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個人事業主が補助金をもらったとき|圧縮記帳ではなく「総収入金額不算入」

結論から言うと、個人事業主の所得税には「圧縮記帳」という条文がありません。法人が法人税法42条で使う圧縮記帳にあたる制度は、所得税では総収入金額不算入(所得税法42条・43条)という別の形で置かれています。帳簿価額を圧縮損で減らすのではなく、そもそも収入に入れない、という構成です。

そして個人側には、法人にはない条件が一つあります。所得税法42条3項・43条4項は、この規定を確定申告書に適用を受ける旨と不算入額を記載した場合に限り適用すると定めています。要件を満たしていても、申告書に書かなければ適用されないということです。

もう一つ、対象範囲の誤解が起きやすい点があります。42条・43条が扱うのは固定資産の取得または改良に充てるための国庫補助金等だけです。広報費や外注費といった経費に充てる補助金は、この条文の射程外です。以下、条文と施行令を読みながら、補助金200万円で機械500万円を取得した例で整理します。

無料ツール:補助金の経理・税務(金額の流れを確認する)法人の圧縮記帳・特別勘定を計算するツールです。個人事業主は本記事のとおり条文が異なりますが、補助金額・取得価額・差引後の金額という数字の流れは同じ形で確認できます。

結論:法人の圧縮記帳と何が違うか

法人と個人は、狙う効果(課税の繰延べ)は似ていますが、条文の作りが違います。並べると次のとおりです。

法人(法人税法)個人事業主(所得税法)
制度の名前圧縮記帳(圧縮額の損金算入)総収入金額不算入
根拠条文42条・43条・44条42条・43条
判定の基準日その事業年度終了の時その年12月31日
未確定のときの受け皿特別勘定(43条)不算入のまま繰り越す(43条1項)
手続の要件損金経理または剰余金処分による積立て確定申告書への記載(42条3項・43条4項)
帳簿価額の扱い圧縮損で簿価を直接減額(または積立金方式)補助金額を控除した金額で取得したものとみなす(施行令90条2項1号)

実務上いちばん効くのは、下2行です。法人は決算書の経理処理そのものが要件になりますが、個人は申告書に書いたかどうかが要件になります。また個人には「圧縮損」という費用科目が出てきません。取得価額を補助金の額だけ小さくしたものとみなして、以後の減価償却を計算していく形です。

補助金の交付を受けた固定資産の取得・改良に充てるものか?(経費に充てる補助金はここで外れる)いいえ42条・43条の対象外総収入金額に算入はい12月31日までに返還不要が確定したか?(目的に適合する資産の取得・改良も同日まで)はいいいえ42条その年に不算入43条確定した年に精算
分かれ目は「入金したか」ではなく「12月31日までに返還不要が確定したか」

対象になる補助金・ならない補助金

所得税法42条1項は、対象を「固定資産(山林を含む)の取得又は改良に充てるための国又は地方公共団体の補助金又は給付金その他政令で定めるこれらに準ずるもの」と書いています。ここが入口の関門です。

補助金の使いみち42条・43条の対象一般的な所得計算上の扱い
機械装置・器具備品の購入対象になりうる要件を満たし申告書に記載すれば不算入
店舗・建物の改修(改良にあたるもの)対象になりうる同上
広報費・展示会出展料・外注費対象外事業所得の総収入金額に算入
人件費・家賃などの経費補助対象外同上

同じ制度から受け取った補助金でも、対象経費に固定資産と経費の両方が含まれることがあります。その場合、交付決定通知と実績報告の内訳を見て、固定資産の取得・改良に充てた部分を切り分けることになります。制度の名前だけでは判定できません。

経費補助が「対象外」でも、課税されないわけではない
対象外という意味は「不算入の特例が使えない」ということです。事業に関連して受ける補助金は、一般に事業所得の総収入金額に算入して計算します。特例が使えないことと、申告しなくてよいことは別の話です。

