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個人事業税とは — 70業種のうち13は法律に書かれていない・290万円の控除を条文で

結論から言うと、個人事業税は「儲かっているか」ではなく「その業種が地方税法72条の2の一覧に載っているか」で決まる税です。載っていれば所得から事業主控除290万円を引いた残りに3〜5%、載っていなければ何億稼いでも1円もかかりません。納めるのは国ではなく都道府県で、納期は8月と11月の2回です。

この一覧は俗に「70業種」と呼ばれます。ところが、条文を数えても70にはなりません。地方税法が名指ししているのは第一種31・第二種2・第三種24の合計57業種で、残る13業種は地方税法施行令——10条の7・12条・14条——が足しています。「広告業」「不動産売買業」「測量士業」「印刷製版業」といった、実際に引っかかりやすい業種ほど法律の側には書かれていません。

もう1つ、実務で必ず事故になるのが計算の出発点です。個人事業税の所得は所得税法26条・27条の「計算の例により」算定されるので、青色申告特別控除は引けません。65万円を引いた後の数字で計算して「290万円以下だから0円」と思い込むと、8月に納税通知書が届きます。

この記事は、①誰にかかるか、②70という数字の内訳、③税率、④所得税と食い違う4か所、⑤不動産貸付業・駐車場業の認定基準、⑥申告と納期、⑦かからない収入と業種、⑧なぜ経費になるか、の順に条文を引用しながら整理します。青色申告特別控除そのものは青色申告特別控除とは、法人成りとの比較は法人成りの判断、家事按分は家事按分とはに譲ります。

誰にかかるか — 儲けの大きさではなく、業種の名前で決まる

根拠は地方税法72条の2第3項です。この1文が、個人事業税の対象を3つの区分に限っています。

個人の行う事業に対する事業税は、個人の行う第一種事業、第二種事業及び第三種事業に対し、所得を課税標準として事務所又は事業所所在の道府県において、その個人に課する。

ここで大事なのは「第一種事業、第二種事業及び第三種事業に対し」という限定です。法人の事業税(同条1項)が業種を問わず課されるのと違い、個人だけは列挙されたものに限るという作りになっています。列挙は同条8項(第一種)・9項(第二種)・10項(第三種)にあります。

区分性格代表例標準税率
第一種事業商業・工業・サービス業物品販売業・製造業・請負業・不動産貸付業・駐車場業・飲食店業・印刷業・広告業5%
第二種事業畜産業・水産業・薪炭製造業畜産業(農業に付随するものを除く)・水産業・薪炭製造業4%
第三種事業自由業・士業・医療医業・弁護士業・税理士業・社会保険労務士業・コンサルタント業・デザイン業・理容業・美容業5%(一部3%)
不動産所得も対象になる「事業所得だけの話」と読まないでください。不動産貸付業・駐車場業は第一種事業の4号・13号に挙がっており、72条の49の12第5項は、不動産所得を生ずべき事業と事業所得を生ずべき事業を併せて行っているときは、両者の所得または損失を合算・通算して算定すると定めています。

第二種事業だけは条件が1つ多く、9項の柱書が「政令で定める主として自家労力を用いて行うもの以外のもの」としています。この「主として自家労力」は施行令11条が、本人または同居の親族の労力で行った日数の合計が、その年の延労働日数の2分の1を超えるものと定義しています。家族だけで回している畜産業・水産業は、そもそも第二種事業に当たりません。

「70業種」は条文を数えても出てこない — 法57+政令13

東京都主税局のページは「現在、法定業種は70の業種があり、ほとんどの事業が該当します」と書いています。この70という数字はどこから来るのか。地方税法72条の2を機械で数えると、こうなります。

区分条文の号数差し引くもの法が名指しする業種政令が足す業種合計
第一種事業(8項)32号
枝番号「一の二 保険業」を含む
31号(受け皿)316(施行令10条の7)37
第二種事業(9項)3号3号(受け皿)21(施行令12条)3
第三種事業(10項)26号
枝番号5つを含む
4号(削除)
21号(受け皿)
246(施行令14条)30
合計571370
地方税法が名指し(57) 施行令が足す(13) 第一種事業 31 6 = 37 第二種事業 2 + 1 = 3 第三種事業 24 6 = 30 合計 57(法) + 13(政令) = 70業種 ※ 第三種の第4号は「削除」で欠番。26号あっても24業種にしかならない。
70業種の内訳。法律だけを読んでも57にしかならず、残りの13は政令にある。

