ドルコスト平均法のデメリット — 一括投資との差は上位側ほど大きく、最悪の側では逆転する
結論から言うと、ドルコスト平均法(まとまった資金を分けて投入する方法)の最大のデメリットは、投入し終えるまで待機している資金が、その間のリスクプレミアムを取り逃すことです。Vanguardが2023年に公表した研究では、まとまった資金を一括で入れたほうが3か月分割より有利だった割合は68%でした。
ただし、この数字だけを切り出すと実態を外します。同じ資料の分布を見ると、一括が上回る幅は良い相場ほど大きく、悪い相場ほど小さくなり、下位5パーセンタイル(最も悪かった側)では分割のほうが多く残っています。論文は、一括が下回るのは25パーセンタイル未満の最悪の結果に限られると書いています。100%株式・1年・10万ドルの試算で、5パーセンタイルは一括82,947ドルに対し分割85,906ドルです。「一括のほうが期待値は高いが、悪い相場では損失も大きい」というのが資料の内容であって、「一括が常に正しい」ではありません。
そしてもっとも誤解されやすい点があります。この研究は「今あるまとまった資金をどう入れるか」の比較であって、毎月の給与から積み立てる話ではありません。 論文自身がその区別を明記しています。毎月の給与からの積立は、そもそも一度に入れられる資金が手元にないので、比較の対象そのものが違います。
仕組みと、平均取得単価が下がる例
ドルコスト平均法は、毎回同じ「金額」を買う方法です。同じ「口数」ではありません。価格が高いときは買える口数が少なく、安いときは多く買えるので、結果として平均取得単価が単純平均より下がります。
数字で見ます。1万円ずつ4回買い、基準価額が10,000円 → 8,000円 → 5,000円 → 8,000円 と動いた場合です。
| 回 | 基準価額(1万口あたり) | 投入額 | 買えた口数 |
|---|---|---|---|
| 1回目 | 10,000円 | 10,000円 | 10,000口 |
| 2回目 | 8,000円 | 10,000円 | 12,500口 |
| 3回目 | 5,000円 | 10,000円 | 20,000口 |
| 4回目 | 8,000円 | 10,000円 | 12,500口 |
| 合計 | — | 40,000円 | 55,000口 |
平均取得単価は 40,000円 ÷ 55,000口 × 10,000 = 約7,273円です。4つの価格の単純平均(7,750円)より低くなっています。これが「高値掴みを避けられる」と説明される部分です。
ここで、よくある説明の誤りを1つ潰しておきます。「上昇相場では平均取得単価が単純平均より高くなる」というのは誤りです。 毎回同じ金額を買う限り、平均取得単価は価格の調和平均になり、これは算術上つねに単純平均以下になります。上の上昇例(10,000 → 12,000 → 15,000 → 12,000)でも、平均取得単価は12,000円で、単純平均12,250円より低いままです。
比べるべき相手は単純平均ではなく、一括投資です。同じ40,000円を最初に一度で入れた場合と並べると、性質がはっきりします。
| 相場 | 分割で買えた口数 | 一括で買えた口数 | 期末評価額の差(分割−一括) |
|---|---|---|---|
| 下落→回復(10,000→8,000→5,000→8,000) | 55,000口 | 40,000口 | +12,000円 |
| 上昇(10,000→12,000→15,000→12,000) | 33,333口 | 40,000口 | −8,000円 |
いずれも投入額は40,000円、期末価格は最終回の価格で評価しています。分割が有利になり得るのは、後の回の購入価格が初回より低く、分割の平均取得単価が一括で買った価格を下回るような値動きのときです。途中で一度下がっただけで有利になるとは限りません。上がっていく相場では、一括で最初に持っていたほうが口数が多く、その分だけ差がつきます。この方法は下落局面に強く、上昇局面に弱いという、対称な性質を持っています。
混同されている2つの「分割」
議論が噛み合わなくなる原因は、まったく違う2つの状況が同じ言葉で呼ばれていることです。Vanguardの論文も、冒頭で明示的に区別しています。
| A:まとまった資金の分割投入 | B:給与からの積立 | |
