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産業医とは — 常時50人以上の事業場に14日以内。専属は1,000人(深夜業を含む業務なら500人)から。選任しないと罰金50万円、選任した後の義務には罰則が1つも無い

結論から言うと、常時50人以上の労働者を使用する事業場は、医師のうちから産業医を選任しなければなりません(労働安全衛生法13条1項と、その「政令で定める規模」を受けた施行令5条)。業種は問いません。期限は選任すべき事由が発生した日から14日以内で、選任したら遅滞なく、電子申請で所轄労働基準監督署長に報告します(規則13条1項1号・同条2項)。

もう1つ、規模の話でよく取り違えられるのが専属です。専属の産業医が必要になるのは常時1,000人以上の事業場ですが、深夜業を含む業務など14種類の業務に常時500人以上を従事させている事業場は500人から専属になります(規則13条1項3号)。深夜のシフトがある小売・介護・運送・製造は、1,000人に届く前に専属の線を越えることがあります。さらに常時3,000人を超えると2人以上です(同項4号)。

そしてこの記事のいちばん踏み込んだところが、罰則の掛かり方が「選任」の一点に偏っているという事実です。法120条1号の列挙を全数で当たると、13条1項(選任義務)は入っています。ところが、選任した後に事業者側へ課される義務——産業医への情報提供(法13条4項)、勧告を受けたときの衛生委員会への報告(法13条6項)、産業医の業務内容の労働者への周知(法101条2項)——は、120条にも119条にも1つも入っていません。罰金は「産業医を置いたかどうか」しか見ておらず、「置いた産業医が機能しているか」は見ていない、という構造になっています。

まず結論 — いつ・誰を・何人・どこへ

産業医まわりの規定は、法・政令・省令の3階層に分かれて置かれています。実務で必要になる数字はほぼ全部が省令(労働安全衛生規則)の側にあり、法律の本文を読んでも出てきません。先に一覧にします。

項目内容根拠
選任が必要な規模常時50人以上の労働者を使用する事業場(業種を問わない)法13条1項+施行令5条
選任の期限選任すべき事由が発生した日から14日以内規則13条1項1号
報告先と方法所轄労働基準監督署長へ、遅滞なく、電子情報処理組織を使用して規則13条2項
専属が必要な規模常時1,000人以上/14種の業務に常時500人以上を従事させる事業場規則13条1項3号
2人以上が必要な規模常時3,000人を超える事業場規則13条1項4号
職場巡視少なくとも毎月1回(条件を満たせば2か月に1回)規則15条1項
50人未満努力義務(医師のほか保健師でもよい)法13条の2+規則15条の2
選任しなかったとき50万円以下の罰金法120条1号

「常時50人以上」を数える単位は会社全体ではなく事業場ごとで、パート・アルバイトも含めて数えるのが原則です。この数え方は衛生管理者・衛生委員会と共通なので、安全衛生委員会と衛生委員会の記事で詳しく書いています。50人に到達したときは、産業医だけでなく衛生管理者の選任と衛生委員会の設置も同時に発生します。

産業医の選任 — 期限と人数の判定 事業場の労働者が 常時50人に到達(令5条) 14日以内に選任 (規則13条1項1号) 遅滞なく電子申請 労基署長へ報告(規則13条2項) 同時に人数の判定(いずれも事業場ごとに数える) 常時1,000人以上専属の産業医 (規則13条1項3号 前段) 14種の業務(深夜業を含む業務・重量物の取扱い等)に 常時500人以上を従事させる → 専属 (規則13条1項3号 イ〜カ。1,000人に届く前に来る) 常時3,000人を超える2人以上を選任 (規則13条1項4号) 選任した後、事業者の側に発生する義務(いずれも罰則は無い) ① 産業医への情報提供(法13条4項・規則14条の2) — 3種類あり、期限がそれぞれ違う ② 権限の付与(規則14条の4) — 緊急時に労働者へ指示する権限を含む ③ 産業医の業務内容の周知(法101条2項・規則98条の2第2項の3事項)
選任そのものには14日の期限と罰金が付いているが、選任した後の3つの義務には期限の定めがあっても罰則が無い。

