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法人成りとは — 個人事業を会社にするとき何が変わるか。届出の期限・資産の引継ぎ・消費税・社会保険を条文で

結論から言うと、法人成りとは、個人事業主が会社(株式会社・合同会社など)を設立し、それまで個人で営んでいた事業を会社に引き継ぐことです。ただし「法人成り」という言葉は法令にはありません。e-Gov 法令API の全法令キーワード検索で「法人成り」を引くと0件で、法律が見ているのは「個人事業の廃止」と「法人の設立」という2つの独立した出来事です。手続も税金も、この2つに分けて読むと整理できます。

実務で効く要点は4つあります。①個人側の廃業届の期限は、令和8年1月1日施行の改正で「1か月以内」から「その年分の確定申告期限まで」に変わりました(所得税法229条。給与支払事務所の廃止届だけは今も1か月以内)。②法人側は設立の日から2か月以内に設立届出書、原則3か月以内に青色申告の承認申請です(法人税法148条1項・122条2項1号)。③個人の資産を会社に売るとき、時価の2分の1未満の値段なら時価で譲渡したとみなされます(所得税法59条1項2号・同施行令169条)。④消費税の基準期間は個人から法人へ引き継がれません(消費税法2条1項14号)。設立後の免税は「新しい法人にまだ基準期間が無い」ことから生じるもので、インボイス登録をすれば消えます(9条1項)。

この記事は、①条文の中の「法人成り」、②個人側の届出と期限の改正、③法人側の届出、④消費税、⑤資産・負債の引継ぎ、⑥個人と法人で何が変わるかの比較表、⑦設立の法定費用、⑧いつ法人成りするかの分岐点、の順に、条文を引用しながら整理します。

条文の中の「法人成り」 — 語は無く、実体は「廃止」と「設立」の2つ

最初に、この言葉がどこに書いてあるかを確かめます。e-Gov 法令API v2 の全法令キーワード検索(現行法令の全文が対象)で「法人成り」を検索すると、返ってくるのは「取得結果が0件です」です。送り仮名を外した「法人成」なら5文ヒットしますが、組合等登記令・投資法人登記規則・一般社団法人等登記規則などの「法人成立の年月日」という記載事項の一部で、個人事業の会社化とは無関係でした。「法人成り」は実務の言葉であって、法令用語ではありません。

では法律は何を見ているのか。個人の側では、所得税法229条が「事業を……廃止した場合」の届出を命じています。法人の側では、会社法49条が設立の登記によって株式会社が成立すると定め、成立した法人に法人税法148条が設立の届出を命じます。会社法の「組織変更」(2条26号)は株式会社と持分会社のあいだの種類の変更を指す語で、個人から法人への移行は含まれません。

株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。
次のイ又はロに掲げる会社がその組織を変更することにより当該イ又はロに定める会社となることをいう。

つまり法人成りは、法律上は「個人がある日に事業を廃止した」ことと「同じころに新しい法人が成立した」ことの組み合わせで、両者をつなぐ特別な制度はありません。個人の資産を法人が使うなら、それは個人が法人に売る・貸す・出資するという個別の取引として扱われ(後述)、個人の青色申告の承認や消費税の基準期間も法人には引き継がれません。ここを押さえておくと、以下の各論がすべて「廃止の側の話か、設立の側の話か」で整理できます。

個人側の届出 — 廃業届の期限は「1か月以内」から「確定申告期限まで」に変わった

個人側で税務署に出す主な届出は次の4つです。期限の根拠をそれぞれ条文で示します。

届出根拠期限
個人事業の開業・廃業等届出書(廃業)所得税法229条その事実があった日の属する年分の確定申告期限まで(令和8年1月1日施行版から。令和7年12月18日施行版までは「一月以内」)
給与支払事務所等の廃止届出書所得税法230条その事実があった日から1か月以内(変わっていない)
青色申告の取りやめ所得税法151条自分からやめるときの届出は確定申告期限まで(1項)。業務の全部を廃止したときは、届出が無くても翌年分以後の承認は効力を失う(2項)
消費税 事業廃止届出書消費税法57条1項3号速やかに(免税事業者は対象外)

いちばん大きいのは229条の期限です。現行(令和8年8月12日施行版)の条文はこう書いています。

居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、又は当該事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、若しくはこれらを移転し、若しくは廃止した場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、税務署長に提出しなければならない。

