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健康診断は会社の義務か — 費用負担と勘定科目、受診時間の賃金、深夜業で年2回になる人

結論から言うと、健康診断は会社(事業者)の義務であると同時に、労働者の義務でもあります。労働安全衛生法66条1項が「事業者は、労働者に対し……医師による健康診断を行わなければならない」と定め、同じ条文の5項が「労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない」と定めています。義務が双方向に書かれている点が、この条文の特徴です。

ただし罰則は事業者側にしかありません。安衛法120条が罰金の対象として列挙している条文を数えると、66条1項から3項までは入っている一方、労働者の受診義務である5項は入っていません。同じ「しなければならない」でも、片方にだけ罰則が付いている構造です。

実務でつまずくのはむしろその周辺です。結果を本人に通知しないと50万円以下の罰金の対象になる一方、医師の意見を聴かなくても罰則はないこと。深夜業をしている人は年1回では足りず、年2回になること。費用を会社が出しても役員だけを対象にすると給与課税されること。そして受診時間の賃金は、一般健康診断と特殊健康診断で結論が逆になること。この記事では、そのそれぞれを条文と一次情報で確定させます。

義務は双方向、罰則は片方だけ

労働安全衛生法66条は、健康診断について5つの項を置いています。1項が一般的な健康診断、2項が有害業務に従事する労働者への特別の項目の健康診断、3項が歯科医師による健康診断、4項が都道府県労働局長による臨時の健康診断の指示、そして5項が労働者側の受診義務です。

5項には、実務上よく使われるただし書があります。「事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない」。会社が指定した医療機関を断ることはでき、そのかわり自分で相当する健診を受けて結果の書面を出す、という建て付けです。断ること自体はできても、受けないことはできません。

「常時使用する労働者」の線引きは条文に書かれていない 実施義務の対象は、労働安全衛生規則43条・44条とも「常時使用する労働者」とだけ書かれています。パートやアルバイトがどこから含まれるかという具体的な基準は条文の文言からは確定せず、行政解釈によって具体化されている領域です。この記事では条文から読める範囲に記述を限っています。個別の判断は所轄の労働基準監督署にご確認ください。

一般健康診断は3種類 — 雇入時・定期・特定業務従事者

安衛法66条1項を受けて、労働安全衛生規則が具体的な健康診断を定めています。厚生労働省の資料では、これらはまとめて一般健康診断と呼ばれています。中心になるのは次の3つです。

種類条文対象実施時期
雇入時の健康診断安衛則43条常時使用する労働者雇い入れるとき
定期健康診断安衛則44条常時使用する労働者(特定業務従事者を除く)1年以内ごとに1回
特定業務従事者の健康診断安衛則45条13条1項3号の業務に常時従事する労働者配置替えの際と6月以内ごとに1回

雇入時の健康診断には、見落とされやすいただし書があります。43条は「医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない」と定めています。前職の健診や自費の健診から3か月以内で、かつ結果の書面が出てくるなら、その項目は重ねて実施しなくてよいという意味です。

常時使用する労働者 を雇い入れる 雇入時の健康診断 安衛則43条・11項目 3か月以内の 健診+書面なら 相当項目は省略可 その後は 深夜業を含む業務に常時従事しているか いいえ はい 定期健康診断 安衛則44条 1年以内ごとに1回 特定業務従事者の健診 安衛則45条 6月以内ごとに1回 胸部エックス線は年1回でよい
一般健康診断の3種類。深夜業を含む業務に常時従事する人は、定期健康診断ではなく特定業務従事者の健康診断となり、回数が年2回になる。

深夜業は「特定業務」— 年2回になる人がいる

安衛則45条は「第十三条第一項第三号に掲げる業務に常時従事する労働者」に対し、6月以内ごとに1回の健康診断を求めています。この13条1項3号は産業医の選任に関する条文の中にあり、イからカまでの業務が並んでいます。多量の高熱物体を取り扱う業務、有害放射線にさらされる業務、異常気圧下における業務、坑内における業務といった、いかにも有害そうな業務が続くのですが、その列挙のヌに「深夜業を含む業務」が入っています。

つまり、深夜勤務のあるシフトを常時担当している従業員がいる会社は、その人について定期健康診断が年1回では足りません。オフィスワークであっても、深夜業を含む業務に常時従事しているなら45条の対象です。ここは自社に有害業務がないという理由で読み飛ばされやすい箇所です。

