退職金の相場は1,896万円か1,149万円か — 数字が違うのは、調査が数えている会社と人が違うから
結論から言うと、退職金の相場には広く引用される数字が2つあり、どちらも公的統計の正しい数字です。厚生労働省の調査では大学・大学院卒の定年退職者が1,896万円、東京都が中小企業だけを対象に調べたモデル退職金では大学卒の定年が1,149万円。差は747万円、約1.65倍あります。
この差は誤差ではありません。2つの調査は、数えている会社も、数えている人も、金額の作り方も違います。厚生労働省の調査は常用労働者30人以上の企業を対象に、令和4年に実際に退職した人へ払われた実額を集めたもの。東京都の調査は従業員10〜299人の都内中小企業を対象に、学校を出てすぐ入社し標準的に勤め続けたモデル社員に規程を当てはめたらいくらになるかを集めたものです。片方は実績、片方は設計値です。
そしてもっと効くのが、1,896万円という数字の母集団です。この平均に入っているのは退職金制度がある会社の、勤続20年以上かつ45歳以上で退職した人だけ。制度がある企業は74.9%、そのうち令和4年にその条件の退職者がいた企業は29.2%なので、調査対象の企業のうち約21.9%からしか金額を取っていません(掛け算は筆者。内訳は後述)。この記事では、2つの調査の表を並べて差の出どころを分解し、勤続年数・退職事由・制度の形態で金額がどれだけ動くかまでを、一次資料の実数で追いかけます。
まず2つの数字を並べる
いちばん引用される定年退職の金額を、2つの調査から並べます。単位はどちらも万円です。
| 学歴の区分 | 厚生労働省(全国・30人以上) | 東京都(都内・10〜299人) | 差 |
|---|---|---|---|
| 大学・大学院卒(管理・事務・技術職)/大学卒 | 1,896 | 1,149 | 約1.65倍 |
| 高校卒(管理・事務・技術職)/高校卒 | 1,682 | 974 | 約1.73倍 |
| 高校卒(現業職) | 1,183 | 区分なし | — |
東京都の金額は集計表が千円単位で、大学卒の定年が11,495千円、高校卒の定年が9,741千円です。本文では万円に直して1,149万円・974万円と書いています。倍率は筆者の計算です。
実務でこの2つを見比べて、どちらが本当の相場かを決めようとすると行き止まります。答えている問いが違うからです。厚生労働省の数字は、退職金を払った会社が実際にいくら払ったかを集めたもの。東京都の数字は、中小企業の規程どおりに勤め上げた場合にいくらになるかを集めたものです。自社の規程を作る・見直すなら後者、世の中の実績を知りたいなら前者が近い問いです。
1,896万円は誰の数字か — 母集団は3段階で絞られている
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査は、調査の概要で対象をこう定めています。
事業所母集団データベース(令和2年次フレーム)の企業(単独事業所及び本社・本店・本所の事業所)を母集団として、上記(2)に該当する産業で常用労働者30人以上を雇用する民営企業(医療法人、社会福祉法人、各種協同組合等の会社組織以外の法人を含む)のうちから、産業、企業規模別に層化して無作為に抽出した約6,400社。
ここで常用労働者30人以上と区切られています。日本の企業数の大半を占める29人以下の会社は、この調査には最初から入っていません。有効回答は3,768社、有効回答率58.7%です。労働者の側も限定されています。
本調査では、企業全体の全常用労働者のうち、期間を定めずに雇われている労働者(パートタイム労働者を除く。)を対象としている。
そのうえで、金額の表に入る企業がさらに2段階で絞られます。1段階目は制度の有無です。
退職給付(一時金・年金)制度がある企業割合は74.9%となっている。
2段階目が、その年に該当する退職者がいたかどうかです。
退職給付(一時金・年金)制度がある企業について、令和4年1年間における勤続20年以上かつ45歳以上の退職者がいた企業割合は、29.2%となっている。
つまり金額の表は、調査対象企業の 74.9% × 29.2% = 約21.9% からしか集めていません(この掛け算は筆者の計算で、公表値ではありません)。そして集計されている退職者そのものも、こう限定されています。