年内に返還不要が確定した場合(所得税法42条)

42条1項が要求しているのは、条文を分解すると次の3つです。

3つを満たすと、交付を受けた国庫補助金等の額に相当する金額は、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しません。なお、その固定資産が前年以前に取得した減価償却資産である場合は、施行令90条1項の割合で計算した金額になります。

例:補助金200万円で機械500万円を取得(同年中に返還不要が確定)
  • 総収入金額に算入しない金額:200万円
  • 減価償却の基礎となる金額:500万円−200万円=300万円とみなす
  • 確定申告書に、適用を受ける旨と不算入額200万円を記載する

42条2項は、現金ではなく国庫補助金等の交付に代わるべきものとして固定資産そのものの交付を受けた場合の規定です。この場合はその固定資産の価額に相当する金額を不算入とし、施行令90条2項2号により、その固定資産の取得に要した金額はないものとみなされます。

申告書に書き忘れたときの宥恕規定
42条4項は、確定申告書の提出がなかった場合や記載がない場合でも、税務署長がやむを得ない事情があると認めるときは適用できると定めています。ただしこれは税務署長の判断に委ねられた例外で、書かなくてよいという意味ではありません。43条5項にも同じ規定があります。

年内に確定しなかった場合(所得税法43条)

交付は受けたものの、実績報告や額の確定がまだで、返還を要しないことが12月31日までに確定していないことがあります。この場合は43条1項により、その国庫補助金等の額に相当する金額をその年分の総収入金額に算入しません。法人のように「特別勘定」という勘定を立てる形ではなく、収入に入れずに次の年へ持ち越す形です。

その後の処理は、確定の向きによって2つに分かれます。

その後どうなったか根拠確定した日の属する年分の扱い
返還を要しないことが確定した43条2項確定した部分に相当する金額を総収入金額に算入する。ただし、交付の目的に適合した固定資産の取得・改良に充てられた金額のうち施行令91条1項で計算した金額は除く
返還すべきことが確定した43条3項返還が確定した部分に相当する金額を、必要経費または支出した金額に算入しない

43条2項の「除く」が実質的な効果を生む部分です。持ち越した補助金が確定したとき、そのうち目的に適合する固定資産に充てた分は総収入金額に戻さず、代わりに施行令91条2項でその固定資産を確定部分を控除した金額で取得したものとみなす——つまり42条と同じ着地になります。返還が確定した場合の3項も対称で、返してもそれは必要経費にならない、という整理です。

減価償却はどう変わるか(施行令90条)

不算入は税金が消える制度ではなく、課税の繰延べです。それが表れるのが減価償却です。所得税法施行令90条2項1号は、42条1項の適用を受けた固定資産について、取得に要した金額または改良費の額から国庫補助金等の額に相当する金額を控除した金額をもって取得・改良したものとみなす、と定めています。

先ほどの例(機械500万円・補助金200万円)を、耐用年数10年・定額法・償却率0.100として単純化して比べます。

不算入を使わない場合42条の不算入を使う場合
補助金200万円総収入金額に算入総収入金額に算入しない
償却の基礎500万円300万円とみなす
1年あたりの償却費50万円30万円
10年間の償却費合計500万円300万円

初年度は補助金200万円が収入に入らないぶん所得が小さくなりますが、以後の償却費が毎年20万円小さくなります。10年を通せば差は消えます。初年度の資金繰りと、その後10年の所得の出方を入れ替えているのが、この制度の中身です。

なお、その固定資産を譲渡した場合の事業所得・譲渡所得等の計算についても、施行令90条2項・91条2項が取得価額のみなし規定を置いています。売却時の取得費も、控除後の金額を基礎に考えることになります。