ただし45条1項の後段に緩和があります。「この場合において、同項第四号の項目については、一年以内ごとに一回、定期に、行えば足りるものとする」。4号は胸部エックス線検査と喀痰検査なので、胸部エックス線だけは年2回撮る必要はありません

古い資料は「13条1項2号」と書いている 厚生労働省が公開しているリーフレット「労働安全衛生法に基づく 健康診断を実施しましょう」では、特定業務の根拠が「労働安全衛生規則第13条第1項第2号」と記載されています。一方、e-Gov法令検索で取得できる現行の安衛則45条は「第十三条第一項第三号」を参照しており、業務の列挙も現行13条1項3号にあります。号がずれているのは、その後の改正で項番号が動いたためとみられます。検索で古い資料に当たると番号が食い違うので、条文を確認するときは現行の条文そのものに当たってください。

なお、名前が紛らわしいのですが、「特定業務従事者の健康診断」は一般健康診断に分類されます。有害業務について行う特殊健康診断(安衛法66条2項の系統)とは別のグループです。この違いは、後述する受診時間の賃金の扱いで効いてきます。

省略できる項目とできない項目を数える

定期健康診断の項目は安衛則44条1項に11号まで列挙されています。そして2項が、そのうち省略できるものを定めています。「第一項第三号、第四号、第六号から第九号まで及び第十一号に掲げる項目については、厚生労働大臣が定める基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは、省略することができる」。

ここで省略できる号を数え、残りを見ると、実務上の注意点が出てきます。省略できるのは3号・4号・6号から9号・11号の8つで、省略できないものが4つ残ります

項目医師の判断で省略
1号既往歴及び業務歴の調査できない
2号自覚症状及び他覚症状の有無の検査できない
3号身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査できる
4号胸部エックス線検査及び喀痰検査できる
5号血圧の測定できない
6〜9号貧血検査・肝機能検査・血中脂質検査・血糖検査できる
10号尿検査できない
11号心電図検査できる

つまり、血圧の測定と尿検査は、医師が不要と認めても落とせません。既往歴・業務歴の調査と自覚症状・他覚症状の検査も同じです。健診コースを安く抑えようとして項目を削るとき、この4つが入っているかどうかは条文上の分かれ目になります。

もう一点、省略の主語にも注意が要ります。条文は「厚生労働大臣が定める基準に基づき、医師が必要でないと認めるとき」と書いています。本人が希望したから、あるいは会社が費用を抑えたいから省略する、という形は条文が想定していません。

罰則がある義務とない義務 — 120条の列挙を数える

健康診断まわりの義務は、安衛法66条だけでなく、66条の3(記録)、66条の4(医師等からの意見聴取)、66条の5(事後措置)、66条の6(結果の通知)、66条の7(保健指導)と続きます。どれも「しなければならない」と書かれているように見えますが、罰則の有無は同じではありません

安衛法120条は「五十万円以下の罰金に処する」場合を号ごとに列挙しています。その1号に挙がっている条文を、健康診断に関係する範囲で拾うと次のようになります。

安衛法120条1号に列挙 = 50万円以下の罰金 66条1〜3項 健康診断の実施 66条の3  結果の記録 66条の6  本人への結果の通知 120条1号に列挙なし = 罰則なし 66条の4  医師等の意見聴取 66条の5  健診後の措置 66条5項  労働者の受診義務 66条4項(労働局長の指示)だけは1号ではなく120条2号 =「命令又は指示に違反したとき」 同じ66条でも、項によって罰則の型が違う。66条の7(保健指導)は努力義務なので列挙にない。
安衛法120条1号の列挙を数えると、健診まわりの義務は罰則のあるものとないものに分かれる。結果の通知は罰則がある側にある。

実務上いちばん効くのは、66条の6(結果の通知)が罰則のある側に入っていることです。健診結果を受け取って個人票に綴じ、本人には渡していないという運用は珍しくありませんが、条文の上では実施や記録と同じ重さで扱われています。

逆に、66条の4の意見聴取と66条の5の事後措置には罰則がありません。異常の所見があった人について医師の意見を聴かなくても、罰金の対象にはならないという意味です。ただし罰則がないことと義務でないことは別で、条文はどちらも「しなければならない」と書いています。安全配慮義務の観点から見れば、むしろ後段のほうが重い場面もあります。

