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フレックスタイム制の総枠はどう計算するか|清算期間・週平均50時間・届出が要る場合

結論から言うと、フレックスタイム制は残業をなくす制度ではありません。労働基準法32条の3が外しているのは「1日8時間・1週40時間」という日と週の縛りだけで、代わりに清算期間を通じた総枠が置かれます。総枠を超えれば、そこからは時間外労働です。

その総枠は「40時間 × 清算期間の暦日数 ÷ 7」で計算します。31日の月なら177.14時間、30日なら171.43時間。所定労働日数ではなく暦日数で決まるところが、最初につまずく点です。

そして実務でいちばん取り違えられているのが、次の2つです。コアタイムは法律上の必須事項ではありません(条文が「定める場合には」と書いています)。一方で労働基準監督署への届出は、清算期間が1か月を超えるときだけ必要です。「コアタイムは要る/届出は要らない」と逆に理解されていることが多いので、以下、条文でひとつずつ確認します。

何が外れて、何が残るのか

出発点は労働基準法32条です。1項が「一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない」、2項が「一日について八時間を超えて、労働させてはならない」と定めています。

32条の3は、この32条の規定にかかわらず、「一週間において同項の労働時間又は一日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる」と書いています。つまり日と週の上限が外れる。その代わりの条件が、同じ文の中にあります。清算期間として定めた期間を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内であること。これが総枠です。

清算期間は「三箇月以内の期間に限る」と1項2号が定めています。1か月でも、2か月でも、3か月でもかまいませんが、3か月を超えることはできません。

外れないものフレックスにしても、休憩(34条)・深夜割増(37条4項)・休日(35条)・年次有給休暇(39条)はそのまま残ります。外れるのは32条の日と週の上限だけです。

成立要件は2つ。片方だけでは足りない

32条の3第1項は、2つのことを同時に求めています。

ひとつめは、就業規則その他これに準ずるものにより「その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねる」こと。労使協定だけあっても、就業規則側でこれを定めていなければ制度は成立しません。なお89条1号は、始業及び終業の時刻を就業規則の記載事項としているので、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則に書いたうえで届け出ることになります。

ふたつめが労使協定です。過半数労働組合、それがなければ過半数代表者との書面による協定で、次の事項を定めます。1項1号から3号までが法律で、4号が「その他厚生労働省令で定める事項」として施行規則12条の3第1項に4つ置かれています。

協定で定める事項根拠必須か
対象となる労働者の範囲法32条の3第1項1号必須
清算期間(3か月以内)同2号必須
清算期間における総労働時間同3号必須
標準となる1日の労働時間則12条の3第1項1号必須
コアタイムの開始・終了時刻則12条の3第1項2号定める場合のみ
フレキシブルタイムに制限を設ける場合の開始・終了時刻同3号設ける場合のみ
協定の有効期間の定め同4号清算期間が1か月を超える場合のみ

表の下3つは、条文が条件付きで書いています。2号は「労働者が労働しなければならない時間帯を定める場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻」。3号も「制限を設ける場合には」。つまりコアタイムを置かない運用(いわゆるスーパーフレックス)は、条文の想定内です。コアタイムがないから違法、ということにはなりません。

4号は「清算期間が一箇月を超えるものである場合にあつては」と限定されています。清算期間が1か月以内なら、協定に有効期間の定めを置くことは条文上求められていません。ここは1か月単位の変形労働時間制と対照的で、そちらは施行規則12条の2の2第1項が「有効期間の定めをするものとする」と無条件で求めています。

もうひとつ、見落とされやすいのが施行規則12条の2第1項です。32条の2から32条の4までの制度では、就業規則その他これに準ずるものまたは書面による協定において、期間の起算日を明らかにすることが求められています。「毎月1日から」なのか「毎月16日から」なのかを書いていない協定は、この点で不足しています。

清算期間の総枠の計算(実数)

総枠は次の式です。

清算期間の法定総枠 = 40時間 × 清算期間の暦日数 ÷ 7

暦日数で割るので、月ごとに変わります。実数は次のとおりです。

清算期間の暦日数法定総枠
31日177.14時間
30日171.43時間
29日165.71時間
28日160.00時間

たとえば清算期間を1か月・2026年8月(31日)とした場合、総枠は177.14時間です。実労働時間が183時間だったなら、超えた5.86時間が時間外労働として割増賃金の対象になります。逆に、ある日に11時間働いたとしても、それだけでは時間外にはなりません。判定は日ではなく清算期間の終わりに行うのがフレックスの特徴です。

完全週休2日制の特例 — 「所定どおり働いたのに残業」を消す

ここで、完全週休2日制の会社に固有の問題が起きます。週5日・1日8時間の所定で働く人は、所定どおり働くと「所定労働日数 × 8時間」働くことになります。ところが総枠は暦日数で決まるので、カレンダーの巡り合わせによっては、所定どおり働いただけで総枠を超えてしまうのです。

