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地震保険料控除の対象になるもの・ならないもの — 政令が外している2種類と、家財の30万円ライン

結論から言うと、地震保険料控除は「地震保険に払った保険料なら全部が対象」という控除ではありません。根拠条文である所得税法77条1項は、対象になる保険料を定義したうえで、そのすぐ後ろに「(政令で定めるものを除く。)」という6文字のかっこ書きを置いています。この政令=所得税法施行令213条が、2種類の保険料を名指しで外しています。

外れているのは、①地震等損害によって臨時に生ずる費用や、建物の取壊し・除去にかかる費用に対して支払われる保険金に係る保険料と、②地震部分の保険金額が、火災部分の保険金額の20%未満になっている契約の保険料です。控除証明書に書かれた金額をそのまま申告書へ書き写す運用だと、この2つは見えません。実際には保険会社が控除対象部分だけを証明書に載せるため多くの人は困りませんが、「なぜ払った保険料と証明書の金額が違うのか」に答えられるのはこの条文だけです。

もう1つ、対象になる「資産」の範囲にも線が引かれています。家屋のほうは「常時その居住の用に供するもの」に限られるので別荘は入りません。家財のほうは所得税法9条1項9号の生活用動産を指しており、同法施行令25条によって1個または1組の価額が30万円を超える貴金属・書画・骨董・美術工芸品は外れます。この記事では、控除額の計算そのものよりも「どこまでが対象なのか」を条文で確かめます。金額の計算だけを知りたい方は地震保険料控除シミュレーターへどうぞ。

結論 — 「政令で定めるものを除く」の中身

地震保険料控除の根拠は所得税法77条1項です。長い一文ですが、対象を決めているのはこの部分です。

居住者が、各年において、自己若しくは自己と生計を一にする配偶者その他の親族の有する家屋で常時その居住の用に供するもの又はこれらの者の有する第九条第一項第九号(非課税所得)に規定する資産を保険又は共済の目的とし、かつ、地震若しくは噴火又はこれらによる津波を直接又は間接の原因とする火災、損壊、埋没又は流失による損害(以下この項において「地震等損害」という。)によりこれらの資産について生じた損失の額をてん補する保険金又は共済金が支払われる損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料又は掛金(政令で定めるものを除く。以下この項において「地震保険料」という。)を支払つた場合には(所得税法77条1項)

ここから、対象になる保険料は次の3つの条件をすべて満たすものだと読めます。

条文の言葉意味外れるもの
自己若しくは自己と生計を一にする配偶者その他の親族の有するその資産を、自分か「生計を一にする」親族が持っていること別世帯の親族が所有する家屋
家屋で常時その居住の用に供するものふだん住んでいる家であること別荘・空き家・純然たる賃貸用物件
地震等損害部分の保険料又は掛金(政令で定めるものを除く。)地震・噴火・津波による損害を補償する部分の保険料であること。ただし政令の除外に当たらないこと火災だけを補償する部分の保険料、および施行令213条が外す2種類

3つ目の「政令で定めるものを除く」が、この記事の主題です。この6文字が指す先は所得税法施行令213条で、そこには火災保険料が対象外という当たり前のこと以外に、2つの除外が書かれています。

1年間に払った損害保険料は、4つに切り分けられる 1年間に払った保険料の総額(控除証明書が届く前の、あなたが払った全額) 火災部分の保険料 対象外(77条1項は地震等損害部分に限る) 地震等損害部分の保険料 ここから、さらに政令が2種類を外す 臨時費用・ 取壊し費用の分 213条1号で対象外 地震部分が火災の 20%未満のとき 213条2号で全部対象外 残った部分 =「地震保険料」 これが控除の対象 控除証明書に書かれているのは、いちばん右の「残った部分」の金額です。 払った額と証明書の額が違うのは、条文が上の順で削っているからです。
所得税法77条1項と所得税法施行令213条による、控除対象部分の切り分け

対象になる条件は3つだけ。契約者の名義は条文に出てこない

先に、実務でよく聞かれる点を条文で確かめておきます。77条1項には「契約者」という言葉が一度も出てきません。出てくるのは「居住者が……支払つた場合には」という、払った人を主語にした書き方だけです。

条文が要求している3つ
  1. その保険料を払ったのが、控除を受ける本人であること(「居住者が……支払つた場合には」)
  2. 保険の目的である家屋・家財を、本人または生計を一にする配偶者その他の親族が所有していること
  3. その家屋を常時その居住の用に供していること