令和4年1年間における勤続20年以上かつ45歳以上の退職者に対し支給した又は支給額が確定した退職者1人平均退職給付額
1,149万円は誰の数字か — 中小企業のモデル社員
東京都産業労働局の調査は、対象をこう説明しています。
東京都では、従業員が10人~299人の都内中小企業を対象とした賃金についての調査を毎年実施しており、本冊子は調査結果を取りまとめたものとなっております。
賃金は毎年調べますが、定年制と退職金は「労働時間、休日・休暇」と隔年で交互に調べる形になっており、退職金が入っているのは令和6年版です。退職金制度の集計企業数は659社でした。
そして第8表の名前が示すとおり、これはモデル退職金です。表の作りを見るといちばんはっきりします。大学卒の行は、勤続1年に23歳、勤続10年に32歳、勤続30年に52歳という年齢が1対1で対応しています。高校卒なら勤続1年が19歳、勤続35年が53歳です。学校を出てすぐ入社し、そのまま勤め続けた人を仮定して、各社の退職金規程を当てはめた計算値だということです。令和6年に実際に退職した人の実額ではありません。
東京都の大学卒(調査産業計)は次のように積み上がります。金額は千円単位の集計表から万円に直したもの、支給率は集計表の月数です。
| 勤続年数 | 年齢 | 自己都合(万円) | 会社都合(万円) | 会社都合の支給率 |
|---|---|---|---|---|
| 5年 | 27 | 43 | 57 | 2.3か月分 |
| 10年 | 32 | 113 | 145 | 5.0か月分 |
| 15年 | 37 | 209 | 256 | 8.1か月分 |
| 20年 | 42 | 347 | 408 | 11.6か月分 |
| 25年 | 47 | 507 | 616 | 15.8か月分 |
| 30年 | 52 | 751 | 776 | 18.4か月分 |
| 33年 | 55 | 797 | 890 | 20.2か月分 |
| 定年 | — | — | 1,149 | 24.9か月分 |
会社都合の欄で見ると、勤続10年145万円に対し、勤続20年は408万円で2.82倍、勤続30年は776万円で5.36倍です(倍率は筆者の計算)。勤続が2倍・3倍になったとき、金額はそれ以上に増えています。支給率が5.0か月分→11.6か月分→18.4か月分と上がっているためで、途中で辞めると割が合わない感じがするのは、この加速が理由です。税金の側にも勤続20年で控除額が変わる段差がありますが、それとは別の、規程そのものの形の話です。
なぜ1.65倍違うのか — 4つの違いに分解する
2つの調査の差は、次の4つが重なった結果として説明できます。
| 違う点 | 厚生労働省 | 東京都 | 金額への向き |
|---|---|---|---|
| 企業規模 | 常用労働者30人以上(上限なし) | 従業員10〜299人 | 大企業が入る厚労省が高く出る |
| 地域 | 全国 | 東京都内 | 単純な向きは言えない |
| 数え方 | 実際に退職した人へ払われた実額 | モデル社員に規程を当てはめた計算値 | 過去の制度と過去の賃金が反映される厚労省が高く出やすい |
| 職種の区分 | 管理・事務・技術職と現業職に分ける | 学歴だけで分ける | 厚労省の1,896万円は現業職を含まない |
4つ目は見落とされやすい点です。厚生労働省の1,896万円という数字が付いているのは大学・大学院卒(管理・事務・技術職)という区分で、同じ調査の高校卒でも現業職なら1,183万円です。東京都の大学卒には職種の区分がありません。同じ「大卒」という言葉でも、指している範囲が違います。
企業規模の効き方は、東京都の調査の内側でも確かめられます。同じ都内の中小企業でも、規模で次のように分かれます(大学卒・定年・会社都合)。
| 従業員規模 | 定年退職金(万円) | 支給率 |
|---|---|---|
| 10〜49人 | 1,088 | 23.7か月分 |
| 50〜99人 | 1,097 | 24.4か月分 |
| 100〜299人 | 1,446 | 29.3か月分 |
10〜49人と100〜299人で約1.33倍の開きがあります(倍率は筆者の計算)。300人以上が入っていない調査の内側ですらこれだけ動くので、上限のない厚生労働省の調査と比べれば差が出るのは自然です。
