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労働条件通知書と雇用契約書は何が違うか|明示すべき14項目と、書面で渡す義務がある6つ

結論から言うと、この2つは法律上の位置づけが違います。労働条件通知書は、労働基準法15条1項が使用者に課している一方的な通知です。雇用契約書は、労使双方が合意したことを残す契約書で、労働基準法はその作成を義務づけていません。だから「雇用契約書をもらっていない」こと自体は法律違反ではなく、「労働条件を明示されていない」ことが違反になります。

そして実務でいちばん取り違えられるのが、明示することと書面で渡すことは別だという点です。明示しなければならない事項は労働基準法施行規則5条1項に14項目ありますが、書面で渡す義務があるのは同条3項が指定する1号から4号まで(昇給に関する事項を除く)だけ。残る8項目は、定めがあれば明示は要りますが、口頭でもかまいません。

さらにややこしいのが、相手がパート・アルバイトや有期契約の場合です。別の法律が4項目を上乗せし、そのなかには正社員なら書面不要な「昇給」が入っています。罰則の重さも種類も違います。以下、条文でひとつずつ確認します。

労働条件通知書と雇用契約書は何が違うか

労働基準法15条1項は「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定めています。主語は使用者、動詞は「明示しなければならない」。労働者の署名も同意も要件になっていません。これが労働条件通知書です。

一方、雇用契約書は民法上の契約書で、労働基準法に作成義務の規定がありません。実務で使われる「労働条件通知書兼雇用契約書」は、法律上の明示義務を果たす書面と、合意の証拠になる契約書を1枚で兼ねたものです。兼ねること自体に問題はなく、むしろ双方が保管しやすくなります。

労働条件通知書雇用契約書
根拠労働基準法15条1項・施行規則5条民法上の契約(労基法に規定なし)
作成義務ありなし
性質使用者から労働者への一方的な通知双方の合意を証する書面
署名・押印不要(労働者の同意は要件でない)通常は双方が署名する
渡すタイミング労働契約の締結に際し定めなし
違反の効果30万円以下の罰金(労基法120条1号)
「締結に際し」なので、更新のたびに必要になります 15条1項が義務を課しているのは「労働契約の締結に際し」です。有期労働契約を更新するときも新たな労働契約の締結にあたるため、そのつど明示が必要になります。入社時に1回渡して終わり、ではありません。

明示しなければならない14項目

中身は労働基準法施行規則5条1項が列挙しています。号の枝番(1号の2、1号の3、4号の2)を数えると全部で14項目です。同項のただし書が2種類の例外を置いており、これによって「常に明示する項目」と「定めがある場合だけ明示する項目」に分かれます。

項目明示書面
1号労働契約の期間常に
1号の2有期契約を更新する場合の基準(通算契約期間・更新回数の上限を含む)更新ありの有期のみ
1号の3就業の場所・従事すべき業務(変更の範囲を含む)常に
2号始業・終業の時刻、所定外労働の有無、休憩・休日・休暇、交替制の就業時転換常に
3号賃金の決定・計算・支払方法、締切りと支払時期、昇給常に昇給を除き
4号退職に関する事項(解雇の事由を含む)常に
4号の2退職手当(対象者の範囲・決定・計算・支払方法・支払時期)定めがあれば不要
5号臨時に支払われる賃金、賞与、最低賃金額定めがあれば不要
6号労働者に負担させる食費・作業用品定めがあれば不要
7号安全・衛生定めがあれば不要
8号職業訓練定めがあれば不要
9号災害補償、業務外の傷病扶助定めがあれば不要
10号表彰・制裁定めがあれば不要
11号休職定めがあれば不要

4号の2から11号までの8項目については、ただし書が「使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない」としています。退職金や賞与の制度がない会社は、その項目を書かなくてよいということです。ただし「制度がない」という結論に至るには、就業規則を実際に確かめる必要があります。

