試算表の見方 — 「試算表を作れ」と命じる条文は、株式会社の会計法令に1本も無い
結論から言うと、試算表は「貸借の合計が一致すること」を確かめるための集計表です。総勘定元帳の各勘定を1枚に並べ直したもので、それ以上でもそれ以下でもありません。決算書のように様式が決まっているわけでもなく、株式会社に作成を義務づける条文もありません。
実際、e-Gov法令検索で全法令の条文本文を横断すると、「試算表」という語を含む条文は24法令・50センテンスあり、その全部が独立行政法人・地方公営企業・預金保険機構などの報告義務です。会社法・会社計算規則・商法・財務諸表等規則・法人税法施行規則・所得税法施行規則——株式会社の会計と帳簿を定める6本の約188万字を機械で数えても、「試算表」は0回でした。
それでも経理が毎月これを作るのは、貸借の一致という1本の検算で、片側だけの誤りをまとめて落とせるからです。逆に言えば、両側が同じだけ動く誤りは一致したまま通り抜けます。この記事は、3種類の試算表の違いを条文の言葉で確かめたうえで、一致しても残る4つの誤りと、一致しないときの差額の読み方までを扱います。
試算表とは — 元帳を1枚に並べ直した集計表
複式簿記では、1本の仕訳が必ず借方と貸方の両方に同じ金額を立てます。仕訳をいくら積み上げても、借方の総額と貸方の総額は等しいままです。この性質を使って、総勘定元帳への転記が正しく行われたかを確かめるのが試算表です。
作り方は単純で、総勘定元帳の勘定ごとに借方と貸方を集計し、縦に並べて最下行で合計を取ります。最下行の借方と貸方が一致すれば、転記の段階で片側だけを書き落とした・片側だけ金額を間違えた、という誤りは無かったことになります。一致しなければ、どこかにその種の誤りがあります。
3種類の違い — 合計試算表・残高試算表・合計残高試算表
試算表には3つの形があります。呼び分けは簿記の教科書に出てくるものですが、条文の言葉としてこの3つの関係を定義しているのは、会計検査院の計算証明規則70条2項の括弧書き1か所だけです。
計算書は、合計残高試算表(合計試算表、残高試算表その他これらに類するものを含む。以下同じ。)とする。
独立行政法人が毎月会計検査院に出す「計算書」の中身を定めた条文です。ここで「合計残高試算表」を親、「合計試算表」と「残高試算表」をそこに含まれるものとして書いています。実務の理解と一致しており、しかも日本の法令で「合計試算表」という語が現れるのは、確認できた範囲でこの括弧書きの1か所だけでした。
| 種類 | 各勘定に載せる数字 | 分かること | 分からないこと |
|---|---|---|---|
| 合計試算表 | 借方合計と貸方合計(その月に動いた総額) | 取引量。どの勘定がよく動いたか | いまいくら残っているか |
| 残高試算表 | 借方合計と貸方合計の差額(残高)だけ | いまの財政状態。そのまま決算書に近い | その残高がいくらの取引の結果か |
| 合計残高試算表 | 合計と残高の両方を並べる | 両方 | —(列が増えるぶん見づらい) |
設例 — 1か月の取引から3つの試算表を作る
前期繰越と当月6本の取引だけの会社で、実際に3つの形を並べてみます。金額はすべてこの記事のために作った架空のものです。
前期繰越: 現金 500,000円/売掛金 800,000円/買掛金 300,000円/資本金 1,000,000円
当月の取引: ①掛売上 1,200,000円 ②売掛金の回収 900,000円 ③掛仕入 700,000円 ④買掛金の支払 600,000円 ⑤給料 250,000円 ⑥家賃 120,000円
| 勘定科目 | 合計試算表 | 残高試算表 | ||
|---|---|---|---|---|
| 借方合計 | 貸方合計 | 借方残高 | 貸方残高 | |
| 現金 | 1,400,000 | 970,000 | 430,000 | — |
| 売掛金 | 2,000,000 | 900,000 | 1,100,000 | — |
| 買掛金 | 600,000 | 1,000,000 | — | 400,000 |
| 資本金 | — | 1,000,000 | — | 1,000,000 |
| 売上 | — | 1,200,000 | — | 1,200,000 |
| 仕入 | 700,000 | — | 700,000 | — |
| 給料 | 250,000 | — | 250,000 | — |
| 支払家賃 | 120,000 | — | 120,000 | — |
| 合計 | 5,070,000 | 5,070,000 | 2,600,000 | 2,600,000 |
