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カスハラ対策の義務化はいつから — 令和8年10月1日施行。新設33条と、ずれる条番号

結論から言うと、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応は、令和8年(2026年)10月1日から事業主の義務になります。根拠は労働施策総合推進法に新しく設けられる33条1項です。逆に言えば、この記事を書いている令和8年8月16日の時点ではまだ施行されていません。義務化を「もう始まっている」と書いている解説を見かけますが、条文上の期日は10月1日で、残り46日です。

実務でいちばん見落とされやすいのは、同じ日にパワハラの条番号が変わることです。現在「労働施策総合推進法30条の2」として引用されているパワハラの措置義務は、10月1日から31条になります。中身は1文字も変わりません。変わるのは番号だけです。就業規則やハラスメント防止規程に「法第30条の2に基づき」と条番号を書き込んでいる会社は、その記載が10月1日に古くなります。

もう1つ、パワハラのときと決定的に違う点があります。パワハラの義務化には中小企業向けの猶予期間(当初は努力義務)がありましたが、カスハラにはその猶予がありません。改正法の附則を通して読んでも、中小事業主の読み替え規定は置かれていないため、規模にかかわらず10月1日から一律に義務がかかります。

いつから義務になるのか(施行日と、いまの位置)

改正法は令和7年法律第63号(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律)で、公布は令和7年6月11日です。この法律は一度に全部が動くのではなく、段階的に施行されます。e-Gov法令検索で労働施策総合推進法のリビジョンを引くと、同じ令和7年法律第63号による改正が3回に分かれて入っていることが確認できます。

施行日状態(令和8年8月16日時点)主な内容
令和7年6月11日施行済み公布日施行の部分
令和8年4月1日施行済み(現行)27条の3(治療と就業の両立支援)の新設など
令和8年10月1日未施行(あと46日)カスハラの措置義務(33条)・責務規定(34条)の新設と、第10章の条番号の付け替え

改正法の附則1条は「公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と書いており、条文自体は日付を持っていません。実際の日付は政令で定められ、e-Gov法令検索の未施行リビジョン(341AC0000000132_20261001_507AC0000000063)が令和8年10月1日を施行日として持っています。附則の文言だけを読むと上限は令和8年12月11日ですが、政令で10月1日に決まっている、という関係です。

令和7年6月11日 公布 令和8年4月1日 一部施行(現行) 令和8年10月1日 カスハラ義務化 33条・34条 新設 30条の2 → 31条 いまここ(令和8年8月16日) 残り46日・まだ義務ではない
令和7年法律第63号は3段階で施行される。カスハラの措置義務が入るのは3段目の令和8年10月1日で、記事執筆時点では未施行。

義務の中身は33条1項の一文にある

新設される33条1項は、一文が非常に長い条文です。分解すると、誰の言動が対象かどこからが「行き過ぎ」か事業主は何をするのかの3つで構成されています。

条文は、事業主は「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者」の言動であって、「その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの」により「当該労働者の就業環境が害されることのないよう」、次の措置を講じなければならない、と定めています。

2つ目の「抑止のための措置」はパワハラには無い文言です

パワハラの条文(現31条1項)が求めているのは「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」までで、抑止という言葉は出てきません。カスハラの33条1項には、これに加えて「対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置」が明記されています。相談窓口を作って終わり、という形では条文の要求を満たしていないことになります。

33条2項は、労働者が相談したこと、または会社の対応に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないと定めます。「相談した本人」だけでなく、調査に協力して証言した人も保護される書き方になっている点は実務上重要です。

33条3項は、他の事業主から協力を求められたときは応ずるよう努めなければならないという努力義務です。自社の従業員が取引先の従業員に対して行き過ぎた言動をした場合、取引先が調査や再発防止に動くことがあります。そのときに協力する、という向きの規定です。

33条4項は、厚生労働大臣が指針を定めると規定しています。実際に何をどこまでやれば「必要な措置」を講じたことになるのかは、この指針で示されます。改正法の附則3条により、指針は施行日前でも策定・公表できることになっています。