退職金の手取りを計算する(退職所得控除・源泉徴収税額)勤続年数で半分になる
1,896万円をそのまま自分に当てはめると外れやすいのは、この数字が勤続20年以上を全部まとめた平均だからです。厚生労働省の第23表は、定年退職者を勤続年数別に分けています(大学・大学院卒(管理・事務・技術職)、退職給付制度計、単位は万円)。
| 勤続年数 | 大学・大学院卒(管理・事務・技術職) | 高校卒(管理・事務・技術職) | 高校卒(現業職) |
|---|---|---|---|
| 20〜24年 | 1,021 | 557 | 406 |
| 25〜29年 | 1,559 | 618 | 555 |
| 30〜34年 | 1,891 | 1,094 | 800 |
| 35年以上 | 2,037 | 1,909 | 1,471 |
| 計(=よく引かれる数字) | 1,896 | 1,682 | 1,183 |
大学・大学院卒で見ると、勤続20〜24年は1,021万円で、平均1,896万円の53.9%です(割合は筆者の計算)。逆に平均に近いのは勤続30〜34年の1,891万円で、この平均はほぼ勤続30年以上の人の姿を映しています。高校卒(管理・事務・技術職)はもっと極端で、勤続20〜24年の557万円に対し35年以上は1,909万円と3倍以上開きます。
勤続20〜24年で定年を迎えるということは、40歳前後で入社した人ということです。新卒からの勤続とは制度上の位置づけが違います(多くの規程で、中途入社は起算点が入社日になるため支給率が低い区分に入ります)。この行は「勤続が短いと定年でもこれくらい」という目安であって、新卒入社の20年時点の金額ではありません。新卒で勤め続けた場合の途中経過を見るなら、東京都のモデル退職金の表のほうが問いに合っています。
退職事由で76〜78%になる — 自己都合の減り方には規則性がある
厚生労働省の第22表は、退職事由別の平均額を出しています(勤続20年以上かつ45歳以上の退職者、単位は万円。括弧内は退職時の所定内賃金に対する月収換算)。
| 退職事由 | 大学・大学院卒(管理・事務・技術職) | 高校卒(管理・事務・技術職) | 高校卒(現業職) |
|---|---|---|---|
| 定年 | 1,896(36.0か月分) | 1,682(38.6か月分) | 1,183(34.3か月分) |
| 会社都合 | 1,738(27.9か月分) | 1,385(33.8か月分) | 737(25.0か月分) |
| 自己都合 | 1,441(30.3か月分) | 1,280(33.3か月分) | 921(29.5か月分) |
| 早期優遇 | 2,266(39.9か月分) | 2,432(58.0か月分) | 2,146(60.7か月分) |
ここには読みどころが3つあります。
1つ目。自己都合は定年の76〜78%で、3つの区分がほぼ揃います。大学・大学院卒が76.0%、高校卒(管理・事務・技術職)が76.1%、高校卒(現業職)が77.9%(いずれも筆者の計算)。学歴や職種が違っても、自己都合による目減りの幅は似た水準に収まっています。
2つ目。会社都合が定年より低い区分がある。大学・大学院卒では会社都合1,738万円が定年1,896万円を下回り、高校卒(現業職)では会社都合737万円が自己都合921万円さえ下回ります。会社都合は必ず有利という直感は、この表では成り立ちません。この欄には勤続20年以上かつ45歳以上という条件の中でも、比較的勤続が短い人が集まりやすいことが影響している可能性がありますが、調査は事由別の勤続年数の内訳を公表していないため、原因はこの資料だけでは特定できません。
3つ目。早期優遇だけ、学歴の順序が逆転する。早期優遇では高校卒(管理・事務・技術職)の2,432万円が、大学・大学院卒の2,266万円を上回ります。月収換算で見ると58.0か月分と39.9か月分で、差はさらに開きます。この表で学歴の序列が逆転するのは早期優遇の行だけです。
東京都の調査は事由別の見え方が違い、勤続が短いほど自己都合と会社都合の差が大きく出ます(大学卒・金額の比、筆者の計算)。
| 勤続年数 | 自己都合(万円) | 会社都合(万円) | 会社都合 ÷ 自己都合 |
|---|---|---|---|
