青色申告特別控除 — 65万円・55万円・10万円の分かれ目と、令和9年分から「55万円」が条文から消える改正
結論から言うと、青色申告特別控除の金額を分けているのは「帳簿の付け方」と「申告の出し方」の2つだけです。令和8年分は10万円・55万円・65万円の3段階で、複式簿記で記帳して期限内に貸借対照表を添付すれば55万円、そのうえで電子帳簿保存かe-Taxのどちらかを満たせば65万円になります。
ただし、この記事でいちばんお伝えしたいのはその先です。租税特別措置法25条の2は、令和9年1月1日施行の版で作り替えられていて、「55万円」が条文から消えます。新しい条文は65万円と75万円の二段構えで、しかも65万円の側には「e-Taxで送信した場合に限り適用する」という条件が付きます。つまり複式簿記で記帳していても、紙で提出すると65万円は取れず、10万円まで落ちます。
もう1つ、これまで存在しなかった落とし穴が新設されます。前々年の収入が1,000万円を超える人が複式簿記をしていない場合、10万円控除すら適用されません。いまは「何もしなくても10万円は付く」という感覚で運用されている部分が、令和9年分からはゼロ円になりうるということです。改正法の附則は「令和九年分以後の所得税について適用し、令和八年分以前の所得税については、なお従前の例による」と書いています。この記事では、令和8年分の条件を条文で確かめたうえで、令和9年分に何がどう変わるのかを整理します。
結論 — 分かれ目は「帳簿」と「出し方」の2つだけ
青色申告特別控除は、青色申告の承認を受けている個人が、不動産所得・事業所得・山林所得の金額から一定額を差し引ける制度です(租税特別措置法25条の2)。令和8年分の金額と条件を表にすると次のようになります。
| 控除額 | 帳簿 | 申告の出し方 | 対象の所得 | 条文 |
|---|---|---|---|---|
| 65万円 | 複式簿記(正規の簿記の原則) | 期限内申告+貸借対照表等の添付。加えて、優良な電子帳簿での保存またはe-Taxでの送信 | 不動産所得・事業所得 | 25条の2第4項 |
| 55万円 | 複式簿記(正規の簿記の原則) | 期限内申告+貸借対照表等の添付 | 不動産所得・事業所得 | 25条の2第3項 |
| 10万円 | 簡易な記帳でよい | 期限内申告の要件なし | 不動産所得・事業所得・山林所得 | 25条の2第1項 |
ここで先に1つ、条文の作りを押さえておくと後の話が読みやすくなります。条文には「65万円控除」という独立した規定がありません。55万円を定めているのは3項で、4項は「同項第一号中『五十五万円』とあるのは、『六十五万円』として、同項の規定を適用することができる」と書いてあるだけです。65万円は55万円の読み替えとして存在しています。この構造を知っていると、令和9年分の改正が何をしたのかが一目で分かります。
令和8年分の条件を条文で確かめる
それぞれの条件を、条文と財務省令まで下りて確かめます。ここを押さえておくと、次の改正の話で何が動いたのかが分かります。
10万円(1項)— 山林所得も対象
1項は、青色申告の承認を受けている個人の不動産所得・事業所得・山林所得から、10万円とこれらの所得の合計額のうちいずれか低い金額を控除すると定めています。帳簿の種類も、申告の期限も、条文には書かれていません。3つの金額のうち山林所得が対象になるのは、この10万円のときだけです。
55万円(3項)— 「事業」であること
青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている個人で不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営むもの(所得税法第六十七条第一項の規定の適用を受ける者を除く。)が、同法第百四十八条第一項の規定により、当該事業につき帳簿書類を備え付けてこれにその承認を受けている年分の不動産所得の金額又は事業所得の金額に係る取引を記録している場合(これらの所得の金額に係る一切の取引の内容を詳細に記録している場合として財務省令で定める場合に限る。)(租税特別措置法25条の2第3項)
読みどころが3つあります。1つめは「事業を営むもの」という限定です。不動産所得があっても、それが事業と呼べる規模でなければ3項に入りません。2つめは括弧書きの除外で、現金主義(所得税法67条1項)を選んでいる人は55万円・65万円のどちらも取れません。3つめが「財務省令で定める場合」で、これが世に言う「正規の簿記の原則」の中身です。