もう一つ細かい点として、66条4項だけは120条1号ではなく2号に置かれています。2号は「命令又は指示に違反したとき」の類型で、都道府県労働局長からの臨時の健康診断の指示に従わなかった場合がここに当たります。同じ66条でも、項ごとに罰則の型が違います。

記録は5年、報告は50人以上 — 2025年1月から電子申請に

健康診断を実施したあとには、記録と報告という2つの事務が残ります。この2つは条文も要件も別です。

記録は安衛則51条です。「健康診断個人票(様式第五号)を作成して、これを五年間保存しなければならない」。対象は雇入時・定期・特定業務従事者などの健診に加え、66条5項ただし書で本人が受けてきた健診や、66条の2の自発的健康診断の結果も含まれます。人数の要件はありません

報告は安衛則52条で、こちらには人数の要件があります。「常時五十人以上の労働者を使用する事業者は、健康診断(第四十四条又は第四十五条の健康診断であつて定期のものに限る。)を行つたときは、遅滞なく……所轄労働基準監督署長に報告しなければならない」。50人未満の事業場は報告不要ですが、実施義務と記録義務は人数に関係なくあります。ここを混同して「うちは50人いないから健診はしなくてよい」と読むのは誤りです。

2025年1月1日から、報告の方法が条文レベルで電子申請になった 現行の52条は「電子情報処理組織を使用して、次に掲げる事項を所轄労働基準監督署長に報告しなければならない」と書かれています。e-Gov法令検索で改正前後の版を比べると、2024年12月13日施行の版では「様式第六号による報告書を提出しなければならない」だったものが、2025年1月1日施行の版で現行の文言に変わっています。紙の様式が条文から消え、報告事項が号立てで列挙される形になりました。定期健康診断結果報告書を紙で出していた会社は、この改正で運用が変わっています。

費用は誰が負担するか — 給与課税されない条件

安衛法は費用の負担者を明示していません。ただ、実施義務が事業者に課されている以上、実施義務の対象になる健康診断の費用は会社が負担するのが原則という整理になります。

経理処理としては、健康診断の費用は福利厚生費で処理するのが一般的です。社会保険料の会社負担分を処理する法定福利費とは別の科目になります。法定福利費は法律で負担が決まっている社会保険料等を指すのに対し、健診費用は会社が福利厚生として負担するものだからです。

税務上の論点は、その負担額が従業員の給与として課税されるかどうかです。国税庁の質疑応答事例「人間ドックの費用負担」は、次のように答えています。

国税庁 質疑応答事例(源泉所得税)「人間ドックの費用負担」より 「役員や特定の地位にある人だけを対象としてその費用を負担するような場合には課税の問題が生じますが、役員又は使用人の健康管理の必要から、雇用主に対し、一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断の実施が義務付けられていることなどから、一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ、かつ、検診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担する場合には、給与等として課税する必要はありません」(関係法令通達: 所得税基本通達36-29)

読み取れる条件は2つです。第一に、役員や特定の地位の人だけを対象にしないこと。第二に、一定年齢以上の希望者は全員が受けられ、受けた人全員の費用を負担することです。裏を返すと、役員だけに人間ドックを付けている場合は給与課税の問題が生じます。年齢で区切ること自体は否定されておらず、照会の事案も35歳以上の希望者を対象にしたものでした。

なお、この質疑応答事例は令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成されたものであり、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答である旨が国税庁自身によって注記されています。

法定福利費(社会保険料の会社負担分)の概算はこちら →

受診時間の賃金 — 一般健診と特殊健診で結論が逆

「健診を受けている時間の給与は払うのか」という質問には、健診の種類によって逆の答えが返ります。厚生労働省がFAQで示している整理は次のとおりです。

一般健康診断特殊健康診断
何のための健診か一般的な健康確保有害業務に伴う健康確保
業務遂行との関連直接の関連において行われるものではない業務の遂行に関して当然に実施
受診時間は労働時間か条文上の当然の帰結ではない労働時間
賃金の支払い労使間の協議によって定めるべきもの(支払うことが望ましい)支払いが必要

厚生労働省の説明を引くと、一般健康診断は「一般的な健康確保を目的として事業者に実施義務を課したものですので、業務遂行との直接の関連において行われるものではありません。そのため、受診のための時間についての賃金は労使間の協議によって定めるべきものになります。ただし、円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいでしょう」とされています。一方、特殊健康診断は「業務の遂行に関して、労働者の健康確保のため当然に実施しなければならない健康診断ですので、特殊健康診断の受診に要した時間は労働時間であり、賃金の支払いが必要です」と明確です。

