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修繕費と資本的支出の違い|20万円・60万円・10%の判定フロー

結論から言うと、法令が定めている物差しは2つだけです。法人税法施行令132条は、固定資産について支出した金額のうち「使用可能期間を延長させる部分」と「価額を増加させる部分」に対応する金額を損金に算入しないと定めています。これが資本的支出で、そこに当たらない部分が修繕費です。名目が「修繕工事」でも「改良費」でも関係なく、実質で判定します。

実務でよく引かれる20万円・60万円・10%・30%という数字は、条文にはひとつも出てきません。すべて法人税基本通達7-8-3〜7-8-6が定めた形式基準です。通達の基準は「判定が難しいときに、この線で切ってよい」という取扱いなので、使うための前提条件が付いています。そしてその前提は基準ごとに違います。とくに20万円基準(7-8-3)と60万円基準(7-8-4)は、適用できる場面がまったく別です。ここを取り違えると、税務調査で否認される側に回ります。

以下、①法令の2つの物差し、②4つの関門を上から順に見る判定フロー、③20万円と60万円の前提条件の違い、④10%基準の分母は帳簿価額ではないこと、⑤継続適用が条件の30%基準、⑥災害のときだけ緩む取扱い、⑦資本的支出になった後の償却まで、条文と通達の原文で確かめながら整理します。

法令が定める物差しは2つだけ — しかも「いずれか多い金額」

法人税法施行令132条は、資本的支出をこう定めています。「修理、改良その他いずれの名義をもつてするかを問わず、その有する固定資産について支出する金額で次に掲げる金額に該当するもの(そのいずれにも該当する場合には、いずれか多い金額)は……損金の額に算入しない」。

内容
1号その支出により、取得の時において通常の管理・修理をするものとした場合に予測される使用可能期間を延長させる部分に対応する金額
2号その支出により、取得の時において通常の管理・修理をするものとした場合に予測される支出の時における価額を増加させる部分に対応する金額
かっこ書きを読み飛ばさない

1号と2号の両方に当たるときは、合計するのではなく「いずれか多い金額」を資本的支出とします。工事によって寿命が3年延び、同時に価値が80万円上がったとして、寿命の延長に対応する金額が50万円なら、資本的支出は130万円ではなく80万円です。合算だと思って処理すると、資本的支出を過大に計上し、その年の損金を必要以上に減らすことになります。

個人事業主も物差しは同じです。所得税法施行令181条は、不動産所得・事業所得・山林所得・雑所得を生ずべき業務を行う居住者について、法人とほぼ同じ文言で(「いずれか多い金額」というかっこ書きも含めて)必要経費に算入しないと定めています。違うのは損金か必要経費かという用語だけです。

判定フロー — 4つの関門を上から順に

実務の判定は、通達が用意した関門を上から順に通します。上の関門で決着したら、下は見ません。国税庁タックスアンサーNo.5402も、30%基準について「上記の一つの修理、改修などの金額が20万円未満の場合……および上記1の適用のある支出額については、それぞれの取扱いが優先して適用されます」と明記しています。

固定資産の修理・改良等のために支出した金額 ① 20万円未満か、おおむね3年以内の周期か 法基通7-8-3(資本的支出であることが明らかでも使える) はい → 修繕費 いいえ ② 資本的支出か修繕費か「明らかでない」金額か 法基通7-8-4・7-8-5 に進むための入口の条件 明らかに 資本的支出 ③ 60万円未満か、前期末取得価額の約10%以下か 法基通7-8-4(形式基準) はい → 修繕費 いいえ ④ 30%と、前期末取得価額の10%の「少ない方」 法基通7-8-5(継続して経理していることが条件) その額を修繕費、残額を資本的支出 使わない 全額が資本的支出(令132条の2つの物差しで判定) 令55条 — 新たに取得した資産として償却する
判定は上から順。①で決着すれば②以下は見ない。②の「明らかでないこと」は③④に進むための入口の条件で、明らかに資本的支出なら③④は使えない。