書面で渡す義務があるのは6つだけ

労働基準法15条1項の後段は「賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない」と、一部の事項だけを方法まで指定しています。その範囲を決めているのが施行規則5条3項で、条文はこうです。

労働基準法施行規則5条3項 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、第一項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。

1号から4号までを枝番込みで数えると、1号・1号の2・1号の3・2号・3号・4号の6項目。そこから3号のうち「昇給に関する事項」だけが名指しで外されています。つまり昇給は、明示義務はあるが書面で渡す義務はない。口頭で伝えれば条文上は足ります。

労働基準法施行規則5条1項 ― 明示事項 14項目 1号〜4号(6項目) 契約期間/更新基準/就業場所・業務/ 労働時間/賃金/退職 4号の2〜11号(8項目) 退職手当/賞与/食費/安全衛生/ 訓練/災害補償/表彰制裁/休職 書面の交付が必要(5条3項・4項) ただし「昇給に関する事項」は除外される 口頭でもよい 定めをしない場合は明示自体が不要 相手がパート・アルバイト・有期の場合(パート・有期法6条1項) 昇給の有無/退職手当の有無/賞与の有無/相談窓口 ― この4つは文書の交付が必要 = 上で除外されたはずの「昇給」が、こちらでは書面に戻ってくる
明示事項14項目のうち、書面交付が義務づけられるのは1号から4号まで(昇給を除く)。ただしパート・有期には別の法律が4項目を上乗せする。

渡し方は施行規則5条4項が「書面の交付」を原則とし、例外を2つだけ認めています。ファクシミリの送信と、電子メールその他の電気通信の送信です。ただし電子メール等については「当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る」という制限が付いています。

電子交付は会社が一方的に選べません 5条4項のただし書は「当該労働者が……次のいずれかの方法によることを希望した場合には」と書いています。労働者が希望していないのにメール送信だけで済ませた場合、原則の書面交付をしていないことになります。また「出力して書面を作成できるもの」という条件があるため、印刷や保存ができない形式で送る方法は条文の想定から外れます。

有期契約で増える明示事項(2024年4月の改正)

2024年4月1日施行の令和5年厚生労働省令第68号で、施行規則5条が改正されました。改正前後の条文を e-Gov 法令API で取って比べると、号は1つも増えていません。増えたのは既存の号のかっこ書きの中身と、新設された5項・6項です。

2023年12月時点現行(2024年4月1日〜)
1号の2有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項同左+(通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む。)
1号の3就業の場所及び従事すべき業務に関する事項同左+(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)
5項・6項なし無期転換申込みに関する事項と、転換後の労働条件の明示を新設

5項は、その契約期間内に労働者が労働契約法18条1項の無期転換申込みをすることができることとなる有期労働契約を結ぶときは、通常の14項目に加えて、無期転換申込みに関する事項と、転換後の無期労働契約の労働条件(1号および1号の3から11号まで)も明示しなければならない、と定めています。6項はそのうち書面交付が必要な範囲を、無期転換申込みに関する事項と1号・1号の3から4号まで(昇給を除く)に絞っています。

ここでいう無期転換申込みの権利は、労働契約法18条1項によるものです。同一の使用者との有期労働契約の通算契約期間が5年を超える労働者が、いま結んでいる契約の期間が満了する日までに申込みをすると、使用者は承諾したものとみなされます。また同条2項は、契約と契約のあいだに6か月以上の空白期間(直前の契約期間が1年未満なら、その2分の1を基礎とする厚生労働省令の期間)があると、その前の期間を通算しないとしています。

この「2分の1を基礎とする厚生労働省令の期間」には、実際に数えるときに効く定めが入っています。省令は2分の1を乗じた期間について1か月未満の端数を1か月に切り上げるとしているため、3か月契約なら1.5か月ではなく2か月の空白が必要です。また通算の起点も条文で限定されていて、18条を新設した改正法の附則により、通算に算入されるのは2013年4月1日以後を契約期間の初日とする契約だけです。5年の数え方とクーリングの具体的な計算は無期転換ルールの5年で条文と省令ごと整理しています。

