税金・経理・補助金ツールズ

家事按分 — 「5割を超えないと経費にできない」は、条文にも通達にも書かれていない

自宅で仕事をしている個人事業主が最初にぶつかるのが、家賃や電気代をいくら経費にしてよいのかという問題です。調べると「業務利用が50%を超えないと経費にできない」という説明によく行き当たります。

結論から言うと、按分の割合に上限を定めた規定はありません。50%という数字は確かに存在しますが、それが書かれているのは法律でも政令でもなく通達で、しかも同じ通達のただし書きが「50%以下であっても、明らかに区分できるなら算入して差し支えない」と、自らその基準を外しています。

決めているのは割合の大小ではなく、その部分を「明らかに区分することができる」かどうかです。この記事は、その構造を条文と通達の原文でたどります。

この記事の要点
  • 「家事按分」という言葉は、所得税法にも施行令にも通達にも一度も出てこない(約180万字を機械で計数して0回)。条文の言葉は「家事関連費」
  • 条文は「経費にできる」ではなく「必要経費に算入しない」の例外。しかも施行令96条は「次に掲げる経費以外の経費とする」という二重否定で書かれている
  • 50%の出所は所得税基本通達45-2。ところが同じ通達のただし書きが50%以下でも可としているので、割合の壁として機能していない
  • 施行令96条は1号(全員)と2号(青色申告のみ)で要件が違う。青色専用の2号のほうが「直接必要」と語は厳しく、対象所得からは雑所得が外れている
  • 国税庁のタックスアンサーは、青色専用である2号の文言で説明している(青色・白色の別を書いていない)
  • 自宅が生計を一にする親族の名義なら、家賃は56条で1円も経費にならない。按分する相手は家賃ではなく固定資産税等のほう

「家事按分」という言葉は、条文に一度も出てこない

まず前提として、「家事按分」は法令用語ではありません。所得税法・所得税法施行令・所得税基本通達(45条関係)の原文を取得して機械で数えると、次のようになります。

資料本文の字数「家事按分」「家事関連費」
所得税法1,096,240字0回9回
所得税法施行令695,618字0回5回
所得税基本通達 法第45条関係5,511字0回8回

「按分」という漢字表記も、この3つの資料を通じて家事の文脈では1回も現れません。施行令に1回だけ「按分」が出てきますが、それは83条で、会社分割のときに移転する資産の額を定める法人税法施行令の見出しを引用した箇所であり、家事とは関係がありません。

実務上の含意
条文を「家事按分」で検索しても何も出てきません。根拠を自分で確かめたいときに引く言葉は「家事関連費」です。所得税法45条1項1号、所得税法施行令96条、所得税基本通達45-1および45-2の4か所で、家事按分に関する規定はこれで全部です。

条文の作りは「経費にできる」ではなく、不算入の例外

出発点は所得税法45条です。見出しは「家事関連費等の必要経費不算入等」で、経費にできる規定ではなく、経費にできないものを並べた規定です。

居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。

その1号が、家事に関するものです。

家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

ここで注意したいのは、1号が算入を禁じているのは「政令で定めるもの」だけだという点です。では政令は何を定めているのか。所得税法施行令96条の柱書がこう書いています。

法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。

「次に掲げる経費以外の経費とする」――つまり二重否定です。政令が列挙した1号・2号は「経費にできるもの」の側であり、条文の書き方としては「列挙したもの以外は、法律に戻って必要経費に算入しない」という組み立てになっています。

所得税法 45条1項1号 「家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの」→ 必要経費に算入しない 施行令 96条 柱書 「政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする」= 二重否定 96条1号(すべての人) 主たる部分が業務上必要+明らかに区分できる 96条2号(青色申告のみ) 取引の記録等に基づき「直接必要」
家事関連費の根拠は法律と政令にまたがる。政令が二重否定で書かれているため、列挙された1号・2号が「経費にできる側」になる。

1号と2号で要件が違う。青色専用の2号のほうが語は厳しい

施行令96条は2つの号を並べています。まず1号です。

家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費

続いて2号です。

前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

並べると、違いは1か所ではありません。

96条1号96条2号
対象者すべての人(白色を含む)青色申告の承認を受けた居住者のみ
対象の所得不動産・事業・山林・不動産・事業・山林(雑が入らない
割合の要件主たる部分が業務の遂行上必要定めなし
必要性の強さ業務の遂行上必要業務の遂行上直接必要
裏づけ(明示なし)取引の記録等に基づいて