| 5年 | 43 | 57 | 1.33倍 |
| 10年 | 113 | 145 | 1.29倍 |
| 20年 | 347 | 408 | 1.18倍 |
| 30年 | 751 | 776 | 1.03倍 |
| 33年 | 797 | 890 | 1.12倍 |
勤続5年の1.33倍から勤続30年の1.03倍まで、おおむね縮んでいきます。ただし単調ではなく、勤続33年で1.12倍に戻ります。モデル退職金は各社の規程を集計したものなので、勤続年数ごとに回答企業の顔ぶれが少しずつ変わることが影響していると考えられますが、これも資料からは断定できません。傾向としては、勤続が短いうちほど自己都合の目減りが大きいと読めますが、各年数の値をそのまま比率として使うのは避けたほうが安全です。
制度の形態で1.3〜1.4倍違う — 2つの調査で向きが一致する
金額を大きく動かすもう1つの軸が、退職金を一時金で持っているか年金で持っているかです。両方の調査が、同じ向きの結果を出しています(大学卒・定年、単位は万円)。
| 制度の形態 | 厚生労働省 | 東京都 |
|---|---|---|
| 退職一時金制度のみ | 1,623 | 1,051 |
| 退職年金制度のみ | 1,801 | 1,184 |
| 両制度併用 | 2,261 | 1,408 |
| 併用 ÷ 一時金のみ | 1.39倍 | 1.34倍 |
母集団も数え方も違う2つの調査が、併用は一時金のみの1.3〜1.4倍という同じ向き・近い大きさの結果を出しています(倍率は筆者の計算)。片方の調査の癖ではないと考えてよい部分です。
そして制度の形態は企業規模と強く結びついています。厚生労働省の第16表で、退職給付制度がある企業の内訳を規模別に見ると次のようになります。
| 企業規模 | 退職一時金制度のみ | 退職年金制度のみ | 両制度併用 |
|---|---|---|---|
| 1,000人以上 | 25.9% | 27.0% | 47.1% |
| 300〜999人 | 41.9% | 17.9% | 40.2% |
| 100〜299人 | 60.3% | 13.2% | 26.5% |
| 30〜99人 | 77.2% | 6.6% | 16.2% |
| 計 | 69.0% | 9.6% | 21.4% |
1,000人以上では併用が47.1%なのに、30〜99人では16.2%。金額が高く出る形態が、大企業に偏って分布しています。規模の差と形態の差は独立ではなく、同じ方向に効いて差を広げているわけです。
中小企業側の実態も、同じ調査から見えます。退職一時金制度がある企業の支払準備形態(複数回答)は、社内準備が56.5%、中小企業退職金共済制度が42.0%、特定退職金共済制度が9.9%。30〜99人に限れば中小企業退職金共済制度が48.5%で、社内準備の49.6%とほぼ並びます。中小企業の退職金の半分近くは、社外の共済で積まれているということです(制度の中身は中退共の記事で扱っています)。
そもそも制度が無い会社が、4社に1社ある
相場を調べる前に確かめるべきなのは、そもそも自分の会社に退職金制度があるかどうかです。
| 調査 | 対象 | 制度あり | 制度なし |
|---|---|---|---|
| 厚生労働省 令和5年 | 全国・常用労働者30人以上 | 74.9% | 24.8% |
| 厚生労働省 平成30年 | 同上 | 80.5% | 19.5% |
| 東京都 令和6年版 | 都内・従業員10〜299人 | 64.2% | 34.4% |
全国・30人以上でも約4社に1社、都内の中小企業なら約3社に1社に退職金制度がありません(東京都の残り1.4%は無回答)。産業による差はさらに大きく、厚生労働省の調査では宿泊業・飲食サービス業が42.2%、サービス業(他に分類されないもの)が54.4%と、半分前後にとどまります。逆に複合サービス事業97.9%、鉱業・採石業・砂利採取業97.6%、電気・ガス・熱供給・水道業96.4%は、ほぼ全社にあります。
退職金は法律で義務づけられた制度ではありません。制度を設けるかどうか、いくらにするかは各社が決めるもので、決めたことは就業規則や退職金規程に書かれます。自分の金額を知りたい場合、統計より先に見るべきものは自社の規程です。
減っているのは大卒だけで、高校卒は増えている
