税金・経理・補助金ツールズ

支払調書とは|提出範囲は5万円・15万円超、本人への交付義務は無い【令和8年分】

結論から言うと、支払調書は税務署に提出するための書類であって、支払先本人に渡す義務は所得税法にありません。根拠は条文の締め方です。支払調書を定める所得税法225条1項は「…に関する調書を、…税務署長に提出しなければならない」で文が終わります。一方、源泉徴収票を定める226条1項は「…源泉徴収票二通を作成し、…一通を税務署長に提出し、他の一通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない」と、はっきり書き分けられています。

この非対称は罰則の側からも確認できます。242条は5号で「提出」を、6号で「交付」を罰していますが、6号が挙げるのは225条2項の通知書と226条1項〜3項の源泉徴収票だけで、225条1項の支払調書は6号に入っていません。交付義務が無いから、交付しないことを罰する条文も無い、という構造です。

とはいえ実務では、報酬を支払った側が年明けに支払調書のコピーを送ってくれることがよくあります。あれは慣行であって義務ではありません。だから「今年は届かない」ことは異常ではないし、逆に取引先から「支払調書をください」と言われたときに、法令上の義務として応じる必要もありません。以下、提出範囲の金額基準(5万円超・15万円超・50万円超)、期限、そして間違えやすい点を条文とタックスアンサーで確かめながら整理します。

結論:税務署に出す書類で、本人に渡す義務はない

支払調書は、一定の支払をした者が「誰に・いくら払い・いくら源泉徴収したか」を税務署に知らせる書類です。給与所得の源泉徴収票などと合わせて法定調書と呼ばれ、法定調書合計表という集計表を表紙にして提出します。

読者がいちばん知りたいのはたいてい「自分の手元に届くのか」なので、そこから先に片づけます。届くかどうかは相手の親切さの問題です。所得税法225条1項が定めているのは税務署長への提出だけで、支払を受けた本人への交付は一言も出てきません。

「支払調書が来ないと確定申告できない」は誤解交付義務が無い書類なので、税の手続がその到着を前提にしていることはありません。報酬の年間合計と源泉徴収税額は、自分が発行した請求書と入金記録(帳簿)で把握するのが本来の姿です。届いた支払調書は、あくまで照合の材料にすぎません。

「支払調書」は1種類ではない(225条1項の各号)

「支払調書」は総称です。225条1項は1号から14号まで支払の種類を並べており、種類ごとに別の様式があります。経理実務で出てくるのはおおむね次の4つです。

様式の名称225条1項主な中身
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書3号204条1項各号の報酬・料金等(税理士・弁護士報酬、原稿料、講演料、外交員報酬など)
不動産の使用料等の支払調書9号不動産等の貸付けの対価(家賃・地代・権利金・更新料など)
不動産等の譲受けの対価の支払調書9号不動産等の譲渡に係る対価
不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書9号売買・貸付けのあっせんに係る手数料
非居住者に支払われる給与、報酬、年金及び賞金の支払調書8号非居住者・外国法人への国内源泉所得の支払

9号に3つの様式が同居しているのは、条文が「不動産等の貸付け…若しくは不動産等の譲渡に係る対価又は不動産等の売買若しくは貸付けのあつせんに係る手数料」をひとまとめに規定しているからです。ここで見落とされやすいのが提出義務者の限定で、9号は「支払をする法人又は不動産業者(政令で定めるものに限る。)である個人」と書かれています。つまりふつうの個人事業主が事務所の家賃を払っていても、不動産の使用料等の支払調書を出す義務はありません。

提出範囲——5万円超・15万円超・50万円超

支払調書は、払った相手全員分を出すわけではありません。同一人に対するその年中の支払金額の合計が基準額を超えたものだけです。基準額は支払の内容ごとに違います。

支払の内容基準(同一人・その年中)
弁護士・税理士等への報酬、作家・画家への原稿料や画料、講演料など合計 5万円超
プロ野球の選手などに支払う報酬・契約金合計 5万円超
外交員・集金人・電力量計の検針人・プロボクサー等の報酬、バー・キャバレー等のホステス等の報酬、広告宣伝のための賞金合計 50万円超
医療情報基盤・診療報酬審査支払機構が支払う診療報酬合計 50万円超
馬主に支払う競馬の賞金1回の支払が75万円超のとき、その年中の全支払金額
不動産の使用料等(家賃・地代・権利金・更新料・名義書換料など)合計 15万円超
非居住者への人的役務提供の対価年間 50万円超(50万円以下は提出不要)

