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出張旅費規程と日当の相場|非課税の判定基準とインボイス不要の特例

結論から言うと、出張の日当をいくらまで出してよいかという金額の基準は、法令にも通達にも書かれていません。所得税法9条1項4号が非課税としているのは「その旅行について通常必要であると認められるもの」であって、金額ではないからです。「日当は1日5,000円まで」といった数字を根拠として示している法令は存在しません。

では何で判定するのかというと、所得税基本通達9-3が挙げる2つの勘案事項です。①その支給額が役員と使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準で計算されているか、②その支給額が同業種・同規模の他社が一般的に支給している金額に照らして相当か。つまり「相場」は法令が決めるものではなく、自社の規程の内部整合性と、同業他社の水準で決まります。旅費規程を整えることに意味があるのは、この①を説明できる形にするためです。

そしてもう一つ、実務でいちばん効くのに見落とされやすい点があります。この「通常必要」という同じ言葉が、消費税のインボイス対応にもそのまま効いてくることです。消費税法施行規則15条の4第2号の「出張旅費特例」を使うと、出張旅費・宿泊費・日当はインボイス(適格請求書)を受け取らなくても、帳簿の保存だけで仕入税額控除ができます。その範囲を決めているのは、消費税法基本通達11-6-4の注により所得税基本通達9-3の例です。以下、条文と通達の原文で順に確かめます。

日当が非課税になる根拠は所得税法9条1項4号

出張の日当・宿泊費・交通費が給与課税されないのは、所得税法9条1項4号に定めがあるからです。e-Gov法令API v2で現行条文(令和8年8月12日施行)を読むと、次のようになっています。

所得税法9条1項4号(非課税所得)

給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの

ここで確認しておきたいのは3点です。第一に、非課税の対象は出張だけではありません。転任にともなう転居(転勤)、就職にともなう転居、退職にともなう転居、そして死亡退職した人の遺族の転居まで含まれます。第二に、対象は「金品」であって、現金の支給に限られません。第三に、条文に金額は一切書かれていません。線を引いているのは「通常必要であると認められるもの」という評価だけです。

この構造は、同じ9条1項の隣にある通勤手当(5号)と対照的です。通勤手当は「一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの」となっていて、政令(所得税法施行令20条の2)に月15万円という具体的な上限額があります。出張旅費には、この「政令で定めるもの」に当たる金額の定めがありません。日当に上限額を書いた法令が見つからないのは、探し方が悪いからではなく、もともと存在しないためです。

日当の「相場」に法令の金額基準はない

では「通常必要」をどう判定するのか。所得税基本通達9-3が判定にあたって勘案する事項を2つ挙げています。

所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)

……その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。
(1)その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2)その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。

この2つは、実務の言葉に直すとこうなります。

通達の勘案事項実務でやること崩れる典型例
(1) 全社を通じた適正なバランス旅費規程で役職ごとの日当額を定め、その差に説明がつくようにする社長だけ日当3万円、他の社員は2,000円のように、職務内容で説明できない差を付ける
(2) 同業種・同規模の他社水準同じ業種・同じ規模の会社の一般的な支給額から離れすぎない社内の規程としては整合していても、水準そのものが業界の一般的な額を大きく超えている

注目したいのは、(1)と(2)は別々の関門だということです。規程を作って社内のバランスを整えれば(1)は満たせますが、それだけでは(2)は満たせません。「旅費規程さえ作れば日当はいくらでも非課税」という説明を見かけますが、通達は規程の有無ではなく支給額の水準を(2)で見ています。逆に、水準が一般的でも、役員だけ突出していれば(1)で崩れます。

「公務員の日当を基準にする」という定番の目安について

日当の水準を決めるとき、国家公務員の旅費の額を参考にする実務が広く知られています。ただし、令和7年4月1日施行の現行の「国家公務員等の旅費に関する法律」には、「日当」「宿泊料」「鉄道賃」という費目が条文上ひとつも出てきません(e-Gov法令API v2で取得した全文を検索した結果、いずれも0件)。令和6年法律第22号による改正で、法律本体は旅費を支給する旨と手続を定めるにとどまり、具体的な区分と額は政令に委ねられる形になりました。参考にする場合は、法律ではなく現行の政令・財務省令のどこに何が定められているかを確認したうえで引く必要があります。

