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インデックス投資とは — 平均が勝つ理由は算術であって、予測ではない

結論から言うと、インデックス投資(パッシブ運用)が有利になりやすい理由は、将来の相場を当てられるからではなく、足し算と引き算からそうなるという点にあります。市場を1つ決め、その市場の証券を持つ投資家をパッシブとアクティブに分けると、費用を引く前の「平均的なアクティブ運用1円」のリターンは、「平均的なパッシブ運用1円」と必ず等しくなります。そして費用はアクティブのほうが高いので、費用を引いた後は平均的なアクティブ運用が必ず下回ります。これがウィリアム・シャープが1991年に示した論証です。

ただし、この論証は無条件に成り立つわけではありません。「市場をどう決めるか」「パッシブと呼んでいるものが本当にパッシブか」という定義に全面的に依存しています。ここを読み飛ばすと、「インデックスなら必ず勝つ」「だから全財産を入れてよい」という、原論文が言っていないことまで抱き合わせで信じることになります。

この記事では、シャープの論証を条件つきで読み直し、費用だけを変えた計算例論証が崩れて見える3つの理由指数の対象範囲を変えると分散の意味が変わること、そして元本割れと「近く使う資金」の問題までを扱います。特定の商品を推奨するものではありません。

平均が勝つのは予測ではなく引き算

シャープの論証は2つの主張からできています。原文はこう書いています。

before costs, the return on the average actively managed dollar will equal the return on the average passively managed dollar
after costs, the return on the average actively managed dollar will be less than the return on the average passively managed dollar

1つめは「費用を引く前は、平均的なアクティブ運用1ドルのリターンは平均的なパッシブ運用1ドルのリターンと等しくなる」。2つめは「費用を引いた後は、平均的なアクティブ運用1ドルのリターンは平均的なパッシブ運用1ドルを下回る」という意味です。原文は、この2つがどの期間についても成り立ち、依拠しているのは加減乗除の法則だけだと続けています。

理屈は単純です。ある市場の全体リターンは、その市場の証券のリターンを期首の時価で加重平均したものです。パッシブ運用は市場の全証券を市場と同じ比率で持つので、費用を引く前は必ず市場リターンそのものになります。市場全体はパッシブ部分とアクティブ部分の加重平均ですから、市場とパッシブが同じなら、残りのアクティブ部分も同じでなければ計算が合いません。ここに予測は一切入っていません。

ここを誤解しやすい「平均的なアクティブ運用が負ける」であって、「すべてのアクティブ運用が負ける」ではありません。原文も、費用控除後にパッシブを上回るアクティブ運用者が存在することは十分にあり得ると明記しています。ただしその人たちは、その市場のアクティブ資金のうち少数派でなければ算術が成り立ちません。

前提は「市場の定義」と「パッシブの定義」

原文は論証の前に、用語の定義が必要だと断っています。まず市場を1つ選ぶ — S&P500の銘柄群でもよいし、「小型株」の集合でもよい。次に、その市場の証券を持つ投資家をパッシブかアクティブかに分類する。パッシブ投資家とは、市場のすべての証券を、市場と同じ比率で常に持っている投資家です。ある証券Xが市場の時価の3%なら、パッシブ投資家の資産の3%がXになっている状態を指します。アクティブ投資家とは、パッシブでない投資家のことです。

この定義は実務でいうインデックスファンドより厳格です。「日経平均に連動する投資信託を買った」だけでは、シャープのいうパッシブとは限りません。 市場を「日本株全体」と置いたなら、日経平均225銘柄だけを持つのは全証券を持っていないのでアクティブ側に分類されます。論証が成り立つかどうかは、どの市場を基準に語っているかで変わるということです。

決めるもの決め方の例決め方が変わると
市場米国の大型株/日本株全体/全世界株「平均」の中身が変わる
パッシブその市場の全証券を時価比率で保有一部だけ持つならアクティブ扱い
費用信託報酬・売買コスト・税差の大きさが変わる
市場全体のリターン(期首時価で加重平均) パッシブ部分=市場リターン アクティブ部分=同じ値になる 費用は小さい 費用は大きい → 費用を引いた後は、平均アクティブが必ず下回る
費用控除前は等しく、差がつくのは費用の分だけ。予測は使われていない。

費用だけを変えるといくら違うか

算術の話なので、実際に引き算してみます。以下の年率5%は仮定値であって、将来の予測ではありません。 リターンを同じに固定したうえで、信託報酬だけを変えるとどうなるかを見るための数字です。元本100万円を20年間そのまま置いた場合の計算です。