「超」であって「以上」ではない点に注意します。税理士報酬をその年に合計5万円ちょうど払った場合、5万円を超えていないので提出範囲に入りません。50,001円になったところで入ります。

消費税を含めて判断するのか国税庁は、提出範囲の金額は消費税および地方消費税を含めて判断するのが原則としつつ、税額が明確に区分されている場合は含めないで判断しても差し支えないとしています(No.7431・No.7441)。請求書で本体と税が分かれていれば、税抜で判定してよいということです。5万円・15万円の境目にいる相手ほど、どちらで判定したかを社内で統一しておく価値があります。

提出期限は翌年1月31日(令和8年分は2月1日)

225条1項本文は「その支払…の確定した日の属する年の翌年一月三十一日までに、税務署長に提出しなければならない」と定めています。提出先は支払者の所轄税務署で、法定調書合計表を添えて出します。

令和8年分の期限は暦の都合でずれます。2027年1月31日は日曜日なので、翌開庁日の2027年(令和9年)2月1日(月)が期限です。

e-Tax等での提出義務が令和9年1月1日から大きく下がる法定調書は、種類ごとに前々年の提出枚数が100枚以上だとe-Tax・光ディスク等・認定クラウド等で出さなければなりません。この基準が令和9年1月1日以後は30枚以上に引き下げられます(No.7455)。判定が「前々年」であるため、いま書面で出している事業者も、過去の枚数によっては次の提出から電子が義務になります。枚数の数え方は法定調書合計表の記事で扱っています。

交付義務の有無を条文で並べる

ここが本題です。所得税法は、書類ごとに「税務署へ出すのか」「本人へ渡すのか」を意識的に書き分けています。並べると設計が見えます。

税務署へ提出 本人へ交付 支払調書(報酬・不動産の使用料等)= 225条1項 ◯ 義務あり × 義務なし 支払通知書(オープン型投信の収益分配・みなし配当)= 225条2項 ◯ 義務あり 源泉徴収票(給与・退職手当・公的年金)= 226条1〜3項 ◯ 義務あり ◯ 義務あり(二通作成) 支払明細書(給与・退職手当・公的年金)= 231条1項 ◯ 義務あり 罰則 242条:5号=「提出」しない罪(225条1項を含む)/6号=「交付」しない罪(225条1項は入らない) = 報酬の支払について、法令が支払者に本人への交付を義務づけている書類は無い。
所得税法は「税務署へ提出」と「本人へ交付」を条文ごとに書き分けている。支払調書(225条1項)だけが右側に義務を持たない。

注意したいのは、225条にも交付義務の規定が1つあることです。同条2項は、オープン型の証券投資信託の収益の分配と、25条1項でみなし配当となるものについて、「支払に関する通知書を、…その支払を受ける者に交付しなければならない」と定めています。ですから「225条には交付義務が無い」と言うと言い過ぎで、正確には「1項の支払調書には交付義務が無い」です。この2項の対象は上記2類型に限られており、報酬・料金や不動産の使用料等は含まれません。

もう一つ、231条1項の支払明細書(いわゆる給与明細)にも交付義務がありますが、条文の見出しどおり対象は「給与等、退職手当等又は公的年金等」です。報酬・料金は入りません。つまり、フリーランスへの報酬について、支払者に何らかの書類の交付を義務づけている条文は所得税法に見当たりません。

出さなかったときの罰則は242条5号

242条5号は、225条1項の調書などを「これらの書類の提出期限までに税務署長に提出せず、又はこれらの書類に偽りの記載若しくは記録をして税務署長に提出した者」を対象とし、同条本文の法定刑は「一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金」です。

「1年以下の懲役」と書いてある解説は条文が古い刑法の改正で懲役と禁錮が拘禁刑に一元化されたため、現行の所得税法242条の文言は拘禁刑です。本記事は2026年8月13日にe-Gov法令API v2で現行条文を取得して確認しています。法定刑の重さ自体は変わっていませんが、引用するなら現行の語に合わせるほうが安全です。

もっとも、提出漏れが直ちに刑事罰になるわけではありません。実務上は、気づいた時点で不足分を提出し、誤りがあれば訂正分を出すのが通常の対応です。訂正の手順は法定調書合計表の記事で扱っています。

間違えやすい点

「法人への支払だから不要」ではない

国税庁は、法人(人格のない社団等を含む)に支払われる報酬・料金等で源泉徴収の対象とならないものについても、支払調書の提出範囲に該当する場合は提出が必要としています(No.7431)。源泉徴収の要否と支払調書の提出範囲は別の判定です。