ここで前述の分類が効いてきます。深夜業を理由とする年2回の健診(安衛則45条)は、名前こそ「特定業務従事者の健康診断」ですが一般健康診断の側です。したがって受診時間の賃金は、条文上当然に支払義務が生じるものではなく、労使間の協議によって定めるべきものという整理になります。名前の語感で特殊健康診断と同じ扱いにすると、結論が逆になります。

本人が払った場合 — 医療費控除は原則対象外

会社が負担せず本人が自費で人間ドックを受けた場合、その費用が医療費控除の対象になるかは別の論点です。国税庁の質疑応答事例「人間ドックの費用」は「いわゆる人間ドックその他の健康診断は疾病の治療を伴うものではないので、その人間ドック等の費用は、医療費控除の対象とはなりません」としています。

ただし、同じ回答に例外が続きます。「健康診断の結果、重大な疾病が発見され、引き続きその疾病の治療を行った場合には、その健康診断は、治療に先立って行われる診察と同様に考えることができますので、その健康診断のための費用も、医療費控除の対象に含まれます」(所得税基本通達73-4)。

同じ支出が、その後に治療をしたかどうかという結果によって扱いが変わるという珍しい構造です。健診を受けた時点では対象外でも、そこで重大な疾病が見つかって治療に進んだのであれば、その健診費用も控除の対象に含めて考えることになります。

よくある質問

Q. 健康診断は会社の義務ですか。従業員が拒否したらどうなりますか?

A. 会社の義務であり、同時に労働者の義務でもあります。労働安全衛生法66条1項が「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない」と定め、同条5項が「労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない」と定めているためです。ただし5項にはただし書があり、事業者が指定した医師の健康診断を受けることを希望しない場合に、他の医師が行う相当する健康診断を受けてその結果を証明する書面を提出したときは、指定医の健診を受けなくてよいとされています。会社が指定した医療機関を断ることはできても、健診自体を受けないことは条文が想定していません。なお安衛法120条の罰金の列挙には66条1項から3項までが入っている一方、労働者の受診義務である5項は入っていないため、労働者側に罰則は設けられていません。

Q. 健康診断は年1回でよいのですか?

A. 定期健康診断は1年以内ごとに1回ですが、全員がそれで足りるわけではありません。労働安全衛生規則45条は、13条1項3号に掲げる業務に常時従事する労働者について、その業務への配置替えの際と6月以内ごとに1回の健康診断を求めています。13条1項3号の列挙のヌには「深夜業を含む業務」が入っているため、深夜勤務のあるシフトを常時担当している人は年2回になります。有害物質を扱う業務がない会社でも該当し得る点が見落とされやすい箇所です。ただし45条1項の後段により、44条1項4号の項目、すなわち胸部エックス線検査と喀痰検査については1年以内ごとに1回行えば足りるとされています。

Q. 健康診断の費用は会社と本人のどちらが負担しますか?

A. 労働安全衛生法は費用の負担者を明示していませんが、実施義務が事業者に課されているため、実施義務の対象になる健康診断の費用は会社が負担するのが原則という整理になります。経理処理としては福利厚生費で処理するのが一般的で、社会保険料の会社負担分を処理する法定福利費とは別の科目です。法定福利費が法律で負担が決まっている社会保険料等を指すのに対し、健診費用は会社が福利厚生として負担するものだからです。なお会社が負担した場合に給与として課税されるかどうかには条件があり、国税庁の質疑応答事例では、役員や特定の地位にある人だけを対象として費用を負担する場合には課税の問題が生じるとされています。

Q. 役員だけ人間ドックを受けさせると給与課税されますか?

A. 課税の問題が生じます。国税庁の質疑応答事例「人間ドックの費用負担」は、役員又は使用人の健康管理の必要から、一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ、かつ検診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担する場合には給与等として課税する必要はないとする一方で、役員や特定の地位にある人だけを対象としてその費用を負担するような場合には課税の問題が生じると明示しています。関係法令通達として所得税基本通達36-29が挙げられています。照会の事案は年齢35歳以上の希望者の全てを対象としたものだったため、年齢で区切ること自体が否定されているわけではありません。分かれ目は、対象が地位で限定されているか、それとも一定年齢以上の希望者に開かれているかという点にあります。

