕訳を示しています。なお経過措置期間中は、消費税等相当額を対価と区分して経理しなかったときに仮払消費税等はないものとして計算することも認められています。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.6375「税抜経理方式または税込経理方式による経理処理」(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー No.6901「納付税額又は還付税額の経理処理」(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー No.6921「控除できなかった消費税額等(控除対象外消費税額等)の処理」(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー No.5403「少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示」および同ページの質疑応答「消費税等の経理処理方式の違いによる少額の減価償却資産の判定」
- e-Gov法令検索 法人税法施行令(昭和四十年政令第九十七号)第139条の4「資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入」
- e-Gov法令検索 租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第67条の5「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」(令和8年8月12日施行版)
確認していないこと: 消費税経理通達(平元.3直法2-1、平元.3直所3-8外)の本文そのものは参照しておらず、内容は上記タックスアンサーの記述によっています。控除対象外消費税額等の所得税側の規定(所得税法施行令182条の2)、法人税法施行規則28条が定める「課税売上割合に準ずる割合」の具体的な計算方法、地方税(償却資産税)の申告における取扱いの詳細は確認していません。税抜価額に直した境界(90,908円など)は標準税率10%で計算したもので、軽減税率8%が適用される資産では境界が変わります。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。経理方式の選択、控除対象外消費税額等の処理、少額減価償却資産の特例の適用は、会社の課税売上割合や決算の状況によって適切な処理が異なります。個別の判断については税務署または税理士へご確認ください。