契約者が誰の名義かは、この3つのどこにも入っていません。

したがって、たとえば家屋の名義が同居している親で、保険料を子が払っている場合、条文の文言のうえでは①(子が払った)②(生計を一にする親族が所有)③(常時居住)を満たすので、子の地震保険料控除の対象になると読めます。逆に、契約者が本人でも、実際に払ったのが別世帯の人であれば、本人は「支払つた」に当たりません。

なお、控除証明書は保険会社が契約者宛てに発行するため、契約者と支払者が違う場合は年末調整・確定申告の場で説明が要ることがあります。誰が払ったかを証明する方法(口座引落しの記録など)については、勤務先の給与担当者または所轄の税務署にご確認ください。

政令が外している2種類(所得税法施行令213条)

77条1項のかっこ書きが指す政令は、所得税法施行令213条です。見出し自体が「地震保険料控除の対象とならない保険料又は掛金」となっています。

1号 — 臨時費用・取壊し費用の部分

一 法第七十七条第一項に規定する地震等損害(次号において「地震等損害」という。)により臨時に生ずる費用、同項に規定する資産(同号において「家屋等」という。)の取壊し又は除去に係る費用その他これらに類する費用に対して支払われる保険金又は共済金に係る保険料又は掛金(所得税法施行令213条1号)

ポイントは、77条1項が対象にしているのが「生じた損失の額をてん補する保険金」だけだということです。地震で建物が壊れたときに出る保険金は、失われた価値そのものを埋めるものなので対象になります。一方、壊れた建物を解体する費用や、避難生活で臨時にかかる費用を補償する保険金は、損失そのものを埋めるものではありません。1号はそれを明示的に外しています。

実際の商品でいえば、火災保険に付ける地震火災費用特約や、臨時費用保険金残存物取片づけ費用保険金といった費用保険金に対応する保険料が、この1号に当たります。

2号 — 地震部分が火災部分の20%未満のとき

二 一の法第七十七条第一項に規定する損害保険契約等(当該損害保険契約等においてイに掲げる額が地震保険に関する法律施行令(昭和四十一年政令第百六十四号)第二条(保険金額の限度額)に規定する金額以上とされているものを除く。)においてイに掲げる額のロに掲げる額に対する割合が百分の二十未満とされている場合における当該損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料又は掛金(前号に掲げるものを除く。)(所得税法施行令213条2号)

「イに掲げる額」は地震等損害についての保険金額、「ロに掲げる額」は地震以外の火災による損害についての保険金額です。つまり地震 ÷ 火災 が20%未満なら、その契約の地震等損害部分の保険料は丸ごと対象外になります。

ただし冒頭のかっこ書きで、地震等損害の保険金額が地震保険に関する法律施行令2条の金額以上とされている契約は、この2号から除かれます。その金額は次のとおりです。

(保険金額の限度額)第二条 法第二条第二項第四号に規定する政令で定める金額は、居住用建物については五千万円、生活用動産については千万円とする。ただし、当該居住用建物又は生活用動産について既に締結されている地震保険契約がある場合には、これらの金額からそれぞれ当該既に締結されている地震保険契約の保険金額に相当する金額を控除した金額とする。(地震保険に関する法律施行令2条)

20%ルールが実際に効くのはどこか

ここが、この控除でいちばん誤解されやすいところです。「20%未満だと控除できない」という言い方だけを覚えると、自分の地震保険が危ないのではないかと心配になります。結論を先に言うと、地震保険に関する法律にいう地震保険であるかぎり、2号で外れることはありません。それは同法が保険金額の範囲を決めているからです。

四 附帯される損害保険契約の保険金額の百分の三十以上百分の五十以下の額に相当する金額(その金額が政令で定める金額を超えるときは、当該政令で定める金額)を保険金額とすること。(地震保険に関する法律2条2項4号)

この2つを突き合わせると、次のことが言えます。地震保険の保険金額は火災保険金額の30%以上50%以下と決まっているので、比率が20%を割るのは政令の上限(居住用建物5,000万円・生活用動産1,000万円)に張り付いたときだけです。そして張り付いているということは、地震等損害の保険金額がちょうどその政令の金額に等しいということですから、213条2号の冒頭のかっこ書き(「政令で定める金額以上とされているものを除く」)に当てはまり、2号の対象から外れます。つまり2号が発動する余地がありません。