差し引いた「受け皿」というのは、各区分の末尾に置かれた「前各号に掲げる事業に類する事業で政令で定めるもの」という号のことです。これ自体は業種名ではなく、政令に委任するための入れ物です。第二種事業について政令が受けた1文を引きます。

法第七十二条の二第九項第三号に規定する事業で政令で定めるものは、薪炭製造業とする。

そして第三種事業の第4号は「削除」です。号が26あっても、実際に業種を名指ししているのは24しかありません。目で「一、二、三…」と数えると必ず外します。第一種には「一の二 保険業」という枝番号が1つ、第三種には「十五の二 社会保険労務士業」「十五の三 コンサルタント業」「十六の二 不動産鑑定業」「十六の三 デザイン業」「十八の二 美容業」という枝番号が5つ入っています。号を後から挿し込むとき既存の番号を動かさないのが立法の作法なので、後から実務上重要になった業種ほど枝番号を持ちます

政令だけに書かれている13業種

根拠受ける号業種
施行令10条の772条の2第8項31号商品取引業/不動産売買業/広告業/興信所業/案内業/冠婚葬祭業
施行令12条72条の2第9項3号薪炭製造業
施行令14条72条の2第10項21号歯科衛生士業/歯科技工士業/測量士業/土地家屋調査士業/海事代理士業/印刷製版業
ここが実務で効く「うちの業種は地方税法に書いてないから対象外だ」という読み方は成り立ちません。広告業も不動産売買業も測量士業も、法律を検索しても出てこないのに課税対象です。逆に、林業・鉱物の掘採事業・農業(畜産業に付随しないもの)は法にも政令にも無いので、どれだけ規模が大きくても個人事業税はかかりません。

「コンサルタント業」と「デザイン業」だけは政令に定義がある

第三種事業の中で範囲が争いになりやすい2つには、施行令15条の2が定義を置いています。

法第七十二条の二第十項第十五号の三に掲げる事業は、継続して、他人の依頼に応じ、対価の取得を目的として、企業経営、科学技術その他専門的な知識又は能力を必要とする事項につき、調査又は研究を行い、これらの調査又は研究に基づく診断又は指導を行う事業とする。

要件は①継続して ②他人の依頼に応じ ③対価の取得を目的として ④専門的な知識・能力を要する事項について ⑤調査または研究を行い ⑥それに基づく診断または指導を行うの6つです。デザイン業は同条2項が「デザイン(物品のデザイン、装飾に係るデザイン又は庭園若しくはこれに類するものに係るデザインをいう。)の考案及び図上における設計又は表現を行う事業」と定義しています。ここに「ウェブ」「システム」の語はありません。エンジニアやライターが第一種の請負業なのか第三種のコンサルタント業なのかは、この定義に当てはまるかで判断されるため、都道府県によって扱いが割れやすい領域です。判断が分かれるときは所在地の県税事務所に事前に照会するのが安全です。

税率は5%・4%・5%。ただし2つの業種だけ3%

地方税法72条の49の17第1項が標準税率を定めています。

個人の行う事業に対する事業税の額は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める金額とする。
対象標準税率
1号第一種事業5%
2号第二種事業4%
3号第三種事業(4号を除く)5%
4号第三種事業のうち72条の2第10項5号・7号の事業
あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業/装蹄師業
3%

3%になるのはこの2つだけです。同じ第三種でも医業・歯科医業は5%、あん摩・はり・きゅう・柔道整復は3%と分かれます。なお第10項5号の括弧書きは、両眼の視力を喪失した者などが行うものを対象から除いています。施行令13条がこの「政令で定める視力障害のある者」を、万国式試視力表で測った両眼の視力が0.06以下の者と定めています。

「標準税率」であって上限ではない72条の49の17第3項は、標準税率を超える税率で課す場合でも各号の率に1.1を乗じた率を超えることはできないと定めています。つまり第一種なら5.5%が法定の上限です。現在この超過課税を行っている都道府県はありませんが、条文上は可能です。

2つ以上の区分の事業を併せて行っている場合は、同条2項により、それぞれの事業につき計算した所得金額で按分して税率を適用します。「主たる事業の税率を全体に使う」わけではありません。

計算が所得税の事業所得と食い違う4か所

出発点は地方税法72条の49の12第1項で、事業税の所得は所得税法26条(不動産所得)・27条(事業所得)の「計算の例により」算定します。しかし「例による」だけなので、所得税法の外にある特例は付いてきません。実務で効く食い違いは4つです。

