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役員退職金と損金算入 — 「功績倍率」は法人税法にも施行令にも一度も出てこない

結論から言うと、役員退職金は法人税法34条1項の「3つの型」の外にあります。34条1項は柱書のかっこ書きで「退職給与で業績連動給与に該当しないもの」を対象から除いているので、定期同額給与や事前確定届出給与のような形式要件は、退職金には最初からかかりません。効くのは34条2項の「不相当に高額な部分」だけです。

その「不相当に高額」の中身を決めているのが法人税法施行令70条2号です。ここが名指ししている判断要素は、①その役員が業務に従事した期間 ②その退職の事情 ③同種の事業を営み事業規模が類似する法人の支給状況の3つ。実務でほぼ全員が使う「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」という式の、「最終報酬月額」に当たる要素は、この3つに入っていません(末尾が「等に照らし」なので限定列挙ではありませんが、名指しはされていません)。

さらに踏み込むと、「功績倍率」という語は法人税法にも法人税法施行令にも一度も出てきません。本記事では両法令の全文を取得して数えました(いずれも0回)。この語が現れるのは法人税基本通達9-2-27の3だけで、しかもそこでの役割は「功績倍率法で計算すれば損金になる」と言うことではありません。以下、条文から確認できることと、確認範囲を超えるため断定を避けたことを分けて示します。

役員退職金は「3つの型」の外にある — 34条1項ではなく2項で見る

役員給与の損金不算入を定める法人税法34条は、1項で「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3類型を挙げ、そのいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入しないとしています。役員報酬を期の途中で自由に増減できないのはこの条文のためです(詳しくは役員報酬の決め方を参照してください)。

ところが、その34条1項の柱書は対象を次のように絞っています。

内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第三項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

つまり退職給与は、それが業績連動給与に該当しない限り、34条1項の網の外です。事前に税務署へ届け出る必要も、毎月同額で支給する必要もありません。代わりに効くのが34条2項です。

内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
「1項の外」と「無条件で損金」は違う

34条1項の適用が無いということは、形式要件で全額を否認されることが無いという意味です。金額の妥当性は34条2項で別に見られます。逆に言えば、否認されるとしても「不相当に高額な部分」だけで、全額ではありません。ここが役員報酬(型を外すと全額が損金不算入)との決定的な違いです。

役員に対して 支給する給与 退職給与か? 34条1項 柱書 いいえ 34条1項 — 定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与 のいずれにも該当しなければ、その額の全部が損金不算入 はい 業績連動給与 に当たるか? はい 1項の適用あり。同族会社は 3号の要件を構造的に満たせない いいえ 1項の適用なし → 34条2項で 「不相当に高額な部分」だけが 損金不算入
法人税法34条1項柱書のかっこ書きが、退職給与(業績連動給与に該当しないもの)を1項の対象から外している。通常の役員退職金はいちばん下の経路をたどり、34条2項=施行令70条2号の判定だけを受ける。

条文が名指しする判断要素は3つ — そこに「最終報酬月額」は無い

34条2項が「政令で定める金額」と投げた先が、法人税法施行令70条2号です。全文を引きます。

内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与(法第三十四条第一項又は第三項の規定の適用があるものを除く。以下この号において同じ。)の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額

名指しされているのは次の3つです。

条文が挙げる要素実務での呼び名
その役員のその内国法人の業務に従事した期間勤続年数
その退職の事情死亡退職か勇退か、功績の内容など
同種の事業を営む法人で事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況いわゆる同業類似法人の水準

ここで2点、正確に押さえておきます。

ひとつは、末尾が「等に照らし」であること。3つは限定列挙ではありません。これ以外の事情を考慮してはいけない、とは書かれていません。

もうひとつは、それでもなお「最終報酬月額」に当たる要素は名指しされていないことです。実務の功績倍率法は最終報酬月額を出発点に置きますが、条文が明示的に挙げている3要素の中にそれは無く、対応するのは「業務に従事した期間」だけです。

施行令70条2号が名指しする要素 功績倍率法が使う変数 ① 業務に従事した期間 ② 退職の事情 ③ 同種・事業規模が類似する法人の 退職給与の支給の状況 勤続年数 功績倍率(役員の職責) 最終報酬月額 対応する要素が 条文に名指しされていない
実線は条文の要素と実務の変数がそのまま対応するもの、破線は複数の要素が畳み込まれているもの。最終報酬月額に対応する要素は、施行令70条2号に名指しされていない(ただし末尾が「等に照らし」なので、考慮してはいけないという意味ではない)。