建物の場合、政令の上限が効き始めるのは火災保険金額が5,000万円 ÷ 30% = 約1億6,667万円を超えたときで、比率が20%まで落ちるのは火災保険金額が5,000万円 ÷ 20% = 2億5,000万円に達したときです。数字で並べると次のようになります。

建物の火災保険金額地震保険金額(30〜50%・上限5,000万円)地震÷火災施行令213条2号
1,000万円300万〜500万円30〜50%20%以上なので対象外にならない
1億円3,000万〜5,000万円30〜50%同上
2億円5,000万円(上限に張り付く)25%同上
2億5,000万円5,000万円(上限)ちょうど20%「20%未満」ではないので対象外にならない
3億円5,000万円(上限)約16.7%20%を割るが、かっこ書きで2号から除かれる
火災保険金額が大きいほど、地震÷火災の比率は下がる(上限5,000万円が効くため) 1,000万 1億6,667万 2億5,000万 3億 比率 30〜50% ここで比率がちょうど20% 左の平らな部分 … 地震保険金額が上限5,000万円に届いていない。比率は30〜50% 1億6,667万円から右 … 上限に張り付き、火災保険金額が増えるほど比率だけが下がる 2億5,000万円から右 … 比率は20%未満。ただし地震金額=政令の金額なので213条2号から除かれる
地震保険に関する法律2条2項4号・同法施行令2条と、所得税法施行令213条2号の関係
では213条2号は誰に効くのか

2号が意味を持つのは、地震保険に関する法律にいう地震保険ではないものです。所得税法77条2項2号と同法施行令214条は、農業協同組合の建物更生共済、消費生活協同組合連合会の自然災害共済など、共済契約も控除の対象に含めています。共済は同法2条2項4号の30〜50%という縛りを受けないため、地震補償の額が火災補償の20%未満に設計されている商品がありえます。その場合、その共済掛金の地震等損害部分は控除の対象になりません。

上の説明は、その資産について地震保険契約が1つだけ結ばれている前提です。同じ建物や家財に既に別の地震保険契約があるときは、地震保険に関する法律施行令2条ただし書きにより限度額が既契約分だけ引き下げられます。この場合に施行令213条2号のかっこ書きがどの金額を指すのかは、条文からは一義に読み取れませんでした。確認範囲外とします。

家財は「生活用動産」— 1個30万円で線が引かれる

77条1項が対象にしている資産は2つで、1つは家屋、もう1つは「これらの者の有する第九条第一項第九号(非課税所得)に規定する資産」です。条文を追うと、9条1項9号はこうなっています。

九 自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得(所得税法9条1項9号)

ここでまた「政令で定めるもの」が出てきます。その政令が所得税法施行令25条で、ここに30万円という数字があります。

(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)第二十五条 法第九条第一項第九号(非課税所得)に規定する政令で定める資産は、生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(一個又は一組の価額が三十万円を超えるものに限る。)以外のものとする。
一 貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品
二 書画、こつとう及び美術工芸品(所得税法施行令25条)

読み方が少しややこしいので分解します。この条文は「生活に通常必要な動産のうち、〈1号・2号に掲げるもので1個または1組30万円超のもの〉以外のもの」を政令で定める資産としています。つまり1個または1組の価額が30万円を超える貴金属・真珠・べっ甲・さんご・こはく・象牙・七宝の製品と、書画・骨董・美術工芸品は、9条1項9号の資産から外れます。そして77条1項が対象にしているのは9条1項9号の資産ですから、これらを保険の目的とする部分の保険料は、地震保険料控除の対象になりません。

実務での意味は限定的です。家財の地震保険はふつう一括の保険金額で契約され、明細ごとに保険料を割り振らないためです。ただし1個30万円を超える貴金属や絵画を家財保険に「明記物件」として個別に載せている場合、その部分は条文上、控除の対象資産ではありません。この30万円という数字は、地震保険料控除の解説にはまず出てきませんが、条文を77条1項 → 9条1項9号 → 施行令25条とたどれば必ず行き着きます。

なお、施行令25条の30万円は譲渡所得の非課税範囲を定めるために置かれた数字で、地震保険料控除のために設けられたものではありません。77条1項が9条1項9号を参照した結果、同じ線が地震保険料控除の対象資産にも引かれている、という関係です。