#所得税(事業所得)個人事業税根拠
1青色申告特別控除 65万/55万/10万を引く引けない控除の根拠が租税特別措置法25条の2で、所得税法26条・27条の外
2そうした控除は無い事業主控除290万円を引く72条の49の14第1項
3事業用資産の譲渡損は譲渡所得の話で、事業所得からは引けない譲渡損失を事業の所得から引ける72条の49の12第13項
4純損失の繰越は3年(青色)/変動所得等に限り白色も可3年繰越は青色承認を受けている者に限る72条の49の12第6項

2の事業主控除は、条文としてはこれだけの短い規定です。

事業を行う個人については、当該個人の事業の所得の計算上二百九十万円を控除する。

ただし通年で事業を行っていない年は月割りになります。

前項の場合において、事業を行つた期間が一年に満たないときは、同項に規定する控除額は、二百九十万円に当該年において事業を行つた月数を乗じて得た額を十二で除して算定した金額とする。

第3項により月数は暦に従って計算し、1月に満たない端数は1月に切り上げます。開業・廃業の年はここで控除額が減るので、290万円で判定して「かからない」と即断できません。

控除の順序も条文が決めている

損失の繰越・譲渡損失・事業主控除は、引く順番まで法定されています。

第六項、第七項、第十三項、前項及び第七十二条の四十九の十四第一項の控除は、まず第六項の控除又は第七項の控除をし、次に第十三項の控除、前項の控除及び同条第一項の控除の順序に控除をするものとする。

つまり①損失の繰越 → ②譲渡損失 → ③事業主控除290万円の順です。事業主控除が最後なので、繰越損失で所得が290万円未満まで下がった年は、控除枠の残りが翌年に繰り越されることはありません。

設例 — 青色65万円を引く前か、後か

Webデザイン業(第三種事業・5%)を営む個人で、令和7年分の数字が次のとおりだったとします。

項目金額
売上(総収入金額)9,800,000円
必要経費△6,100,000円
青色申告特別控除前の所得3,700,000円
青色申告特別控除△650,000円
確定申告書に載る事業所得3,050,000円

ここで「3,050,000円 − 2,900,000円 = 150,000円、その5%で7,500円か」と計算すると誤りです。事業税の出発点は青色申告特別控除を引くの3,700,000円です。

青色申告特別控除前の所得 3,700,000円 所得税ルート 事業所得 3,050,000円 青色65万 個人事業税ルート 800,000 事業主控除 2,900,000円 課税標準 800,000円 × 5% = 40,000円(100円未満切捨て後)
同じ年の同じ事業でも、所得税と個人事業税では出発点の金額が違う。

正しくは 3,700,000円 − 2,900,000円 = 800,000円 が課税標準、800,000円 × 5% = 40,000円が税額です。青色65万円を引いた後で計算した7,500円との差は32,500円。控除を引く順序を1つ間違えるだけで5倍以上ずれます

青色申告特別控除がいくらになるか試算する

不動産貸付業と駐車場業は「規模」で決まる — 条文ではなく認定基準

不動産貸付業(72条の2第8項4号)と駐車場業(同13号)は第一種事業ですが、「何室から事業なのか」は地方税法にも施行令にも書かれていません。実務では各都道府県が公表している認定基準で判断します。東京都主税局が公表しているものは次のとおりです。

種類・用途認定基準(空室などを含む)
建物・住宅・一戸建棟数が10以上
建物・住宅・一戸建以外(アパート等)室数が10以上
建物・住宅以外・独立家屋棟数が5以上
建物・住宅以外・独立家屋以外室数が10以上
土地・住宅用契約件数が10以上、または貸付総面積が2,000平方メートル以上
土地・住宅用以外契約件数が10以上
複数種を保有上記の総合計が10以上、またはいずれかの基準を満たす場合
基準未満でも認定される場合貸付用建物の総床面積が600平方メートル以上、かつ賃貸料収入が年1,000万円以上(権利金・名義書換料・更新料・礼金・共益費・管理費等は除く)
駐車場・寄託を受けて保管行為を行うもの駐車可能台数が1台以上(台数を問わない)
駐車場・建築物である駐車場、機械式等駐車可能台数が1台以上(台数を問わない)
駐車場・上記以外駐車可能台数が10台以上
「10台未満なら大丈夫」は駐車場の形による青空の月極駐車場なら10台以上が基準ですが、鍵を預かって保管する形(寄託)にすると1台でも駐車場業です。建築物である駐車場・機械式駐車場も同じく台数を問いません。同じ土地でも、運営の形を変えた瞬間に課税関係が変わります。