20万円と60万円は、使える場面が違う

ここが本記事でいちばん強調したい点です。20万円基準と60万円基準は、条文(通達)の書き出しが違います。

7-8-3(20万円・3年周期)7-8-4(60万円・10%)
書き出し「一の修理、改良等が次のいずれかに該当する場合には……7-8-1にかかわらず、修繕費として損金経理をすることができる」「一の修理、改良等のために要した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合において……修繕費として損金経理をすることができる」
前提条件なし。7-8-1の例示(=明らかな資本的支出)に当たっていても使えるあり。区分が明らかでない金額であること
基準20万円未満/おおむね3年以内の周期60万円未満/前期末取得価額のおおむね10%以下
「60万円未満なら修繕費」は条件を落とした要約

用途変更のための模様替えは7-8-1(2)が資本的支出として名指ししている例です。この工事が50万円で済んだとしても、区分は「明らかでない」とは言えないので、7-8-4の60万円基準には入れません。全額が資本的支出です。
一方、同じ工事が15万円なら7-8-3(1)の20万円未満に当たります。7-8-3は「7-8-1にかかわらず」と書いているので、明らかな資本的支出であっても修繕費として損金経理できます。60万円のほうが金額は大きいのに、使える場面は20万円のほうが広い、という逆転がここにあります。

もうひとつ、金額の数え方にも注意点があります。7-8-3は「一の計画に基づき同一の固定資産について行う修理、改良等」を1単位とし、かっこ書きで「その一の修理、改良等が2以上の事業年度にわたって行われるときは、各事業年度ごとに要した金額」と定めています。工事を分割発注しても、一の計画に基づく同一資産への工事なら合算して判定します。逆に年度をまたぐ長期工事は、年度ごとに区切って数えます。

また「同一の固定資産」は、7-8-3の注により、一の設備が2以上の資産で構成されているときはその設備を構成する個々の資産とされます。送配管・送配電線・伝導装置のように一定規模でなければ機能を発揮できないものは、最小規模として合理的に区分した区分ごとに数えます。

10%基準の分母は「帳簿価額」ではない

7-8-4(2)は「その金額がその修理、改良等に係る固定資産の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合」と書いています。ここは取得価額であって、減価償却後の帳簿価額ではありません。

さらに7-8-4の注2が重要です。「固定資産には、当該固定資産についてした資本的支出が含まれるのであるから、当該資本的支出が同条第6項の規定の適用を受けた場合であっても、当該固定資産に係る追加償却資産の取得価額は当該固定資産の取得価額に含まれることに留意する」。つまり過去にその資産へ行った資本的支出も、分母に積み上がっていきます。

項目金額
機械の当初の取得価額1,000万円
過去に行った資本的支出+300万円
前期末における取得価額(10%基準の分母)1,300万円
10%相当額 = 修繕費にできる上限の目安130万円
(参考)減価償却が進んだ結果の帳簿価額200万円 ← 分母ではない

この機械に区分の明らかでない工事を100万円かけた場合、60万円以上なので7-8-4(1)は使えませんが、130万円以下なので7-8-4(2)で修繕費にできます。帳簿価額200万円を分母だと思い込むと上限は20万円になり、本来通せる処理を自分で狭めることになります。古い資産・手を入れ続けてきた資産ほど、この差は大きくなります。

「おおむね」の一語

7-8-4(2)は「おおむね10%相当額以下」です。10.0%をわずかに超えたら直ちに不可、という書き方ではありません。ただし「おおむね」がどこまでかは通達に数値がなく、形式基準に頼りきるほど説明の負担は増えます。境界に近いときは、工事の内容そのものを令132条の2つの物差しで説明できるよう、見積書や仕様書を残しておくのが実務的です。

何が資本的支出で、何が修繕費か(通達の例示)

7-8-1と7-8-2が、それぞれ原則的な例を挙げています。

資本的支出の例(7-8-1)修繕費の例(7-8-2)
建物の避難階段の取付等、物理的に付加した部分に係る費用建物の移築・解体移築に要した費用(解体移築は旧資材の70%以上が再使用できる場合で、同一規模・同一構造で再建築するものに限る)
用途変更のための模様替え等、改造・改装に直接要した費用機械装置の移設に要した費用(解体費を含む。集中生産等のための移設を除く)
機械の部分品を特に品質・性能の高いものに取り替えた場合の、通常の取替えに要すると認められる費用を超える部分地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するための地盛り費用(取得後直ちに行う場合、効用を著しく増加させる場合、評価損を計上した土地の場合を除く)
(注)建物の増築、構築物の拡張・延長等は資本的支出ではなく「建物等の取得」に当たる現に使用している土地の水はけを良くするための砂利・砕石の敷設費用、砂利道への砂利の補充費用