所得税法44条は法人税法44条と別物

ここは条文番号だけで検索していると必ず取り違えます。法人税法44条と所得税法44条は、同じ番号でまったく違う内容です。

条文見出し内容
法人税法44条特別勘定を設けた場合の国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入43条で特別勘定を設けた法人が、後から返還不要が確定したときに圧縮記帳へ進む規定
所得税法44条移転等の支出に充てるための交付金の総収入金額不算入行政目的の遂行のために必要な資産の移転・移築・除却などの費用に充てる補助金の規定。補助金の圧縮とは別のテーマ

所得税法44条は、国や地方公共団体からその行政目的の遂行のために必要な資産の移転等の費用に充てるため補助金の交付を受けた場合や、土地収用法の規定による収用その他政令で定めるやむを得ない事由の発生に伴い移転等の費用に充てる金額の交付を受けた場合に、その費用に充てた金額を総収入金額に算入しないと定めています。ただし、必要経費に算入され、または譲渡に要した費用とされる部分に相当する金額は除かれます。施行令92条により、資本的支出に係る行為は「資産の移転等」に含まれません。

「法人の記事で44条を読んだから個人も同じはず」と進めると、まったく別の制度に入り込みます。個人事業主が固定資産の補助金で見るのは、42条と43条の2つです。

間違えやすい点

法人向けの解説を読んで「圧縮損」を計上する

所得税に圧縮記帳の条文はありません。固定資産圧縮損という費用を立てて必要経費に入れる処理は、法人の枠組みです。個人は総収入金額に算入しないという形で処理し、取得価額はみなし規定で小さくなります。

決算日を「事業年度末」で考える

個人事業の所得計算は暦年です。42条・43条の判定日は事業年度末ではなくその年12月31日(年の中途で死亡・出国した場合はその時)です。3月決算の法人向けの記事に出てくる「期末までに」をそのまま持ち込むと、判定日がずれます。

要件は満たしたが申告書に書かない

42条3項・43条4項は、申告書に適用を受ける旨と不算入額その他財務省令で定める事項の記載があることを適用の条件にしています。帳簿上の処理だけでは要件が揃いません。宥恕規定はありますが、税務署長が認める場合の例外です。

入金があった年だけで処理を決めてしまう

所得税法42条は、その年中に国庫補助金等の交付を受けたことに加え、返還を要しないことが確定し、目的に適合する資産を取得・改良したことを要件としています。入金日だけで判断はできませんが、翌年まで交付を受けていない補助金を年内の確定だけで42条の対象にすることもできません。年内に交付を受けても返還不要の確定が翌年になる場合は、43条の特別勘定を検討します。

経費補助まで不算入にする

42条・43条は固定資産の取得・改良に充てる補助金の規定です。広報費や外注費に充てた部分まで不算入にすると、対象外の金額を収入から落とすことになります。交付決定と実績報告の内訳で切り分けます。

よくある質問

Q. 個人事業主も圧縮記帳ができますか?

A. 所得税に圧縮記帳という条文はありません。所得税法42条・43条の総収入金額不算入が、法人の圧縮記帳にあたる制度です。

Q. 判定はいつの時点で行いますか?

A. 一般にその年12月31日時点で、返還を要しないことが確定しているか、交付目的に適合した固定資産を取得・改良したかを見ます。

Q. 確定申告書に書かないとどうなりますか?

A. 42条3項・43条4項により、記載がある場合に限り適用されます。ただし42条4項・43条5項に、やむを得ない事情があると税務署長が認めるときの規定があります。

Q. 持続化補助金で広報費に使った分も不算入にできますか?

A. 42条・43条の対象は固定資産の取得または改良に充てるための補助金です。経費に充てた部分は対象外で、一般に事業所得の総収入金額に算入します。

Q. 不算入にすると税金は減りますか?

A. 一般には課税の繰延べです。その年の総収入金額は小さくなりますが、取得価額を控除後の金額とみなすため、以後の減価償却費が小さくなります。

Q. 所得税法44条も補助金の規定ですか?

A. 所得税法44条は資産の移転等の費用に充てる交付金の規定で、法人税法44条(特別勘定からの圧縮記帳)とは内容が異なります。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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