「顧客等」と「顧客等言動」の定義 — パワハラと物差しが違う

カスハラとパワハラは、同じ第10章に並ぶ規定でありながら、「行き過ぎ」を測る物差しの言葉が違います。ここを取り違えると、社内研修の説明が条文とずれます。

パワハラ(31条1項)カスハラ(33条1項)
誰の言動か職場において行われる言動(行為者の限定は「優越的な関係を背景とした」で表現)顧客、取引の相手方、施設の利用者その他その事業に関係を有する者(=顧客等
前提となる関係優越的な関係を背景としたことが要件この要件は無い
行き過ぎの基準業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの
守る対象その雇用する労働者の就業環境その雇用する労働者の就業環境
措置の中身相談体制の整備その他雇用管理上必要な措置左に加えて抑止のための措置

パワハラの基準が「業務上必要かつ相当な範囲」であるのは、上司の指導という本来必要な行為との線引きが問題になるからです。一方カスハラの相手は社外の顧客等なので、業務上の指導かどうかという軸は使えません。そこで「業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲」という、より一般的な物差しが採られています。

「業務の性質その他の事情に照らして」は業種差を織り込む言葉です

同じ言動でも、業務の性質によって許容される範囲は変わりうる、という含みがこの一句にあります。条文は業種ごとの基準を書いていないため、具体的な線引きは33条4項の指針に委ねられています。

なお、条文の構造として押さえておきたいのは、「就業環境が害される」ことは顧客等言動の定義には入っていないことです。定義(かっこ書き)は「社会通念上許容される範囲を超えたもの」までで、就業環境が害されないようにする、というのは措置の目的の側に置かれています。

① 誰の言動か 顧客・取引の相手方 施設の利用者ほか =「顧客等」 ② 行き過ぎか 業務の性質その他の事情 に照らして社会通念上 許容される範囲を超えた ③ 事業主の措置 相談体制の整備 抑止のための措置 その他必要な措置 33条2項 不利益取扱いの禁止 相談した労働者だけでなく 協力して事実を述べた者も対象 33条3項 他社への協力(努力義務) 他の事業主から措置の実施に関し 協力を求められたら応ずるよう努める
33条1項は「顧客等の範囲」「社会通念上許容される範囲を超えたか」「講ずべき措置」の3段構造。2項・3項がこれを支える。
カスハラが原因で心身の不調が続き会社を休んだとき、健康保険から受けられる傷病手当金の額を計算する

条番号が全部ずれる(30条の2 → 31条)

ここが、この改正のいちばん実務的な影響が大きい部分です。第10章に2条(33条・34条)が挿入されることに伴い、第10章以降の条番号がすべて繰り下がります

内容現行(令和8年9月30日まで)改正後(令和8年10月1日から)本文の変更
パワハラの雇用管理上の措置義務30条の231条無し(見出しのみ変更)
パワハラの責務規定30条の332条無し
カスハラの措置義務33条(新設)
カスハラの責務規定34条(新設)
紛争の解決の促進に関する特例30条の435条カスハラを追加
紛争の解決の援助30条の536条引用条文の付け替え
調停の委任30条の637条引用条文の付け替え
調停30条の738条引用条文の付け替え
厚生労働省令への委任30条の839条無し
助言、指導及び勧告並びに公表33条42条公表対象にカスハラを追加
報告の請求36条45条カスハラを追加
罰則39条49条引用条文の付け替え

パワハラの措置義務については、現行30条の2と改正後31条の本文を1文字ずつ照合しても差がありません(この記事では条ごとにハッシュを取って一致を確認しました)。変わったのは条番号見出しだけです。見出しは「(雇用管理上の措置等)」から「(職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)」になり、カスハラ側の見出しと区別できる形になります。

社内文書の「法第30条の2」という記載は10月1日に古くなります

ハラスメント防止規程・就業規則・研修資料・相談窓口の案内文などで、パワハラの根拠として「労働施策総合推進法第30条の2」と条番号を書き込んでいる場合、その記載は令和8年10月1日から実在しない条文を指すことになります。義務の内容そのものは変わらないため、慌てて中身を作り直す必要はありませんが、条番号を書いている箇所は洗い出しておく必要があります。条番号を書かず「労働施策総合推進法に基づき」とだけ書いている規程であれば、この点の改訂は不要です。

あわせて、第10章の章名も変わります。現行は「職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」ですが、改正後は「職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」となり、「等」の1文字が入ってカスハラを含む章になります。