超えた部分は、旅行の種類ごとに所得区分が変わる

「通常必要」の範囲を超えて支給した場合、超えた部分が課税されること自体はよく知られています。見落とされやすいのは、その超過部分がどの所得になるかは、旅行の種類によって違うという点です。所得税基本通達9-4が4つに分けています。

どの旅行か超過部分の所得区分
給与所得者が、勤務地を離れて職務を遂行するためにした旅行(=通常の出張)給与所得
給与所得者が、転任にともなう転居のためにした旅行給与所得
就職した者が、その就職にともなう転居のためにした旅行雑所得
退職した者が、その退職にともなう転居のためにした旅行退職所得

実務上の意味は小さくありません。通常の出張の超過分は給与所得なので、その月の給与に加えて源泉徴収の対象になり、年末調整にも乗ります。一方、入社予定者の引越費用を出しすぎた場合の超過分は雑所得とされているため、給与としての源泉徴収の話ではなくなります。同じ「出しすぎ」でも、誰にどの旅行で出したかによって処理する場所が変わります。

会社が支給する出張旅費・宿泊費・日当 その旅行について「通常必要であると認められる部分」か 判定:所基通9-3 ①全社での適正なバランス ②同業種・同規模の他社水準 範囲内 超える部分 所得税:非課税 (法9条1項4号) 消費税:課税仕入れになる 請求書等の保存は不要 (帳簿のみ/消規15の4第2号) 所得税:課税される (所基通9-4/出張なら給与) 消費税:特例の対象外 給与として不課税 (仕入税額控除できない) 消基通11-6-4(注):消費税の「通常必要と認められる部分」は 所基通9-3の例により判定する = 2つの税で判定基準が1本につながる
「通常必要であると認められる部分」という1つの物差しが、所得税の非課税範囲と、消費税でインボイスを要しない範囲を同時に決めている。

インボイスが要らない「出張旅費特例」

消費税では、仕入税額控除を受けるために原則としてインボイス(適格請求書)の保存が必要です。ただし消費税法施行令49条1項1号ニは、請求書等の交付を受けることが困難な課税仕入れとして財務省令で定めるものを、帳簿の保存だけで控除できる場合としています。その財務省令が消費税法施行規則15条の4で、第2号が出張旅費等です。

消費税法施行規則15条の4第2号(抜粋)

……役員又は使用人(以下「使用人等」という。)が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合……に、その旅行に必要な支出に充てるために事業者がその使用人等又はその退職者等に対して支給する金品で、その旅行について通常必要であると認められる部分に係る課税仕入れ

所得税法9条1項4号とほとんど同じ文章です。そして消費税法基本通達11-6-4は、その範囲の判定方法を明示的に所得税側へつないでいます。

消費税法基本通達11-6-4(注)

同号に規定する「その旅行について通常必要であると認められる部分」の範囲は、所基通9-3《非課税とされる旅費の範囲》の例により判定する

つまり2つの税で別々に基準を考える必要はありません。所得税で「通常必要な範囲内」と整理できた金額は、消費税でも出張旅費特例の対象になります。逆に、所得税で給与課税される超過部分は、消費税でも特例の対象外です。しかもその超過部分は給与として扱われるため、そもそも課税仕入れではなく(給与の支払は不課税)、仕入税額控除の対象になりません。日当を出しすぎたときの損は、給与課税だけでは終わらず、消費税の控除も落ちるということです。

もう一つ実務的に大きいのは、この特例の対象が「事業者がその使用人等……に対して支給する金品」と書かれていることです。会社から従業員へ支給・精算する形が前提になっています。会社が交通機関や宿泊施設へ直接支払う場合は、この号の文言に乗らないため、通常どおり相手方からのインボイスを保存するかどうかを検討することになります。同じ出張の費用でも、誰が誰に払ったかで保存すべき書類が変わります