この2つを左右に並べて1枚にしたものが合計残高試算表です。注目したいのは2つの表で合計額そのものが違う点で、合計試算表は5,070,000円、残高試算表は2,600,000円です。どちらも正しく、意味が違います。前者は「今月いくら動いたか」の総量、後者は「いま各勘定にいくら残っているか」の総量です。
残高試算表の右下の数字は、そのまま決算書の骨格になります。借方残高のうち現金430,000円と売掛金1,100,000円が資産、貸方残高のうち買掛金400,000円が負債、資本金1,000,000円が純資産、売上1,200,000円が収益、仕入・給料・支払家賃の1,070,000円が費用です。収益1,200,000円 − 費用1,070,000円 = 130,000円が、この月までの当期純利益にあたります。
残高試算表の利益から法人税を試算する(無料・登録不要)貸借が一致しても見つからない誤り、4つ
ここが試算表の本題です。貸借が一致することは「誤りが無い」ことを意味しません。一致が保証するのは「借方と貸方に同じ金額が立っている」ことだけで、両側が同じだけ動く誤りは、一致したまま素通りします。代表的なものが次の4つです。
| 誤りの型 | 何が起きるか | 設例に当てはめると | 一致するか |
|---|---|---|---|
| ①記帳漏れ | 仕訳を1本まるごと入れ忘れる | ③掛仕入のうち300,000円を落とすと、合計は4,770,000円どうし、残高は2,300,000円どうし | 一致する |
| ②二重記帳 | 同じ仕訳を2回入れる | ①掛売上をもう1回入れると、合計は6,270,000円どうし、残高は3,800,000円どうし | 一致する |
| ③勘定科目の取り違え | 金額は正しいが入れる科目が違う | ⑤給料250,000円を支払手数料で記帳しても、借方合計は動かない | 一致する |
| ④両側同額の金額誤り | 借方も貸方も同じだけ間違える | ③掛仕入700,000円を70,000円と書いても、両側が70,000円 | 一致する |
①と②は総額そのものが変わるのに一致します。②の二重記帳は、決算にそのまま持ち込むと売上と売掛金を同時に水増しするので実害が大きい型です。③は総額すら変わらないため、試算表の側からは原理的に検知できません。④は端数のズレとして残高に現れることがありますが、試算表の一致では拾えません。
一致しないときの探し方 — 差額が9で割り切れるなら
一致しなかったときは、差額そのものが手がかりになります。総当たりで元帳を見る前に、差額を次の順で割ってみると当たりが付きます。いずれも算術上の性質なので、会計ソフトでも手書きでも同じように使えます。
| 差額の性質 | 疑うべき誤り | 理由 |
|---|---|---|
| 9で割り切れる | 数字の入れ替わり(79,000を97,000と書いた等) | 桁を入れ替えた差は必ず9の倍数になる。97,000−79,000=18,000は9で割ると2,000 |
| 2で割り切れ、その半分の金額の仕訳がある | 貸借を逆に書いた | 本来+Xのところが−Xになるので、ズレは2X |
| 差額そのものと同額の仕訳がある | 片側だけの転記漏れ | 片方に立てて片方に立てていない |
| 0が1つ多い/少ない桁 | 桁の打ち間違い | 差額が元の金額の9倍または0.9倍になる |
「試算表」を名指しする法令は24本。株式会社の会計法令には無い
ここからは条文の話です。e-Gov法令検索の法令API v2 で全法令の条文本文を横断すると、「試算表」を含む条文は24法令・50センテンスでした(2026年8月20日取得)。同じ方法で「貸借対照表」を引くと6,598、「総勘定元帳」は79、「仕訳帳」は11、「精算表」は16です。検索経路そのものは生きていて、そのうえで試算表が極端に少ない、という結果です。
24法令の顔ぶれには、はっきりした偏りがあります。
| 区分 | 主な法令 | 誰に対する義務か |
|---|---|---|
| 計算証明 | 計算証明規則 | 独立行政法人・国立大学法人など、会計検査院の検査を受ける法人 |
| 公営企業 | 地方公営企業法、同施行規則 | 水道・交通・病院などを営む地方公共団体の企業 |
| 基金・機構の四半期報告 | 預金保険法施行規則、投資者保護基金に関する命令、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の命令ほか10本超 | 法律で設立された各種の基金・機構 |
| 協同組合の信用事業 | 農林中央金庫法施行規則、農業協同組合法施行規則、漁業協同組合等の信用事業等に関する命令ほか | 農協・漁協・農林中金 |
