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家内労働者等の必要経費の特例 — 令和8年分は69万円。55万円・65万円は過去の年分の額

主な例外: このページの給与収入への換算は、収入が給与だけで特定支出控除の適用がない場合です。特定支出控除を適用する場合は、給与収入への換算額が異なります。

結論から言うと、令和8年分(2026年分)の家内労働者等の必要経費の特例は69万円です(給与所得もある人は69万円−給与所得控除額。事業所得・雑所得の総収入金額が限度)。実際にかかった経費が69万円に満たなくても、69万円まで必要経費として認められます(給与所得もある人の枠は「69万円−給与所得控除額」で給与収入69万円以上なら使えず、特例の必要経費は事業所得や公的年金等以外の雑所得の総収入金額が限度です)。

ここが実務でいちばん間違えられているところです。この特例の額は過去に3回動いており、いま検索して出てくる解説の多くは55万円(令和2年分から令和6年分までの額)か65万円(令和7年分の額)で止まっています。国税庁のタックスアンサーNo.1810は令和8年4月1日現在の法令等に基づく版で69万円(令和7年分は65万円、令和2年分から令和6年分までは55万円)を案内しています。改正は国税庁の「源泉所得税の改正のあらまし」にも明記されており、条文にも入っています。

そしてもう一つ、令和8年分・令和9年分の特例があります。この特例の69万円と、給与だけで働く人の給与所得控除の最低保障額74万円(令和8年分・令和9年分の特例)が、5万円ずれています。令和元年分以前も、令和2年分から令和6年分も、令和7年分も、この2つはずっと同じ額でした。令和8年分・令和9年分について、給与のみの場合と家内労働者等の特例対象所得のみの場合を比べ、後者は実費69万円以下・青色申告特別控除等なしと置く単純例では、収入の壁に5万円の差が生じます。この記事は、その理由と金額を条文で確かめていきます。

令和8年分は69万円 — 条文と国税庁の改正資料で確かめる

根拠は租税特別措置法27条です。令和8年12月1日施行版の本文は、次のようになっています。

家内労働法(昭和四十五年法律第六十号)第二条第二項に規定する家内労働者に該当する個人、外交員その他これらに類する者として政令で定める個人が事業所得又は雑所得を有する場合において、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額及び雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額の合計額が六十九万円(当該個人が給与所得を有する場合にあつては、六十九万円から所得税法第二十八条第二項に規定する給与所得控除額を控除した残額。以下この条において同じ。)に満たないときは、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入する金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、所得税法第三十七条第一項及び第二編第二章第二節第四款第一目から第五目までの規定にかかわらず、六十九万円を政令で定めるところにより事業所得に係る金額と雑所得に係る金額とに区分をした場合の当該区分をしたそれぞれの金額とする。

条文に六十九万円と書かれています。推計値ではありません。同じ改正は国税庁の資料にも明記されていて、「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」の2ページに、給与所得控除の最低保障額の引上げに伴って家内労働者等の特例の最低保障額が69万円(改正前65万円)に引き上げられた旨が書かれています。条文と国税庁の資料の2つで一致しています。

タックスアンサーNo.1810は令和8年分の69万円を案内しています

国税庁のタックスアンサー「No.1810 家内労働者等の必要経費の特例」の冒頭は令和8年4月1日現在法令等です。その時点の法令では65万円が正しい額でした。改正法は令和8年12月1日施行ですが、No.1810は施行前から令和8年分の69万円を案内しています。タックスアンサーを見るときは、必ず冒頭の「現在法令等」の日付を確かめてください。年分をまたぐ改正があった直後は、日付の古いページと新しい条文が並存します。