Q. 健康診断を受けている時間の給与は払う必要がありますか?

A. 健康診断の種類によって結論が異なります。厚生労働省の説明では、一般健康診断は一般的な健康確保を目的として事業者に実施義務を課したもので、業務遂行との直接の関連において行われるものではないため、受診のための時間についての賃金は労使間の協議によって定めるべきものとされています。ただし円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいとされています。一方、特殊健康診断は業務の遂行に関して労働者の健康確保のため当然に実施しなければならない健康診断であるため、受診に要した時間は労働時間であり、賃金の支払いが必要とされています。注意が要るのは、深夜業を理由とする安衛則45条の「特定業務従事者の健康診断」が、名前に反して一般健康診断に分類される点です。名前の語感で特殊健康診断と同じに扱うと結論が逆になります。

Q. 定期健康診断の項目は医師の判断で省略できますか?

A. 一部は省略できますが、できない項目が残ります。労働安全衛生規則44条2項は「第一項第三号、第四号、第六号から第九号まで及び第十一号に掲げる項目については、厚生労働大臣が定める基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは、省略することができる」と定めています。省略できる号を数えて残りを見ると、1号の既往歴及び業務歴の調査、2号の自覚症状及び他覚症状の有無の検査、5号の血圧の測定、10号の尿検査の4つが省略できない項目として残ります。また省略の判断主体にも注意が必要で、条文は厚生労働大臣が定める基準に基づき医師が必要でないと認めるときと書いており、本人の希望や費用を抑えたいという会社の都合で省略する形は条文が想定していません。

Q. 健診結果を本人に渡していませんが、問題ありますか?

A. 労働安全衛生法66条の6が「事業者は、第六十六条第一項から第四項までの規定により行う健康診断を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該健康診断の結果を通知しなければならない」と定めています。そして安衛法120条1号の列挙には66条の6が含まれており、違反した場合は50万円以下の罰金の対象です。健診の実施(66条1項から3項)や結果の記録(66条の3)と同じ号に並んでいるため、条文の上では同じ重さで扱われています。結果を受け取って健康診断個人票に綴じるところで完了とせず、本人への通知まで行う必要があります。なお、異常の所見があった人について医師の意見を聴く66条の4と、その後の措置を定める66条の5は120条1号の列挙に入っていないため罰則はありませんが、義務であること自体は条文が定めています。

Q. 健康診断の結果はどのくらい保存し、労働基準監督署への報告はいつ必要ですか?

A. 保存は労働安全衛生規則51条により、健康診断個人票(様式第五号)を作成して5年間です。対象には雇入時・定期・特定業務従事者などの健康診断のほか、安衛法66条5項ただし書により本人が自ら受けた健康診断や、66条の2の自発的健康診断の結果も含まれます。この記録義務に人数の要件はありません。一方、労働基準監督署長への報告は安衛則52条により常時50人以上の労働者を使用する事業者が対象で、定期のものに限られます。50人未満の事業場は報告不要ですが、実施義務と記録義務は人数に関係なくある点が混同されやすい箇所です。なお報告の方法は、e-Gov法令検索で改正前後の版を比較すると、2024年12月13日施行の版では様式第六号による報告書の提出とされていたものが、2025年1月1日施行の版で電子情報処理組織を使用して報告する形に変わっています。

Q. 自費で受けた人間ドックの費用は医療費控除の対象になりますか?

A. 原則として対象になりません。国税庁の質疑応答事例「人間ドックの費用」は、いわゆる人間ドックその他の健康診断は疾病の治療を伴うものではないので、その費用は医療費控除の対象とはならないとしています。ただし例外があり、健康診断の結果、重大な疾病が発見され、引き続きその疾病の治療を行った場合には、その健康診断は治療に先立って行われる診察と同様に考えることができるため、その健康診断のための費用も医療費控除の対象に含まれるとされています。関係法令通達は所得税基本通達73-4です。同じ支出でも、その後に治療へ進んだかどうかという結果によって扱いが変わる構造になっています。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。健康診断の実施義務の範囲、費用負担の税務上の取扱い、受診時間の賃金の定め方は、事業場の規模・業務の内容・就業規則や労使間の取決めなどの具体的な事情によって結論が変わります。実際の運用にあたっては、労務については社会保険労務士または所轄の労働基準監督署に、税務については税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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