2026年の各月を、暦日数と平日(月〜金)の日数から計算すると次のようになります。

暦日数平日法定総枠所定×8時間
2026年7月31日23日177.14時間184.0時間+6.86時間
2026年12月31日23日177.14時間184.0時間+6.86時間
2026年4月・6月・9月30日22日171.43時間176.0時間+4.57時間
2026年8月31日21日177.14時間168.0時間−9.14時間
2026年7月(暦31日・所定23日)— 週5日・1日8時間の人 法定総枠 177.14時間 所定どおり 184.0時間 → 1分も余計に働いていないのに、6.86時間が時間外になってしまう → 32条の3第3項の特例を労使協定で定めると、総枠が184.0時間になる (特例が有利になるのは、所定労働日数×8時間 が法定総枠を上回る月)
暦日数で決まる法定総枠と、所定労働日数×8時間のずれ。2026年は7月と12月で6.86時間の差が出る(暦は datetime で計算)。

この不都合を埋めるのが32条の3第3項です。1週間の所定労働日数が5日の労働者について、労使協定で「労働時間の限度について、当該清算期間における所定労働日数を8時間に乗じて得た時間とする旨」を定めたときは、総枠の基準がそちらに置き換わります。結果として、総枠はそのまま「所定労働日数 × 8時間」になります。

自動では適用されないこの特例は、労使協定で定めたときに初めて働きます。完全週休2日制であれば自動的に適用される、というものではありません。また対象は「1週間の所定労働日数が5日の労働者」なので、週4日勤務の人には使えません。

清算期間が1か月を超えるとき

清算期間を2か月・3か月にすると、条文上の扱いが変わります。まず、いつからそうなったのかを条文の版で確認しておきます。2018年7月6日時点の32条の3は1項しかなく、清算期間は「一箇月以内の期間に限る」と書かれていました。週平均50時間の枠も、完全週休2日制の特例も、届出の規定も存在しません。これらが入ったのは2019年4月1日施行の版からです。

1か月を超える清算期間を選んだ場合、次の3つが追加されます。

(1) 各1か月ごとに週平均50時間の枠がかかる。 32条の3第2項は、清算期間を「その開始の日以後一箇月ごとに区分した各期間」に分け、その各期間を平均して1週間当たりの労働時間が50時間を超えないことを求めています。総枠に収まっていても、特定の1か月に集中させることはできません。実数は次のとおりです。

区分した1か月の暦日数週平均50時間の上限
31日221.43時間
30日214.29時間
29日207.14時間
28日200.00時間

なお区分の仕方も条文が書いており、「最後に一箇月未満の期間を生じたときは、当該期間」として扱います。

(2) 労働基準監督署への届出が必要になる。 32条の3第4項は、32条の2第2項(協定を行政官庁に届け出なければならない)を準用したうえで、「ただし、清算期間が一箇月以内のものであるときは、この限りでない」と書いています。届出先と様式は施行規則12条の3第2項にあり、様式第3号の3により所轄労働基準監督署長に提出します。

(3) 協定に有効期間の定めが必要になる。 施行規則12条の3第1項4号のとおりです。

「変形労働時間制だから届出」ではない1か月単位の変形労働時間制(32条の2)を労使協定で導入したなら、32条の2第2項により届出が必要です。ただし同項が届出の対象にしているのは「前項の協定」なので、32条の2第1項がもう1つ認めている方法=就業規則で導入した場合、この届出は生じません(常時10人以上の事業場は、89条により就業規則そのものの届出義務が別にあります)。フレックスは清算期間が1か月を超えるときだけ。制度の名前ではなく、条文がどう書いているかで決まります。3つの変形労働時間制それぞれの導入方法と上限は変形労働時間制は3つある — 1か月単位だけは就業規則だけで導入できるで整理しています。

時間外・深夜・休憩はどうなるか

時間外労働は、清算期間の総枠を超えた部分です。清算期間が1か月を超える場合は、これに加えて各1か月の週平均50時間を超えた部分がその月の時間外になります。総枠を超えて働かせるのであれば、36協定(時間外・休日労働に関する協定)が別に必要です。割増率は37条1項により2割5分以上、1か月60時間を超える部分は同項ただし書により5割以上です。

深夜割増は別枠で発生します。 37条4項は「午後十時から午前五時まで」の労働について2割5分以上の割増賃金を求めており、フレックスかどうかを問いません。始業・終業を労働者が自分で決めた結果として深夜に働いた場合も同じです。清算期間の総枠に収まっていても、深夜に働いた時間には深夜割増がつきます。

休憩も残ります。 34条1項により、労働時間が6時間を超えるなら少なくとも45分、8時間を超えるなら少なくとも1時間を、労働時間の途中に与えなければなりません。フレックスでは各人の働く時間帯がばらつくため、34条2項の一斉付与が実態に合わなくなります。同項ただし書は、過半数労働組合または過半数代表者との書面による協定があるときは一斉付与によらなくてよいとしているので、実務ではこの協定をあわせて結ぶことになります。

総枠を超えた分の割増賃金を計算する — 残業代(割増賃金)計算機

清算期間の途中で入社・退職した人

ここは競合する解説記事でもあまり触れられていない論点です。32条の3の2という独立した条が置かれています。

対象は、清算期間が1か月を超える場合に、その清算期間中に実際に労働させた期間が清算期間より短い労働者です。3か月の清算期間の途中で入社した人、途中で退職した人がこれにあたります。