|---|---|---|
| 手元の資金 | いま全額ある | 毎月少しずつ発生する |
| 一括という選択肢 | ある | ない(原資が無い) |
| 待機資金 | 発生する | 発生しない |
| 研究の対象 | こちら | 対象外 |
論文は「この用語は、給与から一定額を投資し続けることを指して使われることもあるが、ここで検討しているのは、すぐ使えるまとまった資金をどうするかである」という趣旨の注記を置いています。つまり、「一括のほうが有利」という結論をBの状況に持ち込むことはできません。Bには一括という選択肢が存在しないからです。
Vanguardの68%は何を測った数字か
よく引用される68%には、はっきりした前提があります。数字だけが独り歩きしやすいので、条件を並べます。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 対象指数 | MSCI World Index |
| 期間 | 1976年〜2022年 |
| 資産配分 | 100%株式 |
| 分割のしかた | 3等分して1か月おきに投入(3か月) |
| 比較時点 | 投資開始から1年後の資産額 |
| 未投資資金の利息 | 0%として計算 |
同じ図には、分割は現金のまま置いておくよりは良かった(69%)、一括は現金のままより良かった(70%)という数字も並んでいます。これらは「一括と分割」「分割と現金」「一括と現金」をそれぞれ別々に比べた過去の勝率で、毎回この順番になるという意味ではありません。少なくとも、分割は現金のまま待つより良かった割合が高く、分割を否定する研究ではありません。
68%という数字が出る背景も示されています。1976年〜2022年について、米国の株式は現金(3か月物の米国債利回りで代用)を76%の期間で上回り、債券は68%の期間で上回りました。資金を現金で置いている期間は、たとえ一時的でもリスクプレミアムを取り逃す機会費用になる、という説明です。
下位5%では分割のほうが残る
この研究のいちばん重要な部分は、確率ではなく分布のほうです。10万ドルを1年投資したときの資産額を、パーセンタイル別に示した表があります。100%株式の場合です。
| パーセンタイル | 一括 | 3か月分割 | 差 |
|---|---|---|---|
| 95(最も良かった側) | 139,453ドル | 131,012ドル | +8,441 |
| 75 | 119,063ドル | 116,286ドル | +2,777 |
| 50(中央値) | 111,940ドル | 109,580ドル | +2,360 |
| 25 | 102,070ドル | 101,531ドル | +539 |
| 5(最も悪かった側) | 82,947ドル | 85,906ドル | −2,959 |
見てのとおり、差は上位側ほど大きく、下位へ行くほど縮み、5パーセンタイルでは符号が逆転します。論文も「一括は、最悪の結果(25パーセンタイル未満)を除くすべてで上回る」と書いています。10万ドルが82,947ドルまで減る、つまり1年で17%の元本割れが起きている領域では、分割していたほうが約3,000ドル多く残っていました。
株式比率が下がると差も小さくなります。60%株式/40%債券の中央値では一括109,360ドル・分割107,453ドルで1.8%の差、100%株式の中央値では2.2%、40%株式/60%債券では1.2%です。株式比率が高いほど、待機資金が取り逃すリスクプレミアムが大きいという関係です。
差は「分割し終えた後」もずっと残る
1年で比べているのだから、5年・10年と持てば差は埋まるのではないか。そう考えたくなりますが、論文はそうならないと説明しています。
理由は単純です。分割が終わった時点で、2つのポートフォリオの資産配分は同じになります。中身が同じなら、その後のリターン率も同じです。したがって、分割が終わった時点で資産が多いほうが、その後もずっと前に出たままになります(どちらも売買しない前提)。1年時点で一括が2,360ドル多ければ、その差は消えずに一緒に成長していきます。