同じ条文を令和7年12月18日施行版で読むと、末尾が次のように違います。

その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。

令和8年1月1日施行版(令和7年法律第13号による改正)から「確定申告期限まで」に変わっており、「廃業届は1か月以内」と書いてある解説は改正前の条文に基づくものです。廃業日が令和8年中なら、廃業届の期限はその年分の確定申告期限(原則として翌年3月15日)までです。

一方、給与を払っていた個人事業主が出す給与支払事務所等の廃止届出書は230条で、こちらは「一月以内」のままです。同じ条文が法人側の開設届にも使われるので、法人成りの日から1か月のあいだに「個人の廃止届」と「法人の開設届」を両方出すことになります。

国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、又はこれらを移転し、若しくは廃止した者は、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。

青色申告の承認は納税者ごとのものなので、個人の承認を法人に持っていくことはできません。しかも151条2項は、業務の全部を廃止した場合は届出が無くても翌年分以後の承認が失効すると定めています。法人成りした年の確定申告(廃業日までの事業所得)は青色のまま出せますが、翌年分からは個人側に承認が残りません。

第百四十三条の承認を受けている居住者が同条に規定する業務の全部を譲渡し、又は廃止した場合には、その譲渡し、又は廃止した日の属する年の翌年分以後の各年分の所得税については、その承認は、その効力を失うものとする。

消費税については、個人が課税事業者だった場合に57条1項3号の事業廃止届出書を「速やかに」出します。条文は免税事業者を除いているので、免税だった個人には要りません。

事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が事業を廃止した場合

法人側の届出 — 設立の日から1か月・2か月・3か月

法人側の届出は、設立の日(=登記の日。会社法49条)を起点に期限が決まります。設立届出書は148条1項で2か月以内、定款の写しを添付します。

新たに設立された内国法人である普通法人又は協同組合等は、その設立の日以後二月以内に、次に掲げる事項を記載した届出書に定款の写しその他の財務省令で定める書類を添付し、これを納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
届出根拠期限
給与支払事務所等の開設届出書所得税法230条その事実があった日から1か月以内
法人設立届出書(定款の写しを添付)法人税法148条1項設立の日以後2か月以内
青色申告の承認申請書法人税法122条2項1号「設立の日以後3か月を経過した日」と「第1期の事業年度終了の日」のいずれか早い日の前日
消費税の新設法人に該当する旨の届出書(資本金1,000万円以上のとき)消費税法57条2項速やかに

青色申告の承認申請の期限だけ決まり方が違い、第1期を短く切ると設立届より先に締切が来ます。この落とし穴と、特定期間・源泉所得税の納期の特例については 会社設立でやること が条文と日付の例で詳しく扱っているので、ここでは期限の一覧にとどめます。都道府県税事務所・市町村への法人設立届と、年金事務所への社会保険の新規適用(後述)も別に要ります。

法人成りの届出期限 — 起点は設立登記の日(会社法49条) 個人側 法人側 設立登記の日 1か月 2か月 3か月を経過した日 翌年の確定申告期限 給与支払事務所等の廃止届 1か月以内所得税法230条 消費税 事業廃止届出書速やかに(課税事業者)消費税法57条1項3号 青色の承認は翌年分から失効(届出不要)所得税法151条2項 廃業届 確定申告期限まで所得税法229条(令和8年〜) 給与支払事務所等の開設届 1か月以内所得税法230条 法人設立届出書2か月以内(定款の写し)法人税法148条1項 青色申告の承認申請3か月経過日と第1期末の早い日の前日法人税法122条2項1号 ※ 点線は時間軸の省略。廃業届の期限は「1か月以内」ではなく、その年分の確定申告期限(原則翌年3月15日)まで。
設立登記の日を起点にした届出期限。個人側の廃業届だけ「確定申告期限まで」と遠く(令和8年1月1日施行の改正)、給与支払事務所の廃止・開設は今も1か月以内。青色申告の承認は個人側は自動失効、法人側は期限内の申請が要る。

消費税 — 基準期間は引き継がれず、個人の最終年は資産の譲渡が課税売上になる

消費税の納税義務は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下かどうかで決まります(9条1項)。その基準期間は、個人と法人で別々に定義されています。

