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裁量労働制とは|専門業務型と企画業務型の違いと、2024年4月に加わった本人同意

結論から言うと、裁量労働制でみなされるのは「労働時間」だけです。労働基準法38条の3・38条の4が定めているのは「協定や決議で決めた時間だけ働いたものとみなす」ということであって、深夜割増(37条4項)と法定休日の割増は、制度と無関係にそのまま発生します。「裁量労働制だから残業代は出ない」は、条文上そうなっていません。

そして裁量労働制は1つの制度ではなく、専門業務型(38条の3)と企画業務型(38条の4)の2つに分かれます。手続きの重さがまったく違い、専門業務型は労使協定で足りるのに対し、企画業務型は労使委員会の5分の4以上の議決定期報告まで要求されます。

実務でつまずくのは、たいてい「条文をそのまま読んだのに違った」という箇所です。対象業務は条文に5つしか書かれていないのに実際は20業務あり、本人同意は企画業務型なら法律に、専門業務型なら省令に書かれており、記録の保存期間は本則が5年なのに実務は3年です。いずれも、条文の本文だけを読むと逆の答えが出ます。以下、ひとつずつ確認します。

何がみなされ、何がみなされないのか

労働基準法38条の3第1項は、労使協定で定めた場合に「当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第二号に掲げる時間労働したものとみなす」と書いています。みなしの対象は労働時間の算定です。

この「みなし」がどこまで及ぶかは、労働基準法施行規則24条の2の2第1項が明示しています。「法第三十八条の三第一項の規定は、法第四章の労働時間に関する規定の適用に係る労働時間の算定について適用する」。つまり労働時間の算定にだけ効く、と省令が自分で範囲を区切っています。

みなしの外に残るもの

深夜割増は37条4項が「午後十時から午前五時までの間において労働させた場合」と実際に労働させたことを要件にしているため、みなし時間とは無関係に発生します。法定休日の労働も、みなしの対象である「労働時間」の枠外の話なので、37条1項の割増(休日は3割5分以上)が別に必要です。休憩(34条)も同じく外れません。

裁量に委ねられるのは「遂行の手段及び時間配分の決定等」であって、何曜日に働くか・深夜に働くかまで賃金の計算から消える制度ではない、と読むのが条文に忠実です。

2つの型 — 手続きの重さが違う

同じ「裁量労働制」でも、根拠条文が違えば手続きも違います。並べると次のとおりです。

専門業務型(38条の3)企画業務型(38条の4)
対象業務省令・告示で定められた20業務に限定事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務
決める主体労使協定(過半数労働組合、なければ過半数代表者)労使委員会の委員の5分の4以上の多数による議決
届出様式第13号(施行規則24条の2の2第4項)様式第13号の2(同24条の2の3第1項)
本人同意省令に規定(施行規則24条の2の2第3項1号)法律に規定(38条の4第1項6号)
定期報告規定なし必要(同24条の2の5第1項)
労働者の範囲協定事項ではない(業務で特定)決議事項(38条の4第1項2号)

企画業務型が重いのは、対象業務が「企画、立案、調査及び分析」という抽象的な定義で、業務名で限定できないからです。限定できない代わりに、労使委員会・5分の4の議決・定期報告という手続きで縛る設計になっています。

専門業務型(38条の3) 企画業務型(38条の4) ① 労使協定を結ぶ 過半数組合/過半数代表者と書面で ① 労使委員会で決議 委員の5分の4以上の多数による議決 ② 労働基準監督署へ届出 様式第13号 ② 労働基準監督署へ届出 様式第13号の2 ③ 本人の同意を得る 省令(施行規則24条の2の2第3項1号) ③ 本人の同意を得る 法律(38条の4第1項6号) ④ 制度を実施する みなし時間で労働時間を算定 ④ 制度を実施する みなし時間で労働時間を算定 ⑤ 定期報告(企画業務型だけ) 有効期間の始期から6か月以内に1回、 その後1年以内ごとに1回・様式第13号の4 (専門業務型に定期報告の規定はない) ※ どちらも記録の保存が必要(本則5年・附則により当分の間3年)
専門業務型と企画業務型の導入手続き。太枠は2024年4月1日以降に注意が要る箇所。本人同意はどちらにも必要だが、根拠が法律か省令かが違う。

