青色申告特別控除は、青色申告をしている個人事業主・フリーランス・不動産オーナーの所得から、最大65万円を差し引ける制度です(租税特別措置法25条の2)。他の控除と違い所得控除ではなく「所得金額の計算上の控除」なので、住民税にも同額が効きます。上の計算機で、あなたがどの区分になるかと節税額が出せます。以下では、65万円・55万円・10万円の分かれ目、所得が少ないときの限度、そして令和9年分からの大きな改正まで、条文と国税庁の資料にもとづいて解説します(一般的な計算方法の説明であり、個別の税務相談ではありません)。
使い方と注意点
このツールの前提
- 控除額:租税特別措置法25条の2の要件で判定します。
- 所得税:国税庁の所得税の速算表で計算します。控除で税率の段をまたぐ場合も、速算表の差をとって超過累進を正しく反映します。課税所得から税額を確認するには、所得税の計算機を使えます。
- 復興特別所得税:所得税額の2.1%の減少も含めています。
- 住民税:所得割を一律10%として概算します。住民税側でも控除が全額効く場合の額です。非課税や課税所得不足の場合の実際の軽減額は別途確認してください。
- 国民健康保険料:下がる場合がありますが、保険料率が市区町村ごとに違うため計算に含めていません。所得割が既にゼロの場合や、控除後も賦課限度額に達する場合などは下がりません。実際の手取りへの効果は、ここで出る金額より大きくなる場合があります。
3つの区分と要件 — 65万円・55万円・10万円
青色申告特別控除には3つの区分があり、要件を満たす一番大きいものが適用されます。
| 控除額 | 要件 | 対象になる所得 |
|---|---|---|
| 65万円 | 55万円の全要件+期限内のe-Tax送信、または優良な電子帳簿の備付け・保存と届出 | 不動産所得・事業所得 |
| 55万円 | 事業として営む+複式簿記で記帳+貸借対照表等を添付して期限内(翌年3月15日)に申告 | 不動産所得・事業所得 |
| 10万円 | 上の要件を満たさない青色申告者(単式簿記でも可) | 不動産所得・事業所得・山林所得 |
表の要件の細かい点は次のとおりです。
- 決算書等:貸借対照表・損益計算書・所得金額の計算明細書を添付し、申告書に控除額を記載します。
- 期限:通常は翌年3月15日です。土日・祝日等なら翌開庁日です。
- 65万円のe-Tax:申告書と貸借対照表・損益計算書等を、期限内に送信します。
- 65万円の電子帳簿:その年分の仕訳帳・総勘定元帳を優良な電子帳簿で備付け・保存し、期限内に届け出ます。従前から要件を満たす継続適用者は届出不要です。
図の前提:青色申告の承認があり、現金主義の特例を適用しないこと。(注)の決算書等・e-Tax・電子帳簿の要件は、表の下の箇条書きのとおりです。
例外・少数のケース
- 山林所得は10万円の区分だけ:55万円・65万円は措置法25条の2第3項の控除で、対象が「不動産所得の金額又は事業所得の金額」に限られます。10万円は同条第1項の控除で、山林所得が明記されています。山林所得しかない人は、複式簿記で記帳しても10万円までです。
- 不動産貸付けが「事業」か:社会通念上の規模で実質的に判定します。独立家屋おおむね5棟以上、アパート等おおむね10室以上は事業扱いの目安で、未達でも直ちに対象外とはなりません。事業所得を生ずべき事業を併営する場合も含め、55万円・65万円の他の要件と合わせて確認します。
- 現金主義の特例の適用者は10万円:55万円・65万円の対象外です。特例は、前々年分の事業所得・不動産所得の合計が300万円以下の人が対象で、青色事業専従者給与等の特例を適用せずに計算します。届出のほか、過去に適用をやめた人の再適用には税務署長の承認も必要です。
節税額の例
課税される所得金額が500万円(所得税率20%)の個人事業主の場合です。
| 区分 | 所得税の減少 | 復興特別所得税 | 住民税の減少 | 年間の節税額 |
|---|---|---|---|---|
| 65万円の控除 | 130,000円 | 2,730円 | 65,000円 | 197,730円 |
| 55万円の控除 | 110,000円 | 2,310円 | 55,000円 | 167,310円 |
| 10万円の控除 | 20,000円 | 420円 | 10,000円 | 30,420円 |
控除額は「所得の額」が限度 — 赤字は相殺しない
青色申告特別控除は、所得の額を超えては引けません。所得が30万円しかない人が65万円を引いて所得をマイナス65万円にする、ということはできず、控除は30万円までになります(措置法25条の2第1項2号・第3項2号)。引ききれなかった分は切り捨てで、翌年に繰り越すこともできません。
引く順番も決まっている
控除は不動産所得 → 事業所得(10万円の区分ではさらに → 山林所得)の順に引きます(同条第2項・第5項)。どの所得から引くかで最終的な税額が変わることは通常ありませんが、不動産所得だけを他の計算に使う場面では順番が効いてきます。
住民税にも同額が効く — 所得控除との違い
青色申告特別控除は、生命保険料控除や扶養控除のような所得控除ではありません。「不動産所得の金額・事業所得の金額をいくらとして計算するか」を決める規定で、所得そのものを小さくします。この違いが住民税に効きます。
そのため65万円の控除は、控除の前後で所得税率が20%のままの人なら、おおよそ 65万円 ×(20%+復興特別所得税0.42%+住民税10%)=約19.8万円 の節税になります。復興特別所得税は所得税額の2.1%なので、税率20%の人では0.42%です。国民健康保険料への効果はこのツールの前提にまとめました。