金額は年分で3回動いている — 55万円は令和2年分から令和6年分までの額

この特例の額は、給与所得控除の最低保障額と歩調を合わせて動いてきました。適用される年分の境目は、それぞれの改正法の附則で決まっています。

年分特例の額(措置法27条)根拠となる附則
令和元年分以前65万円従前の例(平成30年法律第7号 附則72条)
令和2年分 〜 令和6年分55万円平成30年法律第7号 附則72条
令和7年分65万円令和7年法律第13号 附則32条
令和8年分以後69万円令和8年法律第12号 附則34条1項

令和8年分の適用開始を定めているのは、令和8年法律第12号の附則34条1項です。

新租税特別措置法第二十七条の規定は、令和八年分以後の所得税について適用し、令和七年分以前の所得税については、なお従前の例による。

過去の年分について申告をやり直すときは、その年分の額を使います。たとえば令和5年分の修正申告や更正の請求であれば55万円、令和7年分なら65万円です。69万円は令和8年分から先の話で、遡って使うことはできません。

給与だけの人(給与所得控除の最低保障額)と、家内労働者等の特例の額 年分 給与所得控除の最低保障 家内労働者等の特例 差 令和元年分以前 65万円 65万円 0円 令和2年分〜令和6年分 55万円 55万円 0円 令和7年分 65万円 65万円 0円 令和8年分・令和9年分 74万円 69万円 5万円 措置法29条の4の特例が給与側にだけ2年間乗る 令和10年分以後 69万円 69万円 0円 令和10年分以後は現行法のままなら。措置法29条の4は令和8年と令和9年に限った特例のため。 帯の長さは金額に比例。
2つの額は長らく同じだった。令和8年分と令和9年分の2年間だけ、給与側に措置法29条の4の特例が乗って5万円ずれる。

誰が使えるか — 3つの入口と「特定の者」という関門

対象になる人は、条文上3つの入口に分かれています。措置法27条が名指ししているのが最初の2つ、残りを施行令18条の2第1項が定めています。

法第二十七条に規定する政令で定める個人は、集金人、電力量計の検針人その他特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする者とする。
入口誰か根拠
1家内労働法2条2項の家内労働者措置法27条
2外交員措置法27条
3集金人、電力量計の検針人、その他特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする者施行令18条の2第1項

実務で判断が要るのはほぼ入口3です。ただし入口1にも、見落とされがちな絞り込みがあります。家内労働法2条2項は次のように定めています。

この法律で「家内労働者」とは、物品の製造、加工等若しくは販売又はこれらの請負を業とする者その他これらの行為に類似する行為を業とする者であつて厚生労働省令で定めるものから、主として労働の対償を得るために、その業務の目的物たる物品(物品の半製品、部品、附属品又は原材料を含む。)について委託を受けて、物品の製造又は加工等に従事する者であつて、その業務について同居の親族以外の者を使用しないことを常態とするものをいう。

ここで対象になっているのは、委託者から主として労働の対償を得るために物品について委託を受けて、物品の製造・加工などに従事する人で、しかも同居の親族以外の人を使わないことが常態である人です。自分で作った物品を委託者以外の相手に自分で売る人は、委託を受けていないので入口1には当たりません(ただし、相手から材料を買い受けて製造・加工した物品をその相手が買い受ける約束の形は、家内労働法2条1項2号の「委託」に当たります)。つまり、家で原稿を書く、データを入力する、オンラインで相談に乗る、といった仕事は、この定義の家内労働者には当たりません。物品を扱っていないからです。

ではそうした在宅の仕事が特例を使えないかというと、そうではありません。入口3で判定します。ここで効くのが特定の者という4文字です。

入口3は「特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする者」です(施行令18条の2第1項)

条文は不特定多数を相手にする仕事ではなく、決まった相手に継続して役務を提供する形を想定しています。業務委託や外注という契約名だけで判断せず、特定の者への継続的な人的役務の提供を業務とするかを確認します。一方で、不特定多数の顧客に対して自分で営業して仕事を取っている人は当てはまりにくくなります。たとえば通販サイトで誰にでも作品を売る、多数の一見客の依頼を受ける、といった形です。取引先の数だけで機械的に決まるものではなく、業務の形で見ますので、判断に迷う場合は税務署または税理士に確認してください。