もう1つ見落としやすいのが共有物件です。東京都の基準は、共有物件は持分にかかわらず物件全体の貸付状況で認定し、税額は持分に応じて計算するとしています。兄弟3人で共有する10室のアパートは、1人あたり3.3室ではなく10室として判定され、そのうえで税額を3分の1ずつ負担する形になります。信託物件も貸付件数に含まれます。

また、独立的に区画された2以上の室を有する建物は、一棟貸しでも室数で認定されます。土地は1つの契約で2画地以上を貸していれば、それぞれ1件と数えます。

認定基準は都道府県ごとに定められており、東京都のものがそのまま他県に当てはまるとは限りません。事業所の所在地を管轄する県税事務所が公表している基準を確認してください。

いつ申告して、いつ納めるか — 3月15日・8月・11月

申告義務を定めているのは72条の55第1項です。義務があるのは、事業の所得が事業主控除額を超える人に限られます。

個人の行う事業に対する事業税の納税義務者で、第七十二条の四十九の十二第一項の規定により計算した個人の事業の所得の金額が第七十二条の四十九の十四第一項の規定による控除額を超えるものは、

期限は3月15日。年の中途で事業を廃止した場合は廃止の日から1か月以内(納税義務者の死亡による廃止なら4か月以内)です。

ただし、実際にこの申告書を出している個人事業主はほとんどいません。72条の55の2第1項が、確定申告を出せば事業税の申告をしたものとみなすと定めているからです。

個人の行なう事業に対する事業税の納税義務者が前年分の所得税につき所得税法第二条第一項第三十七号の確定申告書を提出し、又は道府県民税につき第四十五条の二第一項の申告書を提出した場合(政令で定める場合を除く。)には、本節の規定の適用については、当該申告書が提出された日に前条第一項から第三項までの規定による申告がされたものとみなす。ただし、同日前に当該申告がされた場合は、この限りでない。

同条3項が、その申告書に「事業税の賦課徴収につき必要な事項を附記しなければならない」としています。これが確定申告書第二表の「事業税に関する事項」欄です。非課税所得や損益通算の対象となる不動産所得の赤字などをここに書きます。空欄でも受理されますが、書かないと都道府県が正しく計算できません。

送り仮名まで違う72条の55の2は「個人の行なう事業」と書きます。同じ節の72条の2や72条の55は「行う」です。昭和期の追加条文がそのまま残っている箇所で、条文検索で「行う事業に対する事業税」を探すとこの条だけ漏れます。

申告と課税は別で、個人事業税は賦課課税です。72条の50第1項が、都道府県知事は税務署に申告された不動産所得・事業所得の課税標準を基準として事業税を課すと定めています。こちらから税額を計算して納める必要はなく、都道府県から納税通知書が届きます。納期はこの1文です。

個人の行う事業に対する事業税の納期は、八月及び十一月中において当該道府県の条例で定める。但し、特別の事情がある場合においては、これと異なる納期を定めることができる。

原則8月と11月の2回払い。ただし2項により、税額が条例で定める金額以下なら1回にまとめて徴収できます。東京都をはじめ多くの団体が、少額の場合は8月に全額としています。年の中途で廃業した場合は3項により、廃業後(1月1日から3月31日までの廃業なら3月31日後)直ちに課されます。

8月に届く納税通知書は、前年の所得に対するものです。前年に大きく稼いで今年減った場合でも、8月・11月には前年ベースの税額を納めます。廃業した翌年にも通知書が来るのは、この仕組みによります。

かからない収入と、かからない業種

社会保険診療は、収入も経費もまるごと外す

72条の49の12第1項のただし書が、医療系の第三種事業について特例を置いています。

第七十二条の二第十項第一号から第五号までに掲げる事業を行う個人が社会保険診療(第七十二条の二十三第三項に規定する社会保険診療をいう。以下この項において同じ。)につき支払を受けた金額は、総収入金額に算入せず、また、当該社会保険診療に係る経費は、必要な経費に算入しない。

収入だけを外すのではなく対応する経費も外す点が要です。自由診療の割合が低いクリニックでは、事業税の課税標準がほぼゼロになることがあります。

対象は1号から5号までここで名指しされているのは72条の2第10項の1号(医業)・2号(歯科医業)・3号(薬剤師業)・4号(削除)・5号(あん摩、マツサージ又は指圧、はり、きゆう、柔道整復その他の医業に類する事業)です。6号の獣医業は入っていません。「医療系だから非課税」と一般化しないでください。