3行目の書き方に注目してください。品質の高い部品への交換は全額が資本的支出になるのではなく、「通常の取替えなら要したはずの金額を超える部分」だけです。通常の取替相当額は修繕費として残ります。見積書に通常品の価格が併記されていれば、この区分は説明しやすくなります。

注のほうも実務で効きます。増築は資本的支出ではなく「取得」です。資本的支出なら7-8-3〜7-8-5の形式基準の土俵に乗りますが、取得はそもそも別の話で、耐用年数も新たに判定します。

資本的支出の額を入れて償却額を試算する(減価償却費の計算機・定額法/定率法)

30%基準は「継続して」が条件

7-8-5は、7-8-3にも7-8-4にも当たらなかった「明らかでない金額」について、次の処理を認めています。「法人が、継続してその金額の30%相当額と……固定資産の前期末における取得価額の10%相当額とのいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、これを認める」。

先ほどの機械(前期末取得価額1,300万円)に、区分の明らかでない工事を500万円かけた場合はこうなります。

計算金額
工事金額の30%150万円
前期末取得価額1,300万円の10%130万円 ← 少ない方
修繕費130万円
資本的支出370万円
「継続して」を満たさない使い方はできない

7-8-5は継続適用が明文の条件です。利益が出た年だけ30%基準を使い、翌年はやめる、という運用は認められません。採用するなら、その資産(同種の支出)について継続する前提で始めることになります。あわせて、7-8-3または7-8-4の適用を受けるものは7-8-5の対象から除かれます(7-8-5のかっこ書き)。形式基準どうしの優先順は動かせません。

災害のときは30%だけでよい

7-8-6は、災害により被害を受けた固定資産(被災資産)について、7-8-1から7-8-5までの取扱いにかかわらず適用される特例を置いています。評価損を計上した資産は対象外です。

平時の7-8-5と数字は同じ30%ですが、2つの点で緩くなっています

7-8-5(平時)7-8-6(3)(災害)
10%との比較必要(少ない方を修繕費)不要(30%そのまま)
継続適用の要件あり条文に記載なし
500万円の工事なら130万円が修繕費(10%が効く)150万円が修繕費

ただし7-8-6の注1が釘を刺しています。「被災資産の復旧に代えて資産の取得をし、又は特別の施設(被災前の効用を維持するためのものを除く)を設置する場合」、それは新たな資産の取得であり、取得価額に含めます。災害を機に建て替えたり、貯水池や避難緑地を新設したりする支出は、この特例では修繕費になりません。

ソフトウェアの改修はどちらか

7-8-6の2が、ソフトウェアのプログラム修正等について線を引いています。

修正等の内容区分
プログラムの機能上の障害の除去、現状の効用の維持等修繕費
新たな機能の追加、機能の向上資本的支出

バグ修正やセキュリティ上の不具合の解消は前者、機能追加を伴うバージョンアップは後者、という整理になります。なお注1により、既に有しているソフトウェアやパッケージソフトの仕様を大幅に変更するための費用は、取得価額に算入されたものを除き、資本的支出に該当するとされています。

資本的支出になった後 — 元の資産に足すのは原則ではない

ここは誤解が多いところです。法人税法施行令55条1項は、資本的支出として損金に算入されなかった金額について、「その有する減価償却資産と種類及び耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとする」と定めています。つまり原則は「新しい資産を1つ取得した」扱いであって、元の資産の取得価額への加算ではありません。

