給与支払事務所等の開設届出書 — 開業届が緩和されても、こちらは1か月以内のまま
結論から言うと、給与支払事務所等の開設届出書の期限はその事実があった日から1か月以内で、これは2026年時点でも、将来の施行分まで確認しても変わっていません。所得税法230条がそう定めています。
ここが実務で混乱するのは、同じ所得税法の1つ前の条文だけが緩和されたからです。開業届(229条)は2026年1月から期限が「確定申告期限まで」になりました。しかし230条は据え置きです。同じ日に事業を始めて同じ日に人を雇っても、2つの届出の期限は別々に走り出します。しかも先に来るのは、緩和されなかった開設届出書のほうです。
もう1つ、様式の記載要領まで読まないと分からない落とし穴があります。支店を閉鎖しても、この届出書でいう「廃止」にはなりません。閉鎖した支店の源泉所得税の納税地は、消えるのではなく本店や他の支店へ引き継がれます。ここを「廃止」で出してしまう誤りは、後から納税地の話になって表面化します。
期限は1か月以内。緩和されたのは開業届だけ
所得税法230条は、給与の支払事務を取り扱う事務所を設けた場合の届出について、次のように定めています。
国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、又はこれらを移転し、若しくは廃止した者は、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。
期限を定めているのは「その事実があつた日から一月以内に」の部分です。一方、開業届を定める229条は、2026年1月1日以後に開業した場合について次のようになっています。
居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、又は当該事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、若しくはこれらを移転し、若しくは廃止した場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、税務署長に提出しなければならない。
229条は「その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに」となり、1か月という表現が条文から消えています。230条にはその手当てが入っていません。
2026年5月10日に個人で事業を始め、同じ日に従業員を雇ったとすると、期限は次のように割れます。
開業届の期限だけを覚えていると、いちばん遅い期限に合わせて全部を出しに行くことになります。実務上は、期限が短い順に並べて、いちばん短い開設届出書に合わせて一度に提出するのが安全です。
どこの税務署に出すか — 移転のときだけ「移転前」
提出先は所得税法施行規則99条が定めています。条文の書き出しは次のとおりです。
国内において法第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この条において「給与等」という。)の支払事務を取り扱う事務所、事業所その他これらに準ずるもの(以下この条において「給与支払事務所等」という。)を設け、又はこれを移転し、若しくは廃止した者は、その事実につき前条の届出書を提出すべき場合を除き、法第二百三十条(給与等の支払をする事務所の開設等の届出)の規定により、次に掲げる事項を記載した届出書を、その給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長(給与支払事務所等を移転する場合には、その移転前の給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長)に提出しなければならない。
読み取れることが3つあります。
| 場面 | 提出先 |
|---|---|
| 開設したとき | その給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長 |
| 移転したとき | 移転「前」の給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長 |
| 廃止したとき | その給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長 |
移転のときだけ、提出先が引っ越し先ではなく引っ越し元になります。新しい住所の税務署に出しに行きたくなる場面ですが、条文はそうなっていません。国税庁の手続案内も、提出先について移転の場合は移転前の事務所等の所在地の所轄税務署としています。
「開業届を出すなら不要」は終わりつつある — 法律と省令が1年ずれている
かつては、開業届を出す場合にはこの届出書が要らないという除外がありました。2025年12月18日時点で効力を持っていた230条は、次のように書かれていました。
国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、又はこれらを移転し若しくは廃止した者は、その事実につき前条の届出書を提出すべき場合を除き、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。
「その事実につき前条の届出書を提出すべき場合を除き」という一句が入っています。前条とは開業届の229条です。この一句は、2026年1月1日から効力を持つ230条では削除されています。この記事の冒頭で引いた現行条文と読み比べると、その部分だけが無くなっていることが分かります。
開業届の期限が確定申告期限まで伸びたため、除外を残すと源泉徴収に関わる届出まで翌年3月まで遅れてしまう、という関係にあります。法律の側では、開業届を出すかどうかにかかわらず1か月以内に出す形になりました。