ただし、差の「率」は変わらなくても、差の「金額」はその後の値動きで変わります。両方の残高に同じ率が掛かるからです。論文は、この金額差が観測する期間によって変わりうる点も指摘しています。上昇すれば差の金額は広がり、下落すれば縮みます。たとえば中央値の一括111,940ドルと分割109,580ドルがどちらも10%下がると、差は2,360ドルから2,124ドルに縮みます。下落で大きくなるのは、残高が大きい一括側が失う金額であって、2つの差ではありません。
デメリットを4つに整理する
1. 待機資金の機会費用
これが本体です。投入し終えるまでの期間、資金の一部は市場の外にあります。研究の前提では未投資部分の利息は0%なので、上がる相場ではその分だけ取り逃します。論文は分割する期間が長いほど機会費用は大きくなるとも書いています。3か月より12か月に分けるほうが、一括との差は開きます。
2. 元本割れがなくなるわけではない
平均取得単価が下がっても、売る時点の価格が取得単価を下回っていれば損失です。分割は「下がったときに多く買う」仕組みであって、「下がらないようにする」仕組みではありません。上の表の5パーセンタイルでも、分割側は85,906ドル=14%の元本割れです。一括より損失が小さいだけで、損失そのものは出ています。
3. 手数料の決まり方によっては回数が効く
購入金額に同じ料率を掛けるだけの購入時手数料なら、合計の購入額が同じである限り、1回で買っても分けて買っても手数料の総額は変わりません。回数が効くのは、1注文ごとの定額手数料や最低手数料、金額による料率の段階がある場合です。購入時手数料が無料(ノーロード)の商品であれば問題になりませんが、条件は商品や販売会社ごとに違うので確認が要ります。
4. 「機械的に続ける」は、下落局面で試される
分割の利点は、価格を見ずに買い続けることで判断のブレを減らせる点にあります。ただしこれは下落局面でも実際に続けられた場合にだけ得られる利点です。価格が下がったところで止めてしまうと、安く買える回だけを取り逃すことになり、平均取得単価が下がる効果も失われます。論文が分割を検討する余地があるとしているのも、損失回避の傾向が非常に強く、そうしないと全額を現金で持ち続けてしまう人という限定つきです。
積立シミュレーターで投入のしかたを試算する実務でどちらを選ぶかの前に決めること
この比較は、「そのお金を投資に回してよいか」が決まった後の話です。順序を逆にすると、比較そのものが意味を持ちません。
まず切り分けるのは、使う時期が決まっている資金です。1年後の学費、半年後の納税資金、事業の運転資金は、必要な時点の価格で売らざるを得ないので、期待値の議論の外にあります。経理の実務でいえば、予定納税、消費税の中間申告、賞与の原資などが該当します。
そのうえで、一括と分割のどちらを選んでも、この研究の範囲では差は数パーセントです。中央値で2.2%(100%株式・1年)。判断に時間をかけるほどの差かどうかは、金額によります。1,000万円なら22万円ですが、100万円なら2万2千円です。
なお、この記事は特定の投入方法を勧めるものではありません。上の数字はすべて、指定された指数・期間・配分・投入間隔という条件のもとでの過去の集計であり、将来の結果を示すものではありません。
NISAを使う場合、「一括」は制度の上限に当たる
実務でもう一つ効いてくるのが、非課税制度の枠は1年あたりで決まっていることです。NISA口座で買う前提なら、まとまった資金があってもその年に入れられる金額には上限があります。上限を超える分は、課税口座で買うか、翌年以降の枠を待つことになります。
つまり、NISAの枠を超える資金を持っている人にとっては、「一括か分割か」は選択ではなく、制度上どのみち複数年に分かれるという話になります。この場合に問われるのは投入間隔ではなく、非課税枠を先に使い切るか、課税口座と並行させるかという別の論点です。
よくある質問
Q. 結局、一括投資と分割投資はどちらがよいのですか?
A. Vanguardの研究の条件(MSCI World、1976年〜2022年、100%株式、3か月分割、1年後比較、未投資資金の利息0%)では、一括が有利だった割合は68%でした。ただし同じ資料の下位5パーセンタイルでは分割のほうが多く残っており、悪い相場では一括の損失が大きくなります。分布の中央値では一括のほうが多く残り、下位5パーセンタイルでは分割のほうが多く残る、という関係です。どちらがよいかは、損失に対する耐え方と、そのお金をいつ使うかによって変わります。この記事はどちらかを勧めるものではありません。