信託報酬(年率)実効リターン20年後の金額0.1%との差
0.1%4.9%2,603,213円
0.5%4.5%2,411,714円−191,499円
1.5%3.5%1,989,789円−613,424円

0.1%と1.5%の差は年率で1.4ポイントですが、20年後の金額では613,424円、率にして23.6%の差になります。毎月3万円を20年積み立てた場合(元本720万円・年率を12で割った月率で毎月複利にした場合・同じ仮定)でも、0.1%なら12,189,636円、1.5%なら10,406,078円で、差は1,783,558円です。

ここで注意したいのは、この差は「当たったから」出たものではないということです。リターンの仮定はどの行も同じ5%に固定してあります。相場が上がっても下がっても引かれ続ける費用が、複利の土台を毎年削っていく分だけの差です。シャープの論証が実務で意味を持つのは、この部分が事前に分かっている数少ない変数だからです。

信託報酬は「年率」で日々差し引かれる信託報酬は請求書が来るものではなく、投資信託の基準価額から日割りで自動的に引かれます。だから明細に出てこず、意識されにくい。目論見書で確認する習慣がないと、払っていることに気づかないまま20年が経ちます
積立シミュレーターで信託報酬の差を試算する

論証が崩れて見える3つの理由

「アクティブファンドが指数に勝った」というデータは実際に存在します。原文はその理由を3つ挙げています。いずれも算術が間違っているのではなく、測り方が定義とずれているという指摘です。

1. パッシブと呼んでいるものが本当はパッシブでない

指数連動をうたうファンドでも、全銘柄を市場比率で持たずにサンプリング(一部の銘柄で指数に近い動きを作る)で運用しているものがあります。また、指数連動でありながら手数料が高く、総コストがアクティブと同等かそれ以上になっている商品もあり得ます。この場合、定義上のパッシブではないので論証の外に出ます。

2. アクティブ側の集計が「非パッシブ全体」を代表していない

実証分析の多くはプロ・機関投資家のアクティブ運用だけを見ています。しかし市場には個人のアクティブ投資家もいます。また、株式ファンドが現金を持っている状態で全額株式の指数と比べると、上昇局面では大きく負け、下落局面では勝つことがありますが、これは運用の巧拙ではなく資産配分の差です。さらに、期間中に消滅したファンドを集計から外すと生存者バイアスで成績が実際より良く見えます。

3. 「平均」の取り方が金額加重になっていない

原文が実務上おそらく最も重要としているのがこれです。平均アクティブ運用1ドルを出すには、各運用者のリターンを期首の運用資産額で加重しなければなりません。ところが比較の多くは、規模を問わない単純平均中央値を使っています。運用資産の小さい運用者は小型株を好む傾向があるため、単純平均は小型株寄りに偏ります。結果として、小型株が好調な時期には「平均的なアクティブ運用者」が市場を上回って見えることがあります。

原文の結論は「適切に測れば、平均的なアクティブ運用1ドルは、費用控除後で平均的なパッシブ運用1ドルを必ず下回る。これに反するように見える実証分析は、測り方が不適切である」という強い言い方です。逆に言えば、測り方さえ変えれば「勝った」という数字はいくらでも作れるということでもあります。

指数の範囲が変わると分散の意味が変わる

「インデックスだから分散されている」という言い方は、どの指数かを言わないと中身がありません。指数は市場の定義そのものなので、対象範囲を変えれば分散の中身も変わります。

指数の対象範囲分散されているもの分散されていないもの
1国の大型株その国の大型企業の個別リスクその国の景気・通貨・政策、小型株
1国の株式全体規模を含む個別リスクその国の景気・通貨・政策
先進国株国ごとの個別リスクの一部新興国、為替、株式という資産クラス自体
全世界株国・規模の個別リスク為替、株式という資産クラス自体

どの指数を選んでも、「株式に投資している」というリスクそのものは分散できません。株式市場全体が下がる局面では、全世界株でも下がります。分散が効くのは「特定の1社が倒れる」「特定の1国だけが落ち込む」といった個別要因に対してであって、市場全体の変動に対してではありません。

また、日本に住んで日本円で生活する人が外貨建ての資産を持つ場合、為替の変動がそのまま円換算の評価額に乗ります。指数が上がっても円高が進めば、円で見た資産は増えないことがあります。「全世界に分散したから安全」と言えないのはこのためです。