控除額 — 所得税は全額、住民税は2分の1

対象になる保険料が決まったら、次は控除額です。所得税と住民税で式が違います。所得税は77条1項が「その年中に支払つた地震保険料の金額の合計額(……その金額が五万円を超える場合には五万円とする。)」としているので支払額の全額(上限5万円)です。住民税は違います。

前年中に支払つた地震保険料の金額の合計額(……)の二分の一に相当する金額(その金額が二万五千円を超える場合には、二万五千円)(地方税法34条1項5号の3)

住民税は「二分の一」です。市町村民税も314条の2第1項5号の3に同じ文言が置かれています。所得税の式をそのまま住民税に当てはめると、住民税側の控除額を2倍に見積もることになります。

年間の地震保険料所得税の控除額住民税の控除額
20,000円20,000円10,000円
30,000円30,000円15,000円
50,000円50,000円(上限)25,000円(上限)
80,000円50,000円(上限)25,000円(上限)

ここで1つ、地味ですが整合の取れた設計になっている点があります。所得税は「全額・上限5万円」、住民税は「2分の1・上限2万5千円」なので、上限に達する保険料はどちらも年5万円で同じです。これは生命保険料控除と対照的で、あちらは所得税と住民税で計算式の刻みそのものが違うため、上限に達する保険料も一致しません。

控除額はそのまま戻る金額ではなく、実際に減るのは控除額 × 税率です。課税される所得金額が400万円(所得税の税率20%・住民税の所得割10%)の人が年間30,000円の地震保険料を払っている場合、所得税が 30,000 × 20% = 6,000円、復興特別所得税がその2.1%で126円、住民税が 15,000 × 10% = 1,500円で、合計7,626円です。

地震保険料控除シミュレーターで控除額と節税額を計算する

旧長期の経過措置 — 所得税は「できる」、住民税は「する」

平成18年の税制改正で損害保険料控除が廃止され、経過措置として一定の古い長期契約が地震保険料控除の枠で使えるようになりました。これが旧長期損害保険料です。要件と金額の表はシミュレーター側にまとめてあります。ここでは、所得税と住民税で条文の書きぶりが違う点だけを取り上げます。

所得税(平成18年法律第10号 附則10条2項)住民税(平成18年法律第7号 附則5条5項)
末尾の文言……として、同条の規定を適用することができる……として、同項第五号の三の規定を適用する
読み方納税者が選べる(任意)当てはまれば当然に適用される
旧長期分の上限15,000円10,000円
上限に達する保険料20,000円超15,000円超

この違いが実務で問題になることはまずありません。住民税の課税資料は所得税の確定申告書や給与支払報告書なので、所得税の申告で旧長期を使わなければ、その情報が住民税側に渡らないからです。ただし条文の書きぶりとしては、所得税は選択制、住民税は当然適用と読める形になっています。

もう1つ、地震保険料と旧長期の関係で押さえておく点があります。1つの契約が両方の区分に該当するときは、どちらか一方でしか控除を受けられません。所得税は附則10条3項、住民税は附則5条6項が「いずれか一の契約のみに該当するものとして」と定めています。積立火災保険に地震保険を付帯しているケースがこれに当たり、両方を足して申告することはできません。

上限に達する保険料が所得税20,000円超・住民税15,000円超と食い違うのは、旧長期の計算式の刻みが所得税(1万円・2万円)と住民税(5千円・1万5千円)で違うためです。地震保険料のほうは所得税・住民税とも5万円で一致するので、この点だけは旧長期のほうが複雑になっています。

控除証明書は1円でも要る

地震保険料控除は年末調整で処理できます。所得税法190条2号ロが、年末調整で控除する金額の中に「第七十七条第一項(地震保険料控除)に規定する地震保険料の金額」を挙げているためです。ただし同号は、その金額が「当該申告書に記載され、かつ、第百九十六条第二項に規定する書類の提出又は提示のあつたものに限る」としています。保険料控除申告書に書くことと、証明書を出すことの両方が要ります。

確定申告のほうは所得税法施行令262条1項5号です。ここに金額の下限がありません。生命保険料控除と並べると差がはっきりします。

証明書の要否根拠
地震保険料控除金額にかかわらず必要所得税法施行令262条1項5号(金額の条件なし)
生命保険料控除(旧生命保険料)年9,000円を超えるものだけ必要同項4号ロのかっこ書き