「功績倍率」は法人税法にも施行令にも一度も出てこない

ここは推測ではなく数えられます。e-Gov法令API v2 で法人税法と法人税法施行令の全文を取得し、語の出現回数を機械的に数えました。

法人税法法人税法施行令
功績倍率0回0回
功績(「功績倍率」以外を含む)0回0回
最終報酬0回0回
分掌変更0回0回
退職給与55回151回

「退職給与」自体は法人税法に55回・施行令に151回も出てくるのに、その額を計算する式に使われる語はどれも0回です。役員退職金の実務が全面的に依拠している「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」も、退職金を出せる場面を広げる「分掌変更」も、法律にも政令にも一文字も書かれていません

では通達はどうか。役員給与を扱う法人税基本通達 第9章第2節は第1款から第8款まであります。全8款の本文を取得して「功績倍率」を数えたところ、現れたのは第7款(退職給与)の2回だけでした。その2回はいずれも同じ箇条、9-2-27の3の本文と(注)です。

「過大な役員給与の額」の款には、退職給与の基準が書かれていない

第6款のタイトルはそのものずばり「過大な役員給与の額」で、9-2-21から9-2-27までの7つの箇条が並びます。ところがこの7つが引用しているのは施行令70条の1号イ・1号ロ・3号だけで、退職給与を定める2号は一度も引かれていません。役員報酬の過大性については使用人分の給与の適正額や海外在勤役員の滞在手当まで細かく決めている一方、退職給与の過大性の判断基準を示した箇条は、この款に無いということです。

通達が功績倍率法を定義しているのは、別の目的のため

唯一「功績倍率」が現れる9-2-27の3を、本文と(注)の全文で見ます。

9-2-27の3 いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は、法第34条第5項《役員給与の損金不算入》に規定する業績連動給与に該当しないのであるから、同条第1項の規定の適用はないことに留意する。
(注) 本文の功績倍率法とは、役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額が算定される方法をいう。

読み違えやすいのはここです。この箇条は「功績倍率法で計算すれば損金として認める」とは一言も言っていません。言っているのは「業績連動給与に該当しない」ということだけです。

なぜそれがわざわざ確認されているのか。34条1項柱書のかっこ書きをもう一度見ると、1項の対象から外れるのは「退職給与で業績連動給与に該当しないもの」でした。裏を返せば、業績連動給与に該当する退職給与は34条1項の網に入るということです。そして34条1項3号(業績連動給与)は、次のような条件を並べています。

オーナー社長の同族会社は、上場親会社の完全子会社であるといった事情が無い限り、この柱書のかっこ書きで入口から外れます。有価証券報告書も通常は提出していません。つまりもし役員退職金が業績連動給与に分類されてしまうと、同族会社では34条1項3号の要件を満たしようがなく、その額の全部が損金不算入になりうるのです。

9-2-27の3の意味

この箇条は「功績倍率法という計算方法にお墨付きを与えるもの」ではなく、功績倍率法で計算した退職金が業績連動給与の側へ滑り落ちないようにする確認規定と読むのが素直です。功績倍率法が使うのは最終報酬月額・勤続年数・職責であって、利益や株価といった業績指標ではない(34条5項の定義)ため、業績連動給与には当たりません。
その結果、通常の役員退職金は34条1項の外に出て、34条2項=施行令70条2号の「相当であると認められる金額」の判定だけを受けます。倍率が何倍までなら相当か、という数値は条文にも通達にも書かれていません。

いつ損金になるか — 決議日が原則、内定の未払計上は不可

損金算入の時期は法人税法にも施行令にも規定がなく、法人税基本通達9-2-28が定めています。

9-2-28 退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。

つまり選択肢は2つです。

損金算入する事業年度条件
原則株主総会の決議等により額が具体的に確定した日の属する事業年度—(未払でもよい)
容認支払った日の属する事業年度その事業年度に支払った額につき損金経理をしていること

この2つの外側にあるのが、国税庁タックスアンサー No.5208 が注記している次のケースです。

(注1)退職金の額が具体的に確定する事業年度より前の事業年度において、取締役会で内定した金額を損金経理により未払金に計上した場合であっても、未払金に計上した時点での損金の額に算入することはできません。

取締役会での内定は「具体的に確定した」に当たらない、という整理です。決算対策として期末に未払計上する場面で踏みやすいところなので、いつ株主総会(または定款で委任された機関)の決議が行われたかが実務上の分かれ目になります。