給与がある人は「69万円 − 給与所得控除額」

パートをしながら内職もしている、というように給与所得もある場合、使える枠はそのぶん減ります。措置法27条の括弧書きが、69万円から給与所得控除額を引いた残額に置き換えると定めているからです。

ここから、実務で使いやすい形が1つ出てきます。給与の収入金額が69万円以上あると、この特例は使えません。給与所得控除額は最低でも収入金額そのもの(収入が最低保障額に満たないとき)か最低保障額のどちらかなので、給与収入が69万円に達した時点で、引き算の結果が0以下になるからです。

比較している給与所得控除額そのものの決まり方は給与所得控除で扱っています(令和8年分・令和9年分の74万円は措置法29条の4の特例で、家内労働者等の69万円とは根拠条文が別です)。

給与の収入金額給与所得控除額(令和8年分)特例で使える枠
0円(給与なし)—69万円
40万円40万円29万円
60万円60万円9万円
69万円69万円0円(使えない)
100万円74万円0円(使えない)
300万円98万円0円(使えない)

令和8年分の給与所得控除額は、収入金額が220万円以下なら74万円(収入金額が74万円に満たないときはその収入金額)です。これは措置法29条の4第1項が定める令和8年・令和9年限りの特例です。収入が220万円を超えると所得税法28条3項の本則に戻りますが、そちらでも最低保障は69万円なので、結論は変わりません。

枠が残っても、実額のほうが多ければ実額を使う

特例は「実際にかかった経費が少ないときに底上げする」制度なので、実額と枠を比べて多いほうが必要経費になります(ただし特例で計上する額は、事業所得や公的年金等以外の雑所得の総収入金額が限度です)。上の例で給与60万円・枠9万円の人が、内職のために実際に15万円使っていたなら、必要経費は15万円です。9万円に減らされるわけではありません。

計算例1 — 内職だけ、年間の工賃120万円・実費8万円

給与がないので枠は69万円まるごと使えます。実費8万円より69万円のほうが多いので、必要経費は69万円。所得は 120万円 − 69万円 = 51万円です。

計算例2 — パート給与60万円と内職40万円、内職の実費5万円

給与収入60万円は74万円に満たないので、給与所得控除額は収入と同じ60万円。給与所得は0円になります。特例の枠は 69万円 − 60万円 = 9万円。実費5万円より多いので、内職側の必要経費は9万円です。内職の所得は 40万円 − 9万円 = 31万円、合計所得金額は 31万円になります。

事業所得と雑所得の両方があるとき — 先に雑所得へ寄せる

事業所得と雑所得の両方がある人の割り振りは、施行令18条の2第2項2号が定めています。条文はイとロに分かれていて読みにくいのですが、動きは単純です。

  1. 69万円(給与所得もある人は69万円−給与所得控除額)から、事業所得と雑所得の実費の合計を引いて、余りを出す
  2. その余りを、まず雑所得の必要経費に足す
  3. 雑所得の総収入金額(公的年金等に係るものを除く)を超えてしまう分は、事業所得の必要経費に回す(事業所得の側も、事業所得の総収入金額が限度)

3番目の折り返しが起きるのは、措置法27条の後段が上限を定めているからです。

この場合において、当該それぞれの金額は、その年分の事業所得に係る総収入金額又は雑所得に係る総収入金額(同法第三十五条第三項に規定する公的年金等に係るものを除く。)を限度とする。

計算例3 — 事業所得と雑所得が両方ある場合(給与なし)

区分総収入金額実際にかかった経費特例後の必要経費所得
事業所得90万円20万円39万円51万円
雑所得30万円4万円30万円0円
合計120万円24万円69万円51万円