個人事業者についてはその年の前々年をいい、法人についてはその事業年度の前々事業年度(当該前々事業年度が一年未満である法人については、その事業年度開始の日の二年前の日の前日から同日以後一年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間)をいう。
事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く。)については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する。

法人の基準期間は「その事業年度の前々事業年度」なので、設立第1期と第2期にはそもそも基準期間がありません。個人のときに前々年の売上が1,000万円を超えていても、その数字が法人の判定に使われることはない、というのが条文の構造です。ただし例外が3つあり、いずれも 会社設立でやること で扱っています。

基準期間は個人と法人で別物(消費税法2条1項14号) 個人 前々年=基準期間 前年 今年=課税期間 前々年の売上で判定 法人 第1期(基準期間なし) 第2期(基準期間なし) 第3期(基準期間=第1期) 個人の前々年は使わない 例外: 資本金1,000万円以上(12条の2)/特定期間(9条の2)/インボイス登録(9条1項かっこ書き)。
個人の基準期間は前々年、法人は前々事業年度。設立1期目・2期目は基準期間そのものが無く、個人時代の売上高は法人の判定に入らない。例外は3つ。

見落としやすいのが個人の最終年です。消費税は「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」(2条1項8号)に課されるので、個人が課税事業者の年に、商品在庫・車両・機械・備品を会社へ売れば、その売却代金は個人の課税売上高に入ります。

事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。

個人は最終年の消費税申告で、この譲渡にかかる消費税を納めます。一方、買い手の法人が第1期に免税事業者であれば、消費税を納める義務が免除されている以上、引継ぎで支払った消費税を控除する申告もしません。「売る側は課税、買う側は控除なし」という組み合わせになりうることは、引継ぎの値段を決める前に知っておく点です。

資産・負債の引継ぎ — 売買・現物出資・賃貸。2分の1未満は時価で譲渡したとみなす

個人の資産を法人が使う方法は、大きく3つです。

方法中身条文上の位置
売買個人が法人に資産を売り、法人が代金を払う(資金が無ければ未払金・役員借入金)個人側は譲渡所得(固定資産)または事業所得(棚卸資産)。所得税法59条・40条の「著しく低い価額」の規定が効く
現物出資資産そのものを出資して株式を受け取る会社法28条1号の「金銭以外の財産を出資する者……当該財産及びその価額」を定款に記載しなければ効力を生じない(変態設立事項)。個人側は譲渡として扱われる(59条の対象にも入る)
賃貸個人が持ったまま法人に貸す個人に賃料収入(不動産所得・雑所得など)。譲渡は起きないので59条・40条の問題は生じない

売買・現物出資で問題になるのが「いくらで渡すか」です。所得税法59条1項は、譲渡所得の基因となる資産(車両・機械・建物・土地など)を法人に「著しく低い価額」で譲渡すると、その時の価額(時価)で譲渡したものとみなすと定めています。

次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)

「著しく低い価額」の線は、施行令169条が時価の2分の1未満と数字で引いています。

法第五十九条第一項第二号(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)に規定する政令で定める額は、同項に規定する山林又は譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額とする。

たとえば時価100万円の車両を法人に40万円で売ると、2分の1未満なので個人は100万円で譲渡したものとして譲渡所得を計算します(50万円ちょうどなら「満たない」に当たりません)。なお2号は「法人に対するものに限る」と括弧書きしているので、個人どうしの低額譲渡には別の扱い(2項)が用意されています。

商品在庫(棚卸資産)は59条ではなく40条の世界です。40条1項2号は「著しく低い価額の対価による譲渡」について、対価と時価の差額のうち「実質的に贈与をしたと認められる金額」を事業所得の総収入金額に算入すると定めています。

当該対価の額と当該譲渡の時におけるそのたな卸資産の価額との差額のうち実質的に贈与をしたと認められる金額

59条との違いは2つあります。①みなすのは「時価で売った」ことではなく「差額のうち贈与と認められる部分」の収入算入であること、②法律にも施行令にも、2分の1のような数値の線が無いことです(通達レベルの取扱いは別にあります)。固定資産は2分の1という明確な線、棚卸資産は「著しく低い」という評価の問題、と覚えておくと条文の構造に沿います。