なお退職年金は扱いが違います。9-2-29は、退職年金は「当該年金を支給すべき時の損金の額に算入すべきもの」であり、年金の総額を計算して未払金等に計上しても損金の額に算入することはできない、としています。一時金と年金で時期の考え方が逆になる点に注意が要ります。

取締役会で内定 株主総会で決議(額が具体的に確定) 実際に支払う 内定額を未払金に計上 → この時点では損金にできない 原則 — 決議日の属する事業年度 (未払のままでも損金算入できる) 容認 — 支払日の属する事業年度 (その額を損金経理していること) ※ 分掌変更(9-2-32)の場合は、未払金等に計上した額は原則として「退職給与として支給した給与」に含まれない。
基本通達9-2-28と国税庁タックスアンサーNo.5208(注1)。時間の左から右へ、内定・決議・支払の3点。損金にできるのは中央と右の2つで、左端の内定時点では計上できない。
退職金の税金(退職所得)を計算してみる

分掌変更で払うとき — 50%減でも「主要な地位」に居れば退職給与にならない

完全に退任するのではなく、代表取締役から非常勤取締役になるといった分掌変更に際して退職金を支給することがあります。これを退職給与として扱えるかどうかを定めているのが9-2-32で、こちらも通達です(「分掌変更」の語は法人税法・施行令とも0回)。

9-2-32 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。

続く(1)〜(3)が例示です。ここで見落とされやすいのは、3つとも「ただしこういう人は除く」というかっこ書きを持っていることです。

例示される事実かっこ書きで除かれる人
(1) 常勤役員が非常勤役員になったこと常時勤務していなくても代表権を有する者、および代表権は無くても実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者
(2) 取締役が監査役になったこと監査役でありながら実質的に経営上主要な地位を占めていると認められる者、およびその法人の株主等で施行令71条1項5号の要件を全て満たしている者
(3) 分掌変更等の後の役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者
「50%以上下げれば退職金を出せる」ではない

(3)の「おおむね50%以上の減少」は目を引く数字ですが、同じ(3)の中のかっこ書きが、経営上主要な地位を占めている者をあらかじめ除いています。報酬を半分以下にしても、実質的に経営を握り続けているなら(3)には当たりません。
そもそも本文の要件は「地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にある」ことで、(1)〜(3)はその例示です。数字を満たすことと、本文の要件を満たすことは別です。

もうひとつ、9-2-32には(注)が付いています。

(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。

完全退職の場合(9-2-28)は決議で額が確定すれば未払のままでも損金算入できましたが、分掌変更の場合は未払金計上が原則として退職給与に含まれないという違いがあります。実際に支払ったかどうかが問われるということです。なお、この(注)は「原則として」と書いており、例外がどのような場合かは通達の文面からは分かりません。本記事の確認範囲では特定できなかったため、断定を避けます。

関連して、金額の判定にかかる論点が2つあります。

受け取る側 — 役員は勤続5年以下だと2分の1が使えない

ここからは受け取る個人側の話です。退職所得の計算そのもの(退職所得控除の計算、「退職所得の受給に関する申告書」を出さなかった場合の20.42%の源泉徴収など)は退職金の税金で扱っているので、ここでは役員に固有の部分だけを見ます。

所得税法30条2項は、退職所得の金額を原則「収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1」としたうえで、2つの例外を置いています。

区分該当する人退職所得の金額(残額をRとする)
原則下記以外R ÷ 2
短期退職手当等
(30条4項)
役員等以外としての勤続年数が5年以下の人(特定役員退職手当等に当たらないもの)R ≦ 300万円 … R ÷ 2
R > 300万円 … 150万円 +(R − 300万円)
特定役員退職手当等
(30条5項)
役員等としての勤続年数が5年以下の人R(2分の1が一切適用されない)

ここで「役員等」は30条5項が定義していて、法人税法2条15号の役員のほか、国会議員・地方議会の議員、国家公務員・地方公務員が含まれます。

実務上いちばん効くのは、この2つの非対称です。従業員として5年以下で辞めた場合は300万円までは2分の1が残るのに対し、役員として5年以下で辞めた場合は金額の大小にかかわらず2分の1が一切ない。条文の式から差を計算すると、次のようになります。