中小企業の猶予は無い — パワハラとの決定的な違い

パワハラが義務化されたときは、中小事業主に対する経過措置が置かれていました。令和元年法律第24号の附則3条が、中小事業主については一定の日までの間、条文の「講じなければならない」を「講じるように努めなければならない」と読み替える、と定めていたためです。つまり大企業が先に義務化され、中小企業は当面のあいだ努力義務にとどまっていました。

今回のカスハラの改正法(令和7年法律第63号)の附則には、この種の読み替え規定がありません。附則の全文を通して確認しても「中小」「猶予」「当分の間」といった語は一度も出てきません。したがって、規模にかかわらず令和8年10月1日から一律に義務がかかります。

パワハラ(令和元年法律第24号)カスハラ(令和7年法律第63号)
中小事業主の経過措置あった(附則3条で「努めなければならない」に読み替え)無い
中小事業主の定義資本金3億円以下(小売・サービス業5,000万円以下、卸売業1億円以下)または常時使用する労働者300人以下(小売業50人以下、卸売業・サービス業100人以下)—(読み替え規定が無いため定義も置かれていない)
大企業と中小企業の適用開始日ずれていた同じ(令和8年10月1日)

守らなかったらどうなるか(公表・過料・調停)

まず前提として、33条1項の措置義務に違反したこと自体に、罰金や過料は定められていません。改正後の罰則規定(49条〜51条)を読むと、カスハラの措置義務違反は列挙されていないためです。ただし、罰則が無いことと放置できることは別です。実効性を確保する仕組みが3つあります。

1. 勧告に従わなければ公表される(42条2項)

厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して助言・指導・勧告ができます(42条1項)。そのうえで42条2項は、33条1項及び2項の規定に違反している事業主に勧告をした場合において、勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができると定めています。

この公表対象の列挙には、31条1項・2項(パワハラ)、33条1項・2項(カスハラ)、36条2項、37条2項が並びます。逆に33条3項(他社への協力)と34条(責務)は列挙されていません。努力義務にとどまる部分は公表の対象外、という整理です。

2. 報告を求められて応じなければ20万円以下の過料(45条1項・51条)

45条1項は、厚生労働大臣が事業主から33条1項及び2項などの施行に関し必要な事項について報告を求めることができると定めます。そして51条は、45条1項の報告をせず、又は虚偽の報告をした者は20万円以下の過料に処すると定めています。

罰則が効くのは「措置を講じなかったこと」ではなく「報告しなかったこと」です

対策が不十分であること自体は過料の対象ではありません。行政から報告を求められたのに応じなかった、あるいは虚偽の報告をした場合に20万円以下の過料がかかる、という構造です。なお50条には30万円以下の罰金の規定もありますが、その対象は27条1項(大量雇用変動の届出)・28条1項(外国人雇用状況の届出)・43条1項(報告及び立入検査)・45条2項であり、カスハラは含まれていません。立入検査の権限を定める43条1項も、27条1項と28条1項の施行のために必要な限度と書かれており、ハラスメント関係には及びません。

3. 労働局の援助・調停という専用ルート(35条〜39条)

35条は、33条1項・2項に定める事項についての労働者と事業主との紛争について、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の4条・5条・12条から19条までを適用しないと定め、代わりに36条以下(都道府県労働局長による助言・指導・勧告、紛争調整委員会による調停)によることとしています。パワハラと同じ扱いです。

さらに36条2項・37条2項は、労働者が労働局に援助を求めたこと調停を申請したことを理由とする不利益取扱いを禁止しており、これらも42条2項の公表対象に含まれています。

34条の責務 — 顧客側にも、自社が加害者になる場合にも及ぶ

34条は責務規定で、国・事業主・労働者・顧客等の4者について努力義務を定めます。すべて努力義務であり、公表や過料の対象ではありませんが、条文の向きが独特です。

誰の責務か内容
1項顧客等言動を行ってはならないことなどについて、各事業分野の特性を踏まえつつ広報・啓発を行う
2項事業主雇用する労働者の関心と理解を深め、労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう研修の実施その他の配慮をする
3項事業主(法人の場合はその役員自らも関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払う
4項労働者関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に注意を払い、事業主の措置に協力する
5項顧客等関心と理解を深め、労働者に対する言動がその就業環境を害することのないよう必要な注意を払う