この場合、実際に労働させた期間を平均して1週間当たり40時間を超えて労働させたときは、その超えた時間について、37条の例により割増賃金を支払わなければなりません。条文はかっこ書きで、33条または36条1項により延長し、または休日に労働させた時間は除く、としています。

ポイントは、これが清算期間の総枠とは別の計算だということです。3か月の総枠には遠く届いていなくても、在籍していた期間だけを取り出して週平均40時間を超えていれば、その分を精算する必要があります。清算期間を長くとる会社ほど、退職者の最終給与でここが問題になります。

罰則は2系統ある

フレックスまわりの罰則は、条文が名指しで分かれています。

何をしたとき根拠罰則
清算期間が1か月超なのに協定を届け出なかった120条1号(32条の2第2項を32条の3第4項で準用する場合を含む)30万円以下の罰金
制度が成立していないのに日・週の上限を超えて働かせた/割増賃金を払わなかった119条1号(32条・37条)6月以下の拘禁刑
または30万円以下の罰金

120条1号は「第三十二条の二第二項(第三十二条の三第四項、第三十二条の四第四項及び第三十二条の五第三項において準用する場合を含む。)」と、準用先まで明記しています。一方119条1号は32条と37条を列挙しており、こちらのほうが重い。要件を満たさないままフレックスとして運用していた場合は、制度そのものが成立していないので、日・週の上限で判定し直されることになり、後者の側で問題になります。

よくある質問

Q. コアタイムを定めないフレックス(スーパーフレックス)は違法ですか?

A. 違法ではありません。労働基準法施行規則12条の3第1項2号は、協定事項として「労働者が労働しなければならない時間帯を定める場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻」と書いており、コアタイムを定めること自体は前提にしていません。同項3号のフレキシブルタイムの制限も「制限を設ける場合には」という条件付きです。したがってコアタイムもフレキシブルタイムの制限も置かない設計は、条文の想定内です。ただし1号の「標準となる一日の労働時間」は条件付きではないため、こちらは必ず定める必要があります。

Q. フレックスにすれば残業代は発生しないのですか?

A. 発生します。労働基準法32条の3が外しているのは1日8時間・1週40時間という日と週の上限だけで、清算期間を平均して1週間当たり40時間という枠は残ります。清算期間の総枠を超えた時間は時間外労働として37条の割増賃金の対象です。また37条4項の深夜割増は制度と無関係に発生するため、労働者が自分の判断で午後10時以降に働いた場合も割増賃金がつきます。

Q. 清算期間を3か月にすると何が変わりますか?

A. 3つ変わります。第一に、32条の3第2項により、清算期間を開始日以後1か月ごとに区分した各期間について、平均して1週間当たり50時間を超えないという枠が加わります。第二に、同条4項本文により労使協定を所轄労働基準監督署長へ届け出る義務が生じます。様式は施行規則12条の3第2項の様式第3号の3です。第三に、施行規則12条の3第1項4号により、協定に有効期間の定めを置くことが必要になります。清算期間が1か月以内であれば、いずれも条文上は求められていません。

Q. 年次有給休暇を取った日は、何時間働いたものとして数えますか?

A. そのために労働基準法施行規則12条の3第1項1号が「標準となる一日の労働時間」を協定事項に挙げています。フレックスでは日ごとの労働時間があらかじめ決まっていないため、年次有給休暇を取得した日について何時間として清算期間の労働時間に算入するかを、この「標準となる一日の労働時間」で定めておくことになります。コアタイムの有無にかかわらず必須の協定事項である理由がここにあります。

Q. パートやアルバイトにもフレックスタイム制を適用できますか?

A. 労働基準法32条の3第1項1号は協定事項として「この項の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲」を挙げているだけで、雇用形態による限定を置いていません。したがって範囲の定め方の問題になります。ただし同条3項の完全週休2日制の特例は「1週間の所定労働日数が5日の労働者」を対象としているため、週3日や週4日の勤務者には使えません。

Q. 就業規則を作っていない小さな会社でもフレックスにできますか?

A. 32条の3第1項は「就業規則その他これに準ずるものにより」と書いているため、就業規則そのものがない場合でも、これに準ずるもので始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を定めることが条文上は想定されています。なお89条により、常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則の作成と届出が義務であり、同条1号は始業及び終業の時刻を記載事項としています。労使協定だけでは制度は成立しない、という点は事業場の規模にかかわらず共通です。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。フレックスタイム制が有効に成立しているかどうかは、就業規則その他これに準ずるものの定め方、労使協定の内容と締結手続、対象労働者の範囲によって判断が変わります。また清算期間の総枠に達しなかった場合の賃金の取扱いについては労働基準法に定めがなく、協定や就業規則の定めによります。実際の制度設計や既存の協定が現行の条文を満たしているかの確認にあたっては、所轄の労働基準監督署または顧問社会保険労務士にご確認ください。

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