誰を選べるか — 社長も工場長も、自社の産業医になれない

「代表者が医師なので自分が産業医を兼ねればよい」という発想は、条文で塞がれています。規則13条1項2号がこう書いています。

次に掲げる者(イ及びロにあつては、事業場の運営について利害関係を有しない者を除く。)以外の者のうちから選任すること。

「次に掲げる者」として挙がっているのはイ 事業者が法人の場合の当該法人の代表者、ロ 事業者が法人でない場合の事業を営む個人、ハ 事業場においてその事業の実施を統括管理する者の3つです。この3者「以外」から選べ、という書き方なので、社長・個人事業主・その事業場を統括管理する者(工場長・支店長など)は産業医になれません。

イ・ロにだけ抜け道があり、ハには無い

括弧書きの「イ及びロにあつては、事業場の運営について利害関係を有しない者を除く」は、イとロに限って、その事業場の運営に利害関係を持たない者であれば選任してよい、という意味です。医療法人グループのように、代表者がその事業場の運営に関与していない構成があり得るためです。一方のハ(事業の実施を統括管理する者)にはこの括弧書きが掛かっていません。工場長・支店長が医師であっても、その事業場の産業医にはできません。括弧書きが「イ及びロにあつては」と主語を限定していることが、この差を作っています。

理由は職務の中身を見ると分かります。産業医は、事業者に対して勧告する立場(法13条5項)であり、緊急時には労働者に指示する権限まで持ちます(規則14条の4第2項3号)。勧告される側と勧告する側が同一人物では、制度が成立しません。

「医師なら誰でもよい」ではない(規則14条2項の5つ)

法13条2項は、産業医は「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者」でなければならないと定めています。その要件を受けているのが規則14条2項で、次の5つのいずれかに該当する必要があります。

要件
1号厚生労働大臣の指定する者(法人に限る)が行う研修を修了した者
2号産業医科大学その他厚生労働大臣が指定する大学で当該課程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
3号労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、区分が保健衛生であるもの
4号大学で労働衛生に関する科目を担当する教授・准教授・講師(常時勤務する者に限る)の職にあり、又はあった者
5号そのほか厚生労働大臣が定める者

3号の「区分が保健衛生であるもの」は読み飛ばしやすい限定です。労働衛生コンサルタント試験には保健衛生と労働衛生工学の2区分があり、労働衛生工学の合格では要件を満たしません。また、選任報告の記載事項には「産業医が第十四条第二項各号……のいずれに該当するかの別及び医籍の登録番号」が含まれます(規則13条2項4号)。どの号で要件を満たしているかを申告させる作りになっているので、依頼する段階でここを確認しておくのが確実です。

専属の境界 — 1,000人、深夜業を含む業務なら500人、3,000人超は2人

専属とは、その事業場に専ら勤務することです。規則13条1項3号は、常時1,000人以上の労働者を使用する事業場と、次に掲げる業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場の2つを並べ、後者にイからカまで14の業務を挙げています(条文の木構造から計数しました)。

記号業務
イ・ロ多量の高熱物体を取り扱う業務・著しく暑熱な場所/多量の低温物体・著しく寒冷な場所
ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ・ヘ異常気圧下/さく岩機・鋲打機等で身体に著しい振動を与える業務
重量物の取扱い等重激な業務
チ・リボイラー製造等強烈な騒音を発する場所/坑内における業務
深夜業を含む業務
ル・ヲ水銀・砒素・塩酸等の有害物を取り扱う業務/それらのガス・蒸気・粉じんを発散する場所における業務
病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
その他厚生労働大臣が定める業務
実務でいちばん効くのは「ヌ 深夜業を含む業務」