差は150万円で頭打ちになる

残額が300万円を超えると、役員(特定役員退職手当等)と従業員(短期退職手当等)の退職所得の差は金額にかかわらず150万円で固定されます。退職金が2,000万円でも5,000万円でも、この不利は150万円分のままです。所得税法30条2項2号の式が「150万円+(収入金額 −(300万円+退職所得控除額))」という形をしているためで、これを整理すると R − 150万円 になります。
ただし退職所得は他の所得と分離して累進税率で課税されるので、150万円という課税所得の差がそのまま税額の差になるわけではありません。適用される税率帯によって税額への影響は変わります。

0 500万 1,000万 0 300万 500万 1,000万 残額R = 退職金の額 − 退職所得控除額(円) 退職所得の金額 役員等勤続5年以下(特定役員退職手当等) 役員等以外で勤続5年以下(短期退職手当等) 差はここから先 150万円で頭打ち
所得税法30条2項・4項・5項から作図。横軸・縦軸とも0〜1,000万円の範囲で目盛りを取っている(軸の長さが違うので、傾き1の線は画面上で45度にはならない)。残額が300万円までは短期退職手当等の線の傾きが2分の1で、300万円を超えると2本の線は平行になり、差は150万円で一定になる。

実数で通す

条文の形が分かったところで、数字を入れてみます。いずれも税額ではなく、退職所得の金額(課税標準)までの計算です。

例1 — 勤続20年で退任した代表取締役に6,000万円を支給した場合

項目金額根拠
退職金の額60,000,000円最終報酬月額100万円 × 勤続20年 × 功績倍率3.0 で算定したと仮定
退職所得控除額8,000,000円所法30条3項1号(勤続20年以下)… 40万円 × 20年
残額R52,000,000円6,000万円 − 800万円
退職所得の金額26,000,000円所法30条2項(役員等勤続年数が5年超なので原則どおり2分の1)

法人側は、この6,000万円のうち「相当であると認められる金額」を超える部分だけが損金不算入になります(施行令70条2号)。功績倍率3.0で計算したという事実そのものは、条文上の要件ではありません。判断されるのは、勤続20年という業務に従事した期間、勇退か死亡退職かといった退職の事情、そして同種・類似規模の法人の支給状況に照らして相当かどうかです。

例2 — 役員を5年で退任した場合と、従業員を5年で退職した場合(退職金2,000万円・同条件)

項目役員(特定役員退職手当等)従業員(短期退職手当等)
退職金の額20,000,000円20,000,000円
退職所得控除額(勤続5年)2,000,000円2,000,000円
残額R18,000,000円18,000,000円
退職所得の金額18,000,000円
(2分の1の適用なし)
16,500,000円
150万円+(2,000万円−(300万円+200万円))
1,500,000円(残額が300万円を超えているので、退職金の額を増やしてもこの差は変わらない)

退職所得控除額は勤続5年なので所法30条3項1号により 40万円 × 5年 = 200万円 です。なお同条6項2号は「第3項及び前号の規定により計算した金額が80万円に満たない場合」は80万円とする最低保障を置いていますが、この例では200万円なので適用されません。

ここまでのまとめ

  • 役員退職金は34条1項の3類型の。効くのは34条2項の「不相当に高額な部分」だけ
  • その判定要素として条文が名指しするのは①業務に従事した期間 ②退職の事情 ③同種・類似規模法人の支給状況の3つ(末尾は「等」)
  • 「功績倍率」「最終報酬」「分掌変更」は法人税法・施行令の全文に0回
  • 通達9-2-27の3が功績倍率法を定義しているのは、業績連動給与に当たらないと確認するため
  • 損金算入時期は決議日が原則、支払日+損金経理も可。内定額の未払計上は不可
  • 分掌変更は50%減額だけでは足りない(経営上主要な地位を占める者は除かれる)。未払計上は原則として含まれない
  • 受け取る側は役員等勤続5年以下で2分の1が一切使えない。従業員との差は150万円で頭打ち

よくある質問

Q. 功績倍率3.0で計算すれば、退職金は損金として認められますか?

A. 条文はそのようには書かれていません。「功績倍率」の語は法人税法にも法人税法施行令にも一度も現れず(本記事で全文を取得して0回であることを確認しました)、現れるのは法人税基本通達9-2-27の3だけです。その9-2-27の3も、功績倍率法による退職給与が法人税法34条5項の業績連動給与に該当しないことを述べているだけで、倍率がいくつなら損金になるとは書いていません。損金不算入となる金額を定めているのは施行令70条2号で、そこが挙げるのは業務に従事した期間・退職の事情・同種で事業規模が類似する法人の役員に対する退職給与の支給の状況等に照らして相当と認められる金額、という基準です。倍率の具体的な数値は条文にも通達にもありませんので、個別の金額の妥当性については顧問税理士にご確認ください。