通常必要な範囲を超えた日当は給与所得になります。源泉徴収税額を計算する →

3万円の壁は公共交通機関特例のもので、出張旅費特例には無い

「交通費は3万円未満ならインボイスが要らない」という話と、出張旅費特例は別の規定です。混同すると、使えるはずの特例を使わずにインボイスを探し回ることになります。

公共交通機関特例出張旅費特例
根拠消費税法施行令49条1項1号イ(同70条の9第2項1号)消費税法施行規則15条の4第2号(同令49条1項1号ニ)
金額の上限税込3万円未満金額の上限は定められていない
対象船舶・バス・鉄道・軌道による旅客の運送出張旅費・宿泊費・日当など、旅行に通常必要な部分
タクシー・航空機対象外通常必要と認められる部分なら対象になり得る
誰への支払いか運送事業者への支払い使用人等への支給・精算

条文を読むと、公共交通機関特例の対象は消費税法施行令70条の9第2項1号のイ〜ニに列挙された船舶・バス・鉄道・軌道に限られていて、タクシーと航空機は入っていません。3万円という金額基準もこの規定のものです。一方、出張旅費特例の側(規則15条の4第2号)には金額基準がまったく書かれていません。判定は「通常必要であると認められる部分」だけです。

したがって、たとえば従業員に新幹線代と宿泊費を含めて5万円を出張旅費として精算した場合、金額が3万円を超えていることは出張旅費特例の妨げになりません。通常必要と認められる範囲であれば、帳簿の保存で仕入税額控除ができます。「3万円を超えたから領収書を集めなければ」と考えるのは、公共交通機関特例の条件を出張旅費特例に持ち込んでいることになります。

隣の号なのに、通勤手当だけは所得税と連動しない

ここが本記事でいちばん見落とされやすい点です。消費税法施行規則15条の4は、第2号が出張旅費、第3号が通勤手当で、条文上は隣り合っています。ところが両者は、所得税との連動の仕方がです。

出張旅費(規則15条の4第2号)通勤手当(規則15条の4第3号)
消費税での範囲その旅行について通常必要と認められる部分通勤者につき通常必要と認められる部分
所得税との関係所基通9-3の例により判定(消基通11-6-4注)=連動する所令20条の2の金額を超えているかどうかにかかわらない(消基通11-6-5)=連動しない
帰結所得税で課税される超過部分は、消費税でも特例の対象外所得税で課税される部分(月15万円超など)も、通勤に通常必要なら課税仕入れ

消費税法基本通達11-6-5は、通勤手当について「所法令第20条の2各号《非課税とされる通勤手当》に定める金額を超えているかどうかにかかわらないことに留意する」とはっきり書いています。国税庁タックスアンサーNo.6459も、通勤手当のうち通勤のために通常必要とする範囲内のものは「所得税法上非課税とされる金額を超えている場合であっても、その全額が課税仕入れになります」としています。

実務でどう出るかというと、月15万円の非課税限度額を超える通勤手当を支給しているケースです。所得税では超過部分を給与として課税しますが、消費税では超過部分も含めて課税仕入れとして処理することになります。出張旅費と同じ感覚で「所得税で課税なら消費税も対象外」と処理すると、控除できるはずの消費税を落とします。隣り合う号だからといって、同じ扱いだと考えないことがここでの要点です。

海外出張の日当は原則として課税仕入れにならない

ここまでの消費税の話は国内出張が前提です。国税庁タックスアンサーNo.6459は、国内の出張・転勤のために支給した出張旅費・宿泊費・日当について、通常必要と認められる部分は課税仕入れになるとしたうえで、次のように続けています。

国税庁 タックスアンサー No.6459

ただし、海外への出張または転勤のために支給した出張旅費、宿泊費、日当は原則として課税仕入れになりません

海外での役務提供は国内取引ではなく、国際輸送も免税とされるためです。所得税では国内出張も海外出張も同じく非課税の枠組み(法9条1項4号)で扱われるのに対し、消費税では扱いが分かれます。同じ1件の出張精算でも、行き先によって消費税側の処理が変わるので、旅費規程や精算システムで国内出張と海外出張の区分をあらかじめ分けておくと処理が安定します。

旅費規程に何を書くか

ここまでを踏まえると、旅費規程に何を書くべきかは通達9-3から逆算できます。規程は「日当を非課税にするための呪文」ではなく、(1)の「全社を通じた適正なバランス」を説明できる状態にするための文書です。少なくとも次の項目が定まっていれば、支給額の根拠を示せます。