令和9年分からの改正 — 55万円が無くなり75万円ができる
令和8年度の税制改正(令和8年3月31日法律第12号)で、青色申告特別控除は大きく組み替えられます。ただし適用は令和9年分からです。同法附則33条が「新租税特別措置法第25条の2の規定は、令和9年分以後の所得税について適用し、令和8年分以前の所得税については、なお従前の例による」と定めています。
| 年分 | 控除額の区分 | おもな要件の変化 |
|---|---|---|
| 令和8年分まで (このツールの計算) | 65万円/55万円/10万円 | 65万円は e-Tax または優良な電子帳簿 |
| 令和9年分から | 75万円/65万円/10万円 (55万円は廃止) | 65万円が標準になりe-Tax が必須。75万円は65万円への上乗せ。前々年の総収入金額が1,000万円超の事業者は10万円も対象外になりうる(下の箇条書き) |
- いつの分から:令和9年分は2027年の所得で、2028年に申告する分です。令和8年分(2026年の所得)は65万円・55万円・10万円の区分です。
- 65万円:令和9年分から、65万円・75万円には期限内のe-Tax送信が必要になります。
- 75万円:65万円に上乗せする区分で、優良な電子帳簿かデジタルシームレスのどちらかを満たした場合です。根拠は新5項1号・2号で、デジタルシームレスは電子帳簿保存法8条5項の「特定電磁的記録」の保存を指します。
- 1,000万円超の事業者:前々年の事業所得と不動産所得の総収入金額を合算せず各別に判定し、1,000万円を超える対象事業者は、65万円の要件を満たさなければ10万円も受けられません。現金主義の特例適用者はこの10万円排除の対象外です。
よくある質問
青色申告特別控除65万円は、いくら得になりますか?
課税される所得金額が500万円(所得税率20%)の人で年197,730円、青色申告特別控除前の課税所得300万円(税率10%)の人なら年131,365円(約13.1万円)が目安です。控除額そのものが戻るのではなく、控除前後の税額の差です。控除の前後で所得税率が変わらなければ、所得税率×1.021に住民税10%を足した率で効きます。税率区分をまたぐ場合は、65万円に一つの税率を掛けるだけでは計算できません(令和8年分)。
白色申告から青色申告に変えるには、いつまでに何をすればいいですか?
適用を受けたい年の3月15日までに、青色申告承認申請書を出します。土日・祝日等なら翌開庁日で、令和8年は3月16日です。その年の1月16日以後に開業した場合は、開業の日から2か月以内です。手数料はかからず、e-Taxでも出せます。
複式簿記ができません。10万円しか受けられませんか?
手で複式簿記を書く必要はなく、市販の会計ソフトに日々の取引を入力すれば、貸借対照表と損益計算書は自動で作られます。国税庁は正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)による記帳を求めています。55万円・65万円には、その帳簿に基づく貸借対照表・損益計算書等の作成・添付、控除額の記載と期限内申告も必要です。会計ソフトの年間費用は1万円台からで、55万円と10万円の差(課税所得500万円なら年約13.7万円)を大きく下回ります。
期限に1日でも遅れると65万円は受けられませんか?
受けられず、10万円に下がります。措置法25条の2第6項が、55万円・65万円の控除は確定申告書を「その提出期限までに提出した場合に限り」適用すると定めているためです。e-Taxで65万円を受ける場合も、4項2号が「確定申告書の提出期限までに」送信することを要件にしています。還付申告でも法定申告期限内の提出が必要です。通常は翌年3月15日ですが、土日・祝日等なら翌開庁日に繰り下がります。
事業所得が赤字です。青色申告特別控除は使えますか?
その所得からは引けませんが、他に黒字の不動産所得があれば、そちらから引けます。限度の「合計額」は損益通算前の黒字だけの合計で、赤字は無いものとして計算するためです(例: 事業所得▲200万円・不動産所得+300万円なら限度は300万円)。純損失の繰越控除は、損益通算後も控除しきれない純損失が対象で、継続申告等の要件を満たせば3年間繰り越せます。この例では通算後に赤字は残らず、事業の赤字200万円を別に繰り越すことはできません。
令和9年分から75万円になると聞きました。今年から使えますか?
使えません。75万円が使えるのは令和9年分(2027年の所得・2028年春の申告)からです。令和8年3月31日法律第12号の附則33条が、改正後の措置法25条の2は令和9年分以後の所得税について適用し、令和8年分以前は従前の例によると定めています。いま準備している令和8年分は65万円・55万円・10万円のままです。
出典
- 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)— e-Gov法令検索(令和8年12月1日施行版で逐語確認)
- 令和8年3月31日法律第12号 附則33条(青色申告特別控除に関する経過措置。新25条の2は令和9年分以後に適用)— e-Gov法令検索
- 国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除 — nta.go.jp
- 地方税法32条2項(住民税の総所得金額は所得税に関する法令の計算の例による)— e-Gov法令検索
- 国税庁 タックスアンサー No.2260 所得税の税率(速算表)— nta.go.jp
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