この1年のずれをどう読むかは、実務では次のように整理するのが安全です。
| 時期 | 法230条の除外 | 規則99条の除外 |
|---|---|---|
| 2025年12月31日まで | あり | あり |
| 2026年1月1日〜12月31日 | なし(削除済み) | あり(まだ残っている) |
| 2027年1月1日から | なし | なし |
提出義務そのものを定めているのは法律の230条で、省令99条が定めているのは記載事項と提出先です。その法律から除外が消えている以上、2026年中に開業と同時に人を雇った場合であっても、1か月以内に開設届出書を出しておくのが安全な扱いになります。国税庁の手続案内も、提出時期を開設・移転・廃止の事実があった日から1か月以内とだけ記載しており、開業届を出す場合の除外には触れていません。
法人については、そもそも規則98条(開業届の記載事項)の適用がありません。98条の名宛人は条文上「居住者又は非居住者」、すなわち個人だからです。会社を設立して役員報酬や給与の支払いを始めるなら、法人設立届出書とは別に、開設届出書を1か月以内に出すことになります。設立後の書類の期限は会社設立でやることに、開業届そのものの期限は開業届はいつまでに出す?に整理しています。
何を書くか — 施行規則が定める5つの事項
施行規則99条は、届出書に記載すべき事項として5つの号を挙げています。号の数は条文の木構造から数えて5個です。
| 号 | 記載する事項 |
|---|---|
| 1号 | 提出者の氏名または名称、住所・居所または本店・主たる事務所の所在地、および個人番号または法人番号 |
| 2号 | 給与支払事務所等を設け、移転し、または廃止した旨と、その年月日 |
| 3号 | 給与支払事務所等の所在地(移転の場合は移転前と移転後の両方) |
| 4号 | 提出日現在で、その事務所で給与等の支払を受ける者の職種等の別の人員数 |
| 5号 | その他参考となるべき事項 |
4号が求めているのは総人数ではなく職種等の別の人員数です。国税庁の記載要領も、従事員数欄には給与等を支払う職種別の人数を記載し、役員および従業員以外は「その他」欄の区分に職種を書いてその人数を記載する、としています。
様式の欄で判断に迷いやすいのが「給与支払を開始する年月日」です。記載要領は、この欄を給与支払事務所等を開設した月中に給与の支払が開始されない場合に、給与の支払を開始した日または開始予定日を記載する欄だと説明しています。開設した月のうちに支給が始まるなら、埋めなくてよい欄ということです。
なお、様式のいちばん下にある「税務署整理欄」は、記載要領が記載しないでくださいと明記している欄です。
源泉徴収税額を計算する(月額表・甲欄乙欄に対応)支店を閉じても「廃止」にはならない
ここが、この届出書でいちばん間違えやすいところです。記載要領の注記は、支店等の給与支払事務所等について、事務所開設者が廃業又は清算結了しない限り廃止したことにはならないと述べています。
つまり、支店を1つ閉鎖しても、会社そのものが廃業や清算結了に至っていなければ、それは「廃止」ではありません。閉鎖した支店の源泉所得税の納税地は、他の給与支払事務所等(本店または他の支店等)の所在地に引き継がれます。
実務上の意味は、閉鎖した支店の分の源泉所得税を、どこに納めるかが変わるという点にあります。支店を閉じたあとに支払う給与や、閉鎖前の支払いにかかる源泉所得税について、納付先が引継先の事務所の所在地になります。「廃止」で届け出て、そのまま何も納めなくてよいと考えると、納付漏れになります。
合併・分割・支店閉鎖で納税地が引き継がれる先
記載要領は、既存の給与支払事務所等への引継ぎをする場合について、引継理由ごとに書くべき事務所を表で示しています。整理すると次のとおりです。
| 引継理由 | 引継ぎをする前の給与支払事務所等 | 引継先の給与支払事務所等 |
|---|---|---|
| 法人の合併 | 被合併法人(被合併法人の本店および支店等) | 合併法人の本店または支店等 |
| 法人の分割 | 分割法人(分割法人の本店および支店等) | 分割承継法人の本店または支店等 |
| 支店等の閉鎖 | 閉鎖される支店等 | 閉鎖される支店等の給与支払事務を引き継ぐ本店または他の支店等 |
合併と分割については、記載要領が、被合併法人または分割法人の源泉所得税の納税地は、合併法人または分割承継法人の給与支払事務所等の所在地に引き継がれると明記しています。組織再編のあとで前身の法人あての納付書を使い続けないための注意点です。
法人成りしたときに書き足すこと
個人事業を法人化した場合、法人としての開設届出書を出すことになりますが、記載要領は「その他参考事項」欄について、法人成りにより個人の事業を廃止した場合のその廃止した事業に係る事業主、納税地、整理番号などを参考事項として記載するよう求めています。
この欄を空欄にしても様式としては成立しますが、書いておくと、個人時代の源泉所得税の整理番号と法人の届出がつながります。法人成りでは個人側の廃業手続と法人側の開設手続が同時に走るため、税務署側で名寄せができる情報を残しておくほうが、あとの照会が減ります。
このほか記載要領が挙げている参考事項には、外国法人である場合の国内における主たる事務所、外国法人の国外の本店が清算結了した場合のその旨および清算結了年月日があります。また、法人税法2条29号の2に規定する法人課税信託の受託者がこの届出書を提出する場合は、氏名または名称の欄に、受託者の氏名または法人の名称のほか、その法人課税信託の名称を併記することとされています。
提出方法は、e-Taxソフトで作成・提出するか、書面で所轄税務署に持参または送付します。税務署の開庁時間は8時30分から17時までで、閉庁日は時間外収受箱への投函でも提出できます。