条項扱い条件
令55条1項(原則種類・耐用年数を同じくする資産を新たに取得したものとする
令55条2項元の資産の取得価額に加算できるその資産の償却方法として令48条1項の方法(旧定額法・旧定率法等)を採用しているとき
令55条5項翌事業年度開始の時に、元の資産と追加償却資産の帳簿価額を合計して1つの資産にできるともに定率法を採用しているとき。平成24年3月31日以前に取得された資産は除く
令55条6項5項を使わないとき、追加償却資産どうしを種類・耐用年数ごとに合計して1つにできる定率法を採用し、5項の適用を受けないとき

実務上の効き目は、資産台帳の行数償却額の両方に出ます。原則どおりなら資本的支出のたびに1行増え、それぞれが取得年月から新たに償却を始めます。定率法なら5項・6項でまとめられますが、それは翌事業年度開始の時にできることで、支出した年度中には行えません。

なお、7-8-4の注1は、過去に令55条5項の適用を受けた場合の10%基準の分母について「同項に規定する一の減価償却資産の取得価額をいうのではなく、旧減価償却資産の取得価額と追加償却資産の取得価額との合計額をいう」と念を押しています。合算して1つの資産にしたあとも、10%の分母は合算前の取得価額の合計で数える、ということです。

よくある質問

Q. 20万円未満なら、明らかに資本的支出でも修繕費にできますか?

A. 法人税基本通達7-8-3は「7-8-1にかかわらず、修繕費として損金経理をすることができるものとする」と書いています。7-8-1は資本的支出の例示を定めた通達なので、その例示に当たる支出であっても、一の修理・改良等の金額が20万円未満であれば修繕費として損金経理できるという構造になっています。

Q. 60万円未満なら、いつでも修繕費にしてよいのですか?

A. 7-8-4の適用には「一の修理、改良等のために要した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合において」という前提が付いています。用途変更のための模様替えのように7-8-1が資本的支出として例示している工事は、区分が明らかでないとは言いにくいため、金額が60万円未満でも7-8-4では判定できないことになります。

Q. 10%基準の「取得価額」は、減価償却後の帳簿価額のことですか?

A. 7-8-4(2)は「前期末における取得価額」と書いており、帳簿価額ではありません。さらに同通達の注2により、その固定資産について過去に行った資本的支出(追加償却資産)の取得価額も分母に含まれます。減価償却が進んで帳簿価額が小さくなっていても、分母である取得価額は減りません。

Q. 一の修理、改良等が2つの事業年度にまたがるときは、どう数えますか?

A. 7-8-3(1)のかっこ書きに「その一の修理、改良等が2以上の事業年度にわたって行われるときは、各事業年度ごとに要した金額」とあります。金額基準は年度ごとに区切った金額で判定することになります。

Q. 30%基準は、有利な年だけ使うことができますか?

A. 7-8-5は「法人が、継続してその金額の30%相当額と……10%相当額とのいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているとき」に認めるという書き方です。継続適用が条件として明記されているため、年によって使ったり使わなかったりする運用は想定されていません。

Q. 建物を増築した場合も、資本的支出として形式基準で判定できますか?

A. 7-8-1の注に「建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる」とあります。取得に当たるものは資本的支出の判定の対象ではないため、7-8-3から7-8-5までの形式基準に乗せる場面ではないという整理になります。

Q. ソフトウェアのバージョンアップ費用はどちらになりますか?

A. 7-8-6の2により、プログラムの機能上の障害の除去や現状の効用の維持等に該当するときは修繕費、新たな機能の追加や機能の向上等に該当するときは資本的支出とされています。同じ「バージョンアップ」でも、内容が不具合の解消なのか機能追加なのかで区分が分かれます。

Q. 資本的支出をしたら、元の資産の取得価額に足すのですか?

A. 法人税法施行令55条1項は、種類および耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとすると定めており、これが原則です。取得価額への加算は、その資産の償却方法として令48条1項に規定する方法を採用している場合の特例(同条2項)として置かれています。

Q. 個人事業主も同じ基準で判定しますか?

A. 所得税法施行令181条は、使用可能期間を延長させる部分と価額を増加させる部分という2つの金額を挙げ、いずれにも該当する場合はいずれか多い金額を必要経費に算入しないと定めています。法人税法施行令132条と同じ2つの物差しです。なお本記事で引用した20万円・60万円・10%・30%の形式基準は法人税基本通達のものです。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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