その財務省令は租税特別措置法施行規則9条の6第1項で、所得税法施行規則57条から62条まで及び64条の規定に定めるところにより記録し、かつ、作成している場合と書かれています。「複式簿記」という語は条文には出てきません。国税庁のタックスアンサーが「正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)」と括弧付きで書いているのは、条文がそう書いていないからです。
65万円(4項)— 要件は「いずれか」
4項は3項の55万円を65万円に読み替える規定で、要件は次の2つのいずれかです。
- 1号: 電子帳簿保存。財務省令で定める帳簿書類を電子データで備え付け・保存し、それが電子帳簿保存法8条4項の要件(いわゆる優良な電子帳簿)を満たしていること
- 2号: e-Tax。その年分の所得税の確定申告書の提出期限までに、確定申告書に記載すべき事項と、貸借対照表・損益計算書等に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用して送信したこと
1号の「財務省令で定める帳簿書類」は、租税特別措置法施行規則9条の6第2項で仕訳帳および総勘定元帳と特定されています。補助簿まで電子化する必要はありません。ただし同条5項により、電子帳簿保存法施行規則5条1項の適用届出書を提出しなければならないと定められています。要件を満たしていても、届出を出していなければ1号のルートには乗れません。なお、対象として名指しされている総勘定元帳そのものに何を記載するかは措置法の側では定めておらず、所得税法施行規則59条2項(法人は法人税法施行規則55条2項)が「記載の年月日、相手方の勘定科目及び金額」の3つを求めています(総勘定元帳の書き方)。
令和9年分から「55万円」が条文から消える
ここからが本題です。租税特別措置法25条の2を、現行版と令和9年1月1日施行の版の両方で取得して突き合わせると、条文そのものが作り替えられていることが分かります。現行版は1,791字、令和9年1月1日施行版は2,207字で、内容も別物です。
改正法の附則は適用年分をはっきり書いています。
新租税特別措置法第二十五条の二の規定は、令和九年分以後の所得税について適用し、令和八年分以前の所得税については、なお従前の例による。
つまりいま申告している令和8年分までは3段階のままで、変わるのは令和9年分(2027年分・申告は令和10年3月)からです。新しい条文の骨格は次のとおりです。
| 項 | 令和8年分まで(現行) | 令和9年分から |
|---|---|---|
| 1項 | 10万円 | 10万円(同じ) |
| 2項 | 1項の控除順序 | 【新設】前々年の収入1,000万円超で複式簿記でない場合、1項を適用しない |
| 3項 | 55万円 | 1項の控除順序(旧2項が繰り下がったもの) |
| 4項 | 3項の「55万円」を「65万円」に読み替え | 65万円(旧3項の金額そのものが55万円から65万円になった) |
| 5項 | 3項の控除順序 | 【新設】4項の「65万円」を「75万円」に読み替え |
| 6項 | 期限内申告+貸借対照表等の添付を要求 | 4項の控除順序 |
| 7項 | (なし) | 【新設】4項は「e-Taxで送信した場合に限り」適用する |
結果として、金額の段は「10万円・65万円・75万円」の3つになり、55万円は無くなります。そして新7項がいちばん影響の大きい変更です。
第四項の規定は、その年分の所得税の確定申告書の提出期限までに、情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(平成十四年法律第百五十一号)第六条第一項の規定により同項に規定する電子情報処理組織を使用して、財務省令で定めるところにより、当該確定申告書に記載すべき事項……に係る情報を送信した場合に限り、適用する。(令和9年1月1日施行版 25条の2第7項)
現行の4項では、電子帳簿保存とe-Taxはいずれかを満たせばよい選択肢でした。新しい7項では、e-Taxが4項そのものの適用要件になります。複式簿記で記帳し、貸借対照表を作り、期限内に紙で提出する——いまの55万円のルートは、令和9年分には受け皿がありません。4項が適用されないので1項に落ち、控除は10万円になります。
75万円は、4項に乗ったうえでの上積みです。新5項は、仕訳帳・総勘定元帳を電子データで備え付け・保存しているときに、次のいずれかに該当すれば「六十五万円」を「七十五万円」と読み替えられると定めています。
- 1号: その電子データの備付け・保存が、電子帳簿保存法8条4項の財務省令で定める要件(優良な電子帳簿)を満たしている場合