対象業務は20。条文には5つしか書いていない

専門業務型の対象業務は、労働基準法38条の3第1項1号が「厚生労働省令で定める業務」と省令に投げ、労働基準法施行規則24条の2の2第2項がこれを受けます。ところがその省令に列挙されているのは5つだけです。

研究開発、情報処理システムの分析・設計、新聞・出版の取材・編集、デザインの考案、放送番組・映画のプロデューサー又はディレクター。そして6号が「前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務」となっています。

省令の号数を数えて終わりにすると、15業務を落とす

6号の大臣指定を含めた実際の対象業務は20業務です。厚生労働省のパンフレット「専門業務型裁量労働制について」は冒頭で「定められた20の業務(裏面参照)の中から」と書き、裏面に1〜20を列挙しています。省令に名前が書かれているのは1〜5だけで、コピーライター、システムコンサルタント、インテリアコーディネーター、ゲーム用ソフトウェアの創作、証券アナリスト、金融工学による金融商品の開発、大学における教授研究、M&Aアドバイザー、公認会計士、弁護士、建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士は告示側にあります。

このうち13番のM&Aアドバイザーの業務(銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務)は、2024年4月1日から追加されたものです。根拠は令和5年厚生労働省告示第115号で、同告示は施行規則24条の2の2第2項6号にもとづく大臣指定業務を改正しています。

なお12番の大学における教授研究の業務には「主として研究に従事するものに限る」という限定が付いています。大学教員であれば一律に対象になるわけではありません。

本人同意はどこに書いてあるか(法律と省令の非対称)

2024年4月1日から、専門業務型でも労働者本人の同意が必要になりました。この改正がわかりにくいのは、同じ「本人同意」が、2つの型で違う階層に書かれているからです。

企画業務型は法律にあります。38条の4第1項6号が「使用者は、……当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと」と決議事項に挙げています。これは2024年の改正で入ったものではなく、2019年4月1日施行の版にも同じ文言で存在します

一方、専門業務型は法律には書かれていません。38条の3第1項の協定事項は1号から6号までで、6号は「前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項」という受け皿です。同意の要求は、そこから降りた先の労働基準法施行規則24条の2の2第3項1号にあります。

この省令の第3項が2024年4月1日に何をしたのかは、改正前後の版を並べると一目でわかります。

施行規則24条の2の2第3項改正前(2023年12月27日施行の版)現行(2024年4月1日以降)
1号協定の有効期間の定め本人同意+不利益取扱いの禁止
2号記録の保存(イ・ロ)同意の撤回に関する手続
3号協定の有効期間の定め
4号記録の保存(イ・ロ・ハ 同意及びその撤回

改正前の第3項は2号までしかなく、「同意」という語が1度も出てきません。現行は4号まであり、1号と2号がまるごと新設されています。さらに記録保存の対象にもハ「第一号の同意及びその撤回」が加わりました。同意を取るだけでなく、取った記録と撤回の記録を残すことまでが協定事項です。

既に協定がある会社ほど注意が要る

厚生労働省のパンフレットは導入の流れの冒頭で「既に協定を締結している場合、改めて協定をし直す必要があります」と明記しています。2024年3月以前に結んだ協定は、新しい1号・2号・4号ハを含んでいないため、そのままでは現行の省令が求める協定事項を満たしません。

また、同意しなかった労働者への不利益取扱いは禁止されており、これは専門業務型では省令1号、企画業務型では法律6号が、いずれも同意の要求と同じ一文の中で定めています。「同意を求めたが断られたので配置転換した」という運用は、この一文に直接あたります。

残業代はいくらになるか(実数)

みなし時間が1日8時間を超えていれば、その超過分は毎日、実際の労働時間と無関係に時間外労働になります。裁量労働制で残業代が消えないのはこの構造によります。

みなし労働時間を9時間、月の勤務日数を20日、時間単価を2,500円として計算すると次のようになります。

項目計算結果
1日あたりの法定時間外9時間 − 8時間1時間
月あたりの法定時間外1時間 × 20日20時間
割増賃金の単価2,500円 × 1.253,125円
月の割増賃金3,125円 × 20時間62,500円

この62,500円は、その月に実際は7時間しか働かなかった日があっても支払う必要があります。みなしとは、実際の労働時間ではなく協定した時間で算定するという意味だからです。逆に12時間働いた日があっても、時間外の計算は9時間として行われます(深夜に及んだ場合の深夜割増は別に発生します)。