Q. 毎月の積立にも「一括のほうが有利」は当てはまりますか?
A. 当てはまりません。この研究が比較しているのは、いますぐ使えるまとまった資金を一度に入れるか分けて入れるかであり、論文自身が、給与から一定額を投資し続ける形とは区別すると明記しています。毎月の給与から積み立てている場合、そもそも一度に投じられる資金が手元にないので、一括という選択肢が存在しません。比較の対象そのものが違います。
Q. 分割する期間は3か月がよいのですか?
A. 研究が3か月を使っているのは、比較の条件を固定するためです。論文は、分割する期間が長いほど機会費用が大きくなり、一括との差が開くと書いています。したがって、一括との差を小さくしたいなら分割期間は短いほうになります。ただしこれは期待値の話で、下落局面では分割期間が長いほうが結果的に有利になる場合があります。どの期間が最適かを事前に決める方法は、この資料には示されていません。
Q. ドルコスト平均法は「下がっても安心」ということですか?
A. 違います。平均取得単価が単純平均より下がるだけで、売る時点の価格が取得単価を下回っていれば損失が出ます。研究の下位5パーセンタイルでは、分割側も10万ドルが85,906ドルまで減っており、14%の元本割れです。一括の82,947ドルより損失が小さいというだけで、損失そのものは発生しています。分割は損失を消す仕組みではなく、投入時点を分散させる仕組みです。
Q. 上昇相場でドルコスト平均法を使うと不利ですか?
A. 同じ金額を最初に一括で入れた場合と比べると不利になります。価格が上がっていく局面では、後の回ほど買える口数が減るため、最初に全額を入れていた場合より保有口数が少なくなります。この記事の上昇例(10,000円→12,000円→15,000円→12,000円)では、分割は33,333口、一括は40,000口で、期末の評価額は分割のほうが8,000円少なくなりました。なお、平均取得単価そのものは価格の単純平均(12,250円)より低い12,000円で、毎回同じ金額を買う限り単純平均を上回ることはありません。不利かどうかは、平均取得単価ではなく一括との口数の差で決まります。
Q. 手数料は一括と分割でどちらが多くかかりますか?
A. 購入金額に同じ料率を掛ける購入時手数料なら、合計の購入額が同じである限り、一括でも分割でも手数料の総額は変わりません。分割のほうが多くなるのは、1注文ごとの定額手数料や最低手数料、金額による料率の段階がある場合です。購入時手数料が無料の商品であればこの差は生じません。一方、信託報酬は保有している金額と期間に応じて日々かかるので、早く全額を投じた一括のほうが、同じ期間で見れば信託報酬の対象となる残高は大きくなります。条件は商品や販売会社ごとに違うため、目論見書などで確認してください。
出典
- Vanguard「Cost averaging: Invest now or temporarily hold your cash?」Vanguard research, February 2023(著者 Megan Finlay/Josef Zorn, Ph.D., CFP®)— Figure 2 の68%・69%・70%、Figure 3 のパーセンタイル別資産額(100%株式・60/40・40/60)、60/40の中央値における1.8%、株式比率と一括優位の関係、分割期間が長いほど機会費用が増える旨、および「給与から一定額を投資し続ける形とは区別する」という注記は、いずれも原典PDF本文による
- 同資料 — 1976年〜2022年について、米国株式は現金(3か月物米国債利回りで代用)を76%の期間で、債券は68%の期間で上回ったとの記載
- 金融庁「NISA特設ウェブサイト — 資産形成の基本」 — 積立投資の説明、および運用商品には元本割れのおそれがある旨
- 国税庁 タックスアンサー No.4205「相続税の申告と納税」 — 「相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に行うことになっています」。期限が土曜日・日曜日・祝日などに当たるときはこれらの日の翌日が期限とみなされる旨も同ページによる
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