負債(借入金)の引継ぎは税法ではなく契約の問題で、債務を法人に移すには債権者である金融機関の関与が要ります。売掛金・買掛金は個人のまま回収・支払を済ませる形が多く、引き継ぐなら債権譲渡・債務引受として個別に処理します。いずれも「法人成りだから自動的に移る」という規定は無い、というのが出発点です。

個人と法人で何が変わるか — 税率・給与・赤字・交際費・事業税・社会保険の比較表

同じ事業を個人で続けるか法人で行うかで、適用される条文がどう入れ替わるかを一覧にします。

項目個人事業法人根拠
利益への税率所得税の超過累進税率(所得が増えるほど高い)法人税は所得の23.2%。資本金1億円以下なら年800万円以下の部分は19%、令和9年3月31日までに開始する事業年度は15%所得税法89条/法人税法66条1・2項/措置法42条の3の2第1項
事業主本人の取り分事業所得(給与ではないので給与所得控除は無い)役員給与=給与所得。収入から給与所得控除(最低65万円)を引ける。法人側は定期同額給与等でないと損金にならない所得税法27条・28条2・3項/法人税法34条1項
家族への給与青色事業専従者給与(3月15日までに届出。開業から2か月以内の特例あり)役員給与・使用人給与として支払う所得税法57条1・2項/法人税法34条
赤字の繰越青色で3年10年所得税法70条1項/法人税法57条1項
交際費必要経費(37条。金額の上限規定は無い)資本金1億円以下は年800万円まで(または飲食費の50%)が損金所得税法37条/措置法61条の4第1・2項
事業税と均等割個人事業税は事業主控除290万円を引いて計算(かかるのは70の法定業種だけ)法人事業税のほか、赤字でも法人住民税の均等割(最低区分は道府県2万円+市町村5万円)地方税法72条の49の14/52条1項・312条1項
社会保険常時5人以上かつ法定の業種でなければ強制適用ではない常時従業員を使用していれば適用事業所(代表者1人でも報酬があれば対象)健康保険法3条3項/厚生年金保険法6条1項

税率と給与所得控除の部分を条文で押さえます。法人税法66条2項が中小法人の軽減税率、所得税法28条2項が給与所得控除です。

前項の場合において、普通法人(通算法人を除く。)若しくは一般社団法人等のうち、各事業年度終了の時において資本金の額若しくは出資金の額が一億円以下であるもの若しくは資本若しくは出資を有しないもの又は人格のない社団等の各事業年度の所得の金額のうち年八百万円以下の金額については、同項の規定にかかわらず、百分の十九の税率による。
給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする。

法人成りで「節税になる」と言われる中心は、この2つの組み合わせです。個人事業の利益は全額が事業所得として累進税率を受けますが、法人にして本人が役員給与を受け取ると、法人側では損金(34条の要件を満たす場合)、本人側では給与所得控除を引いた残りに課税されます。ただし効果の大きさは所得水準・役員給与の額・社会保険料の事業主負担で変わるので、一般論で断定できる額ではありません。

赤字の繰越は条文の数字がそのまま違います。所得税法70条1項は「前年以前三年内」、法人税法57条1項は「十年以内」です。

確定申告書を提出する居住者のその年の前年以前三年内の各年(その年分の所得税につき青色申告書を提出している年に限る。)において生じた純損失の金額
内国法人の各事業年度開始の日前十年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額

交際費は、個人には上限の規定が無く必要経費の一般規定(37条)で処理しますが、法人は措置法61条の4で損金不算入が原則になり、資本金1億円以下の法人に年800万円の定額控除限度額が置かれています。

定額控除限度額(八百万円に当該適用年度の月数を乗じてこれを十二で除して計算した金額をいう。)

地方税の側では、個人事業税に事業主控除290万円があり(72条の49の14)、法人には所得と無関係な均等割が課されます。52条1項の表で資本金等の額1,000万円以下の法人は道府県民税の均等割が年2万円、312条1項の表で資本金等の額1,000万円以下・従業者50人以下の法人は市町村民税の均等割が年5万円です(標準税率)。合わせて年7万円は赤字でもかかります。

事業を行う個人については、当該個人の事業の所得の計算上二百九十万円を控除する。

社会保険は、法人成りで最も確実に変わる点です。健康保険法3条3項と厚生年金保険法6条1項は、個人事業所については「常時五人以上の従業員を使用する」かつ法定の業種であることを要求しますが、法人については業種も人数も問いません。