Q. 株主総会で決議した事業年度と、実際に支払った事業年度が違います。どちらで損金にしますか?

A. 一般には、法人税基本通達9-2-28により、原則は株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度です。この場合は未払のままでも損金の額に算入できます。ただし同通達のただし書により、その退職給与の額を支払った日の属する事業年度において、支払った額につき損金経理をした場合には、その事業年度で損金の額に算入することも認められます。つまり決議した事業年度と支払った事業年度のいずれかを選べる形になっていますが、支払った事業年度で計上する場合には損金経理という条件が付きます。国税庁タックスアンサーNo.5208も同じ整理を示しています。

Q. 取締役会で内定した金額を、期末に未払金として計上しました。その期の損金になりますか?

A. 国税庁タックスアンサーNo.5208の(注1)は、退職金の額が具体的に確定する事業年度より前の事業年度において、取締役会で内定した金額を損金経理により未払金に計上した場合であっても、未払金に計上した時点での損金の額に算入することはできない、としています。基本通達9-2-28が損金算入時期の起点に置いているのは「株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日」であり、取締役会での内定はこれに当たらないという整理です。したがって一般には、確定した日の属する事業年度まで待つことになります。

Q. 代表取締役を退任して非常勤取締役として残ります。退職金を出せますか?

A. 法人税基本通達9-2-32は、分掌変更等によりその役員としての地位または職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合には、退職給与として取り扱うことができるとしています。その例示のひとつが「常勤役員が非常勤役員になったこと」ですが、この例示にはかっこ書きがあり、常時勤務していなくても代表権を有する者、および代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者は除かれています。非常勤になったという形式だけでなく、実質的に経営から退いているかどうかが問われる書き方になっています。

Q. 分掌変更のとき、報酬を50%以上減らせば退職金を出してよいのですか?

A. 9-2-32(3)は「分掌変更等の後におけるその役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと」を例示に挙げていますが、同じ(3)のかっこ書きが「その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者」を除いています。また(1)〜(3)はあくまで例示で、本文の要件は地位または職務の内容が激変し実質的に退職したと同様の事情にあると認められることです。減額率という数字を満たすことと、本文の要件を満たすことは別のことがらとして書かれています。

Q. 分掌変更のとき、資金繰りの都合で未払金に計上してもよいですか?

A. 9-2-32には(注)が付いており、本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない、とされています。完全に退職した場合(9-2-28)は決議により額が確定すれば未払のままでも損金算入できるのに対し、分掌変更の場合は扱いが異なるということです。なおこの(注)は「原則として」という語を使っており、その例外がどのような場合かは通達の文面からは分かりません。本記事の確認範囲では特定できていませんので、具体的な処理は顧問税理士にご確認ください。

Q. 役員を5年で退任しました。退職金にかかる税金は従業員と同じですか?

A. 同じではありません。所得税法30条5項は、役員等としての勤続年数が5年以下である者が受ける退職手当等を「特定役員退職手当等」とし、同条2項がこれについて2分の1を適用せず、収入金額から退職所得控除額を控除した残額そのものを退職所得の金額とすると定めています。一方、役員等以外としての勤続年数が5年以下の場合は「短期退職手当等」(30条4項)となり、残額が300万円以下の部分については2分の1が残ります。残額が300万円を超える場合の差は、条文の式を整理すると常に150万円となり、退職金の額が大きくなってもそれ以上は広がりません。

Q. 使用人兼務役員に、役員分と使用人分を分けて退職金を払えば、それぞれ別に判定されますか?

A. 法人税基本通達9-2-30は、退職した使用人兼務役員に対して支給すべき退職給与を役員分と使用人分とに区分して支給した場合においても、法人税法34条2項の規定の適用については、その合計額によりその支給額が不相当に高額であるかどうかを判定する、としています。区分して支給しても、過大かどうかの判定は合計額で行われるという整理です。なお9-2-31は、退職した役員が確定給付企業年金や確定拠出企業型年金などから給付を受ける場合には、その給付を受ける金額をも勘案して判定を行うとしています。

出典

本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。記載は2026年8月16日時点で確認した法令・通達に基づいています。役員退職金の金額が「不相当に高額」に当たるかどうかは個々の事実関係によって判断されるものですので、実際の支給にあたっては顧問税理士または所轄の税務署へご確認ください。

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