退職金は減り続けているとよく言われます。厚生労働省の同じ表で平成30年調査と比べると、実際にはそう単純ではありません(定年退職・単位は万円)。
| 学歴の区分 | 平成30年調査 | 令和5年調査 | 差 |
|---|---|---|---|
| 大学・大学院卒(管理・事務・技術職) | 1,983 | 1,896 | −87(−4.4%) |
| 高校卒(管理・事務・技術職) | 1,618 | 1,682 | +64(+4.0%) |
| 高校卒(現業職) | 1,159 | 1,183 | +24(+2.1%) |
減っているのは大学・大学院卒だけで、高校卒は2区分とも増えています(差と変化率は筆者の計算)。一方で、制度そのものは確かに減っています。退職給付制度がある企業割合は80.5%から74.9%へ5.6ポイント下がりました。金額が下がっているというより、制度を持つ会社が減っているというのが、この2つの調査時点の間に起きたことです。
この2つの調査は5年離れており、その間に賃金水準も物価も動いています。金額の増減をそのまま制度の手厚さの変化として読むことはできません。また、いずれの調査も公表しているのは平均値だけで、中央値は公表されていません。平均は分布の上側に引かれるため、半数の人がこの金額をもらっているという意味ではありません。
自分の会社の水準を見るときの順序
統計を使って自社や自分の水準を確かめるなら、次の順序が実務的です。
- 就業規則・退職金規程を先に読む。統計は最後です。制度の有無、算定方式、自己都合の減額率、支給率の表は、規程に書いてあります。
- 比べる相手を、自社と同じ規模の欄に合わせる。従業員80人の会社が1,896万円と比べても意味がありません。厚生労働省の調査なら30〜99人・100〜299人の欄、東京都の調査なら10〜49人・50〜99人・100〜299人の欄です。
- 制度の形態を揃える。一時金だけの会社が、併用企業を含む平均と比べると必ず低く見えます。上の1.3〜1.4倍はここで効きます。
- 勤続年数を揃える。定年の平均は勤続30年以上の姿に近い数字です。勤続20年時点を知りたいなら、東京都のモデル退職金の勤続20年の行を見ます。
- 実績を知りたいのか、設計値を知りたいのかを決める。実際に払われた額なら厚生労働省、規程どおりの計算値なら東京都です。
- 大卒定年の相場には1,896万円(厚生労働省・全国・30人以上)と1,149万円(東京都・10〜299人)があり、約1.65倍違う。どちらも正しい数字で、母集団・対象者・数え方が違う
- 1,896万円が集計されているのは、調査対象企業の約21.9%(制度あり74.9%×該当退職者がいた企業29.2%)にすぎない
- 勤続20〜24年なら1,021万円で平均の53.9%。この平均はほぼ勤続30年以上の姿
- 自己都合は定年の76〜78%で、3つの学歴・職種区分がほぼ揃う
- 両制度併用は一時金のみの1.3〜1.4倍。2つの調査で向きが一致する
- 退職金制度が無い企業は、全国30人以上で24.8%、都内中小企業で34.4%
- 平成30年から減っているのは大卒だけ。高校卒は2区分とも増えている。減ったのは制度を持つ企業の割合(−5.6ポイント)
よくある質問
Q. 退職金の相場は結局いくらと考えればよいですか?
A. ひとつの数字には決められません。厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の定年退職者の平均が1,896万円、東京都が従業員10〜299人の中小企業を対象に調べたモデル退職金では大学卒の定年が1,149万円です。前者は常用労働者30人以上の企業で実際に払われた額、後者は中小企業の規程をモデル社員に当てはめた計算値なので、自分の会社の規模と、知りたいのが実績か設計値かによって見るべき数字が変わります。
Q. 1,896万円は全企業の平均ではないのですか?
A. 違います。この金額を集計しているのは、常用労働者30人以上の企業のうち退職給付制度がある企業が74.9%、そのうち令和4年に勤続20年以上かつ45歳以上の退職者がいた企業が29.2%という、二重に絞られた範囲です。掛け合わせると調査対象企業の約21.9%になります。さらに集計対象の退職者も勤続20年以上かつ45歳以上に限られています。