給与がないので枠は69万円のままで、手順どおりに追うと、まず 69万円 − 24万円 = 45万円が余りです。これをまず雑所得側に足すと 4万円 + 45万円 = 49万円になりますが、雑所得の総収入金額30万円が限度なので30万円で止まります。あふれた19万円は事業所得側に回り、20万円 + 19万円 = 39万円。合計は39万円 + 30万円 = 69万円で、ちょうど使い切っています。

この順序(余りをまず雑所得に足す)は、国税庁のタックスアンサーNo.1810にも同じ内容で書かれています。額が65万円か69万円かは違っても、割り振りの手順そのものは改正で変わっていません。

青色申告特別控除がいくらになるか試算する

令和8年分の単純例は173万円と131万円(この特例の対象となる所得だけ・実費69万円以下・青色申告特別控除等なし) — 給与の178万円・136万円と5万円ずれる

この特例しか所得がない人にとって、実務でいちばん知りたいのはいくらまでなら税金がかからないかといくらまでなら扶養に入れるかでしょう。令和8年分の数字は次のとおりです。

知りたいこと家内労働者等(この特例を使う人)給与だけの人差
本人に所得税がかからない収入173万円(69万+104万)178万円(74万+104万)5万円
扶養親族・同一生計配偶者になれる収入131万円(69万+62万)136万円(74万+62万)5万円

104万円は令和8年分の基礎控除です(所得税法86条1項1号の62万円に、措置法41条の16の2第1項1号イの42万円を加えた額。合計所得金額が489万円以下の場合)。62万円は令和8年分の扶養親族および同一生計配偶者の所得要件で、所得税法2条1項34号・33号に定められています。

5万円のずれの正体は、給与側にだけ乗っている2年限りの特例です。所得税法28条3項1号の本則も、措置法27条も、どちらも69万円で揃っています。ところが令和8年・令和9年に限って、措置法29条の4第1項が給与所得控除の最低控除額を74万円に引き上げています。この特例は給与所得についてのものなので、家内労働者等の特例には及びません。結果として、家内労働者等に当たる人は、同じ働き方でも受け取り方が給与か家内労働者等としての報酬かで壁が5万円ずれます。不特定の相手と取引するフリーランスのように家内労働者等に当たらない人には、そもそも69万円の特例がありません。

この計算方法は、国税庁の公表値で検算できる

同じ足し算を令和7年分でやると、65万円 + 95万円(令和7年分の基礎控除)= 160万円、65万円 + 58万円(令和7年分の扶養親族の所得要件)= 123万円になります。No.1810には令和7年分の160万円の説明があります(No.1810 は令和7年分について、160万円以下を本人に所得税が課されない線と配偶者控除・扶養控除の対象となる線の両方として書いています)。123万円は令和7年分の特例経費65万円と扶養の所得要件58万円を足したこの記事の単純例で、No.1810 の記載ではありません。同じ手順に令和8年分の数字を入れたものが、上の173万円と131万円です。

住民税は所得税と基礎控除の額も非課税の判定方法も違うので、上の173万円は住民税がかからないラインではありません。住民税の壁は別に見てください(年収の壁 早見表)。

令和8年12月1日施行という落とし穴 — 同日前に令和8年分を申告した人は更正の請求が5年ある

今回の改正は令和8年12月1日に施行され、令和8年分の所得税から適用されます。ふつうに翌年の確定申告をする人にとっては、この日付を気にする必要はありません。確定申告は令和9年2月16日から(還付申告なら令和9年1月1日から)で、そのときにはもう改正後の69万円が現行の法令だからです。

問題になるのは、令和8年12月1日より前に、令和8年分の確定申告書をすでに出してしまっている人(または同日前に決定を受けた人)です。年の途中で申告書を出す場面は限られていますが、実際にあります。亡くなった方の準確定申告(所得税法125条)と、年の途中で出国する方の申告(同法127条)です。これらの申告は、当時の法令である65万円で計算されています。