そもそも70業種に入っていない事業

法にも政令にも名前が無ければ、個人事業税はかかりません。代表的なものを挙げます。

業種扱い
林業70業種に無い。個人事業税はかからない
鉱物の掘採事業70業種に無い(地方税法の鉱産税の対象)。第一種事業7号の「土石採取業」とは別
農業(畜産業に付随して行うものを除く)第二種事業1号が「畜産業(農業に付随して行うものを除く。)」と書き、受け皿である9項3号も括弧書きで「農業を除く。」と明示しているため対象外
主として自家労力で行う畜産業・水産業9項柱書と施行令11条により第二種事業に当たらない
文筆業・画家・作曲家など70業種に該当するかを個別に判断する。都道府県により扱いが分かれる

加えて、両眼の視力を喪失した者などが行うあん摩・はり・きゅう等(10項5号の括弧書き)も対象から除かれます。施行令13条により、万国式試視力表で測った両眼の視力(屈折異常がある場合は矯正視力)が0.06以下の者が該当します。

個人事業税が経費になる理由は、45条に名前が無いこと

納めた個人事業税は租税公課として必要経費になります。ただしその根拠は、「事業税は経費になる」と書いた条文ではありません。経費にならないものを列挙した所得税法45条1項に、事業税が1回も出てこないことです。

同項の4号はこう書いています。

地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の規定による道府県民税及び市町村民税(都民税及び特別区民税を含む。)

名指しされているのは道府県民税と市町村民税だけで、同じ地方税法の中の事業税はここにありません。45条1項は16の号(枝番号「三の二 森林環境税」を含む)を挙げていますが、そのどこにも「事業税」の語は現れません。

税目必要経費根拠
所得税×所得税法45条1項2号
住民税(道府県民税・市町村民税)×同項4号
個人事業税45条1項の列挙に無い
固定資産税・自動車税(事業用)同上(列挙に無い)
延滞税・加算税、地方税の延滞金・加算金×同項3号・5号
印紙税法による過怠税×同項3号

計上する年は、原則として賦課決定のあった年(納税通知書が届いた年)です。8月に通知書が届く以上、令和7年分の所得に対する事業税が経費になるのは令和8年分ということになります。実際に納付した年に計上する扱いも継続適用を条件に認められており、いずれにしても1年遅れて経費になるのがこの税の特徴です。廃業年については、廃業後に課される事業税を廃業年分の必要経費に算入する取扱いがあります(所得税法63条の事業廃止後の必要経費)。

順番の罠事業税が経費になるということは、翌年の事業所得が事業税の分だけ小さくなり、翌々年の事業税もその分小さくなるということです。所得が横ばいでも、初年度・2年目・3年目で税額がわずかに動きます。「去年と同じはずなのに額が違う」という問い合わせの多くはこれです。

よくある質問

Q. 個人事業税は誰にかかりますか?

A. 地方税法72条の2が挙げる第一種事業・第二種事業・第三種事業(法定業種)を行う個人にかかります。業種で決まるので、儲かっていても法定業種に入らなければかかりません。代表例が林業・鉱物の掘採事業・農業(畜産業に付随しないもの)で、これらは70業種のどこにも入っていないため個人事業税は課されません。逆に法定業種に当たれば、事業所得だけでなく不動産所得も対象です(72条の49の12第5項が両者を合算・通算すると定めています)。なお所得が事業主控除290万円以下なら税額は0円になります。

Q. 「70業種」は条文のどこに書いてありますか?

A. 1か所には書かれていません。地方税法72条の2の第8項が第一種事業を32号、第9項が第二種事業を3号、第10項が第三種事業を26号挙げますが、このうち各区分の末尾の号は「前各号に掲げる事業に類する事業で政令で定めるもの」という受け皿で、第三種の第4号は「削除」で欠番です。実際に法が名指ししている業種は31+2+24=57にとどまります。残る13は地方税法施行令10条の7が6業種、12条が1業種、14条が6業種を足したもので、合計してはじめて70になります。東京都主税局のページも「法定業種は70の業種があり」と書いていますが、その内訳を法と政令に分けた説明は載っていません。