前号に掲げるもののほか、国、地方公共団体又は法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの
前号に掲げるもののほか、国、地方公共団体又は法人の事業所又は事務所であつて、常時従業員を使用するもの

代表者が自分に役員報酬を払えば、その法人は「常時従業員を使用する」事業所として適用事業所になり、保険料の半分を事業主として負担します。個人事業主として国民健康保険・国民年金を払っていた状態から、法人と本人で折半する健康保険・厚生年金に切り替わるので、手取りの計算はここを含めないと合いません。社会保険料の計算機で、役員報酬の額ごとの本人負担・会社負担を確かめられます。

法人税の簡易計算 — 所得を入れて法人税と地方法人税を試算する

設立にかかる法定費用 — 登録免許税・定款の印紙・認証手数料

法人を作る段階で法令が額を決めている費用は3つです。司法書士等への報酬は別です。

費用株式会社合同会社根拠
登録免許税(設立の登記)資本金の額の1000分の7。15万円に満たないときは15万円資本金の額の1000分の7。6万円に満たないときは6万円登録免許税法 別表第一 二十四(一)イ・ハ
定款の認証手数料資本金100万円未満 3万円(発起人が全員自然人で3人以下・発起人が全株式を引き受け・取締役会を置かない場合は1万5千円)/100万円以上300万円未満 4万円/それ以外 5万円不要(認証が要るのは株式会社の定款。会社法30条1項)公証人手数料令35条1号〜3号/会社法30条1項
定款の印紙税紙の定款の原本 4万円。公証人が保存する原本以外は非課税紙の定款の原本 4万円印紙税法 別表第一 六
これによつて計算した税額が十五万円に満たないときは、申請件数一件につき十五万円
これによつて計算した税額が六万円に満たないときは、申請件数一件につき六万円
第二十六条第一項の定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じない。
定款は、会社(相互会社を含む。)の設立のときに作成される定款の原本に限るものとする。

印紙税は「文書」に課される税で(印紙税法2条)、課税物件は定款の「原本」に限られています。電子定款(電磁的記録)で認証を受けると紙の原本が作られないため、4万円の印紙は要らないと一般に整理されています。株式会社の場合、非課税物件の欄が「公証人の保存するもの以外のもの」を非課税としているので、紙で作っても課税されるのは公証人役場に残る1通です。

設例で並べます。資本金300万円なら、株式会社は登録免許税 300万円×0.7%=21,000円が15万円に満たないので15万円、認証手数料は300万円以上なので5万円、紙の定款なら印紙4万円で合計24万円(電子定款なら20万円)。合同会社は登録免許税6万円のみで、電子定款なら法定費用は6万円です。

いつ法人成りするか — 条文が決める5つの分岐点

「法人成りのタイミング」は、結局のところ上で見た条文のどれが自分に効き始めるか、の問題です。一般に検討される分岐点を5つ挙げます。いずれも「こうすべき」ではなく、条文がどこで切り替わるかの整理です。

  1. 消費税の基準期間 — 個人の前々年の課税売上高が1,000万円を超えると、その年の個人は課税事業者です(9条1項)。法人を設立すれば第1期・第2期に基準期間は無く、資本金1,000万円未満・特定期間の要件を満たせば免税になりえます(2条1項14号・12条の2・9条の2)。ただし取引先からインボイスを求められる事業では、登録した時点で免税は使えない(9条1項かっこ書き)ので、この分岐は事実上消えます。
  2. 所得の水準 — 所得税の累進税率(89条)と、法人税の15%/19%/23.2%(66条・措置法42条の3の2)+役員給与の給与所得控除(28条2・3項)の比較です。役員給与の額と社会保険料の事業主負担を入れた上で数字を置かないと比べられないので、上の法人税の簡易計算と社会保険料の計算機で試算します。
  3. 社会保険の強制適用 — 法人は役員報酬を払った時点で適用事業所です(健保法3条3項2号・厚年法6条1項2号)。個人事業で任意適用をしていなければ、ここで事業主負担分が新たに発生します。
  4. 赤字でも出ていく均等割 — 法人住民税の均等割は最低でも年7万円(52条1項・312条1項の標準税率)で、所得がゼロでも課されます。個人事業税は事業主控除290万円以下なら課されません(72条の49の14)。
  5. 赤字の繰越年数 — 個人は青色で3年(70条1項)、法人は10年(57条1項)です。個人時代の純損失は法人に引き継げないので、繰り越している赤字があるときは個人側で使い切れるかを先に見ます。