同じ国内株式でも、指数が変われば銘柄の選び方や配分が変わります。eMAXIS Slim TOPIXと日経平均の比較では、信託報酬の上限が同じ2本を、構成の違いと同期間の実績で比べています。

勝つ少数派を、事前に見分けられるか

シャープの論証は「平均的なアクティブ運用が負ける」と言っているだけで、個々のアクティブ運用者のなかに勝つ人がいることは否定していません。原文もそれを明示しています。だとすれば、実務上の問いは「勝つ人はいるか」ではなく「勝つ人を、投資する前に見分けられるか」に移ります。

ここで算術がもう一度効いてきます。費用控除後にパッシブを上回るアクティブ運用者は、その市場のアクティブ資金のうち少数派でなければなりません。もし多数派が勝てるなら、負ける側の資金が足りず、合計が市場リターンに戻らないからです。つまり「勝つ運用者を選び当てる」という行為は、定義上、少数側を引き当てる作業になります。

加えて、過去の成績で選ぼうとすると前節の3つの歪みを踏みます。消滅したファンドが集計から落ちていれば生存者バイアスが乗りますし、単純平均や中央値を使った比較は小型株寄りに偏ります。過去に勝ったという事実が、将来も少数派に残ることを保証する仕組みは、この論証のどこにもありません。

「選べるなら選んだほうがよい」は成り立つこの節は「アクティブ運用に意味がない」という主張ではありません。事前に見分けられるなら、そうしたほうが有利です。争点は、見分ける方法のコストと確度が、事前に分かっている費用差に見合うかどうかです。費用差は確実に効き、選別の当否は不確実である、という非対称がパッシブ側に働きます。

費用は信託報酬だけではない

前の計算では信託報酬だけを動かしましたが、実際に投資家が負担する費用はそれだけではありません。比較するときに同じ土俵に乗せないと、安く見える商品が実は高いことがあります。

費用の種類いつ引かれるかどこで確認するか
購入時手数料買うとき1回目論見書・販売会社の手数料表
信託報酬(運用管理費用)保有中、日割りで毎日目論見書(税込年率)
その他の費用・総経費率保有中、実績として事後に確定運用報告書(対象期間つき)
信託財産留保額換金するとき目論見書

とくに見落とされやすいのが総経費率です。信託報酬は目論見書に書かれたあらかじめ決まった率ですが、実際には監査費用や外国での保管費用などが別に発生します。信託報酬にこれらを加えた実績値が運用報告書などに載る総経費率で、同じ期間に実際にかかった信託報酬よりは高くなります。ただし総経費率にも、購入時手数料・売買委託手数料・有価証券取引税は原則として含まれません。また、比較表でよく使われる信託報酬の数字が段階制の上限の場合は、総経費率のほうが低いこともあります。

また、信託報酬が段階制になっている商品もあります。純資産総額が一定額を超えた部分は率が下がる、という設計です。この場合、目論見書に書かれた最高料率だけを見ると実際より高く見積もることになります。

条件がそろっていない比較は意味を持たない対象指数が違う(全世界株と米国株)、為替ヘッジの有無が違う、信託期間が違う — これらが違う商品を費用の数字だけで一列に並べると、性質の違うものを安さで順位づけていることになります。比べるなら、まず条件をそろえてください。

投資先ETFにも費用がかかる仕組みは、株式以外にもあります。SBI・iシェアーズ・ゴールドと三菱UFJ純金ファンドの比較では、国内ファンドと投資先の報酬を分け、総経費率への二重加算を避ける読み方を示しています。

元本割れと、近く使う資金の問題

金融庁は「資産形成の基本」で、長期・積立・分散について説明しつつ、「株式や投資信託などの運用商品に投資することで、預貯金よりも高いリターンを期待することはできますが、元本割れのおそれもあります」と明記しています。ここは省略できません。シャープの論証は「アクティブとパッシブのどちらが平均的に有利か」を示すだけで、「株式に投資すべきか」「いくら投資すべきか」には何も答えていません

実務でいちばん問題になりやすいのは、近いうちに使うことが決まっているお金を投じてしまうことです。

使う時期が決まっているお金は、平均の議論の外にある長期で持てば有利という話は、途中で売らずに済むことが前提です。1年後に必要な学費や、半年後の納税資金を株式に入れると、必要な時点の価格で売らざるを得ません。そのときの価格が下がっていても、待てないので確定します。平均の議論は、待てる人にしか適用できません。