つまり年間1,000円の地震保険料でも証明書は要る一方、旧生命保険料は9,000円以下なら要らない、という差です。どちらも年末調整で控除された分については確定申告での添付・提示が不要になる点(262条1項ただし書き)は共通しています。

この控除には、条文に予定された改正が1つも無い

令和8年の税制改正では、所得控除まわりに動きが集中しています。生命保険料控除は令和8年分・令和9年分だけ一般の枠が6万円に読み替えられ、青色申告特別控除は令和9年分から条文そのものが作り替えられます。地震保険料控除は、そのどちらでもありません。

e-Gov法令API v2で所得税法77条を現行版(令和8年8月12日施行)、令和8年12月1日施行版、令和9年1月1日施行版、令和10年1月1日施行版、令和12年6月19日施行版の5つ取得して突き合わせたところ、本文870字がmd5ハッシュまで完全に一致しました。一字も変わっていません。地方税法34条のほうは令和12年6月19日施行版で本文が変わりますが、変わっているのは障害者控除と譲渡所得の部分にある条番号の参照だけで、5号の3(地震保険料控除)は無傷でした。

「変わっていない」を確かめる手順

条文が変わっていないことを言うには、比較の経路そのものが生きていることを確かめる必要があります。今回は同じ手順で地方税法34条を比べたところ差分が検出された(現行版18,772字 → 令和12年6月19日施行版18,779字)ので、突き合わせの経路は働いています。そのうえで77条は5版すべて同一でした。

実務上の意味は単純です。令和8年分の年末調整で使う地震保険料控除の金額と要件は、来年も再来年も同じと、いまの条文からは読めます。保険料控除申告書のうち、地震保険料の欄だけは去年の説明資料をそのまま使えます。

間違えやすい点

よくある質問

Q. 火災保険に入っていれば地震保険料控除は使えますか?

A. 使えません。所得税法77条1項が対象にしているのは、地震・噴火・これらによる津波を直接または間接の原因とする火災、損壊、埋没、流失による損害をてん補する保険金が支払われる契約の、その地震等損害部分の保険料だけです。火災だけを補償する部分の保険料は対象外です。日本の地震保険は火災保険に付帯して契約する仕組み(地震保険に関する法律2条2項3号)なので、火災保険に加入していても地震保険を付けていなければ控除対象の保険料は発生しません。控除証明書が届いていない場合は、地震保険を付帯しているかを保険証券で確認してください。

Q. 払った保険料より控除証明書の金額が少ないのはなぜですか?

A. 条文が段階的に対象を絞っているためです。まず所得税法77条1項が地震等損害部分に限っているので、火災部分の保険料が落ちます。次に同法施行令213条1号が、地震等損害により臨時に生ずる費用や、建物の取壊し・除去に係る費用に対して支払われる保険金に係る保険料を外します。地震火災費用特約や臨時費用保険金に対応する部分がこれに当たります。保険会社はこれらを差し引いた後の金額を控除証明書に記載するため、実際に払った額とは一致しません。

Q. 別荘の地震保険料も控除できますか?

A. できないと考えられます。所得税法77条1項が対象としている家屋は「常時その居住の用に供するもの」で、たまに滞在するだけの別荘はこの文言に当たりません。なお家財のほうは「これらの者の有する第九条第一項第九号に規定する資産」とされていて「常時」の限定が付いていませんが、9条1項9号が「生活の用に供する」資産と定めているため、別荘に置いてある家財がこれに当たるかは個別の判断になります。具体的なケースは所轄の税務署にご確認ください。

Q. 家財に掛けた地震保険で、控除の対象にならない部分はありますか?

A. 条文上はあります。対象になる家財は所得税法9条1項9号の資産で、同法施行令25条が、1個または1組の価額が30万円を超える貴石・貴金属・真珠・べっ甲・さんご・こはく・象牙・七宝の製品と、書画・骨董・美術工芸品を、その範囲から除いています。したがってこれらを保険の目的とする部分の保険料は対象資産に係るものではありません。実務では家財を一括の保険金額で契約するのがふつうなので問題になりにくいものの、高額な貴金属や絵画を明記物件として個別に契約している場合は該当しうる、という関係になります。