そこで附則34条2項が、救済の道を用意しています。

令和八年十二月一日前に同年分の所得税につき所得税法第百二十五条又は第百二十七条(これらの規定を同法第百六十六条において準用する場合を含む。)の規定による確定申告書を提出した者及び同日前に同年分の所得税につき同法第二条第一項第四十四号に規定する決定を受けた者は、当該確定申告書に記載された事項又は当該決定に係る事項(これらの事項につき同日前に同項第四十三号に規定する更正があった場合には、その更正後の事項)につき新租税特別措置法第二十七条の規定の適用により異動を生ずることとなったときは、その異動を生ずることとなった事項について、同日から五年以内に、税務署長に対し、国税通則法第二十三条第一項の更正の請求をすることができる。

つまり令和8年12月1日から5年以内に更正の請求をすれば、69万円で計算し直せます。給与がなく、事業所得と公的年金等以外の雑所得の総収入が69万円以上・実費65万円未満であれば、特例経費の差は4万円です。その全額が5%帯の課税所得を減らす場合、所得税本体の差は2,000円になります。金額は大きくありませんが、放っておくと戻ってこないものです。同じ趣旨の規定は令和7年の改正のときにも置かれていました(令和7年法律第13号 附則32条2項)ので、令和7年分について同じ立場だった方も確かめる価値があります。

住民税でも使える — 地方税法に「家内労働」は一度も出てこないのに

この特例は租税特別措置法に置かれた所得税の規定です。では住民税ではどうなるのか。地方税法の全文を検索しても、家内労働という語は1回も出てきません。それでも住民税にも及びます。理由は地方税法32条2項(道府県民税)と313条2項(市町村民税)にあります。2つは同じ文言なので、32条2項を引きます。

前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第二十二条第二項又は第三項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例により算定するものとする。ただし、同法第六十条の二から第六十条の四までの規定の例によらないものとする。

ここでいう所得税法その他の所得税に関する法令には租税特別措置法が含まれます。所得金額そのものを計算する段階で措置法27条が効いているので、住民税の側であらためて規定を置く必要がないわけです。条文がこの法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほかと断っている点も重要で、住民税で特別の扱いをする項目は地方税法又はこれに基づく政令に定められます。書かれていない措置法27条は、所得税の計算がそのまま持ち込まれます。

ただし所得の計算がそのままでも、そこから先の控除は住民税独自です。住民税の基礎控除は前年合計所得金額2,400万円以下なら43万円で、均等割・所得割それぞれに非課税の限度額があります。所得税がかからないからといって住民税もかからないとは限りません。

落とし穴 — 実務で間違えやすい5点

1. この特例で赤字は作れない

措置法27条の後段が総収入金額を限度と定めています。総収入金額が40万円の人が69万円の必要経費を立てて29万円の赤字にする、ということはできません。必要経費は40万円で止まり、所得は0円です。他の所得と損益通算する目的では使えません。

2. 公的年金等に係る雑所得は、上限の計算から除く

限度を定める括弧書きは公的年金等に係るものを除くとしています。公的年金等に係る雑所得の収入は特例経費の上限に含めません。事業所得と雑所得の両方がある場合は、区分した特例経費を、それぞれの事業収入と公的年金等以外の雑収入の範囲に収めます。年金収入を足して上限を大きくすることはできません。

3. 実費が69万円を超えるなら、実費で申告する

条文は必要経費の合計額が69万円(給与所得もある人は69万円−給与所得控除額)に満たないときに働く規定です。実費が80万円かかっているなら80万円が必要経費で、この特例の出番はありません。特例を使うと必ず得をするわけではないので、まず実費を集計してから比べてください。

4. 青色申告特別控除とは別の段階なので、事業所得で青色申告をしていれば両方使える(事業所得から引ける額は控除前の事業所得が限度。不動産所得等がある場合はそちらも確認)