逆に、規程に書いても効かないこともあります。同業種・同規模の水準から大きく離れた金額は、規程に定めても通達9-3(2)の判定を通りません。規程は(1)を満たすための手段であって、(2)を免除するものではないという整理になります。

金額を決める前に確認しておきたいこと

日当の額そのものは、法令ではなく同業種・同規模の他社水準という外部の事実で判定されます。自社で数字を決める前に、業界団体の調査や、同規模企業の公開されている規程例など、水準を示せる材料を手元に用意しておくと、後から根拠を説明しやすくなります。数字だけを先に決めて根拠を後から探すと、通達9-3(2)に答えられない形になりがちです。

よくある質問

Q. 日当は1日いくらまでなら非課税ですか?

A. 金額の上限を定めた法令はありません。所得税法9条1項4号は「その旅行について通常必要であると認められるもの」を非課税としており、条文に金額は書かれていません。判定は所得税基本通達9-3の2つの勘案事項、すなわち役員と使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によるものかどうかと、同業種・同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当かどうかで行うこととされています。

Q. 旅費規程を作れば、日当はいくらでも非課税になりますか?

A. 所得税基本通達9-3は2つの事項を挙げており、規程の整備で説明しやすくなるのは(1)の全社を通じた適正なバランスの部分です。(2)は同業種・同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当かどうかを見るものなので、規程があることをもって水準の相当性まで満たされるという構成にはなっていません。

Q. 通常必要な範囲を超えて日当を支給した場合、どの所得になりますか?

A. 所得税基本通達9-4が旅行の区分に応じて分けています。給与所得者が勤務する場所を離れて職務を遂行するためにした旅行と、転任に伴う転居のためにした旅行は給与所得、就職をした者がその就職に伴う転居のためにした旅行は雑所得、退職をした者がその退職に伴う転居のためにした旅行は退職所得の収入金額に算入するとされています。

Q. 出張旅費はインボイスがなくても仕入税額控除できますか?

A. 消費税法施行令49条1項1号ニと消費税法施行規則15条の4第2号により、事業者が使用人等に支給する出張旅費・宿泊費・日当のうち、その旅行について通常必要であると認められる部分に係る課税仕入れは、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができるとされています。国税庁タックスアンサーNo.6459も同様に説明しています。

Q. 出張旅費特例にも3万円未満という上限がありますか?

A. 消費税法施行規則15条の4第2号には金額基準が定められていません。税込3万円未満という基準は公共交通機関特例のもので、消費税法施行令70条の9第2項1号が船舶・バス・鉄道・軌道による旅客の運送について定めているものです。2つは別の規定であり、条件も対象も異なります。

Q. タクシー代や航空券代は3万円未満なら帳簿だけでよいですか?

A. 公共交通機関特例の対象は消費税法施行令70条の9第2項1号のイからニまでに掲げられた船舶・バス・鉄道・軌道による旅客の運送で、タクシーと航空機は列挙されていません。使用人等に支給する出張旅費として通常必要と認められる部分に当たるかどうかという、出張旅費特例の側での検討になります。

Q. 通勤手当が月15万円を超えた場合、消費税でも控除できませんか?

A. 消費税法基本通達11-6-5は、通勤者につき通常必要であると認められる部分について、所得税法施行令20条の2各号に定める金額を超えているかどうかにかかわらないと述べています。国税庁タックスアンサーNo.6459も、所得税法上非課税とされる金額を超えている場合であってもその全額が課税仕入れになるとしています。出張旅費と異なり、所得税の非課税限度額とは連動しない構成です。

Q. 海外出張の日当も課税仕入れになりますか?

A. 国税庁タックスアンサーNo.6459は、海外への出張または転勤のために支給した出張旅費・宿泊費・日当は原則として課税仕入れにならないとしています。所得税では国内出張と同じく所得税法9条1項4号の枠組みで扱われる一方、消費税では国内出張と扱いが分かれることになります。

Q. 会社がホテルに直接支払った宿泊費も出張旅費特例の対象ですか?

A. 消費税法施行規則15条の4第2号は「事業者がその使用人等又はその退職者等に対して支給する金品」と定めており、使用人等への支給・精算を想定した書き方になっています。事業者が宿泊施設へ直接支払う場合は、この文言に当たらないため、通常の課税仕入れとして請求書等の保存を検討することになります。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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