イからワまでを眺めると、化学工場や坑内作業のような重工業を思い浮かべます。ところがヌの「深夜業を含む業務」だけは業種を選びません。24時間営業の小売、夜勤のある介護施設や病院、長距離の運送、交替制の製造ラインは、ここに入ります。常時500人以上をそうした業務に従事させていれば、1,000人に届いていなくても専属の産業医が必要です。「うちは危険な作業をしていないから1,000人まで嘱託でよい」という判断は、夜勤がある時点で成り立たなくなります。

なお常時3,000人を超える事業場は2人以上です(規則13条1項4号)。条文が「三千人をこえる」なので、ちょうど3,000人は1人で足ります。1,000人・500人・3,000人はいずれも事業場ごとの数字で、会社全体の人数ではありません。

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産業医の職務は9つ(規則14条1項)

法13条1項は職務を「労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項」とだけ書き、中身は規則14条1項に委ねています。同項は9つの号を挙げています(木構造から計数)。しかも柱書が「次に掲げる事項で医学に関する専門的知識を必要とするもの」と絞りをかけているので、健康管理に関わる事務のすべてが産業医の仕事になるわけではありません。

  1. 健康診断の実施と、その結果に基づく健康保持のための措置
  2. 面接指導(法66条の8第1項・66条の8の2第1項・66条の8の4第1項)と法66条の9の必要な措置、およびその結果に基づく措置
  3. ストレスチェック(法66条の10第1項)の実施と、同条3項の面接指導、その結果に基づく措置
  4. 作業環境の維持管理
  5. 作業の管理
  6. そのほか労働者の健康管理
  7. 健康教育・健康相談その他の健康の保持増進を図るための措置
  8. 衛生教育
  9. 労働者の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置

これに加えて、産業医は少なくとも毎月1回、作業場等を巡視しなければなりません(規則15条1項)。ここは毎月1回以上の情報提供を受けていて、かつ事業者の同意を得ているときに限り2か月に1回まで緩められます。緩めるための情報の1つは衛生管理者の巡視結果で、もう1つは衛生委員会または安全衛生委員会の調査審議を経て事業者が提供することとした情報です。つまり「産業医が忙しいので隔月にする」という当事者間の合意だけでは緩められません。この巡視義務の詳細は安全衛生委員会の記事で扱っています。

また規則14条3項により、産業医は職務の各事項について総括安全衛生管理者に勧告し、衛生管理者に指導・助言することができます。法13条5項の「事業者に対する勧告」とは別の系統の権限です。

選任した後、事業者の側に発生する3つの義務

産業医を選んで終わりではありません。2019年の働き方改革関連法の施行以降、事業者の側に3つの義務が明文で置かれています。実務ではここが抜けがちです。

① 情報提供(法13条4項・規則14条の2)— 3種類あり、期限が違う

規則14条の2第1項が提供すべき情報を3つに分け、同条2項がそれぞれの期限を定めています。「遅滞なく」と「速やかに」が使い分けられている点に注意してください。

提供する情報いつまでに
1号 健康診断・面接指導・ストレスチェックの結果に基づき既に講じた措置または講じようとする措置の内容(講じない場合はその旨と理由)医師等からの意見聴取を行った後、遅滞なく
2号 時間外・休日労働が1月あたり80時間を超えた労働者の氏名と、その超えた時間時間の算定を行った後、速やかに
3号 そのほか、産業医が健康管理等を適切に行うために必要と認める業務に関する情報産業医から求められた後、速やかに

2号がいちばん見落とされます。面接指導の申出があったかどうかに関係なく、80時間を超えた労働者の氏名を産業医へ渡す義務です。時間の算定自体は毎月1回以上、一定の期日を定めて行わなければならず(規則52条の2第2項)、80時間を超えた本人への通知も別に必要です(同条3項)。労働時間の状況の把握そのものが法66条の8の3で義務になっているので、勤怠が締まっていないと、この一連が全部動きません。

② 権限の付与(規則14条の4)

事業者は、産業医に対し規則14条1項各号の事項をなし得る権限を与えなければなりません。同条2項は、その権限に次の3つが含まれるとしています。③が特に重いものです。