- 2号: 電子取引の取引情報に係る特定電磁的記録の保存が、電子帳簿保存法8条5項の財務省令で定める要件を満たすために必要な措置を講じており、かつ実際にその特定電磁的記録を保存している場合(イ・ロの全て)
国税庁「No.2072 青色申告特別控除」は令和7年4月1日現在法令等として作られており、55万円・65万円・10万円の3段階で書かれています。令和8年分の申告についてはそれで正しく、この記事の前半とも一致します。令和9年分の取扱いが国税庁の手引きやタックスアンサーでどう案内されるかは、この記事の確認範囲外です。ここに書いたのは条文と附則から読める内容です。
令和9年分は控除ゼロがありうる — 1,000万円の線
新設される2項は、これまで存在しなかった型の規定です。全文を引きます。
前項の規定は、同項に規定する個人でその年において不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営むもの(所得税法第六十七条第一項の規定の適用を受ける者を除くものとし、次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める要件を満たすものに限る。)が、第四項に規定する場合に該当しない場合には、適用しない。一その年において不動産所得を生ずべき事業を営む者 その年の前々年分の不動産所得に係る総収入金額が千万円を超えること。二その年において事業所得を生ずべき事業を営む者 その年の前々年分の事業所得に係る総収入金額が千万円を超えること。(令和9年1月1日施行版 25条の2第2項)
10万円控除を定めた1項を適用しないという規定です。適用されない条件は次の2つが重なったときです。
- その年の前々年分の総収入金額が1,000万円を超えること(不動産所得と事業所得は別々に判定する)
- 「第四項に規定する場合に該当しない」こと
2項が参照しているのは「第四項に規定する場合」であって、「第四項の適用を受ける場合」ではありません。4項に規定する場合とは、帳簿書類を備え付けて取引を記録している場合、つまり複式簿記で記帳している状態を指します。したがって、複式簿記で記帳していれば——たとえe-Taxをせず4項の65万円が取れなくても——2項には引っかからず、1項の10万円は残ります。逆に、簡易な記帳しかしていない人で前々年の収入が1,000万円を超えていると、控除はゼロになります。
令和9年分の出口を整理すると、次の4つになります。
| 帳簿 | 申告の出し方 | 前々年の収入 | 控除額 |
|---|---|---|---|
| 複式簿記 | e-Tax+優良な電子帳簿等の要件 | 問わない | 75万円 |
| 複式簿記 | 期限内にe-Tax | 問わない | 65万円 |
| 複式簿記 | 紙で提出 | 問わない | 10万円 |
| 簡易な記帳 | 問わない | 1,000万円以下 | 10万円 |
| 簡易な記帳 | 問わない | 1,000万円超 | 0円 |
なお、現金主義(所得税法67条1項)を選んでいる人は2項の括弧書きで除外されているので、この規定で10万円を失うことはありません。また、2項が対象にしているのは不動産所得と事業所得を生ずべき事業を営む者なので、山林所得だけの人もここには入りません。
青色申告特別控除シミュレーターで、自分の場合の控除額と節税額を計算する控除額は所得を超えない — 赤字は作れない
見落とされやすいのが、控除額の上限です。1項も3項も「次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を控除した金額とする」という書き方で、2号に所得の金額の合計額が置かれています。つまり控除額は所得の金額を超えません。65万円の要件をすべて満たしていても、所得が40万円しかなければ控除は40万円までです。
この制度で赤字を作ることはできない、ということでもあります。青色申告特別控除で所得をマイナスにして、その損失を他の所得と損益通算したり、翌年に繰り越したりすることはできません。
もう1つ、条文からは読み取りにくい点を国税庁が注記しています。合計額とは損益通算前の黒字の所得金額の合計額であり、いずれかの所得に損失が生じている場合には、その損失をないものとして合計額を計算します。
事業所得が40万円の黒字、不動産所得が30万円の赤字だとします。損益通算後の所得は10万円ですが、青色申告特別控除の上限を計算するときは赤字の30万円をないものとして扱うので、合計額は40万円です。したがって控除できるのは40万円までとなり、65万円の要件を満たしていても残りの25万円は使えません。翌年に繰り越すこともできません。