注目すべきは2項から4項が「他の事業主が雇用する労働者に対する言動」を向いていることです。33条が「自社の従業員を守る」規定であるのに対し、34条2項〜4項は自社やその役員・従業員が、取引先や委託先の従業員に対して加害者側になることを戒めています。カスハラを「クレーム対応の話」だと受け取ると、この向きを見落とします。自社が発注者・購入者の立場になる場面も、この法律の射程に入っています。

また5項は、顧客等自身に努力義務を課しています。労働関係の法律が、雇用関係にない一般の消費者・取引相手に直接努力義務を定めるのは珍しい形です。もちろん努力義務なので、顧客が違反しても行政処分や罰則はありません。

対象から外れるもの(フリーランス・一部の公務員)

33条の主語は「事業主は」で、守る対象は「その雇用する労働者」です。したがって、雇用関係にない人はこの条文の保護対象ではありません

フリーランスは今回の措置義務の対象外で、附則の検討条項にとどまっています

改正法の附則8条の2は、特定受託事業者(フリーランス新法2条1項の特定受託事業者)が受けた業務委託に係る業務において行われる顧客等の言動によって、特定受託業務従事者の就業環境が害されることのないようにするための施策について、政府が検討を加え、必要があると認めるときは所要の措置を講ずると定めています。つまり、立法の段階で意識的に本則から外され、将来の検討事項として整理されたことが附則から読み取れます。業務委託先のフリーランスへのカスハラ対策は、令和8年10月1日時点では33条の義務の範囲外です。

公務員についても、48条(適用除外)が細かく場合分けをしています。ここは読み間違えやすい部分です。

対象31条〜34条(パワハラ・カスハラの措置義務と責務)35条〜39条(紛争解決)・42条(公表)・45条1項(報告請求)
一般職の国家公務員、裁判所職員、国会職員、自衛隊員適用しない適用しない
地方公務員適用する適用しない

つまり地方公務員については、措置義務そのものは及ぶ一方で、労働局の調停や公表・報告請求といった実効性確保の手続だけが外れるという構造になっています。国家公務員(一般職)の場合は措置義務自体が適用されず、人事院規則など別の枠組みで扱われます。

間違えやすい点

よくある質問

Q. カスハラ対策はいつから義務になりますか?

A. 令和8年(2026年)10月1日からです。根拠は労働施策総合推進法に新設される33条1項で、令和7年法律第63号による改正です。この改正法の附則1条は「公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定めており、条文自体には日付が書かれていませんが、e-Gov法令検索の未施行リビジョンが施行日として令和8年10月1日を持っています。したがって、この記事を書いている令和8年8月16日の時点ではまだ施行されていません。なお同じ令和7年法律第63号は3段階に分けて施行されており、令和8年4月1日に施行された部分(治療と就業の両立支援に関する27条の3の新設など)は既に現行の条文になっています。カスハラの部分だけが3段目として残っている、という状態です。

Q. 中小企業にも猶予期間はありませんか?

A. ありません。パワハラが義務化されたときは、令和元年法律第24号の附則3条により、中小事業主については一定の日までの間、条文の「講じなければならない」を「講じるように努めなければならない」と読み替える経過措置が置かれていました。今回のカスハラの改正法(令和7年法律第63号)の附則には、この種の読み替え規定が置かれていません。附則の全文を確認しても「中小」「猶予」「当分の間」といった語は一度も現れないため、事業規模にかかわらず令和8年10月1日から一律に義務がかかることになります。パワハラのときの経験から「うちは中小だから当面は努力義務だろう」と考えると、施行日を取り違えることになります。

Q. パワハラの規定は何か変わりますか?

A. 条番号と見出しが変わりますが、本文は変わりません。現行の30条の2が改正後は31条になります。この記事では現行版と未施行版の条文を条単位で取得し、ハッシュで照合したうえで、本文が一致することを確認しています。変わるのは見出しで、「(雇用管理上の措置等)」から「(職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)」になり、新設されるカスハラ側の見出しと区別できる形になります。実務上の注意点は、ハラスメント防止規程や就業規則、研修資料に「労働施策総合推進法第30条の2」と条番号を書き込んでいる場合、その記載が令和8年10月1日から実在しない条文を指すことになる点です。義務の中身は変わらないので規程の内容を作り直す必要はありませんが、条番号を書いている箇所は洗い出しておくことになります。