労働者の健康を確保するため緊急の必要がある場合において、労働者に対して必要な措置をとるべきことを指示すること。

ほかの2つは、事業者または総括安全衛生管理者に対して意見を述べること、必要な情報を労働者から収集することです。権限を「与えなければならない」と書かれているので、産業医が就業の中止を指示したときに現場が止められない運用になっていれば、それは付与ができていない状態ということになります。

③ 業務内容の周知(法101条2項・規則98条の2第2項)

産業医を選任した事業者は、産業医の業務に関する事項を、各作業場の見やすい場所への掲示・備付けなどの方法で労働者に周知しなければなりません。周知すべき事項は規則98条の2第2項が3つ定めています。

  1. 事業場における産業医の業務の具体的な内容
  2. 産業医に対する健康相談の申出の方法
  3. 産業医による労働者の心身の状態に関する情報の取扱いの方法

2号があるのは、産業医が置かれていても労働者がどこへ相談すればよいか分からなければ機能しないからです。3号は、相談内容が人事に筒抜けになるという不安を取り除くためのもので、この2つが揃って初めて相談が起きる、という設計になっています。

勧告 — 事前に意見を求め、記録は3年、不利益取扱いは禁止

産業医の権限の中心は勧告です。法13条5項がこう定めています。

産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。

勧告は抜き打ちではありません。規則14条の3第1項が手続を定めています。

産業医は、法第十三条第五項の勧告をしようとするときは、あらかじめ、当該勧告の内容について、事業者の意見を求めるものとする。

そして勧告を受けた事業者には、次の3つが発生します。

「勧告を無視する」という選択肢は条文に用意されている。ただし記録と報告からは逃げられない

規則14条の3第2項2号も4項2号も、措置を講じない場合にあつてはその旨及びその理由を書けと定めています。つまり法は、事業者が勧告に従わないことを想定しており、従わないなら理由を書いて委員会に出せという形にしています。勧告を握りつぶすと、記録の不存在という別の形で残ります。なお法13条5項の文言は「尊重しなければならない」であって「従わなければならない」ではありません。拘束力の設計と、可視化の設計は別です。

あわせて規則14条4項が、勧告等を理由とする不利益取扱いを禁じています。

事業者は、産業医が法第十三条第五項の規定による勧告をしたこと又は前項の規定による勧告、指導若しくは助言をしたことを理由として、産業医に対し、解任その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

文末が「しないようにしなければならない」である点は読み落とさないでください。「してはならない」という禁止の形ではなく、努力義務に近い書きぶりです。それでも、勧告の直後の解任は、後述する辞任・解任の委員会報告(規則13条4項・理由まで報告する)によって記録に残ります。

罰則は「選任しない」にしか掛かっていない

労働安全衛生法の罰則は119条(6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)と120条(50万円以下の罰金)に列挙されています。産業医に関係する条項がどちらに載っているかを、条文の列挙を全数で当たって確認しました。

義務根拠罰則
産業医を選任する法13条1項あり(120条1号・50万円以下の罰金)
選任を労基署長へ報告する規則13条2項(法100条1項)あり(120条5号・報告をせず又は虚偽の報告)
産業医へ情報提供する法13条4項無し
勧告を尊重する/委員会へ報告する法13条5項・6項無し
産業医の業務内容を周知する法101条2項無し(120条1号が挙げるのは101条1項だけ)
長時間労働者への面接指導(一般)法66条の8第1項無し
面接指導(研究開発業務高度プロフェッショナル法66条の8の2第1項・66条の8の4第1項あり(120条1号)
50人未満の事業場の健康管理等法13条の2無し(努力義務)

表の3行目から6行目が、この記事の要点です。産業医を置いたかどうかには罰金が付いているのに、置いた産業医を機能させるための義務には1つも付いていません。101条は1項(法令等の周知)だけが120条1号に列挙されており、2項(産業医の業務内容の周知)は入っていません。面接指導も、一般の労働者向けの66条の8第1項には罰則が無く、研究開発業務と高度プロフェッショナル制度の対象者向けの66条の8の2・66条の8の4だけが列挙されています。適用除外が広い働き方ほど、面接指導が罰則付きで守られている、という並びです。