Q. 勤続20年で辞めたらいくらもらえますか?
A. 実際の額は会社の退職金規程によって決まるため、統計から一意に決めることはできません。目安としては次の数字があります。東京都のモデル退職金(大学卒・勤続20年・42歳)は自己都合347万円、会社都合408万円です。厚生労働省の調査で定年退職者を勤続年数別に見た場合、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の勤続20〜24年は1,021万円ですが、こちらは45歳以上で定年退職した人の数字なので、新卒から20年勤めた時点の金額とは意味が違います。
Q. 自己都合退職だとどれくらい減りますか?
A. 厚生労働省の調査では、自己都合の平均が定年の76〜78%です(大学・大学院卒(管理・事務・技術職)1,441万円÷1,896万円で76.0%、高校卒(管理・事務・技術職)1,280万円÷1,682万円で76.1%、高校卒(現業職)921万円÷1,183万円で77.9%)。東京都のモデル退職金では勤続が短いほど差が大きく、大学卒の勤続5年で会社都合が自己都合の1.33倍、勤続30年で1.03倍でした。ただし実際の減額率は各社の退職金規程が定めるものです。
Q. 中小企業の退職金はどこで積み立てられていますか?
A. 厚生労働省の調査では、退職一時金制度がある企業の支払準備形態(複数回答)は社内準備が56.5%、中小企業退職金共済制度が42.0%、特定退職金共済制度が9.9%です。従業員30〜99人の企業に限ると中小企業退職金共済制度が48.5%、社内準備が49.6%とほぼ並びます。退職年金制度がある企業では確定拠出年金(企業型)が50.3%、確定給付企業年金が44.3%、厚生年金基金が19.3%です。
Q. 退職金制度が無い会社はどれくらいありますか?
A. 厚生労働省の令和5年調査では、常用労働者30人以上の企業で退職給付制度がない企業が24.8%です。東京都が従業員10〜299人の中小企業を調べた令和6年版では、制度なしが34.4%、無回答が1.4%でした。産業差も大きく、厚生労働省の調査では宿泊業・飲食サービス業の制度あり企業割合が42.2%にとどまる一方、複合サービス事業は97.9%です。退職金は法律で設置が義務づけられた制度ではありません。
Q. 退職金は減り続けているのですか?
A. 学歴の区分によって向きが違います。厚生労働省の定年退職者の平均を平成30年調査と比べると、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)は1,983万円から1,896万円へ87万円減った一方、高校卒(管理・事務・技術職)は1,618万円から1,682万円へ64万円増え、高校卒(現業職)も1,159万円から1,183万円へ24万円増えています。はっきり減っているのは制度を持つ企業の割合で、80.5%から74.9%へ5.6ポイント下がりました。
Q. この統計に中央値は載っていますか?
A. 載っていません。厚生労働省の就労条件総合調査も東京都の調査も、公表しているのは平均値です。平均は分布の上側に引かれるため、半数の人がその金額を受け取っているという意味ではありません。分布の形を知りたい場合、この2つの資料からは読み取れません。
出典
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」 — 調査の概要(調査の範囲及び対象、調査客体数6,421・有効回答数3,768・有効回答率58.7%)、利用上の注意、第16表(退職給付制度の有無、退職給付制度の形態別企業割合)、第17表(退職一時金制度の支払準備形態別企業割合)、第18表(退職年金制度の支払準備形態別企業割合)、第21表(退職者のいた企業割合、退職事由別退職者割合)、第22表(退職者1人平均退職給付額)、第23表(退職給付制度の形態別定年退職者1人平均退職給付額)(2026年8月26日取得)
- 東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」 — まえがき(調査対象は従業員10〜299人の都内中小企業、定年制・退職金は隔年調査)、第7表(退職金制度)、第8表(モデル退職金・調査産業計/規模別/制度形態別)(2026年8月26日取得)
この記事は一般的な情報提供であり、個別の税務・労務についての助言ではありません。掲載した数字は厚生労働省および東京都産業労働局が公表した統計の集計値であって、特定の会社や個人が受け取る退職金の額を示すものではありません。実際の支給額は各社の就業規則・退職金規程によって決まります。退職金にかかる税金の計算、役員退職金の損金算入、中退共の掛金と給付、退職金の分布(中央値・四分位)、公務員の退職手当、および退職金制度の設計・変更の手続きは、この記事では扱っていません。自社の制度については就業規則・退職金規程を確認し、必要に応じて社会保険労務士または税理士にご確認ください。