みなし時間が8時間を超えるなら36協定が要る

法定労働時間を超えて労働させること自体は36協定がなければできません。みなし労働時間を9時間と定めるということは、恒常的に1日1時間の時間外労働をさせる設計なので、36協定の締結と届出が別途必要です。裁量労働制の労使協定はこれを兼ねません。

なお、割増率の下限は37条1項が「二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上」と定め、平成6年政令第5号が時間外は2割5分、休日は3割5分としています。深夜は37条4項が別に2割5分以上を要求します。実際の金額は残業代計算機で確認できます。

残業代(割増賃金)を計算する — みなし時間・深夜・休日に対応

記録の保存は5年か3年か — 附則を読む

ここは条文の本文だけを読むと確実に間違える箇所です。

施行規則24条の2の2第3項4号(専門業務型)と24条の2の3第3項4号(企画業務型)は、労働者ごとの記録を「前号の有効期間中及び当該有効期間の満了後五年間保存すること」と書いています。本文は5年です。

ところが厚生労働省のパンフレットは、同じ項目を「協定の有効期間中及びその期間満了後3年間保存すること」と書いています。役所の資料が省令と食い違っているように見えますが、食い違ってはいません。労働基準法施行規則の附則に、次の経過措置があるからです。

第十七条第二項、第二十四条の二の二第三項第四号、第二十四条の二の二の二、第二十四条の二の三第三項第四号、……の規定の適用については、当分の間、これらの規定中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。

附則が条番号を名指しで読み替えています。したがって実務上の保存期間は3年です。本則の5年は、経過措置が終わったときに動き出す将来の姿であって、いま適用される数字ではありません。

同じ構造が労働基準法本体にもある

労働基準法109条(記録の保存)も本則は5年ですが、143条1項が「第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中『五年間』とあるのは、『三年間』とする」としています。同条3項は賃金請求権の消滅時効についても同じ読み替えをしており、退職手当以外の賃金請求権は当分の間3年です。「当分の間」がいつ終わるかは条文に書かれていません。

企画業務型の届出と定期報告

企画業務型には、専門業務型にない義務が2つあります。

1つは労使委員会の要件です。38条の4第2項1号は、委員の半数について、過半数労働組合(なければ過半数代表者)が任期を定めて指名していることを求めます。同項2号は議事録の作成・保存と、事業場の労働者への周知を求めます。委員会を作れば足りるのではなく、構成と運営の両方が条件です。

もう1つは定期報告です。施行規則24条の2の5第1項は、報告の時期を「決議の有効期間の始期から起算して六箇月以内に一回、及びその後一年以内ごとに一回」、様式第13号の4により所轄労働基準監督署長へ、と定めています。

2024年4月に変わったのは「頻度」ではなく「起算点」と「報告事項」

改正前の24条の2の5第1項は「決議が行われた日から起算して六箇月以内に一回、及びその後一年以内ごとに一回」でした。回数は変わっておらず、起算点が決議日から有効期間の始期へ移っています。決議日と有効期間の始期がずれている場合、最初の報告期限が変わります。
あわせて同条2項の報告事項に「同項第六号の同意及びその撤回の実施状況」が加わりました。改正前は労働時間の状況と健康・福祉確保措置の実施状況だけでした。

また、企画業務型では省令に固有の決議事項があります。施行規則24条の2の3第3項2号は、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を変更する場合には、労使委員会に対して変更の内容を説明することを決議事項としています。専門業務型にはこれに対応する規定がありません。

要件を満たさないとどうなるか

裁量労働制は、要件を満たして初めて「みなす」効果が生じます。要件を欠けば、みなしの効果は生じません。そのときは通常どおり実際の労働時間で計算し直すことになります。

実務上の影響が大きいのは、みなし時間より実労働時間が長かった場合です。みなしが成立していないため、実際に働いた時間から法定労働時間を超える分がすべて時間外労働になり、37条の割増賃金の支払い義務が生じます。制度が崩れると、差額はさかのぼって発生します