どの所得から引くかは条文で決まっている
複数の所得がある場合、どの所得から控除するかは選べません。2項(令和9年分からは3項)が不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額から順次控除すると定めています。55万円・65万円の側は5項(令和9年分からは6項)で不動産所得の金額又は事業所得の金額から順次です。
順序が固定されていることは、実務では地味に効きます。たとえば不動産所得と事業所得の両方がある人が、事業所得の側を残したいと思っても、先に不動産所得から引かれます。事業所得の金額を基準にする他の制度(事業専従者控除の上限計算など)を考えるときは、控除後の金額がどちらに寄るかを条文どおりに追う必要があります。
期限後申告で10万円に落ちる、条文上の理由
「申告が1日でも遅れると65万円が10万円になる」というのはよく言われますが、条文のどこにそう書いてあるのかは意外と知られていません。現行の6項です。
第三項(第四項の規定により、同項第二号に掲げる要件を満たしている者について適用する場合を除く。)の規定は、確定申告書に第三項の規定の適用を受けようとする旨及び同項の規定による控除を受ける金額の計算に関する事項の記載並びに……貸借対照表、損益計算書その他……明細書の添付があり、かつ、当該確定申告書をその提出期限までに提出した場合に限り、適用する。(租税特別措置法25条の2第6項)
ここで2つのことが同時に読めます。1つは、期限内提出を求めているのは3項(55万円・65万円)に対してだけだということです。1項の10万円には、この6項がかかりません。だから期限に遅れると、3項が適用されなくなって1項の10万円だけが残る——ゼロになるのではなく10万円に「落ちる」のは、この建て付けのためです。
もう1つは、冒頭の括弧書きです。「4項2号の要件を満たしている者について適用する場合を除く」と、e-Taxで出した人を6項から外しています。除いてよい理由は2号の側にあります。2号自体が「その年分の所得税の確定申告書の提出期限までに……送信したこと」を要件にしているので、6項で重ねて期限を求める必要がないのです。どのルートでも期限内であることは変わらず、条文が二重に規制するのを避けているだけという構造です。
令和9年分からは、この整理がさらに単純になります。6項は控除順序の規定に置き換わり、期限の要件は新7項の「提出期限までに……送信した場合に限り適用する」に一本化されます。
住民税にも効く — 地方税法に一言も書かれていない理由
青色申告特別控除は所得税だけの話ではありません。住民税の所得割にもそのまま効きます。ところが地方税法の全文を検索しても「青色申告特別控除」という語は1件も出てきません(同じ検索で「青色申告書」は21件、「生命保険料控除」は12件ヒットするので、検索そのものは機能しています)。
書かれていないのに効く理由は、地方税法313条2項にあります。
前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第二十二条第二項又は第三項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例により算定するものとする。(地方税法313条2項)
住民税の課税標準は、所得税に関する法令の例で計算した所得金額を出発点にします。租税特別措置法25条の2は「所得税に関する法令」ですから、青色申告特別控除を引いたあとの所得金額がそのまま住民税に持ち込まれます。地方税法が自前で規定を置く必要がないわけです。
生命保険料控除は所得控除なので、地方税法が314条の2に自前の規定を持っていて、上限額も所得税とは違います(所得税は3区分合計12万円、住民税は7万円)。一方の青色申告特別控除は所得金額の計算そのものなので、地方税法には出てきようがなく、所得税と同じ額がそのまま住民税に効きます。「地方税法に書いていない=住民税には関係ない」ではありません。どの段階の控除なのかで、住民税での扱いが変わります。
個人事業税の課税標準を定める地方税法72条の49の12第1項も、同じ「計算の例により」という書き方をします。ところが名指しの範囲が違い、こちらは「所得税法第二十六条及び第二十七条…に規定する不動産所得及び事業所得の計算の例により算定する」と、所得税法の2つの条だけを引いています。313条2項の「所得税法その他の所得税に関する法令」という広い言い方ではありません。租税特別措置法25条の2はこの範囲に入らないので、青色申告特別控除は個人事業税では引けません。同じ法律の中の、よく似た2つの条文が、名指しの幅ひとつで反対の結論になります。事業税では代わりに事業主控除290万円(72条の49の14)を引きます。