措置法27条が決めるのは必要経費の額で、青色申告特別控除(措置法25条の2)は、そうして計算された事業所得の金額から差し引くものです。条文の段階が違うので、互いを排除しません。事業所得として青色申告をしている家内労働者等は、両方を使えます(ただし青色申告特別控除は控除前の所得金額が限度なので、特例の経費で事業所得が0円になれば事業所得からの控除は0円です。不動産所得もある場合は、不動産所得から先に控除します。10万円控除は不動産所得・事業所得・山林所得の順で控除し、55万円・65万円控除を適用する年分には10万円控除を重ねません)。ただし青色申告特別控除は事業所得等が対象なので、雑所得だけの人には適用がありません。

5. 給与が69万円ちょうどでも使えない

条文は69万円から給与所得控除額を控除した残額と定めているので、給与収入が69万円ちょうどのときの残額は0円です。1円でも枠が残るのは、給与収入が69万円未満のときだけです。パート先を年末に少し多めに働いた結果、内職側の枠が消えることがあります。年内の給与総額は12月までに確かめておくと安心です。

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よくある質問

家内労働者等の必要経費の特例は、令和8年分はいくらですか?

69万円です(給与所得もある人は69万円から給与所得控除額を引いた残額で、事業所得・公的年金等以外の雑所得の総収入金額が限度)。租税特別措置法27条の令和8年12月1日施行版に六十九万円と書かれており、国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」2ページにも、給与所得控除の最低保障額の引上げに伴って69万円(改正前65万円)に引き上げられた旨が記載されています。適用は令和8年分以後の所得税からで、令和7年分以前は従前どおりです(令和8年法律第12号 附則34条1項)。国税庁のタックスアンサーNo.1810は令和8年4月1日現在法令等として、令和8年分69万円・令和7年分65万円を案内しています。

55万円という説明をよく見かけますが、間違いですか?

年分が違うだけで、その年分については正しい額です。55万円は令和2年分から令和6年分までの額でした(平成30年法律第7号 附則72条により令和2年分から適用)。その前の令和元年分以前は65万円、令和7年分はふたたび65万円、そして令和8年分以後が69万円です。過去の年分について修正申告や更正の請求をするときは、その年分の額を使います。69万円を過去の年分に遡って使うことはできません。

業務委託で在宅ワークをしています。家内労働者に当たりますか?

家内労働法2条2項の家内労働者は物品の製造や加工などに従事する人を指すので、文章の作成やデータ入力といった仕事は、その定義には当たりません。ただし租税特別措置法施行令18条の2第1項が、集金人や電力量計の検針人のほか、特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする者も対象に含めています。決まった相手から継続して業務委託を受けている形であれば、こちらの入口で対象になり得ます。逆に不特定多数の顧客を相手に自分で営業して仕事を取っている形では当てはまりにくくなります。判断に迷う場合は税務署または税理士にご確認ください。

パートの給与があっても使えますか?

給与の収入金額が69万円未満なら使えます。租税特別措置法27条の括弧書きにより、給与所得がある人の枠は69万円から給与所得控除額を差し引いた残額になるためです。令和8年分の給与所得控除額は収入金額が74万円に満たないときはその収入金額と同額なので、たとえば給与収入60万円なら枠は9万円です。給与収入が69万円以上になると引き算の結果が0以下になり、特例は使えません。なお枠より実費のほうが多い場合は、実費が必要経費になります。

いくらまで稼げば所得税がかかりませんか?扶養にはいくらまで入れますか?