この「通算5年」は、明示義務の話だけで終わりません。有期契約労働者を正社員へ転換したときに支給されるキャリアアップ助成金の正社員化コースも、同じ5年を境に額が変わります。雇用保険法施行規則118条の2第2項は、通算勤続が3年以上5年以下の労働者を転換した場合を対象者1人につき60万円(中小企業事業主は80万円)とする一方、5年を超える労働者の場合は15万円(同20万円)としており、4分の1まで下がります。無期転換申込権が発生したあとは労働者自身の申込みで無期契約へ移れるためと読めますが、正社員登用を予定しているのであれば、通算5年を超える前に着手するかどうかで受け取れる額が大きく変わることになります。詳しくはキャリアアップ助成金の支給額で条文ごと整理しています。

なお有期契約そのものの長さは、労働基準法14条1項が原則3年を上限としています。高度の専門的知識等を有する労働者と、満60歳以上の労働者との契約は5年まで結べます。

明示した賃金が最低賃金を下回っていないか確認する(最低賃金チェック)

パート・アルバイトには別の法律が上乗せする

相手が短時間労働者または有期雇用労働者の場合、労働基準法とは別の法律がもう一段の義務を課します。短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート・有期法)6条1項です。

同項は、労働基準法15条1項の省令で定める事項以外のもので厚生労働省令が定めるもの(「特定事項」)を、文書の交付等により明示しなければならないとしています。その特定事項を列挙しているのが同法施行規則2条1項で、次の4つです。

特定事項労基法側の扱い
昇給の有無3号に含まれるが、5条3項が書面交付から名指しで除外
退職手当の有無4号の2(定めがなければ明示不要)
賞与の有無5号(定めがなければ明示不要)
相談窓口労基則5条に該当項目なし

ここが本記事でいちばん実務に効くところです。正社員には書面で渡す必要がなかった「昇給」が、パート・アルバイトには文書交付の対象として戻ってきます。しかも「昇給がある/ない」という有無の明示なので、制度がない場合でも「なし」と書く必要があります。退職手当と賞与も同じ構造で、労基法側では「定めをしない場合はこの限りでない」のに、パート・有期法側では有無を書くことになります。

タイミングの書き方も違います 労働基準法15条1項は「労働契約の締結に際し」、パート・有期法6条1項は「短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに」。前者は契約を結ぶ時点、後者は雇い入れた後という書き分けです。実務上は1枚の通知書で同時に済ませるのが確実です。

なおパート・有期法6条2項は、特定事項と労基法の明示事項以外の労働条件についても文書の交付等により明示するよう努めるものとするとしており、こちらは努力義務です。渡し方の例外(ファクシミリ・電子メール等で、労働者が希望した場合に限る)は同法施行規則2条3項にあり、労働基準法側と同じ構造です。

明示しなかったときに起きること

罰則は2つの法律に分かれており、種類が違います

違反根拠制裁種類
労働条件を明示しなかった労働基準法120条1号(15条1項違反)30万円以下の罰金刑事罰
帰郷旅費を負担しなかった労働基準法120条1号(15条3項違反)30万円以下の罰金刑事罰
特定事項4つを文書交付しなかったパート・有期法31条(6条1項違反)10万円以下の過料行政罰

労働基準法120条1号が列挙しているのは「第十五条第一項若しくは第三項」です。2項は入っていません。2項は使用者への義務ではなく、労働者側の権利を定めた規定だからです。その2項が定めているのが即時解除権で、条文は「前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる」。予告期間は要りません。

そして3項が、実務でほとんど知られていない負担を課しています。就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者は必要な旅費を負担しなければならない。これに違反すると120条1号で30万円以下の罰金の対象です。遠方から呼び寄せて条件が違っていた、というケースでは、明示義務違反と旅費負担が同時に問題になります。