同じ理由で、国民健康保険料や、自治体が所得に応じて決める負担(保育料など)の算定にも影響します。これらの多くは総所得金額等を基礎にしているためです。ただし料率・算定方法は自治体ごとに異なるので、具体的な金額はお住まいの自治体の基準でご確認ください。
見落としやすい条件
承認申請そのものに期限がある
青色申告特別控除の前提は青色申告の承認です。所得税法144条は、その年分以後の所得税について承認を受けようとする居住者はその年3月15日まで(その年1月16日以後に業務を開始した場合は業務を開始した日から2か月以内)に申請書を提出しなければならないと定めています。控除を受けたい年の3月15日であって、申告する年の3月15日ではありません。
現金主義を選ぶと55万円・65万円は取れない
3項の括弧書きで、所得税法67条1項の適用を受ける者は除かれます。この特例の要件は所得税法施行令195条1号にあり、その年の前々年分の不動産所得の金額と事業所得の金額の合計額が300万円以下であることです。条文はさらに、この300万円は所得税法57条(事業専従者の必要経費の特例)を適用しないで計算した場合の金額とすると書いています。専従者給与を引く前の金額で判定するということです。
社会保険診療報酬の特例を使うと、上限の計算から外れる部分がある
1項2号・3項2号の括弧書きに、租税特別措置法26条1項(社会保険診療報酬の所得計算の特例)の適用がある場合には、社会保険診療につき支払を受けるべき金額に対応する部分の金額を除くとあります。この特例を使っている場合、控除の上限を計算するときの所得の合計額からその部分が抜けるため、上限が小さくなることがあります。
帳簿の不備は承認の取消しにつながる
所得税法150条1項は、帳簿書類の備付け・記録・保存が財務省令で定めるところに従って行われていない場合、税務署長がその年までさかのぼって青色申告の承認を取り消すことができると定めています。取り消されるとその年分以後の青色申告書は青色申告書以外の申告書とみなされるので、特別控除も失われます。
実際にいくら税金が変わるのか
青色申告特別控除は所得金額を減らすので、所得税・復興特別所得税・住民税の3つが同時に軽くなります。所得税の税率は所得税法89条の超過累進(5%・10%・20%・23%・33%・40%・45%)、復興特別所得税は所得税額の2.1%、住民税の所得割は道府県民税4%と市町村民税6%を合わせた標準税率10%です(地方税法35条1項・314条の3第1項。指定都市では道府県民税2%・市町村民税8%で、合計はやはり10%)。
控除後の課税総所得金額が300万円になる人で、控除額ごとに税額がどれだけ変わるかを計算すると次のようになります。
| 控除額 | 所得税の減 | 復興特別所得税の減 | 住民税の減 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 10万円 | 10,000円 | 210円 | 10,000円 | 20,210円 |
| 55万円 | 80,000円 | 1,680円 | 55,000円 | 136,680円 |
| 65万円 | 100,000円 | 2,100円 | 65,000円 | 167,100円 |
| 75万円(令和9年分から) | 120,000円 | 2,520円 | 75,000円 | 197,520円 |
控除を戻すと税率の段(330万円の境目)をまたぐ場合があるため、所得税は段ごとに分けて計算しています。
控除額65万円について、所得水準を変えると次のようになります。
| 控除後の課税総所得金額 | 所得税の減 | 復興特別所得税の減 | 住民税の減 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 150万円 | 42,500円 | 892円 | 65,000円 | 108,392円 |
| 300万円 | 100,000円 | 2,100円 | 65,000円 | 167,100円 |
| 600万円 | 130,000円 | 2,730円 | 65,000円 | 197,730円 |
期限に遅れて55万円が10万円になった場合の差額は、控除後の課税総所得金額300万円の人で116,470円です(所得税70,000円+復興特別所得税1,470円+住民税45,000円)。令和9年分に紙で提出して65万円が10万円になる場合は、同じ条件で146,890円になります。