Q. 青色申告特別控除は個人事業税でも引けますか?

A. 引けません。地方税法72条の49の12第1項は、事業税の所得を「所得税法第二十六条及び第二十七条…に規定する不動産所得及び事業所得の計算の例により算定する」と定めています。青色申告特別控除の根拠は所得税法ではなく租税特別措置法25条の2なので、この「例による」対象に入っていないという構造です。したがって65万円(または55万円・10万円)を引く前の金額が事業税の出発点になります。代わりに事業税だけの控除として事業主控除290万円があります。

Q. 事業主控除の290万円は、開業した年でも満額引けますか?

A. 引けません。地方税法72条の49の14第2項が、事業を行った期間が1年に満たないときは290万円に事業を行った月数を掛けて12で割ると定めています。第3項により月数は暦に従って計算し、1月に満たない端数は1月に切り上げます。たとえば10月20日に開業した場合、10月・11月・12月の3か月として290万円×3÷12=72万5,000円が控除額です。廃業した年も同じ考え方になります。

Q. 個人事業税の申告はしなければいけませんか?

A. 多くの人は不要です。地方税法72条の55の2第1項が、前年分の所得税の確定申告書または道府県民税の申告書を提出した場合には、その提出日に事業税の申告がされたものとみなすと定めているためです。確定申告書の第二表にある「事業税に関する事項」欄が、同条第3項の「附記」に当たります。確定申告も住民税申告もしない場合で、事業の所得が事業主控除額を超えるときだけ、3月15日までに事業税の申告が要ります(72条の55第1項)。

Q. 個人事業税は経費になりますか?

A. なります。根拠は「経費になる」と書いた条文ではなく、経費にならないものを列挙した所得税法45条1項に「事業税」が1回も出てこないことです。同項4号が必要経費に算入しないと名指ししているのは「道府県民税及び市町村民税(都民税及び特別区民税を含む。)」だけで、同じ地方税でも事業税はこの列挙にありません。そのため租税公課として、実際に納付した年(または賦課決定のあった年)の必要経費になります。

Q. 不動産を人に貸しています。何室から個人事業税がかかりますか?

A. 地方税法には室数の基準がなく、都道府県が「認定基準」で判断します。東京都主税局の基準では、住宅の一戸建は棟数10以上、一戸建以外(アパート等)は室数10以上、住宅以外の独立家屋は棟数5以上、それ以外は室数10以上です。基準未満でも、貸付用建物の総床面積が600平方メートル以上かつ賃貸料収入が年1,000万円以上なら不動産貸付業と認定されます。共有物件は持分に関係なく物件全体の貸付状況で認定し、税額を持分で按分します。基準は都道府県ごとに違うので、所在地の県税事務所の公表資料を見てください。

Q. 駐車場は10台未満なら課税されませんか?

A. 種類によります。東京都主税局の基準では、上記以外の駐車場は駐車可能台数10台以上が基準ですが、「寄託を受けて保管行為を行う駐車場」は駐車可能台数1台以上、つまり台数を問わず駐車場業と認定されます。建築物である駐車場や機械式の駐車場も同じく台数を問いません。青空駐車場を月極で数台貸しているだけなら基準未満でも、鍵を預かって管理する形にすると1台でも課税対象になり得るということです。

Q. 医師ですが、社会保険診療の分も課税されますか?

A. されません。地方税法72条の49の12第1項ただし書が、72条の2第10項1号から5号までの事業(医業・歯科医業・薬剤師業・あん摩等の医業類似事業)を行う個人については、社会保険診療につき支払を受けた金額を総収入金額に算入せず、それに係る経費も必要経費に算入しないと定めています。収入と経費を両方とも外すので、自由診療部分だけで所得を計算することになります。注意点は、この特例が1号から5号までに限られていて、同じ第10項でも6号の獣医業は入っていないことです。

Q. 赤字は繰り越せますか?

A. 繰り越せますが、条件が所得税とずれます。地方税法72条の49の12第6項は、前年前3年間の損失を控除できるのは「個人の青色申告書を提出することについて国の税務官署の承認を受けている者であるときに限り」としており、白色申告では使えません。ただし第7項の被災事業用資産の損失は青色でなくても3年繰り越せます。いずれも損失の生じた年分と、その後の年分について連続して72条の55の申告をしていることが要件です。

出典

条文はいずれも e-Gov 法令API v2 で全文を取得し、引用は原文と逐語で照合しています。認定基準は東京都主税局の公表資料に基づくもので、都道府県により異なります。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・都道府県税事務所・税理士にご確認ください。

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