罰則が無いことを「やらなくてよい」と読まない

法13条4項は「提供しなければならない」、法101条2項は「周知させなければならない」と書かれた義務規定です。罰金で裁く設計になっていないというだけで、義務でないという意味ではありません。労働基準監督署の指導の対象になりますし、過労やメンタル不調をめぐる安全配慮義務の争いでは、80時間超の情報を産業医へ渡していたか、面接指導につないだかが、会社側の対応の履歴として問われます。罰金の有無と、民事上のリスクの有無は別の話です。

なお、これらの条文が近い将来に変わる予定は今のところありません。労働安全衛生法の13条・13条の2・101条について、e-Gov法令APIが返す施行日の異なる6つのリビジョン(2026年4月1日/2026年10月1日/2027年1月1日/2027年4月1日/2028年4月1日/2030年4月1日)の本文をMD5で突き合わせたところ、すべて同一でした。120条は2027年4月1日施行版で列挙が変わりますが、13条1項と101条1項が入り、101条2項と66条の8第1項が入らない構図は変わりません。

50人未満の事業場 — 努力義務。保健師でもよい

50人未満なら何も要らない、ではありません。法13条の2第1項がこう定めています。

事業者は、前条第一項の事業場以外の事業場については、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師その他厚生労働省令で定める者に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければならない。

文末が「努めなければならない」なので努力義務です。ここで効くのが「その他厚生労働省令で定める者」で、これを受けた規則15条の2第1項が範囲を広げています。

法第十三条の二第一項の厚生労働省令で定める者は、労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する保健師とする。

つまり50人未満の事業場では、医師でなく保健師に健康管理等を行わせる形でもよいということです。50人以上の事業場の産業医は「医師のうちから」(法13条1項)と限定されているので、ここは条文が明確に別扱いにしています。

また規則15条の2第2項は、医師の選任や国が法19条の3の援助として行う相談その他の必要な援助の事業の利用等に努めることを求めています。50人未満の事業場向けの無料の産業保健サービスは、この条文が根拠です。さらに同条3項により、情報提供の規定(規則14条の2)が準用されます。ただし法13条の2第2項が「提供しなければ」を「提供するように努めなければ」と読み替えるので、こちらも努力義務です。周知(法101条2項)も同条3項により努力義務に読み替えられます。

加えて法13条の3が、産業医等が労働者からの健康相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備を求めています。こちらは規模の限定がなく、50人以上・未満の両方に掛かる努力義務です。

辞任・解任のときは、報告先が2つある

産業医が辞めたときの手続は、選任のときと同じくらい見落とされます。報告先が2つあり、条文も別です。

事業者は、産業医が辞任したとき又は産業医を解任したときは、遅滞なく、その旨及びその理由を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならない。

これが規則13条4項で、理由まで委員会に報告させる点が要点です。前の節で見た「勧告を理由とする解任の禁止」(規則14条4項)と対になっており、勧告の直後に解任すれば、その理由が委員会の記録に残る作りになっています。

もう1つが規則13条5項で、所轄労働基準監督署長への電子申請です。報告する事項は2つで、1号が規則2条2項1号から3号まで及び8号に掲げる事項(労働保険番号/事業の種類と事業場の名称・所在地・電話番号/常時使用する労働者の数/報告年月日と事業者の職氏名)、2号が辞任等があった産業医の氏名および辞任等の年月日です。ただし但書があり、後任者の選任報告のうち事業場の情報と前任者の氏名・辞任等の年月日を報告すれば、それをもって代えることができます。後任がすぐ決まるなら、報告は実質1回で済みます。

なお、ここでいう電子申請の「電子情報処理組織」は規則2条2項が定義しており、情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律6条1項に規定する電子情報処理組織を指します。選任報告(規則13条2項)・辞任等の報告(同条5項)はいずれもこの電子情報処理組織を使用して行うと条文に書かれています。紙の様式を郵送する運用は、条文の書きぶりからは外れています。