よくある質問
Q. 給与支払事務所等の開設届出書はいつまでに出しますか?
A. その事実があった日から1か月以内です。所得税法230条が、給与等の支払事務を取り扱う事務所等を設け、移転し、または廃止した者について、その事実があつた日から一月以内に届出書を提出しなければならないと定めています。2026年1月に開業届の期限が確定申告期限までへ緩和されましたが、230条は据え置きで、2028年1月1日施行のリビジョンまで確認しても一月以内のままです。
Q. 開業届を出すなら、この届出書は不要ですか?
A. 2026年1月1日以後は、出しておくのが安全です。かつては所得税法230条に、その事実につき前条の届出書を提出すべき場合を除くという除外がありましたが、2026年1月1日から効力を持つ230条ではこの一句が削除されました。所得税法施行規則99条には同じ一句が2026年12月31日まで残っていますが、提出義務そのものを定めているのは法律の230条です。国税庁の手続案内も提出時期を1か月以内とだけ記載しており、開業届を出す場合の除外には触れていません。
Q. 事務所を移転したとき、提出先は移転先の税務署ですか?
A. 移転の場合の提出先は、移転前の給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長です。所得税法施行規則99条が括弧書きでそのように定めています。一方で、国税庁の記載要領は、移転前の支払に係る源泉所得税の納税地は届出書に記載された移転後の所在地とされるとしており、届出書の提出先と、その後の源泉所得税の納税地は別々に決まります。
Q. 支店を閉鎖したときは「廃止」で届け出ますか?
A. 一般に「廃止」には当たりません。国税庁の記載要領は、支店等の給与支払事務所等は事務所開設者が廃業又は清算結了しない限り廃止したことにはならないとしており、支店を閉鎖した場合のその納税地は、他の給与支払事務所等である本店または他の支店等の所在地に引き継がれると説明しています。したがって、閉鎖した支店の給与支払事務を引き継ぐ事務所への引継ぎとして記載することになります。
Q. 従事員数の欄には何を書きますか?
A. 提出日現在で、その給与支払事務所等において給与等の支払を受ける者の職種等の別の人員数を記載します。所得税法施行規則99条4号が記載事項として定めており、記載要領は、役員および従業員以外については「その他」欄の区分に職種を書いたうえでその人数を記載するよう求めています。総人数だけを書く欄ではありません。
Q. 会社を設立した場合、法人設立届出書を出せば足りますか?
A. 足りません。法人設立届出書は法人税法148条1項に基づく別の届出で、期限も設立の日以後2か月以内と異なります。給与支払事務所等の開設届出書は所得税法230条に基づくもので、期限は1か月以内です。設立して役員報酬や給与の支払いを始めるのであれば、期限が先に来る開設届出書のほうに合わせて準備することになります。
出典
- 所得税法(昭和四十年法律第三十三号)229条・230条 — e-Gov法令API v2(法令ID 340AC0000000033)で条文全文を取得。230条は2028年1月1日施行リビジョン(340AC0000000033_20280101_508AC0000000012)でも本文が同一であることを確認。削除前の230条は2025年12月18日施行リビジョン(340AC0000000033_20251218_507AC0000000013)から取得
- 所得税法施行規則(昭和四十年大蔵省令第十一号)98条・99条 — e-Gov法令API v2(法令ID 340M50000040011)。現行は2026年5月22日施行リビジョン。99条の号数は条文の木構造から5個と確認。除外の一句と4号の「職種等の別の」が消えるのは2027年1月1日施行リビジョン(340M50000040011_20270101_508M60000040017)で、2026年12月11日施行リビジョンにはまだ残っていることを両方取得して照合
- 国税庁「A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」(手続案内) — 提出時期・提出先・提出方法・手続根拠
- 国税庁「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書の記載要領等」(PDF) — 各欄の記載方法、移転・合併・分割・支店閉鎖の場合の納税地の引継ぎ、法人課税信託の名称の併記
この記事は令和8年(2026年)8月時点の条文および国税庁が公表する様式・記載要領に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案についての税務相談ではありません。筆者は税理士・弁護士・行政書士ではありません。開業届との関係でこの届出書の提出を要するかどうか、組織再編や支店閉鎖にともなう納税地の取扱いについては、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。