ここが直感に反するところです。青色専用の2号のほうが、必要性を表す語は「直接必要」と強く、しかも「取引の記録等に基づいて」という裏づけまで要求しています。それでも2号が青色申告者にとって有利になるのは、1号にある「主たる部分」という割合の門を通らなくてよいからです。

また2号の対象所得には雑所得が入っていません。1号は雑所得を含みます。副業を雑所得として申告している部分については、青色申告の承認を受けている人でも、その部分の家事関連費は2号ではなく1号で判断することになります。

50%の出所は通達45-2。ただし書きが同じ文でそれを外している

1号の「主たる部分」という言葉には、割合が書かれていません。ここに数字を入れているのが所得税基本通達45-2です。

令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。

前段だけを読めば「50%を超えるかどうか」で決まるように見えます。ところがただし書きが、その50%以下の場合を丸ごと救っています。条件は「その必要である部分を明らかに区分することができる場合」――これは1号がもともと課している要件と同じものです。

つまり、こうなる
業務利用が50%を超える場合 → 1号の「主たる部分」を満たす。
業務利用が50%以下の場合 → 通達45-2ただし書きにより、明らかに区分できるなら算入して差し支えない
どちらの場合も、実際に効いている条件は「明らかに区分することができるか」ひとつです。50%は結論を分ける線として機能していません。

なお通達45-1は、「主たる部分」と2号の「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」の判定について、こう書いています。

令第96条第1号《家事関連費》に規定する「主たる部分」又は同条第2号に規定する「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。

「総合勘案して判定する」――ここにも按分率の計算式は出てきません。通達が挙げているのは判定にあたって見るべき事情の一覧であって、割合の求め方ではありません。

青色申告特別控除シミュレーターで65万・55万・10万の判定を確かめる

国税庁の解説は、青色専用の要件で書かれている

ここまでが条文と通達です。一方、実務でいちばん読まれているのは国税庁のタックスアンサーでしょう。「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)は、家事関連費についてこう説明しています。

この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。

読み比べると分かるとおり、これは施行令96条2号の文言です。「取引の記録などに基づいて」も「直接必要」も、2号にしかない言葉です。そして2号は、青色申告の承認を受けた居住者だけを対象にした規定です。

このページには青色・白色の区別は書かれておらず、1号にも通達45-2の50%にも触れていません。同じ問いに対して、出所ごとに違う基準が示されている状態です。

出所示している基準対象
施行令96条1号主たる部分が業務上必要+明らかに区分できるすべての人
施行令96条2号取引の記録等に基づき「直接必要」が明らか青色申告のみ
通達45-250%超で判定。ただし50%以下でも区分できれば可1号の解釈=すべての人
タックスアンサー No.2210取引の記録等に基づき「直接必要」(=2号の文言)記載なし

4つを並べたとき、全部に共通して出てくる言葉は「明らかに区分できる」ことだけです。割合の数字が出てくるのは通達45-2の1か所で、そこには同じ文の中にただし書きが付いています。

分かれ目は割合の大小ではなく「明らかに区分できるか」

以上から、家事関連費が必要経費になるかどうかを分けているのは、按分率が何割かではなく、その按分率を区分した根拠を示せるかどうかだと整理できます。

通達45-1が挙げる判定材料――業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況――は、いずれも「その割合をどう出したか」を説明するための材料です。一般に、按分率そのものより、その根拠となる記録(面積、使用時間、走行距離など)のほうが要点になります。

家事と業務の両方にかかわる支出 業務上必要な部分を明らかに区分できるか できる できない その区分できる部分は必要経費 割合が50%以下でも可(通達45-2ただし書き) 全額が必要経費に算入されない 法45条1項1号に戻る
判定は割合の大小ではなく「明らかに区分できるか」で分岐する。50%は分岐点として働いていない。

自宅が生計を一にする親族名義なら、家賃は経費にならない

按分率の議論より前に効いてくる規定があります。所得税法56条です。

居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。

自宅が配偶者や親の名義で、そこに家賃を払って仕事場として使っている場合、その家賃は按分率にかかわらず必要経費に算入されません。生計を一にする親族への対価だからです。