Q. カスハラ対策をしないと罰則がありますか?

A. 措置義務に違反したこと自体を罰する規定はありません。改正後の罰則規定を見ると、50条の30万円以下の罰金の対象は27条1項(大量の雇用変動の届出)・28条1項(外国人雇用状況の届出)・43条1項(報告及び立入検査)・45条2項であり、カスハラは含まれていません。一方で51条は、45条1項の報告をせず、又は虚偽の報告をした者を20万円以下の過料に処すると定めており、45条1項は33条1項・2項の施行に関し必要な事項の報告請求を含みます。つまり、対策が不十分であること自体ではなく、行政から報告を求められて応じなかったこと・虚偽の報告をしたことに過料がかかる構造です。また42条2項により、33条1項・2項に違反している事業主が勧告を受けてこれに従わなかったときは、その旨を公表することができるとされています。

Q. 具体的に何をすれば「必要な措置」を講じたことになりますか?

A. 条文が明示しているのは、相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置、その他の雇用管理上必要な措置の3つです。パワハラの条文と読み比べると、「抑止のための措置」がカスハラだけに置かれている点が違いで、相談窓口の設置だけでは条文の求める形になっていないことが読み取れます。ただし、どこまでやれば足りるかという具体的な水準は条文には書かれていません。33条4項が、厚生労働大臣が事業主の講ずべき措置等に関して適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めると規定しており、実務の基準はこの指針で示されます。改正法の附則3条により指針は施行日前でも策定・公表できることになっているため、自社の体制を固める前に指針の内容を確認することをおすすめします。

Q. 業務委託しているフリーランスへのカスハラも対象ですか?

A. 33条の対象ではありません。33条1項は事業主が「その雇用する労働者」の就業環境が害されることのないよう措置を講じなければならないという構造なので、雇用関係にない業務委託先は保護対象に含まれません。ただし改正法の附則8条の2が、特定受託事業者(フリーランス新法2条1項の特定受託事業者)が受けた業務委託に係る業務において行われる顧客等の言動により、特定受託業務従事者の就業環境が害されることのないようにするための施策について、政府が検討を加え、必要があると認めるときは所要の措置を講ずると定めています。つまり立法の段階で本則から外し、将来の検討事項として整理したことが附則から読み取れます。なお、自社の従業員が委託先のフリーランスに行き過ぎた言動をする場面については、34条2項から4項が「他の事業主が雇用する労働者に対する言動」に注意を払う努力義務を定めていますが、これも雇用されている労働者を念頭に置いた書き方です。

Q. カスハラを受けた従業員が労働局に相談すると、どうなりますか?

A. 35条により、33条1項・2項に定める事項についての労働者と事業主との紛争には、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の4条・5条および12条から19条までが適用されず、代わりに36条以下の専用ルートによることになります。具体的には、都道府県労働局長が紛争の当事者の双方または一方から解決の援助を求められた場合に必要な助言・指導・勧告をすることができ(36条1項)、調停の申請があった場合には紛争調整委員会に調停を行わせるものとされています(37条1項)。あわせて36条2項・37条2項が、労働者が援助を求めたことや調停を申請したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁じており、この2つも42条2項の公表対象に含まれています。なお、この紛争解決の枠組みは国家公務員および地方公務員には適用されません(48条)。

Q. 顧客の側にも何か義務がありますか?

A. 34条5項が、顧客等は顧客等言動問題に対する関心と理解を深めるとともに、労働者に対する言動が当該労働者の就業環境を害することのないよう必要な注意を払うように努めなければならない、と定めています。ただしこれは努力義務であり、顧客が従わなかったことに対する行政処分や罰則は定められていません。この法律が事業主に課しているのは「顧客を取り締まること」ではなく、自社の労働者を守るための体制整備と抑止の措置です。なお34条は責務規定であるため、42条2項の公表対象の列挙にも含まれていません。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。ある顧客の言動が「社会通念上許容される範囲を超えたもの」に当たるかどうか、また自社の体制が33条1項の「必要な措置」を満たすかどうかは、業務の性質その他の事情を踏まえて個別に判断されるものであり、施行後に示される指針の内容にもよります。自社の規程の整備、相談体制の設計、個別のトラブルへの対応については、社会保険労務士・弁護士または都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)にご確認ください。

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