典型的に要件が欠ける形は次のとおりです。

なお、健康・福祉確保措置(38条の3第1項4号、38条の4第1項4号)と苦情処理措置(同5号)も協定事項・決議事項です。厚生労働省のパンフレットは健康・福祉確保措置について、勤務間インターバルの確保、深夜業の回数制限、労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用解除、連続した年次有給休暇の取得、医師による面接指導、代償休日・特別な休暇付与、健康診断の実施、相談窓口の設置、配置転換、産業医等による助言・指導や保健指導を挙げ、長時間労働の抑制を図る措置と、個々の労働者の状況に応じた措置から1つずつ以上実施することが望ましいとしています。

よくある質問

Q. 裁量労働制なら残業代は出ないのですか?

A. 出ます。労働基準法38条の3・38条の4がみなすのは労働時間の算定だけで、みなし時間が1日8時間を超えていれば、その超過分は実際の労働時間にかかわらず毎日時間外労働として扱われ、37条の割増賃金の対象になります。みなし労働時間が9時間、月20日勤務、時間単価2,500円なら、割増賃金は月62,500円です。さらに37条4項の深夜割増は午後10時から午前5時までに実際に労働させたことが要件なので、みなし時間と無関係に発生します。法定休日の労働も同様に別途割増の対象です。

Q. どの職種でも裁量労働制にできますか?

A. できません。専門業務型は労働基準法施行規則24条の2の2第2項と厚生労働大臣の指定する業務により20業務に限定されています。省令に名前が書かれているのは研究開発、情報処理システムの分析・設計、新聞・出版の取材・編集、デザインの考案、放送番組・映画のプロデューサー又はディレクターの5つで、残りは告示側にあります。企画業務型は業務名ではなく「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」という性質で定義されており、労使委員会の5分の4以上の議決が必要です。営業職や一般的な事務職を一律に対象にすることは、いずれの型でも予定されていません。

Q. フレックスタイム制と何が違うのですか?

A. 労働者に委ねる対象が違います。フレックスタイム制(32条の3)が委ねるのは始業及び終業の時刻で、労働時間そのものは実際に働いた時間で数え、清算期間の総枠を超えれば時間外労働になります。裁量労働制が委ねるのは業務の遂行の手段及び時間配分の決定等で、労働時間は実際に働いた時間ではなく協定または決議で定めた時間として算定されます。したがってフレックスでは実労働時間の把握が計算の前提になるのに対し、裁量労働制では実労働時間の長短にかかわらずみなし時間で算定されます。

Q. 裁量労働制の人が休日に出勤したり深夜に働いたりした場合はどうなりますか?

A. どちらも割増賃金の対象です。深夜割増は労働基準法37条4項が「午後十時から午前五時までの間において労働させた場合」と実際に労働させたことを要件にしているため、労働者が自分の判断でその時間帯に働いた場合も発生します。法定休日の労働は、みなしの対象である労働時間の算定とは別の話で、37条1項と平成6年政令第5号により3割5分以上の割増が必要です。労働基準法施行規則24条の2の2第1項が、みなしの効果は「労働時間の算定について適用する」と範囲を限っています。

Q. 本人が同意しなかった場合、会社はどう扱えばよいですか?

A. 裁量労働制を適用せず、通常の労働時間管理を行うことになります。同意しなかったことを理由とする不利益な取扱いは禁止されており、専門業務型では労働基準法施行規則24条の2の2第3項1号が、企画業務型では労働基準法38条の4第1項6号が、いずれも同意を得なければならないことと「当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと」を同じ一文で定めています。また同意の撤回に関する手続も協定事項・決議事項なので、あらかじめ定めておく必要があります。

Q. 労働者ごとの記録は何年保存すればよいですか?

A. 当分の間は3年です。労働基準法施行規則24条の2の2第3項4号(専門業務型)および24条の2の3第3項4号(企画業務型)の本文は「有効期間の満了後五年間」と定めていますが、同規則の附則がこれらの条項を条番号で名指しし、「当分の間、これらの規定中『五年間』とあるのは、『三年間』とする」と読み替えているためです。保存の対象は労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、および同意とその撤回の記録です。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。裁量労働制が有効に成立しているかどうかは、対象業務への該当性、労使協定または労使委員会決議の内容と手続、本人同意の取得方法、届出の有無によって判断が変わります。とくに対象業務への該当性は業務の実態にもとづく判断であり、職種名や役職名では決まりません。制度の導入や既存の協定・決議が現行の条文を満たしているかの確認にあたっては、所轄の労働基準監督署または顧問社会保険労務士にご確認ください。

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