まとめ
  • 常時50人以上の事業場は業種を問わず産業医が必要(法13条1項+施行令5条)。期限は事由発生から14日以内、報告は電子申請(規則13条1項1号・2項)
  • 専属は常時1,000人以上。ただし深夜業を含む業務など14業務に常時500人以上なら500人から。3,000人超は2人以上(規則13条1項3号・4号)
  • 社長・個人事業主・その事業場を統括管理する者は選任できない(規則13条1項2号)。抜け道の括弧書きが掛かるのはイ・ロだけで、ハには掛からない
  • 職務は9つ(規則14条1項)+毎月1回の職場巡視(規則15条1項)。隔月に緩めるには情報提供と事業者の同意の両方が要る
  • 事業者側の義務は情報提供・権限付与・周知の3つ。情報提供は3種類で期限が違い、80時間超の労働者の氏名は算定後速やかに
  • 勧告は事前に事業者の意見を求め、受けた側は3年保存委員会への報告。措置を講じないなら理由を書く
  • 罰則は選任義務(法13条1項)と報告(法100条1項)にしか無い。情報提供・勧告への対応・周知・一般の面接指導には罰則が付いていない
  • 50人未満は努力義務で、保健師でもよい(法13条の2+規則15条の2)

よくある質問

Q. 常時50人以上かどうかは、会社全体で数えるのですか、事業場ごとに数えるのですか?

A. 事業場ごとに数えます。労働安全衛生法13条1項が「政令で定める規模の事業場ごとに」という書き方をしており、会社全体の人数を基準にしていません。本社40人・支店30人・工場45人で合計115人という会社であれば、どの事業場も50人未満なので産業医の選任義務は生じないことになります。逆に1か所に55人いれば、その事業場について義務が生じます。なお常時使用する労働者にはパート・アルバイトも含めて数えるのが原則で、正社員だけを数えて判断するのは誤りです。専属の判定に使う1,000人・500人・3,000人も、同じく事業場ごとの数字です。

Q. 代表者が医師です。自分が自社の産業医になれますか?

A. 原則としてなれません。労働安全衛生規則13条1項2号が、法人の場合の当該法人の代表者、法人でない場合の事業を営む個人、事業場においてその事業の実施を統括管理する者の3者以外から選任することを求めています。ただし括弧書きにより、法人の代表者と個人事業主については、事業場の運営について利害関係を有しない者は除かれる、つまり選任できるとされています。この括弧書きは「イ及びロにあつては」と主語を限定しているため、事業の実施を統括管理する者、たとえば工場長や支店長には掛かりません。産業医が事業者に勧告する立場であることを考えると、自分で自分に勧告する構成が避けられていると読めます。

Q. 夜勤のある職場です。何人から専属の産業医が必要ですか?

A. 深夜業を含む業務に常時500人以上を従事させている事業場は、その時点で専属が必要になります。労働安全衛生規則13条1項3号は、常時1,000人以上の事業場に加えて、同号イからカまでの業務に常時500人以上を従事させる事業場にも専属を求めており、そのヌが深夜業を含む業務です。イからカまでは全部で14あり、ほかは高熱・低温・有害放射線・粉じん・異常気圧・振動・重量物・騒音・坑内・有害物などですが、ヌだけは業種を選びません。24時間営業の小売、夜勤のある介護施設や病院、長距離の運送、交替制の製造ラインは該当し得ます。

Q. 嘱託の産業医と契約しました。月に何回来てもらう必要がありますか?

A. 法令が回数を定めているのは職場巡視で、労働安全衛生規則15条1項が少なくとも毎月一回としています。これを少なくとも二月に一回に緩めるには2つの条件が要り、産業医が毎月1回以上、衛生管理者の巡視結果などの情報の提供を受けていること、そして事業者の同意を得ていることの両方です。しかも緩和の根拠になる情報のうち2号のものは、衛生委員会または安全衛生委員会における調査審議を経て事業者が提供することとしたものに限られます。当事者どうしの合意だけで隔月にすることはできません。なお衛生委員会への出席回数について、法令に定めはありません。