あわせて施行規則5条2項が「使用者は、法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない」という禁止を独立に置いています。書式を整えることと、書いた内容が実態と合っていることは別だ、ということです。

よくある質問

Q. 雇用契約書をもらっていません。違法ですか?

A. 雇用契約書そのものに法律上の作成義務はないため、渡されていないこと自体は労働基準法違反にあたりません。義務があるのは労働条件の明示のほうで、労働基準法15条1項と施行規則5条3項により、契約期間・更新基準・就業場所と業務(変更の範囲を含む)・労働時間・賃金(昇給を除く)・退職に関する事項は、書面などで渡されている必要があります。労働条件通知書やそれに相当する書面を一切受け取っていない場合は、明示義務の違反として労働基準法120条1号の30万円以下の罰金の対象になります。

Q. 労働条件通知書に労働者の署名や押印は必要ですか?

A. 労働基準法15条1項は「使用者は……労働者に対して……明示しなければならない」と定めるだけで、労働者の署名・押印・同意を要件にしていません。したがって通知書として渡すだけで条文上の義務は果たせます。ただし実務では「渡した」ことを後から示せるようにするため、労働条件通知書兼雇用契約書の形にして双方が署名し、1通ずつ保管する運用が一般に行われています。

Q. メールやPDFで送ってもよいですか?

A. 労働基準法施行規則5条4項は書面の交付を原則としたうえで、ファクシミリの送信と、電子メールその他の電気通信の送信を例外として認めています。ただし条件が2つあり、労働者がその方法を希望した場合に限られること、そして電子メール等については労働者が記録を出力して書面を作成できるものに限られることです。会社の判断だけで電子交付に切り替えることはできません。

Q. 昇給について書いていない通知書は違反ですか?

A. 昇給に関する事項は施行規則5条1項3号に含まれるため明示は必要ですが、同条3項が書面で明示すべき範囲から「昇給に関する事項を除く」と名指しで外しているため、書面に記載がないこと自体は直ちに違反となりません。ただし相手が短時間労働者または有期雇用労働者の場合は別で、パート・有期法6条1項と同法施行規則2条1項1号が「昇給の有無」を文書交付の対象としているため、記載が必要です。違反すると同法31条により10万円以下の過料の対象になります。

Q. 「就業場所・業務の変更の範囲」には何を書くのですか?

A. 施行規則5条1項1号の3が求めているのは、雇入れ直後の就業の場所と従事すべき業務に加えて、その「変更の範囲」です。2024年4月1日施行の令和5年厚生労働省令第68号で、従来の「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」というかっこ書きのない条文に、変更の範囲を含める旨が追加されました。号そのものは増えておらず、既存の号の対象が広がった形です。将来の配置転換や職種変更があり得る範囲を、契約上どこまでと定めているかによって記載内容が決まります。

Q. 有期契約を更新するときも、そのつど渡す必要がありますか?

A. 労働基準法15条1項が義務を課しているのは「労働契約の締結に際し」なので、有期労働契約の更新も新たな労働契約の締結として、そのつど明示が必要になります。さらに、その契約期間内に労働契約法18条1項の無期転換申込みができることとなる契約を結ぶ場合は、施行規則5条5項により無期転換申込みに関する事項と転換後の労働条件も明示することになり、6項によりそのうち一定の範囲は書面交付の対象になります。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。明示すべき事項の具体的な書き方は、就業規則の定めの有無、契約が有期か無期か、短時間労働者に該当するかどうかによって変わります。また労働条件が事実と相違していた場合の解除や旅費の負担は、個別の事情によって判断が分かれます。実際の書面の作成や、既存の様式が現行の条文を満たしているかの確認にあたっては、所轄の労働基準監督署または顧問社会保険労務士にご確認ください。

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