よくある質問
Q. 青色申告特別控除は令和9年分からどう変わりますか?
A. 租税特別措置法25条の2が令和9年1月1日施行の版で作り替えられ、55万円の区分が条文から消えます。新しい4項が65万円、新しい5項がその65万円を75万円に読み替える規定で、10万円と合わせて3つの金額になります。さらに新しい7項により、65万円の適用には確定申告書の提出期限までにe-Taxで送信することが必要になります。改正法の附則は「令和九年分以後の所得税について適用し、令和八年分以前の所得税については、なお従前の例による」と定めているので、いま申告している令和8年分までは従来どおりの10万円・55万円・65万円です。
Q. 複式簿記で記帳していますが、紙で申告しています。令和9年分はどうなりますか?
A. 条文どおりに読むと、控除は10万円になります。令和9年分からは65万円を定める4項に新7項の条件がかかり、期限内にe-Taxで送信した場合に限り適用されるためです。現行の55万円のように「複式簿記で貸借対照表を添付して紙で期限内に提出する」というルートは、令和9年分の条文には受け皿がありません。ただし複式簿記で記帳している状態は新2項でいう「第四項に規定する場合」に該当するので、10万円控除まで失うことはありません。
Q. 前々年の収入が1,000万円を超えると控除がゼロになると聞きました。本当ですか?
A. 令和9年分から新設される2項によって、そうなる場合があります。条件は2つ重なったときで、前々年分の総収入金額が1,000万円を超えていることと、複式簿記で記帳していないことです。条文は「第四項に規定する場合に該当しない場合には、適用しない」と書いており、ここでいう4項に規定する場合とは帳簿書類を備え付けて取引を記録している状態を指します。したがって複式簿記で記帳していれば、e-Taxをしていなくても10万円控除は残ります。判定は不動産所得と事業所得で別々に行い、現金主義を選んでいる人は括弧書きで除外されています。
Q. 所得が控除額より少ない場合、残りは翌年に繰り越せますか?
A. 繰り越せません。条文は「次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を控除した金額とする」という書き方で、10万円や55万円と並べて所得の金額の合計額を置いています。つまり控除額は所得の金額を超えず、青色申告特別控除で赤字を作ることはできません。使い切れなかった部分を翌年に繰り越す規定も置かれていません。なお上限を計算するときの合計額は損益通算前の黒字の所得金額の合計で、赤字の所得はないものとして計算します。
Q. 65万円控除のために電子帳簿保存を選ぶ場合、すべての帳簿を電子化する必要がありますか?
A. 必要ありません。租税特別措置法施行規則9条の6第2項は、対象となる帳簿書類を仕訳帳および総勘定元帳と特定しています。補助簿まで電子化する必要はありません。ただし同条5項により、電子帳簿保存法施行規則5条1項の適用届出書を提出しなければならないと定められています。要件を満たしていても届出を出していなければこのルートには乗れないので、電子帳簿保存を選ぶ場合は届出の有無を先に確かめることになります。