Q. 地震保険の保険金額が火災保険の30%しかないのですが、20%未満だと控除できないと聞きました。大丈夫でしょうか?

A. その心配は要らないと考えられます。所得税法施行令213条2号が外しているのは、地震等損害の保険金額が火災による損害の保険金額の20%未満である契約です。地震保険に関する法律2条2項4号は地震保険の保険金額を火災保険金額の30%以上50%以下と定めているため、30%であれば20%を上回ります。比率が20%を割るのは、同法施行令2条の限度額(居住用建物5,000万円・生活用動産1,000万円)に張り付いた場合だけですが、そのときは213条2号の冒頭のかっこ書きにより2号の対象から除かれます。20%基準が実際に働きうるのは、この30〜50%の縛りを受けない共済契約などです。

Q. 家の名義は親で、地震保険料は同居している私が払っています。私の控除にできますか?

A. 条文の文言からは、対象になると読めます。所得税法77条1項が求めているのは、①保険料を支払ったのがその居住者であること、②保険の目的である家屋を自己または自己と生計を一にする配偶者その他の親族が所有していること、③その家屋を常時その居住の用に供していることの3つで、契約者が誰の名義かという要件は条文に置かれていません。同居して生計を一にしている親が所有する家屋であれば②を満たします。ただし控除証明書は契約者宛てに発行されるため、実際に支払ったのが誰かの説明を求められることがあります。個別の取扱いは勤務先の給与担当者または所轄の税務署にご確認ください。

Q. 年末調整で地震保険料控除を受けられますか。証明書は必ず要りますか?

A. 年末調整で受けられます。所得税法190条2号ロが、年末調整で控除する金額に地震保険料を挙げているためです。証明書は必要で、同号が「当該申告書に記載され、かつ、第百九十六条第二項に規定する書類の提出又は提示のあつたものに限る」としています。確定申告の場合は所得税法施行令262条1項5号が根拠で、こちらには金額の下限がありません。生命保険料控除の旧生命保険料が年9,000円を超えるものだけ証明書を要する(同項4号ロ)のとは違い、地震保険料控除は金額にかかわらず証明書が要ります。なお年末調整で控除された分については、確定申告での添付・提示は不要です。

Q. 令和8年の改正で地震保険料控除は変わりましたか?

A. 変わっていません。所得税法77条の条文を、現行版(令和8年8月12日施行)・令和8年12月1日施行版・令和9年1月1日施行版・令和10年1月1日施行版・令和12年6月19日施行版の5つで比較したところ、本文870字がすべて同一でした。住民税側の地方税法34条1項5号の3も、令和12年6月19日施行版まで変わっていません。生命保険料控除には令和8年分・令和9年分限りの特例があり、青色申告特別控除は令和9年分から条文が作り替えられますが、地震保険料控除にはいまのところ予定された改正がありません。

Q. 地震保険料と旧長期損害保険料の両方の証明書があります。合計して申告できますか?

A. 契約が別々であれば、それぞれ計算した金額を合計できます(合計額の上限は所得税5万円・住民税2万5千円)。ただし1つの契約が地震保険料と旧長期損害保険料の両方の区分に該当する場合は、どちらか一方でしか控除を受けられません。所得税は平成18年法律第10号 附則10条3項、住民税は平成18年法律第7号 附則5条6項が「いずれか一の契約のみに該当するものとして」と定めているためです。積立火災保険に地震保険を付帯しているケースがこれに当たります。どちらが有利かは金額によって変わるので、シミュレーターに両方の金額を入れて比べてください。

出典

本記事の確認範囲は、所得税法77条の地震保険料控除の対象範囲と控除額、所得税法施行令213条による除外、対象資産の範囲(所得税法9条1項9号・同法施行令25条)、地方税法34条1項5号の3・314条の2第1項5号の3による個人住民税の地震保険料控除、平成18年の2つの改正法附則による旧長期損害保険料の経過措置、および証明書の提出に関する所得税法190条2号・同法施行令262条1項です。同一の資産に複数の地震保険契約がある場合に施行令213条2号のかっこ書きがどの金額を指すか、店舗併用住宅における居住用部分と事業用部分の具体的な按分方法、所得税法施行令214条が挙げる各共済契約の商品ごとの補償設計、剰余金の分配・割戻金がある場合の按分計算、および令和8年分の給与所得者の保険料控除申告書の実際の様式は確認していません。

この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。ある保険料が控除の対象になるかは、契約の補償内容と保険会社が発行する控除証明書の記載によって決まります。実際の年末調整・確定申告については、勤務先の給与担当者または顧問の税理士・所轄の税務署へご確認ください。

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