ただし条文は後段でこう続けます。「その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、……必要経費に算入する」。つまり按分の対象になるのは、支払った家賃ではなく、名義人が負担している固定資産税・減価償却費・借入金利子といった費用のほうです。国税庁のタックスアンサーも、生計を一にする父から借りた土地・建物に課される固定資産税等の費用は子の業務の必要経費になる、という例を挙げています。

「生計を一にする」かどうかが先に来る
同じ「自宅の一部を仕事に使っている」でも、賃貸物件を第三者から借りているなら家賃そのものが按分の対象になり、生計を一にする親族の持ち家なら家賃は対象外で固定資産税等が対象になります。按分率を考える前に、まず誰に払っているかを確かめるという順序になります。

実務で使われる按分基準と、その根拠の弱さ

ここまで見たとおり、按分率の計算方法を定めた規定はありません。実務で使われている基準は、通達45-1の「総合勘案」を具体化したものにすぎず、法令に列挙されているわけではない点に注意が必要です。

費目よく使われる基準根拠として説明しやすい記録
家賃・地代床面積の割合間取り図と業務専用スペースの実測
電気料金使用時間、コンセント数、床面積業務日数と1日あたりの使用時間
通信費使用時間、業務用回線との別業務利用の時間帯が分かる記録
自動車関係走行距離の割合運行記録(日付・行き先・距離)

いずれも共通しているのは、基準そのものより、その基準を当てはめた記録が残っているかという点です。通達45-1が「利用状況等を総合勘案して判定する」と書いている以上、割合の根拠は利用実態の記録に帰着します。

なお、水道光熱費や通信費を一括して「事業用〇%」と決めること自体を禁じる規定もありません。禁じられているのは、区分できていないものを必要経費に算入することです。

よくある質問

Q. 家事按分の割合に上限はありますか?

A. 割合の上限を定めた規定はありません。所得税法施行令96条1号は「主たる部分」が業務の遂行上必要であることを求めていますが、これは上限ではなく下限にあたる表現です。さらに所得税基本通達45-2のただし書きが、業務上必要な部分が50%以下であっても明らかに区分できるなら必要経費に算入して差し支えないとしているため、割合そのものが結論を分ける線にはなっていません。

Q. 「業務利用が50%を超えないと経費にできない」というのは正しいですか?

A. 通達45-2の前段だけを読むとそう見えますが、同じ通達のただし書きが50%以下の場合を明示的に救っています。50%という数字は所得税法にも所得税法施行令にも書かれておらず、出所は通達45-2の1か所だけです。

Q. 白色申告でも家事按分はできますか?

A. 施行令96条1号は青色・白色を区別していないため、1号は白色申告者にも適用されます。青色申告の承認を受けた居住者だけを対象にしているのは2号です。ただし2号のほうが必要性の要件は「直接必要」と強く、「取引の記録等に基づいて」という裏づけも求められています。

Q. 副業を雑所得として申告している場合はどうなりますか?

A. 施行令96条2号の対象所得は不動産所得・事業所得・山林所得で、雑所得は含まれていません。雑所得を生ずべき業務に係る家事関連費については、青色申告の承認を受けている場合でも1号で判断することになります。1号の対象所得には雑所得が含まれています。

Q. 自宅が配偶者名義でも家賃を経費にできますか?

A. 生計を一にする配偶者に支払う家賃は、所得税法56条により必要経費に算入されません。ただし同条の後段により、その配偶者がその家屋について負担している固定資産税や減価償却費などのうち、業務に係る部分は事業主の必要経費に算入されます。個別の計算については税理士へご確認ください。

出典

本記事の確認範囲は、上記の所得税法および所得税法施行令の条文本文、所得税基本通達の法第45条関係、および国税庁タックスアンサー No.2210 です。租税特別措置法、消費税法上の課税仕入れの取扱い、青色事業専従者給与に係る所得税法57条、質疑応答事例・個別通達・裁決例および裁判例は確認していません。また各法令は取得時点のリビジョンで確認しており、これより後に施行される改正は反映していません。

この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。どの費目をどの基準で按分するかは、その事業の内容や資産の利用状況によって異なります。個別の判断については税理士へご確認ください。

この内容をXで共有