手続面では、廃業届の期限が「1か月以内」から確定申告期限までに緩んだ一方(229条)、給与支払事務所の廃止・開設は1か月以内のまま(230条)、法人の設立届は2か月以内、青色申告の承認申請は原則3か月以内(148条1項・122条2項1号)です。日付を決めるときは、法人側の青色申告の期限が第1期の長さで前倒しになる点(会社設立でやること)を最初に押さえます。

よくある質問

Q. 法人成りとは何ですか?

A. 個人事業主が会社を設立し、個人で営んでいた事業を会社に引き継ぐことです。法令に「法人成り」という語は無く(e-Gov 全法令検索で0件)、法律上は個人の事業の廃止(所得税法229条)と法人の設立(会社法49条・法人税法148条)という2つの出来事として扱われます。両者をつなぐ特別な制度は無く、資産は個人から法人への売買・現物出資・賃貸として個別に処理します。

Q. 法人成りしたら、個人の廃業届はいつまでに出しますか?

A. 令和8年1月1日施行版の所得税法229条では「その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限まで」です。令和7年12月18日施行版までは「一月以内」でした。給与を払っていた場合の給与支払事務所等の廃止届出書は230条で、今も1か月以内です。

Q. 個人の青色申告の承認は法人に引き継げますか?

A. 引き継げません。承認は納税者ごとで、個人が業務の全部を廃止すると翌年分以後の承認は届出が無くても効力を失います(所得税法151条2項)。法人は法人税法122条2項1号の期限(設立の日以後3か月を経過した日と第1期の終了の日のいずれか早い日の前日)までに承認申請を出します。

Q. 個人事業の消費税の基準期間は法人に引き継がれますか?

A. 引き継がれません。基準期間は法人については「その事業年度の前々事業年度」(消費税法2条1項14号)なので、設立第1期・第2期には基準期間がありません。ただし資本金1,000万円以上の新設法人(12条の2)、特定期間の判定(9条の2)、インボイス登録(9条1項の「適格請求書発行事業者を除く」)のいずれかに当たれば課税事業者になります。

Q. 個人の車や備品を会社に安く売ると問題がありますか?

A. 譲渡所得の基因となる資産(車両・機械・建物・土地など)を法人に時価の2分の1未満で譲渡すると、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得を計算します(所得税法59条1項2号・同施行令169条)。商品在庫(棚卸資産)は40条1項2号で、対価と時価の差額のうち実質的に贈与と認められる金額が事業所得の収入に算入されます。こちらには条文上の数値の線はありません。

Q. 法人成りすると社会保険には必ず入りますか?

A. 法人の事業所で常時従業員を使用していれば適用事業所です(健康保険法3条3項2号・厚生年金保険法6条1項2号)。代表者が役員報酬を受け取る場合も含みます。個人事業所は常時5人以上かつ法定の業種でなければ強制適用ではありません(健康保険法3条3項1号)。

Q. 赤字でも法人には税金がかかりますか?

A. 法人住民税の均等割は所得と無関係に課されます。地方税法52条1項・312条1項の標準税率で、資本金等の額1,000万円以下・従業者50人以下の法人は道府県2万円+市町村5万円の年7万円です。個人事業税は事業主控除290万円(72条の49の14)を引いた所得に課されるので、所得が290万円以下なら個人事業税はかかりません。

Q. 株式会社と合同会社で設立の法定費用はどれだけ違いますか?

A. 登録免許税の最低額が株式会社15万円・合同会社6万円(登録免許税法 別表第一 二十四(一)イ・ハ)、定款の認証は株式会社だけ(会社法30条1項。手数料は公証人手数料令35条で1万5千円〜5万円)、紙の定款の印紙4万円は両方です(印紙税法 別表第一 六)。資本金300万円なら株式会社は24万円(電子定款で20万円)、合同会社は電子定款で6万円です。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士・社会保険労務士にご確認ください。

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