| 戦後処理の経過法令 | 会社経理応急措置法施行規則、企業再建整備法施行規則ほか | 1946〜49年の特別措置の対象会社 |
株式会社一般の会計や帳簿を定める法令は、この24本に1本も入っていません。念のため、6本の法令の条文全文を取得して語の出現を機械で数えました。
| 法令 | 条文の字数 | 「試算表」 | 対照: 「貸借対照表」 | 対照: 「総勘定元帳」 |
|---|---|---|---|---|
| 会社法 | 472,181字 | 0回 | 48回 | 0回 |
| 会社計算規則 | 116,934字 | 0回 | 90回 | 0回 |
| 商法 | 87,117字 | 0回 | 10回 | 0回 |
| 財務諸表等規則 | 179,203字 | 0回 | 276回 | 0回 |
| 法人税法施行規則 | 555,973字 | 0回 | 65回 | 46回 |
| 所得税法施行規則 | 469,847字 | 0回 | 36回 | 3回 |
| 合計 | 1,881,255字 | 0回 | 525回 | 49回 |
対照に置いた2語が同じ抽出で525回・49回出ているので、条文テキストが取れていないために0回になったのではありません。総勘定元帳は法人税法施行規則が46回名指しする法定の帳簿で、試算表はそうではない——両者の差はここにあります。帳簿として何をどう書くかは、総勘定元帳の書き方と現金出納帳の書き方で扱っています。
月次試算表に法定の提出期限がある法人
試算表を「毎月作って期限までに出せ」と定めている条文は、確認できた範囲で2本です。どちらも株式会社は対象外ですが、月次決算の締め方の目安として実務でも参考になります。
1本目は地方公営企業法31条です。
管理者は、毎月末日をもつて試算表その他当該企業の計理状況を明らかにするために必要な書類を作成し、翌月二十日までに当該地方公共団体の長に提出しなければならない。
月末で締めて、翌月20日まで。しかも様式まで決まっていて、地方公営企業法施行規則50条が受けています。
法第三十一条に規定する試算表の様式は、別記第十九号様式に準ずるものとする。
2本目は計算証明規則です。70条1項が独立行政法人について「証明責任者は、法人の長とし、証明期間は、一月とする。」と定め、同条2項で計算書=合計残高試算表としたうえで、2条1項が期限を決めています。
証明責任者は、証明期間ごとに計算書(計算書に記載すべき事項を記録した電磁的記録を含む。以下同じ。)を作成し、次の各号に掲げるものを添えて、当該期間が満了する日の属する月の翌月末日までに会計検査院に到達するように提出しなければならない。
こちらは翌月末日まで、しかも「到達するように」——発信主義ではなく到達主義です。同条2項は、複数の官職の計算を併算して証明する場合について、この「翌月末日」を「翌々月十五日」と読み替えると定めています。
試算表から決算書へ — 「精算表」は全法令で16か所
残高試算表がそのまま決算書になるわけではありません。あいだに決算整理が入ります。減価償却費、貸倒引当金、棚卸、経過勘定——これらを加えたうえで、はじめて貸借対照表と損益計算書になります。この過程を1枚の作業用紙にまとめたものが精算表で、こちらも全法令で16か所しか出てこない実務上の中間物です。
決算整理をどこまで帳簿に入れておく必要があるかは、税務上の結論を左右します。「損金経理」を要件とする項目は、決算で帳簿に入れていないと申告書の側で取り返せません。この線引きは決算整理仕訳で条文に沿って整理しています。
逆に言えば、月次の残高試算表は「決算整理前の姿」です。減価償却を年1回まとめて計上している会社であれば、11か月目までの試算表の利益は必ず過大に出ます。月次試算表の利益をそのまま着地見込みとして扱わないのは、この理由によります。
よくある質問
Q. 試算表と貸借対照表は何が違うのですか?
A. 目的と法令上の位置づけがまったく違います。試算表は総勘定元帳の転記が正しいかを確かめるための内部の集計表で、収益・費用の勘定も資産・負債の勘定も同じ1枚に並びます。貸借対照表は資産・負債・純資産だけを、決められた区分で並べた決算書です。会社計算規則は貸借対照表について、区分・科目・表示方法を条文で細かく定めていますが、同じ規則の116,934字を機械で数えても「試算表」は0回でした。一般に、試算表は作り方も様式も自由で、社内で見やすい形にしてかまわないものと理解されています。なお残高試算表の借方残高・貸方残高を資産・負債・純資産・収益・費用に振り分けると貸借対照表と損益計算書の骨格になるため、両者が無関係というわけではありません。