「源泉徴収していないから不要」ではない

同じくNo.7431は、支払金額が源泉徴収の限度額以下であるため源泉徴収をしていない報酬・料金等も、提出範囲に該当すれば提出が必要としています。源泉徴収税額が0円の支払調書はありえます。

法人の大家に「家賃だけ」払っている場合は不要

不動産の使用料等の支払調書は、法人に支払うものについては賃借料を除く権利金・更新料等だけが対象です。したがって法人に対して家賃や賃借料のみを支払っている場合、提出は必要ありません(No.7441)。個人の大家に払っている場合は家賃も対象になるので、貸主が法人か個人かで結論が変わります。

家賃以外も「不動産の使用料等」に入る

権利金(返還を要しないこととなる敷金等を含む)、礼金、更新料、承諾料、名義書換料が含まれます。さらに、催物の会場の一時的な賃借料、陳列ケースの賃借料、広告のための塀や壁面の賃借料といった建物の一部だけを使う場合も対象です(No.7441)。倉庫の一角や看板スペースの賃借は見落としやすいところです。

非居住者への支払は別の様式

非居住者に対し国内で行う人的役務提供の対価を支払った場合は、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」ではなく「非居住者に支払われる給与、報酬、年金及び賞金の支払調書」を提出します。ただし支払金額が年間50万円以下なら提出は不要です(No.7431)。海外在住のデザイナーや翻訳者に発注したときに関わってきます。

本人から「支払調書をください」と言われたら

フリーランス側から依頼されることはよくあります。断っても法令違反ではありませんが、揉めても得はないので、次の順で考えると整理できます。

  1. 相手が本当に必要としているのは金額——たいていは「年間の支払額」と「源泉徴収税額」です。支払明細や取引明細を出せば目的は足ります。
  2. そもそも調書が存在しない場合がある——提出範囲に達していない支払(税理士報酬なら年5万円以下など)については、税務署に出す支払調書自体を作っていません。「無いものは出せない」というのは正確な回答です。
  3. 送るなら控えの扱いを決めておく——税務署提出用と同じ内容を送るのか、個人番号を除いた形にするのかは社内で統一しておくほうが安全です。

逆にフリーランスの側にいるなら、支払調書は当てにせず、請求書と入金記録から自分で年間の売上と源泉徴収税額を積み上げておくのが確実です。源泉徴収税額の検算には計算機が使えます。

源泉徴収税額 計算機で報酬の10.21%を検算する

よくある質問

Q. 支払調書は必ず本人に送らなければいけませんか?

A. いいえ。所得税法225条1項は「税務署長に提出しなければならない」で終わっており、本人への交付は定めていません。交付義務が書かれているのは226条の源泉徴収票と231条の支払明細書、そして225条2項の通知書(オープン型投信の収益分配・みなし配当)です。

Q. 支払調書が届かないのですが、確定申告できますか?

A. できます。支払者に交付義務が無いため、届かないこと自体が異常ではありません。年間の報酬額と源泉徴収税額は、自分が発行した請求書と入金記録から集計するのが本来の方法です。

Q. 税理士報酬をその年に合計5万円ちょうど払いました。提出は必要ですか?

A. 必要ありません。国税庁の示す基準は「同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50,000円を超えるもの」なので、5万円ちょうどは提出範囲に入りません。

Q. 法人に支払った報酬も支払調書が必要ですか?

A. 必要になる場合があります。国税庁は、法人に支払われる報酬・料金等で源泉徴収の対象とならないものも、提出範囲に該当すれば提出が必要としています(No.7431)。

Q. 源泉徴収をしていない報酬は提出しなくてよいですか?

A. いいえ。支払金額が源泉徴収の限度額以下で徴収していない場合も、提出範囲に該当すれば提出が必要です(No.7431)。源泉徴収税額が0円の支払調書はありえます。

Q. 個人事業主ですが、事務所の家賃について支払調書を出す義務はありますか?

A. 原則ありません。所得税法225条1項9号の提出義務者は「法人又は不動産業者(政令で定めるものに限る。)である個人」に限られているため、不動産業を営んでいない個人事業主は対象外です。

Q. 法人の大家さんに家賃だけを払っています。提出は必要ですか?

A. 必要ありません。法人に支払う不動産の使用料等は賃借料を除く権利金・更新料等が対象なので、家賃や賃借料のみの支払であれば提出は不要です(No.7441)。

Q. 提出期限までに出さなかったらどうなりますか?

A. 所得税法242条5号が、提出期限までに提出しないこと、および偽りの記載をして提出することを対象としており、同条本文の法定刑は1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。実務上は気づいた時点で提出・訂正するのが通常の対応です。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

この内容をXで共有