経理・税務の実務でいえば、予定納税・消費税の中間申告・賞与の原資のように、支払時期が先に決まっている資金がこれに当たります。事業用資金と投資用資金を同じ口座で管理していると、この線引きが曖昧になります。

もう一つ、この記事は特定の商品を勧めるものではありません。信託報酬が低いことは事前に分かる数少ない変数のひとつですが、それだけで商品を選べるわけではなく、対象指数・為替ヘッジの有無・純資産総額・信託期間なども条件が違えば単純に比較できません。費用の比較のしかたは別の記事で扱います。

よくある質問

Q. インデックス投資なら必ずアクティブファンドに勝てますか?

A. 勝てません。シャープの論証が示しているのは「平均的なアクティブ運用1ドルが、費用控除後に平均的なパッシブ運用1ドルを下回る」ことであって、個々のアクティブファンドすべてに勝つという意味ではありません。原文自身が、費用控除後にパッシブを上回るアクティブ運用者が存在することは十分にあり得ると書いています。ただしその場合、上回る運用者はその市場のアクティブ資金のうち少数派でなければ算術が成り立ちません。事前にどれが少数派に入るかを見分ける方法を、この論証は与えていません。

Q. 日経平均に連動する投資信託は「パッシブ」ですか?

A. どの市場を基準にするかで変わります。シャープの定義では、パッシブ投資家とは対象市場の全証券を市場と同じ比率で持つ投資家です。市場を「日経平均の225銘柄」と置けばパッシブですが、市場を「日本株全体」と置くと、225銘柄だけを持つのは全証券を持っていないためアクティブ側に分類されます。実務で使われる「インデックスファンド」という呼び方は指数連動という意味であって、シャープの定義とは範囲が一致しません。論証を持ち出すときは、どの市場の話をしているかを先に決める必要があります。

Q. 信託報酬が安ければ安いほどよいのですか?

A. 同じ対象指数・同じ為替ヘッジ条件の商品どうしを比べるなら、費用が低いほうが同じリターン仮定のもとで手元に残る金額は多くなります。ただし対象指数や為替ヘッジが違う商品を信託報酬の数字だけで並べると、性質の違う商品を比べていることになります。また信託報酬以外にも購入時手数料・信託財産留保額があり、監査費用などを加えた総経費率もありますが、総経費率にも売買委託手数料などは含まれません。費用を比べるなら、条件をそろえたうえで総経費率まで見る必要があります。

Q. 積立と一括のどちらがよいのですか?

A. この記事の論証はアクティブとパッシブの比較であって、投入のしかたには答えていません。まとまった資金を一度に入れるか分割するかは別の論点で、判断に使われることの多いVanguardの研究には、一括が有利になる確率とともに、悪い相場では一括のほうが損失が大きくなる範囲も同じ資料に示されています。毎月の給与から積み立てる場合は、そもそも一度に入れられる資金が手元にないので、この比較の対象自体が違います。

Q. 元本割れはどのくらいの期間で解消しますか?

A. 決まった期間はありません。「長期なら元本割れしない」という保証はどこにもなく、金融庁も元本割れのおそれがあることを明示しています。過去の特定期間のデータで何年持てばプラスだったかを示すことはできますが、それは過去の期間についての記述であって、将来の保証ではありません。期間を区切って必要になるお金を投じない、という設計のほうが、期間の見積もりより確実です。

Q. インデックス投資のデメリットは何ですか?

A. 市場全体が下落する局面では、分散していても下がります。個別企業の選択で下落を避けることを最初から放棄しているのがパッシブ運用なので、これは欠陥ではなく設計どおりの挙動です。また、外貨建ての指数に連動する商品では為替の変動が円換算額に乗ります。加えて、指数の対象範囲によっては「分散」の中身が想像より狭いことがあります。1国の大型株指数は、その国の景気や政策の影響をまとめて受けます。

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出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得や売買を勧めるものではありません。当サイトは金融商品取引業者ではなく、投資助言を行うものでもありません。本文中の年率5%等の数値は、費用の差を比べるために置いた仮定であって、将来の運用成果を示すものではありません。投資による損失が生じた場合の責任は負いかねます。個別の商品選択・資産配分については、ご自身でご判断いただくか、登録を受けた専門家にご相談ください。

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