Q. 貸借が一致していれば、帳簿は正しいと考えてよいですか?
A. 一致が保証するのは「借方と貸方に同じ金額が立っていること」だけです。両側が同じだけ動く誤りは一致したまま残ります。代表的なものが4つあり、仕訳を1本まるごと入れ忘れる記帳漏れ、同じ仕訳を2回入れる二重記帳、金額は正しいが科目を取り違えたもの、借方と貸方の両方を同じだけ間違えたものです。このうち科目の取り違えは合計額そのものが変わらないため、試算表の側からは原理的に検知できません。一般に、月次では合計欄の一致ではなく、前月・前年同月と行ごとに並べた差を見て異常を探すことになります。現金勘定に貸方残高が立っている、売上が立っているのに売掛金が動いていない、といった形で現れます。
Q. 試算表の貸借が合いません。どこから探せばよいですか?
A. 元帳を総当たりする前に、差額そのものを手がかりにすると候補が絞れます。まず差額と同じ金額の仕訳があれば、片側だけの転記漏れです。次に差額を2で割った金額の仕訳があれば、借方と貸方を逆に書いた可能性があります。本来プラスに立てるべきものをマイナスに立てると、ズレは金額の2倍になるためです。そして差額が9で割り切れる場合は、数字の入れ替わりか桁の打ち間違いを疑います。ある数の桁を入れ替えた差は必ず9の倍数になるという算術上の性質があり、たとえば79,000円を97,000円と書いた場合の差額18,000円は9で割ると2,000円です。どれにも当たらないときは、複数の誤りが重なっている可能性があります。
Q. 会社に試算表を作る法律上の義務はありますか?
A. 株式会社について、試算表の作成を義務づける条文は確認できませんでした。e-Gov法令検索で全法令の条文本文を横断すると「試算表」を含む条文は24法令・50センテンスありますが、その内訳は計算証明規則による独立行政法人の計算証明、地方公営企業法による公営企業の月次報告、預金保険機構をはじめとする各種基金・機構の四半期報告、農協・漁協の信用事業、そして戦後処理の経過法令で、株式会社一般の会計を定めるものは含まれていません。会社法・会社計算規則・商法・財務諸表等規則・法人税法施行規則・所得税法施行規則の6本、約188万字を機械で数えても0回でした。義務があるのは会計帳簿や決算書のほうで、試算表はその過程で作る内部の集計表という位置づけになります。
Q. 合計試算表と残高試算表は、どちらを作ればよいですか?
A. 目的で決まります。残高試算表は各勘定の残高だけを載せるので、そのまま決算書の骨格として使え、財政状態を見るのに向いています。合計試算表は借方合計と貸方合計を載せるので、その期間にどれだけ動いたかという取引量が分かります。両方を1枚にしたものが合計残高試算表で、計算証明規則70条2項は「計算書は、合計残高試算表(合計試算表、残高試算表その他これらに類するものを含む。以下同じ。)とする。」と定めており、この3つを包含関係で捉えています。実務上は、残高がゼロになった勘定の動きが残高試算表からは読み取れない点が判断の分かれ目になります。仮払金を立てて同月中に精算した動きを追いたい場合などは、合計側の数字が必要になります。
Q. 月次試算表はいつまでに作ればよいですか?
A. 株式会社について法令上の期限はありません。参考になる数字として、地方公営企業法31条が公営企業の管理者に対し、毎月末日をもって試算表を作成し翌月二十日までに地方公共団体の長へ提出するよう求めています。また計算証明規則2条1項は、独立行政法人などの計算書について、証明期間が満了する日の属する月の翌月末日までに会計検査院へ到達するように提出すると定めています。民間で金融機関に月次試算表を提出する場合は、契約や融資の条件で期限が決まります。一般に、請求書の到着を待つ買掛金の計上と、月末締め翌月払いの給与の計上が締めの速度を決める要因になります。
出典
- e-Gov法令検索(デジタル庁)法令API v2 — 全法令キーワード検索、および各法令の条文全文(2026年8月20日取得)
- 計算証明規則(昭和二十七年会計検査院規則第三号)第2条、第70条、第71条
- 地方公営企業法(昭和二十七年法律第二百九十二号)第31条
- 地方公営企業法施行規則(昭和二十七年総理府令第七十三号)第50条、別記第十九号様式
- 会社法(平成十七年法律第八十六号)/会社計算規則(平成十八年法務省令第十三号)/商法(明治三十二年法律第四十八号)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和三十八年大蔵省令第五十九号)
- 法人税法施行規則(昭和四十年大蔵省令第十二号)/所得税法施行規則(昭和四十年大蔵省令第十一号)
- 卸売市場法施行規則(昭和四十六年農林省令第五十二号)第11条および附則
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務相談ではありません。実際の判断にあたっては、顧問税理士または所轄税務署にご確認ください。