Q. 時間外労働が月80時間を超えた社員がいます。本人が面接指導を希望していなくても、産業医に伝える必要がありますか?

A. 必要です。労働安全衛生規則14条の2第1項2号が、時間外・休日労働が1月あたり80時間を超えた労働者の氏名と、その超えた時間に関する情報を、産業医に提供すべき情報として挙げています。同条2項2号により、時間の算定を行った後、速やかに提供します。本人の申出とは別の義務です。あわせて規則52条の2第2項が、この算定を毎月1回以上、一定の期日を定めて行うことを求めており、同条3項が、超えた本人への通知を求めています。面接指導そのものの対象は、80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者とされています。

Q. 産業医から勧告を受けました。従わないと違法になりますか?

A. 労働安全衛生法13条5項の文言は、事業者は当該勧告を尊重しなければならない、であって、従わなければならないではありません。措置を講じないこと自体を直接に罰する規定もありません。ただし労働安全衛生規則14条の3第2項が、勧告の内容と、勧告を踏まえて講じた措置の内容を記録して3年間保存することを求めており、措置を講じない場合にあってはその旨及びその理由を記録することとされています。同条4項により、同じ内容を衛生委員会または安全衛生委員会に報告する必要もあります。従わない選択は条文上あり得ますが、理由を書いて委員会に出すところまでが1組です。

Q. 産業医を選任しないと、どうなりますか?

A. 労働安全衛生法120条1号が、同法13条1項に違反した場合を50万円以下の罰金の対象として列挙しています。同じ列挙には12条1項の衛生管理者、17条1項の安全委員会、18条1項の衛生委員会も含まれています。また、選任したのに所轄労働基準監督署長へ報告しなかった場合は、法100条1項にもとづく報告義務の違反として120条5号の対象になります。一方で、選任した後の情報提供や周知の義務は119条にも120条にも列挙されていません。

Q. 産業医を選んだことを社内に知らせる義務はありますか?

A. あります。労働安全衛生法101条2項が、産業医を選任した事業者に対し、産業医の業務に関する事項を各作業場の見やすい場所への掲示や備付けなどの方法で労働者に周知させることを求めています。周知すべき事項は労働安全衛生規則98条の2第2項が3つ定めており、事業場における産業医の業務の具体的な内容、産業医に対する健康相談の申出の方法、産業医による労働者の心身の状態に関する情報の取扱いの方法です。名前を掲示するだけでは、この3つを満たしたことになりません。なお101条2項は罰則の列挙に入っていませんが、義務であることは変わりません。

Q. 従業員30人の会社です。産業医は必要ですか?

A. 選任義務はありません。労働安全衛生法13条1項の規模を定める施行令5条が常時五十人以上としているためです。ただし法13条の2第1項が、それ以外の事業場についても、必要な医学に関する知識を有する医師その他厚生労働省令で定める者に健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければならないと定めており、努力義務は掛かります。この厚生労働省令で定める者について、労働安全衛生規則15条の2第1項は、必要な知識を有する保健師としています。同条2項は、国が法19条の3に規定する援助として行う相談その他の必要な援助の事業の利用等に努めるものとするとも定めています。

Q. 産業医が辞任しました。何をすればよいですか?

A. 報告先が2つあります。労働安全衛生規則13条4項が、産業医が辞任したとき又は解任したときは、遅滞なく、その旨及びその理由を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならないと定めています。理由まで報告する点が特徴です。もう1つが同条5項で、所轄労働基準監督署長へ電子情報処理組織を使用して報告します。ただし但書により、後任者の選任に係る報告のうち、事業場の情報と前任者の氏名・辞任等の年月日を報告すれば、それに代えることができます。あわせて、後任の選任には14日以内という期限が改めて掛かります。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。事業場の単位の切り方、常時使用する労働者や特定の業務に従事する労働者の数え方、専属が必要かどうかの判定、産業医との契約内容については、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。

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