この特例の対象となる所得だけを得ていて、実費69万円以下・青色申告特別控除等なしの令和8年分の単純例であれば、総収入金額が173万円以下なら本人に所得税はかかりません。69万円に令和8年分の基礎控除104万円を足した額です。この特例の対象となる所得だけの人が扶養親族や同一生計配偶者になれるのは総収入金額131万円以下で、69万円に令和8年分の所得要件62万円を足した額になります(扶養する人の合計所得金額が1,000万円を超えると配偶者控除は受けられません)。給与だけで働く人の178万円・136万円より5万円低いのは、令和8年分と令和9年分に限って給与所得控除の最低控除額を74万円とする特例(措置法29条の4第1項)が給与側にだけ適用されるためです。住民税は基礎控除も非課税の判定も別なので、この173万円は住民税のラインではありません。(給与収入への換算は、収入が給与だけで特定支出控除の適用がない場合です。)

事業所得と雑所得の両方があるときは、どう振り分けますか?

それが雑所得の総収入金額(公的年金等に係るものを除く)を超えてしまう場合は、超えた分を事業所得の必要経費に回します(事業所得の側も事業所得の総収入金額が限度です)。租税特別措置法施行令18条の2第2項2号の定めで、折り返しが起きるのは同法27条の後段が総収入金額を限度としているためです。たとえば給与がなく、事業所得の総収入90万円・実費20万円、雑所得の総収入30万円・実費4万円なら、余り45万円をまず雑所得に足して4万円+45万円=49万円としますが、総収入30万円が限度なので30万円で止まり、あふれた19万円が事業所得に回って20万円+19万円=39万円になります。

住民税でもこの特例は使えますか?

使えます。地方税法には家内労働という語が一度も出てきませんが、同法32条2項(道府県民税)と313条2項(市町村民税)が、所得割の課税標準となる総所得金額等は所得税法その他の所得税に関する法令の規定による計算の例により算定すると定めているためです。租税特別措置法はこの所得税に関する法令に含まれ、所得金額を計算する段階で措置法27条が効いているので、住民税側であらためて規定を置く必要がありません。ただし住民税の基礎控除は前年合計所得金額2,400万円以下なら43万円で、均等割・所得割それぞれに非課税限度額があるため、所得税がかからない収入でも住民税はかかることがあります。

この特例を使うと、必ず税金が安くなりますか?

必ずではありません。租税特別措置法27条は必要経費の合計額が69万円(給与所得もある人は69万円−給与所得控除額)に満たないときに働く規定なので、実際にかかった経費がその額以上の方には出番がありません。その場合は実費をそのまま必要経費として申告します。また同条の後段が総収入金額を限度と定めているため、この特例で赤字を作って他の所得と損益通算することもできません。まず実費を集計し、給与所得控除がある場合は69万円から差し引いて特例枠を求めます。特例で計上する経費は事業・公的年金等以外の雑所得それぞれの総収入金額が限度です。実費が特例枠以上なら実費を使います。

令和8年12月1日より前に令和8年分の申告を済ませてしまいました。やり直せますか?

令和8年12月1日前に令和8年分の所得税法125条・127条の確定申告書を出した方や決定を受けた方なら、新しい措置法27条で変わる事項について、令和8年12月1日から5年以内に更正の請求でやり直せます。令和8年法律第12号の附則34条2項が、令和8年12月1日前に所得税法125条または127条(これらを同法166条で準用する場合を含む)の規定による確定申告書を提出した方や、同日前に決定を受けた方について、令和8年12月1日から5年以内に更正の請求ができると定めています。所得税法125条は亡くなった方の準確定申告、127条は年の途中で出国する方の申告です。これらの申告等で新27条の適用により金額が変わる事項について、改めて計算できます。総収入・実費・給与所得控除によっては差がなく、経費が4万円増えるとは限りません。

出典

租税特別措置法27条・同法施行令18条の2の令和8年12月1日施行版(e-Gov法令検索)と、国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」に基づく。

この記事は令和8年(2026年)8月時点でe-Gov法令検索により確認した条文と、国税庁が公表している資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案についての相談に対する回答ではありません。筆者は税理士ではありません。家内労働者等に当たるかどうかは業務の実態によって判断されるため、ご自身が対象になるかどうかや実際の申告額については、所轄の税務署または税理士にご確認ください。

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