Q. 申告が期限に遅れると、なぜゼロではなく10万円になるのですか?
A. 期限内提出を求めている6項が、55万円・65万円を定めた3項にだけかかっていて、10万円を定めた1項にはかかっていないためです。期限に遅れると3項が適用されなくなり、1項だけが残るので控除は10万円になります。なお6項の冒頭には「4項2号の要件を満たしている者について適用する場合を除く」という括弧書きがありますが、これはe-Taxの要件を定めた2号自体が提出期限までの送信を求めているため、6項で重ねて期限を要求する必要がないという趣旨です。どのルートでも期限内であることは必要です。
Q. 青色申告特別控除は住民税にも効きますか?
A. 効きます。しかも所得税と同じ額です。地方税法の条文には「青色申告特別控除」という語が一度も出てきませんが、313条2項が総所得金額等を「所得税法その他の所得税に関する法令の規定による計算の例により算定する」と定めているためです。租税特別措置法25条の2は所得税に関する法令なので、控除後の所得金額がそのまま住民税の課税標準の計算に持ち込まれます。生命保険料控除のような所得控除は地方税法が自前で規定を持ち上限額も所得税と異なりますが、青色申告特別控除は所得金額の計算そのものなので扱いが違います。
Q. 不動産所得しかない場合でも65万円の控除を受けられますか?
A. 条文上、55万円・65万円の規定は「不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営むもの」を対象にしているので、不動産所得だけでも要件を満たせば対象になります。ただし「事業」であることが求められており、事業と呼べる規模に至らない不動産の貸付けは3項に入りません。その場合は1項の10万円になります。なお山林所得は1項にしか出てこないため、山林所得について55万円や65万円の控除を受けることはできません。
Q. 青色申告の承認申請はいつまでに出せばよいですか?
A. 所得税法144条は、その年分以後の所得税について承認を受けようとする場合、その年の3月15日までに申請書を提出しなければならないと定めています。その年1月16日以後に新たに業務を開始した場合は、業務を開始した日から2か月以内です。控除を受けたい年の3月15日であって、申告書を出す年の3月15日ではない点に注意が要ります。たとえば令和9年分から適用を受けたいのであれば、令和9年3月15日までに申請することになります。
出典
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」(昭和32年法律第26号)第25条の2(現行版=令和8年8月12日施行、および令和9年1月1日施行版の両方を条単位で取得して比較)、第26条第1項
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」附則(令和8年法律第12号による改正)「新租税特別措置法第二十五条の二の規定は、令和九年分以後の所得税について適用し、令和八年分以前の所得税については、なお従前の例による」
- e-Gov法令検索「租税特別措置法施行規則」(昭和32年大蔵省令第15号)第9条の6第1項・第2項・第5項・第6項・第7項
- e-Gov法令検索「所得税法」(昭和40年法律第33号)第67条第1項、第89条第1項、第144条、第148条、第150条第1項
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」(昭和40年政令第96号)第195条第1号
- e-Gov法令検索「地方税法」(昭和25年法律第226号)第35条第1項、第313条第2項、第314条の3第1項(全文を検索し「青色申告特別控除」の語が存在しないことを確認)
- 国税庁「No.2072 青色申告特別控除」(令和7年4月1日現在法令等)
本記事の確認範囲は、租税特別措置法25条の2の現行版と令和9年1月1日施行版の条文、その適用年分を定める附則、および同条が参照する租税特別措置法施行規則9条の6・所得税法67条/89条/144条/148条/150条・所得税法施行令195条・地方税法35条/313条/314条の3です。令和9年分の改正について国税庁が公表する手引き・タックスアンサー・様式の案内内容、電子帳簿保存法8条4項および8条5項の財務省令が定める個々の要件の詳細、正規の簿記の原則の具体的な記帳方法(所得税法施行規則57条から62条まで及び64条の内容)、不動産の貸付けが事業と呼べる規模に当たるかどうかの判定基準、および令和9年分の75万円の区分について電子取引データの保存要件を定める財務省令の内容は確認していません。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。ご自身の帳簿が正規の簿記の原則を満たしているか、どの控除額の要件に当たるかの判断や、令和9年分に向けた記帳方法・申告方法の変更については、顧問の税理士または所轄の税務署へご確認ください。